京都大原子炉実験所助教(原子核工学)の小出裕章さんが14日、京都市左京区の百万遍知恩寺瑞林院で講演した。市民団体「まちカフェ京都」が「原子力ってホントにいるの」と題して主催。定員を超える約150人が集まり、「脱原発」の必要を語り合った。【太田裕之】
小出さんは米科学アカデミーの委員会報告(05年6月)などを基に「どんなに低線量でも被ばくのリスクはある」と指摘。「生き物と放射線は相いれない。(一般人の人工被ばく年間限度)1ミリシーベルトは我慢しろと決められたもので、安全を意味しない」と強調した。
日本の原発推進について「東京電力も関西電力も自社の給電範囲には原発を作れず、過疎地に押し付けてきた」などと批判。東電福島第1原発事故を「四つの炉で同時進行という人類が経験したことのない事態」と評し、「我々にも原子力をここまで進めさせた責任がある」と述べた。
赤ん坊の放射線感受性は成人の4倍と指摘して「今なすべきことは子供を守ること」と強調。子供の屋外活動制限基準の年間20ミリシーベルトについて「私は許せない。戦時中のような疎開の必要性を真剣に考えている」と語った。
参加者も活発に意見を述べ、小学生の子がいる母親らからは「給食にも適用される暫定規制値(1キロ当たり500ベクレル)は安全か」「京都では雨に打たれても安全か」などの質問が相次いだ。
小出さんは「被ばくで大丈夫・安全との説明は間違っている。我慢しなければいけない状況ということ」と回答。一方で「汚染地の農業を支えるため、大人が食べればいい。『この食品は60歳以上』と表示するなど、子供には汚染の低いものだけを食べさせる仕組みを作らねばならない」と提案した。
小出さんはまた、原発以外の発電設備能力や最大電力需要量のデータを基に「私たちが決断すれば全原発を即刻やめても困らない」と話し、「福島の事故後になお国内で二十数基の原発が動き、それを国民が支持することに絶望しかけている」とも吐露。参加者から「定期点検に入った原発に運転再開を許さない運動もある」などと励ます声も上がった。
毎日新聞 2011年5月15日 地方版