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スポーツ報知>コラム>城田憲子の「フィギュアの世界」

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過去からのペア~そして現在~その先への助走(その1)

 ペアは、シングルの醍醐味とダンスでの2人の調和という形、フィギュアスケート全ての素晴らしさが詰まっているジャンルである。冬の競技のスリル度では、ある意味、スキーの回転、大回転の技術系や滑降のスピードと回転。モーグルのジャンプの空中演技、ターンの精度と難易度と完成度。スキー・ジャンプの滑空距離、滑空時姿勢、着地姿勢の美しさなどを競うのと同じような、危険を伴う採点スポーツ。そこに音が入り、曲調との調和を求める究極のスポーティフルな男女の氷上の舞いは興味深い競技だ。

 日本ではなかなかカップルを育てるのは難しく、競技人口が少ない。1950年代中頃から、毎年ではないが数組が全日本選手権に参加している。なかには、国際大会に出場する為に作ったカップルもあるほどだ。92年アルベールビル五輪を迎えるにあたり、ペアを出場させる事になった。それは6年後に長野で五輪をやると言うことへの前奏曲だった。だから作らなければならなかった。

 そこで、シングルの選手同士を組ませるのが早道と言うことから、全国の選手たちを物色し始めた。しかし、学校の問題、2人の環境や地域など、カップリングする為の条件は難しかった。シングルの選手たちはやはりシングルを捨てきれないし、勝負したいと願っていて思うようにはいかなかった。当時、松戸(千葉)にクラブがあり、選手たちもたくさん練習に励んでいた。そこの都筑主任コーチにお願いして、同じクラブで練習が出来て、全日本級の選手でカップルを組んでペアをして欲しいと日本スケート連盟フィギュア部門のトップが頼んだ。

 そして出来上がったのが、井上怜奈と小山友明組。90年、井上が中学生の時だった。まず世界ジュニアに出場し7位、91年世界選手権へ初参加で15位に入り、アルベールビル五輪代表となった。最初組んだ時には、シングルのスケーターが2人滑っているようだった。まして中学になったばかりの井上と高校3年の小山。その年代の5歳差は、小山にとっても負担だったらしい。練習を積んでいくなかで、ロシアペアの選手たちとの合同練習や、ロシアペアの名コーチのスタニフラフ・アレクセイ・デュークの指導により、少しずつペアらしく、ユニゾンも出来あがってきて、総合14位と言う成績を残した。

 その後、井上の膝のケガがひどくなり手術に至り、1年ほど練習も思うようでなく、パートナーの小山はしびれを切らし、シングルに戻る事になった。後に、ロビンガズンズ氏が立ち上げるディズニー・オン・アイスのショーに参加。現在、インストラクターとして千葉県で未来のスケーター作りに励む傍ら、スペシャリストとしてISU(国際スケート連盟)の大会などのテクニカル・オフィシャルとしても活躍している。

 一方の井上は、94年のリレハメル五輪にシングル選手として備える事になった。そのかいあって、国内選考会の全日本選手権で2位になり、代表入り。そして、その年、佐藤有香が優勝した日本での世界選手権(千葉・幕張)にも出場した。長野五輪後に、元パートナーだった小山家との交流から、米ロサンゼルス郊外のレイク・アローヘッドへと練習場を移す。ところがその間、井上の父が肺がんを発症し、日本に戻る。そして父を失い、一時スケートも辞める時期もあったが、再度米国行きを決意。再びペアをやりたいと思い、活動が始まりジョン・ボルドウィンとパートナーを組むことになった。

 しかし、彼女にまた不幸が降りかかる。何と、父と同じ肺がんに襲われた。現地日本人の看病も効をなしたのか、抗がん剤治療などで完治。つくづく彼女の気丈さには感服させられる。海外の競技会で会うと、「大丈夫です!」「定期的に検査には行っている?」「行っています」と闘病生活の辛さも愚痴も言わず、明るくふるまっている姿には、こちらの方が涙ぐんでしまうほど…。練習中に大きなけがをしたという話もしていた。

 後で知ったが、練習中に銀盤に落ちて頭がい骨を折ってしまう程のものだったという。あんな泣きべそかきの怜奈が胸を張って生きている。あんなに強かったのかなぁーと思いながら、ボルドウィンの力か? ペアの良きパートナーそして井上の気持ちの支え、2人で競技生活を歩んでいる。立派になったなぁー、強くなったね、怜奈!なんて思っているうちに米国の市民権を取得。06年四大陸優勝。米国代表としてトリノ五輪に参加し、7位。その時、五輪史上初のスロー・トリプルアクセルに成功している。

 バンクーバー五輪は残念ながら逃したが、(日本、米国合わせ)3回の五輪出場と世界選手権など多数出場し、選手として輝かしい働き。病気、けがのアクシデントに見舞われたが、何でも乗り越えた選手としてのヒロインだ。何事にも弱気は胸の中にしまう。そして、氷上のプロポーズは有名…。その少し前に結婚式も花嫁衣装もいらない、と言っていたことがある。大事なのは彼女が今、前向きで生きている事なのだろう。そして、この世に踏ん張っていられる事が、一番大事なのかもしれない。

 これからもスケートに関連した事に携わりながら、お互い人生を理解しながら、協力しながら歩んでいくだろう。2人に幸多かれと祈ってやまない気持が胸を突く。(続く)

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(2011年1月11日16時48分  スポーツ報知)

著者略歴 城田 憲子(しろた・のりこ)

 1946年7月4日、東京都生まれ。立大卒。選手時代はシングルとアイスダンスで活躍し、全日本選手権ダンス部門2連覇。現役引退後は日本スケート連盟で選手強化を手掛け、長野五輪からトリノ五輪までフィギュア強化部長を歴任。また、国際審判員とレフェリー資格を持ち、五輪をはじめ多くの国際試合でレフェリー&ジャッジも務める。

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