◆川口悠子と仲間たち（下）　男子シングルの選手として活動していたアレクサンドラ・スミルノフ（ロシア）が１７歳の時、ペアに転向。２番目のペアの相手、エカテリーナ・ワシリエフと組みジュニアＧＰで２位になったが、その後すぐに解散し、０６年シーズンから川口＆スミルノフの新ペアが出来あがった。

　その間、川口は相当悩んでいた。なかなか自分に合うパートナーが見つからない。もう見つからないかもしれない、という気持ちの落ち込みは強くなっていった。一つの目的に向かってのひたむきさ、行動に打って出るときは大きいが、いつも控えめにしていて奥ゆかしい。「大丈夫、タマラ（コーチ）がきっと良いパートナーを見つけてくれるから…」と言った覚えがある。世界のトップに持っていける自信のあるタマラ・コーチは、これぞという人を川口に向けようと努力した。前パートナーのパトリックから教えてもらった、４回転スロージャンプは宝物で、この先ペアを続ける限り、「宝の持ち腐れ」にはしたくなかった。そのかいあって、巡り合えた。今度こそ長続きしなきゃ…とみんなが思った。

　川口もこれが最後のチャンス。ペアを滑れるだけがうれしかった。２人とも息がぴったりで迎えたシーズンは、ロシア杯３位、世界選手権９位とタマラ・コーチの力が彼らのペアの技術に投入され、頭角を現し始めた。ロシア国籍を持たない代表はロシアでも初めてだった。日露の友好がここでも生きて、０７年シーズンに初のＧＰファイナル出場となる。翌年の０８年（同シーズン）はロシア選手権優勝、欧州選手権で３位と初出場でメダルを獲得。世界選手権では４位とメダルまであと一歩だった。

　０９年バンクバー五輪を目指したが国籍問題は深刻で、いつも悩み多き川口はどうしよう？　どうしようか？　と行ったり来たり。「五輪はロシア国籍でないと出られないでしょ。日本人であることには変わりないし、メダルは国籍関係ないじゃない。個人に与えるのだから…」重大決意の後、国籍をコーチの計らいも働きもあり、取得する事が出来た。タマラ・コーチは「川口がＫａｂａｇｕｔｉ（カバグチ）となったが、直すには、また時間がかかる。これで良いよねぇ～」と。私は「国籍がロシアになれば多少、文字は違うが目的達成」と言った。川口も「納得！」これでいくと決めたようだった。

　０９年世界選手権銅メダル、１０年１月の欧州選手権初優勝。４回転のスロージャンプを入れての構成、いつも新しい究極の技に挑んでいる。バンクーバー五輪はメダルを逃したが４位と健闘した。続く世界選手権では３位と、２年連続の銅メダルを獲得。立派な成績だ。

　昨年、パートナーのスミルノフが結婚した。周囲の人たちは、仲が悪くなるのではないか、練習に身が入らなくなるのではないかと心配した。川口自身は全く心配していなかったが。しかし、彼が身を固めた事により、彼自身のスケートに対する意識の持ち方も変わって、落ち着いた大人の対応が出来るように成長した。

　「チーム・タマラ」は優秀で、ユーモアあふれる人たちばかりでいつも楽しく温かい空気が流れている。コーチとの信頼関係は群を抜いている。出会いと別れは巡り合わせ、備えある勝負は時の運、と考えれば川口も少しは気も楽に肩の力を抜いて試合に臨めるだろう。タマラ・コーチには情がある。物事にはリスクが付き物。フィギュアスケートも同様、ペア競技においては、よりリスクは伴う。上手く行った時には共に喜び、上手くいかなかった時には共に悩む。そんな姿勢が大事だとタマラ・コーチは考えている。

　スポーツだけれど見ている人にスポーツだと感じさせない、優雅で美しさを競うスポーツへの挑戦と完成を目指して～。「チーム・タマラ＆サーシャと共に厳しいがより高い頂上を目指して…。がんばれ、悠子！」（続く）

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（2011年2月1日15時08分  スポーツ報知）