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[25692] 【ネタ】俺のタバコがこんなに可愛いわけがない【喫煙者向けSS】
Name: 槍◆bb75c6ca ID:faa99175
Date: 2011/01/30 00:10

 ※このSSは喫煙者向けSSとなっております。
  タバコ、喫煙などに嫌悪感がある方は注意をお願いします。



 最近の世の中というものは喫煙者にとって厳しい世界になってしまった。
 歩きタバコは区によっては犯罪になり罰金を徴収され、ファミレスなどの飲食店では完全禁煙になってしまっている場所さえある。

 まあ歩きタバコはそもそも列記としたマナー違反でありそれを禁止にしたところで文句はない、むしろ賛成だ。
 公衆の場での完全禁煙もやぶさかではない。非喫煙者に取ってタバコの煙は迷惑以外の何者でもない。
 タバコは百害あって一利なし。そんなものを好き好んで嗜んでいるのだから喫煙者は他人のことをもっとしっかりと考えて吸うべきだ。

 マナーを守って清く正しくタバコを吸う。それが出来ないのならばタバコなんて嗜む資格はない。
 いっそ免許制にでもしてしまえばいい。そうなったらなったで色々と面倒だろうが〝オシャレ〟でタバコを吸う輩などが減りそうで意外と悪くない考えなんじゃないだろうか。

 だから日本政府さん、免許制とかそんな感じにガチガチに縛っていいからタバコの値上げだけは止めてください。
 これ以上値上げされると生活に支障が出るから。1000円札で俺の愛するラッキーストライクが3つ買えないとかありえないから。



 ――と、ただのタバコ好きな喫煙者の一人に過ぎない自分がそんなどうしようもないことに憂いているのは理由があった。
 まあ速い話が『現実逃避』。そう、俺はつい先ほど目の前で起きた〝超常現象〟から目を背けるべく、喫煙という理について考えることにより〝それ〟から思考を無理やりにでも遠ざようとしているのだ。

「ちょっと〝オーナー〟! さっきから話しかけてるんですから無視しないでくださいよー!」

 聞こえない。俺にはなんにも聞こえない。
 そう、聞こえるはずがない。これは幻聴なのだ。もしくは俺の頭に出来た病気が見せる幻影とか電波とか、そういう類のものだろう。
 だってそうだろ?
 俺を〝オーナー〟と呼ぶ、何故かラッキーストライクのロゴマークがプリントされた、外国の傭兵が身に着けていそうなアーミージャケットを着こなした〝小学生っぽい女の子〟が、オンボロアパートの一室にある1LDKの〝俺の部屋〟にいていいはずがないのだから。



 ■■■



 〝事〟の発端はいつもと変わらない些細な日常の1ページからだった。
 仕事から帰宅しカバンとスーツの上着を布団の上に放り投げ、今日も頑張ったなぁと一日の記憶を思い返しながらタバコに火をつけたその瞬間。

 まるで、ファンタジー映画のように〝タバコの煙の中から〟その〝幻覚〟は現れた。
 いや、表れたというよりは〝落ちてきた〟という方が正しいだろう。逆さで床にダイブし頭を打ってぴよぴよと漫画のようにひよこのワッカを作っていたのだから。

 その光景をみた瞬間、口に加えていたタバコをつい床に落としてしまったのは仕方のないことだ。
 わけがわからなかった。脳の理解出来る範疇を軽く超えていた。
 もっとも、その幻覚が最初に発した一言に比べれば、まだ〝マシ〟ではあったのだけれど。

「痛たたた……はっ!? こ、これは見苦しいところを見せました!
 始めましてオーナー! 私は〝ラッキーストライクの精霊〟です! 名前は〝ラキスト〟といいます!」

 ラッキーストライクの精霊。

 ラッキーストライクの精霊?

 ラッキーストライクの精霊!?

「…………は、はぁ」

 俺が精一杯頑張って呟けたのは、そんな一言だけだった。



 ――いま思い返してみても、意味がわらない。本当にわけがわからない。
 ラッキーストライクの精霊ってなんなんだ。タバコの精霊じゃないのか。だったらマイルドセブンの精霊とかいるのか。
 しかも名前がラキストって、それただの略称じゃねぇか。あとオーナーってなんだよ。いや、俺は確かにラッキーストライクを吸っているけども。

 しかもそのラッキーストライクの精霊とやら、見た目がかなり幼い。どう見ても小学生、しかも低学年にしか見えないのだ。
 クリっとした凛々しい目。精巧な人形のように美しい顔の作り。腰まである長いブロンドの長髪。
 10人中10人が彼女を見れば美少女と答える容姿。

 ジュニアモデルでもここまでの美人はいないのではないかと思えるくらいだ。
 しかし、その美しい顔もその少女の服装である意味台無しになっているといえなくもないだろう。

 まるで外国の軍人や傭兵が身に着けているような、アーミージャケット。
 胸の部分には大々的にラッキーストライクのロゴマークがプリントされている、アーミージャケットである。
 しかも少女の小さい体にサイズがあっておらず、かなりダボダボだ。

 だが全くに似合ってないようで、どこか着こなしていると思ってしまうのは何故だろう。
 俺のファッションセンスが悪いのだろうか? それとも目が悪いのか、頭が悪いのか。おそらく後者だ。

「もー! オーナー! 聞いてるんですか!?」

 聞いてません。というか聞きたくありません。これは幻覚、幻聴。聞こえてはならないものなのだから。
 ありえないありえない、ありえねぇよまじで。

 ……とりあえず、その幻覚を無視して一服することにしよう。先ほどのタバコは落としてしまったので新しいのを吸おう。
 箱からタバコを口で取り出して、愛用のジッポで火をつけようとしたが……。

「……つかねぇ」

 火がつかない。オイル切れか? そういえばさっきつけた時もかなり火が弱々しかったな。
 オイル缶、どこに置いたっけ。

「ガス切れですか? オーナー、どうぞ!」

 そういって懐からライターを取り出し、火をつけ俺の口元に持ってくる〝幻覚〟の少女。
 しかもそのライター、なんとナチュラルアメリカンスピリットの刻印が掘られていた。
 うわ、凄く欲しいんだけどそれ。いい趣味してるなこの幻覚。

「……あ、ども」

 なんとなく、軽く会釈して軽く息を吸いながらタバコに火をつける。
 途端、口の中に充満するラッキーストライクの香りと煙。

 一旦その煙を吐き出して、もう一度ゆっくりと煙を肺に入れていく。
 バチバチとタバコの先端が小さく燃焼する。

 かすかな甘みと苦味が交じり合った、無骨な味。
 俺の最初の〝相手〟にして、今日まで吸い続けて来た不動の味わい。
 ガツンと肺に溜まる重圧感が堪らない。

「――ふぅー」

 ああ……旨い。






「――――なんで火がつくんだよ幻覚なのによぉー!?」

「うひゃい!?」



 これは、どこにでもいるラッキーストライクを愛する喫煙者と、そのラッキーストライクの精霊を名乗るアーミー少女織り成す、他愛のないお話である。



[25692] 一本目『ラッキーストライクの緑は戦場に行った』
Name: 槍◆bb75c6ca ID:0f320504
Date: 2011/05/13 13:13
 これが幻覚ではなく、現実であると100歩譲って容認しよう。
 ラッキーストライクという由緒ある煙草の“精霊”とやらがなぜか子供の姿なのも1000歩譲ってよしとしよう。
 だが、だ。

「お願いします! 人助け、もとい煙草助けだと思って――私をこの家にしばらく住ませてください!
 私に出来ることならなんでもします! ですから……ですから! どうかお願いしますー!」

 と、土下座する勢いで頭を下げられてもそれだけは、聞けない。これ以上は、何歩たりとも譲れない。
 主に――世間体的な意味で。



 ■■■



 『せめて、せめて話くらいは聞いてください!』とラキストが食い下がるので嫌々ながら事情を聞いてみると、これがまた精霊らしいメルヘンな話だった。
 いわく、ラキストは『煙草の国』というこの世界とは別の世界からやって来たそうだ。俺はその時点で聞く気を無くしていたが、まあ仕方ないと我慢して、長くなりそうなので煙草を吸いながら聞き続ける。

 煙草の国ではこの世界の煙草の銘柄の名前の妖精がそれぞれいて、みんながみんな煙草を美味しくする為の修行をしているらしい。なんとも俺のような煙草大好きな喫煙者にとってはありがたい話である。
 果たして生産工場で作られている煙草の味が彼女たちの努力でどう美味しくなるのかを知りたいところだが。

 まあそれは置いておいて、ラッキーストライクの精霊である彼女もまた煙草の国で修行を重ねていた1人なのだが、ごく最近その身体に異常が起きたそうだ。
 “見た目が幼児化”し“精霊としての能力が失われていく”という異常が。

 元のラキストはアメリカ産らしくボンキュッボンのそれはもうグラマラスなハリウッド女優並の容姿だったそうだが、いまはその異変によって幼女化している、らしい。それが真実ならば大変残念なことである。
 見た目が幼女化してしまっても彼女は『私の役目は変わらない!』とめげることなく修行を続けようとしたが、そこで第二の異変が起こった。さきもいったと思うが、精霊としての能力が失われ始めた。精霊の能力、ラキストがいうには『シガレット☆マジック』というらしいが、それが使えないと精霊としての“存在”自体が徐々に薄くなっていき、最後には消えてしまうのだ。

 途方にくれたラキストは彼女達のリーダーである“大精霊”に相談してみたところ、『私の占いによればその原因と解決方法は人間界にあるようです。ラキストよ、ラッキーストライクをこよなく愛する人達の為に、そしてあなた自身の為に人間界へと渡りなさい』と言われ、いまにいたる。

 ……なんともまあ滅茶苦茶な話だなぁ。シガレット☆マジックってなんだよ。☆をつけるな☆を。

「というわけで、私は人間界ではやく原因を解明して力を取り戻さなくては駄目なんですよ! このままだと消えてしまうんです!」

 と涙ぐむラキスト。ううむ、どうやら本当の話っぽいな。

「そっか、大変だね。じゃあ頑張って」

 俺はそんな健気なラキストを応援しつつ猫のように襟首を掴んで玄関へと移動する。おお、めちゃくちゃ軽いなこいつ。

「めっちゃ人事じゃないですかオーナー!? というか私をどこに運ぶ気ですか!? 玄関に向かってますよねこれ!?
 追い出す気まんまんじゃないですか!?」

「いや確かに可哀想だと思うし頑張ってとは思うがお前のホームステイ先って別に俺の家じゃなくてもいいだろう」

 そう、そこだ。なんでこいつが俺の家にいたいのかがわからない。話を聞く限り俺の家にいる必要性はないのだ。

「オーナーじゃないと駄目なんです! 私達精霊にはそれぞれの煙草をこよなく愛する人かつ“波長”のあう人間の傍にいないと長く人間界にいられないんです!
 オーナーの波長は私とぴったりなんです! しかも波長の合う人間ってその中のさらに10万人に1人くらいなんですよ! これはもう運命です! 運命共同体です!」

「勝手に人を運命共同体扱いするな!?」

 10万人に1人って……うーん、確かに日本でラッキーストライクをこよなく愛する人の中で10万人に1人だったら俺以外を探すのは厳しいのかもしれないな。

「ならアメリカに行ってくれ。お前もその方がいいだろ」

 あそこなら人口も多いし本場だしで1人はいるだろ。そいつが俺みたいに拒否しても責任は持たないけど。

「いやですよ! アメリカなんていったらすぐに銃とかで撃たれるに決まってるじゃないですか!」

「お前の生まれ故郷だろ!? なに偏見で判断してんだよ!?」

 そんな物騒じゃないだろ!? アメリカ人って!?

「私は生まれてからちょっと立って、一時期修行の為に人間界、それもアメリカに来たことがあるんです!
 その時の波長の合うオーナーがアメリカ人でした……彼自体はいい人だったのに……いい人だったのに……アメリカ人怖いアメリカ人怖い戦争怖い戦争怖い……」

 がたがたと震えるラキスト。こ、こいつ前にアメリカでなにを見たんだ。戦争って……。

「 "Lucky Strike Green has gone to war!" ラッキーストライクの緑は戦場に行ったんですぅぅぅぅぅ! うわーん! ジャック! ジャックゥゥゥ! そこには地雷があるんですよー! 行っちゃだめー!」

 一体なにがあったんだジャックー!? つーか第二次世界大戦のときの緑インクが足りなくなったときの煽り分だろ!?
 こいつなんてタイミングでアメリカいっちゃってんだよ!? アメリカ史の中でも最悪の時期だぞそれ!?
 こいつ『幸運直撃』って名前してるわりには運がねえなおい!

「だからお願いですオーナー! どうか見捨てないでください! 私が消えたらラッキーストライクの味が落ちちゃうんですよ!?」

「お前の生死がなんでラッキーストライクの味に関わるんだよ!?」

「概念! 概念です! 私という概念はラッキーストライクという概念に概念してまして因果律が概念で因果してるんです!」

 さっぱり意味がわからねぇ!?

「オォォォォナァァァァ!」

「うるせー! 誰かに見つかったら俺が困るんだよ! いいから出てけよー!」

 こんな外人の美少女を家に住まわせてますなんてばれて見ろ、それこそ警察呼ばれるわ!
 くそっ、全然俺の脚からひっついて離れねぇ!? 体重が馬鹿みたいに軽いくせになんだこの力は!?



 ピンポーン。



 びくっ! と俺とラッキーストライクが大きく震えた。ちゃ、チャイム……だと……? やばっ!?

「おーい、新庄くーん? なんだかうるさいけど誰かいるのかい?」

 うわっ、あの声はお隣さんの立花さんだ!? やばいやばいやばい!? あの人だけはやばい! 警察を呼ばれる心配はないが、マジで警察の厄介になってしまう可能性が大だ!

「ん? 鍵は開いてるな。新庄くん入るよー」

 入ってくんなあああああああああああああああぁ!?



 ■■■



「ほう、煙草の精霊さんか。私は立花あすかだ。よろしくねラキストちゃん」

「はい! よろしくお願いします!」

 と握手をかわしあうラキストと立花さん。最悪だ……。

「それにしても酷いじゃないか新庄くん。こんなに可愛い子を追い出そうとするなんて。
 聞けばこの子はどうしようもなくなった状況で君を訪ねて来たらしいじゃないか。
 それがラッキーストライクを何よりも愛する君のすることかね?」

 なんで俺が怒られてるんだろう。

「そうですよ! タチバナ! もっといってやってください!」

「ああいいともラキストちゃん。それと私のことは苗字じゃなくて名前で呼んでくれないかな?
 私は君みたいな可愛い女の子に名前で呼ばれるのが大好きなんだ」

「わかりました! あすか!」

「――――くっ……か、可愛い……」

 ぶるぶると先ほどのラキストのように震えだす立花さん。ラキストと違うところといえばそれが恐怖か歓喜かだ。
 立花あすか。25歳の女性で独身。俺の部屋のお隣さんでともに煙草好きとして馬があっている。
 好きなものは“可愛い女の子”。ちなみに母性的な意味ではない。“性的な意味で”可愛い女の子(それも幼女といわれる部類)が好きないわゆる“レズ”と呼ばれる人である。

 ちなみに話すと長くなるので省略するが、“マジ”で1人の幼女を“誘拐”したことのある前科持ち。
 まああれはいろいろあったんだけど。

 ……俺のいえることは1つ。ラキスト、悪いことはいわない――逃げろ。

「ところでラキストちゃん、君のほかにも煙草の精霊は沢山いるといっていたけれど、それはやっぱりセブンスターにもいるのかな?」

 おもむろに懐からセブンスターの箱を取り出し、マッチで火をつける立花さん。
 立花さんはいまどきマッチ棒でライターに火をつける古風な人だ。ジッポなどはオイルの匂いが嫌いらしい。
 俺がラッキーストライクを愛するように、彼女はセブンスターを愛している。
 ラッキーストライクの精霊が目の前にいるのだからまあ気になるのは当然だろう。
 ……欲望、だだもれだけどな。

「はい、もちろんいますよ! 彼女は日系の麗人で、格好よくて私もあのきれいな黒髪には憧れてるんですよ」

 ほう、セブンスターの精霊は日系の麗人か。カッコいい女性って感じなんだろうな。あー、なんかわかる気がする。

「へぇ、ちなみに見た目は君くらいに幼いのかい?」

「いえ、成人した大人の女性って感じですね!」

「……なんだ、大人か……」

 あらかさまにがっかりするなよ。

「私も小さくなってなかったらナイスバディの大人ですけどね!」

「ラキストちゃん、君はそのままの姿が一番美しいよ」

「あすか! そんなに褒められると照れちゃいます!」

 照れんな褒めんな。
 はぁー、しっかしこれはラキストを俺の家に住ませるのはほぼ確定してしまった気がする。
 立花さんがめちゃくちゃ気に入ってるしな……これを逃す彼女じゃないことは嫌でも知ってるし。

 ああああ、俺の、俺の静かな1人暮らしが……。

「……ん?」

 絶望に打ちのめされ、ふともくもくと立ち上がるセブンスターの煙を何気なく見ていると。
 その中になにやら黒い影が現れた。それは、俺が少し前にラッキーストライクで一服していたときにラキストが現れた瞬間と酷似していて。

 ――まさか、だよな。

「おや?」

「あれ?」

 ラキストと立花さんも気づいたようだ。
 2人が気づいた次の瞬間だった。その黒い影からボロっと飛び出してきたのは――。

「……せ、セッター!?」

「ラキスト!? ラキストなの!? うわーん! ラキストー! 私もちっちゃくなっちゃったよー!」

 そう泣き叫ぶ、日系の可憐な幼女だった。
 隣で立花さんがガッツポーズをしていたのは、いうまでもないだろう。



[25692] 二本目『幸運をもたらす程度の能力』
Name: 槍◆bb75c6ca ID:0f320504
Date: 2011/05/13 13:13
「うぐぅ、ひっぐ……ラキストがぁ、人間界に行ってすぐにぃ、私の体も……縮んでぇ、シガレット☆マジックが使えなくなってきてぇ! うわーん!」

「泣かないでくださいセッター! いつもの強気でカッコいいあなたはどこに行ったんですか!」

「まあいいじゃないかラキストちゃん、どんな子だって泣きたいときもあるものさ。
 よしよしセッターちゃん、お姉さんの胸で気が済むまで泣くといい」

「あ、ありがとうオーナー! うえええええぇん!」

 立花さんの胸にうずくまって大泣きするセブンスターの精霊セッター。
 その見た目は、ラキストが欧米系の美少女ならばセッターは日系の美少女。
 日系といっても和風やまとなでしこ風ではなく、“今時の日本の少女”って感じだろうか。

 服装は薄くチェックの入った白いワンピース。そしてその腕には『SevenStars』と書かれた緑色の腕章をつけている。
 綺麗なブロンドの髪を持つラキストですら憧れると言い放ったセッターの長い黒髪は確かに美しい。
 しなやかさがあり、それでいて黒真珠のような輝きすらあるといっても過言ではないだろう。
 セッターがこのまま成長したらかなり俺の好みかもしれない。大人版セッターを見てみたいな。

 ふむ、涙声で話がぐだぐだだが、まとめるにどうやらセッターも幼女化し能力を失い始めたようだ。
 立花さんをオーナーと呼んでいることを考えると、セッターのホームステイ先に選ばれたのは立花宅だろう。

 ……10万人に1人じゃなかったか? 波長の合う人間って。
 なんでその10万人に1人が2人もいるんだよこんな近くに。

「ああ可愛いなぁ可愛いなぁ。新庄くん、ついに見つけたよ。私が捜し求めていた理想郷って奴を」

 そしてあんたは自重してくれというかまず鼻血を拭け。



 ■■■



 『それでは新庄くん、私達は自分の部屋に帰るとするよ。せっかく私の元に来てくれたんだ、存分なおもてなしをしなければならないからね。
 君もラキストちゃんの面倒をしっかりみてあげるのだよ?』

 と、言い残して立花さんは隣の部屋に戻っていった。セッターをお姫様だっこで。正直俺には美少女を誘拐した山賊にしか思えなかったがまあ邪魔をするのも悪いので何もいわないでおこう。
 俺は立花さんに非常に大きな借りがあるから逆らえないんだ、すまんセッター。大人しく食われておいてくれ。大丈夫、きっと優しくしてくれる。

「いやぁ、まさかセッターもちっちゃくなって人間界に来るなんて思いもしませんでした! しかも現地のオーナーが隣の家の人なんて、凄い偶然ですね!」

「ああ、陰謀すら感じるほどにな。ところで、なんでお前らって俺達のことを“オーナー”って呼ぶんだ?」

「それはもちろん私達を愛してくれる愛煙家だからです!」

 と胸を張って自信満々に言い切ったラキスト。いや答えになってない。
 つーか俺が愛してるのはあくまで煙草のラッキーストライクで別に煙草の精霊であるお前を愛してるわけじゃないからな。
 ……なんか疲れてきた。そして腹減った。そういや今日は帰ってから煙草しか吸ってない、仕方ない作るか。

「いまからチャーハンでも作るけどお前も食うか?」

「食べます!」

 食うんだ、精霊なのに。






 冷ご飯に卵を混ぜて塩・胡椒を加えて冷蔵庫にあった余りもんの屑野菜放り込んで最後に醤油で風味をつけた簡単な炒飯。
 俺の主食である。というか俺が作れるものといったら炒飯とモツ鍋とサバの味噌煮だけなんだけど。
 いただきますとラキストと共に合掌。煙草の国にも合掌する文化ってあんのかよ。まあそれは置いておいて一口目を含む。うん、いつも通りそこまで美味しくもないけど不味くもない出来だ。

「美味しい! 美味しいですオーナー!」

 それをがっつくラキスト。これをそこまで賞賛してくれる煙草の国の食文化が心配だな。

「そりゃどうも……お前らって煙草の国で普段なに食ってんだ?」

「そうですねぇ、霞とかですかね」

 仙人かてめえらは。燃費いいな、煙草の癖に。ラッキーストライクの癖に。なんでラッキーストライクってあんなすぐ燃えきるんだ。
 それが乙なとこでもあるけれど。

「ふぅん。じゃあ別に食わなくても生きていけるのか?」

「生きてはいけますけど、食べるのは楽しいですし美味しいですし満腹感が心地いいで出来れば食べたいってのが正直なところです。
 煙草の国は人間界と違って食材という概念がほとんどないので、こうやって人間界で食事するのは私達のひそかなブームなんですよ」

 へー、変な生き物……いや変な精霊だな煙草の精霊って。というかブームなのか食事が。

「そういやお前、この家に住ませてくれたら何でもするっていってたよな?」

「はい! 私に出来ることならですけど!」

「なら家事を手伝ってくれないか? 料理とかさ。ぶっちゃけ俺って料理好きじゃないんだよ」

「あっはっは! オーナー、私は煙草の精霊ですよ? 料理なんてできるわけないじゃないですか、あなたは煙草に何を求めてるんですか」

 煙草に笑われた男って世界で俺が始めてだろうな。

「覚える気ゼロか!?」

「だってこの身長じゃ台所に立てません!」

「足場を用意してやる」

「包丁を扱ったことがありません!」

「教えてやる」

「怪我します!」

「やる気だせやぁ!?」

「そんなこといわれてもー!」

 こいつ使えねぇ!? くそっ、絶対に料理洗濯掃除の三種だけは叩き込んでやる。
 ただ飯と寝床を用意してやってんだからそれくらいやってくれ。

「というか私に出来ることならって、一体なにが出来るんだよ」

「私に出来ること……それはやっぱり精霊らしくシガレット☆マジックですか」

 でた、シガレット☆マジック。セッターもいってたがマジでその名前なのか。
 とんでもなくダサいぞ。

「でもお前のそれ失いかけてんだろ?」

「初歩の初歩くらいなら使えます! 私達の魔法は凄いんですよ! とくに私の“運気アップ”は煙草の国でも一、二位を争うほどなんですから!」

「ほう、運気アップ?」

 ラッキーストライクだけにか。それは少しいいな。というかこいつ魔法っていっちゃった。
 やっぱり魔法なんだシガレット☆マジック。

「どれほど運気がアップするかといえば、適当に鉱山を掘ったら金銀ザックザク、地面を掘ったら石油が出てきて宝くじを買ったら一等が引けます」

「よし使え今すぐ使えさっきまで使えない奴呼ばわりしてほんとすいませんでした」

 やべえ、シガレット☆マジックまじでやべえ。明日には億万長者になれるぜ俺!

「いいですとも! でも今はその力が大幅にダウンしてるので……チョコボールの銀のエンゼルを高確率で引くくらいしかアップできませんけど!」

 やべえ、シガレット☆マジックまじでやべえ。本気で使えねえええええぇ!?

「なんじゃそりゃー!? なんでチョコボールの銀のエンゼル引くくらいしかアップできないんだよ!?
 ラッキーストライクとチョコボールに何の関係があるんだよ!? というかなぜに銀のエンゼル!? せめて金のエンゼル引かせろよめんどくせぇ!?」

 というか別にいらねえよおもちゃのカンヅメ! 子供の頃は欲しかったけどさ!

「だって力をほとんど失ってるんですもんー! うわーん!」

「泣くなー!」

 決めた、絶対決めた。明日から強制的にでも家事を叩き込んでやる。





 そして翌日、やけにテカテカした立花さんとやけにげっそりしたセッターに挨拶を交わしつつラキストとデパートにいってまずは買い物の仕方から教育を始めることにした。
 途中、チョコボールが目に入り、なんとなく五個買ったら全部銀のエンゼルがついてたので切り取って応募しておいたが、まあどうでもいい与太話である。




[25692] 三本目『喧嘩とは仲良しだからこそ』
Name: 槍◆bb75c6ca ID:0f320504
Date: 2011/05/13 13:13
 すぱーっとラッキーストライクを吹かす。仕事帰りの一服はほんとに至極だな。
 うーん、でもやっぱりラッキーストライクって旨いよなぁ。
 浅く吸っても美味しい、深く吸ってもまた美味しい。コクがあって個性的かつ高次元で味がまとまってる。
 副流煙、匂いが嫌いって人もいるけど、俺は好きだぜこの匂い。
 オッサン煙草なんていわれてるけど、吸わないで敬遠してる喫煙家がいるならぜひとも一度は試してみて欲しいものだ。
 パッケージだってブルズアイの傑作だと思うぞ。燃焼は早いけどさ。

「オーナー! やっぱり無理です!」

 ただその精霊は諦めも早いが。

「お前……包丁ならまだわかるけどピーラーで野菜の皮むきくらい出来てくれよ。どんだけ不器用なんだよ」

「戦争のトラウマで刃物系って物凄く怖いんですよ! オーナーも戦争の悲惨さを経験すれば私の気持ちも一発で理解しますね!」

「戦争の悲惨さと野菜の皮むきを同率扱いしてんじゃねえ!?」

「ううっ、こんなもの私のシガレット☆マジックの力が弱くなってなかったら一瞬で終わるのに……!」

「便利な力に頼りきってるからそうなるんだ……そういえば、お前らが幼児化して力が無くなってきたのってこの世界に原因があるんだよな?
 それって結局どうやって解決する気なんだ?」

「――言われてみれば!?」

 お前ほんとに何しに来たんだよ。



 ■■■



 というわけで翌日の昼、セッターを俺の部屋に呼んで作戦会議。
 現在月曜日、立花さんは仕事でいないので欠席。俺は月曜が休みの仕事なので暇なのだ。

「で、セッターは大精霊様から何か聞いていますか?」

「何も? 私もちっちゃくなってからすぐにラキストを追っかけて人間界に来ちゃったし」

「くっ、ここに来て八方塞がりとは……!」

「お前ら馬鹿だろ」

 ここに来ても何もまだ始まってすらいねぇぞ。

「もう一回その大精霊さまとやらに占ってもらえばいいじゃないのか?」

 解決の仕方とか原因とか。

「いやー、そうしたいのは山々なんですけど」

「私達ってもうシガレット☆マジックを微妙なのしか使えないから煙草の国に帰りたくて帰れないんだよね」

「お前ら本格的に馬鹿だろ!?」

 向こう見ずにもほどがあるぞ。片道切符しか変えない金もって海外旅行してどうすんだ。
 波長の合う人間がすぐ見つかって、さらに運良く面倒みてもらえたからいいものを。見つからなかったらただの自殺だぞ。

「ラキストが抜けてるのはわかってたけど、セッターもかなり抜けてるな」

「むむっ!? ちょっとシンジョウ! ラキストのことはいいけど私のことは馬鹿にしないで!」

「オーナー! セッターのことはいいですけど私のことは馬鹿にしないでください!」

「少しくらい仲間意識とか友情もって接してやれよ二人とも」

 そこは庇えよ。

「お前らって実は仲悪い?」

「そんなことないけど、ただ頭のことでラキストと一緒にして欲しくないだけよ」

「以下同文です!」

 ふむ、お互いが自分の知能は負けてない、と。

「ならなぞなぞで決着つけるか?」

「望むところね! 謎なんて私の前ではないも同然よ!」

「絶対に負けません! 一瞬で紐解いてみせますよ!」

「じゃ問題。焼けるけど食べれないパンってなーんだ」

 答えはフライパンである。

「パンツ!」

 ……いやセッターよ、確かに焼ける、というか燃やせるし食べれないパンがつくものではあるがそれは正解にしていいのか?

「パンチパーマ!」

 ……あれは焼いてるでいいのかパンチパーマって。
 こいつら完全に同レベルだこれ!

「第二問。切っても切っても切れないものってなーんだ」

 答えはトランプ。

「運命!」

「絆!」

 どこのロマンチストだ。

「第三問。大きな穴が開いてるのに沈まないものってなーんだ」

 答えは浮き輪。

「日本国家!」

「アメリカ大統領!」

 お前らは毒舌コメンテーターか。

「ラスト。顔が6つ、目が全部で21あるものはなーんだ」

 答えはサイコロ。

「化物!」

「怪物!」

「お前ら本当はもの凄い仲良しだろ!?」

 双子といわれても驚かないぞ。



 後日、なぞなぞ本を買ってラキストにプレゼントしてみたら、2人でわいわい騒ぎながら一緒に1つの本を読むという幼稚園よろしくな光景があった。
 それを見た立花さんが吐血して病院に搬送されたが、その顔は実に幸せそうだったのをここに記しておこう。
 というか結局何の解決もしてねぇな。



[25692] 四本目『お爺ちゃんとお孫さん』
Name: 槍◆bb75c6ca ID:0f320504
Date: 2011/05/14 19:56
 今日も今日とて仕事が終わりアパートに帰って階段を上ろうとしたとき、ふとどこからかいい匂いがしているのに気がついた。
 その匂いの元をたどろうと横の駐車場に目を向けると、七輪を囲む二人の姿が目に付く。

「……前浜さん?」

「おや、新庄くん。いま帰りかい?」

 そう俺に言ってくれたのは、同じアパートの一階に住む前浜功治さんだ。もうすぐ初老を迎えようかという凛々しくも年季を感じる面構えをしていて、ジンベエを自然に着こなす逞しい人である。
 ふむ、1人は前浜さんだということはわかった。しかしその隣にいるのは誰だろうか。
 オカッパに近いショートの髪型、そして今からお祭りにでもいくのかと思わずにはいられない振袖が見事に調和している。
 現代日本ではちょっとみない格好。大和撫子とでもいうのだろうか、そんな少女が前浜さんと一緒に七輪を囲んでいるとは。

「前浜さん、そちらの子はお孫さんですか?」

「おいおい新庄くん、俺を何歳だと思っているんだ。まだ孫がいるほど歳は食っていないつもりだよ?
 ショーピ、上の階の住んでる新庄くんだ。挨拶しなさい」

 ショーピ? 変な名前だな。外国の子か? それにしてはあまりにも日本人らしい風貌だし……まさか。

「――始めまして、シンジョウ殿。私はショートピースの精霊、名前をショーピと申します。以後、お見知りおきを」

「ということなんだ新庄くん。それはそうと友人から旬のヤマメを大量に貰ったんだが、君もどうだい?」



 ■■■



「オーナー! 骨が口に刺さりました! もの凄く痛いです!」

「もっと噛んで食えよラキスト……はぁ、しょうがない、口をあけろ」

「あーん」

「……ほれ、取れた」

「ありがとうございます! それにしてもこれ美味しいですね!」

「それはそうさラキストちゃん。“五月ヤマメでアユかなわん”って諺があるくらいだからね」

「……」

 お言葉に甘えてラキストと共にご同伴預かることにした俺達。ヤマメ超うめぇ。やっぱ七輪で焼くと一味も二味も違うな。
 それにしても、頭からがっつくラキストと違いショーピの食べ方は実に優雅だった。
 箸で丁寧に手を添えて食べるその姿は、俺達日本人が忘れてしまった何かを思い出させる。ちなみにラキストは箸を使えないのでフォークとナイフだ。
 身長はショーピの方が低いのに、ラキストと違ってなんと大人びて見えることか。

「それにしてもぐもぐ、まさかショーピもばくばく……」

「……ラキストさん、食べながら喋るのは行儀が悪いです。喋ってから食べるか、食べてから喋るかのどちらかにしたほうがいいかと」

「もぐもぐ……ごくっ! それは失礼しました! じゃあ改めて、それにしてもまさかショーピまで縮んで人間界に来てるとは!
 しかもまたこのアパートでオーナーを見つけるなんて凄い偶然ですね!」

 それ何回目だよラキスト。もう偶然超えてるだろこれ。なんで10万人中1人の確立がこのアパートにいるんだよ3人も!

「絶対になんか仕組まれてるぞこれ……しっかし、前浜さんはよくショーピの面倒をみようと思いましたね?
 普通信じられないでしょう、煙草の精霊なんて」

 前浜さんはもう魚を食べ終えたようで、横のピース缶から一本取り出して火をつけているところだった。
 俺や立花さんのように火をつける物にこだわりがないらしく、どこにでも売ってる100円ライターで。

 ふぅーと前浜さんが口に溜め込んだ煙を吐くと、途端に薫り高い匂いが伝わってくる。

「もちろん私も最初は信じられなかったけどね。ショーピの必死な顔を見てるとつい、さ」

「つい、ですか」

 俺なんて立花さんから言われなかったら絶対追い出してたけどなぁ。

「それに――どことなく似てるんだ。亡くなった妻の、若いころにね」

 ――重っ。タール28ニコチン2.3mgのピースだけに、重っ。
 前浜さんの奥さんの話は昔一度だけ聞いたことがある。
 たしか若い頃に駆け落ち同然で結婚し幸せな家庭を気づいたが、元々体の弱かった奥さんは子供を生んで、それがたかって亡くなってしまったらしい。

 会社ではかなりお偉いさんであるらしい前浜さんが未だにこのアパートから離れないのは、そんな奥さんとの思い出の場所だからだとか。
 空気が重い……いや、ラキストだけは「それはラッキーでしたねショーピ!」と二匹目のヤマメを食っているが。
 頼む。空気を読め、ラキスト……! 天真爛漫にもほどがあるぞてめえ!

「おっとすまないな新庄くん、なにやら辛気臭くなってしまった」

「い、いえ……」

「マエハマ! おかわりいいですか?」

 お前まだ食うのか!? 俺や立花さんにはまだいいけど他の人には遠慮を覚えてくれ!

「ああ、まだまだあるからたくさん食べるといい。新庄くんとショーピはどうだい?」

 と笑顔で俺とショーピにもそう訪ねる。うわー、この人本っ当にいい人だ。このアパートに入ってから何回かお世話になっているけど、毎回そう思うよ。
 きっと亡くなった奥さんも幸せだったんだろうな。

「俺はもう十分ご馳走になりましたので」

「……私も、同文です。とても美味でしたオーナー……ヤマメの焼き具合も、素晴らしかった」

「あはは、褒めても何もでないよショーピ。焼き魚くらい誰でもできるからな」

「……そんなことはありません。オーナーが焼いたからこそ、これだけ美味しかったのです」

「それだけ美味しいと感じたのは、きっとみんなで食べたからさ」

 うおおぉ、かっけえ……! 煙草をくわえてはにかむ姿がこれほどカッコいい大人なんてそんなに居ないぞ。
 俺もいつかこんな風に歳を取りたいものだ。

「オーナーには無理だと思いまもぐもぐ」

 うん、少し黙ろうかラキスト。いいじゃねえか夢みるくらい! というか心を読むな!

「そういえばショーピ、大精霊様から何か聞いていますか? 私とセッターは急いで飛び出してしまったので何も聞いてないのですよ」

「……大精霊様は仰っていました。人間界にて時期を待つように、と」

「それだけですか? うーん、時期を待て……急がないと消えちゃうんですけど……でも、大精霊様がそういったなら間違いないですね!」

「大精霊って奴もなんか投げやりになってないかそれ?」

 思わずピースにそう訪ねる。もう少し具体的には何かいってなかったのか?

「……大精霊様もお忙しいのです、シンジョウ殿。現在煙草の国では幼児化と能力が消失する怪奇に苛まれています。
 その現象に巻き込まれたのは私やラキスト、セッターだけはありません……数多くの精霊達がその異変の影響を受けて人間界に降り立っています」

「――マジか!?」

 ということは、さらに増えるってことか精霊!? ……まあさすがにもうこのアパートには来ないだろうけどさぁ。
 煙草の国の異変、思ったより大変そうだな。

「ふむ……ショーピ、私に出来ることなどたかが知れているが、何かあったらなんでも遠慮せずに言うといい」

「……オーナー、私は貴方がオーナーで、本当に良かった……」

 そういってショーピは前浜さんに抱きついた。それを優しく受け止め頭を撫でる前浜さん。
 どうみても祖父と孫の図だこれ。

「……」

 そしてチラチラっと何かを期待するように俺を見てくるラキスト。
 ははは、俺がそんなことをいうわけないじゃないかと直接言ったらまた泣かれた。
 そして前浜さんに怒られた。



[25692] 五本目『飛翔! コウモリ少女』
Name: 槍◆bb75c6ca ID:0f320504
Date: 2011/05/14 22:16

 ピピピピと携帯電話のアラームが響く。

「ふぁ~……眠っ」

 アラームを止めて寝ぼけ眼を擦りながら起床。現在朝7時ジャスト、まあまあな時間だ。
 顔を洗おう、そう思い立って洗面台に向かおうと体を起こすと、すぐ隣に1つの影がもごもごと動いていた。
 布団を捲る。そこにいたのは……。

「お~な~……もっとサバ味噌食べたいですぅ……むにゃむにゃ」

 ラキストである。こいつなんか最近食いしん坊キャラとして個性が確立されてる気がするな。
 というか何で俺の布団に入って来てんだよ。

「……いやまあ、いいけどさぁ……」

 ソファーはやっぱ寝づらいのだろうか? 俺は週に一度はソファーで寝ないと翌日の寝起きが悪くなるという変な癖があるものだから気にしていなかったのだが。
 布団もう一個買ってくるかな……しかし、と改めて幸せそうに眠るラキストを見る。

 紙タバコである。いや、元々紙タバコの精霊であるからして紙タバコだからおかしいというわけではないのだが、俺が気になっているのはその“寝巻き”、もといパジャマだ。
 紙タバコなのである。文字通り、寝巻きが紙タバコを模様したパジャマ、いやパジャマかこれ? どっちかというと着ぐるみ、もしくは寝袋なのだが、それが非常に気になる。

 ぱっと見て子供大の巨大な紙タバコ。フィルターの部分にちょこんと顔を出す部分とファスナーがあって、寝やすそうでいて、いやまてやっぱり逆に寝づらくないかと思わずにはいられない。
 ラキストいわく、『私達煙草の精霊はこの紙タバコ型パジャマを着ないと安心して眠れないのです』らしい。

 変なところで紙タバコの精霊らしい。セッターやショーピもこれを着て寝ているのだろうか……こいつらが並んで寝たらなんともシュールな光景が拝めそうだ。

「……朝飯作ろ」

 昨日のサバ味噌の残りでいいか。ラキスト食いたそうだし。






「オーナー、おはようございますぅ……」

 現在8時、ラキストはまだ寝ぼけているのだろうか。
 タバコ型のパジャマを着ながらキョンシーのようにぴょんぴょん跳ねてリビングにやってきた。
 お前はタラコのCMか。絶対に動きにくいだろ。

「おはようラキスト。とりあえず脱げよ」

「……うわぁ!? 全然気づきませんでした! これは失礼!」

 一体化でもしてんのか、それ。



 ■■■



 むしゃむしゃとあいもかわらず美味しそうにサバ味噌と白米をがっつくラキストを尻目に、朝食後の一服を堪能しつつ新聞を朗読。

「……ん?」

 『怪奇現象!? それとも合成!? 空飛ぶ少女を激写!』というわけのわからない見出しが目に付いた。
 なんだこれ。写真に目をやると、たしかに人影らしきものがビルの間を飛んでいる、ような風景にも見えなくも無い白黒写真が載っている。
 カメラのフレームが追いつかないほど速く飛んでいたのかその写真の中心にいるのは伸びたような黒い影。
 ……たしかに少女、に見えなくもない。人っぽいものであることは確かだ。コウモリの羽のようなマントをつけた少女。

「完全に合成だろこんなもん」

 こんな三流スクープを掲載するなんてこの新聞会社大丈夫か、とそんな経営内情を心配しつつお茶を口に含むと、ちょこんとラキストが隣から顔を覗かせ新聞を見つめる。

「あ、ゴルバだ」

 お茶吹いた。

「ひゃぁ!? ど、どうしたんですかオーナー!?」

「ごほっ! ごはっ!? おまっ、知り合いか!?」

「はっ、はい。しっかりとは写ってないですけど、これはゴールデンバットの精霊のゴルバですよ? 多分」

 どうやら合成写真ではなかったらしい。すまん新聞会社、あんたのとこすげーわ。
 つーかお仲間かよ、こいつも煙草の精霊かよ。

「ゴールデンバットの精霊って空飛べるのか?」

「はい、彼女はシガレット☆マジックを使わなくても背中に大きな翼を持っているので飛べます」

「ああ、パッケージにコウモリ描いてあるしな……」

 煙草の精霊とは完全に人型のみだと思っていたけど、どうやらその認識は誤りだったようだ。
 となるとウィンストンやキャメルはどうなるんだろう。やっぱり翼が生えてたりこぶがあったりするんだろうか。
 嫌だなぁ……こぶが生えた少女……想像したら気持ち悪くなってきた、お茶で口直ししないと……。

「にしても久々にゴルバを見ましたが、相変わらず裸にマントだけなんですねー」

 お茶吹いたテイク2。

「びっくりし慣れました!」

「慣れんな!? つーか今なんつった!? 裸にマントだけ!?」

「彼女は煙草の国にいるときも人間界に降りるときもいつもそうですよ?」

「捕まるわ! お前んとこの服装の常識ってのはどうなってんだよ!?」

「いやー、私達も大胆だなぁと」

「もっと思うこと他にあるだろ!? お前らのリーダーの大精霊は止めなかったのか!?」

「そういえば大精霊様も結構な回数を注意してましたね」

 そ、そうか。一応注意はしてたのか。意外と常識ありそうだな大精霊。

「『ゴルバよ、少しマントが小さいのではないですか?』と」

「もっと注意するとこ他にあったろうが大精霊ー!」

 そうだよなぁ! 常識あったら全力で止めさせるよなそんな格好! 煙草の国とこっちの世界じゃ常識が違うかもしれないけどさぁ!
 つーかなんでゴールデンバットの精霊だけそんな全力でネタに走った存在なんだよ! 全国のゴールデンバット愛好家に怒られるわ!

「知りませんよ。それよりオーナー、おかわりください」

「だから少しは遠慮しろやー!」



 それから少しあとで会社に通勤したとき、同僚の話題が全て例のゴルバの写真だったが、こいつらに『こいつ実は裸マントの痴女なんだぜ』と教えようか教えないか非常に迷ったのは秘密だ。


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