◇技量審査場所(9日目)
(16日・両国国技館)
これぞまさしく技量審査場所。初土俵から苦節10年。なかなか関取になれなかった東幕下2枚目の隆の山(28)=鳴戸=が3勝目を挙げて十両昇進まであと1勝にこぎつけた。優勝争いは白鵬が豪風を寄せ付けず9連勝。新入幕の魁聖も豊響を上手投げで破って全勝を守った。隠岐の海(25)=八角=は3大関から白星を挙げた。
故郷に錦を飾る。その故郷とは日本から約9500キロ離れた東欧のチェコ・プラハ。ここ何カ月かでやっと3ケタの101キロになったギリシャ彫刻のような体に、隆の山は故郷への思いを詰め込んで、剣武を下手投げで投げ飛ばした。東幕下2枚目で3勝目。悲願の新十両昇進まで、あと1勝にこぎつけた。
入門から10年がたとうとしているが、まだ1度も母国へ帰国したことはない。「十両に上がってから帰りたい。自分で相撲をやりたいと思って来たんですから、帰れないことより、やり遂げられないことが怖い」。外国出身力士といえばスピード昇進が定番だが、隆の山が今場所昇進を決めれば所要57場所。若東の58場所に次ぐ史上2位のスロー昇進となる。
寂しくなったら、来日する際に持ち込んだ段ボールから、チェコ語で書かれた歴史の本や小説を引っ張り出す。ときには家族でピクニックに出かけた写真をながめることもあった。
ただ、努力の意味もよく分かっている。「今場所だから、ではなく今までの努力の積み重ねですから。兄弟子にけいこをつけてもらって、それが全部つながっている。自分のため、みんなのために上がりたい。上がってから国に帰りたい」。日本人以上に日本人の感覚を持っている。兄弟子の若の里は、そんな姿を見て「長いこと苦労している。関取になってから帰りたいという夢を持ってる。早く上がってほしい」とエールを送る。
3歳のときから女手ひとつで育ててくれた母ヤナさんがプラハに待ってくれている。家計は楽ではないが、「自分で稼いだお金は自分で使いなさいと言ってくれる」。プラハ城や石畳…。美しい中世の街に着物姿で帰ることが何よりの孝行になる。 (岸本隆)
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