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裏切りの始まり1
 
 どうやって帝国から迎えがくるのかは、勿論アサヒは聞いてなかった。
 けれどアサヒですら把握していない何人かの潜入者を同時に連れて行くのだ、簡単ではないだろうとは思っていた。

 階段を降りて廊下にでると、すでに煙が充満していた。
 
 「第一演習場が火事です! すぐに避難しなさい!!」

 校舎中に放送が響き渡る。ひどく切羽詰った声は聞き覚えのない男のものだ。

 (帝国の人間だな・・・・・・)

 普通、火事が起きている時に人々の恐怖心をあおるような大声で避難勧告などしない。明らかに場を混乱させようとしている。
 とすると、放送室に行けば帝国の人間がいることになる。

 (放送室は・・・第一演習場の横か。なるほど、誰も来ないだろうな)

 正に火事がおきているとされる現場に好き好んで向かう人間などいない。うってつけの場所だ。


 アサヒはちりじりに逃げていく生徒達を横目で見ながら人気のないほうへ進んでいた。
 途中で教室の時計をみると、ちょうど1時限目が始まる時間だった。教官が教室に入る前に非常ベルがなったことになる。指導者がいなくて生徒はさぞや混乱しているだろう。

 
 「アサヒくん」

 甘ったるい声で呼び止められ、アサヒは明らかに嫌そうな顔で振り向いた。
 花柄のタイトスカートに、暖かそうなセーターを着たマリアが立っている。
 バレリアの授業では顔を合わせているものの、話をするのはバルコニーでミコトに告白された日以来だ。

 「何人くらいいるんですか」
 「さあ。他の潜入者は知らないから」

 (聞いてたのは俺の事だけ、ね・・・・・・)

 アサヒは少し気になったが、表情には出さず、そうですか、とだけ言った。もう放送室は目の前だ。

 「けれどこんなに煙だすならあらかじめ言って欲しかったわね」

 せっかくのお気に入りのスカートが汚れちゃう、とマリアは対したこともないような声で言う。

 「そういえば、この後何が起こるかしってる? 私も今確認したんだけどさ」

 ふふ、と独り言のようにマリアは話し出した。

 「火事だけなら後で人が消えたらバレちゃうでしょ。だからこの後爆発が起こるのよ。いつの間にか爆弾なんて仕掛けてたのねぇ。ついでに潜入者が無関係な人数人殺しといてさ、爆発の衝撃で死体もバラバラになれば私達が見つからなくても誰も気にせず死亡者扱い、と」

 アサヒは進めていた歩みをピタリと止めた。

 「爆弾・・・・・・数人を、巻き込んで?」
 「そうよー、アサヒくんも気が向いたら誰か殺しちゃってもいいよ? 手伝いになるし」
 (ミコト・・・・・・)

 ミコトはアサヒに待ってろ、と言った。
 屋上を確認してアサヒがいないことに気付いたらすぐ避難してくれるだろうか。ソアラとランはすでに逃げたのだろうか。

 「きゃ―――――――――っ!!!!!」

 ふと近くの教室で、叫び声が聞こえた。アサヒの体が電流に打たれたように硬直する。間違いない、ランの声だ。
 アサヒは反射的に振り返って叫び声が聞こえた方へ体を翻した。その手をマリアが掴む。

 「どこに行く気? 時間はないのよ」
 「・・・・・・・っ!」

 アサヒはマリアを睨みつけた。
 確かに今時間はない。校舎が爆発するのなら、その前に脱出しなければ意味が無い。
 けれど、今の声は確かにランの悲鳴だった。

 「裏切る気?」

 マリアの鋭い視線が、アサヒに突き刺さる。
 真っ赤な唇から発せられたその言葉はまるで理事長の声のように聞こえた。

 「裏切るの? 帝国を」

 アサヒは真っ青な表情で目の前の人物を見つめていた。
 裏切る、訳がない。
 なのに。

 「やめてっ! いや――――――っ!!」

 再び恐怖にとらわれたランの叫びが響いた途端、アサヒはマリアの手を振り払って駆け出していた。
 


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