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証言/焦点 3.11大震災
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焦点/がれき撤去足踏み/委託先の地元業者、処理能力限界

がれきの量が多く、撤去作業が追い付いていない被災地=16日午前11時ごろ、石巻市

震災から2カ月以上が過ぎ、ようやく始まった私有地のがれき撤去作業=16日午前11時ごろ、気仙沼市

 東日本大震災の被災地でがれきの処理が足踏みしている。被災市町村は地元の雇用・経済対策を図って地元業者に処理を委託しているが、量が多くて作業が追い付かず、発生から2カ月以上たっても手つかずのままの所が目立つ。スピードアップに向け、事業の国直轄化や大手業者の参入を求める声が出ている。

◎国直轄・大手参入求める声

<進み具合に差>
 各被災市町村のがれき処理状況は表の通りで進み具合に差が出ている。宮城県廃棄物対策課は「県内でも損壊家屋の撤去まで進んだ自治体もあれば、まだ遺体の捜索が続いている自治体もある。がれき量や被災状況に違いがあり、進度の差はやむを得ない」と話す。
 被災市町村の大半は地元業者に処理を依頼している。業者が被災して稼働率が高くなく、人手と重機の数も不十分で作業遅れを招いている。
 同課は「がれきを1次仮置き場に運び込む1次撤去は地元業者で対応できるが、2次仮置き場に移して処理する2次撤去以降は作業が大規模化し、地元の対応レベルを超える」と指摘する。

<範囲まちまち>
 宮城県は1年以内に1次撤去、3年以内に2次撤去を終える方針だ。がれき処理は市町村の事務だが、対応が困難なら県が代行する。
 宮城県内の被災市町は15で、このうち仙台市を除く14市町は県への代行委託を決定したか、決定を予定している。委託範囲は「全ての撤去作業」「2次撤去以降」と市町によってまちまちだ。
 こうした状況を踏まえ、政府内から「国の直轄事業にしないと進まない」(仙谷由人官房副長官)と、迅速処理に向けた国の積極的な関与を図る声が出てきた。

<「住民割食う」>
 一方、環境省廃棄物対策課は「自治体は努力していて、直轄化はないと考えている。国は広域処理や自治体間協力を提案し、迅速化を支援したい」と語る。
 工程管理にノウハウのある大手業者の活用を求める声も高まっている。ゼネコン関係者は「人も機材も不足している地元業者では復興が遅れ、住民が割を食う」と言う。
 地元市町村は大手業者の参入に複雑な思いを抱く。宮城県内の自治体担当者は「震災で多くを失った上、大手業者が稼ぐのを眺めるしかない地元業者のことを考えるとやるせない」と胸の内を明かした。

◎雇用と復興、ジレンマ/量膨大、足りぬ人手/石巻・東松島

 石巻地域の自治体が震災廃棄物の撤去に苦慮している。撤去作業は雇用確保と経済復興に向けて地元業者に優先的に発注しているが、量が膨大な上、地元業者は人手が限られて処理速度に限界があり、自治体は地域経済再生と迅速作業の間でジレンマに陥っている。
 「海や魚市場、水産加工団地のがれき撤去が進まないと漁業を再開できない。他地域の業者も活用し、早期に復旧させてほしい」
 石巻市の漁業阿部幸一さん(56)は話す。所有する小型底引き網漁船は無事だったが、倉庫にがれきが流れ込んで片付けに追われた。
 同市のがれきの量は推計616万トン。岩手県全体を上回り、市の年間廃棄物処理量の100倍を超す。撤去して仮置き場に搬入できたのは27万トンで4%にすぎない。
 撤去作業は市が宮城県建設業協会石巻支部の割り振りに基づいて地元業者に発注している。業者は人手のほか、重機の数が十分でなく、作業ががれきの量に追い付いていない。
 市環境生活部の阿部明夫次長は「地元発注は経済復興支援の意味もある。大手業者なら作業の速度は上がるかもしれないが、必ずしも地域のためにならない」と説明する。
 東松島市も仮置き場への搬入割合が7%にとどまる。撤去作業の発注は石巻市同様、地域優先で、市建設業協会に一括発注し、地元の約40業者で仕事を分け合う。
 協会の橋本孝一会長は「市内の建設業者で対応可能。重機の数も余力がある」と強調している。

◎私有地処理やっと/震災発生から2ヵ月以上/気仙沼

 気仙沼市は16日、市内の私有地でがれきの撤去を始めた。地元の仕事と雇用を創出するため、市内の建設業者など約90社でつくる気仙沼災害廃棄物処理協議会に一括発注した。年内の完了を目指す。一方、住民や事業者からは早期の復興に向け、より迅速な撤去を求める声が上がっている。
 撤去が始まったのは市中心部の魚市場前や八日町のほか、鹿折、階上、本吉各地区など。産業の復興と衛生面を考慮し、事業所が集積する地域や避難所の周辺を優先させた。
 初日はダンプカー約120台、ショベルカーなど65台を投入し、がれきを撤去して市内の仮置き場に運び込んだ。
 私有地での撤去開始には震災発生から2カ月以上を要した。市土木課は「市道のがれきの撤去を優先的に進めた。冠水した場所もあり、時間がかかった」と説明する。
 撤去完了の目標は12月。来年3月までとする県の計画を前倒しして進めるが、今年いっぱい市内にがれきが残ることへの不安は小さくない。
 「津波で被害を受けた工場を再建するためにすぐにがれきを撤去してほしい」と市内の水産加工業者。自宅が火災で全焼した鹿折地区の男性(51)は「何カ月もがれきが残るなら復興に向けて歩む気分になれない。衛生面も心配だ」と懸念する。
 気仙沼商工会議所の臼井賢志会頭(69)は「平時なら市内の業者を優先して撤去作業を発注する市の考えは理解できるが、今は非常時。復興を考えれば市外の業者の協力を得てスピードを最優先に撤去を進めるべきではないか」と語っている。


2011年05月17日火曜日

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