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きょうの社説 2011年5月15日
◎白山の保全と活用 国立公園でも地域が主体に
石川、富山、福井、岐阜の4県にまたがる白山国立公園の生態系を守るため、環境省は
石川県と、4県の官民で構成する環白山保護利用管理協会を事業の担い手として認定した。生物多様性国家戦略のなかで自然公園法も見直しを迫られ、昨年度の法改正で生態系維 持回復事業が盛り込まれた。生態系保全に国以外の機関が主体になることが可能となり、今回の認定はそれに基づく全国初のケースとなる。 白山ではオオバコなど低地性植物の繁殖が広がり、本格的な除去対策に乗り出している が、これまでは実施するたびに国の許可が必要だった。煩雑な手続きを経ずに自治体が主体的に除去できるようになったのは一歩前進といえる。 枯れ枝や小石一つを取り除くにも許可がいるような国の規制は、徐々に見直しが進んだ とはいえ、地方分権論議のなかでは国立公園行政の許認可権の多くを地方に移管する方向性が示されている。今回の法改正を生物多様性への対応にとどまらず、国立公園をめぐる国と地方の役割について議論を深める契機にもしたい。 法改正に合わせ、見直しが進む白山国立公園管理計画でも、オオバコやセイヨウタンポ ポなどの外来植物の除去は管理の大きな柱となる。白山国立公園はユネスコの生物圏保護区に指定され、自然の希少性は国際的にも折り紙付きである。県などは登録ボランティアによる除去や分布調査を行ってきたが、さらに取り組みを充実させ、事業主体としての信頼を高める必要がある。 白山では加賀、越前、美濃の3馬場(信仰の拠点)から通じる禅定道の整備が進むなど 白山信仰の文化遺産に光が当たり、「霊峰」という側面から宗教的、歴史的な価値を再評価する動きが広がっている。そうした自然公園法の枠に収まらない白山の魅力を地域が積極的に引き出し、山岳国立公園としての姿を地域の視点から性格付けることは極めて大事である。 来年は白山が国立公園に指定されて50年の大きな節目を迎える。白山を取り巻く4県 も将来的な権限移譲を視野に、白山を中心とした広域行政の体制づくりを強化するときである。
◎電力不足対策 自家発電力のフル活用を
東日本大震災に伴う電力不足対策として、自家発電設備を目いっぱい稼働させ、電力会
社への余剰電力の供給を増やす企業が相次いでいる。政府も今年度第1次補正予算で、自家発電設備を新増設する企業に補助金を支給する制度を設け、支援を強めているが、国へ届け出義務のある自家発電設備は出力が1千キロワット以上のものであるため、事業所の自家発電状況を正確につかみ切れていないのが実情であり、休止中の設備も多いとみられる。東京電力などの電力供給力引き上げを確実にするためにも、出力1千キロワット未満の設備も含めた全体の自家発電能力と売電可能な余剰電力を把握し、フルに生かしてもらいたい。国内では1995年からの電力自由化で、化学、鉄鋼、紙パルプなど大規模発電設備を 持つ企業が余剰電力を顧客に販売する特定規模電気事業者(PPS)として電力市場に参入するようになり、PPS以外にも必要電力を自家発電で賄う企業が増加した。2万キロワット以上の発電設備を持つ企業で組織する大口自家発電施設者懇話会には54社・1団体が加入し、総出力は1774万キロワットに達する。 経済産業省のまとめでは、全国の自家発電・自家消費電力量は、2004年度のピーク 時で約1310億キロワットを記録した。しかし、原油価格の高騰で発電コストが電力会社の電気料金より割高になったため、その後、減少傾向をたどった。大口電力需要全体の自家発電比率は最高時の30%から08年度で27%に低下している。 石川、富山県を含む中部経済産業局管内の自家発電力量は、04年度で187億キロワ ット、09年度で160億キロワットという状況である。 燃料高騰で頭打ちだった企業の自家発電が、電力不足で再び勢いを増し、発電装置のメ ーカーも息を吹き返した形になっている。それでも、原油や天然ガスなどの燃料の国際需給動向や価格不安はぬぐえず、企業の自家発電の先行きは見通せない。政府は深刻な電力不足を機に、現在の電力供給体制における自家発電の位置づけや、今後の電力自由化の進め方について再検討してもらいたい。
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