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福島第1原発 計画避難 新しい命、古里へ戻れる日は… 

毎日新聞 5月15日(日)22時42分配信

福島第1原発 計画避難 新しい命、古里へ戻れる日は… 
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病院から退院し避難先で祖母の大内定子さんに抱かれる陽翔くん=福島市吉倉で2011年5月15日午後6時3分、須賀川理撮影
 村で芽生えた新しい命は、いつ古里へ戻れるのだろう。福島第1原発事故に伴う計画的避難が始まった15日。福島県飯舘村から福島市の公務員住宅へ移ったJA職員、大内和夫さん(53)の一家に、生後14日の六男が加わった。原発事故の収束の見通しは不透明で、慣れない団地暮らしが始まる。「何年後か分からないが、この子を古里でのびのび育てたい」。生まれたての笑顔が一家に希望の灯をともした。

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 和夫さんは同村佐須で和牛5頭を飼育し、両親と妻育恵(いくえ)さん(43)、5男1女の子供たちとにぎやかに暮らしてきた。5月1日、11人目の家族となった男の子の名は陽翔(はると)くん。「大変な時期に生まれたが、太陽のもとで明るく羽ばたいてほしい」。家族のそんな思いが込められている。

 育恵さんは出産まで不安の連続だった。余震が続き、原発事故も深刻化。職場で震災対応に追われる夫を残し3月20日、身重の体で6人の子を連れ、栃木県鹿沼市の体育館へ避難した。4月になって自宅に戻ったが、放射性物質が不安で、家に閉じこもった。「(おなかで子供が)動いているから大丈夫とは思っていたが、どんな影響があるか分からないので不安でした」

 和夫さんも「身重で苦労している時に、近くにいられなかった」と悔やむ。5月1日未明産気づき、その日の朝に出産した。2640グラム。分娩(ぶんべん)室に泣き声が響いた瞬間、和夫さんの張り詰めていた気持ちが初めて和んだ。妻もベッドで笑顔を見せた。

 「新しい家族を迎えるのを機に、大内家の再スタートを切ろう」。和夫さんは村に福島市の公務員住宅への避難を申請。抽選でこの日の入居が決まった。「子供たちの健康を考えれば、これで良かった」。和夫さんは自分自身に言い聞かせる。

 ◇ ◇

 15日。一家は午前中に荷造りを終え、昼食のテーブルを囲んだ。和夫さんが言った。「ここでの家族全員の食事も、これが最後かな」

 午後1時過ぎ、村役場での壮行式。菅野典雄村長はあいさつで「残念で、悔しくてならない」とかみしめるように言った。式後、和夫さんの母定子さん(73)は村長に近寄り、涙ながらに訴えた。「計画避難の第1陣に選んでくださり、ありがとうございます。仕方ないと分かっているけど、本当は誰も古里を離れたくないんですよ」。村長は言った。「絶対に戻れる時がくる。信じて待ちましょう」

 午後3時前、一家は福島市の新居に到着した。公務員住宅の間取りは1世帯3DKで、家族11人が2世帯に分かれ暮らす。故郷の自宅は山あいにあり、裏手には水遊びできる川も流れているが、新居は住宅密集地で、緑も少ない。

 午後6時ごろ、育恵さんが病院から陽翔くんを抱き、家族に合流した。すやすや眠る我が子のそばで、和夫さんは窓から住宅地を見下ろした。「今は田植えの時期。夜はカエルの声を聞き、朝は鳥の声で目覚める。ここは犬や牛の鳴き声も聞こえない」

 一家そろって、また古里で暮らしたい。家族みんなが願っている。【細谷拓海、角田直哉】


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最終更新:5月16日(月)0時26分

毎日新聞

 

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