全域が計画的避難区域に指定された福島県飯舘村で、村丸ごとの移住が始まった。古里に戻って生活を再建できる日はいつになるのか。そもそも住民全員の避難は可能なのか。課題は山積している。
村に生まれ育った会社員で3児の父、青木達也さん(37)は広島県への自主避難を決めた。「子供の健康のため遠くに離れたい」。戻る気はないという。
菅野典雄村長は避難する住民を送り出した後、報道陣に「村をゴーストタウンにするつもりはない。あらゆる手を打つ」と語った。避難解除後にどれだけの村民が戻ってくるのか。中越地震で人口が減った新潟県の旧山古志村を引き合いに「7~8割かそれ以上を目指したい」というが、村には不安が広がっている。
村は大幅な人口減を防ぐため、できる限り村周辺の住宅や旅館などへの避難を呼び掛けている。だが、一部の施設に希望が集中し、抽選に漏れる人も出始めた。通勤・通学を踏まえた避難先の希望と用意できた住宅とのミスマッチも多い。
一方、高齢者を中心に、村を離れたくないと考える住民も少なくない。70代の男性は「県外の息子たちから『早く村を離れろ』と言われているが、出るつもりはない」と話す。
村の基幹産業は畜産業だが、これまでに100人以上の畜産農家が廃業を決めている。東電や国から受け取れる補償金額がどれくらいになるのか全く分からない。何より、戻れる時期の見通しも立たない。住民にも自治体にも、将来を描けぬままでの避難生活が始まる。【池田知広、井上英介】
毎日新聞 2011年5月15日 22時42分(最終更新 5月15日 22時51分)