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[27564] 【ネタ】LIVE A LIVE 近未来都市編(禁書目録×ライブ・ア・ライブ)
Name: Leni◆d69b6a62 ID:42deb5c5
Date: 2011/05/05 23:47
今よりちょっと未来を進む街。
超能力を持つ少年がいた。
人々の本音を見すぎケンカに
あけくれる日々だったが……。

人の心を読む事が出来る
読心能力を持っている少年……。
はたして古代ロボット魔神
ブリキ大王は復活するのか!?



※多分復活まで書きません

とある魔術の禁書目録:2004- 電撃文庫
ライブ・ア・ライブ:1994 SQUARESOFT



[27564] 『流動導入』上
Name: Leni◆d69b6a62 ID:42deb5c5
Date: 2011/05/05 23:35
 ◆

 ――あんた……今、幸せか?

 知ったこっちゃない?
 まあそりゃそうだ。

 …………。

 なるほど、あんたは今そう思ってるのかい。
 ただ……そうじゃない人間もいるってコトを頭に入れといてくれ……。

 おっと説教じみちまったな。
 ま、も少しオレの話につきあってくれ。

 そうだな、あれは……世間が世紀末だ21世紀だと騒いでいたころだったか――



 1.
 学園都市。複数の学校・研究機関が集まり、230万人の『特別なカリキュラム』を受けた学生を有している巨大な都市群。
 『超能力』を科学的に解明することによって発展した、異端であり最新である科学の園。
 そこでは常識上では起こりえない『異能』を解析し、理解し、応用することで、それまでの常識では考えられない全く新しい技術を開発する。世界水準の十数年以上先を行くとまで言われる最先端の技術が日々生まれ続ける。
 人類文明の最も先を行く学びの都。

 だが、輝かしい科学の発展の裏には、闇も存在した。

 科学的に開発された『超能力』を使った学生による犯罪。
 『超能力』を発現できなかった落ちこぼれ達による非行。
 新しい発見を追い求めるため行われる非人道的な実験。

 この日もまた学園の闇によって一つの事件が起きていた。
 学園都市の反体制派武装集団スキルアウトによる、警備員アンチスキルの長子誘拐事件である。



 2.
 少年は夜の倉庫街をひた走っていた。
 広く暗く、そして冷たい闇が広がっている。
 まだ齢一桁の小さな少年にとって、夜の倉庫街は密林に迷い込んだに等しい。
 大人の胸ほどの高さしかない少年の目から見た並び立つ倉庫は、まさに人工の密林だった。

 第一一学区第二八〇番格納区。
 それがこの倉庫街の名前だが、少年はここがそのような名前の場所であることを知らない。

 少年は昼の公園で攫われ、目隠しをされて車で運ばれ、そして密室に閉じ込められた。
 声も、誰かの息づかいもない、何の音も無い空間で少年はただ放置された
 やがて何時間、何十時間経ったか解らなくなった頃、少年は密室から逃げ出していた。
 なぜ逃げ出せたのか、少年には解らない。
 密室の隅で震えていると急に怒号が響き、拘束と目隠しが解けた。だから、真っ直ぐに走り出しただけ。

 だが少年は、自分が助かった理由を一つだけ確信していた。

 父が、助けに来たのだ。学園都市の正義の味方である警備員の父が自分を助けに来た。
 父の姿を見たわけでもなく、声を聞いたわけでもない。
 尊敬する父親が、学園の正義の味方が、攫われた子供を助ける。それは少年にとっての当たり前の『現実』だった。

「お父さーん!」

 父を捜して少年は走る。
 自分を攫った相手が近くにいるなどとは一切考えずに、父を呼び続ける。
 走って、走って、やがて息が切れて立ち止まった。

「どこにいるのー?」

 助けを求めて、父を求めて少年は叫んだ。
 父の答えは返ってこない。
 返ってきたのは――一つの銃声であった。

「!!」

 暗い闇夜に、小さな光が走った。
 それは、夜を昼に変える生きるための灯りではない。人を殺すための、凶弾の光。
 まだ幼い少年にはその光の意味を理解できない。だが、少年の心に言葉では表せない不安が押し寄せていた。

 少年は走る。音の元へ、光の元へ。
 とうに息は切れている。長い時間の監禁で体力も底が尽きている。
 それでも少年は走った。

 みっちりと並ぶ倉庫の森の中に、ぽっかりとあいた空間。そこへ飛び込むように走り込む。
 雲間から覗くわずかな月の光に浮かび上がる情景。
 少年がその空間へ走り寄ってきたのと入れ替わるように、何者かが闇の中へ走り去っていくが、少年はそれに気付かない。
 気付くはずがない。なぜならそこには――顔から血を流し倒れる父がいたのだから。

「お父さーん!」

 少年は叫ぶ。
 返事はない。
 少年の父は、ただただ血を流し続ける。

「死んじゃイヤだー! 返事してよー!!」

 警備員の最新防護服の隙間を縫うようにして穿たれた小さな穴。
 人を一人終わらせるのには十分な、大きくて小さい穴。

「お父さーん!」

 少年は叫ぶ。
 返事はない。少年にとってのただ一つの正義は答えない。

 その日、悪に勝つ正義の味方という幻想が一つ、崩れ落ちた。



 ◆

 ――その時すでに……親父は 息を引き取っていた。
 親父は勇敢な警備員アンチスキルで、暴走集団スキルアウトクルセイダーズと戦っていた……。
 こんな出来事が待ち受けているとも知らずに……。
 オレは、親父の仕事を誇らしく思っていた。

 そうして妹のカオリと共に親無しの置き去りチャイルドエラーになった頃からオレは、不思議な力を使えるようになった……。
 人の心を読むことや、手を触れず物を動かす力だ――



 3.
 少年の家庭は片親だった。
 第七学区にある警備員支部の支部長。それが少年の父親の肩書き。
 ある高校の教員と警備員の仕事を両立しながら、父親は息子と娘を一人で育てていた。
 その父親を無くした二人の子供は、学園都市にて置き去りチャイルドエラーと呼ばれる孤児になった。

 置き去りとなった少年とその妹は学園の制度により施設へ保護されることとなった。
 だが、保護施設への転入手続きを行う最中、ある事実が判明する。
 父の死を目の前で見た少年は、そのときから『超能力』を使えるようになっていたのだ。

 学園都市の学生は、能力を発現させるためのカリキュラムが授業組まれている。
 だが、この少年はカリキュラムを受けていなかった。
 カリキュラム――能力開発は脳の開発である。
 表向きは害のない投薬と能力訓練で行われるものだが、その影で非合法な人体実験が横行している。
 警備員の支部長として学園の表と裏を見てきた少年の父は、自分の子供達にカリキュラムを受けさせるのを拒否した。

 少年は超能力開発を受けていない。だが、父の死を境に超能力を使えるようになった。
 それは、世界中に生まれ続けている天然の超能力者、『原石』と呼ばれる存在であった。

 『原石』は学園都市にも多数が在籍しており、極めて珍しいというわけでもない。
 だが、少年は『原石』の中でも、学園都市の研究対象として極めて特殊な能力を有していた。

 多重能力デュアルスキル

 少年は仮説として存在が提唱されていた、複数の超能力を持つ能力者だった。

 発火能力、念動力、読心能力、精神感応。
 一つ一つは学園都市にてありふれた能力だが、彼が使える能力は多岐に渡っていた。

 多重能力者研究はその当時、学園都市にて最も関心度の高い項目の一つであった。
 結果、少年は置き去り保護施設へは送られず、多重能力者の研究所へと入れられることとなる。

 特例能力者多重調整技術研究所。通称特力研。
 それが少年の送られた研究所の名前。
 そこは、少年の父が危惧していた、非合法な人体実験を行う研究施設であった。



 4.
 白衣を着た大人達に囲まれ、少年は指示された通りに能力を行使する。
 少年の体には能力使用の際の身体の変化を観測するために、奇妙な装置が取り付けられていた。

 初めは頭に小さな電極を付けるだけだったこの能力観測実験も、日を追うごとに取り付けられる機器が増えていった。
 多重能力の使用。本来ならば、超能力使用の際に起きるはずの脳の変化が、少年からはどういうわけか検出されない。
 それが少年に行われる実験を身体の解析に特化したものにしていった。

 それまで学園都市が解明してきた超能力の仕組みは、『自分だけの現実パーソナルリアリティ』というもので説明されてきた。
 学園都市における量子力学では観測が現実を生み出す。
 本来ならば起こらないはずの「現実」を能力者が観測すると、能力者の脳を介して起こりうる「現実」となって発現する。
 空間に突如火が出現する現実、他人の思考を読む現実、重力に逆らい物体が浮きあがる現実。それが能力者一人一人が持っている『自分だけの現実』という妄想、精神疾患だ。

 『自分だけの現実』を持つ能力者は、AIM拡散力場と呼ばれる特殊な力場を身体の周囲に展開する。
 しかし、少年からは、超能力者ならば例え『原石』であっても持っているはずのAIM拡散力場を検出することができなかった。

 学園都市の研究史上で初めて現れた多重能力者。だが、それまでの学園都市の技術では少年の持つ多重能力の仕組みを説明することができない。

 故に、研究者達は少年の脳を、身体を測定し観測する。

 少年は研究協力者ではなく、実験動物として扱われた。
 多重能力者の研究所である特力研は学園都市の暗部であり、そこに倫理や人道というものは存在していなかった。

 与えられる食事は錠剤と苦い液体のみ。身体の洗浄は検査機の中で薬品をかけられるだけ。睡眠中も頭に電極を付けられる。
 そんな生活が幾日も続き、まだ幼い少年にも自分が家畜以下の実験動物として扱われていることが理解できた。

 抵抗はしない。
 例え超能力が使えても、少年は齢一桁の小さな体だ。
 白衣を着た大人達に抗う腕力などない。例え超能力を使って抵抗しようとも、そこら中にいる武装したガードマンに取り押さえられてしまうだろう。

 だから少年は、ただただ指示された通りに能力を使い続ける。

 心の中にある緑色のボタンをそっと押す。
 頭がちりちりと焼けるような感覚が広がり、少年と同じように研究所に入れられた子供の心を読む。
 相手が考えていることを文章として読み取る。それが少年の読心能力。

 少年は読み取った言葉を大人達に伝える。
 大人達はそれを黙って聞き取り、そして次の指示を与える。
 実験動物としての生活が、幾日も、幾十日も続いた。



 5.
 少年が研究所に連れてこられてからどれだけ月日が流れただろうか。
 人間として扱われず、苦痛を伴う実験を受け続けても、少年の心は壊れていなかった。

 研究者達が少年の精神を考えて何かを取りはからっていたわけではない。
 ただ、少年が研究所での生活をするうえで、人としての会話ができる隣人がただ一人いたのだ。

 白い子供。髪も肌も服も全て白い子供。
 少年と歳の頃は同じだろうか。真っ白な身体で唯一瞳だけが赤く染まっていた。
 その子供も大人達にとって『特別』な能力者であるらしく、少年と白い子供は生活を共にすることが多かった。

 白い子供は少年よりもずっと昔から研究所に実験対象として閉じ込められていた。ゆえに、少年のことは「すぐに壊れていなくなる実験体の一人」としか考えていなかった。
 だが、少年は父を失い、妹と会うこともできなくなり、ただ一人自分の隣にいるこの白い子供のことを家族の様な存在として感じていた。

 実験外の時間を過ごすための檻の中で、少年は隣にいる白い子供に話しかける。
 その言葉に、白い子供は一言面倒そうに返事をする。
 それだけの会話。
 だがそれだけの会話で、少年は自分が人間であることを実感できた。

 少年は毎日のように白い子供に話し続けた。
 妹のこと、警備員だった父のこと、病気で死んだ母のこと。
 白い子供はそれに短く言葉を返す。
 ほとんど一方通行の会話だったが、少年は心の中にある緑色のボタンを押して白い子供の心の声を聞いた。
 白い子供の心は、少年と同じく壊れていなかった。喜怒哀楽があった。
 ただ、全てを諦めていた。自分が何をしたいか、そういう思いは無かった。
 それでも少年は会話を続ける。

 実験は続き、少年は自分の能力を自由に操れるようになった。
 だから、大人達の指示で自在に操れるようになった精神感応の力で、白い子供に思いを送った。
 言葉ではない、音と映像からなる昔の思い出。
 家族と過ごした情景マザーイメージ

 それを受け取った白い子供に、少年と出会ってから初めて願望が生まれた。

「家族が欲しい」

 少年はその心の声を聞いた。今までに聞いてきた心の声で最も強い、叫びだった。

 そして、少年の心にも一つ、願望が生まれた。

「この子の願いを叶えたい」

 少年の頭の中がスパークする。精神が高ぶる。
 かつてないほど、超能力が強くなる。

 少年の力の源は『自分だけの現実』などではない。
 本当の現実から目を背けるたった一人だけの現実ではない。
 あらゆる現実に向かって叫び、己を見せつける精神力。すなわち――想い、思念、気合、意思、根性。

 科学を超えた能力が発現する。

 空間移動で白い子供と共に檻の外へと飛ぶ。
 それに気付きかけつけた白衣の大人達の心に、強い正の思念を叩き込み昏倒させる。
 子供達を研究所から逃がさないために置かれた超能力抑制装置を火の思念で焼き尽くす。

 少年の強い思念は白い子供の心の奥に届いた。

 ――お前の願いは、オレが叶える。

 白い子供は、少年に向けて初めて笑みを向けた。
 抑制装置に押さえつけられていた白い子供の能力が、少年の声に応えるように顕現する。

 白い子供の「現実」が、どうしようもない腐った「現実」を押しのける。
 少年の心の叫びと同じく、前に、真っ直ぐ前に向かって、一方通行に。

 少年は叫ぶ。心ではなく、喉の奥から、大きな声を出して。

「ド根性オーーッ!!!」

 前へと突き進んだ二人の力は、壁を砕き人を押しのけ閉ざされた塀をぶち破った。



 ◆

 ――そうしてオレ達は、塀に囲まれた巨大な都市をただひたすら走りまわった。
 逃げた後のことなんて何にも考えていなかったのさ。
 頭んなかにあったのは、妹のカオリのことと……、「家族が欲しい」と叫んだ白い子供の願いを叶えてやりたいって思いだけだ。

 研究所の実験動物だったオレ達は当然身分を証明する物なんて持っていなかったし、飯を食う金も無い。
 誰かに見つかったら、また捕まって狭い部屋の中にぶち込まれるんじゃないかという恐怖に押しつぶされそうになった。

 ただ一つ幸運だったのは、親父は死んでもなおオレの心の中で正義の味方として生き続けてくれた。
 親父のまわりには頼もしい警備員の仲間がいつもいた。
 だからオレ達は、学園都市中を飛び回って親父の部下だった警備員の元に潜り込んで……。

 その後のことはあまり覚えていない――



 6.
 学園都市の第七学区の外れ、学生寮が並ぶ一画に孤児院「ちびっこハウス」があった。
 すでに社会現象となっていた置き去りの子供達を受け入れ、能力開発を行わない簡単な教育を施す孤児院である。

 ちびっこハウスの中にある小さな教室。
 その日、子供達は新しい二人の家族を迎えていた。

 ちびっこハウスの子供達の年長者、妙子は足踏みオルガンで朝の始まりの音色を流すと、机に座る子供達に二人の子供を紹介する。

「……というワケで、みんなのお友達が増えます」

 子供向けに低い位置にそなえつけられた黒板の前に、少年と白い子供が立っていた。
 研究所にいた頃に着ていた薄布の服ではなく、男の子用の子供服と、女の子用の子供服を着て、教室にいる皆を眺めていた。

「さ、みんなにお名前を教えてあげて」

 妙子に促され、二人は白いチョークを手に取る。
 その独特の固さは、少年にとっては久しぶりのものであり、白い子供にとっては初めての手触りだった。
 二人は、緑色の黒板にゆっくりと名前を書いていく。

 スズシナ ユリコ
 タドコロ アキラ

 白い文字で書かれたそれが、新しい家族を得た二人の名前だ。

「百合子ちゃんと、カオリちゃんのお兄ちゃんのアキラ君です。みんな、仲良くしてね」

「は~いッ!!」

 元気よく返事を返す子供達。
 その中に少年アキラの妹、カオリの姿もあった。

「ワタナベくんは?」

「は、はあ~い……」

 緊張で返事を返せなかった子供に、妙子が聞き返した。
 何気ない、日常の一コマ。
 子供達が遊んで、笑って、楽しむ。
 それが少年と少女が手に入れたかけがえのないもの。



 ◆

 ――どうだい、これがオレの過去だ。
 これが幸せか不幸せかは見る人によって違うんだろうが……。
 どちらにしても、オレはこの学園都市の科学でも説明できない、不思議な力を使えるようになった。

 『Yボタン』を押してみな。人の心をのぞけるぜ……。
 『Yボタン』が何か解らない? そうかい。あんたも頭ん中にある緑のボタンが見えないのか。

 こんな力を持っていたら……、あんたならどう使う?
 オレの場合は……。







--
一年ぶりなのでリハビリ執筆。
一応全四編のプロットがありますが禁書は19巻までしか読んでないのでとりあえずあと一話だけ。



[27564] 『流動導入』下
Name: Leni◆d69b6a62 ID:42deb5c5
Date: 2011/05/07 23:13
 1.

「根性いれろや第七位ィアア!!」

「くたばれナンバーエイトォォ!!」

 ある平和な平日の昼のこと。
 第七学区と第一八学区の境目にある公園に、静寂を乱す叫びと轟音が響き渡った。

「昭和ぱーんち!」

「当たるかよ!」

 能力者二人による能力を使った喧嘩。
 学園都市の路地裏でしばしば見られるものだが、これはそれらの喧嘩とは違う『異常な光景』であった。

 まず一つ。

 能力を使った喧嘩ともなれば警備員アンチスキル風紀委員ジャッジメントに通報が行き、周囲の人達は能力という暴力に巻き込まれないよう一目散に逃げるはずだ。
 だが、公園にいる複数の人々は、平然とした顔でくつろいでいた。

 ベンチでは喧嘩などお構いなしに学生のカップルがいちゃついている。
 轟音と地響きも気にせずに野鳥が撒かれた餌をついばんでいる。
 喧嘩が行われている横では、たい焼き屋の屋台が平常通り営業している。
 そしてその屋台の横では中学生がたい焼きを食べながら、まるで子供がじゃれ合っているのを眺めるような様子で、喧嘩を観戦している。

 爆音と怒号が響く二人の能力者の喧嘩。良く見ると、彼らの周囲には進入禁止の黄色いテープがはられていた。
 一辺六メートルの正方形の空間。
 それは公園の土の上に適当に作られた、プロレスの仮設リングだった。

 そして『異常な光景』がもう一つ。
 喧嘩をする二人の能力者。彼らはただの能力者ではない。

 レベル5第七位、田所晃たどころあきら
 レベル5第八位、削板軍覇そぎいたぐんは

 学園都市の能力者の最高峰に位置するレベル5。
 彼らは『開発』を受けた一八〇万人の学生の内、たった八人しか存在しない超能力者のうちの二人だった。

 その二人のレベル5の力が、三十六平方メートルの土のリングでぶつかり合う。
 それをまるでただの大道芸でも見るかのように平静に眺める人々。

 それが、超能力の都における、ある公園の異常な日常だった。



 2.
 削板軍覇は『根性』を行動理念にして生きる熱血男児だ。

 愛と根性のヲトコ。学園都市第七位、通称ナンバーセブン。それがかつての彼の肩書きだった。
 あらゆる科学者達が理解不能としてサジを投げた『原理不明のすごい力』を使い、人々に根性を示し、根性無しの性根をたたき直す。
 そんな日々を送っていた彼だが、ある日ある男と運命の出会いを遂げる。

 昭和生まれの日本男児、無法松。
 削板軍覇の憧れる『昭和のド根性野郎』を体現した、熱血漢。

 表の顔は、公園でたい焼き屋を営む悪っぽい無能力者レベル0のあんちゃん。
 だがその実態は、彼は高レベルの能力者の暴力などものともしない胆力と、圧倒的なカリスマ、そして人情と根性溢れる男っぷりで、無法者のスキルアウト達からも慕われる愛と根性の漢であった。

 無法松の生き様は、削板軍覇にとってまさに理想の大人像であった。

 軍覇はそんな無法松に対して、戦いを挑んだ。
 自分の根性と、彼の根性、どちらが上か。ただそれだけを確かめるために。

 学園都市最高峰のレベル5の一人と、無能力者の戦い。誰の目にも結果は明らかだった。明らかなはずだった。

 だが、無法松は音速を超えて動く削板をたった一発で叩きのめした。

 根性の入った強烈キック。

 銃弾すらもものともしない超人の削板が、超能力でもなんでもない「ド根性キック」を受けて十数メートル吹き飛び、倒れ伏した。

 上とか下とかそういうレベルではない。自分とは根性の次元が違う。そう軍覇は思い知った。

 そして、軍覇は根性を入れ直すために、次の行動に出る。

「オレを弟分にしてくれ、松の兄貴!」

 昭和の男無法松の弟分となり、本当の根性とは何かを学ぶ。
 だが彼の要求は受け入れられなかった。

 そもそも無法松は多くの無能力者達から慕われているものの、単なるたい焼き屋だ。レベル5に教えることなどない。

 そして、すでに無法松には弟分と呼ぶべき存在が居た。
 彼が支援する置き去り保護施設「ちびっこハウス」の問題児、田所晃。
 無法松は何かにつけてそのアキラのことを気にかけていた。

 アキラは軍覇と同じレベル5の超能力者だった。
 解析不能の多重能力者。軍覇と同じ学園都市の研究者達の理解の及ばない能力者であり、軍覇と同列のレベル5第七位に分類されていた。

 根性はあるが、どこか曲がっている男。それが軍覇のアキラへの印象だった

 ちびっこハウスに保護されてから、アキラは無法松を見てその根性の入った生き様に習って生きようとしていた。
 だが、アキラには読心能力サイコメトリーが備わっていた。
 人々の本音を見すぎ、その結果ケンカに明けくれる日々を過ごし、彼の心は荒んでいた。

 軍覇にはそれが気に入らない。
 こんな男が無法松の兄貴の弟分などとは。

 アキラも、そんな軍覇のアキラのことを良く思わない心を読む。
 二人が会うたびに喧嘩をするようになるのは、当然のことであった。

 レベル5二人による大喧嘩。地は割れ空は裂ける。
 無法松はそんな二人に怒りの鉄拳を食らわせた。

 喧嘩は結構、だがやりすぎだ。

 そして、二人は無法松の見る前で、公園のたい焼き屋台の近くに作った「リング」で殴り合うようになった。
 超能力の使用は可。だが一辺六メートルのリングとその周囲二メートルの場外の外に被害を出すことを禁じる。

 そうして作られた超能力プロレスルールで二人は喧嘩という名の根性比べをする。

 やがてそれはレベル5の戦いを間近で見れるものとして、第七区と第一八学区の境目にある公園の風物詩となった。

 月日は流れ、長点上機学園臨時講師である藤兵衛によってアキラの能力の一端が『精神力』として説明されることにより、レベル5同列第七位が第七位と第八位に分けられた後も、二人の戦いは続く。

 観戦者から『超能力プロレス第七位決定戦』などと呼ばれることもあったが、二人は学園都市の決める順列など気にしていなかった。
 レベルも順位も研究者達にとってどれだけ科学的価値があるかの尺度であり、どちらが根性のある男かどうかには関係ない。
 そもそも彼らの慕う無法松は順列の外にいる存在だ。
 最も、今更お互いを名前で呼び合うこともできず、「第七位」「ナンバーエイト」と呼び合うのであったが。

 喧嘩という名の根性比べは今日も続く。



 3.

「相変わらず訳のわからない能力ねぇ」

 二人の喧嘩を見ながら、たい焼き屋の常連客の一人が呟いた。
 ベージュ色のブレザーを着た買い食いと漫画の立ち読みを愛する中学生、御坂美琴である。

 常盤台中学というお嬢様学校の一年生だが、彼女はこの庶民的なたい焼き屋が好きだった。
 そんな彼女も、目の前で超能力プロレスを繰り広げる二人と同じ、学園都市のレベル5の一人だ。

 順列は第七位と第八位とは大きく差を付けた第三位。
 常人の数倍の努力をして身につけた、最高の電撃使いエレクトロマスターの能力と、それを操るために高度な演算を行える発達した脳。それらを持ってしても、二人の能力は理解不能だった。

「何というか、科学じゃなくて漫画の世界よねこれ。学園都市なのに」

 第七位のアキラはSF小説や超能力漫画に出てくるような、解りやすい力を複数使いこなす万能の超能力者。
 第八位の軍覇は特撮やバトル漫画に出てくるような、超パワーを使いこなすヒーロー。
 普段カリキュラムで学んでいる能力を根本から否定するような存在だ。

 訳がわからないといえば、二人の格好も理解不能だ。

 昭和の漫画に出てくる不良学生のような黒い改造学ランを着るアキラ。
 逆立った茶髪に、固そうな金色の前髪。額には喧嘩で出来た大きな×印の傷痕。

 そして昭和の漫画に出てくる暴走族のような白い特攻服と、旧日本軍が掲げていたような光線付きの日章旗のシャツを着る軍覇。
 これまた熱血少年漫画の主人公のように逆立った髪に白いはちまきを締めている。

 世はとっくの昔に昭和から平成になっているというのに、二人とも昭和の不良全開のファッションセンスであった。
 二人とも確実に平成生まれのはずだけど、と思う御坂であったが、そもそも学園都市のファッションは外の流行とは違う物だと思い出し、奇妙な昭和センスについて考えるのをやめた。

「超・爆・発!」

「読めてるぞッ!」

 自分の周囲を気合いを込めた爆発で吹き飛ばす軍覇と、それを読心で読み取りテレポートで避けるアキラ。
 自ら生み出した爆発により身動きが取れない軍覇に向かって、アキラは水の思念フリーズイメージを送る。
 軍覇の上空に水が生まれ、瞬時に氷となり降り注ぐ。

「ド根性ガード!」

 対する軍覇は、氷の槍を気合いと根性でできた力の壁で打ち砕く。

 軍覇の力はまさに学園都市のレベル5に相応しい、派手で強大で豪快な力。
 アキラの力は一つ一つはレベル4以下の力だが、豊富な能力の選択肢と読心で相手の隙を突く。

 豪と柔。対称的な二人の戦い方であるが、根底に流れるのは同じ、熱い男気。

 死角を付き、アキラは自身の放てる中で最大の一撃を選ぶ。

 ホーリーブロウ。

 己が放つのは『強力な拳』であると、自分と相手と周囲の人々に思い込ませる技。
 アキラと軍覇と、観戦する無法松、御坂、他多数。
 ナンバーエイトの防御を貫く一撃である、と皆の心に思念を叩き込む。

 視界の外から狙う複数人の精神力が乗った拳を軍覇は人間を超えた反応速度で迎え撃つ。
 音速を超えた振り向きによる衝撃波をまき散らしながら、軍覇はありったけの力を込めたヘビーブロウを放った。

 拳と拳がぶつかり合う。

 レベル5の根性の正面衝突。

 それは、少年二人を昭和の漫画のように吹き飛ばし、両者リングアウトKOという結果をもたらした。



 4.

「イテテ……」

 無法松の運転するハーレーの後ろで、アキラは傷を押さえながらうめいた。

 日は落ちかけ、空は夕暮れで赤く染まっている。
 学園都市の学生の多くは寮住まいであり、門限がある学生達は日が暮れる前に表通りから姿を消す。
 公園でたい焼き屋を営む無法松もすでにこの時間は店じまい。

 引き分けとなった喧嘩で目を回し、帰りそびれたアキラを自慢のハーレーに乗せて送り返す途中だ。
 ちなみに軍覇は「根性入れ直して修行だ!」と叫んで、車道を足で爆走していった。

「ケガしたか」

 エンジンの振動で傷の痛みを訴えるアキラに、無法松は苦笑する。

 多重能力を操るアキラの『流動情景ライブアライブ』の力の一つ、自己復元セルフヒールでおおよその怪我は治ったが、ただの殴り合いとは違う戦いの後となっては完治までは至らない。

 今もじっと精神を集中させて傷を癒し続けていた。

 ちなみにこの二人、ノーヘルである。
 無法松に至ってはそもそもヘルメットを被ることを完全に拒否するような、真上に逆立った柱のような髪型だ。

「妹の具合はどうだ?」

 警備員に見つかったら一発で交通違反を咎められるノーヘル運転をしながら、無法松はアキラに訊ねる。

「ああ、カオリは元気さ」

 無法松の問いに、アキラは笑って答える。
 アキラの妹のカオリも無法松のことを実の兄のように慕っていた。
 いや、カオリだけではない。ちびっこハウスの皆が無法松のことを好ましく思っている。

「会ってくか?」

 通りの向こうに見えたちびっこハウスを見ながらアキラは問う。

「いや、いい。みんなにヨロシクな」

 無法松はそう言ってちびっこハウスの前でアキラを下ろすと、またな、と言って去っていった。

「ここまで来たんだから会ってきゃいいのに」

 なんとも硬派な男だ、と苦笑しながらアキラはちびっこハウスへと帰宅する。
 どこにでもあるような小さな孤児院。
 だがその実態は置き去りの子供達と、二人の高レベル能力者を守るための最新のセキュリティが施された施設だ。

 門をまたぎ、扉を開け、玄関で靴を脱ぐ。
 この間にも何重ものセキュリティがアキラの身元をチェックしていた。

 玄関を通り過ぎ、廊下の角へと歩くアキラ。

 そこで、彼は白い少女と出くわした。
 白いセーラー服に白いエプロンをつけた、ちびっこハウスの子供の年長者の一人。百合子だ。

「おゥ、アキラ! またケンカして来たのか!」

 眉をひそめて彼女はアキラを問い詰めた。
 どうやら百合子は家族の一人がボロボロにケガをして帰ってきたのがお気にめさないらしい。

「うるせーな、ほっとけよ」

「ほっとけじゃねェよアホが」

 そういうと百合子は土で汚れたアキラの学ランを掴む。

「ホラ、汚れてンだからシャツ脱げ。早くしろ」

「ガ、ガキじゃねんだから!」

 アキラの反論を無視して百合子はアキラの上着を奪い去っていく。

「ハイ、終わりッ! ったく、また洗い物が増えたじゃねェか!」

 そう言って彼女は子供達から怖いと言われる三白眼を釣り上げてアキラを睨むと、洗濯場へと走っていった。

 アキラと百合子がちびっこハウスにやってきてからもう数年が経過している。
 それまで子供達の年長者で母親的存在であった妙子は第五学区の教育大学へと行っており、妙子に変わって百合子が子供達の世話と洗濯などの家事をするようになった。
 それは、このちびっこハウスは、彼女が欲しいと望んだ家族そのもの。
 不良学生としてふらつきまわるアキラと違って、百合子は逞しい保母さん見習いとなっていた。

「やれやれ……と、消毒液はどこだったかな」

 上着を脱がされたアキラは上半身にできている擦り傷を見て、救急箱を探して廊下を歩く。

 これが、アキラが手に入れた今の日常であった。






[27564] 『反転御手』①
Name: Leni◆d69b6a62 ID:42deb5c5
Date: 2011/05/11 18:17
 1.
 残暑が過ぎ去り秋も深まってきた頃のこと。
 衣替えも完全に終わり、わずかに肌寒くなった気温にたい焼きが美味しく感じる季節。
 アキラはちびっこハウスのトイレにこもっていた。
 特に腹を壊したわけでなく、ズボンもおろさずに便座の上に座っている。
 彼が座って腕を組んみじっとしているのは、別に着衣のまま用を足したいわけではない。

 待ち会わせである。

「例の件で話があるんだ」

 そう、ちびっこハウスの子供ワタナベに言われて、アキラは誰にも見つからないようにトイレに隠れた。
 秘密の取引のためである。

 この取引は誰にもばれるわけにはいかない。
 園長にも、妹のカオリにも、カズ、ユリ、アッキーといった子供達にも、もちろん百合子にも。

 アキラはじっと待つ。真剣な顔を浮かべながら。
 やがて、トイレの扉が開き、小学校高学年ほどの少年、ワタナベが静かに入ってきた。

「危うく見つかるところだったよ……」

 アキラ以上に、ワタナベは誰にも見つかるわけにはいかなかった。

 カオリは昼寝、園長は自室で書類仕事、子供達はテレビでロボットプロレスを見ているはずだ。
 ちびっこハウス内を物の配置からセキュリティまで完璧に知り尽くした百合子が要注意であるが、今は外で洗濯物を干しているはずだ。

 ワタナベはポケットの中からブツを取り出す。

「ハイこれ、頼まれてた百合子姉ちゃんのパンツ……」

 秘密の取引。
 それは、ワタナベにちびっこハウスのお姉さん、百合子のパンツを盗ませ持ってこさせることだった。
 誰にもばれるわけにはいかない。ばれたらどんな目に合うことか。

 アキラはワタナベからパンツを受け取る。

「こ、これは……」

 その手触り。とても年頃の少女が身につけるようなものではなく、厚い木綿の手触り。

「ワタナベのパンツじゃねーか!」

 アキラは『ワタナベ』と黒いマジックで名前がかかれたブリーフパンツをワタナベの顔に向けてぶん投げた。
 ワタナベは怖じ気づいて、百合子のパンツでなく自分のパンツを持ってきたのだ。

「もっかい行って来い!」

「ひどいよ……」

 ワタナベは半べそをかきながらトイレから出ていく。
 だが、アキラは容赦をしない。
 これは取引だ。

 ちびっこハウスの子供達の一人にユリという女の子がいる。
 彼女は最近、カズという男の子にお尻を触られていると騒いでいるのだが、実際の犯人はワタナベである。アキラの読心能力サイコメトリー の前では後ろ暗い隠し事は通用しない。
 脳の電気信号や脳波ではなく心をそのもの読むアキラの能力は学園都市の機器でも防ぎきることが難しく、警備員アンチスキルが彼の力を借りることもあるほどだ。

 そのワタナベの痴漢の秘密を使って、アキラはワタナベに取引を持ちかけた。
 曰く。
 ――オレはお前のエロい秘密を知っている。だからばらされたくなかったらエロいことに協力しろ。そうすればお互いばらしたくないエロい秘密を共有できる。エロい男同士の取引だ。

 何とも不条理な理論だが、押しに弱いワタナベはその意見を受け入れた。ユリのお尻は彼にとって癒しの一つなのだ。
 そんなエロガキのワタナベが、再びトイレに戻ってきた。

「ハイこれ!」

「こ、これは……」

 アキラは受け取ったものを確認する。

「百合子のパンタロンじゃねーか!」

「じゃ、ボク用があるから!」

「待てや!」

 アキラは逃げようとするワタナベの首根っこを掴んで引き留めた。

 百合子の普段着は、所属する長点上機学園の制服か、ちびっこハウスを卒院して学園都市にある学校に入学したOG達から送られた着古した各校の制服であることが多いが、当然ながら私服を着ることもある。
 その中の一着がこのパンタロン。

 確かにパンタロンはパンツだ。ズボンとも言う。
 だが、アキラの言うパンツとはズボンのことではなく、下着のことだ。

「良いか、下着だ。下着を取ってこい。後、ばれるからこれは戻してこい」

「ひどいよ……」

 服はばれるが下着一着ならばばれないと思っているあたりが、アキラの甘いところなのだが。
 ワタナベが再びトイレを出ていってから数分、トイレの扉が静かに開く。

「ハイこれ!」

「これは……百合子のパンストじゃねーか!」

 パンティストッキング。
 百合子の白すぎる脚を色づけする、お下がりの制服ばかり着る百合子の数少ないおしゃれ。
 彼女のすらりとした細い脚に身につけられていたものだ。
 これはこれで……と納得しかけるアキラだったが思いとどまる。

 パンツだ。良いか、下着のパンツを持ってくるんだ。
 そうワタナベにしっかり言い聞かせて送り出すアキラ。
 そして。

「ハイこれ! じゃ、ボク用があるから!」

 ポケットの中の物をワタナベが急いで取り出そうとする。

「てめェらッ!」

 突然、怒鳴り声と走る足音がトイレの個室に届いた。
 次の瞬間、便座に座っていたアキラが何かに弾き飛ばされたかのように真横に吹っ飛び、ワタナベを巻き込んでトイレの外に転がり出た。

「やっぱりアキラの差し金かァ!」

 そこには鬼が居た。
 白い顔に青筋を浮かべて、つり上がった目でアキラを睨む鬼。

 鬼は倒れたアキラの髪の毛を掴むと、まるでプロレスのように引っ張り立ち上がらせた。
 学園都市最強の鬼、鈴科百合子。
 アキラは鬼のパンツを得ることに失敗したのだ。

「いい加減にしろ!」

 怒鳴りつけると共に、百合子が動いた。
 日々の家事を能力を使わずこなしてきた、細いながらも力のついた身体が獣のようにしなる。
 喧嘩慣れしているはずのアキラですら反応できない、まばたきの一瞬の隙を突いた渾身のパンチング 。

 超能力など使っていない。だがアキラの身体はまるで漫画のように宙に浮き、トイレに向かって再び吹っ飛んでいった。
 レベル5第一位『一方通行アクセラレーター』としてのパンチではない。一人の少女としてのプロレスライクなパンチはたった一発でアキラを完膚なまでに叩きのめした。

「ふン!」

 衝撃に目を回すアキラを一瞥すると、百合子はトイレの前から大股で歩き去っていった。

「こ、これは……」

 吹き飛ばされた勢いで便器に頭を突っ込んだまま、アキラは呻く。

「百合子のパンチじゃねーか!」






[27564] 『反転御手』②
Name: Leni◆d69b6a62 ID:42deb5c5
Date: 2011/05/16 20:41
 2.

「あ?」

 ちびっこハウスから出て数分、百合子はふと背後に気配を感じて立ち止まった。

 現在の時刻は平日の正午を少しまわったころ。普通の学生ならば今頃学校で勉強をしている時間だ。
 アキラを殴りつけて怒りと羞恥心のままちびっこハウスを飛び出したのだが、人口の大半を学生が占める学園都市ではこの時間の人通りは少ない。

 ちびっこハウスは超能力者レベル5二人を抱えている。その利権を狙った誘拐防止のため、普段は教職員・研究者としての貴重な時間を割いて警備員アンチスキルは子供達を監視しているが、この気配は違う。
 学園都市最強の超能力者、一方通行アクセラレーターである百合子は警備員達が四六時中監視して守る必要があるほどやわな存在ではない。
 ちびっこハウスを飛び出したついでにショッピングモールで食材の買い出しをしようと数分歩き続けた百合子は、すでに警備員の監視区域外だ。

「あァ、"敵"か」

 一方通行の能力はベクトル操作。読心能力や第六感――予知能力などはない。
 だが、普通の教師や研究者達とは違う、頭のネジの外れた長点上機学園の臨時講師によって百合子の能力は、強度だけでなく多様な能力応用をも身につけていた。

 その一つが気配の察知。
 人が存在することによる空気の流れや熱放射を読み、光のベクトルを全身で感知することにより360度の視界を得る。
 紫外線などの微量な有害物質の過剰な『反射』や日常的な運動など、能力使用の無駄を削ぎ落とすことで得た脳の余裕。それを百合子は師の指導の下、『外敵から身を守るため』に使用していた。

 敵意を含んだ視線を感じる。
 男が六人。背後五十メートルほど後ろ。
 車道を挟んだ斜め後ろには男が四人。いずれも学校の制服を着ていないが、おそらく学校をサボっている不良学生。
 他にもこちらを観察している大人がいるが、そちらは今のところ害がないので保留。

「不良学生がまあ昼間からご苦労様ってか」

 百合子も長点上機学園の冬用制服を着てぶらぶらと歩いているのだが、こちらは不良というわけではない。
 百合子とアキラは長点上機学園の生徒ということになっているが登校義務はなく、第七学区にある古道具屋の店主、長点上機学園臨時講師藤兵衛のところに不定期に能力指導を受けにいけば良いだけだ。
 そもそも制服の上に白いエプロンなどという格好をした不良が居たら、逆に百合子が見てみたいくらいだ。

 百合子の予想では、学園最強の超能力者レベル5を倒して名を上げようと思っている馬鹿達だ。
 それは百合子には理解しがたい発想だ。
 最強。そんなものになんの価値があるかこれっぽっちもわからないが、ちびっこハウスの子供達がロボットプロレスに熱狂したり、世界最強の格闘家高原日勝について熱く語っているのを見るに、どうやら『最強』というものは『男の子の永遠の憧れ』らしい。

「はァ……」

 百合子はだるそうにため息をつく。
 逃げることは可能。こうしてぼんやり歩いているだけで、重力や自転、公転などいくらでも力のベクトルは身体にまとわりついていて、向きを軽く変えるだけで車よりも速く走ることができる。
 だが、逃げたところで彼らのストーキングがおさまるとも思えない。下手をしたらショッピングモールで大乱闘などという面倒なことになってしまう。
 百合子は歩幅を縮め、少しずつ歩く速度を落とした。

一方通行アクセラレーターだな……」

 背後から声がかかる。おそらく彼らのリーダー格だろうか。
 他の男達は逃げ場所を塞ぐように百合子を囲んでいく。
 向かい側の歩道に居た男達も、車道を横断して百合子の進行方向を塞いでいる。

「お前を倒せば、この俺が……俺達が『最強』だ!!」

 男達は、まさに百合子が予想した通りの存在だった。

 端から見ると女子高生を大人数で囲む強姦集団といったところだろうか。
 これでワンボックスカーが横に止まっていれば完璧だった。

 だが、彼らの狙いは婦女暴行ではなく、『最強』への挑戦。
 百合子からしてみればどちらも状況は変わらないのであるが、彼らの顔を見るに真剣勝負のつもりなのだろう。十対一という酷い状況だが。

 しかし、彼らは百合子にとって路肩の石に等しい。
 彼らが言うように一方通行は最強の能力。普段は『固定』に設定してある自動防衛を『反射』にして、相手が襲いかかってくるのを待つだけで、ほぼ確実に彼女は勝利するだろう。その場を一歩も動くことなく。

 しかし、百合子にとって周りを囲む男達が石ころ以下の存在だとしても、今自分がいる"道"は男達よりはるかに価値がある存在であった。
 ちびっこハウスとショッピングモールを結ぶ街道。彼女の生活圏内。そんな場所で能力を反射して荒らすわけにもいかない。

「面倒くせェ」

 そう呟くと、彼女は足を軽く上げ、ローファーの靴底でタイル敷の地面を勢いよく踏みしめた。

 足音は聞こえない。音を鳴らすための振動は、全てベクトル操作されて道路を伝わっていく。
 無音。故に、男達は百合子の攻撃に気付かない。
 だが、すでに力のベクトルは男達の近くまで侵食している。
 そして、ベクトルは彼らの足下まで届いた。
 鈍い音と共にタイルが剥がれ、真っ直ぐ上へと飛んで行った。
 男ならば確実に存在するであろう、股の間にある急所にタイルが命中する。

「ひ」とも「ぎ」とも聞こえる悲鳴が一斉に上がった

 百合子は戦いにおいて手加減はしても正々堂々という手は取らない。
 このあたりのスキルアウト達は無法松の影響下にある。
 彼らは無法松の庇護下にいる百合子に挑んでくるなどという愚かなことはしない。

 故に、『最強』の一方通行に挑んでくるのは、わざわざ遠くの学区からやってきた能力者である可能性が高かった。

 相手が能力者であるならば、百合子は先の先を取って潰す。
 『一方通行』は学園都市最強の超能力者レベル5だが、彼女は自分の『ベクトル操作』という規格外の力を完全に信頼しているわけではなかった。

 強能力者レベル3大能力者レベル4程度の能力でも『一方通行』に痛打を与えることができる。それが彼女が師事する老教師からの教え。

 例えば空力使いが周囲を真空状態にしてしまったとしたら。無気圧による影響は受けないが、酸素がないため息が止まってしまう。
 例えば偏光能力者が彼女に一切の光を与えなかったら。過剰な反射の制限というここ数年の努力で得た健康な身体が、ビタミンD欠乏症に陥ってしまう。
 例えば、そう、目の前の彼らが彼女の買い物を邪魔したら。冷蔵庫の残りで食事を済まさなければいけなくなり、食という人間らしく生きるために必要な要素を失ってしまう。

「ちなみにお前等が無駄に能力使ってこの道を壊したら、道路工事になって真っ直ぐ買い物に行けなくなるンだよなァ。おい、聞いてンのか」

 そう言いながら、一、二、三と百合子はテンポよく靴底を道路に叩きつける。
 彼女は軽い口調で言っているのだが、地面を伝って相手に伝わるベクトルは一切の容赦がない。
 重い音を鳴らしながらタイルが男達の全身の急所を襲う。

 痛みに耐えて能力で反撃しようとした幾人かは、突然目に強烈な光を浴びて手で顔をおおいながら倒れ込んだ。
 光の進行方向を操作して、暴徒鎮圧用に使われる点滅閃光を眼球に向けてピンポイントで照射したのだ。

 倒れたら、後は地面を通じてあらゆる暴力のベクトルを直接身体に叩き込むのみ。
 地味でかつ一方的な攻撃。
 だがそれで相手を叩きのめすには十分。百合子と同じ超能力者レベル5であるアキラとナンバーエイトが公園でやっているような派手な立ち回りなど、今この場では必要無い。
 百合子の一撃は奇妙なほど静かであり、男達の上げる悲鳴が響き渡るのみであった。

「襲われてンのは俺の方なのに、なンかこっちが悪モンっぽい構図だなァ」

 実際に超能力者レベル5第一位と大能力者レベル4以下の男達の争いなど、弱い者虐め以外の何物でもなかったのだが。

「しかし毎度毎度、虫みたいに沸いてくンなァ」

 第一位を倒したところで何の意味もないというのに。
 そう、何の意味もない。世界中にただ一人しか居ない『一方通行』を倒したところで、そこには何の学術的価値もない。
 汎用性にも応用性にも一切欠ける道端の喧嘩の勝者という称号は、科学的にも軍事的に価値が無い。

 レベルも上がらないし、払われる奨学金や手当金が上がることもない。
 強さというものに学園都市としての研究者達が価値を見いだすには、詳細な能力計測が可能な戦闘実験としての場を用意するか、能力を使った新たな戦術・戦略を示す必要があるだろう。

 身を守るための『固定』を切ってぼんやりと夕食の献立を考えている彼女を闇討ちして討ち取ったとして、そこに何の意味があるのか。「不意打ち闇討ちに対策を取っていない第一位は馬鹿である」といった何の役にも立たない答えがあるのみだ。

 万が一にでも襲撃者達が彼女に勝って何か得られる物があるとしたら、学園都市の『最強』に勝ったという一時的な優越感と羨望が唯一の物だろう。
 が、『最強』を倒した新たな『最強』を倒すという『自分たちの同類』に狙われたり、一方通行アクセラレーターではなく鈴科百合子すずしなゆりこという一個人を慕ってくれている人達による報復を受けるというマイナス要素しかないのだ。

 意外なことに、そう、彼女自身が常々意外に思っているのだが、鈴科百合子という少女を何かと気にかけてくれる人達は結構な数にのぼる。
 例えばちびっこハウスの皆だったり、とある公園のたい焼き屋であったり、自分とは対極の存在であるはずの無能力者であったり、能力の使い方をまともな方向へと導いてくれる恩師であったり、昔の彼女を保護しその後も影で守り続けている警備員であったり、何故か自分のパンツをこっそり拝借しようとした家族であったり。

「虫なら虫らしく、蚊取り線香でも焚いたら勝手にぼとぼと落ちてくれねェかね」

 などと科学都市らしくない昭和の香りのする独り言を言うと、百合子はベクトル操作に向けていた足をそっと止めた。
 すでに彼女以外に立っている者はいない。

 残っているのは、遠くからずっと百合子を観察し続けていた大人が三人のみだ。
 エプロン姿の少女の無音のタップダンスがお気に召したのか、高そうなスーツを着込んだ大人が三人じっと百合子を見続けている。
 警備員アンチスキルではない。
 普段は教職員でありスーツ姿の面々も多い警備員だが、あのようにインテリヤクザとやり手キャリアウーマンのような、ある意味まともな着こなしの警備員を百合子は見たことがない。
 そもそも警備員なら喧嘩を始める前に止めに入ったはずだ。

 一方的な喧嘩が終わったのを察知したのか、大人達は百合子の方へ揃って歩いてくる。
 明らかに面倒事を運んできた様子が見て取れる。

「少しいいかな?」

 それみたことか。百合子は面倒臭そうに大人達に顔を向けた。






[27564] 『反転御手』③
Name: Leni◆d69b6a62 ID:42deb5c5
Date: 2011/05/15 04:23
 3.
 声をかけてきたのは黒シャツの男。
 ブランド物のビジネススーツを着こなし、整髪料で固めた髪をオールバックにしたヘアスタイル。彫りの深い顔にはサングラスをかけている。
 テレビの中にでもいそうなインテリヤクザ風の長身の男だった。

 そんな男を見て、百合子は相手の素性を問うた。

「どこの研究所の使いだ?」

 ヤクザとは真逆の存在、学園都市に無数に存在する研究機関の者であると百合子は見当をつけていた。

「……何故そう思う?」

 指でサングラスに触れながら、男は答えではなく問いを返す。
 サングラスの男の後ろでは、ビジネスマン風の男女二人がじっと百合子を見ている。

 百合子はこの大人達を研究所から来た者であると仮定して話を進める。

「俺に近づいてくるヤツなンざ、俺を研究して甘い汁吸おうって輩か――」

 答えを告げながら、百合子は地面を一瞥した。
 そこに転がっているのは、百合子に挑んで返り討ちにあった男達。

「学園都市トップの座を狙って突っかかってくるバカと決まってるからな」

「なるほど」

 バカという言葉に対し、男達からは反論の声はあがらない。
 全身を力のベクトルで殴打されてうめき声をあげるのみだ。

「ま、どっちもくだらねェって意味じゃ大差ねェけどよ」

 心底うんざりした顔で百合子は言う。
 研究も喧嘩も本当にくだらない。

 一方通行の能力を自分以上に理解する恩師の手にかかれば、そこらの研究者達などに頼らずとも己を育てることができる。
 喧嘩はただひたすらに時間の無駄でしかない。

 科学の発展への貢献などという学園都市の住民の義務など、何年も前の特力研から逃げ出したころに捨てている。

 近づいてくるのは鈴科百合子という個人を知る知人達と、今日のお勧めの鮮魚を教えてくれる魚屋のオヤジくらいで良い。

 そんなことを百合子がぼんやりと考えているときだった。
 三六〇度の彼女の視界の中で、動き出そうとしている者がいた。
 不良達の中で始めに百合子に話しかけてきた、リーダー格の男である。

「へへ……」

 頭から血を流しながらも歪んだ笑顔を浮かべ、男はゆっくりと身体を起こしていく。
 不良達は苦痛で半日は起き上がれないはずの打撃を全身から臓腑に至るまで受けたはずだ。
 それでもなお起き上がろうとする男を見て、百合子は身体能力の強化か再生の能力者であると当たりをつけた。

「チョーシのって余裕かましてんじゃねぇぞテメーッ!」

 その証拠に、男は勢いよく立ち上がると、手に掴んだ舗装のタイルを百合子に向けて投げつけてきた。
 発火や発電といった派手な能力行使ではない。
 だが、大人の手の平ほどもある大きなタイルの投擲は、人を一人殺傷するのに十分な威力を持っていた。

 至近距離からの投擲に対し、百合子は反応を返さない。
 彼女の持つ能力が事前条件に従って発現するのを脳の領域を開けて待っているだけ。

 一方通行の能力も、発火や発電といった派手なものではない。
 ただ、あらゆる『ベクトル』を操るのみ。
 石つぶての投擲という三次元的な運動ベクトルは、百合子の着ている制服という能力圏内に触れた瞬間、向きが完全に『反転』する。

 それは非常に奇妙な光景であった。
 加速の『向き』のみがすり替わってタイルは三次元運動を続ける。
 ビデオの逆再生などという陳腐な言葉では表せない『運動の続き』が、向きを反転して行われる。

 反転したタイルが向かう先は、投擲により体勢を崩した男の顔面。
 タイルは歯を折り鼻骨を砕き額を割り顔へと埋まることで直進運動を始めて止めた。

「ワリィワリィ、言ってなかったっけなァ」

 タイルは男の顔を破壊し尽くすと、反動で地面に向けて跳ね落ち、重たい音と共に真っ二つに割れた。
 一拍置いて、硬直していた男が崩れ落ちていく。

「殴り合いすンときは"反射"に設定してあンだよ……って聞いてねーか」

 反射。己に向かってきた害のあるベクトルを脳の自動計算で反転させる能力応用の一つ。
 不意に人と衝突した場合などに相手側にとって非常であるため、普段はベクトルを分散させて停止させる『固定』を自動防衛として用いている。だが、このように喧嘩を売られた場合は、相手を無傷で返すなどという慈悲を百合子は持ち合わせていないため、自動防衛を反射に切り替える。

 発火能力者であれば火を、発電能力者であれば電撃を、撃たれたものを反転させて相手に返すだけという、極めてシンプルな能力。
 だが、百合子の能力の仕組みを知らない者達は、百合子の先制の暴力を耐えたとしても、この動かなくなった男のように自らの暴力を自身の身体に受けて倒れていく。

 わずかに顔を痙攣させているところを見るに、まだ死んではいないようである。

「ったく、割れないようにタイル吹っ飛ばしてたンだが、割れちまったなァ」

 百合子は砕けた男の顔ではなく、男の傍らで真っ二つに割れたタイルを見て気を揉んだ。

 外れたタイルははめなおして一日放置するだけで元通りになる。街中を走る高度な街道整備ロボットが自動で行ってくれるのだ。
 だが肝心のタイルが割れてしまったとなると、新しいタイルが必要になるだろう。一枚程度の破損であればロボットが勝手に直してくれる可能性は高いが。

 顔から血を垂れ流す男を前にして、自分の生活圏内の道路事情を心配する。
 それが鈴科百合子という少女の一端であった。

 ちびっこハウスという孤児院で過ごすことにより人並みの情というものを身につけてはいる。が、敵対するものや害を持ちこむものにその情を与えるような慈愛の精神は持ち合わせていなかった。
 日本人として過ごすならば問題がある性格なのだが、不良が平気で銃を携帯しているようなディストピアの学園都市において、それはある意味で正しい人としてのありかただった。

 後顧の憂いを断つという観点から見れば追い打ちの一つや二つしておくべきか、と彼女は考えたが行動に起こすことはしなかった。
 平日と言えどもここは表通りで、一連の喧嘩の目撃者は研究所の使いらしき大人達以外にもいる。
 わざわざ二度と刃向かって来られないくらいに痛めつけなくても、警備員かこのあたりをシマにしている無法松傘下のスキルアウト達に話が行って、後は勝手にどうにかしてくれるだろう。

 百合子は今もうめき声をあげる男達を頭から追いやると、三人の大人達に向き直った。

「話すンなら歩きながらでいいか?」

 暴力という解りやすい手段で介入してこない分、この手の大人達の方が百合子にとっては厄介極まりない相手である。




 4.
 
「『絶対能力進化レベル6シフト』?」

 百合子はインテリヤクザ風の男から告げられた聞き慣れない言葉を確認するように聞き返した。
 絶対能力レベル6。能力者開発の一つの到達目標とされている、未だ開発理論の目処すら立っていない研究者達の机上の空論の存在。
 研究者達は絶対能力者開発の糸口を見つけ出そうと必死だが、学生達にとっては「日曜の朝に放送されているような変身ヒーロー」程度の現実味しかない空想上の存在だ。

 百合子も絶対能力に付いては、現在の学園都市の能力開発技術では生まれる余地はないと思っている口だ。
 しかし、この男はその絶対能力者を生み出すための被験者としてよりにもよって百合子が最も適しているなどとのたまっているのだ。

 脳開発の新規技術の研究開発が遅々として進まないため、絶対能力以下の存在であるはずの多重能力者デュアルスキルですら、幼い百合子とアキラを研究所の奥に閉じ込めてさらに無数の検体の犠牲を出しても生み出すことが出来なかったのだ。
 学園都市のど真ん中で「あなたは神を信じますか?」と新興宗教の勧誘を受けるのと同じくらい、うさんくさくて信用ならない話だ。

 僻地に送られて狂った研究者の妄言か、と百合子は思う。
 だが、男はこの話が研究者の暴走や妄想によるものではない、一つの事実を告げた。

「ああ、ここでは詳しいことは話せないが、『樹形図の設計者ツリーダイアグラム』お墨付きの実験だ」

 学園都市の英知を結集して作られた世界最高の計算機の名前を聞き、百合子の表情がわずかに固くなる。
 正確なデータを入力すれば、正確な答えが返ってくるという夢の超高度並列演算器スーパーコンピュータ
 その判断は統括理事会よりも重いとまで言われる、文字通りのモンスターマシンだ。

 当然、その使用権限は学園都市の行政上層部が握っており、妄想をまきちらす狂った研究者に簡単に与えられるものではない。
 樹形図の設計者が判断を下したというのなら、百合子は絶対能力レベル6となれる可能性があるのだろう。
 しかし。

「はン、興味ねェな」

 彼女は一言でそれを切り捨てた。

絶対能力レベル6ねェ……。確かにすげェ話だが俺がそれに乗る意義は見いだせねェな。能力開発なら生活の片手間に適当にやりたいようにやってンぜ」

 学園都市第一位の座も、彼女は特に欲しくて得たものではなかった。
 研究所の実験動物として脳をいじくられ、研究所を出てからは学園都市の主流派とは言い難い科学を研究する老人の元で学んでいたら、いつのまにか第一位になっていたのだ。
 向上心はあるが、すでに百合子の科学思考も絶対能力を目指すような主流派とはずれ始めていた。ベクトル操作という能力を使ってどれだけ複雑怪奇な現象を再現できるかといった遊び心が、今の彼女の能力開発に対する原動力。

神サマの計算SYSTEMとかいう科学者の小間使いなンてするつもりはねェな。見ての通り俺は忙しいンでなァ」

 新聞の購読勧誘を断るのと同じ感覚で、百合子は研究協力を拒否した。

 当然、それで目の前の男が引き下がるわけもない。
 樹形図の設計者ツリーダイアグラムが成功すると判断を下した学園都市における最優先課題の研究なのだ。どのような手段を使ってでも彼女の首を縦に振らさなければならない。
 相手が学園都市において『最強』の存在であるため脅しなどは使えず、説得か交渉をするしかないのであるが。彼女に害のある者として判断されたら、研究所は一瞬で更地になるだろう。

「……君は『最強』の能力者だ」

「一々言われなくてもてめェらが勝手に押しつけてきた肩書きでわかってンよ、ンなこたァ」

「だが『最強』どまりでは君を取り巻く環境はずっとそのままなのだろうね」

 ぴたりと。
 百合子の歩みが止まった。

 その様子を見て、男は初めて百合子がこちらに興味を示したと心の中でほくそ笑んだ。

「『最強』の先。『絶対能力レベル6』は君の生活に変化をもたらすかも……」

「何が言いてェ」

「いやいや、深い意味はないさ」

 思いっきりあるだろうが、と百合子は視線に言葉を込めるが、男はただ笑ってそれを受け流す。
 相手の興味のありそうな話題を曖昧なままにして釣り糸を垂らす。面倒極まりない相手だと百合子は改めて思った。

「わかった。話くらいは聞いてやンよ」

「話が早くて助かるよ」

 男はにやりという擬態語が合いそうな固い笑みを浮かべた。
 だが、百合子の表情は変わらず面倒臭そうな顔だ。

「だがさっきも言ったとおり俺は忙しいンだ」

 身につけているエプロンの裾を右手で掴み、ひらひらと横に振る百合子。
 そして、エプロンの前部分についたポケットに手を入れ、携帯端末を取り出した。

 どこへ連絡するつもりだ、と大人達に緊張が走る。
 が、百合子の返答は極めて平和なもの。

「家のガキどもに連絡くらいさせろ」

「……いやはや、意外に家庭的なものだね」






[27564] 『反転御手』④
Name: Leni◆d69b6a62 ID:42deb5c5
Date: 2011/05/16 22:31
 5.
 送迎の高級車に乗せられて百合子がやってきたのは、第十学区にある研究所だった。
 個人規模の小さな研究所とは違う、明らかに多額の出資を受けている立派な建物だ。

 普通の研究所では考えられないほど厳重な入場チェックを受け、百合子は研究所の中へ足を踏み入れる。

 白で統一された廊下を進み、研究所の最奥、地下施設へと案内される。

 その施設で百合子が目にしたのは、培養器に入れられている大量の人間だった。
 中に入れられているのは、人工的に作られたクローン人間。
 『絶対能力進化レベル6シフト』とは、このクローン人間を使った実験であると白衣に着替えたサングラスのインテリヤクザ風の男が説明した。

「クク」

 その実験内容を聞いて、百合子は笑った。
 相変わらず学園都市の研究者というものは少し奥に踏み込むだけで、狂った人間ばかりであると。

「国際法で禁止されている人間のクローンを大量生産たァ、ハナからまともな実験じゃねェンだろうとは思ってたが」

 クローン技術を使い十四日で人間を生産し、洗脳装置テスタメントで脳に電気信号を与えて言語、運動・倫理などの情報を植え付ける。
 即席で作られる複製人間。勿論、クローンの元となるオリジナル素体はただの人間ではない。

 培養器で眠るクローン少女の顔に、百合子は見覚えがあった。
 ちびっこハウスの支援者の一人である無法松が切り盛りする、第七学区のたい焼き屋さん。そこの常連客である中学一年生の少女。
 十三歳という若さにして超能力者レベル5である、名門常盤台中学のお嬢様。御坂美琴。
 培養器の少女は、その御坂美琴と顔つきから体格までまさに瓜二つであった。
 唯一の違いがあるとすれば、髪の長さだろうか。一度も切られていないため膝に届くまでになっている。

「オマエラ、イイ感じに頭のネジ飛ンでンじェねえのか」

 この人工の少女を二万体生産し、一方通行アクセラレーターとそれぞれ一体ずつ異なった環境で戦闘を行う。それが『樹形図の設計者ツリーダイアグラム』が導き出した、一方通行を絶対能力レベル6へと進化させる答えであるという。

 この実験のことをクローンのオリジナル、御坂美琴は知らないだろうと百合子は考える。百合子の記憶の中にある御坂美琴とは、甘い物とキャラクターグッズが大好きな真っ直ぐな『子供』だ。
 そんな彼女が国家間の条約で禁じられた体細胞を使った人間の製造などというものに手を出しているとは思えない。
 ならば、クローンの元になったはずのDNAマップは、盗品である可能性が高い。

「元は別の計画で使われる予定だったモノだがね。色々あってこっちに流用する事になった」

 サングラスの男は培養器を見ながらそう言った。
 クローンとはいえ、培養器の中に居るのは全裸の少女である。だが、男はクローンの少女をただの実験動物としか見ていない。

「これを見て――」

 男はサングラスを外して、百合子へと視線を向けた。

「それでもなお『無敵レベル6』を望むかね?」

 百合子は言葉を返さず、ただ歪んだ笑みを浮かべた。



 6.
 それ以上の実験の説明は行われなかった。

 全ては第一次実験を完了させてから。サングラスの男は百合子にそう告げた。

 後ろ暗いところしかない実験だ。百合子を自陣営に完全に引き込んでから計画を進めたいのであろう。
 クローンの培養施設などというものを見せておきながら今更だと、彼らの臆病さを百合子は笑った。が、説明を最後まで聞くために百合子は第一次実験を受けることを選択した。

 すでに生産が完了した三十四体のクローンのうち、最初に作られた一号。それと戦闘実験を行うための準備が進められた。
 とは言っても、百合子は特に何をするわけでもない。元々器具や道具を使って行使する能力者ではない。研究所側が実験室を用意するのをただ待つだけだった。

 実験準備が終わったのは思いのほか早く、三十分後。
 対衝撃素材がふんだんに使われた分厚い扉をくぐり、百合子は戦闘実験室へと入る。
 一辺三十メートルの立方体の部屋。
 壁や床は防弾、防熱処理のほどこされたパネルが何枚も重ねられている、能力戦闘を前提にした頑丈な仕組みだ。

 二十メートルほどの高さの位置には、強化ガラスで作られた大きな窓がはめ込まれており、窓の向こうでは白衣を着た研究者が五人ほど、部屋を見下ろしていた。
 そして、研究者達の視線の先、部屋の中央には少女が一人。

「よォ、オマエが実験相手って事でいいンだよなァ」

 髪を御坂美琴オリジナルと同じ長さまで切りそろえ、どういうわけか常盤台中学の制服を着たクローン人間が百合子をじっと見つめている。
 頭にはめた機械式のゴーグルがなければ、オリジナルと見分けが付かないだろう。

「はい、よろしくお願いします、とミサカは返答します」

「俺も超電磁砲レールガンと戦るのは初めてだからよォ。楽しみにしてンぜェ」

 御坂美琴が能力行使をする場面は何度か見たことがあるが、平和に生きる百合子が平和に生きる御坂と真っ正面から喧嘩をするなどということは今までなかった。
 だが平和に生きているとは言っても、百合子は能力利用に対する探求心をしっかりと持ち合わせている。
 電気を操るという学園都市ではありふれた能力をもって超能力者レベル5第三位という座まで登りつめた超電磁砲と相対できるのは、百合子にとって純粋に楽しみであった。
 何を見せてくれるのかとクローン一号を見る百合子だが、一号が手に持っている物を見て百合子は眉を寄せた。

 ――銃?

 一号が持っていたのは、片手で扱えそうな小さなハンドガンだった。

「チェックは万全です、とミサカは初の実験に対する意気込みをアピールします」

 そう言いながら銃を構えて四方へと照準を合わせてみせる一号。
 何故銃などを持つ必要があるのか、と百合子は頭に疑問符を浮かべた。

 超能力者レベル5である超電磁砲レールガンは、金属の弾を飛ばす際に銃などという装置を用意する必要はない。
 能力名の通り生身でレールガンを放つことができるはずであり、実際に公園で暴走する第七位と第八位に対して指で弾いたコインを叩き込んだのを見たことがある。
 電気を介して磁力を自在に操り弾丸を手元に取り寄せることができるため、わざわざ複雑な機構で中に銃弾が収められたマガジンを手に持つ必要すらない。

「ところで貴女への発砲許可が下りているのですが本当にいいのでしょうか、とミサカは一応の確認を取ります」

「銃で死ぬ超能力者レベル5なんていねェよ」

 ハンドガン程度で死ぬなら、超能力者レベル5は一軍に匹敵するなどとは言われていない。
 驚異的な演算能力を持つ高位の能力者ならば、一方通行アクセラレーターの『固定』や『反射』などの自動で驚異を探知して能力でそれを防ぐ自動防衛機構を備えている。
 演算能力による能力しようなどという科学的な仕組みを開発されていない第七位と第八位に至っては、身体に銃弾が直撃しても「痛い」と言うだけで済むような超人である。

 超能力者レベル5のクローンであるはずの一号が何故そのようなことを確認するのか思考を巡らせようとする百合子であったが、それを遮るかのように実験室内にブザーの音が鳴り響いた。

『では実験を開始してくれ』

 部屋に備え付けられたスピーカーから、研究者の指示が届く。
 それと同時に、一号は百合子に向けて銃を構えていた。

「先手必勝です、とミサカは攻撃を開始します」

 銃の引き金が引かれ、百合子に向かって真っ直ぐに銃弾が飛ぶ。
 人の動体視力では到底捉えられるはずのない速度で銃弾は百合子の肩口を抉ろうとするが、百合子の制服に触れると同時に銃弾は音もなく『停止』した。

「!?」

 一方通行の能力について何の知識もインストールされていない一号は、それを見て驚愕の表情を浮かべるが、動きを止めることなく連続で銃撃を行った。
 火薬の炸裂音が三発実験室に鳴り響く。が、いずれの銃弾も百合子の肌に触れることなく服の上に貼り付いていた。

「弾を受け止めているのですか? とミサカは一度距離を取り分析を……」

「ふざけてンのかテメェ」

 現在位置を確認しようと視線を動かした一瞬、百合子は一号の真横へと移動していた。
 地に足を付けて立っているのならば誰もが地球からその身に受けている複数の速度ベクトル。それを操り百合子は足を動かすことなく移動することができる。
 突然真横へと現れた攻撃対象を前に、一号は状況を把握できずに固まる。

 それに対し百合子は相手の思考が再開する暇も与えず、一号に向けて指先を押し当てた。
 すると、一号の身体が突然硬直し、手足の筋肉が痙攣を起こし彼女は実験室の床へと倒れ込んだ。

「オイ」

 百合子は指先を触れさせるというたった一動作で終わってしまったこの戦闘結果にあきれ果て、部屋の上方、強化ガラスの向こう側にいる研究者へと声をかけた。

「どういう事だこりゃ。本当に超能力者レベル5のクローンかよ」

 百合子が指先を通じて一号に向けて行ったのは、人間の体内を流れる微弱な電流の操作。
 筋肉を動かす電気のベクトルを操作して、筋肉に強い刺激を与えて痙攣させたのだ。
 自身の身体に流れる電気を完全に掌握できるはずの超能力者レベル5発電能力者エレクトロマスター相手ならば、このようなちゃちな攻撃など通用するはずがない。

『オリジナルとのスペック差には目を瞑ってくれ』

 百合子の疑問に対し、研究者はそう答えを返した。
 スペック差。
 つまり、このクローンはオリジナルの力を再現できていない。
 一号の周囲に独特の電磁波が展開しているのが百合子の能力で感知出来るため、発電能力者であるのは確かなのであろう。
 だが、体内の電流操作という発電能力者の得意分野で簡単に無力化できたのを見るに、彼女は超能力者レベル5どころか大能力者レベル4にすら届いていないだろう。

 拍子抜けだ、と百合子は実験開始前にはあったはずのやる気を完全に失った。

『だがクローンはネットワークを通じて記憶を共有しているので、二万通りの戦闘の間に学習し進化していく』

 ネットワーク。何のネットワークかは百合子にはわからないが、何らかの方法で脳の中身を他のクローンに移し替える方法があるのだろう。
 元より、洗脳装置テスタメントなどという愉快な装置で記憶をインストールしているのだ。驚くほどの事ではない。

『最後の方は君でも苦戦するかもしれんよ』

「逆に言やァずっと雑魚と戦ンなきゃいけねェって事かよ」

 まるでテレビゲームのレベル上げだな、と百合子はちびっこハウスの子供達が遊んでいた携帯ゲーム機を思い浮かべた。

「チッ、テンション下がンぜ。今回はこれで終わりだったよなァ」

 もう百合子には戦闘実験に対する興味はない。
 実験の詳細を聞いて帰ろうと、実験室の扉へと歩いていく。

『ああ、だが第一次実験はまだ終わっていない』

 そんな百合子を遮るかのように研究者の声が部屋に響いた。

『後ろの実験体を処理するまではね』

「……あ?」

 百合子の歩みが止まる。

『武装したクローン二万体を処理する事によって、この実験は成就する』

 淡々と研究者の言葉が実験室に響く。

『目標はまだ活動を停止していない。戦闘を続けてくれ』

「了解…しました」

 そう答えたのは、未だ実験室の床に横たわる一号。

「実験を続行します。とミサカは命令に従います」

 足の痙攣により立ち上がることが出来ないのか、一号は痺れの残る上半身を這わせて、床に転がった銃を拾い上げた。
 対する百合子は、研究者のいる窓へと視線を向けている。

「処理? 活動停止?」

 この実験は戦闘実験だ。
 その実験下における処理とは。

「そりゃつまり……」

 百合子の言葉を遮るように銃声が響く。
 銃弾は彼女の能力の壁に衝突すると、運動ベクトルの全てを奪い取られた。
 ベクトルは彼女の足裏を通じて対衝撃素材で作られた床へ。ベクトルを奪われた銃弾はエプロンの白い記事の前で停止した。

 金属製の弾丸。
 警備員アンチスキルが使うようなゴム弾や電気弾ではない。
 兵器としての銃弾だ。

「……殺せってェことか」

『その通りだ』

 ひどく事務的な声で研究者が答える。
 いらなくなった書類をシュレッダーにかけろと部下に命令するかのような、事務的な声。

 痺れる手で発砲したため、再び銃を取り落とした一号に向かって百合子は無言で歩いていく。
 一号は銃による攻撃は無意味と悟ったのか、能力を使って電気を生み出し床へと流した。
 第一次実験は銃を用いた戦闘実験だが、発電能力を使用することも想定した環境下で行われている。クローンはオリジナルのように空気中に激しい雷撃を走らせるほどの出力はない。
 そのため、実験室の床はそれを補うために電気を流しやすい導体で被覆されていた。

 だが、百合子は床を走る電流を避けることもなく前へと進んだ。
 電撃使いとしての能力で真っ直ぐ百合子の元へと向かう指向性を持った電流は、百合子の能力の支配権へと入った途端に向きというベクトルを乱され霧散した。

 銃と電気という二つの抗う術を失った一号は、目の前に立つ百合子を呆然と見上げた。
 百合子はそんな一号の首へ手をゆっくりと落とし、彼女の意識を完全に断った。

 一号が身体から力を失い床に横たわると同時に、室内にブザーが鳴り響いた。

『ウム、おつかれさま。これにて第一次実験を終了とする』

 クローンが完全に活動停止するまで実験は終わらない。
 それを二万回繰り返すのが、この『絶対能力進化レベル6シフト』。
 未だ生産をされていない一万数千体のクローンを含めて、残り一九九九九体のクローンを殺しつくす実験。

『最初は退屈かもしれんがじきに強くなるからガンガン処理してくれ。なに遠慮はいらんよ』

 百合子を上から見下ろしながら、研究者は告げる。

『相手は薬品と蛋白質で合成された、ただの人形なのだから――』




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まだ超電磁砲六巻を引用しての序盤の序盤段階なので、ライブアライブクロス展開はあと二話お待ちください。


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