ズガガガッ! ガキンッ!
弾切れの音を派手に上げたアリアが、身をかがめて拳銃に弾倉を差し替える。
「――やったか?」
「射程圏外に追い払っただけよ。ヤツら並木の向こうに隠れたけど……きっとすぐまた出てくるわ」
「強い子だ。それだけでも上出来だよ」
「……は?」
いきなり口調がクールになった俺にアリアが眉を寄せる。
ああ、やっちまうのか――また。
その逡巡は、ほんの一瞬で。
俺はアリアの細い脚と、すっぽり腕に収まってしまう小柄な背中に手を回し、すくっと立ち上がってしまっていた。
「きゃっ!?」
「ご褒美にちょっとの間だけ――お姫様にしてあげよう」
いきなりお姫様抱っこされたアリアが、ぼんっ。
ネコっぽい犬歯の口を驚きに開いて、真っ赤になった。
俺はアリアを抱いたまま跳び箱の縁に足をかけ、バッ、と倉庫の端まで一足で飛ぶ。
そして、積み上げられたマットの上に……ちょこん。
アリアをお人形さんみたいに座らせてやった。
「な、なな、なに……!?」
さっきまでの俺とは一変してしまった俊敏な動きに、アリアは目をぱちぱちさせている。
「姫はそのお席でごゆっくり、な。銃なんかを振り回すのは、俺だけでいいだろう?」
ああ、俺よ。
俺はもう、自分を止められないらしいな。
「あ……アンタ……どうしたのよ!? おかしくなっちゃったの!?」
慌てまくったアニメ声に、かぶせるようにして――
ズガガガガガガンッ!
再び、UZIが体育倉庫に銃弾を浴びせてきた。
だが壁は防弾壁だし、ここはヤツらから見て死角になっている。撃つだけ弾のムダだ。
俺は苦笑しながら……ヤツらの射撃線が交錯する、ドアの方へと歩いていった。
「あ、危ない! 撃たれるわ!」
「アリアが撃たれるよりずっといいさ」
「だ、だ、だから! さっきからなに急にキャラ変えてんのよ! 何をするの!」
俺は半分だけ振り返って、赤面しまくりのアリアにウィンクすると――
「アリアを、守る」
マットシルバーのベレッタ・M92Fを抜いて、ドアの外へ身を晒した。
グラウンドに並んだ七台のセグウェイが一斉にUZIを撃ってくる。
その弾は――
全て、当たらない。
当たるわけがない。
視えるからだ。
今の俺の目には、銃弾がまるでスローモーモーションのように、全部視えてしまうのだ。
いい狙いだ。全て、俺の頭部に照準を合わせてるな。
俺はその一斉射撃を――上体を後ろに大きく反らして、やり過ごしてやった。
そしてその姿勢のまま、左から右へ、腕を横に薙ぎながらフルオートで応射する。
見なくても、放った全ての銃弾の行き先が分かる。
使った弾丸は、七発――
その全てが、UZIの銃口に飛び込んでいくのも、分かる――!
ズガガガガガガガンッ!!
セグウェイたちは全て、その銃座のUZIを吹っ飛ばされた。
俺の、たった七発の銃弾に。あっけなく。
†
「さてと、ここでこの力のことを考えても仕方がない、行くか……」
元セグウェイの残骸を見ると、遠くから銃撃戦の音が始まった方へ急がずに進んでいった。
一度は止み、再び始まった銃撃戦の音を聞きながら、ふと思う。
キンヤがあの力を使えば、すぐにでもこんな争い終わらせられるはずなのになぜ使わないんだ?
俺たちが平和に暮らす場所なんてどこにもないはずなのに……
いや、昔の俺には近い場所はあった。
明石家――あそこだけが俺の平和だった。義理父に義理母、澪華がいてこんな俺でも温かく迎えてくれた居場所。
でも、その居場所はズタズタに壊された。たった数人の強盗グループの手によって――そのときの出来事は今でも覚えている。
去年の冬頃に家族遠出で遊びに行った帰りのことだった。
帰りも遅いから、外食して帰るという話で俺たち兄妹は少なからず喜んでいた。
極一般の家庭なので外食するなんて機会は滅多にないから余計に浮かれていたのかもしれない。
話がまとまりそこそこ名のある和食店で食事するということになり、そこに向かった。
名のあるというだけあって車が多く止まっていたが人の出入りは皆無に近かった。
冷静になって考えていれば、あの事件は回避できていたのではないかと今でも胸が痛む。
俺たち家族は人影のない駐車場に車を止めると、店の中へと仲良く入っていった。
入ってすぐに異変に気づいた。いらっしゃいませのいの声も聞こえてこない。その変わりに冷たく銃口を向ける音が響いたのだから。
†
折り重なるようにして倒れたセグウェイたちが全て沈黙しているのを確かめると、俺は体育倉庫に戻った。
中ではアリアがなぜだか跳び箱に入り直していた。
跳び箱から上半身を出した状態で、『今、私の目の前でなにが起きたの?』という顔をしている。
そして俺と目が合うと、ぎろ! と睨み目になって、モグラ叩きみたいに跳び箱の中へ引っ込んでしまった。
……なんだ。
何でか、起こっているようだ。
「お、恩になんか着ないわよ。あんなオモチャぐらい、あたし一人でも何とかできた。これは本当よ。本当の本当」
強がりながらアリアは、ゴソゴソ。何やら跳び箱の中でうごめく。
どうやら服の乱れを直しているらしい。
だが……それは難しいだろう。さっきお姫様抱っこした際に見てしまったのだが、アリアのスカートは最初の爆風のせいか、ホックが壊れてしまっていた。
「そ、それに、今のでさっきの件をうやむやにしようたって、そうはいかないから! あれは強制猥褻! レッキとした犯罪よ!」
と、アリアは跳び箱の指を突っ込む穴から紅い瞳でこっちを睨んでくる。
「……アリア。それは悲しい誤解だ」
俺は――シュルッ……と。
ズボンを留めるベルトを外して、跳び箱に投げ入れてやった。
「あれは不可抗力ってやつだよ。理解してほしい」
「あ、あれが不可抗力ですって!?」
アリアは跳び箱の中から、俺のベルトで留めたスカートを押さえつつヒラリと出てきた。
ふわ。見るからに身軽そうな体が、俺の正面に降り立つ。
え……。
立ったのか? それで?
というぐらい、やはりアリアはちっこかった。ツインテールを留めているツノみたいな髪飾りで上乗せしても、一四五もなかったのだから。
最初の方に滅多に更新しないと言っておきながら最近バンバン更新しております。
さてさて、キンヤくんの過去話は長くなるので妙なところで区切ってしまいましたが……正直、次回が過去話になるのかまだ決めてないのですね~。
まあ、次回がどうなるか楽しみにしていて下さい。って言っても内容は本編に沿っているんですけど。
では。
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