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2011年5月20日(金)付

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発送電分離―安定供給のためにこそ

菅直人首相が、エネルギー政策を見直すなかで、発電と送電の事業者を切り離す「発送電分離」についても検討していく考えを明言した。原発事故の早期収束や賠償問題など眼下の課題解[記事全文]

マイナス成長―変革力育む環境作りを

東日本大震災が日本経済に与えた痛手はやはり大きかった。今年1〜3月期の国内総生産(GDP)は実質で年率3.7%減少し、踊り場に入った昨年10〜12月期から2四半期連続のマイナスとなった。[記事全文]

発送電分離―安定供給のためにこそ

 菅直人首相が、エネルギー政策を見直すなかで、発電と送電の事業者を切り離す「発送電分離」についても検討していく考えを明言した。

 原発事故の早期収束や賠償問題など眼下の課題解決を優先させるのはもちろんだが、エネルギー政策の転換や普及には長い時間を要する。早く議論を始めるにこしたことはない。

 首相の方針表明に賛意を示すとともに、言いっ放しに終わらせぬよう、政府を挙げた取り組みを期待する。

 耳慣れない言葉だが、発送電分離は1990年代以降、すでに欧米各国で広く採り入れられている。

 日本でも2000年代初頭に一度は検討された政策だ。

 当時は、競争政策の一つとして議論された。電力各社は地域独占的な事業形態が認められ、基本的にあらゆるコストの回収が保証されている。これを改めて、発電と送電の事業会社を分けることで新規参入を促し、それをテコに経済を元気づけようという狙いだった。

 しかし、実現には至らなかった。最大の理由は「電力の安定供給ができなくなる」と、電力業界が激しく抵抗したことだ。

 だが、今回の震災と原発事故で、1カ所に集中して巨大な発電所をつくるやり方や地域独占による閉鎖的な経営形態は、いざという時の安定供給にとって大きな阻害要因になることがはっきりした。

 むしろ、小規模でも多様な電源による発電事業者を消費地近くに多く分散配置した方が、結果的に安定供給に資するとの認識は、これまで以上に高まっている。かつては電気料金を下げる効果が期待された発送電分離が、いまや電力の安定確保のための具体策として、その意義が語られているのだ。

 さまざまな自然エネルギーの活用を進めるためにも、分散型への転換が望ましいのは明らかである。

 ただ、電力会社が地域独占の維持を主張してきた裏には、原子力発電という「国策」を、民間企業が肩代わりして進めるために必要なのだという理由づけがあったのも事実だ。

 菅首相が本気で発送電分離を進めるのであれば、個々の電力会社に半強制的に担わせてきた原子力政策そのものを再検討して、国が責任を持つ部分と、民間事業者や市場経済に任せる部分との線引きを、きちんとやり直すことが欠かせない。

 電気を使う側の私たちも、どんな形態が望ましいのかを真剣に考えるときだ。

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マイナス成長―変革力育む環境作りを

 東日本大震災が日本経済に与えた痛手はやはり大きかった。今年1〜3月期の国内総生産(GDP)は実質で年率3.7%減少し、踊り場に入った昨年10〜12月期から2四半期連続のマイナスとなった。

 本来なら日本経済は、米経済の持ち直しを受け、多極化する世界市場に向けて攻勢に出ていたはずだ。その出ばなを震災でくじかれた。

 民間予測では4〜6月期もマイナスという。阪神大震災の時には復興需要がスムーズに出てきたが、今回は主に二つの点で事情が異なる。

 まず、東京電力の福島第一原発の事故だ。東電がカバーする首都圏を中心に電力供給の低下により、経済活動への制約が長引くことが避けられない。

 さらに、組み立て型製造業で発達したサプライチェーンと呼ばれる高度に相互依存的な部品供給態勢が、深刻な打撃を被ったことだ。たとえば半導体工場で電子制御用のマイコンがつくれなくなると、それだけで多くの自動車会社の組み立て工場が止まる、という事態だ。

 日本経済が、今後も最高の製品やサービスを世界の様々な市場のニーズと購買力に合わせて提供していくためには、どうしたらいいのか。震災は新たな課題を突きつけた。

 日本が円高を克服して輸出を続けるには、一芸を究めるような高度な製品作りが切り札になる。だが、これは量産効果などを踏まえると製造場所が1カ所に絞られる傾向が強まる。

 震災によるサプライチェーンの分断は、このリスクを顕在化させた。世界の顧客が部品や素材の日本への過度な依存を見直す可能性もある。客離れに至らぬよう、生産拠点の分散などの手を打っていきたい。

 一方、成長戦略としてサービス産業の拡充に期待が集まっている。だが、震災が引き金となった二つの巨大サービス企業のつまずき、すなわち東電の原発事故と、みずほ銀行のシステム障害を考えると、日本の実力を総点検する必要がある。

 独占や寡占に守られた大企業は、私たちが自覚する以上に制度疲労を起こしているのではないか。それが革新や創造の芽を摘んでいないか。とすれば、競争を通じて企業を鍛え直す環境作りが一段と重要になる。

 与謝野馨経済財政相は「日本経済の反発力は十分に強い」と先行きに自信を見せた。だが、自然な反発力に期待するだけでなく、強みと弱みを洗い出し、新たな発想や工夫で未来を切り開く変革力も育みたい。

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