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2011年5月19日(木)付

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寄付元年―NPOを税制で後押し

東日本大震災では、全国各地から義援金が集まり続けている。日本赤十字社や中央共同募金会など、受付団体での総額は2千億円を超えた。義援金は一定の基準で被災者に現金で届けられ[記事全文]

震災と地域―絆をつないで復興を

被災地のあちこちで、地域の絆の強さを見聞きする。岩手県陸前高田市長洞(ながほら)地区は養殖が盛んな小漁村だ。約60戸のうち28戸が津波で流された。震災直後から米や薬の調[記事全文]

寄付元年―NPOを税制で後押し

 東日本大震災では、全国各地から義援金が集まり続けている。日本赤十字社や中央共同募金会など、受付団体での総額は2千億円を超えた。

 義援金は一定の基準で被災者に現金で届けられる。着の身着のままで避難を迫られ、収入を絶たれた被災者にとって、貴重な生活資金だ。戸籍が津波に流されたことなどで被災者の身元確認が難航し、配分作業は思うように進んでいないが、一刻も早く届けてほしい。

 被災者を支える寄付では、支援金にも目を向けたい。

 支援金は、NPOをはじめ被災者支援の活動をしている組織宛ての寄付金だ。大震災後の復旧・復興活動は息の長い取り組みになる。医療や福祉、教育、まちづくりなどの分野では、NPOなど民間の貢献も欠かせない。寄付で後押ししよう。

 支援金を増やそうと国や関係団体の動きは早かった。

 大震災直後の3月中旬、中央共同募金会にNPOなどの活動を支える新たな募金窓口が設けられ、ここへの寄付も税制優遇が受けられるようにした。寄付金額のうち一定額を、所得税の課税対象から差し引ける所得控除が適用される。

 4月下旬に成立した被災者支援税制では、この募金について、寄付した人の納税額が直接減る税額控除も適用できるように、一歩進めた。寄付を募る効果が大きいと期待される。NPO法人の中で税制優遇が認められた認定NPO法人にも、同じ仕組みを入れた。

 ただ、大きな忘れ物がある。与野党対立のあおりでいまだに中ぶらりん状態の2011年度税制改正法案に盛り込まれた寄付税制のことだ。

 認定NPO法人への寄付全般について税額控除制度を導入することが目玉の一つだ。被災者支援税制での寄付優遇が13年までなのに対し、こちらは期限はなく、震災関連以外の寄付にも幅広く適用される。

 認定NPO法人として認める際の基準も大幅に緩和する。4万2千を超えるNPO法人のうち、200余りにすぎない認定NPO法人を増やす狙いだ。

 「ボランティア元年」と言われる95年の阪神大震災から16年。東日本大震災の今年は「寄付元年」と呼ばれるかもしれない。NPOが活動内容と会計を積極的に公開し、それをもとに寄付する先を探す。寄付がNPOの活動を広げる。そんな循環を定着させよう。

 税制改正法案の寄付税制の実現が第一歩だ。与野党ともに肝に銘じてもらいたい。

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震災と地域―絆をつないで復興を

 被災地のあちこちで、地域の絆の強さを見聞きする。

 岩手県陸前高田市長洞(ながほら)地区は養殖が盛んな小漁村だ。約60戸のうち28戸が津波で流された。震災直後から米や薬の調達、仕事の分担と、地区の自治組織がフル回転した。無事だった各家に分散し、避難生活を続ける。

 市では少ない公有地を探しての仮設住宅建設が進む。だが長洞からは近い所で数キロもある。入居者は抽選で決まり、まとまって入れる保証はない。

 「絆を壊すまい」と、地区副会長の村上誠二さんが地主にかけあい、畑や空き地だった約4千平方メートルの無償貸与を取りつけた。市は初め渋ったが、26戸の仮設建設が先週始まった。

 長洞では公民館も流された。仮設1戸分を集会室にできないか。地区総会を開く広場やウッドデッキもほしい――。そんな話が盛り上がる。集落内の民有地を仮設に提供する動きは、他自治体でも出てきている。

 仮設住宅での暮らしは長引くだろう。生業(なりわい)の再建までいくつもの山がある。踏ん張るか、離れるか。悩みつつ、故郷のことを話し合う場でもある。

 住人が顔を合わせやすい配置にする。介護拠点なども置く。自宅や市外で暮らす人も立ち寄る。単なる仮住まいではない、「仮設のコミュニティー」を築けないか。店や工場を流された人が仮店舗や作業場を開けば、地域経済の始動エンジンにもなる。考えたい視点だ。

 もちろん、長洞のような所ばかりではない。地域の絆が切れかかっている現実も広がる。

 特に福島原発周辺の町や村では、散り散りになっての避難を強いられている。仮設建設がもたつく間に民間アパートを見つけ、避難所を出る人。子育てやローンを抱え、東京や仙台で仕事を探す人がいる。

 総務省は、被災者が移転先の役場に届け出れば、元の住所の市町村に伝わるシステムの運用を始めた。見舞金支給など行政サービスだけでなく、被災地の現況を知らせ、まちづくり協議への参加を呼びかける。そんな形で活用できないか。

 阪神大震災では避難所から仮設、復興住宅へ、あるいは県外へと移るたび、コミュニティーは分解され、傷ついた。近代都市神戸は復興したが、そこから取り残され、孤立する人を生んだ。その轍(てつ)は踏むまい。

 被災地の復興とは何か。住まいや仕事の再建に加え、人々の「つながり」の復元は欠かせない。被災者が主体となってまち・むらの将来の姿を議論し、決める。その動きを応援しよう。

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