福島第1原発で炉心の核燃料はいったいどういう状態にあるのか。蓋(ふた)をあけて見ることができないだけに、専門家の間にもさまざまな見方があった。
東京電力は、1号機で「メルトダウン(炉心溶融)」が起きていたことを初めて認めた。燃料が溶けて崩れ落ち、圧力容器の底にたまっていると考えられる。これまで、東電は炉心燃料の55%が損傷しているとの見方を示してきたが、状況はより深刻だった。
しかも、圧力容器の底には穴があき、大量の水が漏れているとみられる。格納容器から汚染水が漏れている可能性も高い。溶けた燃料の一部が圧力容器から格納容器に漏れ出している恐れもある。
東電は先月、6~9カ月かけて原子炉を100度未満に「冷温停止」させる事故収拾の工程表を示している。しかし、その前提となる現状認識が甘かったといわざるをえない。
東電は、既に溶融した燃料の温度が下がっているので、より大きな支障はないとの見方を示している。しかし、水漏れ対策を含め、工程表の大幅な見直しは必至だろう。
東電が1号機の状態を楽観してきた背景には、不確実だった水位計のデータがある。補正前はもっと上まで水があることになっていた。しかし、事故直後から水位計の信頼性が疑われていたことを思えば、より深刻な状況を考えておくべきだったのではないか。
工程表では、格納容器を圧力容器ごと水漬けにする作業を、まず1、3号機で実施することになっていた。しかし、水漏れがわかった以上、この方法には意味がないだろう。
いずれにしても、水漬けだけでは冷温停止には不十分だ。熱交換器をつけた冷却系で水を循環させ、核燃料を安定して冷やす必要がある。
圧力容器や格納容器の損傷は、その作業の支障にもなりかねない。しかし、なんとか工夫し、安定冷却に向けた道筋を早くつけたい。
格納容器から漏れている汚染水の処理も急がねばならない。行方を突き止め、環境をこれ以上汚さないようにする作業を進めたい。
工程表の中で1号機は作業が一番進みつつある原子炉だった。事故発生からこれまでの状況を思えば、作業がほぼ手つかずの2、3号機も、1号機同様、圧力容器、格納容器ともに損傷しているとみたほうがいいだろう。
東電や政府は、まず、原子炉の実態を確かめるための手立てを尽くし、工程表の見直しに反映させるべきだ。確かめられない部分は、楽観的にみるのではなく、より厳しい状況を念頭におき対処していくことが肝心だ。
毎日新聞 2011年5月14日 2時38分