男子で優勝したパトリック・チャン（カナダ）。冒頭の４回転トーループを成功させ、続く彼の苦手なトリプルアクセル。これを上手く通り過ぎれば、後はパトリックの世界。綿密で濃厚なプログラム、曲の使い方、音の取り方は天下一品。ジャッジを唸らせるほどの正統派だ。ステップから入らないと勢い余ってミスするのではないかと勘違いするほど、つなぎの部分が凝っている。それがチャンの有効な個性として演技に幅を持たせている。ジャンプ、スピン、ステップに技術評価点はプラスが高い。それは要素の前後に、曲に合わせたステップ、ターン、フリースケーティング・ムーブメントが入っているからだ。また、演技構成点にもプラスに働く。ジャンプの成功が一層、プログラムを際立たせ、最後の方のコリオ・ステップにおいては技術評価点にプラス３が出るほどで、誰もまねはできない。北京にも一番乗りで頂点を極めた。気合いの入り方も念入り、来春の世界選手権のタイトルを見据えて走り始めている。

　ＳＰ１位の織田信成は優勝を狙っていた。結果は２位だったが、それには４回転なしでは考えられなかったし、ジャンプのミスは許されなかった。彼の場合、技術面で得点を稼がないと、簡単に高橋大輔、小塚崇彦、チャンに演技構成点でやられてしまうからだ。この先、プログラムの濃さがもう少し必要だろう。頭からつま先、両手の指先まで神経が行き届く演技が必要だろう。跳ぶ、回るに神経を使うのが第一だが、無駄だと思われる事もプログラムに入れ込み、余裕のある演技力を見せつけるべきだろう。自画自賛でなく、ジャッジから「素晴らしいプログラム」だと言われること、ステップが上手く配置されているという評価を貰うことも大事だと思う。今、一気に駆け上げる事が出来るのは４回転―３回転と、ジャンプで他を威圧し勝ちに出るというもくろみだがどうだろうか…。スケートの基本のスタイルを今一度、模索しても良いのではないだろうか？なぜなら、フィギュアは美しさを競うスポーツだから。

　３位に入った小塚の素晴らしさはフランス杯で十分見て取れた。世界は彼の実力を確認し、正統派の演技をファイナルでも望んだが、今回は少しのミスが小塚の得意とするところの陰りとして見えてしまった。序盤の４回転トーループは着地が両足気味になったが、流れがあり軸があり、速い回転力で良さが出ていたし、演技中の上半身の動きにも強化した跡がみられ、基本をしっかりと叩き込まれた深いエッジワークは、確かなものになって来た。しかし今回は曲想と振りと要素の調和はフランス杯ほどではなかった。少しのミスがプログラムを多少壊しはしたが、きっちりとしたスケーティングは健在で、ジャッジ、観客を納得させた。フランス杯から近かったせいだろうか？　もう一度、あの時の演技が見たいものだ。

　世界チャンピオンの高橋はプログラムに難しいステップを入れ、音と要素の調和、ステップと音との緩急、体全体で表現するのは並みの体力ではない。見ている人の心を引き込む演技力が高い、貴重な一人だ。４回転ジャンプの調子が良いとは言えない状況でもチャレンジすると言う、ここは世界選手権に向けての練習試合と設定か？　確かに海外の選手たちも、世界選手権に合わせて来る。そんな事を考えるだけ、高橋にも余裕があるのかもしれない。そして再び、世界チャンピオンを狙う準備の一つの大会とファイナルを考えているのだろう。それにしても、ジャンプの調整も、ステップも乱れが多く、本来の高橋の出来ではなかった。まだまだ濃い練習が必要ではないだろうか？

　終わってみれば、男女共に優勝を逃し、女子１つ、男子２つのメダル。試合というものは、なかなか思うようにはならないものだ。６人の日本の選手たちが３つのメダルを獲得した事は、ひと昔前では考えられなかった。女子の次は男子と考えていたが、やっと男子の黄金時代がやって来る気配を感じる。（この項終わり）

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（2010年12月17日15時04分  スポーツ報知）