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社説:東電新体制 被害の救済が第一だ

 東京電力が2011年3月期決算を発表した。福島第1原子力発電所の事故の影響で、過去最大の大幅な赤字になった。あわせて社長交代やリストラ策を発表したが、風評を含めた被害者をはじめとした国民の理解を得るには、不十分だ。政府が賠償支援策を急ごしらえし、なんとか発表にこぎつけた決算だったが、政府の腰が定まらないため、東電の将来像は見通せないままだ。

 東電は今後、原発事故の収束や被害者への賠償を急ぐとともに、電気の安定供給に万全を期す必要がある。経営トップの引責による交代を、責任ある対応への再出発点と位置づけてほしい。賠償支援策では、経営は第三者委員会の監視下に置かれる。逆風の中で、新社長の手腕が厳しく問われる。

 1兆2000億円もの最終赤字を出し、自己資本は約4割も減った。支援策がない限り、綱渡りの資金調達を余儀なくされる。最大限の合理化が求められるが、発表されたリストラ策では、従業員の退職金や企業年金の減額は明記されなかった。「更なる方策も検討する」としているものの、不十分と言わざるを得ない。一段の努力を求めたい。

 政府が、支援策づくりを急いだのは、救済を求める被害者の不安を抑えるとともに、市場に安心感を与える狙いもあったとみられる。しかし、政府の一貫性のない姿勢が、その効果を大きく減じている。

 問題の一つは枝野幸男官房長官が、東電に融資している銀行に債権放棄を促したことだ。破綻処理なら、当然あり得る。法的処理に至らなくとも、借金の一部を棒引きし、再建を促す方に利があると判断した場合も債権放棄はあり得るが、企業同士の合意に基づくのが筋だ。ところが、政府の賠償支援策は、国からの支援を返済するため、東電が存続し、長期にわたって利益を出し続けることを前提にしている。債権放棄の「大義名分」は見いだしにくい。

 菅直人首相が、「発送電分離」の検討を表明したことも、賠償支援策とのつじつまが合わない。発電事業への新規参入を促す可能性がある発送電分離が、検討に値する課題であることは間違いない。しかし、今回の賠償支援策は、東電の分割を想定しているとは思えない。

 債権放棄にしろ、発送電分離にしろ国民の耳には心地よく響く。しかし、自ら決めたばかりの賠償支援策とは折り合わない。これでは、政府が東電にどう対応するのか分からないではないか。

 肝心なのは、被害の救済と電気の安定供給だ。政府には、それを可能とし、ご都合主義と指弾されないような制度設計を求めたい。

毎日新聞 2011年5月21日 2時31分

 

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