菅直人首相が6日、浜岡原発の全ての原子炉の運転停止を中部電力に要請した問題は、大きな波紋を社会に広げた。
各紙は7日、さらに中部電力が要請受諾を決めた翌日の10日社説で取り上げた。中長期的な日本社会のエネルギー政策にもかかわる問題だ。
東京電力福島第1原発の深刻な事故を受け、原発政策の転換を打ち出した毎日は、先月15日付社説で浜岡原発の名前を挙げて懸念を表明していた。それゆえ菅首相の要請について「決断を評価したい」と述べたのは、当然の流れと言える。
同様に明確に原発政策の転換を主張する朝日も、要請を妥当だとし「『危ない原発』なら深慮をもって止めるという道への一歩にしたい」とした。
一方、首相の要請に「唐突」との言葉を使ったのが日経と産経だ。日経は、「電力需給の実情を踏まえ、国民に説明する責任がある」と政府に注文し、産経は「諸外国からは、日本が原発を否定したと受け止められる恐れがある」と懸念を示した。両紙は要請自体の妥当性には言及しなかった。
読売は、7日付で、福島第1原発の事故を踏まえ「やむを得ない。中部電力は首相の要請を受け入れるべきだ」と論評。だが、10日付では「首相の要請は事前調整もなく、あまりにも唐突だった」と指摘し、説明不足への反省を求めた。
浜岡原発が立地する静岡や中部電力本店のある愛知の地元紙である静岡新聞、中日(東京)新聞は、どう論評したのか。
静岡は7日付で「地元の意見を十分にくみ取った上での決断ならば、要請は妥当だろう」とする一方で、首相の説明について「やや唐突で方向性と説得性に欠けた」と批判した。また、10日付では「県民に安心・安全を納得してもらうための決断として受け止めたい」とした。
一方、中日は、10日付で「浜岡原発を止める判断は、住民の不安を思えば無理もない」としつつ「唐突な要請だった。その場しのぎと見られても仕方ない」と首相を批判した。
地元住民の意向を根拠の一つに中部電力の決断に理解を示しながら、首相の要請には問題あり、とのスタンスは両紙にほぼ共通するように思える。
毎日は10日付で「電力不足が他の地域にも広がる可能性がある」とし、必要な電力をどう確保し供給するのか政府が明確な方針を示し、対応策をとるよう求めた。政府の今後の姿勢を厳しく問う視点は、各紙にもみられた。【論説委員・伊藤正志】
毎日新聞 2011年5月15日 2時30分