※このSSは喫煙者向けSSとなっております。
タバコ、喫煙などに嫌悪感がある方は注意をお願いします。
最近の世の中というものは喫煙者にとって厳しい世界になってしまった。
歩きタバコは区によっては犯罪になり罰金を徴収され、ファミレスなどの飲食店では完全禁煙になってしまっている場所さえある。
まあ歩きタバコはそもそも列記としたマナー違反でありそれを禁止にしたところで文句はない、むしろ賛成だ。
公衆の場での完全禁煙もやぶさかではない。非喫煙者に取ってタバコの煙は迷惑以外の何者でもない。
タバコは百害あって一利なし。そんなものを好き好んで嗜んでいるのだから喫煙者は他人のことをもっとしっかりと考えて吸うべきだ。
マナーを守って清く正しくタバコを吸う。それが出来ないのならばタバコなんて嗜む資格はない。
いっそ免許制にでもしてしまえばいい。そうなったらなったで色々と面倒だろうが〝オシャレ〟でタバコを吸う輩などが減りそうで意外と悪くない考えなんじゃないだろうか。
だから日本政府さん、免許制とかそんな感じにガチガチに縛っていいからタバコの値上げだけは止めてください。
これ以上値上げされると生活に支障が出るから。1000円札で俺の愛するラッキーストライクが3つ買えないとかありえないから。
――と、ただのタバコ好きな喫煙者の一人に過ぎない自分がそんなどうしようもないことに憂いているのは理由があった。
まあ速い話が『現実逃避』。そう、俺はつい先ほど目の前で起きた〝超常現象〟から目を背けるべく、喫煙という理について考えることにより〝それ〟から思考を無理やりにでも遠ざようとしているのだ。
「ちょっと〝オーナー〟! さっきから話しかけてるんですから無視しないでくださいよー!」
聞こえない。俺にはなんにも聞こえない。
そう、聞こえるはずがない。これは幻聴なのだ。もしくは俺の頭に出来た病気が見せる幻影とか電波とか、そういう類のものだろう。
だってそうだろ?
俺を〝オーナー〟と呼ぶ、何故かラッキーストライクのロゴマークがプリントされた、外国の傭兵が身に着けていそうなアーミージャケットを着こなした〝小学生っぽい女の子〟が、オンボロアパートの一室にある1LDKの〝俺の部屋〟にいていいはずがないのだから。
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〝事〟の発端はいつもと変わらない些細な日常の1ページからだった。
仕事から帰宅しカバンとスーツの上着を布団の上に放り投げ、今日も頑張ったなぁと一日の記憶を思い返しながらタバコに火をつけたその瞬間。
まるで、ファンタジー映画のように〝タバコの煙の中から〟その〝幻覚〟は現れた。
いや、表れたというよりは〝落ちてきた〟という方が正しいだろう。逆さで床にダイブし頭を打ってぴよぴよと漫画のようにひよこのワッカを作っていたのだから。
その光景をみた瞬間、口に加えていたタバコをつい床に落としてしまったのは仕方のないことだ。
わけがわからなかった。脳の理解出来る範疇を軽く超えていた。
もっとも、その幻覚が最初に発した一言に比べれば、まだ〝マシ〟ではあったのだけれど。
「痛たたた……はっ!? こ、これは見苦しいところを見せました!
始めましてオーナー! 私は〝ラッキーストライクの精霊〟です! 名前は〝ラキスト〟といいます!」
ラッキーストライクの精霊。
ラッキーストライクの精霊?
ラッキーストライクの精霊!?
「…………は、はぁ」
俺が精一杯頑張って呟けたのは、そんな一言だけだった。
――いま思い返してみても、意味がわらない。本当にわけがわからない。
ラッキーストライクの精霊ってなんなんだ。タバコの精霊じゃないのか。だったらマイルドセブンの精霊とかいるのか。
しかも名前がラキストって、それただの略称じゃねぇか。あとオーナーってなんだよ。いや、俺は確かにラッキーストライクを吸っているけども。
しかもそのラッキーストライクの精霊とやら、見た目がかなり幼い。どう見ても小学生、しかも低学年にしか見えないのだ。
クリっとした凛々しい目。精巧な人形のように美しい顔の作り。腰まである長いブロンドの長髪。
10人中10人が彼女を見れば美少女と答える容姿。
ジュニアモデルでもここまでの美人はいないのではないかと思えるくらいだ。
しかし、その美しい顔もその少女の服装である意味台無しになっているといえなくもないだろう。
まるで外国の軍人や傭兵が身に着けているような、アーミージャケット。
胸の部分には大々的にラッキーストライクのロゴマークがプリントされている、アーミージャケットである。
しかも少女の小さい体にサイズがあっておらず、かなりダボダボだ。
だが全くに似合ってないようで、どこか着こなしていると思ってしまうのは何故だろう。
俺のファッションセンスが悪いのだろうか? それとも目が悪いのか、頭が悪いのか。おそらく後者だ。
「もー! オーナー! 聞いてるんですか!?」
聞いてません。というか聞きたくありません。これは幻覚、幻聴。聞こえてはならないものなのだから。
ありえないありえない、ありえねぇよまじで。
……とりあえず、その幻覚を無視して一服することにしよう。先ほどのタバコは落としてしまったので新しいのを吸おう。
箱からタバコを口で取り出して、愛用のジッポで火をつけようとしたが……。
「……つかねぇ」
火がつかない。オイル切れか? そういえばさっきつけた時もかなり火が弱々しかったな。
オイル缶、どこに置いたっけ。
「ガス切れですか? オーナー、どうぞ!」
そういって懐からライターを取り出し、火をつけ俺の口元に持ってくる〝幻覚〟の少女。
しかもそのライター、なんとナチュラルアメリカンスピリットの刻印が掘られていた。
うわ、凄く欲しいんだけどそれ。いい趣味してるなこの幻覚。
「……あ、ども」
なんとなく、軽く会釈して軽く息を吸いながらタバコに火をつける。
途端、口の中に充満するラッキーストライクの香りと煙。
一旦その煙を吐き出して、もう一度ゆっくりと煙を肺に入れていく。
バチバチとタバコの先端が小さく燃焼する。
かすかな甘みと苦味が交じり合った、無骨な味。
俺の最初の〝相手〟にして、今日まで吸い続けて来た不動の味わい。
ガツンと肺に溜まる重圧感が堪らない。
「――ふぅー」
ああ……旨い。
「――――なんで火がつくんだよ幻覚なのによぉー!?」
「うひゃい!?」
これは、どこにでもいるラッキーストライクを愛する喫煙者と、そのラッキーストライクの精霊を名乗るアーミー少女織り成す、他愛のないお話である。