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スポーツ報知>コラム>城田憲子の「フィギュアの世界」

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過去からのペア~そして現在~その先への助走(その2)

 ペアの必須要素の一つに、女子のジャンプを男子がアシストし空中に投げ上げるような形のスロージャンプがある。ペア独特の技で、補助がある為に通常のジャンプに比べより高く、より遠くへ跳ぶ事が出来る。ペアリフトは大きく分けて2種類あり、男子が女子を頭より高く持ち上げて降ろすリフトと、男子が女子を頭上に投げ上げて空中で回転し、女子が回転したのち腰の位置でキャッチして着氷させるツイストリフトがある。

 このようなスロージャンプやリフトはこの競技には欠かせないものだが、失敗すると危険な要素も多く、フィギュアスケートの中で最もダィナミックでアクロバティクな醍醐味のある種目と言える。高い技術に加え双方の信頼関係が重要である。また、純粋にペア・スケーティングを行っている印象を与えるように釣り合いのとれた動作で調和して滑走するものであり、適切なパートナーを選ぶよう注意を払うべきである、と言われている。男女シングルが支流の日本では、なかなかカップルが増えないのが現状の中、作ろうとする努力は常に行われていた事も事実だ。

 1992年、川崎由紀子とアレクセイ・ティホノフの組が誕生した。やはりこの組も、アルベールビル五輪の2年後に行われることになった、リレハメル五輪の為でもあっての要請だった。ロシアとの良い交流があった理由から、ロシアスケート連盟・ピセフ会長の計らいで、パートナーを招聘(しょうへい)する事が出来た。

 川崎はジュニア選手で全日本ジュニア2、3位と言う成績を残し、世界ジュニア代表にもなるほど、将来を期待される選手だった。北海道で発掘し、より良いスケート環境を求めて上京。千葉・松戸で無良隆志コーチに指導を受けた。飾り気のない、実直で一生懸命の川崎のジャンプは定評があり、ダイナミックな演技のできる選手としてペア競技に抜擢(ばってき)された。

 一方、アレクセイ・ティホノフはイリーナ・サイフトディノワとペアを組んで初の世界ジュニアで3位になったが、後に解散し日本への招聘に応じ、日本所属として活動を始めた。当時、「今度、世界ジュニアでペア3位になったロシアの男子が来る」と言うことになり、強化関係者は「そんな良い選手が来ることになったの?」と驚きが隠せなかった事を覚えている。松戸チームの大変な協力のもと、ティホノフ&川崎組はスタートした。ロシアからコーチ陣も何回も日本に来てもらう事になり、ヴィクトール・ルィシキンが音楽、振り付けを担当し、技術的の指導者として、井上&小山組の時と同じスタニフラフ・アレクセイ・デュークが担当した。

 1992年から2シーズン、全日本優勝、NHK杯3位、世界選手権出場と体の大きいティホノフは経験を積んだ。このまま続けてくれれば良い成績が残せるだろうと周りは期待していた矢先、「母が病気で…」とティホノフは里帰り。帰国したと報告は受けたが2週間、3週間が過ぎ、本人からの音沙汰がなくなった。もちろん、国籍の問題でリレハンメル五輪の出場が叶わなかった事もあっただろう。裏では法務省に行ったり、色々と作業をしていた事も重々分かってのことだったろうが…。

 そんな時、ティホノフから「もう、日本には戻らない。ペアを解消したい」と連絡が入った。やっと、作り出そうとした日露合同のペアカップルだ。フィギュア関係者の落胆度は大きかった。しばらくして、新たにロシアでマリア・ペトロアと組み、98年シーズンからGPシリーズに参加。最初から表彰台に上がり、GPファイナルにも参加するほどロシアペアの強さがにじみ出ていた。2人の相性の良さも功を奏し、99、00年欧州選手権2連覇、00年シーズンは世界選手権を制覇と次々と好成績を残していった。そのたびにパートナーのマリア・ペトロアは輝いて奇麗になっていった。

 時折、出会うGPや世界選手権などでは、日本で覚えた日本語でティホノフと会話した。洗練された良い青年になったものだ。ペアに対しても前向きで一生懸命で、そんな姿を見て、日本を離れて行った恨みなど言えなかった。これで良いのだ、こんなに生き生きとペアをやっているのだから。故郷って良いもの…。こんなにも強くなれる。2人のユニゾンが開花して強国・ロシアでも、ティホノフは優れた選手だという事を証明する、成績を残した。彼はやはりロシア選手として全うした方が、より幸せだったと思う。ティホノフと言う選手を、一度は日本へ送ってくれた、ロシア連盟にも感謝だ。失ったものは大きいが、人としての幸せはもっとも大事だろう。

 彼らは07年世界選手権の後、引退した。今はパートナーのマリア・ペトロアと結婚し、子供ももうけている。家族が出来、幸せに人生を送っている。色々波乱はあるものの、落ち着くところへ落ち着いた。そんな報告に、こちらも心が暖かくなった思いがした。日本でのパートナー川崎もそののちにシングルに戻り、拠点を新横浜に移り、大学に進みながら競技生活を送った。卒業後、海外の船上ショーなどの活動を続け、昨年、その仲間だったチェコ人と結婚。こちらも幸せの道を歩み出した。カップル競技のユニゾンを学んで…。スケートが人生の灯台になっている事が何よりうれしい。(続く)

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(2011年1月18日16時50分  スポーツ報知)

著者略歴 城田 憲子(しろた・のりこ)

 1946年7月4日、東京都生まれ。立大卒。選手時代はシングルとアイスダンスで活躍し、全日本選手権ダンス部門2連覇。現役引退後は日本スケート連盟で選手強化を手掛け、長野五輪からトリノ五輪までフィギュア強化部長を歴任。また、国際審判員とレフェリー資格を持ち、五輪をはじめ多くの国際試合でレフェリー&ジャッジも務める。

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