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【暮らし】

<はたらく>障害者の最低賃金減額 雇用あっても生活改善できず

2011年5月13日

 すべての労働者に適用されるはずの最低賃金だが、生活保護費を下回る賃金しか得られない人たちがいる。「著しく労働能力が低い」として、最低賃金を減額された障害者たちだ。減額制度は、障害者の雇用の場確保を目的に、一九五九年の法律制定時から設けられているが、近年は減額許可のケースが増加。障害者の雇用が増えても、生活の改善には必ずしもつながっていない。 (市川真)

 今年一月まで二年間、愛知県内の自動車部品塗装工場に勤めた知的障害の男性(21)は、三カ月の試し雇用から正式採用になるとき、社長らから「(最低賃金の)七割しか出せん」と言い渡された。男性は「あきれて、ものも言えなかった」と振り返る。

 二人一組で塗装ラインに部品を並べたり、焼き上がった部品を箱詰めする作業。夏は汗だくになり、臭いもきつい。忙しいときは休憩なし。トイレは交代で行き、昼は二十分で弁当をかき込んだ。深夜まで残業し、障害者支援団体の担当者が迎えに来たことも。

 担当者は「真面目で、体を壊すのではと心配するほど。作業効率も悪くないはずなのに…」と、男性が最低賃金の七割しか得られないことに首をひねる。この会社には、十人の障害者が働いていたが、いずれも会社から「十年たたんと給料は上げられん」と言い渡されていた。

 男性の給与支給明細書を見せてもらった。夏休みがあった二〇〇九年八月は、出勤日数十八日間で手取り六万二千円余。忙しかった一〇年七月は、二十四日間働き同九万五千円余(食事代除く)。名古屋市の生活保護費約十一万九千五百円(住宅扶助限度額まで含む)より格段に少ない。

     ◇

 最低賃金法は「障害により著しく労働能力の低い障害者」らに対し減額できる特例を設けている。法律制定時は障害者の雇用は全く進んでおらず、「まずは障害者の働く場をつくるために、雇用者の負担を軽くする必要性がある」(国会答弁)とされたためだ。

 減額申請は雇用主が行い、労働基準監督官が職場に出向いて実際の労働効率を計測。調査に基づき労働基準局長が許可する。厚生労働省労働条件政策課によると、全国の許可件数は年々増加し、〇九年は八千二百件(障害者関連のみ)。過去最高とみられる。

 〇八年の法改正で継続雇用でも新規申請が必要になったことも重なり、〇五年の二・三倍となった。障害者雇用の増加とともに、不況によって企業側に「安上がりな労働力を活用する」という意識があったものとみられる。

 愛知県の許可件数は全国トップクラス。愛知労働局の平松晃・主任賃金指導官は「厳格に調査している」と強調しながらも、「申請を不許可にすることはほとんどない」。だが「障害者本人や家族から、減額が不当と訴える声はない」という。

     ◇

 一方、障害者支援機関の担当者は「雇用時に最低賃金を要求すると、就労できない恐れがある。最初から減額ありきで、障害者は給与を安くして当たり前との意識が雇用者側にある」と批判する。

 障害者の最低賃金減額について調査した川上輝昭・名古屋女子大教授は「障害者とその家族は、単純労働で低賃金、劣悪な労働環境であっても、働く場が与えられていればうれしいと思わされている。最低賃金の減額は、公的に認められた人間性の否定だ」と厳しく指摘する。

 しかし、減額申請する企業は中小零細企業が多いのが現実で、企業の側に最低賃金を守らせるのも困難だという。「最低賃金は最低限の生活保障であり、減額されては生活できない。減額特例を認めるなら、セーフティーネットの生活保護とは別に、減額分を行政が負担する制度をつくるべきだ」と話す。

<最低賃金> 地域別(都道府県ごと)と産業別の最低賃金が厳格に定められている。金額は、その地域の生活保護費をやや上回るとされるが、生活保護費が上回る逆転現象も発生している。

 

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