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Cerebral secreta: 某科学史家の冒言録 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2004-05-29

[]日本科学史学会年会、2004年、初日

とうぜんながら、ものすごく眠い。しょっぱなから休憩室にいってコーヒーをがぶがぶ飲んで、発表に望んだが、どうも睡眠術をかけようとしているのではないか、というような講演にあたってしまった。Einsteinの平和主義思想を出版された文献からいまさらまとめたって何が嬉しいのかよくわからなかった。別に、出版された文献を対象にしたからといって研究に質が低いというわけではないのだが、そこから引き出されるものに意味がなければならない。ということで、休憩室に早々にもどると、金森修氏の科学史学校での講演がビデオ放映されていて(環境ビデオ?)、こっちのほうがよほど面白かった。が、さすがに私にはちょっと入門的すぎた。で、また講演会場にもどる。小沼道二さんのビキニの水爆についての講演は悪くなかった。この時の水爆のメカニズムを解明したのが、日本の物理学者か、イギリスのRotblattだったか、という話。これもファクト・ファインディングな研究だが、本をみればすぐに分かるという種類のものではないし、アインシュタインの平和思想よりはるかにましである。もちろん、科学史家としてはそこから何が言えるかをねらうところ(例えば外部の研究者がメカニズムを解明するということの意味を論じるとか)だが、小沼氏は物理学者であるし、そういう方が事実関係を明らかにしてくれるのはありがたい。午後の最後は部屋を移って木原氏のモード2批判を聞いて、眠気がだいぶ解消できた。人に論争をふっかけるような講演は、ただこれ一つだった点で貴重だっただろう。だが、いつも思うように、発表時間が少なく、議論がまったく存在しなかった。

この発表時間(15分発表5分Q&A)という形式は理工系の学会に倣ったものだと思うのだが、それが現在でもそのまま定着して残ってしまっている。東工大が今年の年会をホストすると聞いたときに、すぐさまこの点の改善を希望したのだが、時間を短くすることによって多数の発表者を可能にするという説明で、拒絶されてしまった。

いまのところ、科学史学会の年会では、申請すれば、学会員であればかならず発表することができる。審査はまったく存在しない。これは誰でも発表できる場を一つはつくるということらしいのだが、実際にはたんにこの学会には学会発表を審査する能力が存在しないということだろう。学会誌にしても、状況はそれほどかわらないようだし。

昼食は東工大のちかくの中華料理店。ここのランチはとくにおいしいわけではないが、リーゾナブルな値段で、野菜をたっぷりとれ、ご飯は食べ放題なので、週末のランチにはたいていここに行く。東工大関係の人もよくここに来るようである。生協が開いているときには通常そっちへいくが。そこでF先生にあい、原稿がまだできていないことを白状した。イントロダクションの部分の草稿だけ渡して一ヶ月の猶予をもらう。とりあえず編集委員会で査読者のめぼしをつけたいらしい。

昼食を木原氏と討論しながらすませて、午後はまずGUIについての講演。つまらない。なんだか百科辞典の項目を口で言ったような発表である。二番目のソフトウェアについての講演はキャンセルされていたので、その時間をだべってすごす。三番目の講演では、吉本氏のボイルの著書の欄外の注についての講演を聴きに行った。面白い分析の仕方だと思ったが、結論としていまのところそれほどめぼしいものが出ているように見えない。というか、眠気がぶり返してきて、ちゃんと聞けてなかったせいかもしれないが。

その後白川英樹氏の記念講演。やっぱりプレナリーは科学史家でない人間の有名人か、あるいは外国から招待した科学史家、ということになるのだろう。一つには政治的な問題があり、もうひとつは日本には全体講演で聞くほど重要な科学史家はあまり沢山はいないということがある。

話は、彼の研究史のようなもの。簡単に言ってしまえば、Serendipityと異分野との協同が重要な発見に大きな役割を果たしたということ。あたりまえのことだが、ノーベル賞科学者が実例をもって言うと説得力がある。

総会はさぼって東工大周辺を散歩してすごした。東工大の近くなら理学系の古本屋があってもいいと思ったのだが、期待はずだった。

前に書いたが、懇親会はめずらしく出席することにした。だが、まえの晩ほとんど眠っていなかったので、さっさと食事だけして、さっさと帰ってしまった。あのような人の多いところは嫌いなのだ。がつがつ食べていると、最近メアリー・アニングの伝記をだされた某先生に、「たくさん人がいますね」と声をかけられた。頭のさえているときであれば、「それにしてはろくな論文がでませんね」などと悪たれ口を利くところであったが、半分眠っている状態では「そうですね」と気の抜けた返事をするぐらいしかできず、惜しいことをした。

で、初日はおわり。帰りにスーパーによって買い物の後、すぐ寝た。

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