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[27716] 【チラ裏より】焔の道程(魔法少女まどかマギカ)【アフター&逆行】
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/14 22:23
初めまして。ごま麩と申します。



この度、まどかを見まして年甲斐もなくハマり、ほむら主人公のSSを
書き始めてしまいました。
処女作のため至らぬ点など多いと思いますが、それでも構わない方は
目を通していただけると幸いです。

なお、当作品は、本編12話の終わりから始まります。
そのためネタバレ満載です。
また作者自身の独自解釈なども含んでおります。
それでも良いよという方は是非感想をくださるとありがたいです。

それでは、よろしくお願いいたします。




[27716] prologue
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/14 22:17
「がんばって。」

脳裏に響く懐かしい声に思わず口元が緩む。
ずっと、戦い続けてきた。
肥大化した魔力は魔獣のグリーフシードでは浄化しきれず、仲間の魔法少女達は皆少しずつ力尽き、まどかの元に迎えられていった。
私は最後の力を振り絞り、私の武器である弓を多数殲滅用に拡張した黒翼を展開すると、魔獣の群の頭上に飛び立ち空間攻撃を行う。

「お疲れ様。ほむらちゃん・・・」

力尽き、くずおれた私の耳元で再び聞こえたまどかの声に安心すると私は意識を失った。




私が目を覚ますと、いつかの空間に私は裸で浮かんでいた。

「久しぶり、ほむらちゃん。」
「え?」

振り向けば、いつの間にか、そこにわずかに笑みを浮かべたまどかが立っていた。
私は何もかも忘れて、まどかに抱きつく。

「まどか・・・!まどかぁっ!」

涙を流しながら、バカのようにまどかの名前を呼ぶ私を、まどかは笑って優しく抱きしめ背中を叩き続けてくれる。

「まどか!会いたかったっ。ずっと会いたかった!」
「うん。うん・・・っ。私も会いたかったよ、ほむらちゃん。おつかれさま。てへへ、こういうときもっと気が利いたこと言えたらいいんだけどね。良い言葉が思いつかないや。」

2人で抱きしめあい、ひたすら名前を呼び合う私達。
だがそれも思わぬ闖入者によって邪魔をされることになる。

「本当にお疲れ様だね。暁美ほむら。」

聞こえたその声に私は耳を疑う。
だが、足下を見ると私たちのすぐそばに、キュウベえが佇んでいた。
なぜ・・・なんでコイツがここにいるの!
なんとか内心の叫びを押し殺し、表面上は冷静を保って問いかける事に成功する。

「なぜあなたがここにいるのかしら。」
「僕のする事はただ1つ。少女達の願いを叶え、魔法少女に導くこと。それだけだよ。」

相変わらずの無感情な瞳で私達に向け語りかけるキュウベえ。
だが、そんなはずはない。
私はもう願いを叶えられている。
浮かんだ疑念を晴らすため、私はキュウベえに向け再度問いかける。

「私たちの願いをもう1度かなえるために来たとでも言うの?」
「その通り。正確には君たちではなく、暁美ほむら。君の願いを、だけどね。」

その言葉に私は再び耳を疑う。
私の願いは既に叶えられているはず。
でなければ、概念存在となったまどかにこうして再会できるわけがない。

「あなたは私の願いを叶えて魔法少女としたのでしょう。それとも同じ人間の願いを何度でも叶えれるというのかしら。」
「いいや。1人の人間の願いは間違いなく1度しか叶えられないよ。でもね、暁美ほむら。君だけは特別だ。
君の、鹿目まどかとの出会いをやり直したいという願いは、鹿目まどかが概念存在となった時点で破棄されている。当然だよね。概念というのは、ただそこにあるモノ。時間という概念がない存在と一定の時間をやり直そうなんていう願いは矛盾してしまうからね。」

それはおかしい。
私は魔法少女としての力を失っていなかった。そのうえ概念存在であるまどかとこうして再会している。それでは、この空間に私達しか存在しない説明がつかない。

「まどか。力尽きてあなたの元へ消えていった魔法少女達はどこ?」
「ううん。ここには誰も来てないよ。私は浄化しきれなくなったソウルジェムが、グリーフシードに転化するエネルギーを利用して魂を抽出して、別世界でずっと良い夢を見てもらってるだけだもん。」

戸惑った表情を浮かべ私の問いに答えるまどかにますます疑念を深くする。
それもおかしい。それでは美樹さやかさが消えた事が説明できない。
だが、巴マミも佐倉杏子もどちらも力尽きた後はソウルジェムが消え、ただの人間として死んでいった。
これはどういうこと?

「それはおかしいわ。ならばなぜ力を使い果たした美樹さやかは消えたの?」
「それは・・・さやかちゃんはどの時間軸でも、必ず魔女になっちゃうの・・・さやかちゃんが生きのこるって未来が存在しないから・・・」

答えにくそうに視線を逸らして答えるまどかの言葉に少し私は納得する。
そういえば私は魔法少女が消滅するのは美樹さやかしか見ていない。ならば美樹さやかこそがレアケースという事があってもおかしくはない・・・?
他の魔法少女達はただの人間にもどって最期を迎えていく?

「ならばなぜ私だけがまどかの元へ来れたの?それに私が魔法を失っていない理由の説明がつかない。」
「君のもともとの魔法は時間制御だったよね。だけどまどかの概念化によってその魔法を失った君は、まどかと同じ弓を使うようになっただろう?しかも少しずつ力が増大していった。違うかい?」

私の疑念に今度はキュウベえが横から口を挟む。
だが確かにコイツの言うとおり、本来の時間操作を失った私は、代わりに得たまどかとお揃いの魔力弓で戦っていた。しかも、その力は戦いが激しくなるに連れ、どんどん増大していった。

「ええ。確かにそうよ。」
「そもそもそれがありえない。通常の魔法少女は力を消耗するだけで、力が増大したりしない。ここからは推測になるけど、おそらく君がまどかから受け継いだリボン。それが媒体となって君がまどかの力を運用する事が出来たんじゃないかな?」

このリボンが?
キュウベえの指摘に思わず私は頭のリボンに手を触れる。
その理屈なら一応私がまどかの力を引き継ぐ事ができた理由にはなる。
だがそれは新たな疑問を生んでしまう。

「ならばなぜ魔法を失ったのにソウルジェムが残っていたの?それに肥大化する力に合わせるようにして、私のソウルジェムの濁りは少しずつ浄化仕切れなくなっていったわ。まどかの力を借りているだけならば私の魔力消費はせいぜい身体の維持くらいのはずよ。」

混乱する頭を必死に落ち着かせ、なんとか問いに結びつける。
だが内心で戸惑う私の問いに対して、コイツはすぐに返答を返してくる。

「勘違いしているようだけど、ソウルジェムは願いの代価ではなく、魔女と戦いやすいよう精神と肉体を加工したものにすぎない。だから、君の願いはキャンセルされても、ソウルジェムが消える事はないんだよ。魔力に比例して浄化が追いつかなくなっていったのは、まどかの力の呼び水に君の力を利用しているからだろうね。だから増大する力に比例して呼び水として使う魔力も大きくなっていったというわけさ。しかも、大きな力を引き出すほど君はまどかの外部端末として世界に認識され、最後は世界にまどかと同一存在であると誤認されてこの空間へ来ることができた。仕組みはこんなところじゃないかな。」

キュウベえの言葉を噛みしめ考える。
たしかにこれも否定する材料はない。けれどコイツの言ったことが本当だとすれば・・・
だが、結論に思い至ると同時にまどかが先に叫びを上げていた。

「そんなのおかしいよ!それじゃあほむらちゃんは願いの代償を得ずに戦わされてたって事じゃない!」
「そうだね。だからこうして遅まきながら願いを叶えに来たんじゃないか。暁美ほむらは願いの代価を先払いしてくれただけだよ。何もおかしいことはない。」
「嘘よ!そして願いを叶えたほむらちゃんにまた戦わせてエントロピーを回収するんでしょう!やめてよ!!先払いで代価を払わせて、願いを叶えた後も払わせ続けるなんて詐欺じゃないっ!!」
「ありがとう、まどか。でもいいの。」

私の言葉に涙を流して激昂していたまどかが振り向く。
そう。コイツが願いを叶えるなら。
私がまだ願いを叶えられるなら・・・!
私は両手を握りしめ、キュウベえに宣告する。

「叶えなさい。キュウベえ。まどかをもう一度人間にもどしなさい。」
「ダメ!ほむらちゃんっ!!」
「いいの、まどか。あなたのためなら私はもう一度・・・ううん、何度永遠の迷路に囚われても構わない。」

涙をたたえるまどかを抱きしめ、キュウベえを睨み付ける。
だが、コイツはすぐに首を振ると私の願いを否定した。

「悪いけど、僕にはその願いを叶える事はできない。」
「なぜっ!!」
「君は確かに強力な因果をもっている。けれど、より上位のまどかの願いがある以上まどかを人間にすることはできないよ。」

キュウベえの説明に唇を噛みしめる。
その理屈ではまどかを救うためにはまどか以上の因果を持った存在を連れてくるしかない。
私が再び時間を繰り返せば、まどか以上に因果を集めることもできるかもしれない。
けれどそのために必要な時間制御は、私が願いを叶えなければ得ることはできない。
ここまで来てなお、私はまどかを救うことができない?
その事実に私は歯がみし、それでもまどかを救う方法を必死に考える。
考えなさい。それでも何か・・・何か方法があるはずよ・・・

「もういいよ、ほむらちゃん。私は大丈夫だから。普通の女の子になれるチャンスなんだよ?普通の女の子になって幸せにすごすチャンスなんだよっ!」
「だめよ!私がいなくなったらまどかはまたこんな誰もいないところでずっと・・・」

私のために泣いてくれる親友の訴えに返答しようとした瞬間、ふと自分の叫びの途中で疑問が浮かぶ。
ここは概念空間だとキュウベえは言った。
そして、通常の時間軸から外れ人間から認識されなくなるとも。
私の推測が正しければ・・・

「キュウベえ。なぜあなたはなぜここにいるの。」
「さっきも答えたよね。僕の仕事は」
「そうではないわ。あなたは以前、ここは概念空間だと言った。認識する事ができないとも。実際私と一緒にいたあなたはまどかのことも、以前の世界のことも忘れていたわ。
でも今のあなたはここにいて、しかもまどかの願いによる因果律の改変前の世界を覚えている。それはなぜ。」

そう。これが私の抱いた疑念。
私と一緒にいたキュウベえはまどかの事を忘れていたのに、このキュウベえは以前の時間軸と記憶が連続している。
そこで浮かんだ疑念が、キュウベえもまた何かの概念存在の外部端末ではないかということ。だからあらゆる時代に現れ、また上位互換ながら個体ごとではなく統合された意識を持ち、それ故に一匹を殺してもまた別の個体がすぐに現れる事ができたのではないかということだ。

「あなたも何かの概念存在の端末ではないの?だから上位概念であるこの空間にいるあなたは、まどかがいた時間軸との記憶も連続している。そしてあなたがいろいろな時間軸に現れるのもそれが理由。違う?」
「否定するほど間違ってはいないよ。」
「後者の2つは間違っていないのね?」
「そうだね。」
「そう。ならいいわ。」

コイツの場合、どこが間違っているか確かめておかないといけない。
でなければとんでもない落とし穴があるのは何度も身をもって経験している。
だがそれでも、後半の前提が間違っていないなら構わない。

「なら今度こそ叶えてもらうわ。私をまどかの分身と一緒にあの日からやり直させて。」

改めてキュウベえを見て願いを告げる。
しばし無言のまま見つめ合う私とキュウベえ。
それを心配そうな瞳で見守るまどかに心の中で語りかける。
ごめんね、まどか。あなたには心配ばかりかけて。でも絶対にあなたを救い出して見せるから。
静かに決心を改める私にキュウベえが言葉を吐き紡ぐ。

「確かにその願いは叶えられる。でもいいのかい?君の願いを叶えても鹿目まどかは僕と同じように魔法の素養のある人間にしか認識されない。それはもはや人間の定義じゃない。それでもかまわないのかい?」
「ほむらちゃん・・・」

キュウベえの言葉にまどかが不安そうにこちらを伺う。
それでもこの願いは変えない。変えるわけにはいかない。

「大丈夫よ、まどか。あなたを絶対にもう一度人間にしてみせる。私を信じて。」

まどかの肩に手を置き、目を見据えてはっきりと言う。
失敗は許されない。私が許さない。これ以上まどかを傷つけたりしない!

「うん・・・わかった。私ほむらちゃんを信じる。」

揺れていた瞳を1度伏せ、もういちど目を見開いたまどかにもう迷いはない。
ありがとう。ごめんなさい。どんな手を使っても救い出してみせるから・・・
だからまどか。今は私を信じてくれてありがとう。

「ありがとう、まどか。私を信じてくれて。改めて言うわ。さあ、叶えさい。インキュベーター!」
「・・・君の願いはエントロピーを凌駕した。おめでとう暁美ほむら。さあ新しい力を使ってごらん。」

キュウベえの言葉と共に、胸に生まれる苦痛。
だがその苦痛に耐えきると、失ったはずのソウルジェムが再び生まれる。
同時に左腕にかつてなくした時計が現れる。
懐かしい感触に思わず時計の表面を撫でると、長年のパートナーはひんやりと冷たい感触を伝えてきた。
思えばこの時計とも長いつきあいだった。
今までただの道具として使ってきたが、この時計のおかげで今度こそ、まどかを助ける事ができるかもしれない。
そう考えればもう少し愛着をもってもいいのかもしれない。

「行きましょうまどか。あなたの未来を取り戻しに。」

私の言葉にまどかがしっかりと頷く。
それを見届けると私はギミックを発動させる。
中の砂がこぼれ落ち、歯車が動き出す。

「じゃあね、暁美ほむら。向こうのボクによろしく。」
「ごめんよ。2度とあなたとは会いたくないわ。」

縁起ではない言葉を吐くキュウベえに背を向けると、私はまどかの手をとり頷き合うと2人で時間の回廊に向けて足を踏み出す。
今度こそ・・・今度こそこの戦いを終わらせてみせる。
そう心の中で呟くと、もういちど私はまどかの手を強く握り尚した。



[27716] 1話 あなたの願いも決して無駄にはしない
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/10 19:14
目を覚ますと私の目の前にまどかの顔があった。不慣れな出来事に頬が熱くなる。
考えてみればずっと病院で1人暮らし。魔法少女となってからも、美樹さやか、佐倉杏子、巴マミの3人では協調性が高いのは巴マミだけ。
しかも巴マミも面倒見こそ良いものの、年齢が1つ上なこともあり、一歩引いた立場で見守ることが多く、一緒に眠ったことはなかった。
いきなり誰かの顔が目の前にあることなど経験したことがない。
高鳴る胸を抑えながら、よだれを拭き、なぜかしっかりパジャマ姿に着替えていた彼女の丸見えだった鎖骨を隠し、しばしまどかの顔を観察してみる。
少々口元がだらしないが、こうやってみるとかなり整った顔をしている。
母親が美人なのだから、納得ではあるのだけどなぜこれほど母親と印象が違うのだろう。

「まどか、起きて。」

いつまでも眺めてはいられない。日付を確認すると私が転校した日になっている。
いったん、確認のため変身をすると何ら問題なく変身ができた。まどかの力である魔力弓の展開も以前と同じように展開できる。もっともこの力は使い続ければ概念化を早める恐れがあるから、あまり多用はできないだろう。
うれしい誤算だったのは、今までの戦いで格納してきた武装が使用した物以外、全て時計の中に存在したことだ。これでかなり戦術の幅が広がる。
武装の確認を終えると変身を解除し、これからの事を話すため、まどかをゆすり起こそうとする。だがどれだけ揺すってもまどかが起きる気配はない。あまつさえ、だめだよほむらちゃん・・・もう1日寝させてよぉ・・・・などと寝言を言う始末。
揺すっても無駄だとわかった私は、とりあえず窓を開け、布団を引きはがす。

「起きなさい、まどか。」
「でぉぅうううわあああああああっ!?」

目を押さえ身悶えるまどかを見て疑念を抱く。果たしてまどかはこんなに寝起きが悪かったかしら・・・
まどかはいったいどういう生活を送ってきたの・・・
ずいぶんと自堕落になっているような気がするのだけど・・・

「うー。ほむらちゃんおはよー・・・」
「おはよう、まどか。」
「えっと・・・ここは?」
「私の部屋よ。」

とろんとした目をしたまま、首を振り部屋を見渡すまどかにまず顔を洗わせる。
洗面所に案内し、洗顔を済ませると、さっぱりしたのかさっきまでと違い、はっきりした口調で話かけてくる。

「そっか。戻って来れたんだ・・・でも前に来たときとお部屋が違うような気がするんだけど・・・」
「前は魔法で空間拡張していたの。ワルプルギスと戦うためのミーティングの必要もあったから。」
「そっか。これからどうするか聞いても良い?」
「ええ。私は学校へ行くわ。」
「そっか、そうだよね・・・。私も一緒に行っても良いかな・・・?」

少し心配そうな顔で上目遣いに伺ってくるまどか。
だが今日はまだまどかを連れて行くわけにはいかない。

「ごめんなさい、まどか。今日は我慢してもらえるかしら。」
「いいけど・・・どうしてか聞いても良い?」

残念そうな顔でこちらを伺うまどか。
私にも心臓病時代の記憶があるから学校に行きたいのにいけないという苦痛は理解できる。
それでも、今日は我慢してもらうしかない。

「うん。今のあなたはキュウベえみたいな存在だから・・・普通の人にみえない可能性が高いの。でも、あなたのクラスには美樹さやかがいるでしょう?転校生が2人と思って彼女があなたに話しかけたらクラスの全員から彼女が変に思われてしまうわ。だから、今日は我慢してほしいの。まどかは今日は外を歩いて他の人達に見えるのか、触れるのかということを確かめて。美樹さやかには私から接触してあなたのことを話しておくわ。」
「そっか・・・うん、そうだね。さやかちゃんが誰もいないのに話しかけてたらおかしいもんね。」
「ええ、明日には学校にいけるようにしてみせるから。」
「わかった。ほむらちゃんを信じるね。」

自分が改めて人間ではないという事を理解させられて、辛いでしょうに気丈に笑ってみせるまどかを見て、私は何度目か知れない決意を新たにした。



「暁美ほむらです。よろしくお願いします。」

この学校に転入してくるのは何回目だろう。もはや新鮮味もなく、まどかがいない学校は私にとってただの作業場でしかない。
私の目的はただ1つ。美樹さやかと共にキュウベえとの接触をすることだ。

「ねえねえどこから来たの?
「東京のミッション系の学校よ。」
「髪すごいきれいだよね。何かお手入れしてる?」
「いいえ。毎日のトリートメントくらいよ。」
「はいはい。みんな暁美さんは転校初日なんだからあんまり質問攻めにしなーい!」

毎回繰り返される休み時間の質問攻めを、美樹さやかが止めてくれた。
この流れは私にとって初めてだ。おそらくまどかがいないことによって生まれた新しい流れなのでしょうけど、これは都合が良い。

「ありがとう。人に囲まれるのは慣れてないから助かったわ。」
「いいっていいって。」
「助けてもらったついでで悪いのだけど、保健室はどこにあるのかしら。定期的に薬を飲まないといけなくて。」
「ああ、そうなんだ。良いよ、私学級委員長だし、案内するよ。」
「そう。申し訳ないけどお願いできるかしら。」

快く保健室までの道案内を引き受けてくれる。
もともと少々天然気味なまどかの面倒をよく見ていた彼女だ。少々強引で暴走気味だが、正義感と責任感が強く面倒見がいい彼女は確かに学級委員には向いているかもしれない。
私が知る流れとは違うが、ここまでは私にとって非常に都合良く流れている。

「いやぁーごめんねー。みんな悪気はないんだけど転校生なんて珍しいからさ。見世物みたいで気持ちのいいもんじゃないかもしれないけど、1週間もすれば落ち着くと思うからしばらくの間我慢してもらえるかな。」
「ええ。構わないわ。」
「ありがと。お詫びといっちゃあなんだけどさ。私に出来ることなら何でもいってよ。出来る限り助けになるからさ。」

誰だろう彼女は・・・私の知る美樹さやかと本当に同一人物なのだろうか。確かに面倒見もよく明るい性格だったが、彼女は致命的にこういった気配りが苦手だった印象がある。
まどかがいないだけでここまで変わるものなの・・・?
私にとって非常に都合の良いことは確かなのだが、いささか以上に違和感と不安を感じてしまうのはなぜだろう。
とはいえ、せっかくあちらから協力してくれるのを見過ごす手は無い。

「ありがとう。確か美樹さやかさん・・・でよかったかしら。じゃあせっかくで悪いのだけど1ついいかしら。」
「お。なになに?この魔法少女さやかちゃんにどーんと任せなさい!」

安心した。やはり彼女は美樹さやかだ。この本人に悪意が欠片もないのに地雷を踏み抜くところはこの世界でも変わっていない。

「放課後、少し街を案内してもらえないかしら。来たばかりであまり地理に明るくないから。」
「す・・・するーかい。なかなかやるなおぬし。もちろんOKだよ。っと、ここが保健室。
待ってた方が良い?この学校の中迷いやすいから。」
「それには及ばないわ。ありがとう美樹さん。また後で教室で。」

お礼を告げると扉を閉める。これで最大の難関の美樹さやかと2人きりになるという目標は達成できた。経験上、今日はキュウベエに接触する可能性が高い。
自分で見たものしか基本信じない彼女には、アレとの接触はむしろまどかの存在を理解させるには都合がいい。
即断で魔法少女になってしまう可能性も0ではないが、おそらくその可能性は低いだろう。美樹さやかが魔法少女化しない未来がないというのはまどかのお墨付き。
けれど、美樹さやか。
あなたの願いも決して無駄にはしない。



[27716] 2話 運がないわね。巴マミ
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/12 11:10
「暁美さーん。一緒に帰らない?」
「ごめんなさい。今日はこれから美樹さんに病院まで案内してもらうことになっているの。まだ退院したばかりだから定期検診を受けないといけなくて。」
「あ・・・そっか。それじゃ仕方ないね。」

ホームルームが終わった途端クラスメイトの子が声をかけてくれた。
ありがたい話ではあるのだが、今回も断らざるを得ない。

「ええ。ごめんなさい。」
「ううん。じゃあまた誘うね。お大事に-。」

それでも次回のお誘いをくれるクラスメートに少々の感謝の念を抱きつつ手を振りわかれる。
彼女達とちょうど入れ替わりになるように美樹さやかが来る。

「ごめん。暁美さんお待たせ。準備はいい?」
「ええ。こちらこそ無理をいってごめんなさい。」
「いいっていいって。転入生を案内するのも学級委員の役目だしね。あ、ちょっとまって。仁美ー。これから暁美さんを病院まで案内するけど仁美も一緒にいかない?」

待ちなさい。美点を見直した瞬間になぜあなたはそこで毎度私の思惑を破壊するのか。
私に何か恨みでもあるのだろうか。
被害妄想だと思いつつも疑いたくなってくる。

「ごめんなさい。ご一緒させていただきたいのですが、今日はピアノのお稽古がありますの。申し訳ありませんが、また今度お誘いいただけますでしょうか。」
「そっかあ。習い事ばかりで大変だねぇ、ひとみも。しゃーない。また今度一緒に暁美さんを案内しようよ。」

なんとか助かったが、やはり美樹さやかは危険だ。
志筑仁美の忙しさから助かったものの、彼女の予定がなければ間違いなく一緒に動くことになっただろう。転校生の案内を友人と一緒にしようという考えは普通なのだが、私にとって少なくとも今日は迷惑極まりない。

「はい。是非ご一緒させていただきたいですわ。それでは暁美さん、お名残惜しいですが今日は失礼させていただきます。ごきげんよう。」
「ええ。ごきげんよう志筑さん。」

上品に会釈をする彼女に私も会釈を返すと、彼女は微笑み教室の外に歩いて行く。
視線をもどすと美樹さやかだけでなく周りのクラスメートも少し面食らった表情でこちらを見ていた。
何かおかしな事があったかしら。

「何かしら。」

思わず美樹さやかに声をかけると我に返った彼女が非常にいやらしい顔でニヤついていた。

「いっやー。まさかひとみの挨拶にごきげんようで返す子がいるとはっ!容姿端麗成績優秀なお嬢様!暁美さんキャラ立てしすぎだ!くぅーそれが萌か!萌えっこ狙いなのか!?」

自分の肩を抱いて身体をくねらせる美樹さやか。
からかわれていると理解した私は一瞬で頬が熱くなる。からかわれるのに慣れていない私は、出来るだけ冷静な顔を取り繕い美樹さやかに背を向け1人で外に歩き出す。

「ごめんごめん、暁美さん待って-!美少女同士のやりとりがあんまり絵になってたからついさー。それで、どこを案内すればいいのかな。病院てどこの病院?」

勝手に歩き出した私を慌てて追いかけてきて謝る。

「こちらこそ感じが悪かったらごめんなさい。病院暮らしが長くてからかわれるのに慣れていないの。話をもどすけど、見滝原総合病院よ。途中でデパートや生活必需品を扱ってる店も教えてもらえるかしら。」
「あれ、暁美さんも見滝原総合病院なんだ。」
「私も・・・?あなたの知り合いも誰か入院しているの?」

彼女の幼なじみが入院していることは知っている。けれど今私がそれを知っていることはおかしい。以前は知識を隠さなかったことによっていらない警戒をされた以上、美樹さやかとも友好的な関係を築かなくてはならない今回は徹底的に知らないふりを通すしかない。

「あーうん。私の幼なじみなんだけどさ。事故でちょっとね。」
「そう。長いの?」

途端に彼女の表情が曇る。魔法がなければ上条恭介の身体が治癒することはない。
既にある程度その話は聞いているのだろう。

「うん。もう半年近く入院しているの。経過もあんまりよくないみたい。」
「そう。ごめんなさい。気軽に聞いて良い話ではなかったわね。」
「気にしないで。っていっても気になっちゃうか。ああ、でも元気なんだよ。命に別状があるとかじゃないからさ。ほんと、あんま気にしないで。」

少しゆるんだ口元で苦笑してみせ、強がる彼女。
だが、この流れは想定外だが悪くない。美樹さやかの願いの根幹となる上條恭介。
彼の事を知れば、今後の流れを少しでも変えることができるかもしれない。ならば私のする事は1つだ。

「そう。もし良ければ私もお見舞いに一緒させてもらってもいいかしら。私も入院していたとき、クラスメイトのお見舞いがすごくうれしかったから。もっとも、初対面の私では戸惑うだけかもしれないけれど。」
「それ良い!アイツのお見舞いってよく考えたら私と仁美とアイツの家族くらいしかしてなかったからさ。暁美さんみたいな美人がお見舞いにきたらきっと一発で元気になるよ!」

途端に顔を輝かせてこちらに迫ってくる美樹さやか。
その後、彼の趣味や今までの思い出から始まり、たわいもない雑談を続けていく。
楽しそうに彼との思い出を話す彼女を見て、ふとある意味で彼女は私に似ているのかも知れないと思った。まどかのためだけに生きる私と、彼のためだけに生きる彼女。
もっとも、それに気づいたところで、私がする事は変わらないのだけれど。
少々の罪悪感と自嘲を込めて心の中で自分を笑う。
とりとめの無い話をしながら歩いて行いると、突然周りから人が消える。
これは魔獣の結界・・・ね。
てっきりキュウベえが接触してくる方が先だと思っていたが、先に魔獣と接触したらしい。

「美樹さん、急ぎましょう。」
「え?え?え?急に何?ていうか、いつの間にか誰もいないじゃん!どうなってんのこれ!?」

もちろん逃げる気などない。
彼女の手を引くと私は魔獣の気配がする方へ走り出す。
間もなく白い服を着た成人男性のような魔獣が4匹地面から生えるようにして現れる。
僧侶の出来損ないのような外見なのに、なぜか嫌悪感を生む。
それを見て隣の美樹さやかが、顔をしかめる。

「美樹さん、こっちよ。両手で耳を塞いで口を半開きにしていて。」
「え?ちょっとなに!?どういうこと!?」

戸惑う彼女と共に道を曲がり、建物の影に隠れる。
不安そうな彼女に声をかけ変身し、左手の時計からグレネードを取り出すと、ピンを外し4匹の魔獣の足下に放り投げる。
再び建物の影に隠れた瞬間、グレネードが爆発し、砂塵が舞い上がり大音響が響く。

『きゃああああああああっ』

爆発が収まるのを確認し、魔獣がいた辺りを見ると無事一発でまとめて倒せたらしい。
砂煙が収まると、そこには巻き込んでしまったらしく、少し煤けた巴マミとキュウベえが涙目で立っていた。
ごめんなさい・・・相変わらず運がないわね。巴マミ。





本日のほむほむ収支報告書
M26ハンドグレネード × 1



[27716] 3話 彼女のようにね
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/12 11:11
今私達は巴マミ達と一緒に私の家へ向かっていた。
ここまで来る途中で聞いた話では、魔獣を感知した彼女は結界の中で走る私達を、結界に迷い込んだ一般人だと思い助けようとして意気揚々と変身し、さあこれからというところで私の投げたグレネードが炸裂し慌ててリボンで身を守ったらしい。
歩きながらキュウベえと、巴マミが美樹さやかに魔法少女や自身の事を説明する。
思惑通り、ただの人間には見ることができないという内容も添えて。
私が危惧した美樹さやかは、意外にも私達の会話を少し後ろから黙ってついてきていた。
しばらく歩くと、私とまどかの部屋の前に到着する。

「ごめんなさい。少しだけ待っていてくれるかしら。」

まどかに口裏を合わせてもらうために2人に声をかけ、少し外で待っていてもらう。
ドアを開け、中に入り、まどかに声をかける。

「ただいま、まどか。」
「あ・・・おかえり、ほむらちゃん・・・」

椅子にかけて外をぼーっと眺めていたまどかがこちらに目を向ける。
だが返事に元気がなく、目元も腫れて赤くなっている。
やはり外で誰にも気づいてもらえなかったのだろう。自分が人間ではないと理解させられて傷つかないわけがない。

「ごめんなさい。まどか・・・」
「あ。ううん、ごめんね、気を使わせちゃって。こんな暗い顔してたらびっくりするよね。」

気丈に笑ってみせるまどかだが、やはり無理をしているのだろう。
その笑顔もかなり強ばっていた。心配だけど、今は外で待たせている2人のことを話さなければいけない。

「ごめんね、まどか。後で話を聞かせてもらうから今は我慢してもらえるかな。ひどいこと言ってるってわかってる。でも外に美樹さやかと巴マミを待たせているの。」
「え・・・?さやかちゃんとマミ先輩?」

その表情が少し輝きを取り戻す。
彼女達ならおそらくまどかを見ることができるだろうことは、先だってまどかに話してある。それを覚えているのだろう。だけど、それもつかの間、続けて言った私の言葉に再び表情を曇らせる。

「ええ。でもあなたには2人のこともキュウベえの事も知らないふりをしてほしいの。
彼女達と私達はこの世界では初対面だから・・・」
「あ・・・そっか・・・そうだよね・・・うん。わかった・・・。」

目に見えて肩を落とすまどかを見て私の胸も痛くなる。だがこの痛みに耐えなければまどかを人間にもどすことなどできはしない。

「ごめんね・・・それじゃあ、呼んでくるね。」
「うん・・・」

心配そうなまどかを背にドアを開け2人を招き入れる。

「ごめんなさい、引っ越してきたばかりで何もないけれど入ってもらえるかしら。」
「お邪魔しまーす。」
「お邪魔させてもらうわ。」

ダイニングに招き入れた2人にまどかを紹介する。

「改めていらっしゃい。彼女は私の同居人の鹿目まどかよ。」
「初めまして、鹿目まどかです。」
「初めまして、私は美樹さやか。今日から暁美さんと同じクラスになったの。よろしくね。」
「同じくはじめまして。私は巴マミ。暁美さん達の1つ先輩になるわね。」

紹介を終えるとみんなに椅子にかけてもらう。
そして、最後にキュウベえが自己紹介を始める。

「はじめましてだね。ボクはキュウベえ。さっそくだけど鹿目まどか、暁美ほむら。君たちは何者だい?特に鹿目まどか。君は僕たちと同じような存在だろう?」

リビングを沈黙が包む。
最初に口火を切ったのは私だった。

「半分は正解よ。彼女は私の契約者。そして魔法少女のなれの果てよ。」

その言葉に再び巴マミと美樹さやかが息を呑む。
予想通りキュウベえは、彼女達に魔法少女となるリスクを説明しなかった。
これでまどかの事を理解してもらいつつ、美樹さやかにキュウベえへの不信と、魔法少女となるリスクを教え彼女の契約を少しでも遅れさせる事ができる。
今のままでは彼女は間違いなく上条恭介のために己の願いを使い潰す。
それでは困るのだ。

「やはり聞いていなかったようね。気をつけなさい。そいつは嘘をつかない。けれど決して語る言葉全てが真実ではないわ。」
「本当・・・なの?キュウベえ・・・」

動揺をあらわにする巴マミ。
だが、彼女にとってもこの真実は早めに告げておいた方が良いだろう。

「嘘は言っていないね。確かにボクは君たちに話していないことがある。けれどそれは魔獣達との戦いで不要なものばかりだよ。」
「その基準は何なの?話していないことってなに・・・?答えなさい、キュウベえ!」

不安からか少しずつ声が荒くなる巴マミ。
彼女と美樹さやかの精神の脆さを克服しておかなければ、肝心なところでミスを生む心配がある。また美樹さやかには、おいそれと契約しないよう徹底的に恐怖を植え込んでおく必要もある。

「何を話せばいいのかな。質問は具体的にしてもらわないとね。」
「そう。なら私が代わりに質問するわ。あなた達の目的はなに?魔法少女にソウルジェムが生まれるのは何のため?魔力を使い果たした魔法少女はどうなるの?」

とぼけるキュウベえに私が質問をする。この3つの質問でコイツが答えても答えなくてもキュウベえへの不信を植え付ける事ができるだろう。

「・・・」
「答えられないなら代わりに答えてあげる。目的はこの宇宙を維持するため無限にわき出る感情のエネルギーを利用するため。ソウルジェムとは魔獣との戦いを効率的に行うため人間の精神を加工したもの。その際本体はソウルジェムとなり、肉体は外付けのハードウェアでしかなくなる。そして魔力を使い果たせばソウルジェムは消失し、ハードウェアである肉体の操作をできなくなり死を迎える。魔法少女とは魔力の力で動くゾンビのような存在よ。そして同時に人の身に余る願いをした者は、その素養によっては概念存在として死ぬことすら許されなくなる。」
「っ・・・」

もはや顔を真っ青にした巴マミと美樹さやかを見渡し、最後にまどかに視線を向けとどめとなる一言を告げる。

「彼女のようにね。」





「ほむらちゃん。起きてる・・・?」

隣に寝転がるまどかが、おずおずと声をかけてくる。

「ええ。起きているわ。どうしたの。」

問い返す私。だが彼女は私の背にすがりついたままずっと黙り込んだまま。
こういうとき自分の対人経験の少なさが恨めしい。まどかが何かに悲しんでいるのはわかるのに、その悲しみが、なにが原因かわからない。彼女を励ますことができない。
無力感に苛まれたまま私は、ただまどかが話しかけてくれるのを待つしかできなかった。

「私ね・・・今日家族のみんなに会って来たの・・・」

その言葉で気づく。考えれば当然だ。家族仲のよかった彼女が会いに行かないわけがなかった。
家族に自分が見えない。
家族に自分が忘れられている。
この事実がどれほど彼女を苦しめるのか。
私は今まで、彼女を人間に戻しさえすればそれで良いと思っていた。
だがそれでは足りない。それだけでは足りないのだ。
彼女が人間になっても、まどかの家族が思い出すとは限らない以上、まどかを本当の意味で救い出すには彼女の家族にまどかを思い出させた上で、彼女を人間にしなければならない。

「ねえ、ほむらちゃん。ほむらちゃんはこんなことを繰り返してきたんだよね・・・ずっと・・・仲の良かった人達みんなから忘れられて・・・気づいてもらえなくて・・・それでもずっと耐えてきたんだよね・・・ごめんねほむらちゃん。気づいてあげられなくて・・・本当にごめんね・・・」

この状況ですら、私を気遣い嗚咽をこらえ謝るまどかに奥歯を噛みしめる。
また私はまどかを傷つけた。私の思慮の浅さがまた彼女を泣かせてしまった。

「そんなことない!少し考えれば気がつく可能性を見過ごした。それがどれほどあなたに痛みをもたらすかなんて、他でもない私が誰よりよく知っているのに!あなたは私を罵っていい。なぜ気づいてくれなかったのかって罵声を浴びせてくれてかまわない。なのになんで・・・なんであなたはそんなに優しいの!?」

すすり泣くまどかに堪えきれず、思わず私は叫び声をあげてしまう。
寝返りをうちまどかの身体を抱きしめる。
最初こそ堪えていたまどかだが、次第に堪えきれなくなったのか大きく叫び声をあげて涙を流すのを私はただ抱きしめる事しかできなかった。




[27716] 4話 友達が出来ました
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/13 15:22
『暁美ほむらさん。一番の診察室へお入りください。』

「失礼します。」

翌日、学校を終えた私は昨日来ることの出来なかった病院にいた。
昨日のショックのためか、学校へついて来ず落ち込んだまどかを1人部屋に残したままなのが気がかりだが、実際には魔法で完治させているとはいえ、医学上定期的な精密検査は欠かせないからだ。
アナウンスに呼ばれ診療室に入ると、私の専任医の先生と看護婦さんが唖然とした表情でこちらを眺めていた。

「えっと・・・ほむらちゃん?」
「はい。」

そういえば、この姿で診察を受けに来たのは初めてかもしれない。
以前と今の私では、イメージが全く違っているのだから、驚くのも当然かもしれない。

「そ、そう・・・イメチェンしたのね。すっごい美少女になってるからびっくりしちゃったわ。」

先生の言葉に看護婦さんも同意をしてくれる。
今の自分が美人だなどとは決して思わない。でも、周りがそう評価してくれるのは正直うれしいと思う。ずっと、まどかの友達として恥ずかしくないように。
そう心がけ、己を磨いてきたのだから。

「うんうん、私もほむらちゃんは磨けば光ると思ってたけど、ちょっとこれは予想外だったかも。なあに、学校に行った途端そんなにイメチェンして。さては好きな男の子でもできたなあ!?だめよぉ、ほむらちゃんの彼氏は私と先生が認めた子じゃないと。」

看護婦さんまで私をからかいはじめるが、美樹さやかと違ってこの2人が私をからかうのにはある程度慣れている。今度は表面だけでなく、落ち着いて対処することができた。

「残念ですけど、好きな人はいません。」
「ありゃ、そっか。残念。でも、すっごいイメチェンね。どういう心境の変化かしら?」
「友達が・・・できました。」

からかうような口調で問いかける先生にも、私は素直に答える事ができる。
この2人は入院した私に常に真摯に、優しく接してくれていた。
兄弟のいない私にとって、先生達は歳の離れた姉とはこういうものなのかなと一時期夢想したほどに。
私の答えにも、からかうような表情を変え、本当にうれしそうにほほ笑んでくれる。

「そっか。よかった。ほむらちゃん内気だから、上手くやっていけるのか心配だったの。あ、ごめんね上着まくってくれる?そうそう。あら・・・?でもまだまだ胸はあんまり成長していないみたいね。ここだけはまだまだ成長の余地ありかしら。それで、友達はどんな子なのかしら?」

それから私は先生達としばらくまどかの話や、学校の話などをし、先生はそれをカルテにまとめていく。
その後CTスキャンとMRI、心電図を取り終え再び診察室へと入ると、私の断面画像を見ながら先生達が難しい顔をしていた。

「どうかしましたか?」

私の問いに顔を向ける先生達。

「あ、ううん。確かにほとんど心臓は完治してたんだけど、ね。」
「経過が悪いのでしょうか。」

私の質問に戸惑っていた先生が、慌てて否定する。
もちろん悪化しているわけがない。先生を不条理に騙しているようでいささか罪悪感を覚えないでもないが、こればかりは仕方ない。

「違うの、完全に直ってるから驚いてるの。でもそうね。理屈なんてどうでもいいわよね。おめでとう、ほむらちゃん。もう心配ないわ。長い間本当におつかれさま。」
「・・・先生も看護婦さんも長い間、本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません。」

私は立ち上がると2人に向け、なし崩しのまま言えなかった繰り返した過去分の思いを込め深々と頭を下げた。最後は魔法の力を使ったとは言え、私を学校に通えるほどに治療してくれたのは先生達なのだから。そして下げた頭を先生が優しく撫でてくれた。

「大げさね。でも先生良いこと思いついちゃった。今度お休みの日に私の家に遊びにおいで。ほむらちゃんずっと入院生活で服とかもあんまりもっていないでしょう?全快祝いにお姉さんがなんでも好きな服を1つおごってあげる。」
「え・・・?そんな・・・でも、わるいです・・・」

だが、遠慮する私に先生は撫でるのを少しだけ荒くし、髪の毛をクシャクシャにする。

「いいのいいの。子供なんだから、あなたはもうちょっと大人に甘えなさい。」
「そうよー。ほむらちゃんせっかくきれいになったんだから、もっとおしゃれしたら、きっと学校中の男の子がほっとかないわよぉ。」

そう言ってニカっと言う表現がぴったりの笑い方をする先生と、にやにやと笑う看護婦さんに少しの戸惑いと、心からの感謝を込め、精一杯の笑顔を浮かべて返事をする。

「はい。ではお言葉に甘えさせてもらいます。本当に長い間ありがとうございました。」





診察室を後にした私は一旦病院の外へ出て、美樹さやかと志筑仁美と合流すると、上条恭介の病室へと向かっていた。
昨日話したお見舞いの話を、さっそく美樹さやかが実行したがったからだ。私としても、少しでも早く彼に接触しておくのは悪くない。雑談に相づちを打ちつつ、今後の流れを組み立てるうちに私達は彼の病室へ辿り着いた。

「恭介―。はいるよー。」
「うん。どうぞー。」

美樹さやかが声をかけると、部屋の中からまだ声変わりのしていない少年の返事があった。
返事を聞いた美樹さやかが扉を開け、中に入るとちょうど看護婦さんが定期検診を終え、退室するところだったらしい。

「あら、いらっしゃい美樹さん。今日はお友達を連れてきてくれたのね。よかったわね、上条くん。みんなかわいい子ばっかりじゃない。それじゃあ、美樹さん、後はよろしくね。」

看護婦さんはこちらに会釈をすると、カルテを持って退室していった。
改めて上条恭介を見る。
確かに美少年といって良いだろう。身長こそ少し低いがすっきりとした、柔らかい面立ちに、繊細そうな指。
だが目が気に入らない。美樹さやかが私の目を見て演技を見抜いた理由を理解した。
あの目はかつての私と同じだ。全てを諦め、絶望し、自分の運命を呪い他人を妬む。
なるほど。これは美樹さやかの手には負えない。彼女が彼のために祈り、魔女に至るのも当然だ。恐らく彼は真っ直ぐすぎる彼女をいずれ疎むようになるだろう。直接見た甲斐があった。

「突然ごめんね、恭介。恭介のお見舞いに行くならせっかくだしみんなで行こうって話になってさ。あ、この子が転入生の暁美ほむらさん。すっごい美少女でしょ!やったね、恭介、美少女3人がお見舞いなんて男冥利に尽きるじゃん!」
「初めまして。暁美ほむらです。お話は美樹さんから伺っているわ。私も入院生活が長かったから愚痴くらいなら聞けるわ。」
「初めまして、暁美さん。そう言ってもらえると助かるよ。なかなか入院中の愚痴って実際に体験した人しかわかってもらえなくて。たまにでも聞いてもらえるとうれしいな。これからよろしくね、暁美さん。それとお見舞いに来てくれてありがとう。さやか。志筑さん。」
「ええ、よろしく上条君。」
「いえいえ、お気になさらないでください。」

柔和な笑顔を浮かべてこちらに挨拶と握手を求めてくる彼に、私は握手を返す。
その間に美樹さやかが3人分の椅子を並べてくれたので、そこに腰掛ける。

「そうそう、こんなかわいい子2人もつれてきたんだからたまには私にも感謝してよね。それじゃ、仁美、暁美さん、ごめん。少し恭介の相手しててもらえる?」
「構いませんけど・・・さやかさんはどちらへ?」
「水差しのお水変えちゃおうと思って。ついでに飲み物買ってくるよ。恭介と仁美は紅茶でいいよね。暁美さんは?」
「お気になさらず。私も手伝うわ。」
「私もご一緒いたしますわ。」

美樹さやかの言葉に少々の驚きを感じつつ、私は腰を浮かせる。
だが、それを彼女は手を振って否定する。

「ああ、いいっていいって。2人ともいなくなっちゃったらお見舞いの意味ないしさ。それにほら、2人とも給湯室や自動販売機の場所わかんないでしょ?だから2人で恭介の話し相手になっててあげてよ。」
「わかったわ。では飲み物代を」
「あーもう。今日は私が2人につきあってもらってるんだから私からおごるよ。暁美さんは何がほしい?」
「そう。ではお言葉に甘えさせてもらうわ。私も2人と同じもので結構よ。」
「おっけー。それじゃちゃっちゃっと買って来ちゃうからあとよろしくね。」

そういうと彼女は退室していく。
それにしても彼女の気遣いには驚いた。
私の知る彼女は、いつも自分勝手に動き回りまどかを振り回してばかりいたが、こちらの彼女はかなり気配りが上手い。
思えば私の知る時間軸では、あれで気配り上手で家事能力も高いまどかが全てをやってしまっていたから、美樹さやかも自分勝手に動き回れたのかもしれない。そう思えば美樹さやかのまどかへの態度は仲の良さ故の甘えだったととるべきだろうか。
正直な話、こちらの世界の美樹さやかはかなり印象が良い。

「さやかさんの気配りはすごいですわね。私など見ての通り鈍くさいものですから、彼女のようにテキパキ動けるのはうらやましいですわ。」
「そうだね。さやかにはいつも本当に助けてもらってるよ。といってもこんな身体じゃ何もお礼できないんだけどね・・・」

そう言うと、表情を陰らせる上条恭介。
ああ。やはり彼は思ったとおりだ。まあいい。気持ちは理解できるが、同情はできない。

「ならそれを直接言ってあげると良いわ。どれだけ感謝しても声に出さなければ相手には届かないのだから。」

私の言葉に彼は少し驚いてこちらに目を向ける。

「そっか。そうだね。そういえば最近さやかにちゃんとお礼を言ったことはなかったかもしれない・・・ありがとう、暁美さん。今度改めてさやかにお礼を言っておくよ。」
「ええ。そうしてあげて。お節介だったらごめんなさい。」
「そうですわ。きっと美樹さんも喜びますわ。」

素直に非を認める上条恭介と、そんな彼を見て優しく微笑む志筑仁美。
2人を穏やかな空気が包んでいる気がする。
これは美樹さやかに勝ち目はもともとなかったのかもしれない。
あれだけ献身的に尽くしているというのに、つくづく対人関係は難しい。

「おっまたせー。って、何にやにやしてるの?」

胡乱げな目で私達を見ながら買ってきた飲み物を配る美樹さやか。
配り終わると、私の隣に座ると自分も飲み物を飲み始める。
少しお茶を飲むと上条恭介から質問がきた。

「そういえば暁美さんも長期入院していたっていっていたよね。どこが悪かったの?」
「心臓よ。」

簡潔に述べた私の一言に病室の空気が固まる。
私としては事実を述べただけだし、そもそももう完治しているのだからあまり気に病まれる方が困るのだけど。

「あまり気にしないで。ここに来る前に診察を受けて来たけれど、完治しているし再発の心配もまずないってお墨付きをもらったわ。」

その言葉を聞いて3人ともあからさまにほっとする。
気を取り直したのか、再び上条恭介が話しかけてくる。

「そうなんだ。でもうらやましいな・・・僕はあんまり経過が良くないらしいから・・・」

その愚痴ともつかない彼の言葉に再び沈黙が訪れる。
見通しの立たない長期入院にかなり参っているようだ。彼にはここであまり鬱になられても困る。同情した美樹さやかがキュウベえに願いを告げてしまうかもしれないからだ。
けれどこれは良い機会かもしれない。本来はもう少し先に行うつもりだったが、彼らに希望をもってもらうのは早い方が良い。

「そう。あまり自暴自棄にならないことを薦めるわ。私もかなり難しい手術だったらしいけれど、先生が海外の論文なんかも当たってみてくれて。
先生もどうせ無理をするなら、体力のある若いうちの方が良いと言っていたわ。
もし良ければあなたの症状を教えてくれるかしら。私も先生に訪ねてみるから。」

その言葉に幾分かだが表情を明るくする上条恭介。

「そうか・・・日本でだめなら海外って手もあるよね・・・うん、そうだね。お願い出来るかな暁美さん。僕もパパや先生に頼んでみるよ。」
「私も父に頼んでみますわ。何人かお医者様とのおつきあいもあるそうですし、何かお力になれるかもしれません。」

上手く乗り気になってくれた上条恭介と、それに同意する志筑仁美。
2人とも両親は資産家であり、海外への伝手も多いということは既に調べてある。
これで上手くいけば海外、悪くても国内の別の病院へという話へもっていけそうだ。
美樹さやかが少々寂しそうな顔をしているのが気になるが、こればかりは仕方がない。
その後、彼から症状を聞き出すと、再び先生の診察室を訪ねお願いをしてきた。
その際、相当参っているので、気分転換も兼ねて出来れば海外にという言葉も付け足しておく。先生と看護婦さんが私にも春が来たとにやにやしていたのが少々遺憾だったが、それも私のことをかわいがってくれているからと言うことで目をつぶることにする。
私が病院を出る頃には日も沈み始めていたが、美樹さやかと志筑仁美が外で待っていた。

「美樹さん、今日はありがとう。それと彼の件、余計なお世話だとしたらごめんなさい。」
「あ、ううん。こっちこそありがとう、暁美さん。あんなにうれしそうな恭介久しぶりに見たよ。ほんっとにありがとう。それにしても暁美さんには憧れちゃうなぁ。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、おまけに気配りまでできるってくぅー!!ねね、暁美さん。どうやったら暁美さんみたいになれるの?」
「あら、それは私も是非教えていただきたいですわ。私も見ての通りおっとりしすぎているので暁美さんのようなキビキビした方には憧れてしまいますの。」

私のことを迎えるなり、べた褒めをしてくる2人だが、正直言って人に褒められるのは苦手だ。

「それを言うなら、美樹さん。あなたが私に良くしてくれたからあなたを助けたいと思ったの。だからお礼を言う必要なんかないわ。それに・・・私のようにはならない方が良い。もう行くわ。また明日、学校で。」

そう告げると髪をかき上げ、振り返ると2人を残し足早に立ち去る。
気がつくと唇を噛みしめていた。そう、私は誰かに羨まれる資格など無い。
その羨望はまどかに向けられるべきだ。彼女がいなければずっと鈍くさいままの私だった。
そのままでいられただろう。そして私は彼女を失わずに済んだ。彼女も家族も友人も失わずに済んだのだから。
それを私以外の誰も知らないのが口惜しい。いつも思ってしまう。私が彼女の人生を奪ってしまったのだと。
そんな煩悶を抱えつつ家の前に辿り着くと、そこには巴マミがいた。

「・・・ごめんなさい、暁美さん。話があるの。」

いつもの明るさはなく、暗く戸惑った瞳で私に声をかけてくる巴マミ。
あまり楽しい話ではないのだろう。けれど、それでもありがたい。
今は何かを考えていないと、私は私を呪ってしまうだろうから。



[27716] 5話 魔法少女になるってこういう事よ
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/14 23:30
話かけてきたは良いものの、何を話したいのか彼女自身もわかっていないのか、ずっと沈黙を保ったままだった。

「少し歩きましょう。」

このままではらちが開かないと判断した私は、とりあえず場所を移すことにした。
その言葉にも彼女はひとつ頷いただけで黙って私の後をついてくる。
しばらく歩き、公園まで来ると彼女にベンチに座ることを促し、私もとなりに腰掛ける。

「それで?昨日の話の続きかしら。」
「・・・ええ。」

私のかけた言葉にようやく彼女が声を絞り出す。

「あなたは自分がゾンビとなったことが悲しいのかしら。それとも魔力を使い果たせば死んでしまうということが悔しいのかしら。それとも魔獣と戦うことが恐ろしいのかしら。」

私の問いかけに肩をびくりと振わせる。やはりそうか。確かに見た目が多少大人びていると言ったところで、所詮15歳。あなたはゾンビです。魔獣と戦わなければ死にますが、無計画な戦い方をしても死にますといわれれば恐怖を覚えるのも仕方がないだろう。
彼女のように、選択の余地も時間もない状態でキュウベえと契約しているならなおさらだ。
もっとも、以前のキュウベえを知っている私からすれば、こちらの世界のキュウベえ・・・というより魔女化のないこの契約システムは十分に良心的だと思うのだけれど。

「そんなの全部に決まってるじゃない!あなたはこんな身体にされて、わけのわからない化け物と戦わされて怖くないの!?」

抑えていた感情を爆発させ、私に向けて問い詰める巴マミ。ああ、やはり場所を移してよかった。こんな姿まどかには見せられない。

「ええ。恐怖が全くないとは言わないけれど、私は奇跡の代価としては妥当なものだと思っているわ。この身体も戦闘には便利だし、魔力が切れれば死ぬと言うのも、逆に考えれば魔力がある間は大抵のことでは死なないということよ。しかも魔力残量はソウルジェムの濁りによって一目でわかるようになっている。魔獣と戦うのはあまり歓迎できないけれど、私にとって本当の意味で問題なのはこれだけね。」

一息で話す私に唖然とする巴マミ。
私と違ってシステムを理解して間もない彼女からすればこの割り切りは理解しがたいものなのだろう。何度か口を開き、閉じを繰り返すと最後に絞り出すように言葉を紡いだ。

「私は・・・私はあなたのように割り切れない・・・」
「そう。」

うつむき、スカートを握りしめた自分の手を見つめる巴マミに私は一言そう呟くと、立ち上がった。

「なら戦わなければいい。魔獣は全て私が狩るわ。あなたの生活に困らないくらいのグリーフシードは分けてあげる。」

私の言葉に彼女は、すがりつくような瞳に涙をたたえてこちらを見上げ、再び口を開いては閉じを繰り返し、意を決したように言葉にする。

「そんな・・・後輩に命がけで戦わせて私だけ逃げ回るなんて・・・」

精一杯の強がりを言う彼女。けれど今の彼女でははっきりいって足手まといだ。
なんとか、この精神の脆ささえ克服できれば、彼女の火力と経験は頼りになるのだけれど。

「それは義務感かしら。それとも責任感?やめておきなさい。そんなもので戦えばいずれ死ぬわ。」

私の言葉に彼女の背がびくりと爆ぜる。やがて嗚咽を漏らし始める巴マミ。私は髪をかきあげ、巴マミに背を向け歩き始める。
だが、その瞬間魔獣の結界が私達を包み込む。
毎回の狙い澄ましたようなタイミングの悪さに、思わず舌打ちをする。

「巴マミ。あなたも気がついたでしょう。私の後ろに隠れていなさい。」

彼女に声をかけると、変身をし、魔獣を待ち受ける。しばらくするとまた地面から魔獣が現れてくる。今回の数は16。少々数は多いがこれくらいなら彼女を守りながらでも余裕だ。
そう思ったのもつかの間、現れた魔獣達が共食いを始める。
言葉を失う私と巴マミ。
魔獣が隣の魔獣に噛みつき、噛みつかれた魔獣が鳥肌の立つような絶叫を上げ、喰われていく。
そしてそれを喰った魔獣がさらに隣の魔獣を喰い・・・そんなことを次々と繰り返していく。
いったいこれは何・・・?前の世界では数こそどんどん増えていったが、決してこんな事はなかった。
どさっという鈍い音が聞こえ後ろを振り向くと、顔を真っ青にした巴マミが震えながらへたり込んでいた。無理もない。私でさえこの光景は怖気が止まらないのだから。

「きゃあああああああああああああああああああああああっ」

攻撃するのも忘れて立ち尽くす私だったが、突然の悲鳴で我に返る。
悲鳴のした方を見ると、美樹さやかが顔を真っ青にして立っていた。
次から次へとっ!
立て続けのトラブルに私は若干の苛立ちを感じながら、腰を抜かした巴マミの手を握り引っ張り起こすと、美樹さやかの元へ走っていく。
彼女も私達に気づいたのか、必死の形相でかけてくる。

「あ・・・暁美さん、何あれ!」
「魔獣よ。もっともあんなの初めて見たけれど。」
「なんで暁美さんそんなに落ち着いてるの!?」
「慣れよ。」

いくらかショッキングな光景なのは確かだけれど、仲間が魔女になって襲ってきたり、フレンドリーファイアで殺されかけたり、親友が世界を滅ぼしたりするような状況を経験していれば、多少は思考停止からの復帰も早くもなる。
美樹さやかと巴マミを背中にかばうと、ちょうど共喰いが終わり最後の1匹がこちらに向けて動き出すところだった。
その口元と服は血にまみれ、腹は服を突き破って明らかに身長より大きく膨らんでいる。
両手を前に突き出し、う゛ぁ“あ”あ“あ”とゾンビのような呻き声をあげ、腹を引きずりながらゆっくりとこちらに歩いてくる姿は、アスファルトで擦れて削げ落ちていく腹肉の血痕と相まって、生理的恐怖を煽るのに十分だった。

「巴マミ。美樹さん。状況が変わったわ。ヤツの動きは遅い。私が相手をするから2人で逃げて。」

私はショットガンを取り出すとコッキングをして初弾を装填し、開いた弾倉にもう1発の弾を補充すると返事も聞かずに走り出す。
幸い、魔獣の動きは鈍い。どんな能力がわからない以上速攻でカタをつける!
魔力で強化した筋力は、瞬く間に私をヤツの眼前へと運ぶ。
私が近づき捕食圏内に入った瞬間、魔獣は私に向けて異様な大きさに口を開き私に首を差し出すように噛みついてくる。
そこにカウンターを合わせるようにショットガンをたたき込むと、12ゲージの銃口から撃ち出されるバックショット弾はあっさりと頭部を粉みじんに吹き飛ばした。
反動で仰け反り、仰向けに倒れた魔銃の腹に残った2発を叩き込むと、万一に備えて距離をとり、スライドを動かし排夾を済ませると、手早く弾丸を再装填する。
銃口を向けたまま死骸を観察し続ける。腹部に散弾が作り出した巨大な穴が2つ抉れているが死体が消えないのが気にかかる。

「やったの・・・?」
「暁美さん・・・昨日は手榴弾に今日は鉄砲・・・それホンモノだよね・・・?」
「っ・・・」

後ろから聞こえた声に思わず振り返ってしまう。

「なぜ来たのっ!」

嫌な予感が消えない。突然叫び声をあげた私に戸惑う2人。
だがその瞬間、何かが引きちぎれる音がし始める。
慌てて視線を向けると、抉れた傷跡を起点にバキボキミヂブチと背筋を寒くするような音と共に少しずつ広がっていく肉の亀裂。
音がする度に死骸がビクンと痙攣する。
私は魔獣の腹部を食い破って出てきたモノを見て絶句する。

「ゲルト・・・ルート・・・」

そう。銃を叩き込むことすら忘れて呆然とする私の前で現れたのは間違いなく、薔薇の魔女ゲルトルート。
そんなはずが・・・
端から見れば一瞬の硬直だったはずだ。それでも、間違いなく一瞬私に出来た隙を突き、足下から生えてきた触手に足を絡めとられ、私は地面にたたきつけられる。

「しまっ・・・ぐっ!?」

何度も何度も執拗に地面に叩きつけられるのを、魔力強化と受け身をとって必死でダメージを最小限に抑え込む。
どれだけ叩きつけても死なない私に痺れを切らせたのか、ゲルトルートは私を逆さ宙吊りにすると、両手と両足を触手で縛り付け左右に引っ張り出す。必死で両腿を閉じるが地力の差から少しずつ足が開いていく。
じりじりと開いていく足に焦りを感じ、魔力の消耗を覚悟で黒翼の展開をしようとする。

その瞬間銃声が響いた。

銃声の先に目を向けると背中に美樹さやかをかばい、いつの間にか変身した巴マミが銃を構えていた。だが、その表情は普段の余裕を漂わせるものではなく、銃口も身体の震えに合わせて小刻みに揺れている。

「なんでっ。なんで当たらないのっ!なんでっ!!」

ヒステリーを起こしたように何度も執拗に銃を撃つ巴マミ。だがそんな精神状態で撃ったものが当たるはずもなく弾丸は虚しく空を切る。
幸い銃声に気をとられたのか、触手の力がわずかに揺るんではいるが、とても脱出できるようなものではない。とりあえずの危機は免れたがいよいよ再びの手詰まり感が襲う。
さてどうしたものか。とりあえずプランは2つほどあるけれど・・・
他に良い方法がないか思案をする私の耳に、再びあの声が飛び込んできた。

「美樹さやか。君には魔法少女の素質がある。どんな願いでも1つ叶えてあげる。君が魔法少女になれば彼女を助ける事ができるんだ。さあ、ボクと契約して魔法少女になってよ!」

先ほどまでいなかったはずのキュウベえが、いつの間にか現れて美樹さやかを勧誘していた。まずい。今彼女に魔法少女になられては困る。
あまり気は進まないけれど仕方がない。
私は覚悟を決めると戸惑う美樹さやかに声をかける。

「その必要はないわ。離れて美樹さん、巴マミ。」
「でも・・・」
「いいから離れて。」

私の少し強い口調に前回の手榴弾を思い出したのか、慌てて距離をとる美樹さやかと巴マミ。彼女達が距離をとると、再びゲルトルートがこちらを引っ張る力が強まり始める。
だが、痛みを無視して私は眼前に以前作った手製の爆弾を目の前に取り出す。空中に現れた爆弾は重力に引かれて落ちていく。私の手製爆弾は信管などがあるため上部の方がバランス的に重くなっている。そのため地面に落ちる頃にはスイッチがある上部が下を向き地面に落ちると爆弾のスイッチがはいる。それを見届けると私は奥歯をかみ砕かないよう口を半開きにすると全身の力を抜く。
そして爆発。
爆風と炎に炙られ触手が引きちぎれ身体が宙を舞う。木の葉のように土の上を転がり跳ね回り、樹に背中からぶつかって止まる。

「ぐっ・・・か・・・は・・・・ゲホッ・・・」

触手から逃がれたはいいが、内蔵を痛めたのか血を吐く。火薬の臭いとちぎれた触手から漂う植物の粘液の臭いが混ざり合いすさまじい悪臭が立ちこめえずいてしまう。だがのんびりもしてはいられない。樹に手をついて立ち上がり身体状況をチェックすると、あばらと左腕の骨が折れていた。魔力を使って傷を治し、口元の血を袖で拭うと、時計からRPG7を取り出す。
乱れた息を整え、肩に担ぎ狙いを定めると一息にトリガーを引く。
HEAT弾が煙の尾を引き命中すると植物ベースの魔女であるゲルトルートを燃やし尽くす。

今度こそ消滅し、結界が解除されたのを確認すると変身を解除し、グリーフシードを探す。
グリーフシードは確かにゲルトルートのいた辺りの下に落ちていた。だが、その形は以前の魔女の流線型を主体とした物とも魔獣の直線を主体とした物とも違っている。
とりあえず考察は後回しにし、私は回収を済ませると美樹さやか達の方に視線を移す。

「美樹さん覚えておきなさい。魔法少女になるってこういうことよ。」

思わぬ苦戦をしてしまったけれど、逆に彼女に恐怖を植え付けるには都合が良いだろう。

「昨日も言ったけれど、キュウベえの言うことは必ず裏を読みなさい。ソレは敵でも味方でもない。悪意も善意もありはしない。だから嘘もつかないけれど真実全てを語らない。
それを理解した上でなら、ソイツとも上手く付き合えるでしょうけれど。」
「嫌われたものだね。仕方ない。今日のところは退散させてもらうよ。でも、美樹さやか。
君の力があればどんな病気も怪我もたちどころに直すことが出来る。誰かを助けたいと思ったならいつでもボクを呼んでおくれ。」

その言葉に美樹さやかの表情が揺れる。さすがに上手い。ここで願いの誘導を持ち出してきたか・・・言いたいことを告げ後ろを振り返ることなく消えてゆくキュウベえを見送り、巴マミに視線を移すと彼女は変身も解かずにへたり込み呆然としていた。

「巴マミ。あなたもこれでわかったでしょう。半端な覚悟で戦えばはっきりいって足手まといになるわ。」

私の言葉に彼女は憎しみすら込めたような目で私を見上げて、叫んだ。

「こんなのってあんまりじゃない!?どうして!私が何をしたっていうのよ!?死にたくないって願っただけじゃない!!なのになんでこんな・・・こんな・・・無理よ・・・私はあなたみたいに強くなれない。」
「別に私は強くなんてないわ。ただ私の目的のためには私は戦い続けるしかないというだけよ。」
「・・・何よ目的って。自分の命よりその目的の方が大事だっていうの?」

最初の勢いは失せ、変身を解き肩を落とす巴マミの問いに答えるかを私は少し考える。
美樹さやかも興味があるようでこちらをじっと見ている。私の立場をはっきりさせておくためにもここは話してしまった方がいいかもしれない。

「そうね。巴マミ、美樹さん、2人とも時間はあるかしら。もし良ければ今日は私の家に泊まっていって。私の過去と目的を聞いてもらいたいから。」

戸惑いながらも頷いてくれた2人を連れ、私は再びまどかの待つ私の家へと歩き出す。
出来れば事情を知ったこの2人が、このまままどかと友達になってくれればいいのだけど。
そんな小さな期待を抱きながら。



本日のほむほむ収支報告書

M870 バックショット弾 ×3
ほむボム ×1
RPG-7(HEAT弾) ×1




[27716] 6話 こんなの絶対おかしいよ
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/16 21:14
2人を連れ私の家に入ってもらうと、出迎えてくれたまどかに2人の対応を任せ、ちぎれた触手から出た樹液でべたべたになった身体をシャワーで洗い流す。
お風呂場から出ると、ちょうど美樹さやかが、親に電話を入れているところだった。

「うん。ごめん、転校生の子がさ。帰りに暴漢に襲われかけちゃって・・・うん。たまたま近くにいた人が助けてくれたから大丈夫。ただ、1人暮らしで参っちゃってるから私も一緒にいようと思うの。うん・・・・うん・・・ちょっと待ってね、変わる。暁美さん、お父さんが変わってって。」
『はじめまして、娘がお世話になっております。美樹です。暴漢に襲われたっていう話だけど本当に大丈夫なのかい?』
「はじめまして、暁美ほむらです。おかげさまで通りがかった方が助けてくださって。
ただ1人暮らしだと少し怖いので、よろしければ美樹さんに一緒にいただけると、心強いのですが・・・美樹さんには学校でも本当にお世話になっているので甘えるばかりで心苦しいのですけど。」
『もしよかったら僕たちの家に来てもいいんだよ?』
「いえ、そうさせていただければありがたいのですけど、心臓病が治って間もないので医師から部屋の間取りのわからないところに泊まるなと言われているんです。万一発作があったときに危険なので。」
『そうか・・・そういう理由なら仕方ないね・・・わかった。くれぐれも戸締まりを気をつけるんだよ。悪いけどさやかと変わってもらえるかな?』
「はい。」

言われて美樹さやかに電話を返すと、父親から気をつけるんだ等の言葉が漏れ出てくる。
暖かい両親がいることを少し羨ましく思っていると、暖かいお茶を淹れたまどかがお茶を運んできた。

「ありがと。」
「ありがとう。」

通話を終え、お茶のお礼を言う美樹さやかと、消沈した声でお礼を言う巴マミにとりあえず、お茶を飲むことをすすめる。

「良いお父さんね。」
「まあね。どこにでもいる感じだけど、私もお母さんも大切にしてくれてる感じがするのはすごくうれしいかな。正直この歳になるとちょっと恥ずかしいんだけどね。」

そういって苦笑する美樹さやか。もっともその話を聞いてますますまどかと巴マミが暗く落ち込んでしまったのは失敗だった。2人の前では両親の話は禁句にした方がいいでしょうね。

「そう、大切にしてあげて。冷めないうちにいただきましょう。暖かい物を飲むと落ち着くわ。」

私の声に同意したのか2人ともゆっくりとお茶に口をつける。以前まどかが淹れてくれたものより少し甘めのミルクティー。元気がないのを見越して砂糖を多めに入れたのだろう。
この辺りはかつての巴マミの訓示のたまものだ。

『美味しい・・・』

2人が同時に呟いたのを見て少しだけまどかがうれしそうに微笑むのを横目に見ながら私は話を切り出すことにした。

「それじゃあ本題に入らせてもらうわ。まず私の目的は単純よ。まどかを人間に戻してみせる。それだけよ。」

私の宣言ともとれる告白に2人は揃ってまどかの方に視線を向けた。まどかが魔法少女のなれの果てだという話は以前してあるから、2人ともそこまで意外だという顔はしていない。
とりあえず、お茶の効果か2人ともある程度の落ち着きを取り戻してくれたらしい。
そのことにとりあえずの安堵を抱く。

「なぜ暁美さんは命をかけてまでその子を人間に戻そうとするの・・・?」 
「それは彼女が私の命の恩人で、たった1人の親友だからよ。」

巴マミの言葉にもかなり落ち着きがでている。その疑問に対して私は嘘偽りない言葉を返し、そのまま続ける。

「もともと病弱だった私には学校に通う機会がなかなかなかった。それでも調子の良い日に何度か通っていたんだけれど、友達はいなかったわ。当時は今よりもっと根暗でおどおどしていたし、通学するのもあまり多くなかったから仕方がないけれど。これがその頃の私の写真よ。」

そう説明すると、私は転校する以前にとった証明写真を2人のテーブルの前に提示する。
はっきり言って、我ながらこの差はすごいと思う。その写真を見て案の定2人だけでなくまどかまで私と写真を見比べ感想を言う。

「これ・・・ほんとに暁美さん?劇的ビフォーアフターってレベルじゃないんだけど・・・」
「これお化粧とかしてないのよね・・・イメチェンにしても変わりすぎじゃない・・・」
「あ、なつかしー。この頃のほむらちゃん可愛かったよね。ちょっと小動物ちっくでずっと私の後ろついてきてくれて。」

おおむね予想通りの反応だけれど、1人だけ聞き捨てならない言葉を言っている子がいる。

「まどか。それは今の私が可愛くないってことかしら?」
「あ・・・違うよ!今のほむらちゃんもかわいい・・・よ?」
「なんでそこで疑問系なのよ・・・」

まどかが一緒にいて恥ずかしくないように一生懸命イメチェンしたのに、肝心のまどかに認めてもらえずに少々口を尖らせてみる。

「いや、でも今の暁美さんってなんていうか鉄血の美少女って感じ?ほらスタイリッシュ○○!みたいな?」

14歳の女の子の修飾語に鉄血はないでしょう。

「そうね。クールビューティーって感じでうらやましいわ。」
「そうそう!今のほむらちゃんてなんていうか可愛いって言うよりキレイ!って感じなの!動きもなんかテキパキしててカッコイイし!!」
「お、わかってるじゃん、鹿目さん。そうそうまさにそれ!可愛いじゃなくキレイだよね!うん。」
「年下なのに私よりよっぽど年上っぽいわよね・・・いつも落ち着いて・・・」

女3人よれば姦しいというけれど、私の写真を肴にどんどんと話が膨れあがっていく。
いつのまにか、まどかが輪に加わってわいわいと騒いでいるのを見るのは予想外だけどうれしい誤算。美樹さやかが切り出したことで、まどかも巴マミも自分の事を名前で呼び合うようになってくれた。かつて夢見た光景に私は少し胸が痛くなる。

「話を戻すわ。外見通りの性格だった私だから、当然みんなの輪に入っていくことなんてできなくて。遠足や修学旅行でも心臓にストレスをかけるようなことは出来ないから不参加。そうしてたまっていった健康な人達への妬みや自己嫌悪に釣られたのかはわからないけれど、帰宅途中に魔獣に襲われたの。それを助けてくれたのが当時同じクラスだったまどかよ。」

途端に重くなった話に、明るくなっていた雰囲気が一気に沈む。この辺りは時系列こそ少々ごまかしてあるが、おおむね本当の話だ。もっともここから先は魔女について話すわけにはいかないのでいろいろとごまかすことが出てくるけれど。

「既に魔法少女だった彼女が私を魔獣から助けてくれて、それから私のことをクラスでも気にかけてくれてね。見ての通り明るい性格だった彼女は友人も多かったから、彼女を起点に私も友達の輪に入っていくことが出来たの。私にイメージチェンジを勧めてくれたのも彼女よ。」
「褒めすぎだよ、ほむらちゃん・・・」

照れるまどかだけど、これも魔女が魔獣に置き換わっている意外は事実。文字通りまどかは私の世界を変えてくれたのだから。

「誇張じゃないわ。文字通り私の世界観を変えてくれたのがまどかよ。それからも何回か魔獣に襲われた私を守ってくれて。けれど、戦う度に増えていく魔獣に力を使い果たしてしまった。だから今度は私がまどかを救い出したい。私の戦う理由はそれだけよ。」

とりあえず、中身は一気に端折ったが全ての説明を終える。2人の反応を見ると美樹さやかは少し目を潤ませて。巴マミは私を羨むような目で見ていた。

「じゃあ、ほむらちゃんが魔法少女になったのはまどかちゃんを生き返らせたいって願ったから?」
「半分正解よ。彼女を生き返らせるには私の素質じゃ足りなかった。だから私の願いは概念化しかけた彼女を意識体として存在し続けるようにということよ。」
「それは幽霊みたいなものってことかしら?」
「そうね。その認識で間違ってはいないわ。元々幽霊というのも魔力資質が高い人間がキュウベえや魔獣のような存在を見て都市伝説のようになっていった可能性は高いもの。」
「あ、たしかにそれなら見える人と見えない人がいるって理屈も通るかも・・・」

そこまでいって考え込む美樹さやか。やはり彼女も頭の回転は悪くない。1度の説明である程度話が進んでくれるのはとてもありがたい。

「つまり、ほむらちゃんはまどかちゃんに幽霊としてでも一緒にいてほしいと願って魔法少女になったってことよね?」
「魔法少女っていうより武装少女って感じだけどねー」

茶化す美樹さやかに冷たい目を向け、巴マミの質問に答える。

「それであっているわ。私の魔法は燃費が良くないからどうしてもこういう武器に頼るしかないのよ。」

そう言って変身すると、私は2人に手の甲を見せる。そこには濁ったソウルジェムが張り付いている。

「これが濁りきれば私達は力を使い果たして死ぬことになる。まどかのように意識体としてでも残ることはほぼ無いと思って良いわ。そしてグリーフシードはこの濁りを浄化してくれるけれど、一定量の穢れを吸収させると再び魔獣となる。そうならないようキュウベえが穢れをため込んだグリーフシードを処理する。それはキュウベえから聞いているわね?」

私の問いに幾分顔を青ざめさせながらも頷く巴マミ。それを確認すると私はグリーフシードを1つ取り出しソウルジェムに当て浄化を始める。

「キュウベえは私達が願いを叶える際の絶望から希望への相転移と、グリーフシードにため込まれた人間の負の感情を求めているの。インキュベーターとは良く言ったものね。少女という卵に餌を与え、感情という雛を生み、それを収穫するシステム。それが魔法少女の孵化装置たるキュウベえの役割よ。」

そこまで話すとグリーフシードがドクンと脈打つ。私はそれを部屋の隅に投げ捨てると時計から銃とサイレンサーを取り出す。
その瞬間グリーフシードが割れ、中から魔獣が生まれる。

「暁美さん、なにを!」

私に向かって批難の声をあげる巴マミを無視して、私は座ったまま魔獣の額に9mmパラベラムの弾丸を3発ほど叩き込むと魔獣は再びグリーフシードにもどっていった。
それをつまみ上げると、再びソウルジェムに当て浄化を始める。ぽかんと口を開けて私の顔を見ている巴マミに向けて、もうひとつのグリーフシードを投げ渡す。彼女は慌ててそれを受け取ると、複雑そうな面持ちで佇んだ。

「キュウベえに頼りたくなければこうすればいいわ。複数のソウルジェムでやってもいいけれど、殲滅の手間が増えるからあまりおすすめはしない。それから何回か繰り返すとグリーフシードが消滅するから気をつけなさい。」
「・・・・・・・・・・」
「ほむらちゃん・・・グリーフシードは電池じゃない・・・こんなの絶対おかしいよ・・・」

なぜか巴マミだけでなく、まどかまでげんなりしていたけれど。これなら変身と銃の召喚だけで魔力消費も済むし、実用的で良いと思うのだけど・・・

「これで、とりあえず私からの話は終わりよ。質問がなければ、私はまどかと食事の支度をしておくから、2人ともお風呂に入ってきて。」

2人とも質問はなかったようで素直に案内したお風呂場に入っていった。その間に私はまどかと一緒に料理の準備を始める。エプロンをつけ、長い髪をまどかにもらったリボンを使い、うなじの辺りで1つにまとめる。料理の準備をうれしそうに始めるまどかを見て、やはり今日2人に来てもらったのは正解だったと確信した。

「うれしそうね、まどか。」
「うん!パジャマパーティーなんて久しぶりだもん!ありがとほむらちゃん。2人でとびきり美味しいご飯作ろうね!」

そう満面の笑みで語るまどかを見て思わず私も口元を緩める。そういえば、私もパジャマパーティーは初めてだ。料理の準備をしながら軽やかに動き回るまどかに釣られて、私も気がついたら鼻唄を口ずさんでいた。





ちょうど料理が出来た頃、ガチャリと音がしてお風呂場のドアが開き美樹さやかが出てきた。

「けしからんけしからんけしからんけしからんけしからん・・・」

目をうつろにして両手を開いては握りを繰り返す奇行をしながら。
その後ろから巴マミが頬を赤く染め、顔だけを出してこちらに話しかけてきた。

「あの・・・暁美さん。申し訳ないのだけれどもう少し大きい服はないかしら・・・」

その言葉を聞いて理解する。その間に背後に回った美樹さやかが、後ろから巴マミを押しだし、巴マミの全身があらわになった。

「ちょっとマミ先輩!?そんなご立派なモノつけて女の子同士で恥ずかしがられても格差社会を見せつけられて落ち込むだけです!もっと堂々としてください!」
「・・・すご・・・」

まどかと美樹さやかに凝視されてますます赤くなる巴マミだが、風呂上がりの彼女はとてもではないが中学生には見えなかった。服と下着を洗濯乾燥機で乾かしている間、パジャマ代わりにと着てもらった私のシャツだが、はっきりいって全くサイズがあっていない。ボタンを留めるときついのだろうが、上3つを外してなおハミ出そうなボリュームは、スレンダーと言わざるおえない私のシャツでは収まりきらないだろう。

「それが一番大きなシャツよ。もっと小さなまどかのシャツならあるけれど。」
「いや、ほむらちゃん、それ犯罪だから。後ろまで丸見えになっちゃうから。」
「どうせ私お子様体型だもん・・・ママも小さかったから育たないもん・・・」
「でもさ、まどかちゃんの方が胸はほむらちゃんより大きいんじゃ・・・」
「戦闘の邪魔だからあまり揺れるのはごめんよ。」

美樹さんの相変わらずの抉り込むような一言に強がりを返すが、同じ女性としていささか敗北感を感じるのは仕方ないだろう。そういえば、まどかの母もあまり大きいとは言えない人だったから、私もまどかも将来の望みは薄そうだ。そう思うと、ますます真っ赤になって小さくなっていく巴マミにも、少しばかり恥ずかしい思いをしてもらっても良いかもしれないなどと考えてもバチは当たらないでしょう。

「馬鹿な話はこの辺りにしておいて、冷めてしまう前に料理を食べましょう。」

全員が私の言葉に同意し席に着く。

「これ2人で作ったのよね?」
「ええ。私がオムレツとヴィシソワーズスープ。まどかがサラダとパエリアよ。」
「このオムレツすごい美味しい!なんかこつあるの?」
「強火でフライパンをまず熱して、卵を多めにして中に生クリームか牛乳を入れるの。そうするとふわっとした感じがでるわ。」
「このサラダのドレッシング美味しいわね。どこで売ってるのかしら。」
「それ、私が今日作ったんです。今度レシピ書きます?」

女子ばかりといえ、軽めに作っておいたため、あっという間に食事も終わる。
その後は雑談をしつつ、カタンやスピード等でしばらく遊ぶと私達は眠ることにした。
私以外の3人にベッドを使わせ、私は日課のトレーニングと先ほど使った銃の手入れを済ませ、リビングのソファーで1人灯りを消しコーヒーを飲んでいた。目の前には昼間のゲルトルートが落としたグリーフシード。ちょうど魔女のグリーフシードが魔獣のグリーフシードに取り込まれたようなデザインをしている。しばらく考察をしてみるが、いかんせん情報が少なすぎて仮説すら立てられない。私は1つため息をつくとグリーフシードをしまい、横になってブランケットをかける。
いろいろあったけど、今日良かった事。まどかに友達が出来た。それだけで全ての苦労が報われる。あんなに楽しそうに笑うあの子は久しぶりに見たのだから。
まどかの笑顔を思い出し、私は1つクスリと笑うと眠りに落ちていった。


本日のほむほむ収支報告書

9mmパラベラム弾 ×3
まどかの満面の笑顔 プライスレス



[27716] 7話 さやかちゃんって良い子でしょ?
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/16 21:14
早めに起きた私達はいったん2人共帰宅し、着替えをした後でクラスの同じ私とまどかは、美樹さんで合流して学校へ向かっていた。
ちなみに、昨日なぜあんな所にいたか来る途中で聞いた話によると、あの後改めて上条恭介の件でどうしても礼を言いたくて私の家に向かっていたらしい。
こちらの世界で感じたことだけれど、彼女の場合、上条恭介意外の人間には深入りしてこないため適度な距離で接しやすい。これからどうなるかはわからないが、今の彼女となら上手くやっていけるかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、目の前を歩く志筑仁美を見つけ隣を歩いていた美樹さんが走り出す。

「仁美~!おっはよー。」
「あら、おはようございます。さやかさん。暁美さん。今日は仲良くご一緒にご登校ですのね。ずいぶん仲良くなられたようでうらやましいですわ。」

その声に気づき、彼女がこちらを振り返り、独特のテンポで挨拶を返してくる。だが、その中にはやはりまどかの名前はなかった。

『まどか・・・』
『大丈夫だよ。私は平気。』

まどかを気遣う私と美樹さんだが、念話で強がるまどかからの返事が返ってくる。安い同情だと自覚しているけれど、私にはまだ何もすることはできない。

「あ、そうそう!」

暗い雰囲気を感じたのか美樹さんが途端に声を張り上げて手を叩いた。

「今朝家に帰ったらね。さっそく恭介のパパから電話があったんだって!先進医療でね。海外の病院なんだけど再生神経を使った治療実績が結構あるみたい。もしかしたらヴァイオリンも弾けるようになるかも知れないってさ!ほんと、ほむらちゃんのおかげだよ、ありがとう!!」

その言葉にいささか驚く。まさか昨日の今日で病院を見つけてくるとは思わなかった。それだけ必死に探したのでしょうけれど。ここまで話がうまく進むと、後で落とし穴がありそうで少々怖くなる。もっともこの手の大手術はまず検査入院をし、その後ようやく本手術となるのが通常の流れなだけに今すぐどうこうという話にはならないだろう。ともあれ、明るい話には違いない。彼女にとっても私にとっても。

「そう。私は何もしていないけれど、まずはおめでとう美樹さん。」
「ええ。おめでとうございます。さやかさんも。ところで、先ほどさやかさんが暁美さんを名前で呼んでいらしましたが、お2人はたった1日でそこまで仲がよろしくなられましたの?」
「ありがとう、2人とも。んっふっふ。良いところに気がついたね仁美くん。そうなのだよ、私達は昨日一緒にベッドを共にした仲なのだ!」
「まあ!お2人はもうそんな関係に・・・私の大事なさやかさんを暁美さんにとられてしまいましたのねえぇぇぇぇ。」

いつだったか読んだ少女漫画のような叫びと表情をすると走り去っていく志筑仁美。
それを苦笑で見送るまどかと美樹さん。

「彼女いつもああなのかしら。」
「あー・・・うん。美人なんだけどちょっと変わってるの。でもそっか・・・まどかちゃんはほんとに普通の人達には見えないんだ・・・」

苦笑から表情を暗くし、まどかを見る美樹さん。それに苦笑しながら答えるまどか。

「仕方ないよ。もともと私はこうしていられるの自体が幸運なくらいだから。それにほむらちゃんが生き返らせてくれるって信じてるもん。」

そう言って私を見るまどかに思わず抱きつきたくなるのを必死で我慢する。もっとも、すぐに美樹さんが彼女に抱きついていたのだけれど。

「あーもう!まどかちゃんもほむらちゃんも良い子すぎ!健気っ子さんか、くうううう!!」
「わ、ちょっとさやかちゃん。くすぐったいよぉ!」

そう言ってまどかに抱きつき頬ずりを始める彼女。まどかも本当にうれしそうな顔をして笑っている。満足した美樹さんが離れ、3人で歩き出すと美樹さんがふと思い出したように問いかけてきた。

「そういえばさ、まどかちゃんが普通の人に見えないってことはさっきみたいに抱きついたりしてると他の人達からはどう見えるの?」
「美樹さんがひとりで空気に抱きついて、頬ずりしてるように見えるだけよ。」

だから私は我慢したのよ。フリーズして立ち止まる彼女を尻目に、私は苦笑を浮かべるまどかと共に教室へ歩く。

『ね?さやかちゃんって良い子でしょ?』

念話でちょっと誇らしげに語りかけてくるまどかに私は少し考えた後、頷きを帰す。たしかに良い子だと思う。私にはまどかと共に耐えることや励ますことは出来ても、元気づけたり和ませたりする事はできない。それを少々羨ましく思いながらも、先ほどの彼女の表情をなくしてフリーズする顔を思い出してクスリと笑い教室へと入っていった。




チャイムと共に今日も授業が終わる。既に中学生の授業で教わる範囲は全て習得している私にとっては、授業中はまどかに手伝ってもらってのイメージトレーニングと将来の予習が主となっている。

「ほむらちゃーん。」

私が教科書とノートを片づけていると、横から美樹さんが声をかけてきた。私は教科書とノートを鞄にしまうと彼女に目を向ける。

「なにかしら。」
「あのね。さっそくだけどもし今日時間あったらまた恭介の見舞いについてきてくれないかなーって。ほら、今朝の件でアイツとアイツのお父さんも是非お礼を言いたいって言ってるからさ。」

なるほど。つくづく彼女は義理堅い。私がしたことなど思考の誘導でしかなく、それを実現したのは結局の所、彼の父親だというのに。けれど、今日は都合が悪い。

「ごめんなさい。今日は先生に進路のことで呼び出しを受けているの。どのくらい時間がかかるかわからないから、改めてでいいかしら。」
「あー・・そっかぁ。それは仕方ないや。じゃあ、また改めて誘うね-。」

そう言うと彼女はその勢いのまま志筑仁美の元へ走っていく。あれで運動部でないというのは学校からしたらつくづくもったいないと思う。もっとも、学校にとっての損益など私にとっては関係がないのだけれど。

『そういえば、ほむらちゃんは将来何になりたいとかあるの?』

問いかけてくるまどかの言葉に少し考える。そういえば今まで将来のことなど考えた事がなかった。

『特にないわ。』
『えはは・・・。ほむらちゃんなら何にでもなれると思うけどな。そうだ!とりあえずお嫁さんとかどうかな?きっとすっっっっっっっっごいきれいなお嫁さんになれるよ!』
『考えておくわ。』

とりあえず教師には今までの技能を活かして、医師か自衛隊員と答えるつもりだったのだけど、まどかに答える以上もう少し真面目に考える必要があるかもしれない。

「失礼します。」

進路指導室に入り、生徒指導の教師としばらくの間話し込む。質疑応答に答えていくと教師からは是非良い高校へ、良い大学へ、良い職業へ。この教師からは私の将来を期待してというより、利用できるものを有効利用しようという考えなのが端々から感じられてしまう。もっとも人の善意につけ込んで、美樹さんを利用しようとしている私にそれを批難する資格はないか。
そろそろ恒例となってきた自己嫌悪に耐えつつ、教師の話をそつなく受け答える。
教師から見たら典型的な優等生に見えるのだろう、最後には満面の笑みを浮かべて私の両肩を叩いてきた。

一礼し退室した私は、鞄から携帯を取り出し着信履歴を確認すると美樹さんからの着信履歴がいくつもあった。不信に思いつつも電話をかけ直す。数回のコールを待つと彼女が出てきた。

「もしもし。暁美です。どうか」
[もしもし!?ほむらちゃんごめん、病院に魔獣が現れてるの!今、ちょうど近くにいたマミ先輩が戦ってくれてるんだけど・・・]
「すぐ行くわ。待っていて。」

私は電話を切ると、認識阻害と肉体強化の魔法を展開し、まどかと目を合わせ頷き合うと全速力で走り出した。


無事でいなさい。美樹さん。








[27716] 8話 貴女って鋭いわ
Name: ごま麩◆9f784092 ID:4bd612d3
Date: 2011/05/17 22:56
病院に辿り着くと、そこは既に大規模な結界が出来ていた。しかも入り口には見覚えのあるマーク。

「これって・・・あの時の・・・確か・・・シャルロッテ?」

そのマークを見たまどかが呟く。
彼女にとっては特に印象深いマークだから尚更だろう。
なぜ魔獣が魔女化するかの原因は相変わらずわからないままだ。
昨日家で意図的に孵化させたグリーフシードは普通の魔獣だった。
わからないことだらけだが、とりあえずの救いは魔女化した魔獣は前々回の時間軸とほぼ同程度の力であって、冷静に対処すればそこまでの驚異ではないということか。

私は狭い通路での戦闘を考慮し左手から、サブマシンガンを取り出すと結界の中へと足を踏み入れる。予想通り、中は狭い通路の中のところどころにお菓子がちりばめられ、私にとってなじみ深かった病院の案内灯やベッドが並んでいる。
やはりこれはシャルロッテの結界空間と同じ物。
注意深く観察しながら進んでいくと、使い魔の代わりに通常の魔獣が現れる。
私は3点バーストと手榴弾で丁寧に魔獣を片付けつつ、通路にある文字を解読していく。
デリシャスシャルロッテや手術中などといった文字に混じって、MAMI MOGUMOGU GONYOやWATASHI HA HOMU HOMU HA DESUといった文字が書いてある。結界内に入った魔法少女を自動認識している?しかし意味がわからない。
尽きない疑念を脇に置き、辺りに気を配りながら、駆け足で奥へ進むと脳裏に巴マミからの念話が届く。

『いや・・・いや・・・!当たって・・・消えて・・・いやああああああ!!ティロ・フィナーレ!!ティロ・フィナーレ!!ティロ・フィナーレ!!なんで・・・なんで倒せないのよおおおおおおおお』

どうやら完全に恐慌状態におちいっているようで魔力の消費も考えずに、絶叫しながら大技を繰り返している。生き永らえているだけでも、前々回よりはマシだが、この分では早晩に魔力が尽きる。じりじりとした焦りを抱えながら、私は奥を目指した。

『マミさん避けてえええええ!!』
「くっ・・・」

間に合わない?
まずい、今巴マミに死なれては美樹さんがキュウベえと契約しかねない。
私は魔力消費を覚悟で左袖の時計を発動させ、先を急ぐ。
ホールに辿り着き扉を開けると、表情を凍らせた巴マミの目の前に1本の槍によって口を串打ちされた捕食体が地面に縫い付けられていた。
その槍の持ち主は当然、佐倉杏子だ。
私は後ろについてきたまどかと視線を合わせ頷き合うと、時間操作を解除する。

「おいおいおい。なんだよそのザマは。キュウベえのヤツからお前が使い物にならなくなるかもしれないって聞いて来てみりゃ、随分とふぬけてやがるじゃねえかよ、おい。」

呆然として巴マミも、佐倉杏子のいきなりの罵声に正気を取り戻したのか、やけくそ気味に叫び返す。

「な・・・あなたこそなんでこんなところに・・・!この町は私の」
「ハッ。私のなんだって?今だってあたしが助けなきゃお前死んでただろうが。一丁前に吠えるなら、まずそのビビッて笑ってる膝隠してから吠えな!」

佐倉杏子の立て続けの罵声に唇を噛みしめて耐える巴マミ。
それを見て美樹さんが横から声を上げる。

「ちょっとあんたこそなんなのよ!マミさんを助けてくれたのはありがたいけど、命がけで戦ってる人にそこまで言う必要ないんじゃない!?」
「はぁ?何だぁてめえ。ただの人間がこんなとこうろついてんじゃねえよ、さっさと消えちまいな。」
「なっ・・・!!」
「ならただの人間でなければここにいても良いのかしら。」

これほど早く佐倉杏子が干渉してくるのは予想外だったが、巴マミが実際に使い物にならなくなる可能性がある以上、ここで彼女と接触しておくのは悪くない。
キュウベえも自分の手駒がいなくなっては困ると言うことか。

「次から次へと・・・アンタ達がキュウベえの言ってたイレギュラーって奴かい?」
「ええ。アイツらからしたら私とまどかはイレギュラーでしょうね。もっとも、私の話を聞いた後あなたがどちらにつくかはわからないけれど。」

私の思わせぶりな言葉に彼女は興味を惹かれたのかこちらに視線を預けてくる。
頭を槍で串刺しにされピチピチと暴れる捕食体から飛び降りると、彼女は手近な結界内のドーナツの上に腰を下ろすと、そのまま辺りにあるお菓子を手当たり次第食べ始める。

「ふぅーん?良いぜ、聞いてやるよ。話してみな。」
「ほむらちゃん、そんな奴に話すことなんかないよ!」
「あーうぜぇ。ったくせっかく人が助けてやったってのに、マミといいお前といい礼儀ってのを教わらなかったのかい?」
「言わせておけば・・・あなたなんかにそこまで言われる筋合いはないわよ!」

挑発に乗り銃口を佐倉杏子に向ける巴マミ。
だが、さすがに場数と覚悟が違う佐倉杏子はその程度では怯まない。

「おいおい。得物のまずい側がこっち向いてやがるんだけどさぁ・・・良いぜ。そっちがその気なら遊んでやるからかかってきなよ。」

ドーナツに腰掛けたまま、砂糖のついた指をみてそのまま舐め始める彼女。
巴マミを見ようともしない彼女の態度に、ついに巴マミが暴発する。

「馬鹿にしてっ!あなたもっ!暁美さんもっ!私がどれだけ1人でがんばってきたのか知らないくせに・・・っ!」

逆上し、引き金を引く彼女。
それを座ったまま後ろに倒れ込み銃弾を避けると、その勢いを殺さず地面で一回転して起き上がり佐倉杏子は好戦的な笑みを浮かべた。

「ハッ!それこそ八つ当たりだね、みっともない。お悩み相談する相手もいないボっちが寂しいってわめいたって誰も相手にしてくれるわけないじゃん。そんなこともわかんないから、ほんとのお友達がいないんじゃないのぉ?」
「うるさい・・・うるさい、うるさいっ。うるさいっ!!」

手を広げて大仰な仕草で肩をすくめる佐倉杏子に向かって、銃を乱射する巴マミ。
だが、佐倉杏子は銃口の向きを観察し、最小限の動きで避け巴マミの方へ歩いていく。

「ほむらちゃん、2人を止めて!」
「それよりあの杏子ってヤツをやっつけてよ!ほむらちゃんならあんなヤツすぐにやっつけられるんでしょ!?」
「その必要はないわ。」
「「ほむらちゃん!!」」

それぞれの意見を言う2人を無視し私は不干渉の姿勢をとる。それが気に入らないのだろう2人が私につっかかってくるが、私はこのケンカに関わる気はない。

「彼女はあれで遊んでいるわけではないわ。きちんとした考えに基づいて動いている。それに彼女は巴マミを殺す気はないわ。」
「なんでそんなことわかるのさ!」
「武器を使う気がないからよ。巴マミを殺す気ならそれこそ、魔女を縫い止めてる槍を抜いてやるだけでいい。彼女の力量ならあの程度の魔女驚異ではないわ。今の巴マミなら魔女と2人まとめて相手しても余裕でしょうね。」
「でも・・・」
「もうひとつの理由は、彼女の思考が私に似ているから。巴マミに己の無力を自覚させ魔法少女を辞めさせる。私が何度言っても伝わらなかった以上、いずれ私も同じ手段をとるつもりだったわ。」
「くっ・・・!!」

頬に衝撃が走った。
美樹さんが私に平手打ちをしたためだ。

「気は済んだかしら。」
「なんで・・・ほむらちゃんだってマミさんのことあれだけ気にかけてたじゃない!なのになんでそんな風に簡単に見捨てられるの!もう良い!ほむらちゃんには頼らない、私が2人を止めてくる!」
「さやかちゃん、だめっ!」
「離してまどかちゃん!私が止めないとマミさんが!!」

戦う2人の元へ駆けていこうとする美樹さんにまどかが抱きついて動きを止める。

「さやかちゃんだめ!ただの人間が割り込んでいっても流れ玉で死んじゃうよ!」
「でも!!」
「巴マミに勝利を。それが君のねが・・・」

予想通り、どこからともなく現れて美樹さんを勧誘しようとするキュウベえに弾丸を叩き込んで黙らせる。

「やらせないわ。インキュベーター。あなたは黙って見ていなさい。」
「ほむらちゃん・・・!あんたはあああああああああ!!」
「落ち着きなさい、美樹さん。あなたが感情的になって契約すればキュウベえの思うつぼよ。」
「あんただってそいつらと一緒でしょう!結局あんたはまどかちゃんしか見ていない!まどかちゃんが助けられれば他の子がどうなったって構わないんでしょう!!」

美樹さんの放ったその言葉は、予想外の衝撃となって深く私の胸を穿った。
いずればれるとは思っていた。
でもまだ気づかれていないと思っていた。
上手くやれていると思った。
もしかしたら彼女とも友達になれるかもしれないと思った。
でもそれはやっぱり間違い。
人間であることを辞めてしまった私に、まどか以外の友達を望むなんて間違いだった。
・・・それでも、私は立ち止まるわけにはいかない。私が立ち止まる時はまどかが人間に戻ったときだけだ。

「・・・やっぱり貴女って鋭いわ。」
「ほむらちゃん・・・なんで・・・嘘だよ・・・朝だってさやかちゃんの事良い子だって・・・」

自嘲するようにつぶやいた私を、まどかが涙を浮かべながら否定する。

「良いのよまどか。彼女の言うことも事実よ。私にとって誰より大事なのがあなたなのは間違いない。」
「そんな・・・やだよ・・・せっかくみんなが仲良くなってきたと思ったのに・・・こんなのやだぁ・・・やだよぉ・・・」
「なんで・・・なんで否定しないのよ・・・なんで否定してくれないのよ!私あんたの事友達だって思ってたのに・・・ねぇ・・・嘘だって言ってよ・・・私に・・・ごめんって謝らせてよ・・・」

まどかと美樹さんの言葉が、再び私の心を抉る。
だが、もう遅い。
どれだけ取り繕ったところで、私が美樹さんよりまどかを大事に思っているのは間違いない。
黙り込む私を、2人の嗚咽が責め立てる。
どうしていつもこうなってしまうのだろう。
だが、考えてみたところで結局のところ、人の感情の機微がわからない私が悪いとしか思えない。
その瞬間、全てに得心がいった。
なんていうことはない。結局のところ私もキュウベえと同じなのだ。
まどかのため、宇宙のためという違いこそあれ、他の少女をそそのかし、魔法少女として利用する。
いや、むしろ感情というものを理解しつつそれを利用しようとしている私の方がよほど悪辣か。

「はぁ。やれやれ、今度は仲間割れかい?マミも仲間は選んだ方が良いんじゃない?それとも、ぼっちのマミちゃんがお友達ごっこに混ぜてもらってたのかなぁ?」

その言葉に、私は佐倉杏子達の方向を見ると、彼女は素手で巴マミを一方的に殴っていた。
涙を流しながら必死で反撃しようとする巴マミだが、それを佐倉杏子は余裕でかわしていく。
本来、そこまでの実力差はないはずなのだが、精神面での差が大きすぎる。

「あーつまんない。もういっかぁ。」

そういうと彼女は巴マミが投げ捨てたマスケット銃を踏みつけ、てこの原理で起きてきた銃身を握ると、巴マミに向けてフルスイングをする。

「がっ・・・」

強化した膂力で殴られ、いくつかの椅子と机を巻き込みながら吹っ飛ぶ巴マミを尻目に、
佐倉杏子は落ちてくる、椅子の上に隠れてれていたシャルロッテの本体にもフルスイングを叩き込む。
吹き飛んでいくシャルロッテに、私が弾丸を5発ほど叩き込むと結界が解除され、元の駐輪場に景色がもどる。

「ったく。どっチらけだね。あんたもさあそう思わない?」

足下に転がるグリーフシードを拾うと、佐倉杏子は私に向かってそれを投げてくる。

「あんたは他のアマちゃん達とはちょいと毛色が違うみたいだね。お近づきの印だよ。とっときな。」
「何のつもり?」

彼女の意図が理解出来ず、私は問う。
お人好しだが、基本的には自分の利益を優先する事の出来る彼女がグリーフシードを渡すというのは何か意図があるように思える。

「あんたとは上手くやっていけそうだからね。事前投資ってヤツさ。」
「・・・まあいいわ。ありがたくもらっておくことにするわ。」
「そうそう。人の好意は素直にってね。そいつでそこでおねんねしてるボンクラの治療でもしてやるんだね。んじゃ、また今度聞きそびれちゃった話を聞かせてよ。じゃあね。」

そう言うと、彼女はさっさと歩いて行ってしまった。
なるほど。やはり彼女はお人好しだ。巴マミの治療用にということか。
さらにこちらに恩を売る形にすることで情報の代価を支払っておこうという思惑もあるのだろう。
損得勘定がある分、非常にやりやすい相手であるのは間違いない。
さて・・・むしろ問題なのは精神を含めれば、全員が満身創痍なこちらの状況でしょうね。

「まどか。巴マミはとりあえず私達の家で寝かせておきましょう。彼女をお願いしてもいいかしら。美樹さん。あなたはどうするの?」
「・・・助けに来てくれてありがとう。私は帰る。じゃあね。」

彼女は私の問いに答えず、一方的に言い捨てると1人で帰って行った。
私はその態度にわずかに痛む感情を押し殺し、心配そうにこちらを伺うまどかに頼み事を伝える。

「まどか、巴マミと先に帰っていてもらえる?私はまだやることがあるから。」
「わかった・・・でも、良いの・・・?さやかちゃんとちゃんと話し合えばまだ・・・」
「心配してくれてありがとう。でもこれは私と彼女の問題よ。いずれ折りを見て謝るつもりだから、今は1人にさせて・・・・」
「・・・わかった・・・先行ってるね。気をつけて・・・」

そう言うと彼女は巴マミを抱きかかえると、家に向かって歩いて行った。途中で悲鳴が聞こえて来たのは認識遮蔽を忘れていたのだろう。どこまでいってもまどかなその姿に、私はほんの少しだけ気を取り直すと、隠れているだろう存在に向けて声をあげた。

「いるんでしょう。キュウベえ。」

私の問いかけに木の上から白い毛玉が落ちてくる。予想通り離れて私達の様子をうかがっていたらしい。

「ふぅん。ボクたちの事も知識があるんだね。キミ達は実に興味深いよ。」
「ご託は良いわ。質問に答えなさい。アレはなに?」
「アレというのは何を指してるのかな?君らしくもない曖昧な言葉だね。」
「言葉遊びをするつもりはないわ。わかっているのでしょう。あの変異魔獣よ。」
「ふぅ。つくづく君はやりにくい。じゃあ、君を見習ってこう言うよ。答える必要があるのかい?君もボクに隠し事をしているよね。自分の手札を見せずに相手に公開を強要するのはフェアじゃないんじゃないかな?」

言うに事欠いてフェアときたか。図星を指された形だが、貴方にだけは言われたくないのだけれど。

「貴方がそれを言うとはね。まあいいわ。じゃあ貴方の質問を聞いてあげる。等価交換と行きましょう。」
「OK。話が早いのは助かるよ。それじゃあまず僕の質問だ。君は最初の変異魔獣が現れたときゲルトルートと名前を呟いたよね。アレはボクたちの世界の文字で綴られた名だ。なぜ君はそれを知っているんだい?」
「まどかのおかげよ。彼女の魔法の副産物によって私はあなた達の文字を読むことができる。さっきの変異魔獣の名はシャルロッテ。これでいいかしら。」
「なるほど。否定する材料はないね。というより、ボクたち意外の概念存在への邂逅なんて初めてだから否定しようがないんだけどね。」
「納得したなら先ほどの質問に答えてもらおうかしら。」
「もちろん。魔獣が人の憎悪や嫉妬から生まれてくるのは君なら知っているだろう?」

その言葉に私は頷く。それは前回の時間軸でも変わらない。

「ならば特定の個体が、極めて大きな負の感情をため込んでしまったとしたら?憎しみや妬み、恐怖から生まれた彼らは、その他の魔獣を取り込んで強大化していく。より大きな破滅を求めてね。そして一定の悪意を取り込んだ時点で素体となった感情の負の想念を叶えるのにもっとも適した形状をとる。それが変異魔獣のプロセスだよ。」

なるほど。筋が通る。だが、それではなぜ以前の魔女と同じ姿をしているのか。
それに以前の時間軸ではこんなことはなかった。
それはなぜ?
まどかと関係している?
もっともこの疑念を伝えれば私達が時間遡行者であると言うことがばれてしまう。

「なるほど。確かに筋は通るわね。では、次は私の質問から行かせてもらうわ。それは過去からずっと?それともここ近年?」
「過去には例がないね。前回と今回がボクにとっても初めてだよ。もっともこのシステムはボク達とってすごく都合が良い。なぜ、唐突に発生したかっていう疑問と、発生プロセスが解明出来れば、是非今後はどんどん事例を増やしていきたいね。」

つまり私達がこちらに逆行してから?
だが、私の経験上全く同じ魔女が続けて現れるというのはワルプルギスの夜や、クリームヒルトのような時間すら無視するような例外を除いて前例がなかった。
となればやはり鍵となるのは私か、あるいはまどかのどちらかか・・・

「じゃあ、ボクの番だね。君にも興味があるけどね。だけどそれ以上に彼女だ。鹿目まどか。彼女は一体何者だい?彼女はあまりに存在規模が巨大すぎる。」
「彼女は魔法少女のなれの果てよ。あまりに巨大な願いを叶えようとした結果世界に囚われた・・・ね。」
「・・・なるほどね。」

少し不満そうだが、嘘はついていない。
化かし合いは得意ではないのだけれど相手側もまだこちらの手札を探っている状態。
とりあえず、キュウベえもそれがわかっているのか、あまり深入りはしてこないのは助かる。

「じゃあ最後の質問よ。あなたは彼女の願いを叶える事が出来る?」

その言葉にキュウベえが少し考え込むそぶりを見せる。
その姿を見て私は疑念を感じる。
なぜ迷う?Yes or Noで答えればいいだけなのに。

「答えは否・・・だよ。」

やはり出てきたのは珍しく曖昧な返答だ。何かを隠しているのは間違いない。けれどそれは何?だが、現状まだ手札が揃っていない状況で、追求しても意味がない。深入りしたい気持ちを抑え私は先を促した。

「何か含みがある答えだけど、まあいいわ。それで?あなたの番よ。」
「それじゃあ、ボクからの最後の質問だよ。君の願いは鹿目まどか。彼女を人間に戻すことだろう?それならボク達は協力出来ると思わないかい?」

その言葉に私は思わず感情のタガが外れそうになった。
自分を殺された直後に協力ときたか。
なるほど。感情のないコイツららしい良い質問だ。
もっとも、以前の時間軸で自分がどういった役割を担ったかを知っても、同じ事を言うでしょうけど。

「ええ。出来るわ。もっとも貴方次第だけれど。」
「そうか。良かったよ。君からはどうも敵視されているようだからね。ボクも君達みたいな力のある魔法少女を敵に回したくはない。とりあえず、休戦ということでいいかい?」
「ええ。」
「ありがとう。今日はすごく有意義な一日になったよ。それじゃあね、暁美ほむら。楽しかったよ。」

振り向き、心にもないことを言い、去っていくキュウベえを見送る。
楽しかった・・・か。
そうね、私はあなたと仲良くなれて楽しかったわ。美樹さん。
塞ぎこもうとする心をなんとか押し込め、1つため息をつき私も帰路へつこうとすると後ろから声がかかった。

「ほむらちゃーん。」

後ろを振り向くと看護婦さんがこちらへ向かって駆けてきていた。

「こんばんは。」
「こんばんは。どうしたの、ほむらちゃん、病院の前でぼーっと立ってたりして。あ、誰かとの待ち合わせ?もしかして上条君かなー?」

にやにやとからかう気満々の看護婦さんをスルーし、私は逆に問い返す。

「違います。看護婦さんこそ、今日はお仕事終わりですか?」
「うん、そーなの。そしたら窓の外にほむらちゃんが立ってるからなにかなーって。」

なるほど。キュウベえの姿が見えないのだから、外から見れば私も待ちぼうけを食っているように見えるだろう。

「友達とさっきまで一緒にいたんですが、ケンカしてしまって・・・帰ろうとも思ったんですけど、病院を見ていたら、制服で車いすもなしにここに立っているのが少し感慨深くてつい・・・」
「そう・・・」

その言葉に少しだけ看護婦さんの顔に陰が落ちる。
私の感覚では遙か昔に退院しているのだから、この言葉は嘘だけど、看護婦さんから見ればまだ退院して1週間も立っていない。そのうえようやくできた友人とケンカしたというのだから恐らくこちらを気遣ってくれているのだろう。

「そうだ。ほむらちゃん、この前先生も言ってたけど気分転換にお買い物行きましょう?私も先生も無理をいってシフト変えてもらってるから、何でも好きな物選んであげるわよ。」
「ですが・・・」
「もう。何も大人びた外見になったからって考えまで大人にならなくてもいいの。ほむらちゃんはまだ14歳なんだから。お姉さんの言うことは素直に聞いておきなさいって。」

そういって苦笑する看護婦さんにますます申し訳なくなる。けれど、あまり無理に断っても失礼に当たるだろう。

「わかりました。じゃあ、精一杯甘えさせてもらいます。」
「よし。そうこなくちゃ。」

そういってにこりと笑うと私の頭を撫でる看護婦さん。
彼女達の優しさが眩しい。
・・・ああ。私もこんな風になりたかった。



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