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ローレシアの魔力が、ぐんぐん回復していくのが分かる。
我が子ながら勇者の血を継ぐ力に、驚きを禁じ得ない。
ローレシアは我が子に希望を、未来をたくすと決心した。
「聞こえるか!
冥・竜王!私は降伏する。おまえの城に案内しなさい!」
上空の岩盤にまたたく輝石の星空は、静かにたたずむ。
「グワッワッワ。冥・竜王か? きゃつは死によったわ。
わしがアレフガルドの王となるのだ~。グワ~ワッワッワ~。
そして。
おまえは死ぬ。」
管を王女に向けながらにじり寄る。
「下がれ 下郎!
冥・竜王。これが答えなのか!?」剣を構える。
「このわしを下郎だとォォ!グワア~!人間ごときガァ!跡形も無く溶かしてくれるわ~!」
巨体が押し寄せる。
≪グボォォォ-≫大地から火炎が吹き出し、両者を割る。
「ヘドロ。下がるのだ。」天より、重厚な声がひびく。
「(冥・竜王・・生きておったか~)ヌゥゥ~・・。
・・。冥・竜王様、ご無事でしたか。所在も分からず、御身をあんじておりましたぞ」
「ヘドロ・・
・・・・。
御苦労であった。例の捜索を続けよ」
「ハハァッ 我が君が世を!」
ルーラで、男が降り立つ。
「お目にかかるのは始めてですな、王女様。私は冥・竜王が1子、竜王4世。竜王とお呼び下さい。
(ヘドロをチラリと見つつ)
我が君の城、哭竜城(こくりゅう城)へご案内いたしまする。」
「(竜王・・)」ロダから話には聞いていた。思ったより若く見える。
竜に還化せずとも、人の様の時ですら、その”竜闘気”には、さんざん苦汁を飲まされたと聞く。
二人はルーラで飛んで行き、ヘドロはそれを見上げ
「(本当に冥・竜王なのか?あのエネルギーの渦の中、生き延びたと言うのか。
捜索など後で良いわっ確かめねばなるまい・・っ)」黒い霧へと変化していく。
哭竜城
ローレシアは観察しながら歩く「(飛行中は海上だった。孤島。周囲は霧に覆われている。
城塞大国のベラヌールやデルコンダルが滅ぼされた時、霧に包まれたと聞いている。
移動要塞か。いくら探しても、この城を見つけ出すことは出来なかった。
てっきり、地下にあるものとばかり思っていたのに・・)」多大な犠牲を払ってのロンダルキア攻略は
かろうじて勝利したが、城に大物の姿は無く、目的は果せなかった。戦いには勝ったが、勝負には負けたのだ。
この城(哭竜城)は、実に文化的な作りをしている。至る所に芸術的な装飾が施されていて、緑や噴水など
自然との調和が見事だ。ローレシアには城の一角にある部屋が与えられた。
広い応接室と寝室。南洋風の温泉と庭園。その先にはテラス。
竜王は言う「冥・竜王様は、明後日お会いになられるそうです。なにか用のあるおりは
使いの者に申し付けて下さい。それでは、ごゆるりと」微笑み、後にした。
「(なんと屈託のない笑みなの・・余裕から? 彼には微塵の迷いも邪気も感じられないわ)」
ヒョコッと3体の魔物が前に出てきた。気恥ずかしそうに自己紹介を始める
ももんじゃ「はじめまして。モモンと言います。
王女様の御身周りのお世話を仰せつかりましてございます」
トロル「トロリコよ、よろしく。今日は大宴会!飲むわよォ。王女さん、あたしと飲比べしましょ」
花まどう「トロリコさん、王女様もお一人になりたかろう。後日になさいな。もりじいと呼んで下され」
「アラ、そ~お?ン~じゃぁ、そうしましょ。そのかわり、あの40年物おろしなさいよォ」
「やれやれ、それが狙いでしたか」「ぬふふふ。まぁ~ネ」
モモン「お食事、お口に合わないかもしれませんが、熱いうちにお召し下さいネ。
御用の際は呼び鈴を鳴らして下さい。では失礼いたします」3体とも退室していった。
ただっ広い応接室に静寂が戻り、ローレシアは立ち尽くす―――
竜王は、幾重にも曲り組むループダンジョンの石廊を、ひたすら下りて行く。
おもむろに立ち止まると、かき消えた。
黒い霧は実体化する「・・リレミトか?上がった瞬間、奴と出くわすのもまずいのぉ」
竜王は、高くそびえる扉の前に立っている。竜のサイズで作られているのだろう。
≪ゴゴン。ゴゴン。ゴゴン≫ゆっくりと開く扉の中に入ると、天井の高い幅広い廊下が先まで伸びている。
中ほどまで進むと床が輝き始め、まばゆいばかりの光の中を進み、次の扉を開く。
その奥は、巨大なドームになっている。一方、黒い霧(ヘドロ)は扉の隙間を入って行き、長い廊下を進む。
竜王は石段を登る。
≪ズバババ≫背後の扉の向こうから音が。
「ネズミ。いや、カエルか」ちらりと扉を見る。
魔法実験室内で、ペドロ本体は閉じていた眼を開く「消えた。トラマナは効かぬか。扉は王族しか通すまい
し・・」
ローレシアのテーブル上には、敵に与えるには贅沢すぎる料理が並んでいる。
材料が何か分からないスープにサジを入れ、臭いを嗅いでみる。一口含む。悪くない味だ。
ローレシアは食べ始めた。
窓の外には暗い霧しか見えない。決戦敗北の夜がふける―――
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