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チェルノブイリの避難ルールを基準にしたら、福島第一原発から80キロは希望すれば移住が認められる?!

日隅一雄


本日(5月6日)の合同会見では、いくつかのことが明らかになったが、最も大きなのは、文科省が発表した航空機のモニタリングデータだ。この数値が正確だとすると、福島第一発電所の80キロ圏内は、移住を希望したら認められるゾーンに入っていると思われる。ソ連でさえ、そこまでの配慮を住民に対して行ったのに、日本は、政府自ら安全だというデマをまき散らし、被害を拡大している。危険な状態であることを説明したうえで、住民がそこにとどまることを選択するのなら、構わないが、安全だと嘘をついて、避難をさせないように誘導するのは、まともな政府がすることではないと思う。

冒頭の図を見てください。赤いのは300万ベクレル/㎡~1470万ベクレル/㎡、黄色が100万ベクレル~300万ベクレル/㎡、緑が60万ベクレル/㎡~100万ベクレル/㎡、水色が30万ベクレル/㎡~60万ベクレル/㎡、青が30万ベクレル以下ということを示している。

http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/__icsFiles/afieldfile/2011/05/06/1304694_0506.pdf

他方、チェルノブイリの場合の避難区分は次のようなものだった。

http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~parksj41/2011a/no08a.pdf

すなわち、

(1)148万ベクレル/㎡以上:強制避難ゾーン=上の図の赤色+黄色の大部分

(2)55万5000ベクレル/㎡~148万ベクレル/㎡:強制(義務的)移住ゾーン=上の図の黄色の一部+緑+水色の一部

(3)18万5000ベクレル/㎡~55万5000ベクレル/㎡:希望すれば移住が認
められるゾーン=水色の大部分+青の一部

(4)3万7000ベクレル/㎡~18万5000ベクレル/㎡:放射能管理が必要なゾーン=青の一部

ということになる。

これは驚くべき結果だ。当時のソ連でさえ、強制移住させたゾーンの全てが避難できているだろうか?希望すれば移住を認めるゾーンについて、政府は何らかの避難援助をしているだろうか?

…日本の政府、日本の社会がいかに人命を軽視しているかがよくわかる。

本来、政府は福島の人たち全てに、このモニタリングの結果とチェルノブイリでソ連がとった施策を伝える義務があるはずだし、市民もそのような情報の公開を求めるべきだ。

そして、もう一つ、重要なことは、ついに、原子力安全委員会が20mSv/年の被ばくによって健康被害が生じることを認めたことだ。アメリカ科学アカデミーが健康被害は線量に比例するという考え方をとっていることを認め、それを合理的だとしたうえ、ICRPも同様の見解だと認めたのだ。

したがって、1mSv/年の場合、成人の1000人に1人が癌死する確率であるとみなすべきであることとなり、子供はその数倍の危険があることになる。

福島の方は、この現実を理解した上で、子供の安全について、配慮しなければならない。もちろん、この成人で1000人に1人(子供だとそれよりも数倍危険性が高くなるという見解も出されている)という数字を踏まえても、それよりも地元に残って地域社会を維持することが重要だと考えるならば、それはその人の自由だ。

しかし、それを許容できないという人は、ただちに、政府に対し、避難のための援助をするよう要求するべきだし、県外の我々もその要求を後押しする必要があると思う。ここで、福島の人が避難のための援助を受けられないとしたら、次に同様の目に遭うのはだれかを考えれば、後押しする必要があるのは当然だ。

最後に、文科省が海底の土の放射性物質を計測した際、前回は、検出限界値以下だとの説明をしたが、その検出限界は高すぎるのではないかという指摘をしたところ、間違いだったとして、セシウムなどが検出されたことを発表した。これを単なるミスと見るべきか、それとも…。

こういう発表が相次ぐことを日本に住む者として本当に悲しく思う。

●●「1000分の1」について再掲。一部改定●●
20mSvにおける1000人に1人という癌死の割合を多いと考えるか、少ないと考えるか、人によって違うだろう。

たとえば、平成21年の交通事故死者数は4914人だ(http://www.npa.go.jp/toukei/kouki/0102_H21dead.pdf)。これを1億2000万人で割ると、交通事故で亡くなる人の割合は0.004%となる。

20mSv/年の量が1年間継続した場合は、0.1%だから、交通事故の25倍ということになる。

しかも、子供は影響を受けやすい。米国の民間組織「社会的責任のための医師の会(PSR、本部ワシントン)」は、4月29日、次のような声明を発出した(http://ow.ly/4LiZB )=冒頭の画面。

It is unconscionable to increase the allowable dose for children to 20 millisieverts (mSv). Twenty mSv exposes an adult to a one in 500 risk of getting cancer; this dose for children exposes them to a 1 in 200 risk of getting cancer. And if they are exposed to this dose for two years, the risk is 1 in 100. There is no way that this level of exposure can be considered “safe” for children.

「子供への放射線許容量を年間20ミリシーベルトに引き上げたのは不当である。年間20ミリシーベルトは、成人であっても発言リスクを500人に1人増やす。子供の場合、発がんリスクは200人に1人の増加となる。このレベルでの被ばくが2年間続く場合、子供へのリスクは100人に1人となる。このレベルの被ばくが子供にとって安全だとみなすことは到底できない」

●●再掲終了●●

●日本、特に東北・関東の保護者必読の書●

「ICRP Publ. 111 日本語版・JRIA暫定翻訳版」(http://www.jrias.or.jp/index.cfm/6,15092,76,1,html)

「緊急時被ばく状況における人々に対する防護のための委員会勧告の適用(仮題)=109」
http://www.jrias.or.jp/index.cfm/6,15290,76,1,html)

アメリカ科学アカデミーの文献「BEIR-VII」(Biological Effects of Ionizing Radiation-VII、電離放射線の生物学的影響に関する第7報告)

http://archives.shiminkagaku.org/archives/radi-beir%20public%20new.pdf

木野龍逸さんへのカンパ感謝コーナー】
ありがとうございます。いつものように、住所(もしくはイニシャル)と金額を掲載することでお礼に代えさせていただきます。

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2日、Oさん1万円、茨城県1万円、渋谷区1万円、奈良県1万円、香川県1000円、千葉県5000円、日野市5000円、茨城県5000円

これまでの累計で140万8110円です。すでにお伝えした通り、3月17日からの生活費として、そのうちの36万9000円を木野さんにお渡ししています。



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投稿者: staff-a on 2011年5月 7日 . 投稿カテゴリー: FEATURE, 原発 関連, 日隅一雄, 最新ニュース.

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  • http://twitter.com/jiyuzin 自由人@名古屋

    貴重な情報をありがとうございます
    ただ,冒頭図は線量マップの別紙1ではなく,セシウム137の地表面への蓄積量を示した別紙4が適切です.

  • 匿名

    ご指摘ありがとうございます。こちらの投稿ミスでした。今後ともよろしくお願いします。

  • hal

    私は伊達市霊山町小国地区に住む者です。かねてより国実施の土壌モニタリング調査などから自分の居住地域近辺が比較的高汚染されていることは想像しておりましたが、今回のこの調査結果を目にするとそれこそ強制移住レベルに肉薄するような水準に達しているかもしれないことを思い知らされます。

    本地区にある小国小学校は校庭使用制限超の5μSv/h程度の空間線量を持続して計測しており、先日ようやく表土剥離が行われ校庭の線量は下がりましたが、そもそもの生活環境自体が高線量(本地区各所の計測値は2~4μSv/hぐらい)であるため、校庭をいじっただけでは何の解決にもなっていません。

    本地区から東へゆけば同町内には年間20mSvを超えるとの試算がなされていながらも避難対象とされていない石田地区もあり、この調査結果を眺めると同地区の土壌セシウム蓄積量も強制移住レベルを超えているところが一部あるように、やはりこの辺は避難指示相当であるように思われます。

  • http://www.unity-design.info/staff/blog/?p=3793 東電原発事故は、チェルノブイリを超えたのか?【データ】 « ユニティ・デザインのブログ
  • hal

    (追記)
    あぁ、これではさも青い部分一円が「望めば移住が認められるレベル」の汚染に見舞われていると、誤解する人がいるのかもしれませんね。

    拙ブログ誘導ですみませんが、圏内にこちらを・・
    文科省の公表している「土壌モニタリング」及び「陸土調査」に基づいて各計測地点の計測以来平均値で色分けしプロットしたものと、今回の航空調査図とを重ねたものです、(Sc-137のみ、今中先生を真似て20倍換算しています)
    http://2011yomemucyu.blog.so-net.ne.jp/2011-05-07-1
    位置の正確性には大いに難がありますが、数値については「平均値」を用いているのでその地点の汚染の程度を眺めるには差し支えないものと思われます。

    「移住が認められるレベル」に着目するならば、確かに福島市あたりはその範囲にかかっている可能性が高いかもしれません。土壌調査を実施している箇所は少ないので、隠れ高汚染地域というものもまたあり得るかもしれませんし、国の土壌調査はわざと汚染度の低いところを狙って実施しているのかもしれませんw

    ただ青い部分は30万Bq/m2より下を表しているというだけのことなのですから、0〜3万7千Bq/m2の水準(チェルノブイリで汚染区域とされなかったレベル)の地点もまた一部存在している、ということには留意していただきたく思います。例えば田村市船引町の水準は、4/9に那須塩原市の水田土壌で記録されたセシウム濃度と同じぐらいです。言うなれば、青く塗りつぶされるべきエリアは80km圏外にも広がっているかもしれないということです。

    とにかく私は「正しく恐れる」ことが必要だと思っています。

  • http://twitter.com/mile2461 まいる

    この記事の中だけでも、1mSv/年で成人の1000人に1人なのか、500人に1人なのか、20mSv/年で1000人に1人なのか。ゆれまくってるな。まあ、世界中の誰にもわからないことなんだろうけど。

  • http://twitter.com/pow2p P2P

    放射線のリスクについては、研究機関、研究者により相当幅があるため、何に準拠するかで値がぶれて、わかりにくくなっていますよね。
    1mSvの場合の1,000人当たりガン死リスクは
    成人 0.05人(ICRP)、0.1人(BEIR)、0.4人(Gofman)
    子ども 0.25人(ICRP)、0.5人(BEIR)、2人(Gofman)
    小出氏の紹介から計算。 ICRP、BEIRは補正値。補正前は2倍。

    何れの評価も直線モデルによっているため、20mSvの場合はこの値を20倍。

    「20mSvで1,000人に1人がガン死」という説明を良く聞きますが、これは、ICRPの評価で成人に対するものに相当します。同じICRPの評価でいえば、子どもの場合は、1,000人に5人、Gofman先生の評価では、1,000人に40人という、何れの側に立っても厳しい数字と言わざるを得ません。

    なお、これは「ガン死」リスクなので、「発癌リスク」はこれより相当大きくなります。ガン死率をどう評価しているのか不明なので、発癌リスクの場合何掛けになるかは私には判りません。

    100mSv未満は十分な統計が取られていないため、仮説ということで、随分と幅のある推定値になっています。

    マスメディアでは100mSv以下は安全だ、と主張される(御用)学者の言説がよく引用され、あたかもそれが「正しい」ように報道されるケースを良く見かけます。

    個人の学説(意見)として、100mSv以下は安全だ、若干の放射線は体に良いだと主張されることは、当然、自由ですが、メディアがその意見がスタンダードな見解であるかのように流布することは異常です。

    通販番組でしたら、「これは個人の感想です」といったテロップを入れるないと怒られてしまうでしょう。

    100mSv以下は「全く健康に影響はない」ということは(明確に政府は発信しませんが)日本国政府見解にも合っていませんし、Gofman説だとさらに8倍のリスクが見積もられているわけです。

    なお、リスクは積算の被曝量で計るため、20mSv/年のところに5年住み続ければ、100mSv分のリスクを負いますし、20mSv/年のところに36.5日住み、その後避難すれば、そこで負うリスクは2mSv分で済みます。
    汚染の高い地区で避難を急ぐべきなのは累積線量を高くしないため急務。報道で積算線量が20ミリを越えたということを聞くと、いかに対策が後手に回っているか、辛い思いを禁じ得ません。

    いろいろな数字が飛び交ってわかりにくくなっています。実際、自分でも時々混乱します。
    リスクについては、正しい被曝線量を開示した上で、どの学説を採用するか決めて、自分で、その線量に対するリスクを計算し、はじき出された数字を「自分が」容認できるか評価していくといった、情報リテラシーが必要だと考えています。

    なお、hal様のご指摘にもありますが、モニタリング結果での青は、必ずしも「危険」「安全」を意味しておりません。300,000Bq/m2以下を示すだけです。
    地区の大まかな傾向を知る上では役に立つデータですが、計測の幅より細かい局地的なホットスポットの有無は判りません。

    また、80キロ圏外に留意すべきエリアがないことも保障していません。実際、4/27の衆議院の決算行政監視委員会での質問にある通り、東京都足立区の公園で3Bq/cm2=30,000Bq/m2…水色レベルに限りなく近い…といった値が計測されています。これは、局地的なホットスポットである可能性もありますが、チェルノブイリ原発事故でも、数百キロ離れた所にも大きな汚染地帯が広がっていることを踏まえれば、広域の汚染調査と結果の開示も必要です。広域調査のため、原発周囲の対応が遅れることがあってはなりませんが。

    広域調査についても、公的機関の調査とともに、民間での調査も行い、結果をつきあわせられればベストです。

  • toshikipi

    文中に「したがって、1mSv/年の場合、」とあるのは、「したがって、20mSv/年の場合、」の誤記でしょうか。もしそうであれば、かっこで括って(1mSv/年は201mSv/年の誤記)といった形で訂正することをおすすめします。

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