気象・地震

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特集ワイド:頻発する大地震 「東海・東南海・南海」3連動 足音高まる「首都直下」

 ◇「地球全体が警戒期」

 マグニチュード(M)9.0と世界観測史上4番目の超巨大地震となった東日本大震災。だが、ひとたび起きればこの国を根本から揺さぶる大地震は、まだある。「東海」「東南海」「南海」3大地震や首都直下地震などだ。その危険度はどこまで高まっているのか。【宮田哲】

 <生徒が集合し、急いで学校前にある山へかけのぼりました。山から町を見ておりますと、どろ波がおしよせて町へ舟が流れてくるやら家がなんげんともなくたおされました>

 東日本大震災を思わせる描写だが、実は1944(昭和19)年12月7日にあった「東南海地震」の光景を、三重県吉津村(現南伊勢町)のある国民学校児童が書いた作文の一節だ(00年刊「忘れない!あの日の大津波」より)。紀伊半島東部沖から遠州灘にかけてを震源域とするM7・9のこの地震では高さ6~9メートルの津波が起き、死者・行方不明1223人、全壊家屋数は1万7000を超えた。

 地球の表面を覆う岩石の層(プレート)の境界線が集中するこの国では、その一つの南海トラフを震源域として、東海、東南海、南海の3巨大地震が同時に、あるいは数時間から数年のずれで発生し続けてきた。古村孝志・東京大学地震研究所教授(地震学)は「古文書さえ存在しない時代の地層からも、津波に運ばれた堆積(たいせき)物が見つかっている。この三つの地震については一定の間隔で起きているのは確かで、将来、また起こらないとは誰も考えないでしょう」。その周期は約90~150年とされる。

 国の地震調査委員会によると、それぞれ30年以内に発生する確率は東海87%、東南海70%、南海60%という。改めてその「逼迫(ひっぱく)度」に驚かされるが、特に懸念されるのが3地震の「同時発生」だ。1707(宝永4)年10月28日の宝永地震では、津波が伊豆半島から大阪湾、九州沿岸を襲い、49日後には富士山が噴火。死者2万人以上にのぼった。地震の規模はM8・6と推定されている。

 同じく東大地震研所属の都司嘉宣(つじよしのぶ)准教授(津波・古地震学)は「古文書を調べると、宝永以前で同時発生と推定される巨大地震は、887年、1361年の2回。およそ400年間隔で起きていることが分かる。最後の宝永から既に300年を過ぎていることからも、『次』が同時でもおかしくない」と危ぶむ。

 1854(安政元)年12月には東海・東南海地震と南海地震が32時間の間隔で起きている。しかし、1944年に東南海地震、46年に南海と続いた際には、東海地震だけが起きなかった。このため、東海地震については「いつ起きてもおかしくない」として日本の地震で唯一、予知を目指す態勢が敷かれている。

 この「3連動」が恐ろしいのは、地震の規模について1足す1が2ではなく、それ以上に巨大化するからだ。「長大な震源域にわたってプレート境界が滑り続けるために、断層のずれはより大きくなる。その結果、震動もより強く、津波も高くなるのです」と古村教授。別々の地震がわずかな時間差で起きた場合、津波に津波が重なって波高が上がる現象も起きる。15~20分差が最も顕著になるという。

 河田恵昭・関西大学教授(巨大災害)は防災の立場から「東日本大震災の大きさを直視すべきだ」と言う。「過去のデータを解析する従来の方法論では、それ以上の地震が起きたときに通用しない。物理的にどこまで大きな地震が起こりうるか。そこから考えるべきではないでしょうか」

 例えば、地震の規模はM9・0を目安に検討する。「想定が8・4だった場合、9・0にすると、津波の高さは2・2倍になります」。現状、10メートルの津波が想定されている地域があるなら、20メートル以上の津波への対応が求められるということだ。伊豆半島や高知県沿岸部では、第1波が東日本大震災よりも短い10分以内で到達する恐れもあるという。

 もし今、3地震が個別に、あるいは同時に襲来したら何が起こるのか。

 「南海地震がM9・0規模だと、大阪湾を5・5メートルの津波が襲い、ほぼ大阪府全域が水没します。大阪城がある上町台地の一部だけが、岬のように水面上に残る」と河田教授。東南海地震では「三重県から愛知県にかけて多数ある中部電力の火力発電所が、打撃を受けそうです」。そして、言うまでもなく東海地震の震源域の真上には、菅直人首相が全面停止を求めた浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)が建つ。原発前の海岸には高さ10~15メートルの砂丘があるが「前進を阻まれた津波は、後ろから来る波に押され高さが1・5倍にもなる。とても安全な状況とは言えません」。

 国は03年、宝永地震をモデルに、3地震が同時発生したときの被害を想定。静岡以西10県で「震度6強以上」となり、建物の下敷きや津波で最大2万5000人の命が失われるとしている。

 古村教授は「宝永地震の震源域の西端は高知県の足摺岬沖と考えられてきたが、より西の日向灘だった可能性がある」と話す。政府は被害想定の見直しをする予定だ。

 一方、首都直下地震の足音も高まっている。地震調査委員会の推計では、1923年の関東大震災と同タイプの地震(M7・9程度)は、30年以内の発生確率は0~2%だが、南関東で起こるM7程度の直下型地震となると70%にはね上がる。河田教授は「関東大震災級の地震は約200年周期だが、その前には直下型地震が発生している。70%は無視できない数字だが、意識していない住民が多い」と嘆く。国の被害想定では、このタイプの一つ「東京湾北部地震」で最大1万1000人が死亡し、建物や生産額低下などの経済被害は112兆円にも及ぶという。

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 思えばこの国は、95年の阪神大震災以降、04年の新潟県中越地震など大地震が頻発していた。河田教授は「阪神大震災から、日本列島は地震の活動期に入った」と指摘する。「この状態は半世紀ほど続くでしょう。首都直下だけでなく、近畿圏直下地震を起こす大阪の上町断層帯など多くの活断層に注意する必要があります」。東日本大震災のようなM9クラスの超巨大地震ともなると、遠く離れた岩盤にもひずみが生じ、それを解消するために地震を招きやすくなるとも言う。

 このことは、地球全体の状況とも一致するようだ。都司准教授が言う。「20世紀にM9・0以上の地震は史上最大のチリ地震(M9・5)など4回あったが、いずれも52~64年の13年間に集中している。その後、40年間はなかったのに、今世紀に入って04年にインド洋大津波を起こしたスマトラ沖大地震があり、今回の東日本大震災。これは偶然とは思えない。地球全体で警戒すべき時期に入ったと言えるのではないでしょうか」

 「その日」は近いかもしれない。対策は待ったなしだ。

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毎日新聞 2011年5月9日 東京夕刊

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