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北海道上川町。
税収のおよそ7割が、観光業で成り立っている。
この町を訪れる観光客の目当ては町の郊外にある「層雲峡温泉」だ。

「マル調」はその温泉街のはずれに、異様な雰囲気をはなつ1軒の廃墟を見つけた。
<記者リポート>
「建物が少し見えてきました。ここから見る限りは普通のホテルのような建物なんですが…。あー、建物の2か所に大きい穴が空いています」

<層雲峡観光協会の担当者>
「国道から走ると、まのあたりにする、本当に感じ悪いですよね」
「なんせ観光地ですから、観光地においてこれはありえないでしょう。早くなんとかしてほしい」
この建物は9年前、「かんぽの宿」として37億円をかけて建て替えられた。
地域の活性化につながればと、町も8,000万円以上負担した。
<上川町 佐藤芳治町長>
「周辺の道路の整備をやったり、水道関係を含めたインフラ整備に具体的に8,000万円くらい町として経費を負担した」

しかし・・・
<鳩山邦夫元総務大臣>
「大変おかしいんですよ」
郵政民営化に伴い、不採算施設を中心に統廃合され「層雲峡かんぽの宿」も東京の温泉運営会社に1億7,000万円で売却された。
建設費のわずか20分の1の価格だった。
ところが、温泉施設としてリニューアルされる予定が採算の目途がたたずに放置されることになった。
<上川町 佐藤芳治町長>
「住民の皆様に申しききできない。これだけのことを町が応援しながら『結果これかい』ということですからね。背景を考えてもらえば、一日も早くあそこを更地にして」
<記者リポート>
「冬の間誰も来ていないのでしょうか、看板に近寄ろうとすると・・・ 足が雪にまって身動きがとれません」
今や無残な姿をさらすこの建物。
壁の穴は毎年1,500万円に上る固定資産税がかからないよう、資産価値をなくすためにあけられたという。
ところが、忘れ去られたこの建物が再び思わぬ形で注目を浴びることになった。
先月16日、会社の資産を水増したとして大阪のゲーム販売会社「NESTAGE(ネステージ)」が警察の家宅捜索を受けた。

「ネステージ」の昨年度の決算報告書にこう記されている。
「優先株式の発行を行い、不動産3物件を取得しております」(決算報告書より)
この3物件の1つが層雲峡の『かんぽの宿』だった。
「ネステージ」は、去年2月、経営安定のため株を発行し、出資を受けている。
そのときに取られたのが、「現物増資」と呼ばれる手法だ。
新しく発行した株を現金ではなく不動産で支払うのだが、その不動産に使われたのが「かんぽの宿」だった。
ところが、その価値をめぐって疑惑が浮上した。
鑑定書によるとあの「かんぽの宿」の鑑定額は、なんと5億1,900万円。

郵政公社の売却価格1億7,000万円の3倍以上。
「ネステージ」が手に入れた、ほかの2つの物件でも・・・
山形県米沢市の「かんぽの宿」は、売却額5,600万に対し、鑑定額は8倍以上の4億5,400万円。
岡山県倉敷市の保養施設は、1億2,000万円が3億2,700万円に。
「ネステージ」が依頼した鑑定は、ことごとく高くなっていた。
果たしてこの鑑定書は、どうやって作られたのだろうか。
郵政民営化に伴い、民間に売却された北海道層雲峡の「かんぽの宿」。
今や見る影もない荒れ果てた状態だ。
ところが、郵政公社から1億7,000万円で売却された施設が、いつの間にか5億円以上と鑑定されていた。
この鑑定は妥当なのか、他の鑑定士に聞いてみた。
<不動産鑑定士>
「(修繕の)工事の費用としてを積みあげていかなくてはいけない。リニューアルの費用が、私の感覚よりは安めなのかなと」
町によるとこの施設、建物に破損があるだけでなく温泉をくみ上げる機械が壊れていて、温泉施設として再開するには数千万の修繕費がかかるという。

しかし、「かんぽの宿」の鑑定書には―
「対象不動産は温泉施設である」(鑑定書より)
「層雲峡の温泉宿の中でも比較的上位に入る」(鑑定書より)
と優良な資産をアピールするばかりで、機械の故障には全くふれていない。
<不動産鑑定士>
「重要なポイントですね、温泉は。温泉をリニューアルするときに何千万必要ならば、評価額に織り込んでいかないといけない」
真相を聞くため、「マル調」は疑惑の鑑定を行った鑑定士に話を聞きに行ったが、回答は得られなかった。
ところで「ネステージ」は、なぜ「現物増資」をする必要があったのだろうか?
「ネステージ」は元々、ゲームソフトを販売する店を全国に展開していた。
ところがその後、消費低迷に加えゲームソフトと関係のない会社が経営に参加するようになってから、急速に業績が悪化していた。
当時の状況を知る人は・・・。
<当時の「ネステージ」の状況を知る人>
「関係会社からのよく分からない出資とか、我々が考えたときに合理的な第三者割当増資(*新たに株を発行し、資金を受け取る)とか新株予約権(*新株を優先的に受け取る権利)とかの出資をある意味で拒んできた」
そして「ネステージ」は、2009年2月の決算で債務超過に陥る。
増資がうまくいかなければ2期連続の債務超過となり、上場廃止になる危機に直面していた。
そこで突然発表されたのが「現物増資」だった。
<東洋経済新聞社 梅咲恵司記者>
「1社だけの出資ではなく、何回も出資を仰いで、筆頭株主も入れ代わっているという状況ですので、違和感は感じていました。健全な会社ならばこういった増資を繰り返すことは考えられないです」
「ネステージ」は、資産があるようにみせかけるため不動産の鑑定を高く出したのだろうか?
「マル調」は、「ネステージ」の当時の社長を追った。
<マル調>
「不正なことはしていたんですか?」
<「ネステージ」元社長>
「・・・・」
様々な思惑に振り回され、無惨な姿のまま残された「層雲峡かんぽの宿」。
地元で旅館業を営む人は、建築当初のことをこう振り返る。
<地元の人>
「すてきだったんだよ、できたころは。ダンスパーティーとかあって、クリスマスパーティーとかね。泊って楽しかったよ。何年かしたらあれだもんね。まさかと思うよね、あんな立派なの」
郵政民営化の波にもまれ、さらにはマネーゲームに翻弄された「かんぽの宿」。
警察は「ネステージ」が上場廃止を逃れるために不動産評価を吊り上げ、資産を水増しした疑いがあるとみて捜査を進めている。
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