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[22867] Lyrical GENERATION(G、SEED中心のガンダムシリーズとのクロス) 超級編開始
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2011/05/12 23:08
※この作品は自分が某所で投下していた作品を焼き直した作品になります。

※クロス元作品は“魔法少女リリカルなのはシリーズ”と“機動戦士ガンダムSEED DESTINY”を中心としたガンダムシリーズとなっております。

※最初のうちはシンとなのは達は同い年設定、DESTINY本編の7年前の話になります。(Gガンも同様、FC53からのスタートです)

※クロスカプ要素が沢山あります。

※オリキャラありの予定(主人公ではないです)、オリジナル設定のMS、デバイスも出ます。

※かなりやりたい放題やります。




2010年11月2日 無印編開始
2010年11月15日 無印編終了
2011年1月20日 A`s編開始
2011年2月18日 A`s編終了
2011年5月5日 超級編開始




[22867] Lyrical GENERATION 1st プロローグ「すべてが始まった日」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/02 22:18
プロローグ「すべてが始まった日」


何千何百年も前のこことは違う遠い世界……そこは今、滅びの時を迎えようとしていた。

辺りに建てられていた建物は原型を留めないほど破壊され、様々な物が燃える焦げ臭いにおいが漂っている。

そしてその廃墟の中で、一組の男女が空に浮かぶある物を見つめていた。
「オリヴィエ、あの機械人形は……。」
「あれは……私達を消そうとしているのでしょうか? この世界が愚かな戦いを続けたから……。」

その二人の視線の先には、青い胴体に白い手足、黄色い目に白い三日月の髭を携え、背中からは蝶のような光の粒子でできた羽を羽ばたかせた白いロボットがいた。

その時、空中に浮かぶロボットの足元に魔方陣が現れ、ロボットはその中に沈むように取り込まれていき、やがてこの世界から姿を消した。
「消えた……何故?」
「どうやら私達は滅びずに済んだようです……きっとあれはあなたにこの世界の未来を託したのでしょう。」
そう言って少女は男の元を去ろうとする、そんな彼女を男は引き留めようとしていた。
「待ってくださいオリヴィエ!勝負はまだ……!」
少女は立ち止まることなく、男に優しく語りかけた。
「あなたはどうか良き王として国民と共に生きてください、この大地がもう戦で枯れぬよう、青空と綺麗な花をいつまでも見られるような、そしてあの機械人形に認められるような、そんな国を……。」
「待ってください! まだです! ゆりかごは僕が……!」


オリヴィエ! 僕は―――!!





その日、栄華を誇った一つの世界が滅びの時を迎えた、月光に照らされた蝶の羽を持つ機械人形によって……。





それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が世界を平和へ導く戦士として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。




母親は願いました、普通とは違う授かり方をしてしまった自分の子供達が、平穏に暮らせる世界になる事を。



機械人形達は願いました、自分たちの主が、大切なものと共に幸せに生を全うしてくれる事を。



少年は願いました、目の前の女の子を守る力を得る事を、そしてその子が笑顔になってくれる事を。

少女は願いました、いつか母親が昔のように笑いかけてくれる事を、そして少年が……いつまでも自分のそばにいてくれる事を。



最初の物語は……やがて運命の名を持つ機械人形を駆る少年が、運命の名を持つ少女と出会い、いくつもの世界を守る心優しきヒーローに成長していく物語。


あの日2人が出会った奇跡は、誰にも想像出来ない物語のプロローグに繋がっていく。





“Lyrical GENERATION 1st” 始まります。









プロローグは終了です、掴みはOK……ですか?

次から本編開始、無印なのはの温泉回終了後の話からスタートです。
ガンダム側の主人公は数多のクロスSSでよく救済されるおなじみのあの少年、なのは側のヒロインは金髪のあの子になります。では引き続き第一話をお楽しみください。



[22867] 第一話「巡り会う運命」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/02 22:23
第一話「巡り会う運命」


昔々ある世界に、“コーディネイター”と呼ばれる遺伝子を調整した人間と、“ナチュラル”と呼ばれる普通の人間が一緒に暮らす世界がありました。


その二つの種族は時に相手を罵り、時に相手を見下し、時には殺し合いをしてしまうほど仲が悪かったのです。


初めてコーディネイターになった人は悲しみました。「僕達は殺し合いをするために生まれてきたわけじゃないのに、みんなが仲良くするための手助けをする為に生まれてきたのに」と……。


その時、彼の願いが届いたのか……その世界に“女神”が現れました。
女神はその世界を皆が泣かなくてもいい幸せな世界にするため、コーディネイターとナチュラルが仲良くなるきっかけを作ろうと考えました、その方法とは……。










CE66年、オーブと呼ばれる国のとある町、そこに一人の9歳程の少年がカバンを背負って一人で下校していた。
「はあ、やっと終わった……でも明日も学校行かなきゃいけないんだよなぁ、嫌だなぁ……。」
少年は憂鬱そうに溜息をつきながら速足で家に向かっていた、その時……彼は道端に赤く光るものがあることに気付いた。
「あれ?なんだろうアレ……?」
少年は光るものがあったほうに近づく、そしてそこで赤く光る宝石のようなものを発見した。
「宝石……? きれいだなー。」
少年はふと、まだ二歳ぐらいの幼い妹の顔を思い浮かべる。
「そうだ! これはマユにプレゼントしてあげよう、きっと喜ぶぞー。」
そう言って少年は宝石をズボンのポケットに入れようとした、その時……。

パアアアア……!

「うわ!?」
突如宝石が強い光を発し、少年は思わず目をギュッと閉じる、そしてしばらくして目を開くと宝石は少年の手から消え去ってしまっていた。
「な、なんだったんだ一体……?」
少年は不可思議に思いながらその場で首を傾げた。



そんな彼の様子を、影から見張っている二つの影があった。
「フェイト大変だよ!ジュエルシードがあの子に……!」
「わかっている、しょうがないね……。」



数分後、少年は先ほどの出来事に不思議がりながら通学路を歩いて下校していた。
「あーあ、あの石綺麗だったのになー……絶対マユにあげたら喜んでいたのに……。」
そう言って少年は道端に転がっていた石ころをつま先で蹴飛ばす、その時……。
「あれ? なんか変だな……?」
少年は違和感に気付いた、辺りは静止画のように音もなく、動きもなく静止し、彼の周りにいた通行人やハトなどが姿を消したのだ。
「ど、どうなっているのコレ……!?」
あまりの異常事態に少年は後ずさる、その時……近くに植えられていた木の陰から、金髪をツインテールにまとめ上げた赤目の少女が現れ、少年の前に立った。
「き、君……誰?」
この異常事態に普通に動いている少女に驚きながらも、少年は彼女に話しかける、すると彼女はゆっくりと口を開いた。

「ごめんなさい。」
「う!?」
突然、少年の体に電流が流れ、彼は自分の身に何が起こったかわからないまま昏倒してしまった。



「フェイトやったね! 早く封印を!」
すると少女の後ろからオレンジ色の長髪の隙間から犬耳のようなものを生やした少女が現れる。たいして少女はこくんと頷くと、倒れている少年に向かって機械でできた鉄の杖のようなものを翳した。
「そうだね、ジュエルシードシリアルナンバー……あれ?」
だが少女は違和感に気付き、詠唱を途中でやめる。
「ん? どうしたんだいフェイト?」
「ジュエルシードが出てこない?なんで……。」
「えええ!? じゃあどうするんだよ! このままにしていたら暴走するかもしれないのに……。」
「…………。」
少女は倒れている少年を前にしてどうしたものかと深く考え込む、そして……ある結論に達した。











「んんん……ここは……?」
それからどれだけの時間が経ったのだろうか、少年はとある部屋のベッドの上で目を覚ました。
「目が……覚めましたか?」
「!?」
そしてベッドの傍らには、先ほど少年に電撃を喰らわせて気絶させた金髪の少女がイスに座っていた。
「き、君は……!」
「ごめんなさい……痛かったですか? あの時はああするしかなくて……。」
「え? ああ、うん……。」
素直に謝られて困惑する少年、そして彼は少女の姿を見て首をかしげる。
(……? なんでこの子こんなところで水着着ているんだ?)
少女は体のラインがぴっちり見える黒いスクール水着のような服にマント、足にはニーソックスにゴツゴツした靴、そして腰にはベルトに何故か股の部分は隠せていないスカートという、なんというかとてもマニアックな格好をしていた。
(あのマントってバスタオルかな……この子プール好きなんだなー、いつでも入れるようにしているのかな?)
「あの……どうかしましたか?」
少女はまじまじと自分の体を見てくる少年に困惑する。
「いや、君の格好って変わっているよね。」
「ああ、確かにバリアジャケットってあなたから見たら珍しいかもしれませんね。」
「ばりあじゃけっと?」
少女の口から意味不明な単語が飛び出し少年は首をかしげる、そして少年はさらにあることに気付いた。
(よく見たらこの子……可愛いな……。)

その時、二人がいる部屋に黒いドレスを身に纏った黒髪の女性が入って来た。
「フェイト……その子、目を覚ましたのね。」
「あ……はい。」
「だ、誰ですか貴女……?」
「私はプレシア、この時の庭園の主よ、君の名前は?」
「ぼ、僕は……。」
少年はその女性から発せられる何とも威圧的な空気に恐怖を感じながらも、自分を必死に奮い立たせて自信の名前を名乗った。


「僕はシン……シン・アスカです。」


その後少年……シン・アスカはプレシアと名乗る女性からすべての事情を聴いていた。
「僕の中にあの宝石が……!?」
「私達は“ジュエルシード”と呼んでいるわ、そのジュエルシードは全部で21個あるんだけど、そのうちの一個が君の世界に落ちて偶然君の体の中に入り込んでしまったのよ。」
シンは信じられないといった様子で自分の胸元を見る、そしてプレシアは話を続けた。
「ジュエルシードは持ち主の願いを叶えるという特性を持っているの、でもそれが暴走してしまえば周辺にかなりの被害が出てしまう……一刻も争う時だったからフェイトが君をここに連れて来たのよ。」
「そうだったんですか、それでそのジュエルシードを取りだす方法ってないんですか?」
シンの質問に、プレシアは首を横に振った。
「ごめんなさい……どういうわけかジュエルシードが何らかの理由であなたの中に張り付いてしまっているの、無理に引き剥がそうとすれば命に関わるかもしれないし。」
「そんな……。」
プレシアの言葉に落胆するシン、そしてさらに彼女の口から重要な事実が突き付けられる。
「いつジュエルシードが暴走するかわからないし、このままだとあなたの家族も危険な目に遭うかもしれないわ、だから今はあなたを家に帰すことはできないの……。」
「……! そんな……!」
もしかしたら二度と家族に会えない、そんな悪い未来予想図を思い浮かべてしまったシンは目から涙を流した。
「……私もできる限り手を尽くすわ、だからしばらくの間ここにいなさい。」
そう言い残し、プレシアは金髪の少女を連れて部屋を出て行った。


そしてシンのいる部屋から大分離れた位置でプレシアは、金髪の少女に対し……。

パシン!

「うっ……!」
強烈な平手打ちをお見舞いした。
「まったく……何をしているの!?あなたがもっと早く行動していればあんな面倒なことにはならなかったのよ!」
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい……!」
少女はひどく怯えた様子で何度も何度もプレシアに謝った。
「フェイト……母さん悲しいわ! なんであなたはそういつもいつも……! またおしおきされたいようね!」
「ひっ……!?」
プレシアは殺意に近い感情で鞭を取り出し、壁に向かってそれを打ち付けた、その時……。
「その辺にしておきなさい、プレシア。」
突如プレシアの背後から栗色の髪をした女性が現れ、少女を暴行しようとする彼女を制止した。
「ヴィア……これはあなたには関係のないことでしょう! 邪魔をしないで!」
「そういうわけにもいかないわ、フェイトちゃんをいじめたってジュエルシードが集まるわけでもないでしょう、少し落ち着きなさい。」
「……。」
プレシアは栗色の髪の女性……ヴィアにいさめられ鞭をしまった。
「フェイト……グズグズしていないで早く行きなさい、母さんを失望させたいの?」
「はい……ごめんなさい……。」
そう言って少女は平手打ちされ腫れあがった頬を抑えながらその場を去ろうとした、その時、
「あ、ちゃんと叩かれた痕は氷水で冷やすのよー。」
ヴィアにアドバイスされ、少女はコクンと頷いて改めて去って行った。

そしてその場に残った二人は、シンについてどうするかその場で話し合っていた。
「で? あのシンって子はどうするの? おうちに帰したほうがいいと思うけど?」
「そういうわけにはいかないわ、ジュエルシードを取り出すまで手放すわけには……管理局に横取りされたらたまらないし、最近は邪魔も入っているみたいだし……。」
「あの白い子のことか……でもそれじゃシン君が可哀相じゃないの?」
「知らないわそんな事……あなたはただ自分の研究を進めていればいいのよ。」
プレシアはそう吐き捨てると自分の研究室に戻って行った。
「まったく……さて、一応あの子と話をしてみるか。」
一方ヴィアは意を決してシンのいる部屋に向かって行った。

その頃シンは毛布に潜り、家族の名前を口にしながらぐすぐすと泣いていた。
「お父さん……お母さん……マユ……帰りたいよお……!」
「あらら、ホームシック?」
するとシンのいる部屋にヴィアが入室し、彼は慌てて涙を拭うとベッド上で正座した。
「あ、あの……どちら様ですか?」
「まあそう固くならないで、私はヴィア、プレシアの友達の研究員よ、君がシン・アスカ君ね。」
「は、はい……。」
先ほどのプレシアとは違い柔らかい雰囲気のヴィアにシンは気を緩めた。
「それにしても災難だったわね、ジュエルシードが体の中に入っちゃった上に、こんなところまで連れてこられて……ああでもフェイトちゃんのことは責めないであげて、あの子は母親の為に必死になっていたから……。」
「フェイト? あの水着の子の事?」
「水着……まあバリアジャケットのことを知らないんだったらそう勘違いしてもしょうがないわね、さあて……まずどこから話したらいいのかしら……。」
そしてヴィアはシンに対して自分たちが今いる世界について説明を始めた。
この時の方舟はいくつも次元世界の狭間にあるということ。先ほどのプレシアとフェイトはシンにとって異世界人だということ、魔法という技術が存在していること……シンにとってはあまりにも現実味のない現実を突き付けられていた。
「……まるでマンガやアニメの世界みたいですね。」
「プレシア達にとって君の世界も十分マンガよ、ちなみに私もあなたと同じ世界の出身なの、よろしくね。」
「は、はい……。」

そして説明が一通り終わった後、ヴィアは今後の行動についてシンにある提案をする。
「ねえシン君、あなたの体からジュエルシードを引き剥がす方法だけど……私にひとつ考えがあるの、ついてきてくれる?」
「わかりました……。」

シンはヴィアに言われるがまま、時の庭園内にある彼女の研究室にやってきた。
「な、何ですかコレ……!? 妖精!?」
そこで彼は50センチ程の大きさの試験管の中に入れられている、30センチ程の大きさの赤い髪に、触覚のような二本の黄色い髪の束をぴょこんと立たせた少女の妖精をヴィアに見せられた。
「妖精ね……これは私が作ったデバイス、“Gデバイス”って言う魔法を使う為の杖みたいなものなんだけどね、君にこの子を使って魔法を使ってほしいのよ。」
「僕が魔法……?」
ヴィアが言うには何らかの原因でジュエルシードを取り込んだ影響で、シンの中に魔力の根源であるリンカーコアというものが形成されているらしい。
「君の中にあるリンカーコアの魔力の流れを見ればジュエルシードを取り出す方法が解るかもしれないわ、そこでね……君にフェイトちゃんの手伝いをしてほしいの。」
「あの子の? どういう事ですか……?」
「フェイトちゃんはね……今プレシアの言いつけで残り20個のジュエルシードを集めているの、でも成果は思わしくなくてね、このままじゃあの子……潰れちゃうわ、だから傍で支える人が必要なのよ。」
「えっと……もしかして魔法を使ってですか?」
「そう、ジュエルシードを引き剥がす手段を見付けて君をお家に帰すことができるし、万が一暴走してもフェイトちゃんが傍にいるし、私達はジュエルシードを集める手伝いをして貰える……どう? 悪い話じゃないでしょう? 大丈夫、魔法の使い方は私がちゃんと教えてあげるから、この子もサポートしてくれるし……。」
そう言ってヴィアはGデバイスの入った試験管をシンに渡した。
「僕が……。」
その時、試験管の中に入っていた培養液が抜きだされ、中にいた少女の姿をしたGデバイスが目を開いた。
「お、起きた!?」
「目を覚ましたようね……“デスティニー”」
ヴィアはそう言って試験管の蓋を取り外し、Gデバイスを外に出してあげる。そしてシンは試験管から出てきたGデバイスをジッと見つめた。
「……アナタのお名前は?」
対してGデバイスは見つめてくるシンに対して名前を尋ねる。
「喋った!? ぼ、僕はシン・アスカ……。」
「シン……アスカ……!」
Gデバイスはシンの名前を聞いた途端、驚いた様子で吊り上った目の瞳孔を開かせた。
「私は……デスティニーとお呼びください、我が主シン・アスカ。」
「主……? うん、よろしくねデスティニー。」
シンは戸惑いながらも、デスティニーと名乗ったGユニゾンデバイスの小さな手を握り握手する、そしてその光景をヴィアは暖かく見守っていた。
「まあ一晩その子と一緒に考えるといいわ、私としては君を危険な目に遭わせたくないけど……最善の方法がこれしか思いつかないのよね。」


それから数分後、シンはデスティニーと共に部屋に戻り、今後のことを話し合っていた。
「なんか……今日は色々なことがあったなぁ。」
「それで? 主は今後どうするのです?」
デスティニーはテーブルの上で8等分されたリンゴを食べながらシンに質問する。
「帰る方法がそれしかないっていうなら……やるしかないよね、でも僕に魔法なんて使えるのかな?」
「それは大丈夫です、私とヴィアが手取り足取り教えますので、一週間である程度戦えるようになると思います。」
「そっか、ありがとう……。」
そう言ってシンはベッドにコロンと寝転がり、重みを感じた瞼をそのまま閉じた。
(そうだ……あのフェイトって子と一緒に戦うことになるんだよな……あの子と仲良くなれるのかな……?)


シンが寝静まったのを確認したデスティニーは、そのまま彼の枕元に立ち、とても小さな声で彼に語りかけた。
「大丈夫です……今度こそ、今度こそあなたを幸せにしてみせます。」










はい、今回はここまでです、原作を知っている人は「あれ? なんで?」って展開になっていますが、ちゃんと後で説明しますのでまずはまっさらな状態で読んでいただければ嬉しいです。

以前子供時代のシンの一人称は「僕」だという指摘を受けたので本編ではああなっております。

デバイスのデスティニーの容姿ですが、リインフォースⅡの騎士服を全体的に黒く染めて赤いラインを入れていると想像してください

次回はシンが魔法を体得する話となのは無印第6話あたりの話になります。



[22867] 第二話「交錯する閃光」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/06 20:30
第二話「交錯する閃光」


シンがプレシア達に保護(拉致?)されてから2日後、彼はフェイトに連れられて彼女達が第97管理外世界と呼んでいる世界の日本の遠見市というところにやってきていた。
「へー、街並みはオーブと変わらないんだなー……なんか意外だなー。」
「…………。」
物珍しそうに辺りを見回すシン、一方のフェイトは何も言わずツカツカと歩いて行った。
(うーん、なんかこの子とっつきにくいな……避けられているのかな?)
二人の間に重苦しい空気が流れる、そんな空気を変えるためシンはフェイトにある話題をふっかける。
「そ、そういえばフェイトちゃん……今日は普通の服装だよね、黒が好きなの?」
「この服がですか? そうですけど……それが何か?」
「あ、うん……それだけです。」
「…………。」
会話終了。
(会話が続かねえー!)
(苦労していますねえ主。)
するとシンの背負っているヴィアから支給された生活用品が入っているリュックの隙間からデスティニーが顔を覗かせた。
(デスティニー……なんでフェイトちゃん、あんなに冷たいんだろう……? 俺嫌われているのかな?)
(いや……ヴィアから聞いた話なのですが、フェイトさんは長い間自分の使い魔とプレシア、そして彼女の使い魔と4人だけで暮らしていたそうなのです、だから突然現れた主にどう接していいかわからないのでしょう、ファーストコンタクトもあんなのだったでしょう?)
(う、うん……。)
シンはオーブでフェイトと初めて出会った時、彼女に電流をお見舞いされたことを思い出した。
(でもなあ……これからどれだけ一緒にいるかわからないし、フェイトちゃんとは仲良くしたいんだよなあ、こんな調子じゃ息が詰まっちゃうよ。)
(災難でしたね……でもご安心ください、何があろうと私は主を守りますので。)
(ありがとう、デスティニー……。)





そして数分後、シン達は遠見市にあるとても高級そうなマンションにやってきた。
「ここが私たちのアジトになります……。」
「うわー、うちより高級だなー。」
シンは関心しながらフェイトに連れられて、彼女達のアジトであるマンションの一室にやってきた。そしてそこで……。
「おお! お帰りフェイト~!」
「うわあああああ!? 犬がしゃべった!?」
シン達の身の丈を軽々と越える大きさの巨大な犬らしき生き物が、人間の言葉をしゃべりながら彼らを出迎えたのだ。
「ああん!? 私はオオカミだよ! 失礼なガキだね!」
「アルフ……シンさんを怖がらせちゃだめだよ。」
「へいへい、怖がらせなきゃいいんだね。」
そう言ってアルフと呼ばれたオオカミはにやりと笑うと、自分の体を光らせ今度は犬耳をはやした16歳ぐらいのオレンジ髪の少女に変身した。
「えええええ!? 人間になった!?」
「主、あれが使い魔です、使い魔は人間と動物、両方の姿に変身することができるのですよ。」
「ああん? なんだいこのちみっちゃいの?」
リュックから出て使い魔に関する説明するデスティニーを見て、アルフは首を傾げる。
「ヴィアさんが作ったデバイスなんだって、仲良くしてあげてね。」
「ふん!」
アルフはつまらなさそうにシン達に背を向けると、そのまま寝室へ向かって行った……。
「嫌われているな……。」
「ごめんなさい、後で叱っておきますから……。」
「主、とりあえずフェイトさん達のジュエルシード探索開始までまだ時間があります、その間に魔法の使い方を勉強しましょう。」


さらに数分後、シンはデスティニーとフェイトと共にマンションの屋上にやってきた。
「それではまずバリアジャケットの装着から始めましょう、私が前に立ちますので主は『デスティニー セットアップ』と唱えてください。」
デスティニーはふよふよとシンの目の前で浮きながら彼に合図を送る。
「う、うん……『デスティニー、セットアップ』」

その瞬間シンは光に包まれ、身にまとっていたものすべてが光となって散ったあと、上から順に深紅のローブが彼の身に纏われていった。そして両腕にはロボットのように機械的な青い籠手が装着されと。

「な、なんか少女漫画の変身みたいで恥ずかしい……。」
変身を終えたシンは先ほどの変身する自分の姿を思い出し赤面する。一方その光景を傍から見ていたフェイトは少し驚いていた。
(すごい……この子、長い詠唱も無しに変身した……。)
「主、次はもっと変身ヒーローっぽく魂込めて言ってみましょうね。」
「ええー!? やだよ恥ずかしいよ!」
「んじゃバリアジャケットも着たことですし、次に魔法の使い方を勉強しましょう、そこにいるフェイトさんが使っているバルディッシュは、杖を様々な形に変形させるタイプなのですが……私のはちょっと特別なのです。」
そう言ってデスティニーは自分の目の前に魔法陣を展開し、そこから様々な武器を出してきた。
「うわ! なんだこれ!?」
「これはビームライフル、威力もそこそこの光線を出す銃です、この二対の剣はフラッシュエッジ、投げればブーメランにもなります、この深緑色の筒は大型ビーム砲、ビームライフルより太いビームが撃てます、その水色は大剣アロンダイト、主にはまだ早いかもしれませんね、そして……。」
武器の説明を一通り終えたデスティニーは、指をパチンと鳴らす、するとシンの背中に赤く光る透明な翼が生えてきた。
「うわ! 羽が生えた!?」
「その翼があれば主は自由に空を飛べますよ、試しにやってみます?」
「う、うん!」
シンはそう言って背中に生えた翼をパタパタと羽ばたかせる、するとシンの体は少しずつ空中に浮きだした。
「すごい! 僕飛んでいる!」
「このように私に言っていただければ主の望む武器を取り出すことができます、あと……主の腕に付いているその籠手のことなのですが……それはシールドとして使用すること以外お勧めできません。」
「え? なんで?」
シンは両腕に装着されている籠手を見つめながらデスティニーに質問する。
「その籠手……パルマフィオキーナは威力が高い分、その反動が腕にダイレクトに伝わってしまうのです、下手をしたら腕の骨がR-18になる可能性も……。」
「うえ!? あ、危ないねそれ! わかったよ、なるべく使わないようにするよ……。」
「それでは今度は回復魔法の勉強をしましょう、フェイトさん手伝ってください。」

そしてデスティニーの魔法講座は夕方まで続いた……。




空もすっかり暗くなった頃、シンとフェイトはバリアジャケットに身を包んでジュエルシード探索の為マンションの屋上に来ていた。
「この感じ……フェイト。」
「うん、ジュエルシードがこの近くにある。」
広域探査の魔法を発動させながら、アルフは狼形態のままフェイトと話合う。
「すげー……何言っているのか全然解んねー。」
「私達完全に蚊帳の外ですね。」
一方話について行けないシンとデスティニーは一歩離れた位置で2人のやりとりを見学していた。
「あのー……僕らに何かできる事は……。」
「ああん!? アンタらに出来る事なんて何もないよ! 大人しく後ろで見ていな!」
シンはいたたまれず協力を申し出るが、アルフに鬱陶しそうに拒否されてしまう。
「ううう……やっぱり嫌われている……。」
「とにかく急ごう、あの子が出てくる前に……。」
そう言ってフェイトはアルフと共に飛行魔法を使って夜空に飛び出していった。
「ああ待って! デスティニー翼を!」
「はいはーい。」

数分後、アルフと並行して飛翔するフェイトは彼女に話し掛ける。
「アルフ……さっきのは良くないと思うな、シン君がかわいそうだよ。」
「だって……。」
初めて会った数日前までは魔法など一切知らず、狼形態のアルフが喋ったことにとても驚いていたような子供が、この一日でフェイトに迫る程の魔法の技術を身に着けてしまい、アルフは少なからずシンに対して畏怖の気持ちを抱いていた。
「確かにこの状況になったのは私達にも責任があるよ、でもジュエルシード集めを手伝わせなくても……私達だけで十分じゃないか!」
「でも私達が集めるのが遅いのは事実だし……。」
「そんなの! あの女がわがまま言っているだけじゃないか! それに……フェイトだってあいつとはあまり話出来ていないじゃないか。」
「う……。」
痛いところを突かれフェイトは顔をしかめる。
「だって……。」
「だって?」
「私……男の人となんて話したことないんだもん、どうすればいいかわからないよ……。」
今までフェイトの周りにいた人間はフェイトが覚えているだけで女ばかりで、いわばシンはフェイトにとって初めて会う男なのだ。
しばらく沈黙したあと、二人は深くため息をつく。
「とりあえず後で謝ろう、さすがにかわいそうだよ。」
「わかったよフェイト……とにかく今はジュエルシードが最優先だ。」
そして二人は後ろからシンが付いて来ているのを確認し、ジュエルシードの反応があった方角に向かって行った。


そして数分後、三人は夜の繁華街にやってきた。
「結界が張られている……フェイト、この感じは……。」
「うん、あの子も来ている…。」
「あの子って?」
「私達と同じようにジュエルシードを集めている子がいるんだ。今近くに来ている。」
そして三人はジュエルシードを目視で確認できるところまでやって来た。
「いくよ、バルディッシュ。ジュエルシード封印!!」
ジュエルシードに向けフェイトの持つバルディッシュから黄色く細長い光が放たれる、だが、
「あの光は!?」
反対方向から何者かが桜色の光線を放ち、フェイトの放った光線とぶつかりあった。
「封印できなかった!?」
「やっぱりあの子か!?」

すると桜色の光がきた方角から白い服を着た少女が飛来してきた。
「フェイトちゃん!」
「あの子がさっき言っていた子?」
「ああ、名前は…アレ?」
「そういえば聞いてなかったね。」
「知らないの!?」
思わず2人にツッコミを入れるシン。
「なのはだよ。」
するとシン達の話を聞いていた白い服を着た少女が自ら名乗る。
「この前は自己紹介できなかったけど、私高町なのは、私立聖祥大附属小学校三年生!」
次々と自分の事を話すなのは、だがフェイトは何も応えずバルディッシュを構える。
「フェイトちゃん!?」
「シン君はジュエルシードをお願い、私達は急がなきゃいけないんだ。」
「わ、わかったよ。」
戸惑いながらもジュエルシードに向かうシン、だが突然シンは何も無いところでころんでしまう。
「うわあっ!? 何この輪っか!?」
「バインド!? アイツの使い魔か!」
シンの体に複数の光の輪が巻きついており、動きが封じられていた。
「まったく、足引っ張ってんじゃないよ!」
「ここは私にお任せを、アルフさんは術者を探してください。」
「私に命令するんじゃない!」
そう言ってシンに魔法を掛けた術者を探しに何処かへ去っていくアルフ。
「私はあの子と……。」
なのはの方へ飛んで行くフェイト
「くそっ! はずれない……!」
「落ちついてください主、どっかにペンチ無いかな……。」
地面でじたばたともがくシン、だがバインドが外れることはなかった。


「フェイトちゃん!」
上空で対峙するフェイトとなのは。
「話し合うだけじゃなにも伝わらないって言ってたけど、言葉にしなきゃきっと伝わらないこともあるよ、奪い合ったり、競い合ったりするのは、それは仕方の無い事かもしれないけど。だけど!」
フェイトに必死に訴えかけるなのは。
「何もわからないままぶつかり合うのは私、嫌だ! 私がジュエルシードを集めているのはユーノ君のお手伝いのため! でも今は自分の意思でジュエルシードを集めている、自分の周りの人達に危険が降りかかるのがいやだから!」
一呼吸おいて
「これが私の理由! フェイトちゃんは!?」
「私は……。」
なのはの言葉を受けて、フェイトの心に少しばかり迷いが生じる。
「フェイト! 答えなくていい!!」
すると二人の会話に術者を追いかけていたアルフが横槍を入れる。
「私達の最優先事項はジュエルシードの鹵獲だよ! 優しくしてくれる人達のところでぬくぬく暮らしているガキンチョになんか、何も答えなくていい!!」
フェイトはその言葉に答えるようにバルディッシュを構える、そんな彼女を、なのはは悲しそうに見つめていた。
「……ごめんなさい。」
そういってフェイトはジュエルシードへ向かう。
「やらせない!!」
後からなのはも追う。そしてなのはのレイジングハートとバルディッシュがジュエルシードの上で交差し、ヒビが入る。
「「!?」」
次の瞬間、ジュエルシードから放出された魔力の光が辺りに広がった。
「きゃあああああ~!」
「くっ……!」

「なんだよこの光……!? フェイトちゃん……!」
このままじゃフェイトが危ない、だが自分は動けずなにも出来ない、そんな歯痒さがシンをイラつかせた。
「こんなことで……こんな事でー!」
その時、シンの頭の中に種が割れるイメージが浮かんだ……。
「主……!? まさか……!?」

光が晴れ、二人は数十メートルジュエルシードから距離を置く。
「ごめんねバルディッシュ……もどって。」
フェイトは傷だらけになったバルディッシュを待機状態に戻し、今だに宙に浮くジュエルシードを目で捕える。
「ジュエルシードを……!」
フェイトはジュエルシードのもとへ飛びつき、両手でそれを包み込んだ。
「フェイト!!」
「!!」
するとフェイトの指の隙間から大量の光が漏れだした、ジュエルシードが暴走しかかっていたのだ。
「止まれ……!!」
だが光は収まらない。
「フェイト!無茶だよ!」
アルフの声が辺りに響く。
「止まって……!」
それでも光は収まらず、フェイトは膝を着いてしまう。
「止まれ……! 止まれ……! 止まれ……! 止まれ……!」
グローブが裂け、血しぶきが飛ぶ。
「くっ……!」
このままじゃフェイトの体が持たない、そう思いアルフが駆け寄ろうとしたその時、横に凄まじいスピードで何かが通り過ぎた。
「いまのは……シン!?」

「フェイトちゃん! 大丈夫!?」
「シン君!? その目は……!?」
フェイトの目の前にはバインドで縛られていたはずのシンがいた、彼は傷だらけのフェイトの手を自分の手で包み込む。そして、
「止まれーーーーー!!!」
力の限り、気持ちを込めて叫んだ、するとジュエルシードは徐々に光を弱め、やがて沈黙していった。
「や……やった……。」
息を切らしながらフェイトのほうを見るシン。
「う……。」
「シ……シン君……。」
そして二人とも力を使い果たし、その場で倒れてしまった。
「フェイト! シン!」
「アルフさん! 2人を抱えて撤退を! ジュエルシードは私が!」
デスティニーとアルフは二人の下に駆け寄り、なのはを一瞥したあと二人を抱えその場から撤退していった。


「なのは! 大丈夫!?」
そして一人その場に残ったなのはのもとに一匹の喋るフェレットが近づいてくる。
「私は大丈夫だよ、それよりもレイジングハートが……。」
「これぐらいなら自己修復機能で明日には治っているはずだよ。」
「よかった……でもあの男の子、一体なんだったの?」
なのははフェイト達と一緒にいた見知らぬ男の子のことを思い出していた。
「さあ? でも油断しないほうがいい、さっきの力……なんだか得体が知れない、魔法とは違う何かが……。」
「シン君って言っていたっけ? なんだったんだろうあの子……?」


それから数時間後、シンはアジトのベッドの上で目を覚ました。
「あれ……? 僕、いつの間に眠って……。」
「目を覚ましましたか、主。」
するとそこに絞ったタオルを持ったデスティニーがやって来た。
「デスティニー、僕は一体どうしたの?」
「あのジュエルシードが暴走した際、主とフェイトさんが力ずくで抑えたのです、そして力を使いすぎて……。」
「そうだったんだ……。」
そしてシンはふと、自分の掌を見つめながら先程の出来事を思い出す。
(さっきのあの力……何だったんだろう?あれもジュエルシードの力なのかな……?)

その時、シン達のいる部屋の扉がバンと開かれ、そこから人型のアルフとフェイトが入って来た。
「シン! 目が覚めたのかい!?」
「アルフさ……わぶっ!?」
そしてアルフはシンが起きていると解るや否や、彼に飛びついて思いっきり抱きしめたのだ。
「ありがとー! フェイトを助けてくれてありがとー! あんためっちゃいい奴だったんだね! つれない態度とってごめんよー!」
「あ、アルフさん……苦しい……!」
シンはアルフの豊満な胸に顔を覆われ、息ができない状態だった、そしてその様子に気付いたフェイトはアルフを慌ててシンから引き剥がす。
「アルフ、それじゃシン君が息出来ないよ。」
「ああ、ごめんごめん。」
「ぷはっ! 死ぬかと思った……。」
アルフの胸から開放され九死に一生を得るシン、そしてそんな彼にフェイトは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさいシンさん、私が不甲斐ないばっかりにアナタを危険な目に遭わせて……。」
「そんな、謝らなくていいよ、僕はただフェイトちゃんを助けたかっただけなんだから。」
そしてシンはフェイトの手に包帯がグルグルと巻かれている事に気付いた。
「フェイトちゃん……もしかして手を怪我しているの!?」
「あ、いや……。」
フェイトはばつが悪そうに自分の手を背中に隠した。
「どうして……どうしてそこまで無理をするの!? そこまでやる必要なんてないじゃん! ジュエルシードがどこまで重要な物か知らないけど、君がそこまでやる必要なんて……!」
「……!」
するとフェイトは少し興奮したように声を荒げてシンに反論した。
「それでも……それでも私は母さんの為にやり遂げなきゃいけないんです!」
「フェイトちゃん……。」
普段大人しいフェイトが声を荒げた事に驚くシン、一方のフェイトは何も言わず俯いてしまい、アルフはどうすればいいか解らずオロオロし、デスティニーは黙って様子を見ていた。
「…………はあ、フェイトちゃんって本当頑固なんだね。」
そう言ってシンは突如、俯いているフェイトの頭を優しく撫でた。
「し、シンさん!?」
突然の事に動揺するフェイト、そしてそんな彼女はお構いなしにシンは話を続けた。
「フェイトちゃんがそうやって我儘を言うんだったら……こっちだって無理にでも君に協力するよ。」
「で、でもそれじゃシンさんが危険な目に……。」
するとシンはフェイトの言葉を遮るように彼女の唇に自分の人差指を添えた。
「目の前で女の子が危ない目に遭っているのに、何もしないなんてカッコ悪いじゃん、だから……ね?」
「わ、わかりました……。」
そしてシンはある事を思い付いたようにフェイトにある提案をする。
「そうだ! 僕もどれだけここにいるか解らないし……お互い協力しあう仲なんだしもうお互い他人行儀で呼び合うのはやめにしない? 僕の事はシンって呼び捨てでいいよ! 僕もフェイトって呼ぶから!」
「え? えっと……。」
フェイトは完全にシンのペースに圧されていた、そして今まで2人の様子を窺っていたアルフとデスティニーからも意見される。
「いいじゃんフェイト! シンは強い子だし、仲良くしておいて損はないと思うよ!」
「私からもお願いしますフェイトさん……。」
周りからの意見で完全に逃げ場を失ったフェイトは、恥ずかしそうに顔を赤くしながら、ぼそぼそとシンの名前を呼んだ。
「そ、それじゃぁ……シン、これからもよろしくね。」
「うん! こちらこそよろしく……フェイト!」


その日、シンとフェイトとの距離が少しだけ縮まったのだった……。










本日はここまで、しかし一人称を“僕”にすると全然シンに見えませんね、まあ次回からある理由をつけて“俺”にするつもりですが。

因みにデバイス形態のデスティニーはヴィヴィオが使うセイグリットハートをイメージしています、セットアップしてもデスティニーはシンの隣でフヨフヨ浮いている感じ

次回は無印7話をベースにしたお話を、何も問題がなければ明日投稿します。それとヴィアの過去やプレシアのこの物語での目的、そしてこの作品と深く関わるもう一つのガンダム作品が出てくるのでお楽しみに。




[22867] 第三話「閉ざした過去」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/07 20:44
 第三話「閉ざした過去」


なのは達との戦闘があった次の日のこと、シンはヴィアからもらった通信機である報告を受けていた。
「一度時の庭園に来てほしい?」
『うん、昨日の戦闘の事は聞いたわ、報告のついでに検査したいからデスティニーと一緒に来てくれる? ああそれと……フェイトちゃんは連れてきちゃダメよ。』
「え? どうして?」
親元から離れて暮らしているフェイトにとってこのような機会はまたとない機会のハズ……それ故にシンはヴィアの言動が理解できなかった。
「フェイトだってプレシアさんと会いたがっているのに……どうしてそんなことを?」
『ごめんなさい、ここじゃ詳しくは話せないわ、とりあえず一度来てもらえる? そこで理由を説明するから……。』
「は、はあ……。」
シンはヴィアの言動を不可解に思いながらも一旦通信を切った。


「というわけで今日の報告は俺とデスティニーだけで来てって言われたんだけど……どうする?」
数分後、シンは広間でフェイトとおとなフォームのアルフに先ほどのヴィアとのやり取りを話した。
「ヴィアさんが……。」
「ま、まああの人が言うんだったらしょうがないよね! せっかくだし私らは公園で散歩でもしているよ!」
明らかに落胆しているフェイトとは対照的に、アルフは心底安心した様子でフェイトに抱き、子犬のようにフェイトに遊んでくれるようせがんだ。
「……わかった、それじゃシン……母さんへの報告よろしく。」
「わかったよフェイト。」

そしてそんな二人のやり取りを、デスティニーはシンのリュックサックの中から温かい目で見守っていた。
(最初はどうなる事かと思いましたけど……少しずつ仲良くなっていますね、それに……。)

ふと、フェイトはあることを思い出しシンに質問する。
「そういえばシン、さっき自分のこと“俺”って……。」
「ああ気付いた?“僕”のままじゃなんかなよなよした感じだし、思い切って自分の呼び方を変えたんだ!」
「ふーん……。」

[一人称を変えたぐらいでそれ以外の何かが変わるとは思えませんが……。]
するとデスティニーの隣に置いてあったフェイトのデバイス“バルディッシュ”が、シンの行動を不思議がっていた。
「バルディッシュ……男の子というものは可愛い女の子の前ではカッコつけたがるものなのですよ。」
[?]


その日の午後、シンは時の庭園に向かうためフェイト達と共に屋上に来ていた。
「それじゃ行ってくるよ、報告はちゃんとしておくね。」
「あ、待ってシン、これを……。」
そう言ってフェイトは二つのケーキが入った箱をシンに渡した。
「これって……ケーキ?」
「うん、母さんとヴィアさんへのお土産……。」
「わかった、ちゃんと渡しておくよ。」
そしてシンの足元に強大な魔法陣が現れ、彼は時の庭園に転移していった……。


数分後、シンはまずプレシアのいる時の庭園の王座のようなものがある広間にやってきた。
「プレシアさん……こんにちは。」
「……シン君、フェイトはどうしたの?」
シンの姿をみるや否や、プレシアは開口一番にフェイトの事を口にした。
(なんだ、プレシアさんもフェイトと会いたがっているじゃないか。)
「ヴィアさんが俺だけ来るようにって……。」
「ちっ……余計な真似を。」
「え?」
シンはプレシアの理解できない態度を不思議に思いながらも、フェイトから預かっていたケーキをプレシアに差し出した。
「あの……これフェイトからです。」
「……!!!」
するとプレシアはあろうことかケーキの入った箱をシンの手からパシンとはたき落した。
「な、何するんですか!?」
「フェイトに伝えておきなさい……! こんなことをしている暇があったらさっさとジュエルシードを集めなさいと! さもないとまた痛い目に遭わせると!!」
「……!!?」
シンはプレシアの目に殺気にも近い凄まじさが混じっていることに気付き、思わず恐怖してしまう。
「何で……なんでそこまで……。」
必死にプレシアに反論しようとするシンだが、プレシアのあまりの威圧感に口から言葉を出せずにいた、そこに……。
「ああシン君ここにいたのね、遅いわよ。」
にこやかな笑顔のヴィアがシンとプレシアの間に割って入ってきたのだ。
「ヴィ、ヴィアさん……。」
「ヴィア……邪魔をしないでくれる? 私はシン君に話があるのよ。」
「あなたがそんなんじゃ話なんてできる状態じゃないでしょう? 少し頭を冷やしなさい。それにあまり興奮すると体が……。」
そう言ってヴィアはたたき落とされたケーキと恐怖で足がすくんでいるシンの手を取ってその場を去っていった。
「あの、ヴィアさん……。」
「ごめんねシン君、プレシアには後で私がきつく言っておくから。」

「…………図に乗るんじゃないわよ。ゴホッ……!」
プレシアはただその一言だけ呟いてせき込んだ後、王座にドスンと座り二人の背中をじっと見つめていた。





「よーっし、検査終了、お疲れ様。」
一時間後、シンはヴィアの研究室で彼女から一通り検査を受け、そしてそのために脱いでいた服を着ながら彼女に質問をしていた。
「それでどうなんですか? 俺の体……。」
「俺? 一人称変えたのね……ふふふっ、似合っているわよ、そうね……。」
ヴィアはシンのデータが逐一掲載されている書類を見ながら首をかしげている。
「うーん……悪いけど安全に引きはがす方法はまだ見つからないわね、あなたの中にあるリンカーコアとは別の何かがジュエルシードと接着剤でくっつけたようにくっついているのよ、無理に引きはがそうとすれば大変なことになるわ。」
「そうですか……。」
成果が思わしくなかったことを受け、シンは少なからず落胆する。
「いっそ暴走させて誰かに倒してもらって離れたジュエルシードを封印するって手もあるけど……これは流石にお勧めできないわ、下手したら死人がでるし……。」
「うぇ!? それだけは……。」
その時、ヴィアの机の上で消しゴムのケシカスで黒い雪だるまを作って暇を潰していたデスティニーが声を掛けてくる。
「そういえば今日のプレシア……とても機嫌が悪かったですね。」
「うん、尋常じゃない怒り方だったよな、何もあそこまで言わなくても……フェイトだって頑張っているのに。」
「…………。」
するとヴィアは神妙な面持ちで近くのパソコンを操作し始める。
「二人には……知っておいてもらったほうがよさそうね、プレシアがなんであんな風になったのかを……ちょっとこっちに来なさい。」
「……?」
シンとデスティニーはヴィアに手招きされ、パソコンに映されているある部屋の様子を見せられる。
「な、なんですかコレ……!?」
そこには、巨大な円柱型の水槽に入れられたフェイトと瓜二つの少女が映し出されていた。
「この子は……“アリシア・テスタロッサ”、プレシアの……死んだ娘、そしてフェイトちゃんのオリジナルでもあるわ。」
「オリジナル……!? なんですかそれ!?」
そしてシンとデスティニーは、ヴィアから驚愕の真実を打ち明けられた。

数年前、とある企業に勤めていたプレシアは、後任スタッフの暴走と上層部のスケジュール強行により魔力動力炉の事故を起こしてしまい、一人娘のアリシアを失ってしまう、悲しみに暮れる彼女はアリシアを蘇らせる為、“プロジェクトFATE”と呼ばれる技術を使ってアリシアのクローンであるフェイトを誕生させた、しかしフェイトはアリシアの記憶等を断片的にしか引き継いでおらず、プレシアはフェイトに対し“アリシアに似た何か”として憎悪の感情を抱いてしまっているのだ。

「そして……そこで眠るアリシアを“蘇らせる術”を見つけたプレシアは、フェイトを使ってその“蘇らせる術”を完全にする為にジュエルシードを集めさせているの。」
「蘇らせる……術?」

それはほんの些細な偶然だった、プレシアは初め失われた技術があるといわれているアルハザードに向かう為、異世界に関する資料を片っ端から調べていた、そして彼女の目にある世界で研究されている細胞の研究データが入ってきたのだ。

「それがフューチャーセンチュリー……FCの世界の科学者、ライゾウ・カッシュ博士によって研究されている“アルティメット細胞”よ。」
「アルティメット細胞?」
「戦争で荒廃したFCの自然を回復するため、“自己進化” “自己再生” “自己増殖”の三大理論を元に開発されたいわば自然回復マシーンね、それが完成すれば崩れた星の生態系を短い時期で修復することが可能なの。」

そしてその研究に目を付けたプレシアはFCの世界に自ら赴き研究データを強奪し、奪ったデータを元に独自の理論でアルティメット細胞を完成させ、アリシアを蘇生しようとしたのだ。
彼女は天才だった、いや、娘と再び出会いたいという執念がそうさせたのかもしれない、ライゾウ博士ですら完成するまであと数年かかると言われたアルティメット細胞の研究を、動物や使い魔で実験し高い効果を見せるという段階まで進めていたのだ。

「でも……死者を蘇らせるまでには至らなかった、そこで彼女はある世界で発掘された願いを叶える魔石と呼ばれるジュエルシードを強奪しようと企てた、でも……強奪は失敗に終わり、20個のジュエルシードは海鳴市に、最後の一つは……。」
「俺が拾ったってことですか?」
シンの問いに、ヴィアは黙って頷いた。
「あとは君の知っての通り、プレシアはアルティメット細胞を完成させるためフェイトちゃんを酷使してジュエルシードを集めさせている……きっとすべて集まろうが集まらなかろうが彼女は捨てられるでしょうね。あの子にはアリシアしか見えていない……そして同じ顔をしたフェイトちゃんに対して憎悪に近い思いを抱いている。」
「そんなの……そんなのおかしいよ!」
あまりにもひどい現実に、シンは思わず机をドンとたたいてやりきれない怒りを露わにした。
「そうね……でもプレシアはそんなこともわからないぐらい心に重い病を抱えているの、私にできることと言えばフェイトちゃんをなるべく彼女から遠ざけることぐらいしかできない、真実を知ればフェイトちゃんはきっと心に深い傷を負ってしまうでしょう。」
「…………!」
シンの頭には先ほどのプレシアの鬼のような形相と、フェイトの寂しそうな横顔が交互に思い浮かんでいた。
「勝手に生んでおいて……拒絶するなんて……どんな理由があろうと、俺はあの人を許さない……!」
「馬鹿な事考えちゃダメよシン君、プレシアは強いんだから……あなたが挑んでも殺されるだけだわ。」
シンが何を考えているか察知したヴィアは、あらかじめ彼に釘を刺しておく。そして冷静になったシンはある疑問が浮かび、ヴィアに再び質問する。
「そういえば……なんでヴィアさんはプレシアさんと一緒にいるんですか? あの人とはどんな関係なんです?」
「私とプレシア? うーん……あれは11年前になるわね……この前私言ったでしょ?君とは同郷だって……その頃私、コズミックイラで夫と一緒にコーディネイターの研究をしていたのよ。」
「コーディネイターの……?」
「うん、それでナチュラルの人に疎ましく思われちゃって……ある日私たちがいたステーションがテロにあって、どういうわけか私はこのミッドチルダに時空漂流者として流れ着いちゃったのよね、そして管理局の人に保護されていろんな世界を何年も彷徨った末に、三か月前にプロジェクトFを実行したプレシアの噂を聞きつけて、彼女に出会ってアルティメット細胞の研究の手伝いをしているの、つまり私とプレシアは研究仲間ってわけ。」
「そうだったんですか……ヴィアさんもアルティメット細胞がほしいんですか?」
「…………。」
ヴィアは一瞬悲しそうな表情になると、一枚の写真を机の中から出した。
「私達夫婦は……これまでの研究で何人もの命を犠牲にしてきたわ、そして……この子も私たちの研究の犠牲者。」
写真には金髪の男の赤ん坊が映っていた、そして隅には「ラウ」と書かれている。
「この子もフェイトちゃんと同じクローンでね、元になったオリジナルが歳をとりすぎているせいでテロメア……寿命が極端に短いの、だから私は……。」
「アルティメット細胞を使って……その子達を救おうと?」
シンの言葉に、ヴィアは自嘲めいた笑顔で答えた。
「いまさらこんなことしたって私の罪は消えない、自分の子供すら実験台にした私は地獄すら生ぬるいわよね、でも……プレシアを放っておけないのよ、彼女は大切な友達だし、私みたいな過ちは犯してほしくないの、フェイトちゃんもできたら救ってあげたい。」
そしてヴィアはシンの手をぎゅっとつかみ、彼にお願いをした。
「お願いシン君……フェイトちゃんを支えてあげて、君ならできると思うから。」
「ヴィアさん……わかりました。」
ヴィアの願いに対し、シンは力強くこくんと頷いた。

そしてその後、ヴィアにケーキを渡して帰ろうとした時、シンは突如彼女に呼び止められた。
「まってシン君……これを持って行きなさい。」
そう言ってヴィアはロールキャベツが大量に盛りつけられた皿をシンに渡した。
「夜ごはんのおかずよ、ちゃんとしたもの食べないとね……二人とも育ちざかりなんだから。」
「ありがとうございます! それじゃ!」
そう言い残し、シンはデスティニーと共にその場を去っていった。


「……キラとカガリにもあんな弟や妹をプレゼントしてあげたかったな、考えてもしょうがないか……。」
そう独り言をつぶやいた後、ヴィアはモニターに映し出されているアルティメット細胞に関する数値データを真剣な表情で見つめた。
(ここ最近アルティメット細胞の成長が予測より早くなっている、どういう事なのかしら……。)





次の日の夕刻、シンはフェイトやアルフと共にビルの屋上でジュエルシードの探索を行っていた。
「フェイト。」
「うん、目覚める子がいる……いこうか。」
そして三人はジュエルシードの反応がした方角に飛び立った、そして飛んでいる最中の事、
「シン。」
フェイトは昨日から口数が少ないシンに話しかける。
「何?」
「シン……どうしたの? もしかして怒っているの? 母さんのところに行ってからなんか考え事しているみたいだけど?」
「別に……なんでもないよ。」
「そう? ならいいけど……。」
フェイトは首を傾げながらも、これ以上詮索せずシンより少し前を飛翔する、一方そんな彼女の後姿を見てシンは昨日ヴィアから聞いた話を思い出していた。

―――きっとすべて集まろうが集まらなかろうが彼女は捨てられるでしょうね。―――

(フェイト……母親にあんなにきつく当られているのに、それなのに……。)





「この結界……またアイツらか!!」
数分後、ジュエルシードの反応がした海鳴臨海公園にやってきたシン達、そこにはジュエルシードにとりこまれた樹木の怪物と戦っているなのはと彼女の相棒であるフェレットの姿があった。
「苦戦しているみたいだね。」
すると怪物はフェイト達に気付いたのか、こちらにも攻撃を仕掛けてきた。
「さっさと終わらせよう……デスティニー! ビームライフルだ!」
シンが放ったビームライフルの光線は怪物の根を深く抉った。
「あれはフェイトちゃん達……レイジングハート! もっと高く飛んで!」
フェイト達に気付いたなのはは上空に高く飛び桜色の羽が生えたレイジングハートを構える。
「フェイト! 今だ!!」
「うん、アーク……」
バルディッシュを構えるフェイト
「ディバイン……」
合わせてなのはも唱える。
「セイバー!!」
「バスター!!」
金色の刃と桜色の光線が同時に放たれ、怪物は断末魔と共に消滅した。そして怪物がいた所にはジュエルシードがぽつんと浮かんでいた。
「フェイト……。」
「シンは手を出さないで。」
そういってフェイトは飛び、なのはと対峙した。
「フェイトちゃん……私がただの甘ったれた子供じゃないってことを……証明してみせる!」
構えるなのは。
「フェイト。」
「シン、私は大丈夫、大丈夫だから……。」
そしてフェイトも構える。
そして両者は猛スピードで突撃していく、振り上げたデバイスがぶつかりそうになるその刹那。

「そこまでだ!」

「「!?」」
見知らぬ少年が二人の間に入りデバイスを受け止めていた。
「デスティニー! あいつは!?」
「時空管理局……やはり嗅ぎつけてきましたか。」
「ここでの戦闘は危険すぎる、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ、詳しい事情を聞かせてもらおうか。」
突然現れた少年に言われるがまま、なのはとフェイトは地上に降りる。
「まずは二人とも武器を下ろすんだ、このまま戦闘行為を続けるなら……。」
そのときアルフがクロノにめがけて炎の魔法の矢を放ち、彼の周辺で爆煙が巻き起こる。
「くっ!?」
「アルフ!? なんで!?」
突然の事に動揺するシンに対し、アルフは大声をあげて臨戦態勢をとる。
「訳は後で話すよ! それよりもフェイト!」
アルフの声に呼応してフェイトは飛び出して空中に浮かぶジュエルシードに手を伸ばす、だが突如爆煙からクロノのよる青い魔法の矢が放たれ、その何発かがフェイトに命中してしまう。
「きゃあ!」
「「フェイト!!」」
落下するフェイトをアルフが受け止め、シンは二人に駆け寄る。
「フェイトは!?」
「大丈夫、気絶しているだけだよ。」
そして魔法が放たれた方を睨むシンその先にはデバイスを構えたクロノが立っていた。
「アルフ、フェイトを連れて先に逃げて……。」
「シン!? アンタ……。」
「駄目……! シン……!」
「大丈夫、絶対もどってくるから……。」
「殿は我等に任せてください。
心配そうにするフェイトとアルフの瞳をじっと見つめるシンとデスティニー。
「……わかったよ、でも無茶はするんじゃないよ。」
そう言ってアルフはフェイトを抱え飛び去っていった。
「アルフ駄目だよ! シンを置いてなんて……!」
「アイツの行動を無駄にしちゃ駄目だ!」
「させるか!」
クロノは二人を追いかけようとする。だが、
「何!?」
シンのビームライフルによる牽制で進路を妨げられてしまう。クロノはシンを睨みつける。
「君は何をしたのか解っているのか!? 君や彼女達がしている事はれっきとした犯罪……。」
「うるさい……!!」
「!?」
クロノの警告を一蹴するシン。
「フェイトはただお母さんのためにやっているのに……どうして邪魔するんだ! もしこれ以上あの子を傷つけるなら……!」
次の瞬間、シンの右手からビームライフルが消え、かわりに背丈よりも長い大剣……アロンダイトが現れる。
「オレが……!! 薙ぎ払ってやる!!」
シンはそのまま一瞬でクロノの後ろに回りこみ、アロンダイトを彼に振り下ろす。
「早い!?」
その攻撃を自分のデバイス……S2Uで受け止めるクロノ、だがシンはそれでもお構いなしに右手に大剣をもったまま左手でクロノの襟を掴み。
「なっ!?」
一本背負いの如くクロノを力任せに地面に叩きつけた。
「ぐっ……! なんて馬鹿力……コイツ本当に子供か!?」
大の字になって倒れるクロノ、シンは大剣を逆手に持ちクロノの喉目がけて突き刺す……事はせず、寸前で止めた。
「もうやめろよ……これ以上やると大変なことになるぞ!」
「主!」
その時シンはデスティニーの警告を受けてとっさに身を屈める、すると彼の頭上をピンク色の光線が高速で飛び去って行った。
「ああ! 外れちゃった!?」
「お前! 危ないだろうが!」
シンはピンク色の光線を放ったなのはに向かってアロンダイトで切りつけるが、彼女のデバイス“レイジングハート”に防がれてしまう。
「まだまだぁ!」
シンは背中に翼を召喚するとなのはに対してヒット&アウェイで繰り返し切りつけて行った。
「きゃあ! くぅ……!」
「主、そろそろ撤退を……もう十分でしょう?」
「でも今のうちにこいつのデバイスを壊しておけば後から楽になるし……!」
その時、シンの体に鎖のようなものが巻きつき、身動きが取れなくなってしまう。
「うわっ!?」
「まずい! チェーンバインド!?」
「まったく、手間取らせてくれる……!」
クロノが隙を見てシンの動きを封じにかかってきたのだ。
「今だなのは! この前みたいな力を使われたらまずい!」
「う……うん! わかった!」
そう言ってなのはは足に桜色の羽を生やしながら空高く飛び、レイジングハートの先端に巨大な魔力を収束させていく。
「え!? ちょ! 何その魔力!? そんなもの喰らったら……!」
「あ、主―!」
そしてなのははレイジングハートの先端をシンに向け、足元に巨大な魔法陣を展開しながら叫んだ。
「ディバイン……バスター!!!!!!!!!!!」
「うわああああああああー!!!」
シンは死の恐怖に近い感情を抱きながら、そのまま桜色の光に呑まれ意識を失った……。

「主……安らかに眠ってください。」
ちゃっかり安全圏に避難していたデスティニーは、ディバインバスターの直撃を受けてクレーターの中心で気絶しているシンに対し、彼の魂に安らぎが訪れるよう手で十字架を切った。

「なのは、何もあそこまでしなくても……。」
「鬼か君は。」
「にゃははは……無我夢中で手加減するの忘れてたの。」
そう言ってなのははやりすぎたと反省しながら頭をポリポリとかいた。
「とにかく彼をアースラに運ぼう、君たちも来てもらうからな。」
「は、はい……。」

そしてシンはデスティニーやなのは達と共にアースラと呼ばれる時空航行船に収容されていった……。










本日はここまで、なのはさんマジ外道、劇場版のあれもドン引きだよ、何もあそこまでしなくても……。

ちなみにFCの世界は現在FC53……シン同様本編の7年前の設定になっています。ドモンはこの作品の時代では13歳、師匠と修行中ですね、ライゾウ博士がいつからアルティメット細胞の研究をしていたか解らないので“7年以上前から研究中だった”というのはリリカルジェネレーションオリジナル設定でございます。

次回は原作無印8話と9話をベースにした話になります、お楽しみに。



[22867] 第四話「僕が選んだ今」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/09 20:16
第四話「僕が選んだ今」


少女は夢を見ていました、内容は……悪夢でした。
彼女の母親が、見知らぬ少女を紐で磔にし、背中に何度も鞭をうっていたのです。

―――母さん? どうしてそんな事をするの? その子……痛がっているよ?―――

彼女の言葉は届かず、母親は痛さのあまり悲鳴を上げる少女に何度も鞭をうちました。

「フェイト……どうして母さんを悲しませるの!? ちゃんとしてくれなきゃ……!」
「ごめんなさい……!ごめんなさい母さん……!」

―――そうか、あの子フェイトって名前なんだ……。―――

ふと、彼女は自分の母親の顔を見ます、母親の顔はまるで悪魔が乗り移ったような恐ろしい形相をしていました。

―――お母さん、どうしてそんな怖い顔をするの? 昔のように笑ってよ、ねえ……―――

「フェイト……これ以上母さんを失望させないで頂戴。」
「はい……母さん……。」

―――お母さん……。―――

彼女は母親の姿を見て、とても悲しい思いに囚われました。そしてどうやったら母親が笑顔を取り戻してくれるか必死に考えました。

―――ああ、そうか。―――

そして彼女はある考えに達します、母はあのフェイトという子に対して怒っている、それなら……。

―――あの子が……フェイトがいなクナッチャエバイインダ―――






「う、ううう……。」
先程の戦闘でシンを管理局に捕えられジュエルシードも取れなかったフェイトは、プレシアに時の庭園に呼び出され折檻を受け、その場でぐったりと地面に倒れ込んでいた、そこに別室で待機していたアルフが駆け寄って来る。
「フェイト!フェイトォ!」
ぐったりするフェイトを、アルフは半べそをかきながら抱き起す。
「アルフ……私は大丈夫だよ……。」
「大丈夫なわけあるかい!あの鬼婆……!フェイトをこんな目に遭わせて!」
そう言ってアルフは文句を言おうとプレシアのいる部屋に行こうとする、しかしフェイトに腕を掴まれた事により制止される。
「やめてアルフ……母さんを責めないで。」
「フェイト!でも!」
「大丈夫……私がちゃんとやれば、母さんもきっと昔のように笑ってくれるよ……。」
「フェイトォ……!」
アルフはそんな母親を信じ続けるフェイトの姿に思わず涙する、するとそんな彼女の元に、救急箱を持ったヴィアが駆け寄って来た。
「フェイトちゃん!大丈夫!?」
「ヴィアさん……私は平気です……。」
「そんな訳ないでしょう!ああ、こんなに叩かれて……私の研究室に来なさい、治療してあげるから!」
「わ、わかったよ……。」
アルフはヴィアに言われるがまま、衰弱したフェイトを抱えて研究室に向かって行った……。


「ほら、ちょっとしみるわよ……ごめんね、私魔法が使えないからこんなことしかできなくて。」
「いえ、平気です……。」
ヴィアの研究室に連れてこられたフェイトは上着を脱いでプレシアに傷つけられた背中を治療してもらう。
「まったく、アナタは平気と大丈夫って言葉しか知らないの? 痛いなら痛いって言いなさい。」
「ご、ごめんなさい……。」
ヴィアに叱られ、フェイトはしゅんとしょげてしまう、そしてフェイトの為に濡れタオルを用意していたアルフはヴィアにある事を尋ねる。
「そういやシンがあの後どうなったかヴィアさんは知っているかい?」
「シン君ね……あの子は管理局に囚われてしまったわ、まああの組織なら子供に酷い事はしないと思うけど……。」
「そっか……。」
「ごめんね、何も出来なくて……プレシアも最近焦っているみたいなの、管理局に嗅ぎつけられて……もし辛くなったらいつでも私に相談するのよ?」
「は、はい……。」
フェイトはヴィアの親切に感謝の念を抱いていた……。


そして数十分後、ヴィアと別れたフェイトとアルフは2人だけでアジトに戻ってきていた。
「なんか……シン達が居なくなると、急にこの部屋も寂しくなっちまったね。」
「うん……。」
返事もそこそこに、フェイトはそのままソファーに倒れ込んだ。
「もう寝ちゃうのかい? 先に風呂入ったほうが……。」
「アルフが先に入っていいよ、もし寝ちゃっていたら……起こしてね?」
「わかったよ。」
そう言い残してアルフは浴室に向かう、そしてフェイトは座布団に顔をうずめながら管理局に囚われたシンの事を思っていた。
(私がもっとしっかりしていればシンが捕まる事なかったのに……。)
その時、フェイトは以前シンに言われたある事を思い出していた。

―――目の前で女の子が危ない目に遭っているのに、何もしないなんてカッコ悪いじゃん、だから……ね?―――

(こんなこと言ったら、きっとシンはそう言うんだろうな……。)
そしてフェイトは座布団を抱きしめながら寝返りをうった。
(大丈夫かなシン、管理局の人に酷い事されてないかな? もしかしたら元の世界に帰されているかも……。)
そう考えた途端、フェイトの心に今までに感じたことのない寂しさが襲いかかってきた。
(もし帰されたらもう会えないんだろうな……そうしたら……またアルフと二人っきりなんだ……。)
いつの間にか、フェイトの瞳には涙がうっすらと浮かんでいた。
(シン……会いたい……。)


それから数日後、時空間を航行する時空管理局の旗艦アースラ……その一室にシンは一人で閉じ込められていた。
「はあ……毎日毎日事情聴取ばっかりでもううんざりだ……デスティニーもどこかに連れてかれちゃうし。俺も刑務所行きかなあ……。」
シンは今自分を捕えている組織が先日ヴィアに説明された時空犯罪を取り締まる組織“時空管理局”だということを知っており、部屋の片隅で項垂れる、そして彼の頭にあるひらめきが浮かんだ。
(そうだ! ここから逃げよう! いつまでもこんな所にいられない!)
そしてシンは扉を破壊する為、部屋の隅に移動して助走をつける。そして……。
「うおおおおおおおお!!!!!」
扉に向かって猛突進する、その時、
「艦長がお呼びだ、出ろ。」
突如扉が開かれ、そこからクロノが顔を覗かせてきた。
「うわ!急に開けるな~!」
「え?」

ドッシ~ン!

「うわ~!」
「なぁ~!!?」
そして二人はそのまま激突し、床の上に二人重なるようにのびてしまった。
「いたたた……。」
「は、はやくどいてくれ! 重い……!」
「あーあ、何やってんだか……。」
その様子を、クロノの後ろから着いてきたアースラのオペレーター……エイミィは苦笑交じりに見ていた……。



数分後、シンはクロノに連れられてアースラの艦長室の前にやってきた。
「艦長、シン・アスカを連れてきました。」
『ええ、通して頂戴。』
中にいるアースラの艦長に指示され、クロノはシンを艦長室の中に入れる、そしてシンはそこで驚くべき光景を目にする。
「……ここって本当に艦長室?」
部屋にはししおとし(日本庭園によく置いてある竹筒のアレ)や松の木など、とても艦長室とは思えない趣味全開のコーディネイトがされていた。
「いらっしゃい、君がシン・アスカ君ね。」
すると部屋の中心に設置されている畳の上に、エメラルドグリーンの髪をした青い管理局の制服を身にまとう女性が座っていた。
「えっと、これは……。」
「まあまあ堅い話は抜きにして、ここに座りなさい。」
シンはその女性に言われるがまま、畳の上に敷かれていた座布団の上に靴を脱いで腰かける。
「私はリンディ・ハラオウン、このアースラの指揮官をしています、君のことは……事情聴取を行った局員から聞いているわ、災難だったわね、ジュエルシードを取りこんじゃうなんてね……。」
「……。」
実はシンは前日、局員達の手により身体検査を受けさせられ、秘密にしていた自分の体のことがバレてしまっていたのだ。
「俺はこれからどうなるんです? このまま刑務所行きとか?」
「ふふふっ……そう警戒しなくてもいいのよ。」
そう言ってリンディは置いてあった緑茶にコーヒーシュガーとミルクを大量に入れてかき混ぜ、それをおいしそうに飲んだ。
(あれ? あれって緑茶だよな……緑茶って砂糖とかいれるっけ?)
リンディのお茶の飲み方に疑問を持ちながら、シンはさらに彼女の話を聞く。
「あなたの中にあるジュエルシード……それがいかに危険なものかわかっているわよね?  一応取り出す方法が見つかるまではあなたの身柄を管理局で預からせてもらいます、もちろんコズミックイラの親御さん達には連絡させてもらいますけどね。それと……。」
するとそこに、デスティニーが入っている鳥かごのようなものを持ったクロノがやってくる。
「主!」
「デスティニー!……その子をそこから出してくれ! 何も悪いことはさせないから!」
「わかった……。」
シンの言葉を受けクロノはデスティニーを鳥かごから出す。
「はあよかった、解剖でもされているのかと思ったよ。」
「主……。」
そして互いに抱き合って再会を喜ぶシンとデスティニー、そんな彼らを見てリンディはある質問を投げかけてくる。
「シン君、その……デスティニーちゃんだっけ? その子を作った人がどんな人か教えてくれない?」
「ヴィアさんの事……? 俺と同じ世界の出身だって事以外はわかりません。」
シンは何となくだがヴィアの情報はリンディ達にあまり言わないほうがいいと感じて適当にはぐらかした。
「詳しくは知らないのね……それほどのオーバーテクノロジーだらけのデバイス、作った人がどんな人か知りたかったんだけど……。」
「え? こいつってそんなにすごいんですか?」
そう言ってシンはデスティニーの頭をツンツン突きながらリンディに質問する。
「ええ……クロノとの戦闘も見せてもらったけど、君のデバイスの力はあまりにも特殊で私たちにも解析できない部分が多すぎるのよ、まるで10年ぐらい先の技術を先取りしているみたい……。」
「お前……すごいやつだったんだな。」
「まあ全力を出すには主にまだまだ頑張ってもらわないといけませんが。」

そして和やかな雰囲気の中、シンは思い出したかのようにリンディに質問する。
「そういえば俺と一緒にいた女の子……フェイトとアルフはあれからどうなったかわかりますか?」
「あの子たちね……報告によればあの子たちはジュエルシードを二つ集めたみたい、なのはさんが集めた物を含めればあと6つね。」
「そうですか……。」
とりあえず二人が無事だということが解りシンは胸を撫で下ろす、するとリンディはそんなシンを見て優しい声色で問いかける。
「大切な子なのね、君にとってフェイトさんとアルフさんは……。」
「俺が……俺が守ってあげなきゃいけないんです、戦う力を持っているのは俺だけですから……。」

ビー!ビー!

その時、艦内に警報が鳴り響いた。
「何か動きがあったみたいね、一緒に来てくれる?」
「あ……はい!」
シンはリンディ達に連れられて、アースラのブリッジに向かった。



「一体何があったの!?」
ブリッジに到着したリンディはすぐさま、外の様子をモニタリングしていたエイミィに問いかける。
「捜査区域の海上で異常な魔力反応をキャッチ!!」
「スクリーンにだして!」

エイミィが出した巨大なスクリーンに映し出されたのは、嵐の中六つの突き上げる海流に翻弄されているフェイトの姿だった。
「フェイト……!」
「なんとも呆れた無茶をする子だわ!」
「あれは個人で出せる魔力の限界を超えている……このままでは自滅するぞ!」
その時、なのはと見知らぬ少年がブリッジに入ってくる。
「遅くなりました……!?」
「あ!お前は!」
シンはなのは達の姿を見つけ睨みつける。しばらく続く沈黙、だがスクリーンに映っているフェイトをみて、
「今はフェイトちゃんの所に向かうのが先だね。」
「ああ、話はそれからだ。」
意見が一致しブリッジを出ようとする。だがクロノに呼び止められてしまう。
「その必要はないよ。放っておけばあの子は自滅する、仮にそうならなくても力を使い果たしたところを叩けばいい。」
「叩くってアイツらは……。」
「局員への攻撃や今まで行っている魔法による危険行為…、逮捕の理由には十分だ。」
「た、逮捕って……!」
「今のうちに鹵獲の準備を。」
スクリーンにはボロボロになりながらも必死でジュエルシードの暴走を押さえ込もうとしているフェイトの姿が映し出されていた。
「残酷に見えるかもしれないけど私達は常に最善の選択をしなければならないの。」
リンディの言葉に俯いてしまうなのは、その時……。
「ふ……ふざけんな!」
シンの叫びに驚いてその場にいた者は全員シンに視線を向ける。
「これがあんた達の“なんとかする”なのかよ!! フェイトは……あの子はただ……!」
「彼女はすでにこちらの警告を無視している! 然るべき裁きを受けるべきだ!」
喚き散らすシンに対しクロノが諭すように反論する。だが、
「フェイトはただ母親のためにがんばっているのに……どうしてみんなフェイトを追いつめるんだよ!!」
「……!?」
シンの凄まじい威圧感に圧されてしまう、その時……。
『行って。』
「!?」
『ユーノ君!?』
先程なのはと一緒に来ていた少年がシンとなのはに念話で語りかけてきた。
『僕がゲートを開くから言ってあの子を……。』
『ユーノ君、でも私がフェイトちゃんと話をしたいのは……。』
『僕には関係の無いことかもしれない、でも僕はなのはが困っているなら助けてあげたいんだ、なのはが僕にそうしてくれたように……。』
『ユーノ君……ありがとう。』
『ど、どこの誰だか知らないけどありがとう!』
そしてなのはとシンは転移装置に向かう。
「待て! 君達は……!」
止めようと駆け出すクロノ、その時……。
「デス子フラッシュ!」

ピカッ!

「うわ! まぶし!」
突如デスティニーが手のひらから強い光を発し、引き留めようとしたクロノの動きを止める。
「今です!」
「ごめんなさい! 高町なのは命令を無視して勝手な行動をとります!」
「シン・アスカ、あんた達のやり方が気に食わないので脱走します!」
「あの子の結界内へ、転送!」
そして少年の転移魔法によりシンとなのは、そしてデスティニーはフェイト達のもとへ転送されていった。


上空、雲をかき分けるように落ちてゆく二人。
「レイジングハート! セーットアーップ!」
白いバリアジャケットに身を包むなのは。
「シン・アスカ、デスティニー、いきます!」
シンの右手に大剣アロンダイトが握られ、背中には紅の翼が現れる。





一方その頃、フェイトは六つのジュエルシードを封印するため海流相手に悪戦苦闘していた。
「きゃあ!」
「フェイト!」
ジュエルシードの暴走は激しく、フェイトは何度も何度も吹き飛ばされてしまう。
「無茶だよフェイト! こんなの私達だけじゃ…。」
「それでもやらなきゃ! それに……!」
これだけのことをすればジュエルシードが回収できるだけでなく管理局も来る、そうなればシンがあれからどうなったかあのクロノとかいう少年から聞き出せるかもしれないとフェイトは考えたのだ。
「だから……退く訳にはいかないんだ!」
そう言ってバルディッシュを強く握り直す、だが突然の突風によりバランスを崩しフェイトは海面に真っ逆さまに落ちていった
「フェイトー!!」
「くっ……!」
もう防御したり飛んだりする魔力はフェイトには残っておらず、死を覚悟した彼女は落下しながらぎゅっと目をつむった。
(シン、ごめん……!)
「フェイトーーーーー!!」
「え……!?」
その時、上空から効きなれた声がしたと思うと、フェイトは何者かによって海面に激突する直前に助け出された。フェイトは瞳を開け自分を今抱えている者……シンの顔を見る。
「シン……!」
「大丈夫か!? フェイト!」
シンはフェイトを安全なところまで連れて行き、一度降ろす。
「このバカッ! 無茶ばっかして…!?」
シンは危険な行いをしたフェイトを叱ろうとするが、突然彼女に抱きしめられたことにより固まってしまう。
「バカはシンだよ……! あんな無茶をして……! 私……すごく心配していたんだよ!!」
そう言ってフェイトはシンの胸の中で声を殺しながら泣き初めた。
「わ……悪かったよ、だから泣かないで……。」
「う……ひっく……!」
シンはフェイトの行動に驚き、とりあえずいつも妹にしているように彼女の頭を優しく撫でてあげた。
「シン! 無事だったんだねー!」
そしてそんな彼らの元にアルフが駆け寄る、だが、
「あっ! アイツら……!!」
こちらに向かってくるなのはと知らない少年の姿を見つけ、臨戦態勢をとる。
「まってくれ! 今は戦いに来たんじゃない!」
「え……!?」
「ジュエルシードをあのままにしておくと大変なことになるんだとよ。」
少年の代わりにシンが説明する。
「だから……。」
そしてなのははフェイトに近づき、レイジングハートからバルディッシュへ魔力を分け与える。
「みんなでがんばろう!」
そう言うとなのはは嵐の中へ入っていった。
その姿をぽかんとした様子で見送るフェイト。
「あの子って不思議な子だよな……。」
そんな彼女の隣にシンは立ち、語りかける。
「うん……でも悪い気はしないよ。」
「そうだな、こっちの味方だったら友達になれたかもしれないけど……。」
「……。」
そしてシンはフェイトの背中をポンと押して彼女を激励する。
「よっし! それじゃいってこい!」
「……うん……!」
シンの言葉にフェイトは頷き、なのはのもとへ飛び立っていった。
「それじゃ……! 俺達もやるか!」
「おう!」
「了解しました。」
「うん!」
シンの言葉にアルフと少年、そしてデスティニーは力強く頷いた。
「せーのでいくよ! フェイトちゃん!」
なのはとフェイトは上空で封印の準備に取り掛かっていた。
「よし……! なのは!こっちはOKだよ!」
「こっちもだ!」
「思いっきりいけー!!」
下ではシン達がバインドで突き上げる海流を抑えている。
「ディバイン……!」
「サンダー……!」
フェイトはなのはに合わせてバルディッシュを構える。
「バスターー!!」
「レイジーー!」
同時に放たれる桜色と黄色の光、そしてあたりに魔力の衝撃波が起き、それが止むと六つのジュエルシードが浮かんでいた。
なのはとフェイトはその六つのジュエルシードを見つめていた。
そしてなのははある決意をし、胸に手を当て口を開いた。
「私解ったの、私はどうしたいのか、フェイトちゃんとどうなりたいのか……。」
なのははすべてを包み込むような優しい笑顔で、フェイトに自分の手を差し出した。

「友達に……なりたいんだ。」


その言葉に驚くフェイト、その光景を見守るシン達、だが、
「あれ……? 空が……?」
上空の雲が通常ではありえない色でうなりをあげているのにシンは気付く。
「まずい! みんなにげろ!」
「えっ……!?」
「シン……!?」
だが一足遅く空から赤紫色の雷がなのはとフェイトを襲う。
「きゃあ~~!」
「母さん!?」
おびえる様にフェイトは空を見る。
「フェイト! 危ないっ!」
上空の雷がフェイトに狙いを定めていることに気付き、雷から守ろうと彼女に飛びつくシン、しかし二人とも雷の直撃を受け、力なく落下していった。
「うわあー!」
「きゃああー!」
「ちぃ!」
アルフは空中で二人を受け止め、ジュエルシードに手を伸ばすが、
「させるか!」
突然転移してきたクロノにあともう少しというところで三つ取られてしまう。
「う……うわあああーー!!」
残りの三つを手に入れたアルフは海面に力いっぱい魔力弾を打ち込み、発生した水しぶきを目くらましにその場から撤退していった。
「くそっ!逃げられたか!」
(フェイトちゃん……シン君……。)
なのははただその光景を呆然と見ているしかなかった。





「シン……シン……。」
「う……アルフ? ここは?」
数分後、シンはアルフに起こされ目をさます、彼等は時の庭園に戻って来ていた。
「……!? フェイトは!? フェイトはどうなったんだ!?」
「静かにしな……今アンタの隣で眠っているよ。」
シンはアルフに言われ隣を見てる、するとそこには寝息を立てて眠るフェイトがいた。
「はあ、よかった……。」
「まったく、フェイトったらシンを見つけるんだって聞かなくてさ、ここ数日働き詰めだったんだよ。」
「そうだったのか、ごめん……ありがとう、アルフも……。」
「よしとくれよ……なんか照れるじゃないか。」
頬を赤らめ微笑むアルフ。
「……さっきの雷はプレシアさんがやったんだな。」
「……ああ。」
そしてシンはある所に向かう為立ち上がろうとするが、アルフに腕を捕まれ止められる。
「シン、どこへ行く気だい?」
「決まっている、プレシアさんのところだ! もうこんな事許しておけない……!」
「まあ待ちなって、ちょっとアタシの話を聞きな。」
アルフは眠っているフェイトの頭を撫でながら静かに語り始めた。
「この子はね……昔から感情表現がうまくなくてね、母親があんなのだし、世話をしてくれたリニスもどこかへ行っちゃうし、どっちかというと根暗な子だったんだ……。」
「フェイトが……?」
「でもね、シンに出会ってからフェイトすごく変わったんだよ、あんなに怒ったり泣いたりするフェイト初めて見るよ。」
「……。」
「私にもよくわからないけど……私に出来なかったことをシンはやってのけたんだ。本当にありがとう。」
「そんな、お礼なんて……。」
「だからさ……これからもさ……。」

ドカッ!

「!?」
突如シンの腹部に重い衝撃が走り、彼は意識を失う、だがその直前、
「フェイトの事……守ってあげてね。」
どこか寂しげなアルフの声が聞こえた。


アルフはその場にシン達を残し、プレシアのいる王座がある部屋にやって来た。
「どうしたのフェイトの使い魔……? 私に何か用?」
アルフの姿に気付いたプレシアは彼女の方を振りむこうとする、その時……。

バキッ!

「ぐっ……!?」
予想より早いアルフの動きについて行けず、プレシアは頬を殴られ数メートル吹き飛ばされてしまう。
「今のはフェイトの分だ……! あんたって奴はシンまで巻き込んで……! なんでそこまで! あの子はアンタの為に頑張っているのに!」
そう言ってアルフはもう一発パンチをお見舞いしようとプレシアの元へ飛んでいく、しかし……。
「あの子は使い魔の作り方がなっていないわね、余分な感情が多すぎる……。」
アルフが目と鼻の先まで接近した瞬間、プレシアは彼女の腹部目がけて圧縮した魔法をお見舞いし、数メートル先まで吹き飛ばしてしまった。
「うわっ! ……ぐぐっぐ……へへへ……一発ブチ込んでやったよ、ざまあみろ……!」
アルフはボロボロの体を必死に起こしながら、満足そうににやりと笑った。
そのアルフの表情が癪に障ったのか、プレシアは彼女に向かって膨大な魔力弾を放ち彼女がいた場所ごと吹き飛ばしてしまった。
「ったく、調子に乗るんじゃないわよ……!」
プレシアは切れた口から垂れてきた血を拭う、するとそこに騒ぎを聞きつけたヴィアが駆けつけてきた。
「プレシア! 今の大きな音は何!?」
「なんでもないわ、そんな事よりあの子へのアルティメット細胞の適応経過はどうなっているの?」
「そんなことよりさっきのは……!」
するとプレシアはヴィアの足もとにに向かって魔力弾を放ち、彼女を威嚇する。
「きゃあ!?」
「そんな事ですって……!? アナタは余計な事せずに研究を進めればいいのよ! アリシアはどうなったの!?」
その、プレシアの鬼気迫る表情に圧されたヴィアは、震える声で経過を報告した。
「い、今のところ拒絶反応はないみたいだけど、流石に蘇生までは……。」
「そう……後はジュエルシードをすべて揃えるだけね。」
「でも予断を許す状況じゃないわ、今後逐一に様子を見ないと……。」
「じゃあもうアナタは用済みって訳ね。」
「え?」
ヴィアはその時初めて、自分の頭上に巨大な魔力の塊が浮いていることに気付いた。
「プレシア! アナタ!」
「ありがとうヴィア、いままで手伝ってくれて……でもこれから私とアリシアの幸せな時間を作るには……アナタは不要よ。」
そう言ってプレシアはヴィアに向かって指をさすと、そのまま下におろすジェスチャーをとり魔力の塊をヴィアに向かって降ろした。
そしてヴィアのいた場所は轟音と共に跡かたもなく消え去っていた……。
「これで邪魔者は一人消えた、後2人……ふふふふ……あはははは!」
プレシアはシンとフェイトがいる方角を見ると、狂ったように笑いだした。
「もうすぐよ! もうすぐよアリシア! 私達は失われた時間を取り戻す! あははははははは!!!!!」










―――お母さん、怖い……あんなのお母さんじゃない……。―――

―――なんで?なんでお母さん、昔のように優しく笑ってくれないの?―――

―――そうか、世界中のみんながお母さんをいじめたから、お母さんいなくなっちゃったんだね。―――

―――大丈夫だよお母さん、わたしガコンナセカイ、コワシテアゲルカラ―――










本日はここまで、次回は原作無印の最大の見せ場、最後のなのは対フェイトの話になります。一応無印編は後ニ、三話ぐらいで終われますかね? 
時間とやる気があれば他の作品でもなのはクロス書いてみたいです、ストパンとかネギまとかディケイドとか……想像するだけでも楽しいです。

雑談はこの辺にしてまた次回。



[22867] 第五話「僕達の行方」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/12 08:30
海鳴市内のとある公園……そこでヴィアはある人物と共に先に落ちて来たアルフを探す為歩き回っていた。
「それにしても助かったわ、アナタが咄嗟に庇ってくれなかったらきっと今頃私は……。」
「アナタは私の命の恩人であり、同時にフェイトやアルフをプレシアから守ってくれました、これぐらいのことは当然です。」
その人物……フードを被った女性はにこやかな笑顔をヴィアに返した。

その時、彼女達は草むらで血まみれになって倒れている狼形態のアルフを発見する。
「アルフ! ああ……酷い怪我! 早く治療してあげないと……!」
「回復魔法だけでは足りませんね、どこか整った設備がある場所に運ばないと……。」

「あの……どうかしたんですか?」
その時、彼女達の元に騒ぎを聞きつけた金髪の小学生ぐらいの女の子が近付いてきた。
「そのワンちゃん、怪我しているみたいですけど……。」
「ああちょうどよかった! あなた! この辺に動物病院ない!?」





その頃、時の庭園では……。
「う……いたたた、あれ? 俺確かアルフに……。」
「お目覚めのようね、シン君。」
シンが目覚めるとそこにはアルフはおらず、代わりにプレシアがいた。
「プレシアさん……アルフは?」
アルフがいないことに気付き、プレシアに聞いてみるシン、対してプレシアは淡々と答える。
「あの子は……アナタ達を置いて逃げ出したわ。」
シンはプレシアの表情を見てそれが嘘だとすぐわかった。
「そんな訳ないでしょ? アイツがフェイトをほったらかして逃げるはずが無い。まさか……!?」
「あら、鋭いのね……ヴィアが変な入れ知恵をしたのね、やっぱり消しておいて正解だったわ。」
「……!」
アルフの事をあっさりと認めただけでなく、ヴィアにまで手を掛けた事を暴露したプレシアの態度に、シンは今までにしたことがない程激怒する。
「なんでだよ! フェイトは……アルフやヴィアさんだってアンタのためにがんばっていたのに! それなのにどうしてこんな酷いことするんだ!? フェイトはアンタの娘だろ!?」
「黙りなさい!!」
「!?」
しかしプレシアの剣幕にシンは圧されてしまう。
「つべこべ言ってないで奴等からジュエルシードを取り戻しなさい! さもなくば……二人ともあの出来損ないの使い魔のようにするわよ!? その気になればアナタを殺してジュエルシードを無理やり引き剥がしたっていいんだからね!」
「……!!」
プレシアから殺気を感じたシンはまだ眠っているフェイトを担ぎ、
「どうして……どうしてそんな酷い事が言えるんですか? アナタがそんな事言ったらフェイトだって……アリシアだって悲しむのに……!」
捨て台詞を吐いてその場から離れていった。
「何も知らない子供のくせに……! 私達の何が解るっていうのよ……!」
その場に残ったプレシアは一人不愉快そうに呟いた。


その日の夜、遠見市のアジトにもどったシンは眠っているフェイトをベッドに寝かせ、彼女を見守っていた。
(まだ眠っている……相当疲れていたんだな……。)
彼女の寝顔を見ながらシンは頭を優しく撫でる。
「ん……シン?」
するとフェイトは頭の心地よい感触で目を覚まし、眠い目を擦りながらシンの方を見た。
「あ、ごめんね、起こしちゃった?」
「別にいいよ………あっ!」
そしてフェイトはある事を思い出し、目を見開きベットから身を起こした。
「そうだ! ジュエルシードは!?」
「ゴメン……三つしか取れなかった。」
「そう……。」
そう聞いて肩を落とすフェイト、そして
「……アルフは?」
いつも側に居るアルフがいない事に気付いた。
「アルフは……管理局に捕まっちゃったんだ。」
シンはフェイトを心配させまいととっさに嘘をつくが、
「シン……それは嘘だよね?」
すぐに見抜かれてしまった。
「あの時の雷は母さんが……それでアルフは……。」
「…………。」
何も答えられないシン、2人の間に重苦しい空気が流れる。
「ねえ、シン……ゴメンね。」
その時、部屋に流れていた沈黙をフェイトが破った。
「……なんで謝るの?」
「だって……こんな事に巻き込んじゃったんだよ?…今からでも管理局に行って理由を話せば元の世界に帰してもらえるかも……ジュエルシードを取り出す方法も解るかもしれないし、無理に私達に付き合わなくても……。」
「……。」
するとシンはフェイトの両頬に自らの両手をそえ、

ギュウ~!!!
「いひゃひゃひゃひゃ!!??」

五秒ほど思いっきり引っ張った。
「な……なにするのシン?」
フェイトは瞳を潤ませ、赤くなった両頬をさすりながらシンを見る。
「フェイト、なんでそう一人でなんでもやろうとするんだよ? そんなに俺って頼りないの?」
「え? そんな事……。」
フェイトは昨日の海での一件でシンに助けられた事を知っており、彼が決して自分の足を引っ張るような弱い人間でないことを知っていた。
「本当は……一緒にコズミックイラに逃げようって誘う事も考えたけど、フェイトはイヤだって言うんだろ?」
「うん、だって母さんを一人にしておけないから、私は母さんの願いを叶えてあげたい、母さんにもう一度微笑んでもらいたいから……。」
「…………。」
シンはプレシアが考えている事、そしてフェイトの本当の正体を知っているが故に、彼女の切なる願いが叶う事はほぼ無いと解っており、胸が張り裂けそうに苦しくなっていた。
(アルフもヴィアさんも今はもういない……じゃあ今フェイトを守れるのは俺しかいないんだ……。)
そしてシンはある事を決意し、フェイトの頭を優しく撫でてあげた。
「なら俺は……ずっとフェイトの味方になってあげるよ、たとえこれからどんなことがあろうと、どんな奴が敵になっても……君の傍にずっといる。」
「シン……。」
アルフやヴィアが居なくなってしまったフェイトにとって、シンのその心優しい言葉は彼女の心の中の支えになっていた。
「ありがとうシン……とっても嬉しいよ。」
そして彼女はとても優しい笑顔でシンの優しさに精一杯応えた。
「えへへ……なんだか照れちゃうな……。」
シンは初めて見るフェイトの笑顔を見て、体の芯が熱くなっていくのを感じていた。

ふと、シンは部屋に飾ってある時計を見る。
「ああ、もうこんな時間なんだ……どうりで眠い筈だ。」
日付が変わった時計を見てシンは大あくびをする、するとそれを見ていたフェイトは彼の服の袖を引っ張った。
「ねえシン……今夜だけでいいから、私と一緒に寝てくれない?」
「俺と? いいよ。」



シンは部屋の明かりを消すと、フェイトがいるベッドに隣り合わせで寝転んだ。
「なんか……マユと一緒に寝ているみたいだ、アイツもよく怖い夢見た時に一緒に寝てってせがんできたっけ。」
「マユちゃんって……シンの妹さんだよね? ねえ、シンの家族ってどんな人達なの?」
「俺の家族? そうだな……お父さんはモルゲンレーテって会社に勤めていて、宇宙船を作る仕事しているんだ。」
「宇宙船か……すごいんだね、シンのお父さんって。」
「それにお母さんも、たまにお父さんと喧嘩もするけどとっても優しい人……そんでマユは……。」
シンは優しく微笑むと、フェイトの髪を優しく撫でた。
「今のフェイトみたいに甘えん坊さんだな。」
「むぅ、ひどいよシン……フフフッ。」
「ふふ……。」
毛布を被りながら2人は無邪気にクスクスと笑う。そしてフェイトはシンが向こうの世界でどんなことをしていたのか聞いてみることにした。
「シンは向こうでどんなことしていたの?」
するとシンはばつが悪そうにフェイトから目線を一度逸らすと、渋々と話し始めた。
「……俺の世界ってさ、遺伝子をいじくって普通の人より健康になったり頭が良くなったりスポーツができたりする“コーディネイター”って人達がいるんだ。」
「……? その人達がどうかしたの?」
「実は……俺もコーディネイターなんだ。」
そしてシンは誰にも話した事のない、自分が心に秘めていたある事をフェイトに打ち明けた。



俺が生まれる3年前……世界中にS型インフルエンザっていう病気が流行ったんだ、それでナチュラル……普通の人達は沢山死んじゃったんだけど、免疫力のあるコーディネイターは誰ひとり死ぬことは無かったんだ、だから父さんは俺達が病気に負けない体になってくれるよう、高いお金を払ってコーディネイターにしてくれたんだ。

やさしいお父さんなんだね……。

でもそのおかげで……お陰でって言ったら駄目か、実は学校でいじめられたりしたんだ。

え!? なんで!?

俺の暮らしている国って、ナチュラルとコーディネイターが一緒にいて、お互いすごく仲が悪いんだ、違う国とかでは殺し合いまでしているし……お陰でクラスの奴ら、俺の事“空の化け物”って呼んでいじめるんだ。でもそのことを話すとお父さん達はきっと悲しむだろうし、誰にも相談できなくて……だんだん学校に行ってクラスの奴らと顔を合わせるのが嫌になっていたんだ。それと同時に俺をコーディネイターにした両親を恨んだりもしたんだ……。

…………。

だからフェイトに攫われた時……怖かった半面、これで学校に行かなくて済むって思っちゃったんだ。でも……。

でも?

フェイト達と出会って気が付いたんだ、俺がコーディネイターになったのは……きっと神様がフェイトを守る為にくれた力なんだと思う、だから俺はコーディネイターで生まれた事を……僕を産んでくれたお父さんとお母さんにすごく感謝しているよ。

私も……母さんに感謝している、だってシンと出会えたんだもん。

ありがとう……フェイト……。



そして二人が深い眠りについた頃、デスティニーはバルディッシュと共にベランダで月を見ていた。
「いやあ、今宵も月が綺麗ですねえ……まるであの二人の仲を祝福しているような美しさです。」
[…………。]
デスティニーは夜空に浮かぶ月を眺めながらバルディッシュと語り合っていた。
[デスティニー……前から聞きたかったのですが、アナタは一体何者なのですか?]
「……私はデスティニー、それ以上でもそれ以下でもありません。」
バルディッシュの問いにデスティニーは素っ気なく答える。それでもバルディッシュは質問を続けた。
[シン・アスカのあの爆発的な戦闘能力……あれは遺伝子を調整したぐらいで出せる力には思えません、何なんですかあれは? まるでバーサーカーのような……。]
「…………。」
するとデスティニーは夜空に向かってふわりと飛び立ち、月明かりをバックに満面の笑みでバルディッシュに語りかけた。
「いいじゃないですか、過去がどうだったかなんて……今と未来が幸せならそれでいいんです。」
[…………。]
バルディッシュはデスティニーの笑顔の裏にある想いをなんとなく感じ取り、それ以上詮索することはなかった……。





次の日の朝、フェイトはベッドの上で目を覚まし、隣で眠っているシンの顔を見る。
「ううん……むにゃ……。」
「ふふふ、いい気持ちで寝てるね……。」

トクン
「あ……。」

ふと、フェイトはシンの無防備な寝顔を見て胸の鼓動が高鳴るのを感じていた。
「なんでだろう……どうしてこんなに胸がドキドキするんだろう……。」
フェイトは自然と、自分の顔をシンの顔に近付ける。
(そう言えばリニスが昔……お話を聞かせてしてくれたっけ。)


それはまだフェイトが今より幼かった頃、魔法の師でもあるリニスにあるお伽噺を聞かされた時の事だった。

『こうして人魚姫は天へと昇って行き、世界中の恋人達を見守っていきました……。』
『ねえリニス……人魚姫が王子様にした“恋”ってなあに?』
『そうですね、“好き”になるってことでしょうか?』
『じゃあ私はリニスや母さんやアルフに恋しているの?』
『うーん、それとはちょっと違いますかね……家族でもない、友達でもない、自分にとって特別な男の子に抱く気持ちといえばいいでしょうか。』
『男の子に……?』
『ええ、フェイトもいつかそういう人に巡り会う時が来るでしょう……。』


とくんとくんと動く心臓の鼓動を感じながら、フェイトはじっとシンを見つめていた。
(これが……リニスの言っていた恋なのかな? 私……シンの事が好きなのかな? よく解らないけど……。)
「ううん……? ふわあああ……。」
その時、シンは眠い目を擦りながら体を起こした。
「おはようフェイト……ん? どうしたの? 俺の顔に何かついている?」
「へっ? えっ! な、何でもないよ……!」
突然話しかけられたフェイトは慌ててごまかした。

「主、よろしいでしょうか?」
するとそこにデスティニーが2人がいる部屋に入り話しかけてきた。
「どうしたの?」
「臨海公園のほうにジュエルシードの反応がします。ジュエルシードはすべて回収されているのでこれはおそらく……。」
デスティニーの報告を受けて、シンとフェイトはそれがなのは達の誘いだという事を察知する。
「なのは達か……俺達を誘い出そうとしているのか。」
「如何いたします?」
「……どうするフェイト?」
シンの問いに、フェイトは力強く頷いた。
「行こう、あの子が待っているなら私もそれに応える……!」
「決まりだな。」
そして二人はセットアップし、そのままなのは達のもとへ向かうのだった……。


海鳴臨海公園にやってきた二人、そこで2人は管理局が用意した水没して荒廃した街をイメージした異空間に入った。
「ここは……管理局の人達が用意したのか。」
「おそらく激しい戦闘を想定してこのような場所を……これなら周りの被害を気にせず戦う事ができますね。」
そして二人は荒廃したビルの最上階の、植物園のような場所にやって来た。
「植物園か……。」
「そうみたいだね……なんだか小さい頃を思い出すよ、私が暮らしていたころも緑が一杯ある所だったんだ。」
「へえ……こういう所でピクニックに行ったら気持ちいいだろうな、天気はあんなのだけど。」
そう言ってシンは灰色の空を見て溜め息をつく、するとそこに……バリアジャケットに身を包んだなのはと彼女の相棒のフェレットがやって来た。
「フェイトちゃん……。」
「お前達は……。」
なのは達の姿を見てとっさに身構えるシン、そんな彼を見てフェレットは2人に投降を呼びかける。
「二人とも、もうこんな事はやめるんだ、事情は……なのはの友達が保護したアルフとヴィアさんから聞いた。」
「よかった……2人とも無事だったのか。」
2人が無事だったことが解り、ほっと胸を撫で下ろすシンとフェイト、そして二人は改めてなのは達に宣言した。
「ごめんね……でもここで退くわけにはいかないんだ、母さんの為に……。」
ふと、フェイトはちらりとシンの方を見る。
「そうだよね…ただ捨てればいいって訳じゃないよね…逃げればいいって訳でもない!」
そう言ってなのははレイジングハートを構える。
「だから賭けよう!互いが持っているジュエルシードのすべてを!」
なのはに応えるようにフェイトはバルディッシュを構える。
「……シン。」
「わかっている、手は出さないよ。」
フェイトは頷き、なのはと共に空高く舞い上がり、そして両者は上空で対峙した。
「それからだよ……全部それから!」
「……うん。」
「だから、本当の自分を始める為に、最初で最後の本気の勝負!」


フェイトは思い出していた。広大な草原の花畑に母と二人でピクニックに出かけた幼い日のことを、
(あのころは本当に幸せだったな……。)
『さあ、できたわ。』
(そういえば母さん、あの時私に花の冠を作ってくれたっけ……。)
『おいで、アリシア。』
(…アリシア?)
『とっても綺麗よアリシア、まるで花嫁さんみたい。』
(ちがうよ母さん、私はフェイトだよ、アリシアじゃないよ。)
『わたしのかわいいアリシア。』
(…………まあいいのかな。)


目を見開くとそこにはなのはがレイジングハートをこちらに向けてかまえている。
なのははユーノの願いを叶える為に、大切な人達を守る為に、
フェイトは母の笑顔の為に、自分の味方になってくれると言ってくれたシンの為に、
互いのジュエルシードを賭け、ぶつかり合おうとしていた。
「私は負けない……母さんのためにも、アルフのためにも、そして……シンのためにも!」
そして、少女達はぶつかり合う、互いの譲れないものの為に。



―――僕たちは迷いながら たどり着く場所を探し続け―――
―――哀しくて 涙流しても いつか輝きに変えて……―――


第五話「僕達の行方」





次の瞬間、なのはとフェイトはほぼ同時に上空へ飛び立ち、激しい魔力弾の撃ち合いを繰り広げる。

ドォォォォン!!

巻き上がる爆煙、その中を掻い潜ってフェイトはサイズフォームに変形させたバルディッシュをなのはに向かって振り降ろした。
「くっ……!」
なのははそれをレイジングハートで受け止め、激しい鍔競り合いの後一旦距離をとる、するとフェイトは廃墟のビルが立ち並ぶ海の上に飛び立ち、それを盾になのはに向かってさらに魔力弾を放つ。
「ファイア!」
「くううう……!」
なのはは襲いかかる魔力弾を魔法で作りだしたシールドで防ぎ、ビルを盾にするフェイトの元へ飛びながら桜色の魔力弾を放った。
「……!」
しかしそれはすべて命中することはなかった、そしてなのはとフェイトはビルの間を摺り抜けながら魔力弾を交えた激しいドッグファイトを繰り広げる。



その様子を植物園のあるビルの屋上で見ていたシンは、心の中で神様に祈っていた。
(神様……お願いします、フェイトを勝たせてください、あの子は本当に頑張っているんです、だから……!)
するとシンの様子に気付いたデスティニーは、優しく彼の頭を撫でた。
「大丈夫ですよ……フェイトさんは必ず勝ちます、だってあの子にはバルディッシュがいます、それにアナタの……。」
するとそこに、かつてシンがアースラで出会った金髪の少年がやって来た。
「あ、お前は……。」
「僕はユーノ・スクライア、君の事もヴィアさんから聞いているよ、なんで君はあの子に協力しているの?」
ユーノと名乗る少年の質問に対し、シンはさも当たり前のようにすぐに答えた。
「決まっている、あの子の……フェイトの力になりたいからだよ。」
「どうして? だって君は無理やり連れてこられたんだろう? なんでそんな……。」
すると先程まで話を聞いていたデスティニーが代わりに答えた。
「主は……シン・アスカは優しい人間なのです、困っている人を放ってはおけない、まるで物語の主人公のような真っすぐな心を持っているのです、時にそこに付け入れられ、利用される事もありますが……。」
「デスティニー?」
何故デスティニーがそんな事を言うのかシンには解らず、ただただ首を傾げるしかなかった。



一方、なのはとフェイトの戦いは最終局面を迎えていた。

しばらくして高度を上げたなのはとフェイトは、桜色と金色の閃光となって何度も何度も何度もぶつかり合った、そしてしばらく後に二人は上空で息を切らしながら対峙していた。
(さすがフェイトちゃん……簡単にはいかないなぁ。)
(あの子、初めて出会った時よりも強くなっている……早めに勝負を決めないと!)

一気に勝負を決めようとフェイトは自分の足もとに魔法陣を出現させる。
「はっ!? えっ!?」
それを見て身構えるなのはだが、その周りを小さな魔方陣がなのはを惑わすように出現と消滅を繰り返す。
[Phalanx Shift]
バルディッシュの声と共にフェイトの周りに無数の魔力弾が形成される。魔力弾の表面から紫電がほとばしっていた。
「あっ!? くっ……!」
それを見たなのはは迎撃しようとレイジングハートをむける。しかし……。

ブォン!

「えっ!?」
なのはの両手首、足首に金色のバインドが巻きつき、両手を広げるようにしてなのはを拘束した。


「ライトニングバインド! フェイトさんも思い切った事しますねえ!」
「だ、大丈夫なのか!? あれだけの魔力をぶつけたら……。」
「なのは! 援護を!」
ユーノは居ても立っても居られずなのはを助けに行こうと飛び立とうとする、しかし……。

(駄目!)

その声に呆然としたアルフとユーノになのはの念話が響く。

(ユーノ君は手を出さないで! 全力全開の一騎打ちなんだから……私とフェイトちゃんの勝負だから!!)

「ユーノさん……ここはあの子の言うとおりにしましょう。」
そしてユーノはデスティニーに肩をポンと叩かれ、取りあえず状況を見守る事にした。

一方フェイトは目を閉じ詠唱を行っていた。
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル……!」
呪文を唱え終え、目を見開くフェイト。魔力弾を纏う電撃がさらに量を増す。
「フォトンランサー・ファランクスシフト、撃ち砕け! ファイア!!」

フェイトはなのはに向かって手を振り下ろし指さす。
それを皮切りに、無数の魔力弾一つ一つからフォトンランサーがなのはに向かって放たれた。

ドォォォォン!!!

フォトンランサー全弾がなのはへと着弾し、彼女の周りを爆煙が包み込んだ。


「なのは!?」
「やったのか!?」
「いえ……!」
デスティニーの視線の先には、フェイトの攻撃を耐え抜いてバインドを解いたなのはがいた。

「……撃ち終わるとバインドってのも解けちゃうんだね」
そう言ってレイジングハートの先端をフェイトの方へむけるなのは。
「今度はこっちの……!」
[Drive]
レイジングハートの先端に桃色の魔力が集まる。
「番だよ!!!」
[buster]
なのははそのままその魔力をフェイトに向かって放った。
「うぁああああああああ!!」
それを迎撃しようとフェイトは左手に集めた魔力弾を飛ばす。だが込められている魔力が違いすぎ、砲撃は魔力弾を全くの障害にも感じさせず真っ直ぐフェイトに向かった。
「あっ!? くっ……。」
襲い掛かるなのはの砲撃をフェイトはシールドを張った。
ディバインバスターを受け止め、押し切られそうな衝撃の風に髪を揺らしながら必死に耐えるフェイト。
(直撃!?でも……耐え切る。あの子だって、耐えたんだから!!)
シールドを張るほうの手の手袋が破れ。漏れ出す衝撃に煽られマントも端から千切られていく。

「ふぇ、フェイト……!」
その光景を目の当たりにしたシンは、飛び出したい気持ちを奥歯をギリギリと噛みしめながら必死に耐える。
(俺に……俺に何かできないのか!? フェイトがあんなに必死に戦っているのに!)
今彼女を助けに行けば、一騎討ちを所望しているフェイトの気持ちを踏みにじることになる、それ故何も出来ない自分にシンは心底恨みを感じていた。
(何か俺に出来る事……できる事は……!)


「う……あ……!」
一方先程の攻撃で魔力を消費し過ぎたフェイトは、押し切られそうになりながらも自分の気持ちを奮い立たせて攻撃を耐えていた。
「う……あぁああああああああああああああ!!」

最後の力を振り絞るようにシールドに魔力を込めながら叫ぶフェイト。すると砲撃はだんだん細くなりそのまま消えていった。
(耐え切った……!)
そう思いながら疲労を隠さず顔を俯かせるフェイト。しかし頭上から桃色の光が漏れ出していることに気付き見上げる。
「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション……!」
そこにはフェイト見下ろしながら空へとレイジングハートの先端を向けるなのはの姿があった。そしてフェイトと向かい合うように魔方陣が出現する。
[Starlight Breaker]
レイジングハートの言葉と共に周りから桃色の魔力が魔方陣の中心へと集まっていく。そしてそれらは一つの大きな魔力球へと収束されていった。
「くっ……!」
苦々しい顔で前方の光景を見ながらフェイトは動こうとする。だが……。

ブォン!!

「えっ!? バインド!!」
先程自分がなのはにしたように、両手首と足首を拘束され動けなくされたフェイト。
何とか抜け出そうともがくが魔力を消費しすぎ、疲労しきった体では叶わなかった。
そんなフェイトになのははレイジングハートを振り下ろす。
「これが私の全力全開!スターライト……ブレイカー!!」
ディバインバスターなど比べ物にならないほどの大威力砲撃がフェイトへ襲い掛かる、そしてそれは愕然とする彼女を飲み込みながら海上に叩きつけられ巨大な水飛沫を立ち上がらせた。

「ッッッッッッ……!!!」
「……決着だ。」
なのはの勝利を確信したユーノはフェイトを助けに行こうと身を乗り出す、すると……。
「待って。」
目の前にデスティニーが現われ行く手を遮られた。
「な、何をしているんだ!? 早くしないと!」
「まだ終わっていません、彼女も……彼も。」



スターライトブレイカ―の直撃を受けたフェイトは、身に纏っていたバリアジャケットをボロボロにしながら海に向かって真っ逆さまに落ちていた。
(ああ、そうか……私は負けたんだ。)
ふと、フェイトは落下しながらシン達のいるビルを見る。
(ごめんね、負けちゃった……母さんもこれで私の事……。)
そう考えた途端、フェイトの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

結局私は一生懸命やったけど……母さんの笑顔を取り戻す事ができなかった、シンになにもしてあげられなかった、この後はどうなるんだろう? 集めたジュエルシードは全部没収されて、私は管理局の人達に捕えられちゃうのかな? 色々悪い事してきたし、きっと死ぬまで牢獄の中で暮らすんだろうな……。


ごめんね母さん、願いを叶えてあげられなくて。
ごめんねアルフ、私のせいで一杯イヤな想いをさせて。
ごめんねバルディッシュ、こんなにボロボロにしちゃって。

ごめんねシン、アナタにもお母さんやお父さん、それに妹がいるのに……私のせいで引き離しちゃった。

でももし離れ離れになっても、私の事忘れないでね……。


「フェイトォォォーーーーーー!!!!!」


その時、シンの悲痛な叫びが薄れゆく私の意識を少しだけ呼び覚ました。
ごめんね、心配かけて、でも私は大丈夫だから……。

「フェイト! フェイト! フェイトォーーーーーー!!!!!」

泣かないでシン、私は平気だよ、だから……。

「フェイト……!!!」




「フェイト! 負けんなああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


!!!!


次の瞬間、落下していたフェイトは体勢を立て直し、足もとに魔法陣を展開してその場に踏み留まった。
「えっ!?」
「なっ!?」
九割方勝利を確信してフェイトを助けに行こうとしていたなのはとユーノは、その光景を見て目を見開いて驚いた。そしてそれは踏み留まったフェイト自身も同じことだった。
「私……まだ立てる……?」
信じられないといった様子で自分のボロボロの体を見るフェイト、するとビルにいるシンが彼女へさらに応援の言葉を送った。
「フェイトなら勝てる! だって……あんなに頑張ったじゃないか! だから負けんなーーーーー!!!!」
「シン……。」
すると普段物静かなデスティニーも大声で、ボロボロのバルディッシュにエールを送った。
「バルディッシュ! アナタにならできます……! 限界を超えることが! 相棒を幸せな未来へ導くことが!! あなたにはリニスさんの想いも込められているのでしょう!?」


「バルディッシュ……。」
[はい]
シンとデスティニーのエールを受け、フェイトはバルディッシュに静かに語りかけた。
「私……あの子に負けたくない。」
[はい]
「だってシンがあんなに応援してくれるんだもん、なんか疲れも痛みもどっかにいっちゃった。」
[はい]
「だからもうちょっと……頑張ろっか。」
[…………はい!]

フェイトは心の中に熱いものが溢れ出してくるのを感じながら、上空で茫然としているなのはに向かってつぶやいた。
「そっちが二発ならこっちも二発……!」
その瞬間、バルディッシュは一度分解し、そして大剣の柄のような形に変形して行く。
[Zamber Form]
バルディッシュアサルト・ザンバーフォーム……それが今のバルディッシュの名前だった。
「バルディッシュザンバー……“エクストリームバースト”!!!!」
その瞬間、バルディッシュザンバーから金色の刃が、遥か上空にいるなのはに届くぐらいまで伸びた。
「えええええ!? 何それ!!?」
あまりにも常識外れな長さになのはは驚愕する。
「バルディッシュ、限界を……超えるよ!!」
そしてフェイトは最後の力を……否、沸き上がってきた力をすべて使ってバルディッシュザンバーの常識外れな刃をなのはに向かって振った。
「だあああああああ!!!!!!!」

ガキンッッッ!!!!!

「わあああああああ!!!?」
なのはは突然の事にその剣撃を避けることができず、とっさに出した魔力シールドで防いだ。
「はぁ! くっ……ううう……!」
必死に耐えるなのは、普段の彼女なら耐えきることができたかもしれない、しかし今の彼女は全力全快の魔法をつかったばかりだった、つまり……。

ピシピシッ!

「あああ!?」
先程のスターライトブレイカ―を受けたフェイトのように、彼女の全力全快、全身全霊、そしてシン達の願いが付加した攻撃に耐えきる事はできなかった。
「ああああああーーーー!!!」
そしてフェイトが振り抜いた刃はなのはの体を引き裂いた、といっても非殺傷設定が掛けられているのでなのはの体が物理的に真っ二つになることはなかった、しかし彼女の中にあるリンカーコアは大きなダメージを受け、そのまま気絶して海に真っ逆さまに落ちて行った。

「か……った……。」
その光景を目の当たりにしたフェイトは、糸が切れたマリオネットのように意識を失い、なのはとは少しずれたタイミングで海の中に落ちて行った……。


深い海の中、フェイトは自身の体が沈んでいくのを感じていた。
すると何者かが彼女の体を抱え、そのままフェイトは海の上に顔を出す事ができた。
「フェイト! フェイト……! ああよかった! 無事だったんだな!」
フェイトは自分を助け出した人物……シンの海水と涙で濡れた顔を見る。
「シン……あの子は?」
「なのはなら今……。」
するとそこに、ボロボロになって気絶しているなのはを背負ったユーノがやって来る。
「そっちは大丈夫かい? まったく……なのはが負けたなんて信じられないよ。」
「へへん! フェイトが本気になればこんなもんだ!」
「なんで主が自慢げなんですか?」

「……。」
その時、フェイトは何を思ったのかシンの体をギュウッと抱きしめる。
「フェイト……?」
「ありがとうシン、シンが応援してくれたおかげで私……頑張れたよ。」
「そんな、俺なんて全然……。」
フェイトは首を横に振り、顔をシンの胸に埋めた。
「ありがとうシン……私の傍にいてくれて……。」
「……。」
シンは何も言わないまま、彼女を抱きしめ頭を撫でてあげた……。

ふと、シンはあることに気付き、顔を真っ赤にしてフェイトに語りかける。
「な、なあフェイト、そろそろ海から上がらないか? その恰好じゃ風邪ひくと思うし……。」
「?」
顔を赤らめるシンに指摘され自分の今の恰好を見るフェイト、今の彼女の恰好はただでさえ水着のように面積の狭いバリアジャケットがなのはとの戦闘でボロボロになっており、かーなり際どい姿になっていた。
「!!!!! きゃああ!!!」
それに気付いたフェイトは慌ててシンに背中を向け、両腕で自分の胸を隠した。
それを見ていたデスティニーは心底むかつく笑顔でフェイトをからかいだした。
「おやおやー? フェイトさん、どうして赤くなっているんですかー?」
「へ!? え!? いや!? あれはその……!」
「どうしたのフェイト!? 顔がトマトみたいに真っ赤だよ!」
「なななななななんでもないよ! シンはあっち向いてて!」
「は、はい!!」
フェイトに言われて慌てて背中を向けるシン、その光景を呆れながら見ていたユーノは、あることを思い出しレイジングハートに指示を出した。
「レイジングハート……彼らにジュエルシードを……。」
[はい]
そしてレイジングハートに封印されていたジュエルシードがシンとフェイトの目の前に放出される。
「約束は約束だからね……。」
「フェイト、ついにやったんだな。」
「そうだね……。」
宙に浮かぶジュエルシードを、二人は感慨深げに見つめる。

異変はその直後に起こった、シンとフェイトの周りに突如、転移魔法用の魔法陣が出現したのだ。
「うぇっ!? なんだこれ!?」
「まさか……母さん!?」
「二人とも!?」
ユーノは二人を引き留めようとするが間に合わず、シンとフェイトはジュエルシードやデスティニーと共に何処かへ……時の庭園へ転送されてしまった。
するとすぐさま、ユーノの耳にクロノから念話が入ってきた。
(ユーノ! なのはを連れてアースラに戻ってくれ! さっきので彼女達の本拠地がわかった! これから向かうぞ!)
「う、うん! わかった……!」
そしてユーノは気絶したなのはを抱えてアースラに戻っていった……。





なのはとの決着の後、シンとフェイトはそのままプレシアによって時の庭園の王座の部屋に転送された。
「プレシア……さん……。」
「ふふふ……よくやってくれたわフェイト、これでジュエルシードは……。」
そう言ってプレシアは先程の戦闘で満身創痍のフェイトからバルディッシュを奪い、その中に封印されていたジュエルシードを総て取り出した。
そしてバルディッシュを投げ捨てると、プレシアは一緒に回収したなのはの分を合わせて20個のジュエルシードを自分の周りに浮遊させる。
「ば、バルディッシュ!」
フェイトは慌てて投げ捨てられたバルディッシュを回収する、そしてそれを見ていたプレシアは冷ややかな目で彼女に冷たく言い放った。
「……あら? まだそこにいたのフェイト? アナタにはもう用はないわ、早く出て行きなさい。」
「えっ……!?」
プレシアの言葉に固まってしまうフェイト、その様子を見ていたシンは思わず声を荒げてしまう。
「な、なんでだよ……なんでそういう事言うんだよ!? フェイトはアンタの為にジュエルシードを集めたんだぞ!」
「ええ、その点は感謝しているわ、でもその子は一つだけミスを犯した……。」
プレシアはそう言ってシンを一瞥した後、近くにあった端末を操作しだした。
「やっぱりアナタは欠陥品ね、顔だけはあの子に似ているのに、それ以外は何も似ていない……まったく、煩わしいったらありゃしない。」
「あの子……!?」
フェイトはプレシアが何を言っているのか解らず、ただその場でオロオロしていた。
すると王座の後ろにある壁がせり上がり、巨大な円柱型の水槽が現われる、そしてそこには……。
「フェイト! 見ちゃ駄目だ!」
シンは慌ててフェイトを抱きしめ水槽の中身を見せないようにするが、彼女の目にはしっかりと映っていた。
「わ……私……!?」
水槽の中に、自分そっくりの少女が死んだように眠っているのを。
「その様子を見るとアナタはその子に何も話していないのね……フェイト、アナタはこのアリシアのできそこないのクローンなのよ。」
「…………!!!?」
フェイトは何も言葉を発する事が出来ず、目の瞳孔を開かせる。
「アリシアはもっと私に優しく笑いかけてくれた……偽者であるあなたにアリシアの記憶を植え付けてもやはり偽者でしかったわね。」
「……!! お前ぇぇぇ!!!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたシンはアロンダイトを手にプレシアに斬りかかる。
「主! 無茶です!」
デスティニーはシンを止めようとしたが、間に合う事は無かった。
「鬱陶しい! 跪きなさい!」
プレシアは襲いかかって来たシンを右手に溜めこんだ魔力で吹き飛ばした。
「うわああああ!!!!」
「し、シン!」
「主!」
「う……ぐぐぐ……!」
腹部に激痛が走り起き上がる事ができないシン、そして彼の元に駆けつけるデスティニー、そんな彼等を見てニヤリと笑ったプレシアは、茫然とするフェイトに言い放った。
「フェイト、その子のジュエルシードをリンカーコアごと取り出しなさい、弱っている今がチャンスよ。」
「え!? そんな事したら……!」
「死ぬかもしれないわね……でもアナタが悪いのよ? アナタがもっと早くジュエルシードを見付けていればこんな事はならなかった、さあ早くしなさい、母さんを悲しませたいの?」
「……!」
フェイトは震える手でバルディッシュをサイズフォームに変形させると、立ち上がる事ができないシンの前に立った。
「ふぇ、フェイト……!」
「フェイトさん。」
「……。」
フェイトはそのままシンに向かってバルディッシュを振り上げる、しかし……。
「……ごめんなさい……!」
バルディッシュから手を放してそのままシンを抱き上げた。
「フェイト!!! 母さんの言う事が聞けないの!!?」
そのプレシアの発言に、デスティニーは心底あきれ果てた様子で言い放った。
「アナタから拒絶したくせに、どこまで自己中心的なんですか?」
「ごめんなさい……! でもシンだけは……! シンだけは裏切りたくない……!」
それはフェイトがプレシアに行った初めての反抗だった、そしてそれに腹を立てたプレシアは、先程よりも大きな魔力を右手に集束させた。
「まったく最後まで役に立たない子……! いいわ! そんなにその子がいいのなら一緒に消してあげる!」
「フェイト……逃げて……!」
「ごめんね、ごめんねシン……!」
フェイトは逃げようとせず、シンを守る様に強く抱きしめた。

バリンッ!

「!?」
その時、アリシアの眠る水槽のほうからガラスが砕ける音が響き、プレシアは攻撃を中断して水槽の方を見る。

そこには水槽を中から素手で破壊して這い出て来る死んでいる筈のアリシアの姿があった。
「アリ……シア!?」
「な、なんで!? あの子は死んでいるってヴィアさんが……!」
「まさか……!」
培養液が割れた水槽の間からどんどん漏れて地面に広がって行く、そしてそれに構うことなくアリシアは裸のままプレシアの元に近付いていった。
「あ……あははははははは!!!! すごいわ! まさかアルティメット細胞がここまでの効果を示すなんて! 始めからジュエルシードなんていらなかったのね!」
プレシアは半狂乱の状態でアリシアに近付き、自分のマントを彼女に羽織らせた。
「アリシア! 私が解る? プレシアよ! アナタの母さんよ!」
「母さん……?」
アリシアは涙を流して喜ぶプレシアの顔をじっと見つめる。
「さあアリシア……昔みたいに私に笑いかけて! 私の事を母さんって呼んで!」
「……。」
その時、2人の様子をシン達と共に見ていたデスティニーがある事に気付き声をあげる。
「プレシア! 逃げて!」
「え?」
次の瞬間、プレシアはアリシアの手によって天井辺りまで吹き飛ばされて、そのまま地面に落下した。
「ガフッ……!!」
「母さん!?」
「な、何だよ!? 何がどうなっているんだよ!?」
アリシアは地面でのた打ち回るプレシアを、まるで汚物を見ているような目で見ていた。
「アナタは母さんじゃない……母さんは私にもっと優しく笑いかけてくれた、そんな化け物みたいな顔してない……。」
「ば、化け物!? アリシア! 私のことが解らないの!?」
プレシアは豹変してしまったアリシアの姿が信じられず、何度も彼女に訴えかけた。しかしアリシアはそれに耳を貸すことなく、茫然としているフェイトを睨んだ。
「お前が……お前が母さんの笑顔を奪ったんだ! 殺してやる……殺してやる!」
「え……え?」
次の瞬間、アリシアは常識では考えられない程のスピードでフェイトとの距離を詰め、彼女の心臓目がけて手刀を突き刺そうとした。

ガキィィィン!

「す、素手なのにガキンっていった……!」
しかし手刀はシンのアロンダイトによって弾かれた。
「邪魔をしないで……! 私はそいつを殺さなきゃいけないの!」
「そんな事させるか! フェイト! プレシアさんを連れて逃げろ。」
「う……うん!」
フェイトはシンに言われるがまま、ショックで放心状態のプレシアの元に赴き彼女に肩を貸した。
「なんで……なんでなのアリシア……。」
「母さん! しっかりしてください!」

「デスティニー! フェイト達が逃げる時間を稼ぐぞ!」
「はい!」
シンはそう言って背中から翼を出現させ、片腕でアロンダイトを抑えるアリシアを押し出していく。
「邪魔をするな……!」
しかしアリシアは驚異的な脚力で踏ん張り、握力でアロンダイトを握りつぶしていった。
「何なんだコレ……!? この子のどこにこんな力が!?」
「恐らくこれは元々自然の回復を目的に作られたアルティメット細胞の副作用……! 自己進化を繰り返してアリシアさんを蘇らせたアルティメット細胞が、変貌したプレシアさんを見て判断してしまったのでしょう……自分の母親がああなったのはフェイトさんのせいだと……異物を排除する白血球みたいなものですね。」
「なんだよそれ……ふざけんな!」
デスティニーの説明を聞いて頭に血を登らせたシンは、サマーソルトキックでアリシアから距離を取る。
「デスティニー! ビームライフルとビーム砲を!」
「はい。」
そして出現したビームライフルを手に彼女に向かってビームを何発も放つ。
「甘い……!」
アリシアはそれを右に、左にと瞬間移動しながら避け、シンとの距離を縮めて行く。
「よし……もうちょっとだ、もうちょい……!」
だがシンは焦ることなく、ひそかに抱えていたビーム砲をアリシアが移動する予測位置に標準を合わせていた。
「今だ!」
そしてタイミングを見計らって引き金を引き、ビーム砲から極太の光線が放つ、しかし……。
「ふんっ!」
アリシアはそれを素手で受け止め、そのままかき消してしまった。
「なんだよアレ!? もう次元が違いすぎる!」
「アルティメット細胞を甘く見すぎていましたね、まさか戦闘力をあそこまで向上させる力を持つとは……!」
そしてシンの攻撃を受けきったアリシアは、プレシアにかけてもらったマントを掛けなおしながら不敵に笑う。
「もう終わり……? あんまり私の邪魔をしないで。」
その時、彼女の背後からフェイトに支えられたプレシアが叫んだ。
「お願いアリシア目を覚まして! あなたはそんなことをするような子じゃ……!」
「か、母さん危ないよ!」
フェイトはアリシアのもとに行こうとするプレシアを必死に引き留めるが……。
「ええい邪魔よ! この人形が!」
「あ!」
頬をぶたれその場に倒れこんでしまう、そしてその様子を見ていたアリシアは、鬼の形相でプレシアをにらみつけた。
「やっぱりお前はお母さんじゃない……! 母さんはそんなことしない!」
「ち、違うのよアリシア! これは……!」
プレシアは慌てて弁明するが、アリシアはそれに意を返すことなく足元に落ちていた水槽のガラス片を手に取り、
「死ね! 偽物が!」
プレシアに向かって投げつけた。
ガラス片は高速に移動しながらプレシアに向かって飛んでくる、そのことに気づいたフェイトは……。
「母さん!」
プレシアを力一杯突き飛ばした。フェイトはそのまま飛んでくるガラスのほうを見る。

それが悲劇に繋がってしまった。


グサッ!!!

「あ……が……!」
「ふぇ、フェイトォーーーーーー!!!!!」
ガラス片はフェイトの心臓あたりに深く突き刺さってしまい、彼女はそのまま仰向けに倒れた。
「あ、あなた一体何をして……?」
プレシアはフェイトの行動が理解できずに呆然としていた、するとそこにシンとデスティニーが慌てて駆けつけフェイトを抱き起こす。
「フェイト! フェイトしっかりしろ!」
「シ……ン……。」
「なんて無茶なマネを! このままでは……!」
デスティニーはフェイトに治癒魔法を使って応急処置を施すが、効果は著しくなかった。
(くっ……! こんなことなら戦闘面ばかり強化してもらうんじゃなかった……!)
「かあ……さん……かはっ!」
するとフェイトは血を吐きながら呆然とするプレシアに語りかけた。
「フェイト! もうしゃべるんじゃない!」
「ごめん……なさい……私は……人形で……。」
「フェイトさん!」
フェイトは力を振り絞りながら、シンとプレシアに向かって優しく微笑む。
「それでも……私は……貴女に生み出して……くれた……あなたの娘……。」
「やめて……やめて!」
「だいすきだよ……かあさん…………シ……………。」
その瞬間、フェイトの瞳から光が失われ、体からは温もりが消え去っていた。
「フェイト……!? 嘘だよね!? ねえ起きてくれよフェイト!」
シンは必死になって彼女の体をゆするが、デスティニーに止められる。
「落ち着いてください主! 今回復魔法が効いて意識を失っているだけです!」
「そうなのか!? よかった……。」
するとプレシアは訳がわからないといった様子でフェイトを見つめていた。
「なん……で? なんでそこまでするのよ……!? 私はあなたを拒絶したのよ!!」
するとシンは奥歯をギリギリと噛み締めながらプレシアに言い放った。
「この子にとって……あんたは世界でたった一人の母親なんだ……! 愛されたいって思うのは当然だろう!」
「く、くだらない! 所詮は植えつけられた記憶で……! アリシアの偽物であるこの子にあげる愛情なんて一片も……!」
「くだらなくなんかない!!!!」
シンの叫びに、プレシアは何も言えなくなってしまう、そしてシンは涙を流しながら語り始めた。
「フェイトは……本当は大声で涙を流して泣きたいのに、頑張らなきゃって思って我慢して泣かないんだ……! だから心の中で泣いていたんだ!! お母さんに愛されたいって泣いていたんだ!!」
シンはフェイトの立場を自分に置き換えて、フェイトとアリシアがどんな思いをしているのか理解しようとしていた、そしてその答えは……とても悲しいものだった。
「俺にも母さんと妹がいるんだ、もし……母さんがマユをいじめたら、拒絶したら……やっぱり俺はどうしようもなく悲しい、心が苦しい、何もできない弱い自分が大嫌いになって、世界の何もかもが大嫌いになって、きっとあんな風になっちゃうよ……!」
シンの視線の先には、先ほどからブツブツとつぶやいて俯いているアリシアの姿があった。
「自分だけ愛されたってちっとも嬉しくない、だって俺は……フェイトは……アリシアは家族みんなで幸せになりたかったんだ!!!」
「あ……! う……!」
何も言い返す事ができないプレシア、そしてシンは冷たくなっていくフェイトを抱きしめながら、呆然とするプレシアに自分が今思っている気持ちをぶつけた。

「なんで……なんで拒絶したの? 手を離したの? この子アリシアじゃなくフェイトで、貴女の娘で、アリシアにとってたった一人の妹なのに、みんなで……皆一緒に幸せになれたはずなのに!!」



プレシアの頭の中に、アリシアがまだ生きていた頃の思い出が浮かんでくる、その日プレシアは久しぶりの休日を使ってアリシアとピクニックに出かけていた。
『そういえばもうすぐお誕生日ね、アリシアは何が欲しいの?』
『欲しいもの? んっとねー……私、弟か妹がほしー!』
『えええ!?』
『だって弟か妹がいれば留守番していても寂しくないもん! ねえお母さんいいでしょー?』
『あ、あははは……そうね、ちょっと頑張ってみましょうか……。』

そして思い出の世界から帰ってきたプレシアは、今度はアリシアのほうを見る。
「ねえお母さん、リニス……どこにいるの?私を一人ぼっちにしないで……!」



そしてプレシアはすべてを悟った、自分はもう心の傷を埋める程の宝物を手に入れていたこと、それなのにその宝物を自分で傷つけていたこと、そして自身が昔のように笑わなくなり、この世のものとは思えない醜い何かに変わり果ててしまったこと、そのせいで取り戻したはずの宝物に拒絶されてしまったこと。

すべて自分が悪いんだ。

自分の愚かな行いで、すべてを壊してしまったんだ。

ヴィア達が過ちを指摘してくれたのに自分はそれを頭から否定して。

すべて手に入れていた筈なのに、すべて取り戻していた筈なのに。


全部自分が……跡形もなく吹き飛ばしたんだ。


「い……いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
プレシアは悲鳴とも、嘆きともとれる狂ったような叫びをあげ、意識のないフェイトにすがった。
「ごめんなさい! ごめんなさいアリシア! フェイト……!! ごめんなさい……!」

シンはもうプレシアに対し怒りは感じていなかった、代わりになんでこんなことになってしまったんだろう、助けてあげたかった、こんなことになる前に何とかしてあげたかった、そんな彼女に対する憐れみと自分の無力さに対するやるせない気持ちで一杯になり、泣かないフェイトの分まで涙を流した。

その時、シンたちのすぐそばに転移魔法用の魔法陣が出現し、そこからユーノとクロノが現れた。
「シン! 早くここから離れるんだ!」
「ユーノ!? フェイトが……!」
「うっわ! ひどい怪我……アースラ! 受け入れの準備を!」
するとユーノとクロノに気付いたアリシアは、突如二本の触手を床から出現させて彼等と一緒に逃げようとするシンとフェイトを襲わせる。
「逃がすかぁ!!」
「!! 危ない!」
それに気付いたプレシアはフェイトを抱えるシンをクロノ達の元へ突き飛ばし、自分はその触手に捕まってしまう。
「プレシアさん!?」
「プレシア・テスタロッサ!」
「は……早く逃げなさい! 早くしないと……!」
するとシン達を取り囲むように触手が地面から次々と這い出てきた。
「クロノ! このままじゃ……!」
「仕方ない……転移する。」
「ま、待って! プレシアさあああん!!!」
シンは絶叫しながら、クロノ達と共に触手で埋め尽くされていく王座のある部屋から転移して行った……。



そして気絶したプレシアと共にその場に残ったアリシアは、憎しみと狂気がこもった目で天を仰いだ。
「まだだ……まだ足りない……! 母さんを奪ったあいつらを……世界を!」
そしてアリシアはふと、プレシアが忘れていった20個のジュエルシードを見つめた。









次回予告

それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が、世界を平和へ導く英雄として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。

それは、誰にも想像できない物語のプロローグとして語られる、ちょっと変わった“恋”のお話。

どこかの誰かが願いました、誰も守れなかった少年と、母親に愛してもらえなかった少女、二人が幸せになってくれますようにと、いっぱいいっぱい泣いて悲しい気持ちを洗い流してくれるようにと。

大丈夫……二人ならきっと、終わらせることができる。



次回Lyrical GENERATION 1st 最終回「君は僕に似ている」



悲しみの運命を、撃ち抜け! ガンダム!










今日はここまで、次回で最終回となっております。その後にエピローグもありますが。

シンのコーディネイターになった経緯やいじめられていたという話は完全に自分の憶測で公式設定じゃありません、ただリアルの子供ってニュースやテレビ番組に影響されて自分達より弱い立場の子や容姿が明らかに違う子を見つけるといじめちゃいますよね、自分も昔そういう子を何人も見たことがありますし、そういうのを考えるとシンにもこういうことがあったのかもなーって妄想して付け加えてみました。


さあ次回は今週土曜日投稿、いよいよクライマックスです、シンは、フェイトは、プレシアは、そしてアリシアはどうなるのか、かなりやりたい放題に作りましたので皆さん次回をお楽しみに。



[22867] 最終話「君は僕に似ている。」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2011/01/20 09:47
ユーノとクロノによってアースラに連れてこられたシン達は、すぐさま重傷を負ったフェイトを医務室に運んでもらう。
「お願いです! フェイトを助けてください!」
「解っている……後は我々に任せて。」
シンは医療班の人々にフェイトを預け、運ばれていく彼女ただただじっと見送った。するとそこに……。
「シン!」
「シン君!」
先にアースラによって保護されていたアルフとヴィアがやって来た。
「アルフ! ヴィアさん! 無事だったんだな!」
「うん……! シン、時の庭園で一体何があったんだい!?」
「それは後で説明するよ、それより2人はフェイトに付いていてあげて……。」
「う、うん……わかった。」
アルフはシンに言われるがまま、フェイトが運び込まれた医務室に向かっていった。
「シン君……一体何があったの?」
そしてその場に残ったシンはヴィアに対し、時の庭園で起こった事をすべて話した。

「そう……まさかプレシアとアリシアが……。」
「ヴィアさん、アリシアはどうなるんですか? このままじゃ……!」
「……。」
するとそんな二人の元に、クロノが神妙な面持ちでやって来た。
「君達、ブリッジの方に来てくれないか? 艦長から話がある。」
「リンディさんが?」

そしてシン達はクロノに言われるがまま、アースラのブリッジの方にやって来た。
「シン君……色々と大変だったわね。」
「いえ……俺達に用って何なんですか?」
「コレを見て欲しいの、エイミィ、スクリーンに出して。」
「はい!」
リンディはエイミィに指示を出し先程時の庭園内で撮影したある映像をシン達に見せる。
「これは……。」
「アナタ達を保護した後、アリシアちゃんとジュエルシードを確保しようと武装局員を向かわせたの、でも……。」
映像にはアリシアの素手の攻撃で手も足も出ずに負傷して撤退していく武装局員達の姿が映っていた。
「これは……!」
「十分に訓練された局員がここまでやられるなんてね……ヴィアさん、あれはどういう事なんですか?」
「多分……アルティメット細胞の副作用ね、あの細胞にはどうやら人間を武術の達人に変える効果もあるみたい、ホント誤算だらけだわ。」
「まったく、アナタ達はなんて厄介な物をこの世界に持ちこんでくれたのですか?!」
「面目ない……。」
クロノの指摘にヴィアは何も言い返すことができなかった、しかしシンはそんな彼女の行いを必死に弁護する。
「ヴィアさんを怒らないでくれよ! この人はただ救いたい子達の為にアルティメット細胞の研究をしていただけなんだ!」
「異世界からわざわざデータ盗み出してか? ご苦労な事だな。」
「その辺にしなさいクロノ、それにしてもどうしたものかしらね……このままじゃ彼女もジュエルシードも回収できないわ。」
「応援を呼びますか? このままにしておく訳には……。」


ビー!!! ビー!!!


その時、アースラ中に非常事態を告げる警報が鳴り響いた。
「!!? 何かあったの!?」
「時の庭園中心部に正体不明のエネルギー反応! な、何これ……!?」
そしてその場にいた一同はスクリーンを見て驚愕する、スクリーンには時の庭園が正体不明の機械のような物に浸食され、みるみるうちに魔人のようなおぞましい姿を変わっていく様子が映し出されていた。
「艦長! 時の庭園の目の前に時空震反応!」
「まさかあの質量を転移させるつもり!!?」
そして時の庭園はある世界に繋がる巨大な魔法陣を出現させ、その場から消え去ってしまった……。

「一体……何が起こったっていうの? あの時の庭園の形状は……。」
先ほどの時の庭園の様子を見てリンディを始めとしたアースラクルーは茫然としていた。すると何かに気付いたヴィアは近くにいたエイミィが操作していた端末を自分で操作し始める。
「ちょ、ちょっと!? どうしたんですか!?」
「このエネルギー量……! アリシアはジュエルシードの力を使って自分の中のアルティメット細胞の成長を速めたんだわ!」
ヴィアのその言葉を聞いて一同は一斉に彼女を見る。
「成長を速めた……!? そんなことをして何になるっていうんですか?」
「アリシアは恐らく、母親の笑顔を奪った原因を全て排除するつもりなのよ、彼女の記憶を照らし合わせれば恐らく……。」


一方何処かの世界に転移した時の庭園は、とある研究所らしき場所の上に転移していた。
「ここだ……母さんを無理やり働かせて、私から母さんを奪った悪い奴等がいる建物……!」
そう言ってアリシアは、角がついた巨大な触手のようなものを研究所に何本も突き刺していく、すると研究所はものすごいスピードで枯れるようにボロボロになっていった。


「艦長! 時の庭園の居場所が解りました……! 例のプレシアが働いていたミッドの研究所です!」
「確かあの研究所って……。」
エイミィの報告を受けて、シンはかつてヴィアから聞いたアリシアが死んだ原因であるプレシアが起こした魔力動力炉の事故の事を思い出していた。
「今スクリーンに出します!」
ブリッジに巨大なスクリーンが現れ、ミッドチルダで暴れる時の庭園の様子が映し出される、その姿を見た一同はあまりの凄惨な光景に戦慄した。
「うわぁ、なんか生気を吸い取っている……!」
「これじゃまるで“悪魔”だな。」
そこには研究所を中心に枯れ果てていく周辺の町の姿と、逃げまどう住人や研究員の姿があった。そしてその様子をヴィアはただ一人冷静に解析していく。
「急がないと大変なことになるわね……あそこはいろんな動力炉があるからエネルギーが吸い放題だし、あの研究所だけでなく数日もしないうちにミッド全域が人の住めない地になるわ。」
「なんだって……何か手はないのか!!?」
クロノの問いに、ヴィアは少し難しい顔をする。
「今実行できるプランで最適なのは二つ、誰かが再びあの庭園の中に入ってコアであるアリシアちゃんを説得するか、息の根を止める事ぐらいしかないわね。」
「なんだ、実質一つしかないじゃないですか。」
ヴィアの言葉を聞きにやりと笑ったリンディは、スクリーンを見ていたクロノに指示を出す。
「クロノ、今から時の庭園に再突入してもらえる? そこであの子を説得してほしいの。」
「無茶苦茶ですね、でもそれしか方法が無いのなら……。」
そんな命の犠牲無く皆を救おうとする二人の姿勢を見て、ヴィアは心の底から二人に感謝した。
(ほんと、こういう人たちが昔の私の周りにもいたらどれだけよかったか……。)
すると、リンディ達の会話にシンとユーノが割って入ってきた。
「あの……その突入作戦、俺にも参加させてください!」
「僕もお願いします!」
「ダメだ、君達は民間人じゃないか……これはジュエルシードの取り合いとはレベルが違うんだぞ、命を失うことだって……。」
するとシンはリンディ達に深く頭を下げてさらに懇願する。
「お願いします……! 俺はアリシアを助けたいんです! もうフェイトの悲しむ顔は見たくない……!」


「おっと、その作戦……。」
「私達にも参加させてください!」
すると入口のほうから声がして一同は視線を一点に集める、そこには医務室でフェイトに付き添っていた筈のアルフと、先ほどのフェイトとの戦いの傷を治療し終えたなのはの姿があった。
「アルフ!? フェイトは……。」
「容体は安定しているみたいだ、それよりも話は聞いたよ……私も一緒に行かせておくれ、またアンタを一人で行かせるとフェイトに怒られるからねえ。」
「私もフェイトちゃんの為に戦いたいんだ、抜け駆けは許さないよ。」
そしてシン、なのは、アルフは無言のままリンディを見つめ彼女の返答を待つ、そしてリンディはエイミィとアイコンタクトをとると、根負けしたかのようにふぅとため息をついた。
「まったくしょうがない子達ね、それじゃお願いしちゃおうかしら?」
「今アースラにいる武装局員は先程の任務で全員負傷して動けない、今周辺地域にいる局員にも応援を頼んでいるから、みんな無茶しちゃだめだよ?」
するとシンやなのはは満面の笑みでリンディにお礼を言う。
「ありがとうリンディさん!」
「アリシアは絶対に助け出して見せます!」
「よし、そうと決まればグズグズしている暇はない、急いであの中に行こう。」
そう言ってクロノはなのは、ユーノ、アルフ、そしてシンと共に転移装置に移動した。
「なんかジャミングが掛けられているみたいだから入口付近に転移させるよ!」
「みんな……気をつけてね。」
そしてシン達はそのまま時の庭園の入口付近に転送されていった……。

(フェイト……ちゃんとアリシアを連れ戻してくるからな、早く目を覚ませよ……。)















フェイト・テスタロッサは今、深い闇の中にいた。



私……どうなったんだろう? もしかして死んじゃったのかな?

母さん……最後の私の言葉、聞いてくれたかな?

……きっと聞いてくれないよね、だって私はアリシアじゃない、あの子じゃないんだから、母さんに嫌われているから……。


……どうして私は生まれてきたんだろう? 私は紛い物で、沢山の人に迷惑をかけて、愛されたかった人にも拒絶されて……。


こんな辛い思いをするのならもう消えてしまいたい、どうせ誰も私がいなくなったって悲しまないんだ、もう動きたくない、もう何も見たくない、もう何も考えたくない、もうなにも…………いらない。


「そんな悲しい事……言わないでください。」


……? あなたは……誰?


「消えたいなんて言わないでください、そんなの……悲しすぎます。」


でも私が生きたいと思ったのは母さんに認められたかったから、それができなかったのに……。


「そんな事ありません、アナタにはアナタに生きていてほしいと思っている人が沢山いるのです、思い出してください……。」


―――私は……私はフェイトに幸せになってもらいたいんだよ!―――

―――私……ようやくわかったの、私はフェイトちゃんと……友達になりたいんだ。―――


…………!


「少なくともアナタはひとりぼっちじゃない、こんなにも、そしてこれからもアナタを愛してくれる人が沢山います、その人達の為にも……生きてください。」


でも……でも私は……! その人達すら傷つけて……!


「彼女達だけじゃありません、ヴィアも、私も、そしてあの人も、アナタの幸せを願っているのです……それがとても幸せなことだって、なんで気付かないんですか?」


私に幸せになる権利なんて……。


「大丈夫です、だってアナタには……ずっと傍にいてあげると、守ってあげるとあの人が約束してくれたでしょう?」


あ……。


―――なら俺は……ずっとフェイトの味方になってあげるよ、たとえこれからどんなことがあろうと、どんな奴が敵になっても……君の傍にずっといる。―――


「あの人は掛け替えのないものをアナタにくれた筈です、それはこれから生きていくうえで……とても大切で、とても愛おしくて、アナタがフェイト・テスタロッサという一つの命である証明なのです。」


うん……うん……。


確かに私はアリシアの劣化したクローンで、一つの命としては劣る所が沢山あるのかもしれない、でも……私が彼を大切に想う気持ちは……きっと誰にも負けない、だって私は……私を大切に想ってくれるシンが……大好き。私もシンの事が大切だよ。


「それだけ分かればもう十分でしょう、さあ……アナタを待っている人達の元に戻りましょう……。」





気が付くとフェイトは、アースラの医務室で一人で眠っていた。そして身を起こして自分の胸に包帯が巻かれている事に気付く。
「そっか、私母さんを守って……。」
そして辺りを見回し、すぐ近くにボロボロになったバルディッシュを見付けて拾い上げ、そっと囁いた。
「ごめんねバルディッシュ……もうちょっとだけ頑張れる?」
[問題ありません。]
バルディッシュは自己修復で新品のような姿に戻り、それと同時にフェイトのボロボロだったバリアジャケットも元の姿に修復された。
「それじゃ行こう……今までの私を終わらせて、これからの私を始めるために。」




そして少女は深い闇の中から羽撃いていく、自分の大切なものの為に、自分を大切にしてくれる人達の元に。










一方その頃、時の庭園内部に転送されたシン達は、アリシアによって操られた傀儡兵達によって道を阻まれていた。
「ディバイン……バスター!」
「うおおおおお!!!!」
なのはのディバインバスターの掃射と狼型に変身したアルフの豪快な攻撃で数を減らしていく、しかし次から次へと傀儡兵は数を増やしていった。
「あーん! 全然減らないよ~!」
「泣き事言っている暇はないぞ! 次が来る!」
すると傀儡兵の一つが攻撃を掻い潜ってなのはに急接近してくる。
「はわわわわ!? やばっ……!」
「な、なのはー!」
なのはの危機を察知し助けに入ろうとするユーノ、すると……。
「デスティニー! フラッシュエッジ!」
「はいはーい。」
ブーメランのように投擲された二本のフラッシュエッジがなのはに襲いかかって来た傀儡兵をバラバラにする。
「大丈夫かなのは。」
「う、うん! ありがとうシン君!」
その様子を見ていたユーノはとても複雑な顔をする。
「あれ? 何この空気……。」
「コレが主人公補正です。」
「何言ってんだデスティニー? それにしてもこの数……奴さん、どうしてもここを通したくないみたいだな……。」
そう言ってシンは傀儡兵達の背後にあるアリシアのいる部屋に通じる通路を見る。
「人手があれば何人かを向こうに送ることができるんだけどね……。」
「もうちょっと持ちこたえてくれ! 今近くの局員がここに応援に向かっている!」
「わかった!」
そしてシン達は再び傀儡兵達を激しい戦闘を繰り広げる、

その様子をアリシアは時の庭園の最深部でモニターで監視していた。
「どうやら新しいおもちゃが必要みたいね……私の邪魔はさせない。」

するとシン達の元に、騎士のような格好をした傀儡兵達とは違う、顔に大きな一つ目があり手には金棒をもった20m程の黄色いロボットが現われた。
「なんだアレ!?」
『デスアーミー! そいつを排除しなさい!』
アリシアの声を聞き、デスアーミーと呼ばれたロボットは一か所に集まって戦っていたシン達に向かって金棒を振り降ろす。
「きゃあああ!!?」
「うわっ!!」
シン達は辛うじてその攻撃をかわし、魔力弾等で反撃を試みる、しかし……。
「駄目だ! 全然効いていない……!」
「もっと攻撃力のある攻撃をしないと!」
するとデスアーミーは金棒の先端をシン達に向けると、そこからビームを何発も発射してきた。
「んな!? あんなものまで……!」
「なのは! アタシの後ろに!」
アルフはなのはを自分の背後に移動させると、シールドを張って飛んできたビームを防いだ。そしてシンとユーノとクロノも襲い掛かるビームをひょいひょい避けていく、しかし……。
「うわっ!?」
その内の一発がシンの背中に直撃し、彼はそのまま地面に落下して行った。
「しまった!」
「シン!」
アルフ達はすぐさまシンを助けようとするが、デスアーミーが彼を叩きつぶそうとするのが早かった。
(やられる!?)
「主!」
思わず目をつむって身構えるシン。
[Thunder rage]
「!?」
突然飛来した雷が轟音と共にデスアーミーの動きを止める。
[Get set]
シンが上を見るとそこにはバルディッシュを構えたフェイトがいた。
「サンダー……レイジーー!」
フェイトはサンダーレイジでデスアーミーをバラバラに破壊してシン達の窮地を救った。
「フェイト?!」
アルフが上を見上げ驚く、それを見たフェイトはシンと彼に駆け寄ってきたなのは達のところまで下りてくる。
「フェイトちゃん!」
「フェイト!」
「……。」
フェイトを嬉しそうに見つめるなのはと恥ずかしさからかそれを正面から見られないフェイト。
すると、壁を突き破りさっきの傀儡兵の倍以上の大きさの傀儡兵が現れ、両肩の砲台がシン達を狙う。
「大型だ! バリアが強い!」
「うん、それにあの背中の……!」
「だけど……二人でなら!」
その言葉にフェイトを見るなのはの顔が笑顔になって首をたてに振る。
「うん! うんうん!」
「いくよ! バルディッシュ!」
フェイトがバルディッシュを構える。
[Get set]
「こっちもだよ! レイジングハート!」
なのはもレイジングハートを構える。
[Stand by. Ready]
「サンダーーー! レイジーーーー!!」
「ディバイン! バスターーーー!!」
「「せーーのっ!!」」
その瞬間、二人の攻撃が大型の傀儡兵のバリアを破り、傀儡兵を粉砕し、時の庭園に大穴を開ける。
「フェイトちゃん!」
「フェイト! フェイト! フェイトー!」
そして二人が地上に降りるとアルフがフェイトに泣きながら抱きついてきた。そしてその後ろではデスティニーが心底ほっとした様子でフェイトを見つめていた。
「来てくれると信じていました。」
「うん、デスティニーの声……私にちゃんと届いたよ。」
「怪我の方は大丈夫なのか?」
「うん、今は平気……。」
クロノの問いに答えながら、フェイトはダメージを受けたシンに肩を貸した。
「シンは平気?」
「うん……ちょっと飛べなくなっちゃった、あはは……カッコ悪いなぁ。」
「そんなことないよ、シンのお陰で私は私を始める事ができたんだから……。」
そう言って見つめあうシンとフェイト、その様子をなのは達はニヤニヤと見つめていた。
「あー? フェイトちゃんもしかしてシン君の事……。」
「君達、今は戦闘中なんだが?」

その時、シン達のいる広場にすぐさま増援の傀儡兵やデスアーミーが集まってくる。
「うわっ! また出てきた!」
「空気が読めないポンコツですね!」
そう言ってシン達が臨戦態勢をとろうとした時……。
「ディバイン……バスター!!!!」
突如どこからかなのはのものとは違うディバインバスターが発射され、傀儡兵達を飲み込んだ。
「え!? 何今の!?」
「私じゃないよ!」
するとシン達の元に大きな槍を持った男と、ピンク色と青い長髪の女性が近付いてきた。
「君達がアースラの部隊か!? 我々は応援要請を受けてやってきたゼスト隊だ。」
「応援感謝します、アースラのクロノ・ハラオウン執務官です。」
そう言ってゼスト隊と名乗った男に敬礼するクロノ、そうしている間にも傀儡兵達はどんどん増えていた。
「ぼやぼやしている暇はないみたいだね……。」
「早く奥の方へ行かないと……!」
するとデスティニーはある作戦を思い付いたのか、先程ディバインバスターを撃った青い長髪の女性に声を掛ける。
「そこのアナタ、先程のディバインバスターをもう一発撃てますか?」
「もちろん! 十発でも百発でも撃っちゃうよ!」
(豪快な人だな……。)
シンはその青い髪の女性の威勢のよさを見て思わず感心してしまう。
「ではなのはさんと共にあの最深部に通じる扉に向かってディバインバスターを撃って道を塞いでいる奴らを退けてくださいください、その隙に私と主……そしてフェイトさんが中へ突入します。」
「私達が……。」
「でもデスティニー……俺……。」
そう言ってシンは左側が折れてしまった自分の翼を見せる。
「うーん、修復には時間が掛かりますね……。」
「それなら……。」
すると大型狼形態のアルフはシンの首根っこを掴み、彼を自分の背中に乗せた。
「うわっと!」
「これなら早く動けるだろ?」
「十分です、それではお二人とも……お願いします。」
デスティニーの言葉にコクンと頷くなのはと青髪の女性、そして二人は迫りくる傀儡兵達の目の前に堂々と立った。
「じゃあせーのでいくよ、えっと……。」
「私はなのは……高町なのはです!」
「よっし !じゃあなのはちゃん、私と一緒に撃ってね!」
「はい!」
そしてレイジングハートの先端と、女性が装備しているギアが巻かれたような籠手に膨大な魔力が集束して行く。
「「ディバイン……バスター!!!!!!!」」
そして2人はほぼ同じタイミングで魔力を傀儡兵達に向かって放った。
桜色と蒼色の光に呑まれ消滅していく傀儡兵達。
「今です!」
その隙にフェイトとシンを乗せたアルフは真っすぐに最深部に繋がる扉に駆けて行った……。

「気を付けてねフェイトちゃん……アルフさん……シン君……!」
「よし!僕達はこの場の敵を殲滅しつつフェイト達の後を追うぞ!」
「わかった!」

「我々も負けていられないぞ、クイント! メガーヌ! 援護してくれ!」
「「了解!!」」



そしてシン達はアリシアのいる時の庭園の最深部に到着する、そこで彼等は信じられない光景を目の当たりにする。
『フェイト……ここまで辿り着いたのね……。』
広間には辺り一面禍々しい植物のような物が壁一面にひしめき合い、中心には銀色の鉄のような何かを全身に纏ったアリシアが、巨大な球根のような物体の中にある赤い水晶に腰から下を取りこませていた。そしてすぐ傍にはプレシアが取り込まれていた。
「母さん!」
「プレシア!」
「あの水晶は……ジュエルシードですか。」
「アリシア……もうこんな事やめてくれよ! こんな事したってプレシアさんは……!」
アリシアを説得しようとシンは必死になって彼女に訴えかける。
『アナタに私の何が解るの? 私から母さんを奪った奴らをどうしようと勝手じゃない。』
しかしアリシアはクスクス笑いながらシンの言葉を拒絶し巨大な触手のような物を幾つも出現させ、それらにシン達を襲わせる。
「うわっ!」
「きゃ!」
シン達はそれを分散して回避し、さらに襲いかかって来る触手を各個迎撃していく。
「フォトンランサー! ファイア!」
「デスティニー! フラッシュエッジ!」
「そりゃー!!!」
しかし攻撃の勢いは衰えることなく、シン達の表情に次第に焦りの色が見え始めていた。
「次から次へと……本当にキリが無い……!」
「やっぱりコアであるアリシアさんを止めないといけませんね。」
「ならアタシに任せろー!」
デスティニーの分析を聞いてアルフは無理やりアリシアに近付こうとする、しかし……。
「わあああああ!!!?」
「アルフー!」
足もとから現れた触手のようなものに絡め取られてしまう。
『無駄無駄……犬ッコロごときが私に触れる事なんてできないわ、そこで大人しくしていなさい。』
「くそう! 力が出ない……!」
アルフは全身から力が抜けていくのを感じ、そのまま意識を失ってしまう。
「いけない! アレは生命力を吸っています! 早く止めないと!」
「待ってろアルフ! うおおおおお!!」
そう言ってシンは地上から、フェイトは空中から迫りくる幾つもの触手を撃ち落としていく。その様子を見ていたアリシアは不敵に笑うと……。
『ふふふ……それじゃレベルアップするかな?』
天井から岩の塊のような物を彼等に向かって落としていった。
「だああ!! そんなの反則すぎるだろ!」
「くっ……!」
顔を顰めながら落下してくる岩を回避するシンとフェイト、その様子を見てアリシアはまたも不敵に笑う。
『かかったわね……まずはお前から!』
すると赤い水晶の中心に魔力が集束され、そこからシンに向かって赤い光線が放たれた。
「うわああああ!!!!」
「シーン!」
フェイトはすぐさま飛べないシンを抱えて空に退避して事なきを得る。
『ちっ……もうちょっとで消し炭にできたのに。』
「た、助かったよフェイト。」
「う、うん……(うわあ、シンと密着してる……)」
フェイトは頬を赤く染めながら地上にいるアリシアを見据える。
「どうしようシン……なんとかしてアリシアに近付かないと……。」
「あのウネウネ邪魔だな……なんとかしてあそこまで辿り着かないと……あそうだ! フェイト耳貸して! ごにょごにょ……。」
そしてフェイトはシンが提案したプランを聞いて目を見開いて驚く。
「そ、それは流石に無茶なんじゃ……。」
「でもこれしか方法がないよ! 俺は大丈夫だから!」
「ここは主を信じてくださいフェイトさん。」
「う、うん……。」
フェイトは今だに承服しかねていたが、取りあえずシンが提案した作戦を採用することにした。

『うふふ……何をしても無駄よ無駄無駄、大人しく私の養分になりなさい。』
「そんなの……!」
「お断りだ!」
そう言ってシンはフェイトに抱えられながらアリシアに向かって猛スピードで突撃して行く。
『なあに? 特攻?』
「シン! 本当にいいんだね!?」
「思いっきりやってくれ!」
フェイトはもうヤケクソ気味にシンを支えていた手を放す、するとシンは慣性の法則に従ってアリシアに向かって弾丸の如く飛んで行った。
「名付けて“シルエットシステムアタック”!!!」
「しるえっとしすてむ?」
デスティニーのネーミングに首を傾げるフェイト、一方シンは襲いかかる触手をはねのけながらアリシアに向かって飛んで行った。
「おりゃあああああ!!!!」
『な!!?』
そしてシンはアリシアに取り付くことに成功する。
「主、アリシアさんをこのジュエルシードの塊から剥がせば時の庭園は機能を停止します。」
「わかった! ふんぬぬぬ……!」
シンはアリシアの体を掴み力任せに引っこ抜こうとする。
『どこ触ってんのよスケベ!』
衝撃波によって吹き飛ばされてしまう。
「わあああああ!!!!」
「シン!」
すぐさま助けに入ろうとするフェイト、しかしその隙をアリシアは見逃さなかった。
『くくく……! 捕まえたわよ!』
「きゃ!!」
フェイトは後方から襲いかかって来る触手に気付かず、そのまま全身を絡め取られてしまった。
『このまま……バラバラにしてらる!』
「ああああ……!!!」
縛る力が少しずつ強まり苦悶の表情を浮かべるフェイト。
「フェイト……今助ける!」
その様子を見てシンは痛む体をこらえながらフェイトに絡みついた触手をフラッシュエッジで切っていく。
『敵に背を向けるなんて……油断しすぎじゃない?』
「!! 主!」
デスティニーは危険を察知しシンに警告する、しかし気付いた時にはもう遅く、アリシアはシン達に向かってビーム砲を放った。
「シン逃げて! 私の事はいいから!」
「…………!!!」
そのままビームの中に呑まれていく2人、巻き上がる爆煙、それを見たアリシアは勝利を確信していた。
『ふふふ……これで邪魔者はいなくなった、後は……。』
しかしアリシアはある気配に気付き、自分がビームを放った方角を見る、そこにはボロボロになりながら身動きができないフェイトを体を張って守ったシンの姿があった。
「うぐぐ……いってぇ……!」
「シン! なんて無茶を!」
『な、なんでよ……なんでそいつの為にそこまでするのよ!』
シンの行動を理解できずに喚くアリシア、それに対してシンは何てことないといった様子で答える。
「約束したから……! ずっと傍にいるって、守ってあげるって……!」
「シン……!」
フェイトはそのシンの言葉を嬉しく思いながら、触手から脱出しようと必死にもがいた。
そしてシンはボロボロの姿のままアリシアに語りかける。
「なあアリシア……もうやめてくれよ! こんなの悲しすぎるよ!」
『悲しい? 私の行動に口出さないでほしいわね、何も知らないくせに……。』
「確かに俺はアリシアがどういう思いをしているかは解らない、でも……。」
そう言ってシンはフェイトの方を一瞥すると、とても悲しい目でアリシアの方を見る。
「アリシアが今やっている事は……プレシアさんを悲しませているんだぞ。」
『母さん……が……!?』
その瞬間、アリシアは動きを止め、フェイトは触手から脱出することに成功する。
「プレシアさん……泣いていたよ? 君がこんなことをするのは自分のせいだって……プレシアさんを大切に思うならもうこんな事やめようよ!」
『……!』
動揺するアリシアへ、一歩一歩近付いて行くシン。
「もういいだろう? 下にいる人達だって十分懲らしめた、一緒に帰ろう……フェイトやアルフと一緒に、アリシアには帰る所があるんだ!」
そしてシンは手を差し伸べた、その手をアリシアは迷いながらもとろうとする、その時……。
『……!! あああああああ!!!』
突如アリシアは苦しそうに暴れ出し、手当たりしだいに攻撃を始めた。
「アリシア!!?」
「アルティメット細胞とジュエルシードがアリシアさんの制御を受け付けなくなっています!このままでは……!」
「そんな! どうすれば……!」
その時、シンとフェイトの頭の中にリンディの念話が聞こえてくる。
(シン君! フェイトさん! 聞こえる!?)
「リンディさん!?」
(ヴィアさんの解析が終わったわ!! アリシアさんを取りこんでいるジュエルシードの塊……あれを破壊すれば時の庭園は機能を停止するはずよ!)
「ジュエルシードの塊……あれか!」
そう言ってシンとフェイトはアリシアの下半身を取りこんでいる巨大な赤い塊を見る。
(でも気を付けてね、あれは高威力の攻撃じゃないと破壊できないから……。)
「高威力……!」
シンはふと、自分がデスティニーから魔法を教わっていた時に聞いた“切り札”の事を思い出し、自分の両腕に装着してある傷だらけの青い籠手を見つめる。
「どうします主? 翼の修復はたった今終了しましたが……。」
「なのは達が来るのを待ってはいられないな。」
そう言ってシンは決意を固めて右手に魔力を込める、すると突然フェイトがその手を自分の左手で掴んできた。
「シン、私も一緒にやるよ、二人なら……。」
「フェイト……うん、わかった。」
そして二人は繋いだ手から優しい温もりを感じながら、決意に満ちた目でアリシアを見据えた。


「「二人なら、終わらせることができる」」





最終話「君は僕に似ている。」





「ウオオオオオオオオン!!」
次の瞬間、雄たけびと共に触手の先端に牙とアンテナのような二本の角が生え、シンとフェイトに向かって一斉に襲い掛かってくる、二人はそれを真上に飛翔して回避した。
「デスティニー!」
「薙ぎ払います!」
「バルディッシュ!サンダーレイジ!」
[Get set]
そのまま二人はそれぞれビーム砲とバルディッシュの先端を下の触手達に向け、ぐるぐる回転しながら、豪快に触手をビームで薙ぎ払っていった。
『うああ、うわあああああ!!!!』
もがき苦しむアリシアはビーム砲をシン達に向かって放つ、それに対してシンは左手にため込んだ魔力を迫ってくるビーム砲にぶつけた。
「うおおおおおおおおおおおおー!!!!」
そしてシンはフェイトと手を繋いだまま、ビーム砲を縦に引き裂きながらアリシアに急接近する。
そしてジュエルシードで出来た水晶をパルマフィオキーナの射程圏内に入れたシンは、先ほどからチャージしておいた右手の魔力を、フェイトと一緒に掌を合わせて撃ち出した。
「フェイト!」
「うん!」
「「ダブル! パルマ……フィオキーナあああああ!!!!!!」」
シンとフェイト、二人の思いが籠った攻撃は、ジュエルシードの塊にヒビを入れ破壊するのに十分の威力を持っていた。まさに二人で勝利を掴み取る技、この技の前にはどんなものであろうと耐えきることは不可能だった。
「グオオオオオオオオオン!!!!!」

そして触手達は断末魔をあげて消滅していく、勝利者は……シンとフェイトだ。

「アリシア!」
そして勝利の余韻に浸る間もなく、シンはフェイトと一緒にアリシアをジュエルシードから引き剥がした。

「あ……ぐ……!」
「ふぎゃ!」
その瞬間、取り込まれていたアルフとプレシアも開放され、意識を取り戻し起き上がった。
「アルフ! 母さん!」
「あいたたたた……あ、あれ? もしかしてもう終わっている!?」
「アリシア……フェイト……!」
プレシアとアルフはすぐさまシンとフェイトの元に駆け寄り、2人に抱えられているアリシアの安否を確認する。
「アリシアは?」
「生きてはいるみたいですが……意識を失っているようです。」
「そう……!」
デスティニーの言葉を聞いてプレシアは思わずアリシアをフェイトと一緒に力強く抱きしめる。
「か、母さん……?」
「ごめんなさい……! アナタの大切さに気付かずに、私はなんてひどい事を……!」
そこには今までのフェイトをいじめていた鬼のようなプレシアはおらず、ただただ自分の罪を悔いて娘に許しをこう母親の姿があった。
「ごめんなさい……! ごめんなさいフェイト……!」
「母さん……私怒ってないよ、だからもう泣かないで。」
そう言ってフェイトはプレシアの頬を流れる涙を手で掬った。
「私……私はもうアナタ達に母と呼んでもらう資格なんか……! 私は憎まれても当然の事をしたのに……!」
「そんな事言わないでください、私は……母さんが昔みたいに笑ってくれればそれで……。」
「フェイトぉぉ……!!」

シンはそんなフェイト達の様子をすぐ傍で優しく見守っていた。
(フェイト……よかったな、プレシアさんと仲直りできて……。)
「…………主。」
その時、デスティニーが神妙な面持ちでシンに語りかける。
「どうしたのデスティニー? 早くなのは達の元に戻ろう。」
「それが……先程からイヤな空気が晴れないのです。」
「え?」

するとシン達の背後で主を失ったアルティメット細胞の塊が、うねりをあげて再生を始めていた。
「な、なんでだい!? アレはフェイト達が壊したんじゃ……!?」
「生命力が半端ないですね……私達の火力じゃ完全に破壊できませんか、今度は私達の誰かをコアにするつもりですね。」
「このままじゃみんなが……!」
「…………。」
するとプレシアは足もとに魔法陣を出現させ、詠唱を始めた。
「母さん!? 何を……。」
「皆、アリシアを連れて逃げて頂戴。」
「プレシアさん!?」
すると今度はシン達の足もとに魔法陣が出現する。
「転移魔法!? プレシア! これは一体何の真似です!?」
「アイツの中にあるジュエルシードを使って虚数空間の中に転移するわ、いくらアイツでもそこに落とせば何も出来ない筈……。」
「プレシアさんはどうするんだよ!? 逃げるなら一緒に……!」
「誰かがここでこいつを引き止める必要があるわ、それに……ゴフッ!」
するとプレシアは突然咳き込む、そして咳き込んだ口を抑えた手には血が付いていた。
「母さん……!?」
「もう私は長くはないの……ふふふ、本当に愚かよね……。」
「そんな……そんなのあんまりだよ! 折角一緒になれる筈だったのに……! 解りあえたのに!」
魔法陣の中に閉じ込められているシンは必死になってプレシアを説得する、対してプレシアは優しい顔でシン達に語りかける。
「私にはあなた達の母親を名乗る資格なんてない……でも最後くらい母親らしいことはさせて。」
次の瞬間、シン達の足もとの魔法陣が強く光り、彼等は時の庭園の外へと転移していった。
「母さん! いやだ! いやだよぉ!!」
「プレシアさん!」
「プレシア!」
「…………。」

「ごめんなさい……アリシア、フェイト……ヴィアにありがとうって伝えて……。」
それが、シン達が見たプレシアの最後の姿だった。

そして一人その場に残ったプレシアは猛スピードで回復していくアルティメット細胞の塊を睨みつける。
「さあ来なさい……! あの子達には指一本触れさせない!」



一方アースラでは、時の庭園の動きに気付いたアースラのクルーが慌ただしく状況を確認していた。
「上空に次元震の発生を確認! 中規模以上!」
「時の庭園が吸い寄せられています!」
「一体何が……!?」
そんな中、ブリッジにいたヴィアは猛烈に不安を感じていた。
(プレシア……!? まさか!?)
するとブリッジでオペレートをしていたエイミィの元にクロノ達から通信が入って来た。
『エイミィ! 何が起こっている!? フェイト達の援護に行こうとしたらみんな強制的に外へ転移させられて……!』
「えええ!?」
「シン君達は!?」
「待ってください……シン君とフェイトちゃん達の反応を確認しました! 地上に転移したようです!」



その頃地上に転移したシン達は、虚数空間に吸い込まれていく時の庭園を地上から見ていた。
「母さん! 母さん!」
「駄目だよフェイト! もう間に合わない!」
フェイトは時の庭園の元に飛んで行こうとするが、アルフに止められていた。
「アルフ離してよ! 母さんを一人にさせられない!」
「その言う事だけは聞けない!」
そして時の庭園は虚数空間に吸い込まれていき、そのまま跡形も無く消えてしまった。
「あ……ああああ……あああああああー!!!!!!」
その光景を目の当たりにしたフェイトはショックのあまり狂ったような叫び声をあげ、泣き崩れてしまった。そしてその彼女の様子をアリシアを抱えていたシンは悔し涙を流して見つめていた。
「くそっ……! なんで! なんでこんな事に……!」













後にP・T事件(時の庭園事件とも呼ばれている)と呼ばれる出来事はこれで終わりを告げた。
首謀者であるプレシア・テスタロッサは時の庭園とアルティメット細胞と共に行方不明となり、書類上では死亡扱いとなる。

彼女の協力者であるヴィア・ヒビキ博士とフェイト・テスタロッサについても近々裁判が行われる予定ではあるが、リンディ提督らアースラクルーの弁護により刑に執行猶予が付くと見込まれている、
意識の戻らないアリシア・テスタロッサについては、ヴィア博士の指示でしばらく管理局の監視下に置いておくことになっている、もっともアリシア・テスタロッサの中のアルティメット細胞はほぼ消失しており、彼女が再び暴走することはあり得ないということで、アリシア・テスタロッサは近いうちに妹の元に帰ることができるだろう。

最後にシン・アスカについて、彼は管理外世界からフェイト・テスタロッサにやむ負えない事情があったとはいえ誘拐された身であり、事件後間もなく彼の住む世界にいる親元に返された。(リンディ提督による説明も済ませてある。)
彼の中にあるジュエルシードについてはいまだ引き離す方法が見つかっておらず、現在対策を模索中である。



追加報告:ジュエルシードについて。
20個あったジュエルシードは戦いのドサクサで所在が分からなくなっている。
現在も捜索を進めているが発見は絶望的であり、近いうちに捜索が打ち切られる予定である。

一説によれば消失した20個のジュエルシードは他世界に転移した可能性もあるとのこと。引き続き調査の必要がある。










本日はここまで、次回は後日談的なエピローグを月曜日にお送りいたします。

ちなみに作中に出てきたデスアーミーは人間をコアにしておらず、ジュエルシードの魔力で動いている不完全なものとなっております。しかしガンダム作品扱っているのに最初に出てきたMSがデスアーミーって……。

ゼスト隊を出したのはサービス的な意味もありますが、実は彼らの存在は今後の話の展開の重要なカギを握っています。まあとりあえずはそういえばこういうこともあったんだと頭の隅に留めておいてください。



[22867] エピローグ「私は笑顔でいます、元気です。」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/15 20:49
―――PT事件から一か月後―――

オーブのとある学校、そこでシンは花壇の花に水をあげながらフェイト達の事を思い出していた。
「フェイトやデスティニー達元気かな……あれからどうしたんだろう?」
事件後、シンは管理局による軽い事情聴取の後、オーブにいる両親の元に帰されていた。
デスティニーは管理局により没収されており、彼女は現在裁判を受けているヴィアと行動を共にしている。

因みにシンがいない間家族や学校は大騒ぎしたらしく、いじめを苦に家出したとか、いじめっ子が何かとんでもない事をやらかしたとか、とある反コーディネイター組織に攫われたとか、そりゃもう沢山の人が疑われるちょっとした大事件になっていた。
(フェイトが知ったらきっと落ち込むんだろうな……。)
その為なのかシンをいじめていた子達は周囲に皆に疑いの目を掛けられ色々酷い目にあい、彼が無事に帰って来た時はもういじめを行うことはなくなっていた。
「まあそれだけはラッキーかな? 学校の勉強遅れちゃったけど……。」
そして花壇の整備を終えたシンはカバンを背負ってそのまま家に帰るのだった。



数分後、帰宅してきたシンを彼の母親と妹のマユが出迎えた。
「あ、お帰りなさいシン。」
「ただいまー母さん。」
「おにいちゃーん、あそんでー。」
まだ幼稚園の年少程度のマユはシンがしばらく家にいなかった反動か、最近彼によく甘えるようになっていた。
「ちょっと待っていろよー、今うがいと手洗いしてくるからー。」
「うんー。」
そんなシンの様子を、シンの母は嬉しそうに見つめていた。
「ふふふ……なんだかシン、あの事件から随分としっかりしてきたわね。」

プルルルル

その時、家にある電話が鳴り響き、シンの母は受話器を取った。
「はいアスカです……ええ?……ああ、はい……。」

その頃シンは居間でマユの遊び相手をしていた。
「ねえねえおにいちゃーん、またまほうみせてー。」
「またかよ? しょうがないなー。」
そう言ってシンは指先に魔力を溜めると、そこから綺麗な光を放った。
「わ~! きれい~!」
「ほーらほら、字も書けるぞー。『マユマジプリティ』っと……。」
「おにいちゃん、じがうらがえしだよー。」
「あちゃー、間違えちゃったかー。」
シンは今もジュエルシードがリンカーコアを形成している影響か、デスティニーがいなくても簡単な魔法を使う事ができた。
「おにいちゃーん、マユもまほうつかいたいー。」
「うーん……こういうのは適正があるかどうかだからなー、今度リンディさんに頼んで検査してもらうかな?」

するとそこに、電話に出ていたシンの母が彼等の元にやって来た。
「シンー、リンディさんからお電話よー。」
「リンディさんから!?」
そう言って母はシンに受話器を渡す。
「もしもしシンです……はいお久しぶりです……ええ!? フェイトが!? わ、解りました……父さんにも伝えておきます……。」
シンは話を終えると受話器の通話ボタンを切る。
「おにいちゃん、さっきのおでんわなーに?」
「うん……リンディさんから、フェイトが今度うちに来るんだって……。」


数日後の土曜日の夕方、アスカ家は来客の準備の為掃除や料理の準備等でバタバタしていた。
「かあさーん、この唐揚げ持ってくよー。」
「うん、おねがいー。」
そう言ってシンは母親に指示されながら料理をテーブルに並べていく。するとそこに買い物を終えたシンの父親が帰ってきた。
「ただいまー……お! 母さん今日は気合入っているな。」
「ええ、だって今日はシンがお世話になった子が遊びに来るんですもの、精一杯おもてなししなきゃね。」
そう言って嬉しそうに準備を進める母に対し、シンは心から感謝する。
「母さん……ありがとう。」


その時、家の中にピンポーンとインターホンの音が鳴り響いた。
「あ、もしかして……!」
シンはすぐさま玄関に駆けつけ扉を開く、そこには……。
「はーいシン君、こんにちは。」
「久しぶりねシン君……。」
「シン……。」
軽くおめかししたリンディとヴィアそしてフェイトとおとなフォームのアルフが立っていた。
「フェイト! それにアルフも久しぶり! ヴィアさんとリンディさんもこんにちは! かあさーん! フェイト達が来たよー!」


数分後、シンはフェイト達を御馳走が置かれているテーブルがある居間に案内した。
「お久しぶりですねリンディさん、息子がお世話になりました。」
「こちらこそ、シン君には一杯助けてもらいましたから。」
そう言ってシンの両親とリンディは軽く挨拶を交わす、その時ふと、二人はリンディの後ろにいるフェイトとアルフと目を合わせる。
「君がフェイトちゃんにアルフちゃんか……シンから話は聞いているよ。」
「ささ、立ち話はなんだし座って座って、フェイトちゃんとアルフちゃんはオレンジジュースでいい?」
「は、はい……。」
そして一同はテーブルを囲むようにして座る、するとフェイトはシンの両親に対して深く頭を下げてきた。
「あの……今日はリンディさんに頼んで謝りに来たんです……本当にすみませんでした。」
「謝る? 何を?」
シンの両親はフェイトの行動を不思議がって互いに目を合わせる。
「だって私がちゃんとしなかったせいでシン君や貴方達に多大な迷惑を掛けて……。」
「違う……! フェイトだけが悪いんじゃないんだ! 怒るなら私も一緒に……!」
「いいえ、大人の私に責任があるわ、この子達を責めないでやってください。」
そう言ってアルフとヴィアも頭を下げる、するとシンの母は優しい声で三人に語りかけてきた。
「三人とも頭をあげてください……私たちはもう怒ってなんていませんよ。」
「え?」
フェイトは涙ぐみながら驚いた様子でシンの母の顔を見る。
「まあ最初は怒りもしましたよ、大事な息子を誘拐したうえに危ない目に遭わせたのですから……でもシンやそこにいるリンディさんが全部事情を聞かせてくれたんです、あなた達にはやむ負えない事情があったうえに、シンを助けるためにああするしかなかったのでしょう?」
「怒るどころかむしろ感謝しているぐらいですよ、だから……。」
「で、でも……私は……。」
するとシンの父はフェイトのもとに近づき、彼女の頭を優しく撫でてあげた。
「それに……君も色々大変だったのだろう? もし辛いことがあったら私たちにも相談してくれ、君は息子の恩人なのだから。」
「……! はい、ありがとうございます……!」
フェイトはその優しさに触れ思わず泣きそうになる、だがその時、マユが父の服の袖を引っ張ってきた。
「おとうさんおはなしながいよー、はやくごはんたべよーよー。」
そのマユの行動に、リンディやシンの母は思わずぷっと噴き出してしまう。
「そうね……それじゃ堅苦しい話はこれぐらいにして……。」
「お料理食べちゃいますか、今日は腕によりをかけて作ったんですよー。」


一時間後、アスカ家の食卓には和やかな空気と楽しそうな大人たちの話声が聞こえていた。
「ほほう、ヴィアさんはもともとこの世界の人だったのですか、そういえば貴女のお名前をどこかで……。」
「あはは……昔の話ですよ。」
「では息子さんも一緒の職場で働いているのですか? 立派ですねー。」
「ええ、真面目すぎるのが玉にキズですけど。」

そんな中シンはフェイトとアルフからこの一カ月何があったのか色々と聞いていた。
「そっか、なのはとも会ったんだ。」
「うん、今は離れているけどお手紙のやり取りはしているんだ。この前はなのはが友達と撮ったビデオレターが届いて……。」
ふと、シンはフェイトが髪を結んでいるリボンを見る、それは前に彼女がしていた黒い紐状のリボンではなく、なのはがつけていた白のリボンだった。
「フェイト……なのはのこと名前で呼ぶようになったんだな。」
「うん、私たち友達になったから……。」
フェイトはなのはの名前を呼ぶ度び嬉しそうに笑い、それを見たシンも思わず嬉しくなって笑っていた。

「なあシン……。」
するとそこに疲れ切った様子のアルフがシンに声を掛けてくる。
「どうしたの?」
「アンタの妹……どうにかならないのかい? さっきから……。」
「わーい! ふにふにおみみー!」
よく見るとマユがアルフの頭に生えている犬耳を指でふにふにと揉んでいた。
「感触が気に入ったみたいだね……しばらく相手してやってくれ。」
「そんな~!?」
シンは助けを求めるアルフをほっといてフェイトと話を続ける。
「そういえば……アリシアはどうなったんだ?」
「うん、あの子は……。」
フェイトは少し悲しい顔をすると、アリシアの近況とこれからをシンに教えた。

「アリシアは今管理局の病院にいるよ、意識はまだ戻っていないの……あの子の中のアルティメット細胞が殆ど消滅して、今後の生活に影響がないか検査しているんだって、もう数カ月で退院できるってヴィアさんが言ってた。」
「そっか……早く目を覚ませばいいのに……。」
そしてシンは一番気になっていた事……フェイトとアルフがこれからどうなるのか、そしてどうするのか本人に聞いた。
「私達も今裁判を受けているんだ、でもそんなに重い刑は課せられないってクロノが……それに……。」
「それに?」
「私……今執務官を目指しているの。」
「執務官って……クロノの?」
「うん、裁判後に管理局に従事すれば罪を軽くしてくれるんだって、ヴィアさんもアルティメット細胞の研究を管理局員の人たちと一緒にするって条件で罪を軽くしてもらうんだって。」
「そうなんだ……。」
フェイトとアルフ、そして恩人であるヴィアがそんなに重い罰を課せられないと知ったシンはほっと胸をなでおろした。そして彼は意を決してフェイトにある事を打ち明けようとしていた。
「なあフェイト……実は俺、フェイトやリンディさんに聞いてほしいことがあるんだ。」
「聞いてほしい事?」
「あら? 私も?」
突然名指しされおしゃべりを中断しシンのほうを見るリンディ、いや、それだけでなくその場にいた全員がシンに視線を集中させた。
「俺……あの事件を体験してわかったんだ……この世界ってプレシアさんやフェイトみたいに悲しい思いをしている人がたくさんいるんだって、そう考えると俺も何か出来ないかなって思ったんだ。」
「……。」
そしてシンはリンディのほうを見ると、自分の頭を下げて彼女にある事を懇願した。
「リンディさん……俺も時空管理局に入れてください!」
「「シン!?」」
シンの予想外の行動に、フェイトとアルフは面喰ってしまう、しかし頼まれたリンディ本人はまるですべてお見通しと言わんばかりにニコニコしていた。
「ふーん……シン君も管理局に入りたいんだ、でも御両親には言ったの?」
「父さんと母さんには前から相談していました。」
「シンが決めた事なら、私は何も言わんよ。」
「本当は危ない目に遭うだろうから反対したいけど……。」
「俺……ずっと考えていたんです、なんで自分はコーディネイターなんだろうって、この力をどう使えばいいんだろうって、そして……。」
シンは一度、呆然としているフェイトを一瞥する。
「そして……この力でフェイトみたいに悲しい思いをする子を無くしたいって思ったんです、だから……管理局に入れてください!」
シンは先ほどよりも深く頭を下げて懇願する。それを見ていたリンディはふふふと笑うと、ヴィアと軽くアイコンタクトをとった。
「そっか、あなたの気持ちは解ったわ、ヴィアさん。」
「さあ、出てきなさい……。」
そう言ってヴィアは持ち歩いていたバスケットの蓋を開く、するとそこからシンにとって見覚えのある人物(?)が飛び出してきた。
「主……お久しぶりです!」
「デスティニー!?」
「わあ! ようせいさんだー!」
「これがデバイス……思ったより精巧にできているな。」
デスティニーはそのままシンの懐に飛び込む。
「デスティニー! 元気にしていたか?」
「はい、主も元気そうでなによりです。」
「リンディさん、まさか初めから……?」
フェイトの問いにリンディとヴィアは顔を見合わせてほほ笑む。
「ふふふ、なんとなく予感はしていたの、その子はあなたに返還するわね。」
「今度ミッドでカリキュラムを受けるといいわ、管理局員と言っても色々な役職があるから、自分に合ったものを探してみるといいわね。」
「は、はい! ありがとうございます!」





そして夜もふけった頃、フェイト達は帰る時間になったのでアスカ一家と共に家の外に出ていた。
「アルフもフェイトおねーちゃんもかえっちゃうの? マユさみしい……。」
「あーあ、ほら泣くんじゃないよ……また遊びに来てやるから。」
「わーい! またおみみさわらせてねー!」
「あ、あははは……。」


「それでは……面白いお話が聞けました。」
「今後とも息子をよろしくお願いします。」
「いえいえこちらこそ……。」
「本日はありがとうございます。」


別れ際、シンはフェイトと見つめあいながら別れの言葉を交わしていた。
「お別れだね……シン。」
「また近いうちに会えるさ、フェイトも頑張れよ……今度会う時は管理局でね。」
「うん……。」
ふと、シンはフェイトが顔を真っ赤にしながらもじもじしている事に気づく。
「どうしたのフェイト? 風邪?」
「あのね……私ね……シンのこと……。」
フェイトは自分の胸の中に秘めていた思いをシンに伝えようとしていた、しかし……。
(……やっぱりまだ早いかな……意気地なしだなぁ、私……。)
「フェイト?」
そしてフェイトはあることを思いつき、シンにある指示を出す。
「ねえシン……目を閉じて。」
「え? わかった……。」
シンは指示に従い両目を閉じてじっとしていた。



すると彼の頬に一瞬、何かしっとりしたものが触れた。



「あら。」
「まあ。」
「うふふふ……。」
「んな!? なんつう羨ましい奴……母さん足踏まないで。」
「ふぇふぇふぇフェイト!?」
「おー! フェイトおねえちゃんほほチューした!!!!!」
「ぬっふっふ……なかなかやりますねフェイトさん……!」


「フェイト……!?」
突然の出来事に困惑するシン、一方のフェイトは顔を真っ赤にして震えていた。
「ししししシンにはたくさん助けてもらったしなんかお礼したいなーって思ったけどこれぐらいしか思いつかなくててて!」
[マスター落ち着いて!]
バルディッシュの突っ込みを受けたフェイトは、そのまま恥ずかしそうに猛ダッシュでシンの元を去っていった。
「そそそそれじゃシン! また会おうねー!」
「まっとくれよフェイト~!」
「それじゃ私たちも帰ります。」
「体にお気をつけて、では……。」
そう言ってヴィア達もアスカ一家に一礼した後、その場を去っていった。

「ど、どうしたんだろうフェイト……。」
今だ困惑しているシン、それを彼の両親はにやにやと見つめていた。
「お父さん、これはもしかしてもしかするとですよ……!」
「ああ、こんなにも早く嫁候補が現れるとは……やさしそうな子だしこりゃ将来が楽しみだ、グッフッフ……!」

するとマユはぼーっとしているシンの服の袖を引っ張った。
「おにいちゃんもまほうつかいになるのー? じゃあマユもまほうつかいになるー。」
「あ、ああそうだな……デスティニーもいることだし、マユにも本格的に教えてあげるか。」
「これからもよろしくお願いします、マユさん。」

そしてデスティニーという新しい家族を迎えたアスカ一家はそのまま家の中に入っていった……。





エピローグ「私は笑顔でいます、元気です。」





海鳴市にあるなのはの実家で喫茶店でもある“翠屋”、そこになのはは友達と共に学校から帰ってきた。
「ただいまーお母さん!」
「おかえりなのは、フェイトちゃんからお手紙来ているわよー。」
「フェイトちゃんから!? わかったー!」
「フェイトって確かなのはの外国の友達よね?」
「私も見たいなー。」
「うん! いいよー!」
そう言ってなのははフェイトからもらった黒いリボンを揺らしながら、母親である桃子から小包を受取った。



ミッドチルダのとある医療施設、そこでクロノとエイミィは集中治療室で眠っているアリシアを観察しながら今後の事について話し合っていた。
「経過の方は……特に問題ないようだな。」
「うん、でも予断は許さない状態みたい。」
「ああ、いつかあの細胞を作ったカッシュ博士とやらに会って意見を聞きたいと言っていたがな……彼のいる世界には色々と問題があるらしい、中々許可が下りないそうだ。」
「問題?」
「FCの世界は現在、戦争が起こる可能性があるらしい……そんな危険な世界に上層部は関わりたくないようだ、まあその内許可を取り付けてみせるさ、あの子の為にもね……。」
「ふふふ……もしかしたらクロノ君、あの子のお兄ちゃんになるかもしれないもんね。」



アースラにあるフェイトの自室、そこでフェイトはアルフと共にビデオレターの撮影を行っていた。
「じゃあフェイト、スイッチ押すよー。」
「うん……。」
フェイトはアルフがスイッチを押したのを確認すると、緊張した様子で喋り始めた。
「えっと……久しぶりだねシン、そっちはうみゃ……うにゃ……。」
「はい駄目ー、カミカミじゃないかー。」
そう言ってアルフはビデオの録画ボタンを切る。
「うーん、なのはの時は緊張しないのになー……ちょっと休憩してからにしよっか。」
「わかったよー。」

ふと、フェイトは机の上に飾られている写真立てを見る、そこにはプレシアと幼い日のアリシアが映っている写真が入っていた。
「あ、そうだ……。」
フェイトはある事を思い出し、先日買っておいた新品の写真立てにとある写真を入れ、プレシア達の写真立ての隣に置く。
その新しい写真立ての中には、先日オーブに行った時に撮ったシンとフェイトが一緒に映った写真が入っていた。
(シン……私これからも頑張るよ、どれだけ離れていても……アナタと一緒だから。)





オーブのとある公園、そこにシンはデスティニーとマユと一緒に来ていた。(マユに魔法を見せてとせがまれたので)
「それじゃ今からセットアップするからな、よーっく見てろよマユー!」
「がんばれー!おにいちゃーん!」
「周りに人の気配はありません、いつでもどうぞ。」

そしてシンは背中に大きな翼を生やして、大空へと飛び立った。
「シン・アスカ! デスティニー行きます!」





それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が、世界を平和へ導く英雄として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。


それは……本来少年が辿る筈だった悲しい運命が、一人の少女との出会いにより大きく変わって行く物語。


やがて少年は少女に守りたいものを守る黄金の剣を貰い、数多の世界を守る“ストライカー”へと成長していく……。




















海鳴市のとある海沿いの遊歩道……そこで車いすの少女が少し年上の少年と共に散歩をしていた。
「もう六月なんやな、どうりで最近暖かくなってきた筈や。」
「そうだな……。」
「花火大会今年はできるんやろうか……去年は雨で何回も順延しとったから……。」
「その前に誕生日だろう? プレゼントは何がいいんだ?」
「えー? そんな気を使わなくてええよー。」
「そうか……。」
その時、先程まで晴れ模様だった空が急に曇り空に変わっていった。
「ん? これはひと雨来るな……はやて、そろそろ家に帰ろう。」
「うん、それじゃ帰ろか……スウェン。」





Next Stage “Lyrical GENERATION STARGAZER”















これにて無印編エピローグ&A’s編の予告的な物を投下させていただきました。
これで書き溜めは全部出したのでまたしばらくROMっています。


それでは一区切りついたことですし、今作の主人公格であるシンについて語ってみましょうか。
放送終了から5年、彼の事はいろんなところで話題になっています、シンは脚本の被害者だとも、別に擁護する価値もないクズだとも、アイツのせいでベルリンがあんな事になったとも言われており様々な見方をされています。
自分は“超重神グラヴィオン”がきっかけで鈴村さんのファンになっていたので、放送当時は本当にワクワクしながら毎週録画しつつリアルタイムで見ていました。それ故に後半の展開はぽかーんでしたよ……。

シンはなんというか……キラにも言える事ですがいい大人に恵まれてなかったなーって思います、ブライトやバニングやシュバルツやジャミルみたいに悪い事をした子供を叱れる大人があの世界にはいなさすぎなんですよね。アスランは未熟すぎ。ハイネが生きていればあるいは……。
誰かを守りたいという気持ちはきっと他のガンダム作品の主人公達に負けていないと思うんですが……。

でも現実でもシンやフェイトやプレシアみたいに理不尽な理由で不幸な目に逢っている人が沢山いますよね、外国ではテロで傷つく人が日に日に増えていますし、日本でもこの前ストーカーに殺された人の母親のことがニュースで放送されていましたし……。
そういう意味ではSEEDや無印なのははどの作品よりも理不尽でリアルと言えるのでしょうか? その二作品を視聴した後は良くその事を考えてしまいます。

僕はこれからも色んな作品を作って行くつもりです、そしてこういった悲しい思いをする人を少しでも減らせるような作品が書ける努力をしたいと思っています。



これからもこの物語の中のシンには様々な困難が待ち受けています、でもきっとフェイトや仲間達と手を繋いで乗り越えていくでしょう。彼はもうひとりぼっちになることも、道を間違えて進む事もないんですから……。



[22867] TIPS:とある局員のプライベートメール
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/11/21 23:45

TIPS:とある局員のプライベートメール




65/06/08

ゼスト、この前の庭園事件の援護任務御苦労さん、まさか任務中にあんな事件に遭遇するとは夢にも思わなかったよな。
でもお前達のおかげであの会社が行っていた悪行……どうやら明らかにすることができそうだ。

やはりアイツ等、開発した魔力動力炉をコズミックイラの反コーディネイター組織に法外の値で売り飛ばしていたらしい。
あの世界への干渉は禁止されているし、次元世界の秩序を守る管理局に喧嘩売る行為だからな……近々業務停止命令が下るだろう、プレシア・テスタロッサの事もあるし自業自得って奴だ。

それにしてもCEの組織……詳細は解らないがあの世界では“死の商人”と呼ばれているぐらいだ、そんな奴らが次元を移動できる力を手に入れたらどうなるか見当もつかん、何人か局員を送りこんで随時監視させる必要があるな。

全く最近は忙しいよなぁ、ある世界で深刻な次元湾曲が確認されたって言うし……シン・アスカのジュエルシードが第101管理外世界“コズミックイラ”に飛んでいったのもそれが原因かもしれないな。


そんじゃ、今度暇な時に酒でも飲みにいこうや、最近娘が2人もできてクイントも忙しくてご無沙汰だったからな……たまには愚痴でも聞いてくれ。







65/08/03


最近PT事件なんて大きな事件があったが、その事件を調べていくうちに面白い事実が判ったんだ。
例のプレシア・テスタロッサが使っていたアルティメット細胞の作られた第98管理外世界“フューチャーセンチュリー”……そこで“ガンダム”の存在が確認されたそうだ。

そう……二年前、ロストロギアと違って魔力を使わない“サテライトシステム”が原因で100億人近い人間が死んじまった第100管理外世界“アフターウォー”の世界で用いられた機動兵器と名前が同じだ。
さらによくよく調べてみると、その二つの世界のガンダムはデザインにも共通するものが多い、FCとAWは直接的な繋がりはない筈なのに……これは偶然と呼ぶには出来すぎていると思わないか?

まあAWは兵器として用いられたのに対し、FCじゃ“ガンダムファイト”っつうコロニーの覇者を決めるとんでもない大会で使われているだけだがな。噂じゃFCの世界では魔法を用いずにSSクラスの魔導師と互角に渡り合う武術の達人がいるって噂もあるがさすがにそれはないだろ、普通の人間が魔導師と戦うなんて常識外れもいいところだ。

ともかく“ガンダム”はロストロギアとはまた別の、人類の未来を脅かす存在なのかもしれない、他にも使っている世界がないか、はたまた”ガンダム”が生まれるかもしれない世界がないか、少し調べてみる必要がある……AWの世界みたいになるのは御免だからな。



[22867] りりじぇね! その1「壊れあうから動けないリターンズ」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:0a679fa6
Date: 2010/12/17 23:35
 Lyrical GENERATION外伝 りりじぇね!


“りりじぇね!”とは、本編の合間に投下されるほのぼの番外編のことである!
本編と話が繋がっていたり、まったく繋がっていなかったりする。
人気でれば独立させます。では記念すべきその1どうぞ。










りりじぇね! その1「壊れあうから動けないリターンズ」


それはシンがフェイト達のジュエルシード集めに協力していた頃のお話です。

その日、シンとフェイトとアルフはジュエルシードの反応がしたとある海上へやって来ていた。相手はイカに憑依したジュエルシードである。
「フェイト! そっちにいったよ!」
「うん!」
海中の中を潜航してシン達を襲おうとする巨大イカ、すると突然、海の中から黒い墨のような物が吐き出され、フェイトの視界を奪ってしまった。
「きゃあ! ま、前が……!」
「フェイト!」
そして墨が吐き出された場所から今度は白い触手が現われ、フェイトの右足に絡みつき彼女を海中に引き摺りこんでしまった。
「しまった!」
「主、ビーム兵器は水中で威力が半減します。」
「なら直接行くしかないね!」
シンとアルフは迷わず海の中に飛び込み、海中の巨大イカに対して攻撃を加える。
(フェイトを離せ!)
まずアルフが巨大イカにバインドを掛け、
(このイカヤロー!)
シンが眉間にアロンダイトを突き刺す。
「ゲソオオオオオオオオオ!!」
すると巨大イカはみるみると縮んでいき、そこにはジュエルシードと小さなイカ、そして触手から開放されたフェイトが浮かんでいた。
(アルフはフェイトを頼む、俺がジュエルシードを封印しておくよ。)
(わかった!)
アルフは念話を受けてフェイトを抱えて海上に浮かんで行き、シンはそのままジュエルシードをデスティニーの中に封印した。
(よーっし、それじゃ早く上に戻ろう。)
(解りました……ところでコレどうします? 今晩のおかずにしますか?)
そう言ってデスティニーはジュエルシードに取り付かれていたイカをシンに手渡す。
(うーん……こいつもジュエルシードに操られていただけだし逃がしてあげよう、もう捕まるんじゃないぞー。)
そう言ってシンは手を放す、するとイカはすーっとシン達の元を離れて行った。
(それにしてもなんでジュエルシードはあのイカに取り付いたんだろう?)
(もしかしてあのイカ地上を侵略しようとしていたとか? そこでジュエルシードを見付けて自ら怪人に……。)
(はっはっは、そんな訳ないじゃなイカ。)
(主、このSSは削除しないかぎり何年も残るのです、時事ネタはどうかと思うでゲソ。)


何かに侵略された2人は息が続かなくなっている事に気付き海上に出る、するとそこにはアルフと彼女に抱えられたフェイトがいた。
「フェイト! 大丈夫だったか?」
「うん、びっくりしたけど怪我もないし……くしゅん!」
「あーあ、みんなびしょ濡れだ……今日はこれぐらいにしてアジトに戻ろうか。」
「さんせー。」

そんな訳でシン達は封印したジュエルシードを持ってアジトに帰って行った……。



異変は次の日の朝に起こった。
「シンシンシンシンー! 大変だよーーー!!!」
シンとデスティニーが眠る寝室に、突如アルフが掛け込んできたのだ。
「んにゅう……なんだよアルフ、もっと寝かせてよ……。」
「それどころじゃないんだよー! フェイトが! フェイトがー!」
「フェイト……? フェイトがどうしたの?」
「フェイトがすごい熱出して倒れちゃったんだよー!」
「えっ!?」


~数分後、フェイトの寝室~
「38.8分……完っ全に風邪ですね。」
デスティニーはフェイトの腋に挟んでおいた体温計の数値を読みあげてを見て憂鬱そうに溜め息をつく。
「どどどどどどどどうしようシン!! フェイトが死んじゃうよ!」
「お、落ち着きなよ……ホントどうしよう、取りあえず病院に……。」
「身元を証明できる物を持っていない私達が治療を受けられるでしょうか?」
「そ、そっか……なら俺達でなんとかするしかないなあ、取りあえず……風邪薬とか無いの?」
「そ、そういえばここには無い……! アタシ買いに行ってくる!」
アルフはそう言ってアジトを飛び出していった……。
「あ、あいつ大丈夫かな……狼の姿のままだったぞ。」
「街が大騒ぎになりますね……とりあえず私達はフェイトさんの看病をしましょう。」
そう言ってデスティニーはベッドで苦しそうにしているフェイトの上に毛布を掛ける。
「うーん、うーん……。」
「フェイト苦しそう……。」
「主は濡れタオルを持ってきてください、うんと冷たいので。」
「わ、わかったよ。」


それからさらに数分後、濡れタオルを額に乗せたフェイトは汗だくになりながらベッドの上で呻いていた。
「うーん……熱いよー。」
「ああ、今毛布よけてやるよ。」
「駄目です主、風邪をひいた時は汗を一杯かかせて悪い菌を外に出させるのです。」
「そ、そうなの?」
デスティニーに注意されて思わず萎縮するシン。
「こういう時は水を沢山飲ませて代謝を促進させるのです、ちょっとお茶作ってきますねー。」
そう言ってデスティニーはシンを残して台所へと向かった。
「うーん、風邪なんてひいた事無いし風邪ひいた人見た事もないからどうすればいいかわからないなー。」
シンは自分の不甲斐なさにすっかり落ち込んでしまう、するとその時、フェイトが何かつぶやき始めた……。
「し、シン……。」
「ん? どうしたのフェイト。」
「わ、私どうなっちゃうのかな……すごく苦しいよ、もしかして死んじゃうのかな……。」
「バカだなあ、そんな訳ないじゃん。」
フェイトは風邪をひいてすっかり弱気になってしまい、目にうっすら涙を浮かべて弱音を吐いていた。
「やだよ……私死にたくないよぉ……だって母さんに笑って貰ってないし、あの子とまだ仲直りしてないし、シンのジュエルシードもまだ取ってないのに……。」
「……。」
するとシンは何も言わず、フェイトの手をぎゅっと握った。
「シン……?」
「大丈夫、君は死なないよ、だからゆっくりお休み。」
「う、うん……。」
そしてフェイトは安心したのか、瞳を閉じてすうすうと寝息をたてて眠り始めた。
(いやー……なんつうか今のフェイト、すごく可愛かったな……不謹慎か。)
するとそこにお茶が入ったポットを抱えたデスティニーが戻ってきた。
「あら? フェイトさん寝ちゃったんですか。」
「うん、ついさっきね。」
「うふふふ……主ったらがっちり手なんて握っちゃって……もしかしてお邪魔でした?」
「……! なんでもねえ!」
シンは顔を真っ赤にして自分の手を背中に回す、そしてデスティニーはフェイトの様子を見てある事に気付く。
「お、随分と汗が出ていますね、そろそろ着換えさせたほうがいいでしょう。」
「着替え?」
するとデスティニーはフェイトに掛けられた毛布を剥がし、フェイトのパジャマのボタンを一つずつ外し始めた。
「主も手伝ってください、フェイトさんの服を取り換えて体を拭かなければ……。」
「えええええええええ!!!!!? 俺が!!!?」
突然の指示にシンは面喰ってしまう。
「何をしているのです、このままではフェイトさんの風邪が悪化してしまいます、ハリーハリーハリーハリー!!」
「で、でも女の子の服を脱がすなんて……。」
「今彼女を救えるのはアナタしかいないんですよっっ!!!!」
「は、はいいいい!!!」
デスティニーの迫力に押されたシンは、顔を真っ赤にしながらフェイトの体を起こした。
ちなみにデスティニーはシンに見えない所で「計画通り」という某マンガの主人公みたいな悪い笑みをこぼしていた。
「じゃ、じゃあ脱がすぞ……。」
シンは今にも鼻血を吹きそうになりながら、フェイトが着ていたパジャマを後ろから脱がす。するとフェイトの胸には白いスポーツブラが付けられていた。
「ああ、下着も着替えさせなければ……。」
「お、おう……。」
次に汗でびしょびしょになったスポーツブラを両腕をあげて脱がせる、その間にデスティニーは下の部分をさっさと脱がしていった。
「ぐっ……!」
初めて見る家族以外の女の子の一糸まとわぬ姿を見て、シンは思わずフェイトから視線を背ける。
「では主、体を拭くので体を支えていてください。」
「わわわ……解った。」
そしてデスティニーは30cmしかない小さな体を目一杯使ってフェイトの体の前部分をくまなく拭いていった。
「まあまあ、ゆで卵みたいにプルプルした肌をお持ちで……あら、こんなところにホクロが。」
「いいいいいから早くしろよ!」

それから数分後、体を拭き終えて新しいパジャマに着替えさせたフェイトを再びベッドに寝かせたシンは、部屋の隅で額にヤカンを乗せれば中の水が湧き上がるぐらい赤くなっていた。
「やばい……さっきの思い出したら顔が熱くなってきた、風邪うつったのか?」
「いやー堪能しました、それでは主、次はおかゆを作りましょうか。」

さらに数十分後、シンとデスティニーは台所で作った卵粥を持ってフェイトの寝室に戻ってきた。
「あ……二人ともおはよう。」
「フェイト、もう起きても大丈夫なのか?」
「うん、ちょっと楽になったよ……。」
そう言ってフェイトは節々に痛みを感じながらも自分の体を起こした。
「あんまり無茶をしちゃダメですよ、病み上がりが一番危ないんですから……。」
そう言ってデスティニーはシンにスプーンを手渡す。
「それじゃ主、フェイトさんに卵粥を食べさせてあげてください。」
「わかったよ。」
シンは卵粥をスプーンで一口分掬い、フェイトに差し出した。
「フェイト、あーんしろあーん。」
「あーん。」
それに対してフェイトは素直に口を開き、スプーンの上のお粥を美味しそうに食べた。
「どう? 美味しい?」
「うん、おいしいよ。」
「おー、よかったなデスティニー、美味しいってさ。」
「え? これデスティニーが作ったの?」
「ええ、私は味加減のほうを……コンロの火とかは主にやってもらいましたが。」
「そっか、ありがとう二人とも……。」
そう言ってフェイトはデスティニーの頭をやさしく撫でた。
「ささ、まだ一杯あるからな、一杯食べて早くよくなれよ。」
「うん。」


それから一時間後、卵粥を食べ終えたフェイトは再びすうすうと寝息を立てて眠ってしまった。
「いやー、また眠っちゃったね。」
「たくさん食べましたからね……これならすぐに良くなるでしょう。」
「でもなんで急に熱だしちゃったんだろうな、俺たちは平気なのに……。」
「おそらく昨日水をかぶったのと……今までの頑張りで蓄積した疲れがドッと出てしまったのでしょう、いくらフェイトさんに魔力があるからといってその他は普通の9歳の女の子と変わりませんから。」
「そっか……。」
シンは複雑な思いを抱きながら、寝息を立てて眠るフェイトの頬を撫でてあげた。
「俺たちがもっと支えてあげないとな……。」
「……ですね。」

その時、玄関から来客を告げるインターホンの音が鳴り響いてきた。
「あれ? 誰か来ましたね。」
「俺見てくるよ。」

そしてシンは玄関に赴き扉を開く。
「あ、あなたは……。」
するとそこには意外な人物が立っていた。


フェイトは朦朧とする意識の中、自分の額に誰かが手を乗せていることに気付いた。
(誰だろう? 温かい手……もしかして母さん?)
フェイトはゆっくりと自分の額に手を乗せている人物を見る、その人物とは……。
「ヴィア……さん?」
「あら、ごめんね……起こしちゃったみたいね。」
そう言ってヴィアは水で濡れたタオルを絞ってフェイトの額に乗せる。
「ヴィアさん、どうしてここに……。」
「風邪薬探し回っていたアルフから連絡があったのよ、“フェイトが熱出したんだけどどんな薬を買えばいいのかー”って。」
「それでわざわざここに……。」
「別にいいのよ、研究の合間の息抜きになるし……アナタはゆっくりと休んでいなさい。」
「…………。」
フェイトはふと、ある人物の姿を探す為部屋を見回す、しかし部屋にはフェイト自身とヴィアしかいなかった。
「ごめんねフェイトちゃん、プレシアはここには来ていないわ。」
「……そうですか。」
その言葉を聞いたフェイトは少し落胆したかのように毛布の中に顔を埋めた。
「ごめんね、私も誘ったんだけど断られて……でもその代わり……。」

「ヴィアさーん! リンゴすりおろしてきたよー。」
するとそこにすりおろしりんごが盛り付けられたお椀を持ったシンとデスティニーと、大量の風邪薬を抱えたアルフが部屋に入って来た。
「ほらフェイト! これだけ飲めばすぐによくなるよ!」
「アルフさん、風邪薬は大量に飲めばいいというものでは……。」
「ヴィアさんの分も切っておいたよ、皆で食べよう。」
「ありがとう、それじゃフェイトちゃん……。」
そう言ってヴィアはすりおろしたリンゴを乗せたスプーンをフェイトの前に差し出す。
「そ、それじゃ……。」
フェイトはそれをパクリと口の中に入れる、そして……ある事に気付いた。
「あ……このリンゴ、もしかして……。」
「そうよ、アナタの生まれ故郷の森で取れたリンゴをプレシアが持ってきた物よ、彼女は“腐るといけないからあの子にでもあげなさい”なんて言っていたけど……何だかんだ言ってアナタの事が心配なのよ。」
(あの女が~?)
アルフはヴィアの“プレシアがフェイトを心配している”というのがいまいち信用出来ずに首を傾げる。
「えへへ……母さんが……。」
だがフェイトのとても嬉しそうな顔を見て声に出す事はなかった。
(まいっか、フェイト嬉しそうだし……。)
「ほわー! このリンゴおいしいね! フェイトとアルフって毎日こんなおいしいリンゴ食べていたんだ!」
一方自分で切ったリンゴをデスティニーと一緒に食べていたシンは、あまりのおいしさに笑みをこぼしていた。
「沢山貰ってきたからね、冷蔵庫に入れて大事に食べなさい。」
「はーい。」
「…………。」
フェイトはそんなヴィアを見て、思わずこんな言葉を洩らした。

「ヴィアさんって……なんだか優しかった頃の母さんみたい。」


その数日後、フェイトの体はすっかりよくなり、無事ジュエルシード探索を再開できたそうな……。





おまけ、数日後の時の庭園にて……。
「げほげほげほ!!!」
ヴィアはマスクをして鼻水をすすりながらカプセルの前でキーボードを叩いていた。
そんな彼女の様子を見ていたプレシアは、呆れたように溜め息をついた。
「……あの子にうつされたのね。」
「あははは、面目な……くしゅん!!!(ポチッ) あ、変なトコ押しちゃった。」
「ちょ、ちょっと!? 装置から煙出ているけどアナタ何のボタン押しt

チュド―――――――――――――ン!!!!

その瞬間時の庭園に大きな爆発音が鳴り響き、ヴィアとプレシアは数日の間チリチリヘアーで過ごしたという……。










はい、爆発オチですいませんね。次回は今結果待ちの企業の連絡が来たらまたその内……。



[22867] りりじぇね! その2「アリサのメル友」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:f02fd322
Date: 2010/12/31 15:53
りりじぇね! その2「アリサのメル友」


7月のある日、なのはは友人であるアリサとすずかと共に昼休みの学校の屋上で談笑していた。
「そういえばなのは、この前フェイトからビデオレター来たんだよね?」
「今度見せてー、ついでにフェイトちゃんへお返事送ろうね。」
「うん! フェイトちゃんもきっと喜ぶよー。」
その時、なのはがいつも所有している携帯電話から着信音が鳴り響く。
「あれ? 誰からだろ……おお? シン君からだー。」
「シンって……確かフェイトちゃんの彼氏さんよね?」
「フェイトちゃんは顔真っ赤にして否定してるけどねー、どれどれ……。」
なのははメールに添付されていた写真を見る、そこには小鉢に植えられた一輪の花を手に持ったシンとマユが映し出されていた。
「おおー、これがシン君の妹さんかー。」
「カワイイ子だね、幼稚園ぐらいの子かな?」
「それにしてもこのシンって奴なんかバカっぽいわね、騙されやすそうな顔してるわ。」
「あ、アリサちゃん厳しいね……。」
アリサのストレートすぎる感想になのはは乾いた笑いがこみ上げてくる。その時すずかは何かを思い出したかのように手をぽんと叩いた。
「そうだ! 確かアリサちゃんも新しいメル友が出来たっ言ってたよね? ちょっとメールしてみたら?」
「え? そうなの? どんな人?」
「あそっか、確かあの頃なのはってリンディさんて人のところにいたから知らなかったのね、あれは確か……。」





それは約2ヵ月前、ちょうどなのはがフェイトやシンとジュエルシードの争奪戦に集中する為アースラに滞在していた時の事、アリサは両親の仕事の都合である実業家が開いたパーティーに出席するためスペインのあるホテルにやってきていた。

華やかな衣装を身にまとい、豪華な食事に舌鼓をうつパーティーの出席者、そんな中アリサは一人物陰で日本にいる友人達にメールを送っていた。
「“こっちは退屈でたまらないわ、早く日本に帰って遊びたいわ”……っと。」
メールを打ち終えて携帯電話をパタンと閉じ、そのまま辺りを見回したアリサは、深く溜め息をついた。
「はー……ホント退屈、なんでパパ私をこんな所に連れてきたのかしら? なんかテレビで見たことあるような人もいるし……。」

その時ふと、アリサの視界に自分と同い年ぐらいの金髪の女の子がキョロキョロと辺りを見回しながら何かを探している様子が映し出された。
(どうしたんだろうあの子……?)
気になったアリサは意を決して彼女に話しかけてみた。
「どうかしたの? 何か探しているの?」
「あ、あの……私のお人形が……。」
「お人形?」
女の子の言葉を受けて辺りを見回すアリサ、すると彼女はテーブルの下にドレスを着た女の子の人形が落ちているのを発見する。
「もしかして……これ?」
アリサはその人形を拾い上げて女の子に渡す。すると女の子は先程の沈んだ表情とは打って変わって花が咲いたかのようにぱあっと笑った。
「そうこれよこれ! ありがとう! 貴女って優しいのね!」
「それほどでもないわよ、私はアリサ・バニングス、あなたは?」
「私はルイス・ハレヴィ! よろしくね!」

数分後、すっかり仲良くなったアリサとルイスと名乗った女の子は親睦を深めるため互いの事を語り合っていた。
「へえ! じゃあアリサって日本で暮らしているんだ! 日本ってどんなところ!? 確かユニオン領だよね!」
「そーね……他の国と比べると治安が良くて食べ物が美味しいのがいいかな?」
「いいなー! 私も日本で暮らしたーい! いいよね日本! 将来私日本に留学したいなー!」
(なんだか押しが強いというか典型的なわがままお嬢様って感じね……。)
アリサはルイスに対してそんな印象を持っていた。
「あのね!私今日パパとママに頼んでパーティーに来たの! だって今日のパーティーはあの人が来るんだよ!」
「あの人?」

その時、辺りのパーティー出席者がざわめいた後、ある一点に視線を向けていた。
「? もうあの人が来たのかな……?」
「あれって確か……。」
皆の視線の先にはたくさんの黒服ガードマンに囲まれたアリサ達と同い年に見えるチャイナ服風のドレスにお団子ヘアーの少女が歩いてきた。
(あの子……確か革新連盟の有力者である王家の次期当主と目されている王家の長女の留美様よ。)
(あの若さでなんて貫禄だ、利発そうなお方だ。)
(確か王家には男児も居た筈だが? あの子が当主になるのか?)
出席者達はその少女を見ながらひそひそと内緒話を始める。
「アリサー、あの子って有名人なんだねー。」
「うん、私もパパからよく話を聞いて……あれ?」
その時、アリサの姿を確認した留美が彼女の元にスタスタと歩み寄ってきた。
「これはこれは……アリサ・バニングスさんではないですか、ごきげんよう。」
「え? 私の事知ってるの?」
「はい、貴女の父と私の父が知り合いでして……よくあなたのことも聞かされていますの、それでそちらの方は?」
「私? 私はルイス・ハレヴィです!」
「ルイスさんですか……よろしくお願いします。」
(この子ってなんか固ッ苦しい感じね……相当無理しているのかしら?)
アリサは留美とのやり取りで彼女に対して固い印象を受けていた。そして留美との挨拶もそこそこに、ルイスは時計を見て何やらソワソワしていた。
「それにしてもまだかなー、ママは今日のパーティーにあの人が歌いに来るって言っていたのに……。」
「あら? ルイスさんももしかしてそれがお目当てで? なかなか御目が高い。」
「あの人?さっきから何の話?」
アリサは二人が何を言っているか解らずに首を傾げる?」
「えー? まさかアリサ知らないの!? 今日のパーティーはあの世界的に有名な歌手! フィアッセ・クリステラさんが来るんだよ!」
「あのお方は平和のために数々の戦地に赴いてはその美声を披露しているのです、ああ、一度でいいからお話を……いえ、せめてサインだけでも頂きたい……!」
そういってルイスと留美はいつの間にか取り出していた色紙とペンを持って瞳を炎で燃やしていた。
「フィアッセさん? そっか二人ともあの人のファンなんだ。」

その時、タキシードを着た男がマイクを持ってパーティー会場のステージ上に立ってアナウンスを始めた。
『皆さんお待たせいたしました、只今よりフィアッセ・クリステラ様による歌の披露が御座います、どうぞ御静聴のほうをよろしくお願いします。』
そういってタキシードの男は舞台袖に移動し、代わりに白いドレスを身にまとった二本の触覚のような前髪が印象的な美しい女性が、予め立てられておいたマイクスタンドの前に立った。
「来るよ来るよ……! フィアッセさんの歌が!」
「しっ! 静かに!」
(そっか……そういうこと。)

そしてフィアッセは美しく透き通るような歌声でパーティー会場にいる人々を魅了していった。
(すごい……! かっこいい……!)
(フィアッセ様の生歌……! ああもう死んでもいいですわ……!)
(へー、まえより大分上達しているみたいねー。)


そして歌が終わると、フィアッセ・クリステラは頭をぺこりと下げて舞台袖のほうへ去って行った。
「あああ! 行っちゃう!」
「そんなー! またサインを貰いそびれてしまいましたわー!」
そういってタイミングを逃したルイスと留美は色紙を抱えて深く落ち込んだ。するとアリサはそんな二人の肩をぽんと叩いて慰めた。
「まあまあ二人とも、そんなに落ち込まなくても私が頼んであげるから……。」
「は?」
「貴女何言って……。」

その時会場の片隅でざわめきが起こる、その中心にいたには金髪ポニーテールのボディーガードを連れたフィアッセだった。
「アリサちゃーん、ひさしぶ……。」
その時、彼女の行く手を軍服を着た男が遮った。
「これはこれはフィアッセ・クリステラ様、どうです今夜はこの俺未来のAEUのエースパトリック・コーラサワーと過ごしませんか? いい酒出す店知っt


ドカッ!
バキッ!
ガコッ!
ゴキッ!
メコッ!


次の瞬間、フィアッセをナンパしようとした若き軍人風の男はボロ雑巾と化していた。
「エリス、やりすぎだよー。」
「は……。」
そういってポニーテールのボディーガードはボロ雑巾と化した男を担いでどこかに去って行った。それを確認したフィアッセは改めてアリサ達の下に駆け寄った。
「さてと……久しぶりねアリサちゃん!」
「ええ、フィアッセさんも相変わらず元気そうですね。」
「ちょ!? アリサ!?」
「も、もしかしてフィアッセ様とお知り合いですの!?」
憧れの人と親しく話すアリサを見て目を見開いて驚くルイスと留美。
「知り合いっていうか……友達だよー。」
「フィアッセさんわねー、昔日本に暮らしていてなのはのお店でアルバイトしていた事があるの、その時に知り合ってねー、私も最初はビックリしちゃった。」
「「えええええ!!?」」
アリサとフィアッセの意外な関係にまたも驚く二人。
「そういえば恭也や士郎さんや翠屋のみんなは元気?」
「ええ、士郎さんなんていっつも桃子さんといちゃいちゃしていますよー。」
「そーなんだー、相変わらずなんだねー……よかった。」
そしてアリサとフィアッセは呆気に取られているルイスと留美に昔の出来事を色々と話してあげた、フィアッセが小さい頃、ボディーガードであるなのはの父士郎がテロリストの爆弾から身を挺して彼女を守った事、日本に留学した際士郎の息子恭也に出会い恋に落ちるが、結局同じく彼に恋心を抱いていた忍に譲ってしまった事、今でも高町家とはメールのやり取りをしている事などを……。
「きっとパパもフィアッセさんが来るから私を連れてきたのね。」
「久々に会えて嬉しいよアリサちゃん、なのはちゃんとは仲良くやってる?」
「ええ、この前ちょっとケンカしちゃいましたけど……あの子なんか隠し事しているみたいなんですよねー。」
和気藹々と会話するアリサとフィアッセを見て、ルイスと留美はただただ呆然としていた。
「そうだ! フィアッセさん、この二人フィアッセさんのファンなんだけどよかったらサイン書いてくれません?」
「うん、いいよー、何に書けばいいのかな?」
「じゃじゃじゃ! これに書いてください!」
「わわわわわ私もお願いします!」
そういってルイスと留美は半ば興奮気味にフィアッセに色紙を渡す。
「はいはいっと……これでいいかな?」
フィアッセはキュキュキュと二枚の色紙にサインを書いてルイス達に渡す。そしてその光景を見守っていたアリサは彼女達にある提案をする。
「ねえねえ、ついでだからメールアドレス交換してくれません? 折角知り合ったんですし。」
「私は別に構わないよー。」
アリサの提案にフィアッセはあっさりと頷く、対してルイスと留美は……。
「え!? ホントにいいの!? やたー!」
「そそそそそそそんな恐れ多い! ででででも折角なので……!」
鼻息を荒くして自分達の携帯電話を差し出した。
「よしっと……これでいいかな?」
「それじゃ私はこれで……また連絡頂戴ねー。」
ルイスと留美とのアドレス交換を終えたフィアッセはそのまま次の仕事のためパーティー会場から去って行った。
「忙しいのねフィアッセさん……。」
「やたー♪ フィアッセさんとメル友になるなんて夢みたいー♪」
「アリサさんありがとうございます! まさかフィアッセさんとあそこまで親しくなれるなんて……夢みたいですわ! このご恩は一生忘れません!」
「あはは、大げさよー。」
そしてアリサは今度は自分の携帯電話をルイスと留美に差し出した。
「ねえ、今度は私とメルアド交換しない? 私もあなた達ともっと仲良くなりたいんだー。」
「いいよ! もっと日本の話聞きたいし!」
「私も構いませんわ。」
こうしてアリサもルイスと留美のメルアドを交換してもらい、三人は国境を越えた友人同士となったのだった……。





「へえ、じゃあそのメル友さんも凄いお金持ちなんだー。」
アリサからルイスと留美の話を聞いたなのはとすずかは彼女の交友関係の特殊さに驚いていた。
「そーだ、折角だし二人もルイスと留美に紹介しよっと、ちょっと写真撮るからそこに並びなさい。」
「うん! いいよー。」
「折角だし私達にもルイスちゃんたちのアドレス教えてね。」





それから数分後、スペインのとある豪邸、そこでルイスは自分の部屋ですうすうと寝息をたてて眠っていた。
「んにゅう……?」
そして彼女は自分の携帯電話が振動する音で目を覚ました。
「誰……?まだ朝の六時じゃない……あ!アリサからのメールだ!」


一方その頃、中国大陸にあるとある豪邸、そこで留美はテラスで午後のお茶を楽しんでいた。
「はぁ……フィアッセ様やアリサは元気にしてるのかしら……。」
その時、留美の手元に置いてあった携帯電話が振動し、彼女はそれを手に取る。
「まあ! うわさをすればアリサからだわ! どれどれ……。」



アリサが二人に送ったメールには、なのはとすずかが写った写真が添付されていた。
そしてメールには“いつか再会して皆一緒に遊びましょうね。”というアリサのメッセージも添えられていた……。










本日はここまで、第97管理外世界を“そういった設定”にするかどうかはこの作品の投下を始める前から考えてはいたのですが、それを本当に実行していいのかどうか判断できず今まで複線が張れないでいました、まあ結局当初の予定通りに行こうと決めましたが。

というわけで第97管理外世界は現在西暦2300年、ルイスや留美はなのは達の一個上になります、彼女達は後々重要な役割を担いさせますのでお楽しみに

年が明けたらもう一本短編を投下する予定です。では皆様よいお年を



[22867] りりじぇね! その3「ちょこっと!Vivid!  ~ヴィヴィオの家出~」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:f02fd322
Date: 2011/01/03 22:26
 りりじぇね! その3「ちょこっと!Vivid!  ~ヴィヴィオの家出~」


※この短編は現在展開中の本編から14年経った後のお話です、今後の話の展開のネタバレもちょこっと含まれているので注意してください。















新暦79年、なんやかんやあってシンとフェイトは様々な困難を乗り越えて結ばれ、子供も生まれて海鳴の翠屋の隣に花屋を開業して幸せに暮らしていた。
「ただいまー。」
「お帰りー、今日も沢山仕入れてきたねー。」
「うん、店に並べるから手伝ってくれよ。」
そう言ってバンダナにエプロン姿のシンはトラックから先程仕入れてきた沢山の花を自分と同じような格好のフェイトと共に店に並べていった。
「いやー、今日もいい天気だよなー、ホント海鳴は平和だー。」
「そうだね、何年か前までは外国で大変な事になっていたけど……。」
「まあな……。」
そう言ってシンは手に持ったアロエの花を見つめながら何やら考え事を始める、すると彼の様子を察したフェイトが後ろから抱き締めてきた。
「シン……やっぱりみんなと戦いたいの?」
「うん、少しね……でもそういうわけにもいかないだろう、それじゃ何のために皆が俺達を戦いから遠ざけてくれたのか解らないから。」
そしてシンはフェイトの方を向き、彼女を正面から強く抱き締めた。
「世界を守るのは皆に任せるよ、俺は……フェイトとあの子達を守る。」
「シン……。」
シンとフェイトは互いに抱き合いながら見つめあう、そしてゆっくりと互いの唇を近づけ……。
「おかーさん、ただいまー。」
「まーたアンタ達イチャイチャしてたのかい?」
「うおおおおおおおお!!!?」
「ひにゃああああああ!!!?」
するとそこに金髪に赤い目をした三歳ぐらいの少年と、アルフ(ようじょフォーム)が公園から帰ってきた。
「あ、二人ともおかえりー! いやー花の手入れは大変ダー。」
「私お昼ご飯つくるねー!」
シンとフェイトは必死にごまかそうと先程まで作業をしていたフリをする。
「はっはっは、毎度毎度飽きないねアンタ達―。」
その時、金髪の少年はその場を凍りつかせる信じられない言葉を発する。
「おとーさんとおかーさんまたプロレスごっこしてたの? 今お昼なのに……。」
「「「ッッッ!?」」」


数分後、シンとフェイトは少年にお昼ご飯の食パンを食べさせながら深く落ち込んでいた。そんな二人をアルフは苦笑いしながら見つめている。
「まさか昨晩のアレを見られていたとは……消えたい……。」
「ううう、今度からラウが寝てないかもっとちゃんと確認しないとね……。」
「ラウ、二人がプロレスごっこしてた事は誰にも言いふらすんじゃないよ、自分の胸の中にしまっておくんだ。」
「うん、わかったー、ふたりがばーりとぅーどやっていたのだまってるー。」
そう言ってラウという名の少年は焼いてあるパンに自分でジャムを塗っていた。
「……ラウももう三歳なんだねー、月日が経つのって早いもんだ。」
「来年は幼稚園だもんね、今のうちにどこがいいか調べないと……。」
シンとフェイトは自分達の大切な一人息子であるラウの成長を喜びながら彼を優しく見守っていた。
「一杯食べて早く大きくなれよー。」
「でも食べ過ぎてお腹壊しちゃだめよ。」
「? どっち?」
「好き嫌いするなってことさ。」
その時、彼等の背後に置いてあったベビーベッドから赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
「ふええええええん!! ふええええええん!」
「あらあら、ホリィもお腹空いたんだね。」
「んじゃ俺哺乳瓶持ってくるよ。」
フェイトはベビーベッドからホリィという名前の黒髪の女の赤ん坊を抱き上げる。
「おーよしよし、もうちょっと待っててねー。」
「ほーれホリィー、ミルクだぞー。」
シンは台所から持ってきたミルクの入った哺乳瓶をフェイトに渡しホリィに飲ませる。するとホリィは哺乳瓶の先端にむしゃぶりつき、ピタリと泣き止んだ。
「んく、んく……。」
「おーおー、いい飲みっぷりだ。」
「ふふふ、元気一杯だね……。」
「三年前まではラウもあのベビーベッドを使っていたんだよ。」
「そーなの? 全然覚えてないよー。」
そういいながらラウは妹のホリィのほっぺをプニプニとつついた。

「ごめんくださーい、シン君いますー?」
するとそこに店先のほうからシンを呼ぶ声が響いてきた。
「あの声……美由希さんだな。」
「どうしたんだろ?」
シンとフェイトは不思議に思いながら売り場にやってくる、するとそこには翠屋のエプロンをつけたなのはの姉、美由希と……。
「あれ!? ヴィヴィオ!?」
「お前!? なんでここに!?」
「フェイトママ……シンパパ……。」
ミッドチルダでなのは達と共に暮らしている筈のヴィヴィオがリュックサックを背負って立っていた。
「いやー、それが大変な事になっちゃっててねー。」
「私……家出してきたの。」
「「家出~!!?」」


それから数分後、美由希とヴィヴィオを家の中に招き入れたシンとフェイトは彼女達から事情を聞いていた。
「そっか……じゃあヴィヴィオ、なのは達とケンカしちゃったんだ。」
「うん……。」
出されたお茶をずずずと啜りながらヴィヴィオは元気なく下を向いていた。
「学校のテストで悪い点取っちゃって……それを隠していたらママ達に見つかっちゃって……それで言い争いになってそのまま……。」
「それで次元航行船に乗って海鳴まで? いくらなんでも無茶苦茶だぞ。この世界の連邦政府がコズミックイラ政府と連合条約を結んだのはつい最近だっていうのに……。」
「だってティアナやスバルやエリオやキャロ達はお仕事で忙しいし、八神家の皆はお仕事でドモンさん達のところに行っているし、チンク達の所や聖王教会だとすぐに連れ戻されるだろうし……。」
「なるほど、それで私達のところに来たのね。」
話を一通り聞いたところで、シンとフェイトははぁっとため息をつく。
「一応母さんがなのはの所に連絡を入れておいたから、明日には向かえに来ると思うよ。」
「それじゃ今日はどこかに泊めてあげないと……しょうがない、今日はうちに泊まっていくか?」
「はい……お願いします……。」

こうしてヴィヴィオはなのは達が迎えに来る明日まで、シン達の家に泊まる事になった。





とある学校の校庭、そこに肩にオコジョを乗せた赤髪眼鏡っ子女子中学生が、人間の骨のような模様がプリントされた黒タイツの戦闘員に取り囲まれていた。
「くっくっく……追い詰めたぞ魔法ライダー! 今日でお前も年貢の納め時だ!」
「「「「「イー!!!」」」」」
「やっべえぞ姉御! コイツは罠だったんだ!」
オコジョはおろおろした様子で眼鏡っ子に言葉をかける、すると眼鏡っ子はにやりと口元を吊り上げて笑った。
「大体わかった……つまりいつもどおり変身してコイツ等をぶっ飛ばせばいいってわけね!」
「ああ! 大体いつもどおりだ!」
「おにょれ~! そうやすやすといつもどおりやられてたまるか! お前達! やれー!」
頭に一本角を生やした隊長格の男が部下達に指示を送る、対して眼鏡っ子は腰にベルトを巻きつけ、へその部分にあるバックルに“魔”とかかれたカードを装填する。
「魔法変身!」
[チェンジ ハリセンフォーム]
すると眼鏡っ子は光に包まれ、フリフリしつつも動きやすそうなマゼンタのドレスに身を包み、手には自分の身長よりも大きいハリセンが握られていた。
「魔法ライダーツカサ! さあ……お婆ちゃんの名に懸けてあなた達を倒します!」
そう言って眼鏡っ子はハリセンを振り回し、戦闘員達を次々と吹き飛ばしお星様にしていく。
「今日こそ決着をつけるわ! 諸悪の根源闇魔法評議会! おんどりゃああああ!!!!」





「……ラウ君、何見てるの?」
ヴィヴィオはテレビに映る夜七時に放送されているアニメをかじりつくように見ているラウに声をかける。
「おねーちゃん、このアニメ知らないの?」
「うん、ミッドではやってないよ。」
「これはねー、“魔法ライダーツカサ!”って言ってねー、普段は中学生の女の子が行方不明のおかーさんを探すため魔法ライダーに変身して数々の次元世界の征服をたくらむ悪の組織と戦うって話なんだよー、面白いよー。」
「そ、そうなんだ……。」
「でねでね、魔法ライダーは31種類のフォームに変身できるんだよー、さっきのハリセンフォームでしょ? くのいちフォームでしょ? ジャーナリストフォームでしょ? 漫画家フォームでしょ? 吸血鬼フォームでしょー!」
「す、すごいねー。」
目の前のヒーローを熱く語るラウの気迫にヴィヴィオは少々気圧されていた。
するとそこに閉店作業を終えたシンが二人の下にやって来た。
「こらラウ、おもちゃを散らかしちゃダメじゃないか、ちゃんと片付けるんだぞ。」
「はーい。」
そう言ってラウは先程テレビに映っていたヒーローのソフビ人形をおもちゃ箱に入れていく。
「よしよし、良く出来たぞ、いい子だ。」
「えへへー。」
言う事をちゃんと守りおもちゃを片付けたラウの頭をシンは優しく撫でてあげた。
「…………。」
ふと、シンはヴィヴィオが寂しそうな目でこちらを見ていることに気付き、彼女に話しかける。
「……? どうしたヴィヴィオ?」
「う、ううん、なんでもないよシンパパ。」
「たーうー。」
するとそこに今度はおしゃぶりを銜えたホリィがハイハイしながらヴィヴィオ達の下に近付いてきた。
「あああ! ダメだよホリィ! これからお風呂に入るんだから!」
すると今度は体にバスタオルを巻いただけの姿のフェイトが駆け寄ってきた。
「だー。」
「もう、逃げちゃダメだよ。」
そして息も切れ切れにホリィの首根っこを掴み上げて捕らえる、その様子をシンは苦笑いしながら見つめていた。
「はははは、ホリィも元気一杯だ、そうだ、ついでだからヴィヴィオも一緒に入ったらどうだ?」
「えっと……じゃあお言葉に甘えて……。」


それから数分後、ヴィヴィオはフェイトとアルフとホリィと共に浴室で湯船のお湯に浸かっていた。勿論裸で。
「ヴィヴィオと一緒に入るのって久しぶりだね、前よりちょっと大きくなったんじゃない?」
「そうかなー? 自分じゃ全然解らないけど……。」
「だぁー。」
「ほれほれ、こうやってネジを回すと……ほーら泳いだー。」
フェイトとヴィヴィオが世間話をしている間、ホリィはアルフと共に湯船の上に浮かぶアヒルのおもちゃと戯れていた。
「…………。」ブクブクブク……
「? どうしたのヴィヴィオ? 湯船に顔なんて沈めちゃって……。」
ふと、フェイトはヴィヴィオの様子がおかしい事に気付き、彼女に話しかける。
「……フェイトママ、私……なのはママに嫌われちゃったのかな?」
ヴィヴィオは胸の内に溜まったものを吐き出すかのように思い切ってフェイトに自分の悩みを打ち明けた、それは……ケンカをしたなのはのことだった。
「どうして? なのはがヴィヴィオの事キライになるはずないよ。」
「でも……私悪い点のテスト隠して、あまつさえケンカしちゃって、挙句には家出しちゃったんだよ? 嫌われちゃったに決まってるよ……。」
「……。」
「ちゃー。」
フェイトは何も言わず、ホリィはアルフに任せてヴィヴィオの話を聞いていた。
「ホントはね……私が全部悪いの、ママ私に『子供だからまだ早い』ってデバイスもくれないし、実は学校でも友達とケンカしてちょっとイライラしていて……それで怒られた時にカッとなって言い争いになった時つい言っちゃったの、『本当のママじゃないくせに偉そうなこと言わないで!』って、そしたらママ……泣き出しちゃって……。」
「あらら……。」
「それで……ママの泣き顔みたら私も悲しくなっちゃって……その場に居辛くなって家を飛び出しちゃったの……。」
一部始終を話し終えたヴィヴィオはいつの間にか嗚咽交じりに泣いていた。
「どうしよぉ、私ママに酷い事言っちゃったよぉ……もう私ママの子じゃ無くなっちゃったよぉ……。」
「……はぁ、しょうがないね。」
するとフェイトは泣きじゃくるヴィヴォオをそっと優しく抱き締めた。
「フェイトママ……?」
フェイトの豊満な胸(子共産んだ事により普段よりさらに増量)に顔を半分埋めたヴィヴィオは涙目でフェイトを見上げる。
「なのはがヴィヴィオのこと嫌いになるはずないよ、だってなのははヴィヴィオの事大好きなんだよ。」
「でも……私……。」
「それにね、ヴィヴィオは知らないかもしれないけど……昔ヴィヴィオがスカリエッティに攫われた時、なのは自分を責めて私の前で泣いちゃったことがあるんだ、それだけ……ヴィヴィオのこと大切に思っているんだよ。もちろん私も、シンも、それに他のみんなもヴィヴィオを助けるために必死に戦ったんだよ。」
「そうなのかな……?」
「絶対そうだよ、家族の絆は血が繋がっているかどうかだけじゃない、そんな簡単に壊れるものじゃないんだよ、私はそんな人達と沢山出会ってきたから解る。」
「うん……。」
「私も謝るの手伝ってあげるから、ね?」
そしてヴィヴィオはフェイトの背中に手を回しぎゅっと彼女を抱き締めた。
「ありがとう、フェイトママ……。」


その頃シンは携帯電話で電話をかけていた。相手はなのはの旦那さんである。
『それじゃヴィヴィオはそっちで元気にしているんだね?』
「ああ、今フェイトと風呂に入ってる、しっかしまあ大変だったなあ。」
『うん、僕はその時仕事で家にいなくて……帰ったらヴィヴィオがいないしなのはには泣き付かれるしもうてんやわんやだったよ。』
「まったく……しっかりしてくれよ、お父さん。」
『はは……君には敵わないなあ、でも懐かしいね、ケンカといえば僕等が機動六課にいた頃、君もフェイトもヴィヴィオの教育方針を巡って大喧嘩したよねー。』
「ううっ!? そんな昔の話蒸し返さないでくれよ……。」
『でもそれから十ヶ月ぐらいだっけ……ラウ君が生まれたの、いやーヴィヴィオはまさにコウノトリさんだよね。』
「すみませんマジ勘弁してください。」
『ふふふ、じゃあ明日、なのはと一緒に迎えに行くから。』
「ああ……桃子さん達と一緒に待っているよ。」


その日の夜、夕飯を終えて就寝時間を迎えたアスカ一家はヴィヴィオと共に川の字で寝ようとしていた、ちなみに左からフェイト、ホリィ、アルフ、ヴィヴィオ、ラウ、シンの順番である。
「ヴィヴィオと一緒に寝るの久しぶりだね。」
「だねー、機動六課にいたとき以来かなー。」
「たーうー。」
「ほらほら、ホリィももう寝ような。」
その時、ラウは隣いるヴィヴィオの目がちょっと腫れている事に気付いた。
「……? ヴィヴィオおねーちゃんどうしたの? 泣いたの?」
「う、うん……お風呂場でちょっと……。」
「そうなんだ……おーよしよし。」
そう言ってラウは自分がいつもシンやフェイトにされているようにヴィヴィオの頭を優しく撫でてあげた。
「もう泣くのはおよし、僕が守ってあげるからねー。」
「あ、ありがとうラウ君……。」
頭を撫でられたヴィヴィオの顔は心なしか赤くなっていた。
「さっそく六つ上の子とフラグ立てているねぇ、さすがシンの子だ。」
「おいおい人をプレイボーイみたいに言うな、俺は昔からフェイト一筋だ。」
「それに気付くまで随分と時間かけたよね……それまで私がどんな思いをしてどれだけの女の子を泣かせたと思ってるの?」ゴゴゴゴ
「お母さんなんかこわーい。」
「ふえーん!」

そんなこんなでアスカ一家+ヴィヴィオの夜は更けていった……。



次の日の朝、アスカ家の花屋の前に一台の車が止まり、その助手席からなのはが飛び出してきた。
「し、シン君いるー!? ごめんくださーい!」ドンドンドンドン
「落ち着け! 近所迷惑だろうが!」
シャッターをドンドン叩くなのはを店の方から出てきたシンが諌める。
「しししシン君! ヴィヴィオはどこ! ヴィヴィオは!?」ブンブンブン
なのははシンの姿を見るや否や彼の首根っこを掴み縦にブンブンと揺らした。
「あばばばば! お、落ち着けー!」
シンはいい具合に頭の中の脳みそがシェイクされて気を失いそうになるが、ぎりぎりのところで留まっていた。
「ヴィヴィオならこっちだよ、なのは。」
するとシンの後ろからホリィを抱いたフェイトがやってくる、そして彼女の背後には……ヴィヴィオが顔をのぞかせていた。
「ヴィ、ヴィヴィオ……。」
「ママ……。」
ヴィヴィオはモジモジしながらなのはの前に立つ、彼女の目には沢山の涙が溢れていた。
「ママ……ごめんなさい、酷い事言っちゃって……ヴィヴィオ、ママのこと大好きだよ!」
そしてそのままヴィヴィオはなのはに抱きついた、対してなのはもヴィヴィオをギュッと抱き締めてあげた。
「いいの、もういいのヴィヴィオ、私は怒ってないよ、ごめんね……私も言いすぎたよね……。」
「ママ! うわーん!」

そんな二人の様子をシンやフェイト、そして後から来たアルフやラウは暖かく見守っていた。
「ヴィヴィオおねーちゃん仲直りできたんだね!よかったー。」
「そうだね、よかったよかった……。」
すると車の中から今度はなのはの旦那さん、つまりヴィヴィオの父親が出てきてシンの元に近づいてくる。
「ありがとう……ごめんね、ヴィヴィオを預かってもらって。」
「別にいいんですよ、それよりアンタも二人の下に行ってあげたらどうです?」
「うん、そうさせてもらうよ。」
そしてなのはの旦那さんも、大泣きしている二人の下に向かっていきそのまま抱き締めてあげた。
「……あの2人も親らしくなったなぁ。」
「そうだね、なのは達ならこの先どんな困難でも乗り越えられるよ、勿論……私達もね。」
そう言ってフェイトはシンと額同士をコツンとくっつけて互いの絆の再確認の儀式のようなものを行った。

するとそこに翠屋のほうから士郎、桃子、美由希がエプロン姿で現れる。
「どうやらちゃんと仲直りできたみたいだね。」
「それじゃ仲直りの印に……みんなで焼きたてのケーキを食べましょうか。」
「シン君たちもどう? 沢山作ったんだよー。」
「それじゃお言葉に甘えて……。」
「わーいケーキだー! ヴィヴィオおねーちゃん早くいこー!」
「う……うん。」
そう言ってラウは涙を拭ってるヴィヴィオの手を取り翠屋に入っていった。
「それじゃ……俺達も行きますか、久しぶりに色々話を聞きたいし……。」
「そうだね、それじゃ行こうか。」
そして二人の親達もまた、思い出が沢山詰まっている翠屋に入っていくのだった……。










本日はここまで、正月帰省中に家族の顔を見て思いついて書いたネタです。原作Vivid第一話のちょっと前くらいの話になるでしょうか。
なのはの旦那さんは一応まだ秘密です、大体察知している人もいるでしょうが……。




[22867] Lyrical GENERATION STARGAZER プロローグ「霙空の星」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:db7e3223
Date: 2011/01/20 20:32
※Lyrical GENERATION 1st の続編です。基本的なルールは前作と変わりません。
それではプロローグからどうぞ。





プロローグ「霙空の星」


海鳴市で暮らす八神はやてはその日、図書館で何冊か本を借りた後に車いすに乗って帰宅しようとしていた。
「うーん……借り過ぎてしもうたかな、ちょっと重いなぁ……。」
膝に乗せている何冊もの本の重みに耐えながらはやては車いすを押す、そして彼女は海沿いにある遊歩道に通りかかっていた。
「もう五月なんやな……まだ海では泳げへんか。」
そう言ってなんとなくはやては海のほうを見る、そして……ある異変に気付いた。
「あれ……? なにしているんやあの人……?」
彼女の視線の先には、波打ち際でぐったりとしている黒いシャツに迷彩柄のズボン、そして銀髪を坊主刈りにした12、3歳ぐらい少年がいた。
「ま、まさか溺れて……!? こらアカン!」
はやてはすぐさま彼のもとへ自分が乗っている車いすを動かし、意識があるかの確認の為声をかける。
「(外人さんかな?)どないしたんやあんさん! 大丈夫かいな!?」
「…………。」
少年は返事を返さなかった、よく見ると彼の体にはいたるところに血痕が付着していた。
「うわわ!? 早く救急車よばへんと……!」
少年の命の危機を察知したはやてはすぐさま携帯電話で救急車を呼んだ……。




数分後、はやては救急車に乗せられた少年に付き添い、自分が通っている海鳴大学病院にやって来ていた、そして彼が眠る病室で知り合いの石田医師から彼の容体について聞いていた。
「石田先生……あの人どうなったんですか?」
「安心して、命に別条はないみたい……はやてちゃんが見つけてなかったら大変なことになっていたわね。」
「そうですか、よかった……。」
ほっと胸を撫で下ろすはやて、その時……ベッドに横たわっていた少年が目を覚ました。
「う……ううう……?」
「あ、目を覚ましたのね。」
「大丈夫ですか……?」
少年は目を覚ましてはやてと石田の姿を見ると、首を傾げて彼女たちに質問する。
「あんた達は一体……ここはどこだ……?」
「ここは海鳴大学病院、君……海辺で倒れていたんだって、はやてちゃんに感謝しなさいよ、彼女が救急車呼んでくれたんだから。」
「はやて……?」
少年は自分の傍らにいる車いすの少女を見つめる。
「海で倒れていた……? それは本当なのか?」
「え、ええ……そうですけど。」
「君、自分の名前はわかる? ご両親に連絡しないと……。」
すると少年は頭を抱えて必死に何かを思い出そうとする、そして……汗を垂らしながら石田に向かって答えた。
「俺の名前はスウェン・カル・バヤン……だと思う、家族はわからない……。」










それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が世界を平和へ導く戦士として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。


少女は願いました、今ここにある幸せが、いつまでも続いてほしいと。

騎士たちは願いました、自分たちに温もりをくれた少女が、いつまでもいつまでも幸せになってくれることを。

魔導書は願いました、いつか……自分も少女や騎士達と一緒に、幸せな時を過ごすことを。



少年は願いました……彼女達の切なる願いを叶える為の力を得ることを。



君たちに聞かせてあげよう……二番目の物語は、やがて黒き機械人形を駆る少年が、心優しい少女たちと出会い、幼い頃失ってしまった宝物を取り戻す物語。





“Lyrical GENERATION STARGAZER” 始まります。










本日はここまで、次回はヴォルケンズ登場までの話を描く予定です。
ストライクノワールはガンダムの中でもトップクラスに入るほどのカッコよさ、異論は認めない。
なんでエクストリームVSやガンダム無双3に出ないんだ……あと第二次Zも……。



[22867] 序章1「新しい生活」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:db7e3223
Date: 2011/01/23 19:47
序章1「新しい生活」


はやてがスウェンと出会った数日後、彼女は彼を自分の家に招き入れていた。
「ここが私の家や、二階に空き部屋があるから好きに使ってええよ」
「ああ、すまない……」
スウェン・カル・バヤンは自分の名前以外の記憶を失っていた、故郷のことも、家族のことも、自分自身のことも……。
一応石田医師が警察に彼の身元の割り出しを頼んでいるのだが成果は上げられず、スウェンの帰るところは見つかることはなかった。
「それなら私のうちに来ます? 記憶が戻るか家の人が見つかるまで居てもええですよ」
そんなスウェンの状態を見かねて、はやては彼を自分の家に招き入れたのだ。怪我が治っているうえに無一文なのにいつまでも病院に世話になる訳にもいかない、そう考えたスウェンは石田医師の勧めもあり彼女の申し出を受け入れた。

(こんな得体のしれない奴を簡単に受け入れるとはな)
そんなことを考えながら、スウェンは空き部屋にポツンと置かれていたベッドに寝転がった。
一体自分は何者なのか? なぜ海辺で倒れていたのか? そんな考えがスウェンの頭を駆け巡っていた。
「スウェンさーん、ちょっとええか?」
するとそこにメジャーを持ったはやてがスウェンのいる部屋に入ってきた。
「どうかしたか?」
「スウェンさん服それしか持ってへんやろ? これから着替え買いに行くからちょっと測らせてー」
「いや、そこまでしなくても……」
「ええんよ、それ一着じゃ今後いろいろと不便やろ? ほら腕をあげて」
「……」
スウェンは言われるがまま両腕を上げ、はやてに自分のスリーサイズを測らせる。
「うわっ、スウェンさんってがっちりしとるなー、なんかスポーツでもやってたんかいな?」
「さあ……思い出せん」
そしてはやては測り終えると、車いすに座りなおして部屋を出ようとする。
「それじゃ私、買い物に行って……あれ?」
ふと、はやては車いすの車輪を壁にひっかけてしまう。
「ちょ、ちょっと待ってえな……んしょ、おいしょ……」
「……」
脱出に悪戦苦闘するはやて、その姿をみたスウェンはすっと彼女の車椅子に手をかけた。
「スウェンさん?」
「スウェンでいい、買い物に行くんだったな、俺も一緒に行こう……自分の服は自分で選ぶ」
「ふふふ……それもそうやな」



数時間後、買い物を終えて帰宅したはやては、買ってきた食材で夕飯の支度を始める。
「それじゃスウェンは待っててえな、今支度するから……」
「ああ」
夕飯の準備ははやてに任せ、スウェンは居間に置いてあるテレビのスィッチを点ける、そしてテレビに映る画面をぼーっと見ながら、先日石田医師に言われたある言葉を思い出していた。

『はやてちゃんはね……幼いころ両親が亡くなって、今は父親の友人のグレアムさんって人からの援助を受けながら一人で暮らしているのよ』

(あの齢で一人暮らしか……)
自分より少し年下であるはやての普通じゃない身の上を知って、スウェンは半ば複雑な思いをしていた。

『だからこんなことあなたに頼むのもおかしいかもしれないけど……しばらく彼女と一緒にいてほしいのよ、ほんとはあの子も誰かに甘えたい年頃だろうし……』

(俺にそんな役が務まるのか? 自分のことすらわからないのに……)

『私の勘じゃあなたは悪い人じゃなさそうだしね、でもはやてちゃんに変な事したら……後はわかるな?』
(…………。)
その時の石田医師の周りには、なぜかゴゴゴゴゴという威圧感たっぷりの効果音が鳴っていた。

(まあ記憶が戻るまでの辛抱か……)

「スウェン、ごはんできたでー」
するとスウェンのもとに二人分の食事を乗せたトレイを持ったはやてがやってくる。
「ああ、ありがとうはやて」
「冷めないうちに食べよかー、スウェンに合うかなー?」



それからスウェンははやてと共に、心穏やかな生活を毎日満喫していた。二人の間には初めて出会ったときのタドタドしさは無くなり、何年も前から一緒にいる家族のような関係になっていた。


そして6月3日、二人が出会ってから10日程経った頃に事件は起こった。

その日、スウェンはケーキが美味しいと巷で噂の喫茶店に一人で向かっていた。
「ここか……喫茶店翠屋というのは」
一言つぶやいた後スウェンは店の扉を開く、するとカウンターにいた店のマスターとその妻らしき女性がスウェンに気付いた。
「いらっしゃいませー」
「すみません、バースデーケーキが欲しいんですけど……後ロウソクも」
「はいはいちょっとお待ちを……ロウソクは何本にします?」
「9本で……」
スウェンは以前、石田医師から6月3日がはやての誕生日だということを教わっており、世話になっている礼の意味も込めてバースデーケーキを買いにきたのだ。
そしてマスターがバースデーケーキを用意している間、その妻らしき女性がスウェンに声を掛けてきた。
「弟さんか妹さんのお誕生日ですか? 9歳ってことはうちの一番下の娘と同い年なんですよー」
「妹……確かにそんな感じですね」
それ以外にどう見えるんだろう? 恋人か? まあどうでもいいかとかスウェンが考えているうちに、可愛くラッピングされたバースデーケーキが彼に手渡された。
「はい、3150円になります」
「じゃあこれ……ありがとうございました」
スウェンはお金を払って一礼し、そのまま翠屋を出て八神家に帰っていった……。


「……あの子、ずいぶんと鋭い空気を纏っていたな、軍人か?」
「やだ貴方ったら、そんなわけないでしょう……それよりもうすぐなのはが帰ってくる時間だし、お昼ごはんの準備をしましょう」


その日の夕方、スウェンは先程翠屋で買ったケーキを冷蔵庫に入れる。
「スウェン、さっきのケーキはもしかして……」
「ああ、バースデーケーキだ、はやての誕生日は明日だろう?」
「ありがとう……明日は御馳走作ったるでー」
そう言ってはやては鼻息をふんと鳴らして夕飯の支度を始めた……。


数時間後、スウェンは自室のベッドで寝転がりながらはやてから借りたファンタジーものの本を読み耽っていた。
「ふむ……まあこれも面白くはあるが……それだけだな」
スウェンは本をポンと放り出すと、天井を仰ぎながら考え事を始めた。
(一体俺は何者なんだ? なんであんな所で倒れていたんだ? わからん……)
そうしてグルグルと頭の中で考え事をしていたスウェンは、ふと部屋に掛けている時計の針がもうすぐ夜中の12時を指そうとしている事に気付く。
「もうこんな時間か、もう寝るか……」


ドクンッ


「!?」
その時スウェンは自分の胸で何かが蠢くのを感じ、ベッドから起き上がった。
「なんだ今の感じは……!? はやて!」
イヤな予感がしたスウェンは考えるより早くはやての部屋に向かった。

「はやて! ……?」
そしてはやての部屋に駆け込んだスウェンが見たものは、ベッドの上で困惑しているはやてと、彼女に向かって跪いている黒い衣服を見に纏った妙な四人の男女の姿だった。
(なんだこいつら? 強盗か?)
その時、四人の男女のうちの一人……ピンク色の髪をポニーテールで纏めた女性がスウェンの存在に気付く。
「むっ……!? 貴様何者だ? 主の関係者か?」
「主……? お前らこそ何者だ? 強盗か何かか?」
スウェンはとっさに鉛筆をポケットに忍ばせながらいつでも戦えるよう構える、その姿を見て女性や後ろにいた金髪の女性と犬耳を付けた男性は心の中で感心していた。
(ほう、この少年中々できる……)
(油断しちゃ駄目よ、あの子隙を見て私達に攻撃を仕掛けるつもりよ……)

部屋に立ちこめる緊張感、その時……四人組の最後の一人、赤い髪を二本の三つ編みで纏めた少女がはやてのベッドの上に乗って話しかけてきた。
「おい……こいつ気絶してるぞ」
「「「「は?」」」」
見るとはやては突然現れた四人組に驚いたのか、目を回して気絶していた。
「はやて!!?」
スウェンはすぐさまはやてに駆け寄り、彼女に意識があるかどうか確認する。
「いかんな……すぐに病院に連れていかないと」
「お、おい……」
「話なら後にしろ!」
そう言ってスウェンは気絶しているはやてを抱えて部屋を出て行った。四人組はとりあえず放置して……。
「……なあどうする?」
「とりあえず私達も付いて行ったほうがいいかな……?」



それから一時間後、スウェンとはやて、そしてあの四人組は海鳴大学病院の病室にいた。
「よかったわはやてちゃん……なんともなくて」
「すみません、ご迷惑をおかけしました」
スウェンはお礼の意を込めて石田医師に深く頭を下げる。
「ううんいいのよ……それよりあの人達は? 6月とはいえあんな格好で……」
石田医師の視線の先には、先程突然現れた背格好に関してはバラエティー豊かな四人の男女が立っていた。
「俺にもよく……」
「ああ、あの子達ですか? 実は私の外国に住んでいる親戚で……私の誕生日の為にサプライズで来てくれはったんですよ」
はやてのとっさの説明に石田医師とスウェンは首を傾げる。
(親戚……? そんな話聞いた事がないが……)
「そうなの? そこのアナタ?」
石田医師は確認の為ピンクのポニーテールの女性に話しかける、すると女性は真顔で
「はい、その通りです」
と答えた。


次の日、特に異常は見られなかったのですぐに退院したはやては、早速連れ帰った四人から事情を聞く。
「闇の書の主? 私が?」
「はい、闇の書の完成……それが我らヴォルケンリッターに課せられた使命なのです」
そう言って四人組のリーダー格、ピンクのポニーテールの女性……シグナムははやてに向かって跪いた。彼女の話でははやては“闇の書”と呼ばれる魔導書の主に選ばれ
「あかんあかん、闇の書ってアレなんやろ? 他人のリンカーコアを奪わなきゃアカンのやろ?」
「え? あ、まあ……」
「そんな人様に迷惑掛けるような事したらあかん、それにしてもそうやなあ……アンタら目覚めたばっかで行くところが無いんやろ? ならアンタらの衣食住のお世話をするのがマスターである私の役目やー」
「「「「は?」」」」
はやての予想だにしない発言に、ヴォルケンリッターの面々は目を点にする。
「そうと決まればスウェン、私が寸法測るからメモってー」
「俺が測る方がいいんじゃ……? 車いすに乗りながらじゃやりにくいだろ」
「やんエッチ、女の子に触りたいん?」

んでもって数時間後、ヴォルケンリッターの面々は先程買って来た服を着てはやてに見せていた。
「これで外に出ても怪しまれずに済むな」
「似合っとる似合っとる、それじゃ私夕飯の準備しとるからー」
そう言ってはやては台所に向かう、そしてその場に取り残されたヴォルケンズは一か所に集まって話し合いを始めた。
「なあ……今回の主をどう思う?」
「どうって言われてもねえ……こんなリアクションされたの初めてだから……」
シグナムの言葉に金髪の女性……シャマルは困惑した様子で溜息をついていた。
「なんだお前ら、はやてのどこが嫌なんだ?」
「お前……普通に私達の会話に入ってくんなよ」
そう言って三つ編みの少女……ヴィータは狼形態に変身している犬耳の男……ザフィーラの顎をモフモフしながら会話に入って来たスウェンにツッコミを入れる。
「俺もはやての行動には少し驚かされたが……悪い気はしない、お前達だってそうなんだろう?」
「まあ……そうだけど」
「我々はずっと戦い続けていたからな、平和な暮らしに馴染めるかどうか……」
「戦い続けて……。」
スウェンは何か心に引っ掛かる事があったのか深く考え込む、その様子に気付いたザフィーラは彼に気遣いの言葉を掛ける。
「どうした? そんな難しい顔をして……」
「いや、何か思い出せそうだったんだが……まだ何か足りないみたいだ。」
「思い出す? なんだ、記憶喪失か何かか?」
「まあそんな所だ、俺にもよくわからんが」

するとそこに夕ご飯を作り終えたはやてがやってくる。
「ご飯やでー、今日はみんなの歓迎会やから腕によりをかけたでー」
「お前の誕生日でもあるだろう……ホラ行くぞ、ケーキも買ってある、ちょうど六等分できるな」
「ケーキ!?」
スウェンが言い放った“ケーキ”と言う単語に、ヴィータは目をギラつかせる。





その日はやては人生で最も楽しくて賑やかな誕生日をすごしたそうな……。










はい、今日はここまで、今回は全三回の序章の一本目をお送りいたしました、次回はリメイク前の作品を知っている人ならお馴染みの、あのオリキャラが登場する予定です。



[22867] 序章2「再会する運命」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:db7e3223
Date: 2011/01/24 20:32
序章2「再会する運命」


スウェンやヴォルケンリッターの面々がはやての家にやって来てから一か月以上経ったある日、スウェンはヴィータと狼形態のザフィーラと共に海鳴の街を散歩していた。
「いやー、最近暑くなってきたなー」
「そうだな、俺達がここに来た時より暑い」
スウェンはザフィーラを繋ぐ綱を握りしめながら汗で濡れる顔を腕で拭った。
「それで今日は何買えば良かったんだっけ?」
「確かカレーと言っていたな……」
「カレーかー!はやての作るカレーはギガうまだから楽しみだー!」
そう言ってヴィータは空の買い物かごをブンブン振って喜びを露わにする。それを見たスウェンはヴィータと初めて会った時の事を思い出していた。
(初めて出会った時は無愛想な奴だと思ったが……年相応の顔も出来るんだな)
そんな事を考えていると、そのスウェンの視線に気付いたヴィータが睨みつけて来た。
「なんだよ、私の顔に何か付いているか?」
「いや……可愛い奴だなと思って……」
「可愛い!?」
その瞬間ヴィータは顔を真っ赤に染め、スウェンに近付き膝の裏に向かってローキックを繰り出す。
「てめえ! そういう恥ずかしい事言うな!」

ヒョイ

「コラ避けるな! くっそー! すずしい顔しやがって!」
そしてヴィータはプンプン怒りながら再びスウェンの前を歩き始める。
「……? 何でヴィータは怒っているんだ?」
「アレは照れ隠しだろう、気にするな」
「そうか……」
ザフィーラに言われて納得したスウェンははやてから貰ったメモを取り出し、まずどこへ買い物に行くか確認し始めた……。


それから一時間後、買い物を終えた三人は公園へ行き一旦別行動をとる事にした。
「私らここでじいちゃん達とゲートボールして帰るから、先帰ってはやてに買った食材を渡しておいてくれ」
「わかった、夢中になりすぎて遅くなるなよ?」
そう言ってスウェンは公園にヴィータとザフィーラを置いて一足先に家路についた、この一カ月弱の間、ヴォルケンリッターの面々は近所の住人達とすっかり仲良くなっており、ヴィータは近所の老人たちとゲートボールに興じる程の仲になっていた。

そしてスウェンが一人で帰宅途中でのこと……。

「フー! シャー!!」
「うわ~! やめろッス~!」

「ん? なんだ今の声は……」
スウェンは誰かが叫び声をあげているのに気付き、気になって声がした路地裏を覗き込む、そこには……。

「にゃー! ふしゃー!」
「これはオイラのパンッス! 誰にもやらねえー!」

「……妖精?」
体長30センチほどの黒いボサボサの髪に褐色の肌、そして金色の瞳をした少年が数匹の猫とコッペパンの取り合いをしていた。
(どう見ても妖精……だよな? しゃべる犬もいるしこの世界では珍しくないのか?)

「にゃー!」
「お、お前ら! 大勢で寄ってたかって卑怯ッス! ああダメそこだけはー!」
「ペロペロぺロ」
「く、悔しい……! 猫なんかに! でも(ry」

「なんかよくわからんが助けるか……」
スウェンは近くに落ちていた空き缶を拾いあげ、妖精っぽい何かを襲っている猫達に軽く投げつけた。
「ふにゃーん!」
「その辺にしとけ、毛皮にするぞ」
すると猫達は蜘蛛の子を散らすように逃げていき、後には妖精っぽい何かがぐったりして倒れていた。
「おいお前、大丈夫か?」
「も、もうお婿に行けない……ガクッ」
「……なんか頭のほうが重症らしい、さてどうするか……このままにしておくのも寝ざめが悪いしな」
そう言うとスウェンは妖精っぽい何かをつまみあげた。


数十分後、スウェンは買い物袋を引っ提げて八神家に帰ってきた。
「おかえりースウェン」
「はやて……シグナムとシャマルは今どこに?」
「居間でテレビ見とるよー」
家の中の観葉植物の手入れをしているはやてに教わった通り、居間にいるシグナム達のもとに向かうスウェン。
「二人とも……実は相談があるのだが……」
「ん? どうした?」
「スウェンが頼みごとなんて珍しいわねー」
そう言ってシグナムは剣の形をしたデバイス……レヴァンティンの手入れをしながら、シャマルはそのレヴァンティン用の使い捨て強化パーツであるカートリッジを作成しながらスウェンのほうを見る。
「これ……なんだかわかるか?」
スウェンの差し出した手には先ほど確保した妖精っぽい何かが乗っていた。
「うーんむにゃむにゃ……もうスッカラカンだよう……」
「ぬわっ!? なんだこのナマモノは!?」
「人型のユニゾンデバイスかしら……? スウェン、これをどこで?」
「路地裏で猫の唾液まみれになっているところを……」
「何? 何の話―?」
すると騒ぎを聞きつけたはやてがスウェン達の話に入ってくる、そして彼女の視界に妖精っぽいなにかが入ってきた。
「何コレフィギュア? スウェンにそんな趣味が……。」
「いや、一応生物だぞコレ」
そういうとスウェンは妖精っぽい何かの頬を指でツンツンつつく、すると妖精っぽい何かは目を覚ました。
「ううん……? ここはどこ? オイラは佐○健?」
「何言ってんのこの子?」
「うわー! ホンマもんの妖精や!」
はやてはまるで子犬を見るような眼で妖精っぽい何かの頭を撫でる。
「……? あんた等誰?」
「お前の命の恩人と……まあ同居人だ」
「んー?」
妖精っぽい何かは頭を傾げるとスウェンのほうを向く、そして……目を見開いて驚いていた。
「……………………マジかよ」
「何がマジなんだ?」
「あ、いや……なんでもないッス~」
「お前はいったい何者だ? 見たところデバイスのようだが……」
「デバイスってアレかいな? シグナムが持っているソレ?」
はやての疑問にシャマルが代わりに答える。
「はやてちゃん、デバイスって言っても色々あるのよ、この子はそうね……ユニゾンデバイス……かな?」
「我々もあまり見たことがないタイプですね……」
「うーん……オイラもそこんところはわからないッス、生まれたばっかりなんで……」
「「「「?」」」」
その妖精っぽい何かの言葉に、スウェン達は頭に?マークを浮かべる。
「オイラ生まれてからずっと眠っていたんス、それで最近目が覚めて、気付いたらこの町にいて、とりあえず生きるために今日までがむしゃらに生きてきたッス……だから自分のことはさっぱりわからないッス、“ノワール”っていう名前以外は……」
「ノワール……」
「うーん、それやと自分の家もわからんのか?」
「へい……」
そう言ってスウェンの手の上でシュンとするノワールを見て、はやてはある決意を固める。
「しゃあない、ノワールがスウェンに助けられたのも何かの縁や、帰る家が見つかるまで私らがノワールの面倒を見たる」
「主!?」
「はやてちゃん!?」
はやての発言に驚くシグナムとシャマル、対してはやては改めてノワールの頭をなでた。
「生まれてすぐに一人ぼっちなんて寂しすぎるやろ? 遠慮せんでええよ」
「……いいんスか?」
「はやてならそう言うと思った……少なくとも俺に反対する理由はない」
スウェンの言葉に、シグナムとシャマルもうなずく、するとノワールはふわりと飛び上がると、はやて達にぺこりと頭を下げた。
「それじゃ……しばらく厄介になるッス! スウェンのアニキ! はやて姐さん!」
「姐さんて……」
「変わった奴だな、お前は……」



こうして八神家にまた新たな家族が加わった、ちなみにザフィーラと共に後から帰宅してきたヴィータはノワールを見て「何だコイツ? ポケットモンキーか何かか?」なんて感想をもらしたそうな……。



おまけ

ある日、はやてはテーブルの上で今月分の家計簿をつけていた。
「うーん、急に家族が増えたから出費が増えたなぁ、でもこれ以上グレアムさんに援助増やしてもらう訳にもいかんし……」
するとそこにコーヒーの入ったマグカップを二つ持ったスウェンがやってくる。
「はやて、コーヒー持ってきたぞ」
「うん、ありがとうなスウェン」
「ところで……さっきのグレアムとは何者だ?」
スウェンは先ほどはやてが口にした人物のことが気になり彼女に質問する。
「うん、私の死んだ両親の友達でな……毎月私の生活費を送ってくれる人なんよ」
「資金援助を……なるほど、どおりではやて一人で暮らしていけたわけだ、それにしても……」
スウェンはふと、そのグレアムという人物に対し疑問を感じていた。
(そこまでするのならなぜはやてを引き取らないのだ? そうすればいくらか安上がりだし、はやてが寂しい思いをせずに済んだのに……何か家庭的な事情でもあるのだろうか?)
その時、はやてはあることを思い出しスウェンに質問する。
「そうや、もうすぐグレアムさんの支援が届くころなんやけど……スウェンは何か欲しい物あるん? ひとつだけなら買ってもええで」
「おれか? そうだな……」
スウェンはしばらく考え込んだ後、自分が欲しいある物が頭に浮かんだ。
「……星座の本を頼めるか?」
「星座? ええけど……図書館でも借りられへん?」
「この前本屋で新しいのが出ていたんだ……2千円ぐらいの」
「星が好きなんやなスウェンは、ええで」
快く承諾してもらい、スウェンの表情はどこか嬉しそうだった。










今日はここまで、これで八神家全員集合ですね。なんでノワールがここにいるかは後々明かしていきます。あとグレアム達も原作とは違う運命を辿らせる予定です。

次回はAs第一話の前日談を投稿します、それでは。



[22867] 序章3「12月1日」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:db7e3223
Date: 2011/01/26 22:21
スウェンが八神家の一員になってから数ヶ月、季節は秋に移ってから大分経っていた。
とある日の朝。
「アニキ~朝ッスよ~」
はやてに与えられた二階の寝室で、スウェンはノワールに起こされて目を覚ます。
「おはようございます!アニキ!」
ノワールが元気に挨拶してくる、ちなみにノワールは今黒を基調とした騎士服(はやてデザイン)を着ている。
「……ああ、おはよう」
スウェンは眠い目を擦りながらもノワールに挨拶する。枕元には、星に関する本が開いたまま置いてあった。
「また読みながら寝ちゃったんッスか~?風邪ひくッスよ~?」
「……ああ、以後気をつける」
「そうッスか!そろそろ下に降りましょう!はやて姐さんが朝食作ってくれていますッス!」
「ああ」

台所でははやてとシャマルが朝食の準備をしていた。
「あ、おはようなスウェン、ノワール」
「おはよう」
「おはようございます!はやて姐さん! シャマル姐さん!」
「元気ええなーノワールは、もうちょっとで終わるから二人とも先に顔洗ってきいやー。」
「ああ」
二人は洗面所に行き顔を洗って寝癖を直す。すると、
「ふう……いい湯だった。」
浴室からシグナムが出てくる。お風呂に入っていたらしく、当然なにも着ていない。
『あースウェンー? 言うの忘れとったけど今シグナム風呂入っとるから気いつけやー』
遠くではやての声が聞こえる。なにもかも遅すぎだった。
これがどっかのラッキースケベなら一瞬でサンダーレイジで黒コゲなのだが、スウェンの場合は違っていた。
「な……!? 何をしとるんだ貴様らはー!!?」
「え、あ、スマン」
シグナムが投げた石鹸をクールに横にずれて避けるスウェン。
「さすがシグ姐さん、ダイナマイツなバディッ!!!」
「ちょ! 貴様ぁ!」
片っ端から浴室にあった物をスウェン達に投げるシグナム。
「だからスマンて……」
それらを軽やかにかわしていくスウェン。
「のほほ~絶景絶景~ちょっとアニキ! あんまり素早く動かんでくださいよ! 画像がブレるでしょ!」
ノワールはスウェンの肩でシグナムの体をしっかり観察していた。(ハンディカメラ持って)
「何の騒ぎだ?」
そこにザフィーラ(人型)が様子を見にやってくる。
「どおおおおお!!!? 貴様まで入ってくるな!!」
シグナムはシャンプーが満タンに入って重さ、威力十分の容器をザフィーラに投げ、見事彼の顔面に直撃させる。
「おごっ!?」
そしてザフィーラは容器を顔面にめり込ませたまま床に倒れた。

「もうあかんでシグナム~? 朝っぱらからはしゃいじゃ」
朝食が食卓に並べられていくなか、はやては先ほどのシグナムの暴れっぷりを注意する。
「も、申し訳ございません……」
(半分ははやてが原因だと思うが……)
そこに、今起きたばかりのヴィータがやってくる。
「ねむ~……ん? どうしたんだザフィーラ? その顔」
「…………ちょっとな」
ザフィーラの眉間にはバッテン印に絆創膏が貼られていた。


そしてはやては何気なくチャンネルを操作しテレビの電源を入れる、すると丁度朝のニュースが放送されていた。
『おはようございます、12月1日の朝のニュースをお伝えいたします、まずは先月アイルランドで起こったKPSAの自爆テロの続報から……』
「おっかないなあ、自爆テロやて……たくさんの人が死んだんやってなあ、しかも実行犯は私と齢変わらないそうやないか」
「ええ……まったくひどいものです」
『これに対しAEU協議会はテロ防止の為警備体制を強めると発表し……』
そのニュースにはやて達は真剣に耳を傾ける、そんな中スウェンはキャスターが読み上げていた記事の内容の中に引っかかるものを感じていた。
(テロ……たくさんの人が……)
するとスウェンの様子に気づいたザフィーラが彼に話しかける。
「ん? どうしたスウェン? 箸が止まっているぞ」
「い、いや……ひどい話だなと思って……行方不明者も一人いるんだろう?」
「……………」
ノワールはただただ、少し動揺している様子のスウェンを真剣な表情で見つめていた……。



その日の昼前のこと、やることのないスウェンは部屋にこもって星の勉強を始めていた。
「アニキも好きッスね~、星」
「ああ……なぜだか興味が沸くんだ、もしかしたら俺は記憶をなくす前は天体学者を目指していたのかもしれない……」
はやてのもとにやってきてから半年近くたち、スウェンにもいつの間にか天体観測という趣味ができていた。そして彼は昼間の暇なときはこうやって図書館から借りてきた資料を漁りながら独学で勉強をしていた。
「スウェンー、ノワール、入るでー」
するとそこにクッキーとコーヒーの乗ったトレイをもったはやてがやってきた。
「はやてか……ありがとう」
スウェンははやてからトレイをを受け取ると、クッキーを小さく砕きそれをノワールに渡した。
「いやー、はやて姐さんの作ったクッキーは格別ッス!」
「ふふふ……ありがとうノワール、スウェンは勉強捗っとる?」
「ああ、あの図書館にはいろいろな本があるんだな……勉強になるよ」
「ほんなら明日は私と一緒に図書館で本探しでもしよか、ほかにもいろいろあると思うで、今日は午後から病院やから行けへんけど」
「そうだな……」


数時間後、昼食の時間にその事件は起こった。
「う……ぐおおおお……!!!!」
「ブクブクブク……」
「はひっ! ひへっ! わふっ!」
テーブルでシグナム、ヴィータ、ザフィーラが泡を吹いて倒れたのだ。
「ひ、ひどい……! なんで! なんでこんなことに!?」
あまりの惨状を目の当たりにしたはやては車いすの上で泣きわめく、そんな彼女の肩にスウェンはそっと手を置く。
「落ち着くんだはやて……泣いたってもうみんなは……それよりもなんでこんなことになったのか調べよう!」
そう言ってスウェン達は勇ましく台所に向かう、するとそこには様々な材料が散乱していた。
「これは……カレールーか、そしてこれは鯛……それにネギとヨーグルトだと!? ここにはパピ粉にフリスク(オレンジ味)……一体何を作ろうとしていたんだ!?」
スウェンはあまりの惨状に戦慄を覚える、そして紫色の怪しいオーラを放つ鍋を見つける。
「よし……ノワール、味見してくれ」
「嫌」
スウェンの肩に乗るノワールは彼の要望を即座に断る、その間実に0.002秒。ニュー○イプも裸足で逃げ出す反応速度だ。
「そうか……ならしょうがない、俺が味見をしよう」
「いや! スウェンにそんな危険なことはさせへん! ここは一家の主たる私が!」
そう言ってスウェンとはやては勇敢にも挙手しながら味見に立候補する。そんな二人をみてノワールは魂が震えるのを感じていた。
「(そんな……! みんな自分の身の危険を顧みずに……それなのにオイラは……!)仕方ねえ! やっぱオイラが味見を!」
「「どうぞどうぞ」」
「謀ったな八神ぃぃぃ!!!!」
味見の座を即座に譲られたノワールは木馬に特攻する時のザ○家の末っ子のような顔でスウェンに取り押さえられる。そしてはやては鍋の中身の生物兵器をスプーンですくい上げてノワールに差し出す。
「はいノワール、あーん」

ギョエアアアアア

「なんか鳴いてる! スプーンの上でなんか鳴いて……! ムグッ!」
突っ込んでいるうちにスプーンを口の中に入れられるノワール、そして……。
「へああああ! メガァァァァァ!!!」
口の中の劇物を飲み込んだ途端目を押さえながら床でのた打ち回った。
「ノワール! 犠牲は無駄にせえへんで……!」
「シグナム達もこれを食べてああなったのか……つまり犯人はこれを作った人物……」
その時、台所にとある人物が神妙な面持ちでやってきた。
「犯人は……すりっとまるっとお見通しや、シャマル」
はやてに指をさされ、観念したかのようにがっくりと項垂れるシャマル。
「すべて……ばれてしまったんですね……」
「何故だ……!? 何故こんな危険なものを作ったんだ!?」
「今朝のリベンジと……あと昨日見たキュ○ピー三分間クッキングにおいしそうな料理が紹介されていて、私だけで作ってみんなをびっくりさせようと……でも材料のメモを取るのを忘れていて、仕方なく記憶を頼りに(見た目が)似ている食材を使って……!」
そしてシャマルはその場で崩れおち、顔を手のひらで覆って泣き始めた。
「ごめんなさい……! まさかこんなことになるなんて……! 私はなんてことを……!」
「どうして……! どうしてこんなものをシグナム達に食べさせたんだ!?」
「だって……使った食材がもったいなかったの!」
そしてはやては泣き続けるシャマルに優しくそっと囁いた。
「……自首しようか、私たちもついてったる……」
「はい……!」
そしてシャマルはコートを被せられ、はやてによってどこかへ連行されていった。
「嫌な事件だったな……」

こうしてのちに「八神家集団食中毒事件」は多くの犠牲者を出して終わりを迎えた、ちなみにスウェン達は何故無事なのかというと、先ほどクッキーを食べたため昼食の時間を遅らせた為難を逃れたからだった。

「……なんだコレ?」





その日の夜、八神家の食卓
「ぁあ? ふざけんな! アタシは飛び出せ!科○くん見るんだよ!!」
「何を言っている!! 今日は世界衝○映像社の日だろうが!!」
シグナムとヴィータがチャンネル争いをしていた。
「上等だよ……! ここで白黒つけるか!?」
「おもしろい! レヴァンティンの錆にしてくれる!!」
「コラ~!! ケンカしたらアカン~!」
「そうよ! ケンカする子はテレビ見せないわよー!?」
「それよりも俺は中○生日記見たいんだが……」
一触即発(一匹空気を読んでいないが)の中、
「あ、天才志○動物園が始まる」
「どうでもいい話ッスけどザフィーラのアニキをこの番組に出演させたら大儲けできると思いません?」
たくあんをボリボリ食べながらスウェンはチャンネルを変えた。
「こら貴様!! なに勝手に変えている!?」
「舐めた真似してっとギガントすんぞ!?」
「ふたりとも……ええかげんにせんと一週間アイスと風呂抜き、それにシャマルの料理食わせ続けるで」
「「ゴメンナサイ」」
光の速さでDOGEZAするシグナム&ヴィータ
「はっやっ! そこまでイヤなの!?」
「中○生日記……」
「今日はパンダの赤ちゃん特集か」
「なんで動物の赤ちゃんってみんなキャワイイんやろうな」
「あ、次め○ゃイケみていいッスか? メンバー増えてからどうもあの番組の行く末が気になる」



お風呂上りの時間帯に今日二度目の事件は起こった。
「さて、ウチが名前付けてまで大事にとっといたプリン(生クリーム付き)が食べられとったんやけど……誰?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
全員床に正座(背の順で)
「怒らないから言うてみ~?」
顔は笑っているけど目が全然笑っていないはやてを見て、それを見た全員は蛇に睨まれた蛙の如く萎縮してしまう。
(絶対怒るな……)
(絶対怒る……)
(絶対怒るわね……)
(絶対怒るワン……)
(絶対怒るッス……)
「小腹が空いていて……」
その時、スウェンが空気に耐えられず観念して手を上げて自白した。
「「「「「お前かい!!!!!」」」」」
意外な犯人に他の五人分のツッコミが見事ハモる。
「コルァァァ―――――!!!」
そんな彼に対し大激怒するはやて。
「「「「「やっぱり怒った!! めっちゃ巻き舌!」」」」」
「何故だ? 正直に言えば怒らないと……」
スウェンは小首を傾げながらはやての説教を小一時間受け続けたという……。

皆が寝静まった夜、スウェンはベランダで一人星を見ていた。
「今日も綺麗だ……」
スウェンは瞳を閉じ今までの八神家の生活を思い出していた。
騒がしくもどこか穏やかな日常、怒られたり、失敗したり、辛い思いをすることもあったが、それを帳消しにするくらい幸せだった。
「あとは……はやての体か」
「ウチがどうかしたん?」
するとベランダに車椅子に乗ったはやてがやってきた。
「はやて……星を見にきたのか?」
「正確には星を見ているスウェンを見に来ました。」
「そうか……」
車椅子を自分ごとスウェンの隣に移動させるはやて、二人はしばらく星空を見上げていた。
「……なあ、はやて」
スウェンは隣にいたはやてに話しかける。
「どないしたん?」
「なぜ……見ず知らずの俺を八神家に招いてくれたんだ?俺は何者なのか自分でも判らないんだぞ?」
「そうやなあ……」
はやては再び星空を見上げて考える。そして、
「スウェンが…昔のウチみたいに…寂しそうやったからかなあ……」
「寂しい?」
「ウチな、スウェンや守護騎士のみんなが来るまではこのだだっ広い家で一人でくらしてたんよ。この体で病院通いで学校にも全然行ってへんかったし……今思えばホンマ考えられへん生活してたんや……」
幼い頃両親が死に、自宅と病院を行き来する生活、担当の石田先生との交流はあったが、それでもとても寂しい思いをしていたのだ。
「………」
スウェンは何も言わず、ただ黙って聞いていた。
「ほんでな、そんな時私はスウェンに出逢ったんよ。そんでスウェン見て……『この人なんて寂しい目をしているんやろう』と思ったんよ」
「………」
「これはウチの勘なんやけどな……スウェンってきっとここにく来るまでは…とっても寂しい思いをしていたんやと思う……。だからウチ、スウェンのこと放っておけなかったんや。同情やないで? まあ……一人ぼっちで生きて行くのが辛かったから拠り所を探していたんだと思う」
「ああ……それはわかる」
スウェンはそれがはやての優しさだということは、これまでの八神家の生活を通じて解っていた。
「今はホンマ幸せやで、シグナムがいて、ヴィータがいて、シャマルがいて、ザフィーラがいて、ノワールがいて、スウェンがいて……。皆が居てくれるだけで幸せや。たとえ……近い未来……ウチが死ぬ事になっても……」
「!!」
はやては、近いうち自分が今患っている病気で死ぬということに、なんとなく気付いていたのだ。
「でも……本当は死ぬのが怖い……皆と離れとうない……」
いつのまにかはやては泣きじゃくっていた。その姿はいつもの気丈な様子はなく、歳相応の弱々しい少女になっていた。
「みんなと……ずっと……一緒にいたい……離れたく……一人ぼっちになりたくないよぉ……」
今まで自分はこのまま一人寂しく死んでゆくのだと思っていた、だが今は一緒に居てくれる家族がいる。だからもっと生きていたいのだ。
今まで溜め込んでいた想いが、ここに来てどっと溢れ出てきた。
「はやて……」
スウェンは泣いているはやての後ろに回りこみ、
「……」
「え?」
彼女を優しく抱きしめた。はやては何が起こったか解らず泣き止む。
「スマン、こういう時どうしたらいいか解らないから……コレしか思いつかなかった。」
それは精一杯考えたすえに出てきた彼なりの慰め方だった。
「ふふっ、ガラにも無い事して……でもありがとう」
いつのまにかはやては笑っていた。その笑顔は星の光に照らされて、普段とはまた違った輝きを放っている。
「……そろそろ寝よう、これ以上いると風邪を引く」
「そうやなあ、もう十二月やもんな……」
「あ、ちょっとまて」
そう言うとスウェンは車椅子に乗っていたはやてを抱き抱え上げた。
「なっ!? なななななっなにを!?」
突然スウェンに抱き抱えられ、近い歳の男性の耐性があまりないはやては混乱していた。
「いや、車椅子から一人でベッドに移動するのは辛いだろうと思って……嫌だったか?」
「そっ……そんなことあらへんよ……!」
(これってお姫様抱っこやん……おまけに顔近っ! ……かっこええな……いやそうじゃなくて!)
「どうした顔が赤いぞ……? しかも体温が上がっているようだが……」
「なっ……なんでもございません!!」
そして二人は中に入っていった、その間ずっとはやては顔を赤く染め小声でなにやらブツブツ言っており、スウェンは首を傾げていた。

はやてを寝室に送り届け、スウェンは自分の寝室に戻ろうとしていた。
ふと、掛けてあった時計が目に入る、時刻はちょうど夜十二時を指していた。
「日付が変わった……今日は12月2日か」
季節は秋から冬に移っていった。

そして……物語も動き出す。










本日はここまで、この話は以前投稿したものを書き直したものとなっております。
さあ次回より本編開始、無印編より大分登場人物が増えててんやわんやですが頑張ります。



[22867] 第一話「始まりは突然に」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:5c714ab6
Date: 2011/01/31 14:38
 第一話「始まりは突然に」


CE66年10月末、家族皆で夕食をとり居間でくつろいでいたシンは両親からある話を聞かされた。
「引っ越す……? オーブから?」
「うん、最近色んな所でコーディネイターに対するテロが頻発してきただろう? この前もバイオリン奏者の人が殺されたし……この辺も危なくなってきているんだよ」
「怖いわよね……だから12月に引っ越すことにしたのよ」
両親の提案に、シンは目を丸くして驚く。
「えー? でもどこに引っ越すの? プラント? 父さんの仕事はどうするの?」
「うん……それなんだがな、実は父さん、時空管理局の技術部からオファーが来ているんだ。つまり転職だな」
「管理局に!? すごいじゃん!」
「うん、そこでリンディさんと相談してね……比較的治安がよくてコーディネイターの差別がない世界に引っ越そうと思っているの」
「差別のない世界……? それってもしかして……!」
「そう、第97管理外世界……海鳴市だよ」





それから一カ月後、オーブのモルゲンレーテ社のラボ、そこでシンの父は退社するため会社に置いてある自分の荷物を次々と纏めていた。そこに……若い社員の女性がシンの父親に話しかけてくる。
「アスカさんもう行っちゃうんですか? 寂しくなりますね」
「そうだねぇ、後の事は君に任せる事になるだろうけど大丈夫かい?」
「ええ、アスカさんの分まで皆と頑張ります……ところでアスカさん、一体どこに引っ越すんです?」
「ああ……えっと……日本の海鳴ってところだよ」
事情を知らない人間にあまり詳しい事を話せないシンの父はそれとなく誤魔化して話した。
「日本……東アジアですか、確かにあそこは比較的治安がいい所ですよね」
「う、うん……まあそうだよね」
「今度連絡ください、もしかしたら子供と一緒に観光に行くかもしれませんので。」
「その時は案内してあげるよ、それじゃあエリカ君、私はここで」
そう言ってシンの父は段ボールに詰めた自分の荷物を持ってラボを出て行こうとした。

「姫さまー! 待ってくださいー!」
「やだよー!」
「おおっと!?」
その時、彼の目の前に2人の少女が走って通り過ぎて行き、シンの父は驚いて転びそうになる。
「こら姫様! それにアサギ! ラボの中を走り回っちゃ危ないでしょ!」
その様子を見たエリカは走り去ろうとしていた2人の少女を怒鳴りつける。
「ひゃん!」
「す、すみません!」
エリカの怒鳴り声を聞いて思わず動きを止める2人の少女。
「はっはっは、姫様は元気いっぱいですな」
そう言ってシンの父は元気が有り余っている様子の金髪の少女の頭を撫でた。
すると頭を撫でられた少女はシンの父が持つ荷物を見て首を傾げる。
「ん? お前どうしたのだ荷物をまとめて……?」
「姫様、アスカさんはこれから日本に引っ越すのだそうです」
「ニッポン? 何故ニッポンに引っ越すのだ? オーブのほうがいい国だぞ?」
「ああ……えっと……」
納得していない様子の少女に対してシンの父は困ったように目を泳がせていた。すると見かねたエリカがすかさずフォローを入れてくる。
「姫様、アスカさんにも色々と事情があるのです、あまり困らせては駄目ですよ?」
「うーん……」
少女はまだ納得がいかないのか、去って行くシンの父の後ろ姿を見て首を傾げていた。





それから数日後、シンの家では一家総出で引っ越しの準備を進めていた。
「おにいちゃーん、このぬいぐるみどこに入れたらいいのー?」
「んじゃお兄ちゃんのリュックに入れておいてやる……デスティニー、そっちはどうだ?」
「こちらはあらかた終りましたよー」
デスティニーはガムテープを抱えてシンのもとにふよふよ近付いて来る、そこにシンの両親もやって来た。
「二人とも、そろそろアースラの皆さんが来る時間だぞ、出発する準備をしなさい。」
「「はーい」」
その時、アスカ家のインターホンが鳴り響き若い男女が10数人程家に入って来た。
「こんにちはー、お手伝いに来ましたー」
「あ、アレックスさんこんにちはー」
「こんにちはー」
シンとマユは顔見知りである青年にぺこりとお辞儀する。
「ううう……こんなモブの名前と顔を覚えてくれているなんて……」
「それじゃ荷物はどこに運びます?」
「庭に運んで貰えます? 家具も先に運んでおいてありますので……。」

「いよいよだな……久しぶりのミッドチルダだ」
「楽しみだねー、アルフやフェイトに会うの久しぶりだー」




十二月二日の夕方、スウェンとはやてとノワールは図書館に来ていた。ちなみにノワールは一般の人に見られる訳にはいかないので、「ノワールボックス」と名付けられたカバンの中に入っている。
(よかったッスね~、お目当ての本が返されていて)
「ああ。」
「次私も読んでええか? ちょっと読んでみたい」
お目当ての本が見つかりご満悦の様子の一行、ふと、
「あ、あの子は……。」
はやては本棚に向かおうとした時、紫のウェーブのかかった髪をした女の子を見つける。
女の子は自分の手の届きそうで届かない本を取ろうとして悪戦苦闘していた。
「う~ん、もうちょい……」
「どうやらお困りのようや……頼めるか?」
「ああ。」
スウェンは少女が取ろうとしていた本を取り、そのまま渡す。
「これでいいか?」
「あ……ありがとうございます…あれ? あなたは……」

数分後、はやて達はその少女とすっかり仲良くなっておしゃべりをしていた。
「そっかぁ、同い年なんだ」
「うん、ウチも時々見かけてたんよ、同い年ぐらいの子やなって」
「実は私も……そちらの方も」
「俺か?」
「はい! いつもお星様の本を読み漁っている方ですよね、本当に本が好きなんですね。」
(アニキ人気者ッスね)
(少し違う気がするが……)
「ウチ八神はやて言います。平仮名で“はやて”って変な名前やろ?」
「そんなことないよ。綺麗な名前だと思う、私は月村すずかって言います」
「俺はスウェン・カル・バヤンだ」
「外国の方なんですね、スウ.……スヘ……スエ……スウェンさん……すいません……」
(かなり咬みましたね彼女)
「いや……気にするな」

その後シグナムとシャマルが迎えにやって来て、はやて達はすずかと別れ帰宅の路についていた。
「そうなんですか、新しいお友達ができたんですか」
「うん、とってもすずかちゃんとってもええ子なんやで」
「そう言えば……今日もヴィータはどこかに出かけているのか?」
スウェンの質問に、シグナムは少し難しい顔をしながら答える。
「ああ……ザフィーラと一緒にどこかに遊び歩いているようだ」
「気をつけて欲しいもんや、ヴィータ見た目ちっこいから危ない人に狙われるんとちゃう?」
「大丈夫ですよー、ヴィータちゃん強いですし……」
「……」
スウェンはふと、以前シグナムやヴィータの戦闘の自主練習に付き合わされた時の事を思い出した。
「アイツも見た目の割に強いよな……闇の書の騎士とは皆そうなのか?」
「うむ、主を守る為に私達は常に強くなければならないのだ」
「そんな、外国ならともかくこの国でシグナム達が戦う機会なんてあらへんよ~」

そうしてはやて達は和気藹々とした空気で帰宅していった……。



一方その頃次元の狭間にある時空管理局本部では、アースラクルー達全員がアスカ一家を迎える為準備を進めていた。

~アースラブリッジ~
「艦長、アレックス達がアスカさん達の荷物をもって戻ってきたようです」
「そう、それじゃ受け入れの準備をしないとね」
するとブリッジに、アスカ一家がアレックスに案内されながらやって来た。
「リンディさーん、こんにちはー」
「あらシン君、それにアスカさん達もお久しぶりです」
「いやあどうも」
「この度は態々手伝ってもらって……ホントなんとお礼を言ったら……あ、コレ宜しければ」
そう言ってシンの母親はリンディにオーブのお土産屋で買ったお茶の詰め合わせを渡す。
「まあ! 態々ありがとうございます」
「……」
その時、オペレーションをしていたエイミィはシンが誰かを探して辺りを見回している事に気付く。
「シン君、フェイトちゃんやヴィアさんは今クロノ君達と一緒に裁判所の方に行っているよ」
「そ、そうですか……」
「えー? アルフもいないのー?」
フェイト達がいない事が解り、シンの傍にいたマユはつまらなさそうに服を引っ張った。
「あ、でもアリシアちゃんは今医務室にいるよ、挨拶してあげたら?」
「シン……マユを連れて行ってきなさい、父さん達はリンディさん達と少し大事な話をするから……」
「わかった、マユ、デスティニー、行こう」
「うん!」
「かしこまりました」
そう言ってシンはマユの手を取りデスティニーを引き連れてアリシアのいる医務室に向かった。
「いやあ、仲のいい兄妹ですね。シン君もいいお兄ちゃんですよねぇ」
「こちらとしては仲良すぎて逆に色んな意味で心配ですけどね、うふふふ」

数分後、医務室にやって来たシンとマユはベッドで眠り続けるアリシアと対面した。
「アリシア久しぶり、元気にしてたか?」
「お久しぶりですアリシアさん」
「アリシアさんこんにちはー、私マユっていいます、初めましてー」
マユはアリシアと初めての対面だったので初めましての挨拶をする。
(アリシア……あれからずっと眠り続けているんだよな……)
PT事件以降、DG細胞によって無理やり生き返ったアリシアは力を使いすぎていつ覚めるか解らない眠りについていた。そして裁判を受けていて自由に動けないヴィアに代わり、現在は管理局の医療スタッフがアリシアの治療に当たっていた。
「お兄ちゃん、アリシアさんはいつ起きるの?」
「ヴィアさんが起こす方法を探しているみたいだけど……どうも上手くいっていないみたいなんだよ。でも大丈夫……この子はフェイトのお姉ちゃんだからな、きっといつか目を覚ますよ」
「そうだね、早くフェイトさんとアルフと一緒に遊びたいなー」

「あら……もしかしてシン君? それにマユちゃんじゃない!」
するとそこに、裁判所から帰って来たヴィアが医務室に入って来てシンとマユに挨拶してきた。
「あ! ヴィアさんこんにちは!」
「お久しぶりです」
「こんにちはー」
「そっか……今日はお引っ越しの日って言っていたわね、アリシアに挨拶しに来てくれたの」
そう言ってヴィアはベッドで眠り続けるアリシアの頭を撫でてあげた。
「裁判の方はどうなったんですか? フェイトやアルフは……」
「あの二人は大丈夫、管理局の魔導師になる事を条件に罪はかなり軽くなったわ、私も一年の執行猶予を付けてくれたし……」
「そっか、よかった」
裁判の結果を聞いてほっとするシン、因みに彼もPT事件の重要参考人として裁判を受けていたが、“無理やり巻き込まれた被害者”ということで数カ月前に無罪判決を受けていた。
その時、先程からずっと黙り込んでいたデスティニーがヴィアにある質問をする。
「そういえばヴィア……あの子の行方はつかめたのですか?」
「いや、それが……管理局の人達にも頼んでいるのだけれど、中々進展しなくて……」
「あの子? あの子ってなーに?」
事情が解らないマユは頭に?マークを浮かべる。
「実は……私と同系列機のデバイスが一人、PT事件のどさくさで行方不明になってしまったのです」
「あ、そう言えばそんな話していたなあ、確か“ノワール”だっけ? まだ見付かっていなかったんだ」
「ミッドにいないって事は別の次元世界に飛んだのかしら……とにかく早く見つけ出してあげないと」
「いやあ、あの子はゴキブリ並みにしぶといから大丈夫でしょう、色も似ているし。」
「あはは、ひっどいわねデスティニー……それじゃシン君、フェイトちゃん達に会って来てあげなさい、今彼女達は食堂にいると思うから」
「あ、はい! 行くぞ二人とも、アリシア……また今度な」
シンはアリシアに別れを告げてマユとデスティニーを伴って医務室から出た、そしてそれを見送ったヴィアは改めてアリシアをみる。
「さて……早く起こしてあげないとね、カッシュ博士の意見を聞きたいけど……」


数分後、シン達はヴィアの言うとおりアースラの食堂にやって来る、するとそこには裁判所から帰って来たフェイトとアルフ、そして付きそいのユーノとクロノがいた。
「おーいフェイトー! アルフー!」
「ん? あの声は……」
「シン?……シン!」
フェイトとアルフはシン達の姿をみるや否や席から立ち上がり、彼等の元に駆け寄ってきた。
「シン! 久しぶりだね! マユちゃんも!」
「元気にしていたかい? 久しぶりだねぇ」
アルフはそう言ってマユの頭をわしわしと撫でてあげた。
「うん! 今日はわんこにならないの?」
「あっはっは! 後で何回でも変身してやるさ!」
するとそこにクロノとユーノが少し遅れてやって来る。
「君達も相も変わらずだね」
「シン、久しぶりだね……何カ月ぶりだっけ?」
「おお! クロノとユーノも久しぶり! ほらマユ、二人に挨拶するんだ」
「初めまして! マユ・アスカです!」
「君がマユちゃんか~、初めまして」
「そう言えば君の家族も来ているんだったな、後で挨拶に行かないと……」
そうして一同がマユに夢中になっていた時、フェイトはシンの服を引っ張って彼に話しかける。
「本当に久しぶりだね……元気そうでよかった」
「俺はそんなに久しぶりって感じはしないなあ、手紙でやりとりしてたし……」
「それでも……久しぶりに会えて本当にうれしいよ、えっと……直接会ったら色々お話しようと思ってたのに……いざとなったら言葉が出てこないよ……」
「ははは、相変わらずだなフェイトも」
そんな二人の様子を、ただ一人皆の話に加わらず傍観していたデスティニーがニヤニヤと話し掛けて来た。
「うふふ、お二人ともおませさんですねえ、遠距離恋愛のカップルみたいですよ」
「かかかかカップル!?」
デスティニーの指摘に顔を真っ赤にして動揺するフェイト。
「あれ? フェイトまた風邪ひいたの? 顔真っ赤だぞ」
「主……流石です」


そうして和やかな雰囲気で再会を喜び合うシン達。

ビー! ビー! ビー!

その空気を、緊急事態を告げるアースラの警報が吹き飛ばした。
「ん? なんだこの警報?」
「おいブリッジ、何があった?」
インカムでブリッジから状況を聞き出すクロノ、そして何回か頷いた後真剣な面持ちでシン達の方を向いた。
「どうしたのクロノ? 何かあったの?」
「海鳴で魔導師同士の戦いが起こっているみたいなんだ、どうやらなのはが正体不明の敵に襲われているらしい」




同時刻、八神家でははやてとスウェン、そしてノワールが夕食をテーブルに並べながらシグナム達の帰りを待っていた。
「シグナム達遅いなあ、お夕飯が冷めてまうで」
「オイラ腹減ったッス~!」
「もうこんな時間じゃないか……どうしたものか。」
スウェンは壁に掛けられた時計を見ながらはぁと溜め息をついた。
(大丈夫なのかみんな……事件とかに巻き込まれていなければいいが……)
スウェンの心の中にふと、言い知れぬ不安がこみ上げてきた。
(なんだろうかこの気持ちは……)
そして居ても立っても居られなくなったスウェンは立ち上がり、コートに身を包んで玄関に向かう。
「スウェン? どないしたん?」
「みんなを迎えに行ってくる、もし空腹だったら先に食べてていいぞ」
「あ! オイラも行くッス~!」


そしてスウェンとノワール(コートのポケットの中にいる)はシグナム達を探しに夜の街頭の光が照らされている街へ繰り出した。
「確かシャマルはシャンプーを買いに行っている筈……。」
「どこまで買いに行っているんでしょうねー。」
スウェンはシャマル達の姿を探して辺りを見回す、その時……急に辺りが静まり返り、スウェン達の周りにいた通行人達が消えてしまった。
「……!? なんだコレは!?」
(まさか結界? ってことは……)

次の瞬間、ガシャーンというガラスの割れる音と共にスウェンの頭上からガラスが降って来た。
「!! ノワール!」
スウェンはとっさにポケットの中にいたノワールを抱えながら降ってくるガラスを避けた。
「くっ……! 一体なんだ!?」
「アニキ! 上を見てください!」
スウェンはノワールが指を指す方向をみる、するとそこには信じられない光景が広がっていた。
「アレは……ヴィータ!? 何をしているんだアイツは!?」



「話を……聞いてってば!」
ビルが並ぶ夜の町並、その一角に張られている結界の中で二人の少女による魔法合戦が行われていた。
白いバリアジャケットを着た少女…なのはは突然襲ってきた赤い髪に赤い服を着た少女……ヴィータに光弾を放つ、だが赤い少女はそれを掻い潜りハンマー状の武器をなのはに叩き込む。なのはは魔力障壁でソレを防ごうとするが……
「きゃああああ!!!」
レイジングハートごと砕かれ、遥か後方に吹き飛ばされビルに激突する。
「う、ううう……」
瓦礫のなか、必死に立ち上がろうとするがダメージが大きすぎて立ち上がれない。
(いやだ……こんなところで終わるなんて……)
ヴィータがトドメを指す為に追いかけてきた、そしてなのはに対してハンマーを振り上げる。
(ユーノ君……クロノ君……アルフさん……シン君……)
次々と浮かぶ仲間達の顔。そして赤い少女はハンマーを振り下ろす。
(フェイトちゃん……!!)
だが振り降ろされたハンマーはなのはに当たることはなかった。突如割って入ってきた黒衣の少女に防がれたのだ。
「なんだてめえ……そいつの仲間か?」
赤い少女は不機嫌そうに黒衣の少女を睨みつける。
「友達だ……!」
その少女の姿を見て、なのはは目を見開いて驚く。
「フェイト……ちゃん!?」
対峙する二人、その後ろで、
「なのは!大丈夫!?」
「フェイトちゃん……? ユーノ君……?」
ユーノに抱き上げられるなのは。
「ちい!」
それを確認して後退するヴィータ、
「ユーノはなのはをお願い!私は…!」
「わかった!こっちはまかせて!」
そしてフェイトは赤い髪の少女を追いかけていった。


「ユーノ君……どうしてここに?」
「フェイトの裁判が終わったからなのはに連絡を入れようとしていたんだ、そしたら異変に気付いて……」
そう言いながらユーノはなのはに治癒魔法をかける。
「アルフもシンも来てくれたし……アースラのスタッフも全力で対処している、もう安心だよ」
「そっか……」
そしてなのはは上空で戦っている友の姿を見守っていた。


「クソッ!なんなんだよコイツ等!」
ヴィータは焦っていた、高い魔力を持つ白い服の少女を襲っていたら、彼女の仲間らしき者達に反撃を喰らい、今空中で対峙しているのだ。
「このぉ!!」
ヴィータは魔力を込めた鉄球を黒い服の少女に向かって打ち出す。だが少女はそれを軽やかにかわす。そして、
「なっ!?」
彼女の使い魔らしき女に束縛魔法を掛けられた。
「終わりだね、名前と出身世界を言って貰おうか」
ヴィータは少女の持っていた武器を突きつけられる。だがヴィータは臆することは無かった。
「ぐぐぐ……! このお!」
「……!? なんかやばいよフェイト!!」
その瞬間、黒い服の少女はポニーテールの女剣士…シグナムに吹き飛ばされ、
「きゃあ!?」
悲鳴と共に真下のビルにコンクリートの砕ける音とともに叩きつけられた。
「フェイトォ!!」
使い魔はすぐに少女を追いかけようとしたが、犬耳をつけた大男…ザフィーラに阻まれてしまう。
「こ……こんのぉっ!!邪魔すんな!!」
「………」
男は何も答えず、ただ拳を力強く握り締めた。
「苦戦していたようだな、ヴィータ」
「うっせーよ!!こっから逆転するとこだったんだよ!!」
ヴィータはシグナムに束縛魔法を解除されながら子供じみた(見た目は子供なのだが)言い訳を言う。
「フッ…まあいいさ、私はあの少女のリンカーコアをいただく」
「ならアタシはあのザフィーラが女になったみたいなヤツを……」
そして二人はそれぞれ目的の場所へ飛び立っていった。


「大変だ……!! 助けなきゃ…!!」
なのはとユーノはビルの屋上でフェイト達が苦戦しているのを見て、救援に向かおうとする。
『ちょっとまった!!』
だが通信でクロノに止められる。
「なんでだよ!?このままじゃ皆が……!!」
『君はなのはを守る事に集中しろ! 敵がまだどこに潜んでいるのか解らないんだ……今フェイトの元にシンを送ったから安心しろ!』
「わ、わかった!」



「くう……!」
シグナムに吹き飛ばされたフェイトは叩きつけられたダメージで動けなかった。さらにバルディッシュは先程の攻撃で柄の部分がポッキリ折られている。
そこに、先程彼女を吹き飛ばしたシグナムが降りてくる。
「他愛もない……コアは貰っていくぞ」
抵抗しようにも身動きが取れないフェイト。
(このままじゃ……やられちゃう……!)
恐怖で身を強張らせるフェイト、その時、彼女達の間に一人の翼を生やした少年が割って入ってきた。
「させるかぁぁぁぁ!!!」
「何!?」
少年……シンはエクストリームブラストの高速移動の勢いを使ってシグナムに対してとび蹴りを喰らわせる。
「ぐおおおおお!!!!」
シグナムはそのまま建物の外まで吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫かフェイト!」
「いやあ、奇襲が見事に決まってよかったです。」
「シン! デスティニー! ありがとう!」
フェイトは痛む体で顔を歪めながら無理やり立ち上がる。
「バルディッシュ、まだ戦えますか?」
[問題ありません]
バルディッシュはそのまま自己修復で元の姿に戻る。
「よし……それじゃなのはの仇を討ちに行くぞ!」
「うん!」

一方その頃、吹き飛ばされて隣のビルに激突したシグナムはヴィータに助け出されていた。
「す、すまないヴィータ、まだ伏兵がいたとは……油断した」
「畜生、管理局め……いつか戦う羽目になると思っていたけど……!」
するとそこに、シグナムが吹き飛んできた方角からシンとフェイトがやって来た。
「やいやい! お前達よくもなのはをボコボコにしてくれたな! お陰で久しぶりに会うのに色々と台無しだぞ!」
「なんだあのガキ……ん?」
ふと、ヴィータはシンの傍でふよふよ浮いているデスティニーを見る。
「シグナム、アイツのデバイス……」
「む? ノワールと似ているな、まさか同型機?」

一方シンとフェイトはヴィータ達がデスティニーに気を取られている間、作戦会議を始める。
「ちょうど二対ニだな、一人ずつ相手にするか」
「私……あのポニーテールの人と戦いたい」
「んじゃ俺はあの変なウサギの帽子被ったチビをブッ飛ばす!」

シンのその一言で、ヴィータは目の瞳孔を開かせて顔に青筋を浮かべる。
「てめえ……! はやてがくれたこいつをバカにしたな! このガキ!」
「んだと! ガキって言った方がガキなんだよこのチビ!」
「うるせええ!!! このガキ!」
「チビ! 変なウサギ付けたチビ!」
「ガ―キ! ガ―キ!」
「チビチビチビチビ!」
「ちょっとシン!?」
なんだか低レベルな口げんかを始めたシンに戸惑うフェイト。
「はっはっは、小学生ですか……可愛らしいもんです」
「デスティニ~! 笑ってないで止めてよ~!」
「いいかげんにせんか!」
見るに見かねたシグナムはヴィータの脳天にげんこつを喰らわせて喧嘩を中断させる。
「いってー! なんで私だけ殴るんだよ!」
「低レベルな争いをしているからだ! こうしている間にもザフィーラは苦戦しているのだぞ!」


~シン達の頭上~

「こんのやろ~! フェイト助けに行くんだから邪魔すんなこの犬っころ!」
「犬ではない守護獣だ!!」



「なんか上も同レベルっぽいけど……」
「ええいうるさい! とにかくお前達のリンカーコアを頂くぞ!」
「シン! ここはよろしくね!」
そう言ってフェイトとシグナムは別の場所に移動して行った。
「畜生……お前のせいで怒られたじゃねえか!」
「うっせー! 知るかこのチビ!」
「カッッッチィーン!!!! もう切れた! テメエはアイゼンですり潰して粉にしてやる!」
そう言ってヴィータはシンに向かって猛突進する。



一方その頃、戦闘に遭遇したスウェンはビルの中の階段を駆け上がっていた。
「ちょちょちょアニキ!? 階段で走ったら危ないッスよ!」
「そうは言っても! 何故アイツ等が……ザフィーラとシグナムも居たぞ!」
そしてスウェンはビルの屋上にやってくる、そして彼はシグナム達が見知らぬ少年達と激しい戦いを繰り広げている光景を目撃する。
「どうなってる……!? 子供が……!? 人が空を飛んで戦っている!?」
「あれが魔法ッスよアニキ」
「魔法……シグナムが話していたがまさかこれほどまでとは……!」


そのスウェンの様子を、アースラでモニタリングしていたエイミィ達が発見する。
「艦長! 結界の中に一般人が!!」
「なんですって!? まずいわね……急いで救援を!」
ふと、ブリッジに来ていたヴィアはモニターに映るスウェンのポケットに入っているノワールを発見する。
「あれは……ノワール!? なんでこんなところに!?」


そしてシグナム達から離れた場所にいたシャマルや、戦っている最中のザフィーラ達もまた、スウェン達を発見し動揺する。
「す、スウェン!? ノワール!? なんでこんな所に!?」
『スウェン……!? ば、バカな!? 何故ここにいる!?』
『すまないシャマル! 我々は手が離せない! 代わりに奴を保護してくれないか!?』
「わ、わかったわ!」
シャマルは慌てて闇の書を伴ってスウェンの元に飛んで行った。


一方スウェンはどうしたらいいか解らず、ただ屋上でオロオロとシグナム達が戦っている様子を見ていた。
「何故アイツ等はこんな事を……ノワール、何か知っているか?」
「オイラは何も聞いてませんッス」
「とりあえず……シャマルも探さなければ……。」

「スウェン! ノワール!」
すると彼等の元にシャマルがやってくる。
「シャマル……!? どうしたんだその格好? まさかお前も……」
「あ、あの……説明している暇はないの! とにかく今はこの場から離れないと……!」
その時、シャマルは突如出現した光の輪により拘束され、身動きが取れなくなる。
「きゃあ!?」
「シャマル!?」
「どうやら上手く言ったみたいだな……プレシアの時の教訓を生かして問答無用でバインドを掛けて正解だな」
すると上空からS2Uを持ったクロノが降りて来た。
「な、なんだお前は!?」
「管理局……! しまった……!」
「まさか一般人を保護しに来たらそれと遭遇するとはな……闇の書」
そう言ってクロノはシャマルの傍でふよふよ浮いていた闇の書を睨みつける。
「闇の書の事を知っているの……!?」
「成程、あそこでフェイト達と戦っているのは闇の書の騎士か、とにかく……僕と共に来てもらおうか」
クロノは間髪いれずシャマルを連れて行こうと彼女に近付く。するとその間をスウェンが遮った。
「ま、待ってくれ! シャマルを一体どうするつもりだ!?」
「なんだ君は? 彼女の関係者か? なら一緒に来てもら……」
「そりゃ!」
次の瞬間、ノワールがポケットの中から飛び出し、魔法を使ってクロノを遠くまで吹き飛ばした。
「うわああああ!?」
「ノワール!? 一体何を!?」
突然の事態にスウェンはノワールに詰め寄る、しかしノワールは怯む様子もなく淡々と語り始めた。
「アニキ……このままじゃシャマル姐さんだけじゃない、他のみんなも危なくなる。今管理局に捕まるのはヤバい」
「ノワール……?」
「なんとかしてこの場を切り抜ける必要がある、その為には……アニキの力が必要ッス。」
「お、俺の力……? うっ!?」
その時、スウェンの胸の奥で何かが蠢き、彼は胸を押さえて蹲る。

そしてその様子に戦っている最中のシンとフェイトも気付いた。
「この魔力反応……!?」
「まさか……ジュエルシード!?」

「なんだこれは……!? き、気分が……!」
「なんでアニキがその石を取りこんでいるのかは知りません、でもその力を使えばはやて姐さん達だけじゃない、あの子も救える筈……」
ノワールは真剣なまなざしでスウェンを見続ける、それに対してスウェンはノワールの真剣な様子を見て自分が何をすべきかなんとなく悟った。
「よく解らないが……俺が何をすべきか、お前は解っているんだな?」
「ええ、オイラの力……存分に使ってください、使い方は戦いながら教えますんで」
「……信じるぞ」

そしてスウェンは瞳を閉じ、ノワールを自分の元に寄せた。その瞬間彼の体は光に包まれ、背中には機械的な翼が、腰には二丁の拳銃が装備される。
「これが……俺……」
「マイスタースウェン、命令を」
ノワールはいつものおちゃらけた雰囲気ではなく、まるで気高き騎士のような凛とした表情でスウェンを見る。
「……とにかくまずはシャマルを助けるか」
そう言ってスウェンはシャマルのバインドを解き、彼女を抱き起した。
「す、スウェン、ノワール、その姿は……?」
「説明は後ッス、とにかく今はこの場を切り抜けることが先決ッスよ」
「後で話して貰うぞ、お前達の目的を……」
そう言ってスウェンは腰に装備された二丁の銃……ショ―ティーを手に取り、戻ってきたクロノと対峙した。
「君は彼等の仲間か!? どおりで結界の中に……一緒に来てもらうぞ!」
「すまない、状況がよく飲み込めないのだが……アイツ等が理由も無く戦う筈はない、なら俺は……」

スウェンはそのまま、銃口をクロノに向けた。
「俺はこいつらを家に連れて帰る、それがはやてとの約束だから」


運命は、再び交錯する……。










本日はここまで、次回は戦闘をチョロっとやって日常パートに移行ですかね。
予定より投稿が遅れて申し訳ございませんでした、ちょっとパソコンにトラブルがありまして……直ったのでいつもと違う時間帯に投稿させていただきました。
次の投稿は木曜日になります、感想のレス返しもその時に。



[22867] 第二話「新たなる生活」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/03 20:52
 第二話「新たなる生活」



スウェンがノワールを使ってセットアップしたその数分前、シンとフェイトは二手に分かれて襲撃者の対処に当たっていた。
「ふっ……中々やるな」
「そっちも……!」
「おら! ぶっ飛びやがれ!」
「そうはいくかー!」
二人はヴィータとシグナムの攻撃を掻い潜りながら隙を見て近接攻撃を仕掛ける……が、ことごとく防がれてしまう。
(この人、強い……!)
「もらった!」
そして少し上の技量と経験の差により、フェイトはシグナムの一撃を受けビルまで吹き飛ばされてしまった。
「きゃああああ!!!」
「フェイト!!?」
「はん! 次はテメエだ!」
そう言ってヴィータは動揺するシンに向かってグラーフアイゼンを振り降ろす。
「こ……このやろおおおおお!!!!」
その時、フェイトを傷つけられた事により怒ったシンの中で種が弾けるイメージが発生する、そしてシンはそのままヴィータの一撃をかわし彼女の横に回りこむ。
「は、早い!?」
「くらええええ!!!!」
シンは勢いよく体を捻ってヴィータの顔目がけて回転蹴りを放つ。
「うわ!」
ヴィータはそれをアイゼンで防ぐが、シンの一撃は彼女の予想を遥かに上回っており、彼女はそのままビルの屋上の貯水タンクに激突した。そしてその拍子に彼女が被っていた赤くてウサギの人形が縫い付けられている帽子もどこかに飛んでいてしまった。
「うわあああ!!!?」
「ヴィータ!」
「次はお前だ!」
シンは間髪入れず次はシグナムに襲いかかる。
「ぬう!」
「でやあ!!」
アロンダイトとレヴァンティンがぶつかり合う金属音が辺りに鳴り響く。
(なんだこの少年は……!? 急に強くなった……!?)
「うりゃあああ!!!」
シンはそのまま背中の翼を大きく広げ、鍔競り合いをしている相手のシグナムを力ずくで押し出す。
「ぬうううう!!!」
「おおおおお!!!」
そしてシンはアロンダイトでレヴァンティンを弾くと、シグナムの腹部目がけてパルマフィオキーナを放つ。
「いっけえええええ!!!」
「なっ……!?」
シグナムはそのまま大爆発を起こし、ボロボロのまま地上に落下していった。
(馬鹿……な……! 私達がこうも簡単に……!)
「よし……デスティニーはフェイトを頼む、俺はアイツ等を捕まえに……。」
「……! 主!」
その時、デスティニーは何かの危機を察知しシンに声を掛ける、すると彼の足にワイヤーが絡みついた。
「うわ!? 何だコレ!?」
「この武装……まさか!?」
デスティニーはワイヤーが放たれた方角を見る、そこには先程ノワールとセットアップしたスウェンの姿があった。


「シャマル! お前は2人を連れて脱出しろ! 殿は俺が務める!」
「で、でも……」
「早く行け!」
「う、うん!」
シャマルはスウェンに言われた通りにシグナムとヴィータが倒れている場所に向かう。
「逃がすか!」
その後を追おうとするクロノ、しかしスウェンは空いている方の手からもワイヤーを射出しクロノの体に巻きつける。
「な……!?」
「フン!」
スウェンはそのままシンを縛っているワイヤーを引っ張り、彼をクロノ目がけて叩きつける。
「うぎゃ!」
「うわっ!」
そして続けざまに彼等に向かって二丁拳銃型のビームライフル、ショ―ティーのビーム弾を何十発も放つ。
「やったか……?」
「アニキそれフラグ!」
すると爆煙の中からシンが飛び出してくる、クロノが展開した魔力シールドで攻撃から逃れたのだ。
「やろおおおお!!!」
「ノワール! フラガラッハ!」
「あいよ!」
スウェンは背中に装備されている翼から二対の剣……フラガラッハを手に取り、シンのアロンダイトを受け止める。
「アンタ! 一体何なんだよ!? アイツ等の仲間か!?」
「いや……居候のようなものだ」
激しい鍔競り合いを繰り広げるシンとスウェン、そんな中デスティニーとノワールは皆に気付かれないよう念話で会話する。


(ノワール……何故アナタがそこに? それに彼はもしや……)
(久しぶりだなデスティニー、俺がここにいるのは偶然さ、7か月前の騒動でどういう訳かこの世界に辿り着いてな……しかもマイスターまでこの世界でめぐり会えちまった、いやあ……これも運命か何かだろうな)
(何故彼がこの世界に……)
(デスティニー、一応気を付けた方がいい……ちょっと調べてみたんだけどマイスターをこの世界に送り込んだ連中は……)
(ですね……しばらく演技していた方がいいでしょう。誰が敵なのか、誰が味方なのか解らないうちは……)


一方スウェンの近くに浮くノワールに気付いたシンは、戦いながらスウェンに問いかける。
「その妖精……それに魔力、アンタもジュエルシードを拾ったのか!?」
「ジュエルシード? 一体何の事だ? お前は俺の何を知っている?」
「しらばっくれるなあああああ!!!」
シンは右手をアロンダイトから離し、ビームライフルを手にとって銃口をスウェンに向ける。
「ぬお……!」
スウェンは銃口からビーム弾が放たれる瞬間、体を捻らせて攻撃を避ける。
「そ、そんな避け方ありかよ!?」
「……!」
スウェンはそのままシンとの距離をとり、地面に向かってショ―ティーのビーム弾を放ちコンクリートの破片を宙に舞いあがらせる。
「うわっ!」
「目くらまし!?」
そしてスウェンはシンとクロノが怯んだスキに空へ逃げ出した。
(シャマル姐さん! 他の皆は!?)
(大丈夫! ザフィーラとも合流できたわ……悔しいけど撤退しましょう!)
そしてスウェンとヴォルケンリッターの面々はそのまま猛スピードでその場から逃げ出していった……。
「待て! 逃げるな!」
「主……もう無理です、これ以上の深追いは無意味です」
(ああ! にげちゃう……! ご、ごめんクロノ君、こっちでもロストしちゃった……)
「クソッ! あの魔導師が持っていた魔術書……!」
するとそこに、先程シグナムに吹き飛ばされて負傷したフェイトを抱えたアルフと、同じく負傷したなのはを抱えたユーノが飛んできた。
「シン!」
「ごめん……! あの野郎に逃げられちまったよ……」
「フェイト! なのは! 大丈夫なのか?」
「う、うん……皆、助けてくれてありがとう」
「お礼は後にしましょう、今はとにかく……アースラに戻ってお二人の傷を癒してあげましょう」
「うん……」
ふと、シンはスウェン達が飛び去って行った方角を見て、歯ぎしりをする。
(あいつら……一体何なんだよ……! ん?)
その時、シンはすぐ近くにヴィータが被っていた赤い帽子を発見する。
「これ……確かあのチビが被っていた……」
シンはその帽子を拾い上げ、そのままフェイト達と共にアースラに転移していった……。



その頃先程戦闘を行ったビル街から大分離れた場所にある公園、そこでシグナムとヴィータはシャマルの治療を受けていた。
「くっそー! あのガキ何者だよ! 私達の邪魔をして……!」
「暴れないでヴィータちゃん、治療できないわ」
「ついに我々も管理局に補足されたか……」
「ああ、これからは動きにくくなるな」
そう言ってシグナムは自分の腕に巻かれた包帯を見る。
「その傷……あの少女につけられたのか」
「ああ……中々の腕だった、一歩間違えればやられていたのは私の方だった」
ふと、治療を終えたヴィータは皆と少し離れた場所で腕組をして考え事をいているスウェンと、彼の肩の上にもたれかかっているノワールを見る。
「その……助かったよスウェン、ノワール……お前達にも魔法が使えたんだな」
「それが解ったのはついさっきだがな……ノワール、お前は一体何なんだ?」
「さー? オイラ生まれたばっかりだから解んないッス~……で、今度はこっちが質問していいッスか?」
その瞬間、シグナム達は一斉にスウェンとノワールから目線を逸らす。
「……言いたくないのなら言わなくていい、だが少し失望したぞ……お前達とその闇の書の役割は知っている、しかしそれは主であるはやてに咎められていた筈だぞ? それなのにお前達は……」
「ち、違うのよスウェン!」
スウェンの失意混じりの言葉をシャマルは必死に否定する、しかしスウェンはそれでも厳しい言葉を掛け続けた。
「何が違うって言うんだ? あの子達が何者かは知らないがあんな年端もいかない子達を襲うとは……」
「…………!」
すると耐えきれなくなったヴィータがドカドカとスウェンに近付き彼に掴みかかる。
「うるせえ! 何も知らないくせに……! 私達が……私達がああしなきゃ……! 手を汚さなきゃ……!」
「……」
スウェンはそのヴィータの鬼気迫る様子に何も言えずに圧されていた。


「私達が戦わなきゃ……はやてが死んじゃうんだよぉ!!」


数分後、スウェンとノワールはシグナムやシャマルから総ての事情を聞き出した。
「つまり……はやて姐さんはその闇の書の呪いで近い将来死んじまうってわけですかい」
「ああ、足が不自由なのも呪いの影響だ……それから逃れる為にはリンカーコアを集めて闇の書を完成させ、主を真の闇の書の王に覚醒させなくてはならないのだ」
「リンカーコア……お前達魔導師が持つ魔力の源か……」
一通り話を聞いたスウェンは、軽く放心状態に陥っていた。
(そんな……はやてが死んでしまうなんて……そう言えば最近、体の調子が悪そうだったな……)
「スウェン……この事ははやてちゃんに黙っていてくれない? あの子に余計な心配は掛けたくないの」
「人殺しは絶対しないと誓う、はやての手は汚したくないから……」
シャマル達の懇願に対し、スウェンは特に断る理由もなかった。
「そういう事情なら仕方がないだろう……それではやてを救えるんだな?」
「ああ」
「……」
そんなスウェン達の様子を、ノワールはただただ考え事をしながら黙って見守っていた……。

その時、ザフィーラはヴィータの姿を見てある事に気付き彼女に声を掛ける。
「む? そう言えばヴィータ、帽子はどうしたのだ?」
「え?」
ヴィータはとっさに自分の頭を触り、いつも被っているゲボウサ付きの帽子が無い事に気付く。


「な、ない! 私の帽子が……無くしたあああああああ!!!?」




一方その頃次元の狭間にある時空管理局基地では、治療を受けたなのはが収容されている病室にシンとフェイトが見舞いに来ていた。
「なのは、もう大丈夫なの?」
「うん、お医者さんが君は若いから治りが早いって言ってた」
「ごめんな……俺たちがもっと早く駈けつけていれば怪我なんてさせなかったのに……」
「そんなことないよ、みんなが来てくれなかったら私……もっとひどい目にあっていたと思う、助けてくれてありがとう……それと……久しぶりだね」
なのはは改めて二人と再会できた喜びを伝える。
「うん、なのはも元気そうでよかった」
「久しぶりの再会がこんな形になっちゃったけど……でもまたみんな一緒だな」

「すまない、邪魔するよ」
するとそこにクロノがやってきた。
「なのは、もう大丈夫なのかい?」
「うん……クロノ君、あの人達が誰かわかった?」
「ヴィアさんの話ではなのはの世界を中心に魔導師を襲っている奴らがいるって聞いたけど……アイツ等なのか?」
「うん、同一犯なのは間違いない、そしてどうやら彼女達は『闇の書』の守護騎士のようなんだ」
「「「闇の書?」」」
数分に渡ってクロノから闇の書について説明を受ける三人。
「ふ~ん、じゃあその闇の書っていうのが完成したら世界が滅びるぐらい大変なことになるのは間違いないんだな?」
「事実十一年前にも闇の書による暴走事故が起きている、あれは非常に危険なロストロギアなんだ」
するとフェイトとシンはお互いの顔を見合わせ、こくりと頷く。
「なあクロノ、俺とフェイトも今回の事件を手伝わせてくれないか?」
クロノはシン達ならそう言うだろうと思っていたのか、驚きはしなかった。
「いいのか……? 君達は本来関係の無い立場なんだぞ?」
「私達ばっかり遊んでられないよ……アルフだって手伝ってくれる」
「それにお前らは大切な友達なんだ、あの事件でみんなに迷惑をかけた償いって意味も含めて協力したいんだよ」
「そうか……ありがとう」
「おにーちゃーん」
するとそこに、今度はマユが眠そうな目を擦りながらシン達の様子を見にやって来た。
「マユ? 駄目じゃないか……もう寝る時間だぞ」
「だって……おにいちゃんやフェイトおねーちゃんが心配だったんだもん……」
「シン君、もしかしてこの子……」
「ああ、そういえばなのはは初めてだったな、俺の妹のマユだ」
「おにーちゃん、この人は?」
「俺の友達のなのはだよ、挨拶しような」
「なのはさんはじめまして!」
そう言ってぺこりとお辞儀するマユを見て、なのはは自分の落ち込んでいる気持ちが少し晴れていくのを感じていた。
「ふふ……マユちゃんエライね、ちゃんと挨拶できるんだ」
「そーだろそーだろ!」
「なんで君が偉そうにするんだ?」

その時、マユはシンの手に赤い帽子が握られているのを見付ける。
「おにーちゃんそれなーに? 可愛いうさぎさんだね」
「ああこれ? あのチビが被っていた帽子……」
「ねー、それマユにちょーだい」
「えっ!?」
マユの予想外の要望に困惑するシン。
「だ、駄目だよマユ、コレは後でリンディさんに証拠の品として……。」
「えー! やだやだ欲しいー!」
そう言って地面に転がって駄々をこね始めるマユ。
「にゃはは……こういう所は子供っぽいんだね。」
「そ、そうだね……。」
「その帽子くれなきゃやーだ! おにいちゃんなんてきらいー!」
「えー!? じゃあハイ。」
嫌いと言われた途端、あっさり帽子を明け渡すシン。
「ちょ!? 何勝手な事しているんだ君は!? それ証拠の品!」
「いーじゃんいーじゃん、あれ別に特別なモンでもなさそうだし……マユが笑ってくれるならそれでいーじゃん。」
「そういう問題じゃなあああああああい!」
そしてぎゃいぎゃい言い争いを始めるクロノとシン。
「シン君……まさか……シスコン?」
「シスコン……シンがお兄ちゃんなら我儘いい放題……」



病室がちょっとした騒ぎになっていた頃、ブリッジではエイミィが先ほどの戦闘データを纏めている横でリンディ、ヴィア、そしてデスティニーとシンの父が今後のことについて話し合っていた。
「じゃああの銀髪の少年が使っていたデバイス……ヴィアさんが開発したデバイスだっていうのかい?」
「はい、直接戦闘したうえで確認しました、ノワールは私と同時期に開発された同型のデバイスです」
「まさかPT事件の後に海鳴に流れ着いていたなんて……それが闇の書の騎士に渡ってしまったわけね」
「いえ、ノワールを使用していた少年はどうも騎士達とは違うみたいなんです。これを見てもらえますか?」
そう言ってエイミぃは採集したスウェンのデータをリンディ達に見せる。
「この魔力値……やはりジュエルシードですか、彼もシン君のように疑似リンカーコアを体の中に保有しているんですね」
「大方ノワールとセットで拾ったか……とにかく彼のことも徹底的に調べる必要があるかもね、もしかしたら彼が主である可能性も……」
「……。」
デスティニーは大方の事情を知っているにも拘らず、リンディ達や創造主であるヴィアに話すことはなかった。
(今は知らないフリをしていたほうがいいですね……今は誰が味方で誰が敵なのかわからない状態ですからね……)

「ま、これ以上悩んでもしょうがないですね、こんな事件があった以上アースラはそのうち来る命令でこの世界に常駐しなくてはいけませんし……」
「早くアスカさん達の引っ越し作業も進めないといけませんね。」
「すみません、こんな忙しい時に我々のことまで……でもいいんですか? 敵がなのはちゃんをもう一度襲わないという保証はないんでしょう?」
そのシンの父のもっともな意見に対し、リンディの頭の中であるアイディアが閃く。
「そうだ、せっかくですし……あの作戦でいきましょうか」
「「あの作戦?」」





数日後、海鳴市のとあるマンションの一室。シン達アスカ一家は管理局員たちと共に引っ越しの作業を進めていた。
「へえ~、今日からここに住むのか~」
「ふわー! 高い高い~!」
アスカ兄妹はベランダに出て海鳴の景色を見て感嘆の声を上げる、すると中で作業をしていたクロノがシンに声を掛けてくる。
「シン、遊んでないで荷物を運ぶのを手伝ってくれ」
「あ、ごめんごめん。」
そう言って荷物をもって自分達が暮らす部屋に入るシン、そこに、
「あ!シン見て見て!」
動物モードになったユーノとアルフ、そしてそれを愛でるなのはとフェイトが出迎えた。
「ジャーン!こいぬフォーム~」
「うお!? アルフがちっちゃくなっている!?」
「わ~! かわいいな~!」
「ユーノ君も久々にフェレットモードだよ~」
「エヘヘ……どうも……」
「うわー何度見ても凄いなソレ、どうやんの? 俺にもできる?」
作業中ということも忘れて、シンはアルフ達を撫でる。
「まったく……」
クロノはその光景を見ながら荷物を置き、テーブルのイスに座る。
「お疲れ様クロノ君」
そう言ってエイミィはクロノにジュースを渡す。
「それにしてもみんなああやっていると歳相応の子供だよね」
「そうだな……」
するとそこに作業を一通り終えたシンの母親もやってくる。
「でも驚いたわ、まさかあなた達も海鳴に……しかも私たちのお隣に引っ越してくるなんて、リンディさんも意外と大胆なことするわねー」
「ははは……うちの母は昔からそういう人ですから」
「ま、これも大事な任務のうちですし……ああやってフェイトちゃんもなのはちゃん達にいつでも会えるから一石二鳥なんですよ」

ピンポーン

「あれ? お客さんかな? ハイハーイ」
チャイム音がして、エイミィは玄関へ向かう。
「誰か来た?」
「あ!もしかして!」

「やっほー!遊びに来たよー」
「おじゃましますー」
「どうぞどうぞ~あがってー。」
エイミィが連れてきたのは金髪と紫髪の少女だった。
「あ!アリサちゃーん!すずかちゃーん!」
二人に駆け寄るなのは、そのあとをシン達も付いて行く。
「もしかしてこの子達がなのはの言っていた…?」
「はじめまして……て言うのも変かな?ビデオメールで何回も会っているし…。」
嬉しそうに金髪の少女アリサと紫髪のすずかはシンとフェイトにあいさつをする。
「うん、私も会えて嬉しいよアリサ、すずか」
「俺シン・アスカ、よろしくな。こっちは妹のマユ」
「こんにちは~」
シンとフェイトとマユも挨拶を返す。
「へえ、アンタがシン・アスカね。フェイトの友達で確かお父さんの仕事で越してきたのよね? 私と一緒だー」
(そういやこいつらの前ではそんな設定で通すんだったな。あながち間違ってないし)
「……おねーちゃんたちもなフェイトおねーちゃんとなのはおねーちゃんのおともだち?」
「そうだよー、かわいい妹さんだねー」

「あらあら、賑やかね」
そこに引っ越し作業を終えたリンディがやってくる。
「あれ?リンディさんどうかしたんですか?」
「私とアスカさんのところの引越しの作業も終わったし、そろそろなのはさんのおうちに挨拶をしに行こうと思っているのよ、みんな用意しておいてね」
「「「「「はーい。」」」」」
そしてリンディは台所に向かっていった。
「ねえねえ、今の人フェイトのお母さん? 綺麗な人だよねー」
「えっ!?」
アリサの質問にフェイトは驚き、
「今は……まだ違うよ」
顔を赤くして答えた。
(フェイト……)


シンはその光景をみて、先日アースラのエレベーターで会った時のリンディとの会話を思い出していた。

『フェイトを養子に?』
『ええ、アリシアさんも一緒にね、答えを出すのは裁判が終わってからでいいとは言ってはおいたんだけど……やっぱりまだ悩んでいるみたい』
『俺はいいと思うけどなー、リンディさんがフェイトのお母さんになるのは……』
『ありがとう、でねシン君……もしフェイトさんが悩んでいるようなら彼女の相談に乗ってあげてくれない?』
『いいですよ。プレシアさんのことは俺にも責任があるし……』
『シン君……』



「どうしたのシン君? 考え事?」
心配そうにすずかがシンの顔を覗き込んでくる。
「……いや、なんでもない。それよりも早く行こう、なのはの家ってたしかお菓子屋さんなんだよな」
「ちがうよ~喫茶店だよ~」
「わーい、おでかけだー」
そう言ってマユは段ボールの中から赤くてウサギのぬいぐるみが付けられた帽子……先日の戦闘でシンが回収したヴィータの帽子をとりだし、それを被った。
「おー、可愛い帽子だね? それどうしたの?」
「おにいちゃんがくれたのー」
「ま、早めのクリスマスプレゼントさ。」
マユはヴィータの帽子がすっかりお気に入りになってしまい、無理に奪おうとするとくずるのでクロノが結局折れて彼女の所有物になったのだ。
「クリスマス本番もプレゼントあげるからなー」
「わーい、おにいちゃんだいすきー」
「大好きだなんてそんなウへへへへ」
(((シスコンだ……)))
(いいなぁマユちゃん……)


そんな和やかな空気を醸し出すアスカ家とハラオウン家、するとハラオウン家の隣の部屋の住人がちょうど帰って来ていた。
(あれ……? 今日引っ越してきた人かな? 早速どこかに出かけるのかな?)
その時、ハラオウン家の方からクロノとエイミィが出て来て、隣の住人と目が合う。
「あ、お隣さんですか、私達今日隣に引っ越してきたハラオウンです。」
「ど、どうも……外国の方ですか?」
「まあそんな所です、今後ともよろしく……」
ふと、クロノは挨拶しようとして相手の名前が解らない事に気付く。
「あ、すみません……自己紹介がまだでしたね、僕は沙慈・クロスロード、聖祥大付属小学校の四年生です」


数時間後、引越しの挨拶のため皆はなのはの実家である喫茶店翠屋にやってきた。
「ふーん、ここがなのはの実家か、確か剣道場もやっているんだっけ? 俺も習ってみるかな?」
「いいよ、私がお兄ちゃんに話しておいてあげる」
そしてシンたちはオープンテラスでテーブルを囲んで談話していた。
「わ~ユーノ君久しぶり~」
「キュキュ」
「あんたってどこかで見たことあるのよね……」
「クゥ~ン(汗)」
(……? なんでアリサがアルフのこと知っているんだ?)
不思議に思ったシンは念話でなのはに質問する。
(アルフさんがプレシアさんにやられてケガしてるところをアリサちゃんが助けたんだよ、ヴィアさんも一緒にね、私もビックリしちゃった)
(へえ……見た目凶暴そうだけどいいヤツなんだな~)
(見た目じゃなくてアリサちゃんは本当に凶暴だよ)
その時アリサの額に閃光(ニュータ○プのアレ)が走った。
「なんだろう……今すごく失礼な事言われたような気がする」
「いい!?」
「きっ……気のせいなんじゃないかなー?」
「そう……? あやしい……」

その時、シンは隣にいたマユの口元に彼女が食べていたショートケーキのクリームが付いているのを発見する。
「ほらマユ、お口にクリーム付いているぞ」
そう言ってシンはそのクリームを指で取り、そのままその指を舐めた。

(……シン、私のも取ってくれるかなぁ)ぺたぺた
(フェイトちゃん……私のは取ってくれるかな?)ぬりぬり
(なによ兄妹でいちゃいちゃして! でも……なのはなら取ってくれるかな?)ちょんちょん

「??? なんでフェイトおねーちゃんとなのはおねーちゃんとアリサおねーちゃん、じぶんでじぶんのおかおにクリームぬってるの?」
「マユちゃ~ん? アナタは真似しなくていいからね~?」
するとそこに、突然見知らぬ青年がシン達に声を掛けてきた。
「あっ、君がフェイトちゃんにシン君、ここにいたんだね。」
「え? はいそうですけど……あれアレックスさん? どうしたんですか?」
「リンディ提督に頼まれていた品、持ってきたよ」


一方リンディ達やシンの両親はなのはの両親に挨拶をしていた。なのはの両親、士郎と桃子はここで子供達と共に喫茶店を経営しているのだ。
「そういう訳でこれからしばらくご近所になりますのでよろしくお願いします」
「ウチの子供達共々お世話になります」
ペコリと頭を下げるリンディ達。
「いえいえそんな」
「こちらこそウチの娘がお世話になって……ところでフェイトちゃんとシン君三年生ですよね、学校はどちらに?」
「それはですね……」
そこに大きめの箱を二つ持ったフェイト達が店の中に入ってくる。
「あのリンディていと、リンディさん、これ……」
「はい、なんでしょう?」
フェイトは先程の青年から貰った箱を開けてみせる。その中にはとある小学校の制服が入っていた。
「転校手続きは取ってあるから今月から二人ともなのはさんの学校に通ってもらう事になります」
「二人って……俺も!?」
自分も一緒だということを想定しておらず驚くシンに、両親はすぐさま事情を説明する。
「はは、こんな事もあろうかとリンディさんに同じ学校に入れるよう手配してもらったんだよ」
「顔見知りの子と一緒の方が学校生活に馴染みやすいでしょ?」
「ほう聖祥小学校ですか~あそこはいい学校ですよ、なあなのは?」
「うんうん!」
なのははフェイト達が自分と同じ学校に通うと知って、とても嬉しそうに頷く。
「へえ~、よろしくねフェイト、シン」
「学校でも一緒なんだね~嬉しいな~」
「ありがとう! 父さん! 母さん!」
様々な反応をみせる子供達、そしてフェイトは、
「あの……その……ありがとうございます……」
制服が入っている箱を抱きしめながら、頬を赤く染めてリンディにお礼を言った。










今日はここまで、沙慈はまだ東京に引っ越す前、両親はもう亡くなっているという設定です。絹江さんも近いうちに出す予定なのでお楽しみに。

次回の投下は土曜日になります。



[22867] 第三話「青き清浄なる世界」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/05 21:35
 第三話「青き清浄なる世界」


なのは襲撃事件から数日後、八神家では夕飯の支度をするためはやてとシャマルが近くのスーパー「MIKUNIYA」に買い物に来ていた。
「今夜はみんなで鍋でもしようか、最近めっきり寒くなってきたなあ」
「ですねー、こういうときは温かいものが一番ですから」
そう言いながらシャマルははやての車いすを押しながら、鍋の材料その他諸々を買い物籠に入れていき、レジで会計を済ませてスーパーの出口にやってくる。
「はやてちゃん、ちょっと待っていてくださいね」
スーパーの外へと通じる扉は自動式ではなく手動式となっており、はやての車いすを押していたはやては一旦手を離し扉を開いたまま固定してからはやてを外に出そうとした、その時……。
「はい、どうぞ」
二人の様子を背後から見ていた買い物籠をもった主婦がシャマルの代わりに扉をあける。
「あ、すみませんありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
そう言って主婦ははやてとシャマルが外に出たのを確認すると、自分はさっさと我が家へと歩いて行った……。
「親切な人やったなあ」
「見かけない人でしたけど最近引っ越ししてきた人でしょうか?」

そして数分後、二人は皆が待つ我が家に帰宅する。すると玄関でシグナムと狼形態のザフィーラが出迎える。
「みんなただいまー」
「主はやて、おかえりなさいませ」
「お、みんなも帰ってきてたんか、今日は早いなあ」
「ええ……。」
するとそこに、自室から出てきたスウェンが二人に話しかけてくる。
「もうすぐ夕飯か……作るの手伝うぞ」
「おおきに、そういえばヴィータは?」
「ああ、二階でノワールとゲームしている」
「なはは、あの子も好きやねぇ」

その頃二階では、ヴィータとノワールがとある格闘ゲームで対戦していた。ちなみにノワールの体長は30センチほどしかないのでコントローラーは握れないのだが、その代りコントローラーに乗って足でキャラクターを動かしていた。
「隙有り! もらっとぅわー!」
「し、しま……!」

アボーン!

「あぁー! 私のT・○ークがあああ!!!」
「いえーい! オイラ十連勝ッス~! ブ○ンカ最高~!」
「ちくしょー……どうやったらそんな小さな体で複雑なコマンド入力できるんだよ……」
そう言ってヴィータはコントローラーをぽいっと放り出し、床にゴロンと寝転がった。
「ヴィータの姉貴、最近キレが悪いッスねえ……いつもなら『もう一戦だ!』って言って突っかかってくるのに……」
「んなことねーよ、ちくしょう……」
(やっぱ帽子無くしたのがショックだったんだなぁ……)
ヴィータはなのはを襲撃した際、シンの攻撃により自分のお気に入りのウサギのぬいぐるみを付けた帽子を紛失していた、後日何度か探しに行ってはいるのだが、結局見つけることができず今日までに至ったのだ。
「姉御、元気」だしてくだせえ、あの帽子はきっと見つかりますって」
「うん……」
するとそこに、はやての相棒である闇の書がふよふよと浮きながらヴィータ達のいる部屋に入って来た。
「お、闇の書じゃないッスか、どうやら夕飯の時間のようッスね」
「え? もうこんな時間か、行くぞノワール」
そしてヴィータはノワールと闇の書を伴って皆の待つ居間に向かうのだった。



その日の夕方、はやてが台所で夕飯の準備をしていた頃、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラはバリアジャケットを身にまとい、リンカーコア収集のため異世界に出撃しようとしていた。
「それではスウェン、主を頼んだぞ」
「ああ……」
そんな彼らを、スウェンとノワールは見送ろうとしていた。
「姐さん……ホントにオイラ達は手伝わなくていいんスか?」
「ああ、お前たちはもしもの時のために主を守ってくれ」
「わかった……」
「じゃあな、頼んだぞ。」
そしてシグナム達はそのまま星が輝き始めた夕方の空に飛び立って行った。そしてそれを見送ったスウェンは隣にいたノワールにある疑問を打ち明ける。
「……ノワール、シグナム達がやっている事は本当に正しいのか?」
「さあ? アニキはどうしてそう思うんスか?」
「いや……なんとなくだ。」
そう言ってスウェンは自分の胸辺りをギュッと握りしめる。
(シャマルは……リンカーコアという魔力の源をもつ人間じゃないと魔法は使えないと言っていた、じゃあ俺は何故あの時戦えたんだ? 何故みんな……本当のことを話してくれないんだ?)
ふと、スウェンとノワールの体に12月の冷たい風が吹きつける。
「うわっさぶっ! アニキー、早く家に入りましょうや」
「ああ……」


一方出撃したシグナムとシャマルは飛行しながらスウェンのことについて話し合っていた。
「シャマル……あいつのリンカーコア……」
「ええ、ちょっと調べてみたんだけど、あの子の体の中にリンカーコアの代わりに魔石のようなものが存在していたわ、魔法が使えたのもおそらくそれの……」
「……しばらく様子を見たほうがいいかもしれんな、ノワールも……奴も何か隠している」
「家族を疑うような真似はしたくないけどね……」



さて、ここで時間をその日の朝に戻します。


ある日の朝、シンは自宅で朝食を済ませて聖祥小学校の制服に着替えていた、その隣ではシンの父が管理局から支給されたリンディやエイミィが着ている制服の男性バージョンの制服に着替えていた。
「どうだシン? 学校には慣れたか?」
「うん、みんな面白い子ばっかりで楽しいよ、そういう父さんはどうなの?」
「はっはっは、ちょっとまだ慣れないかな……私のような他所者が馴染むにはまだ少し時間がかかるみたいだ」
「そっか……がんばってね、リンディさんも相談に乗ってくれると思うし」
「そうだな、それじゃ行くとするか」
するとアスカ家のインターホンが鳴り響き、シンの元に彼の母親がやってくる。
「シンー、フェイトちゃんが来たわよー、早く準備しなさーい」
「あ、はーい」
「それじゃ私もリンディさんとアースラに行くからな」
「うん、気をつけてね、ヴィアさんにもよろしく」
そしてシンは玄関に向かおうとしたとき、ちょうど起きてきたばかりのマユとデスティニーと遭遇する。
「ふわ~……おにーちゃん、がっこーいくの?」
「うん、それじゃデスティニー、マユのことよろしくな」
「お任せください、主も事故にはお気をつけて……」

そしてシンは玄関から出て、同じく制服に着替えているフェイトと待ち合わせる。
「おはよーフェイト、いっつも迎えに来てくれて悪いな」
「いいんだよ別に、だってお隣さんだし……」
その時、アスカ家とハラオウン家の隣にある部屋の扉が急に開かれ、そこからブレザー姿の女子学生が飛び出してきた。ちなみに口には焼いてある食パンが咥えられているというお約束っぷりだ。
「大変! 遅刻する~!!!」
そして女学生はシン達に気付かず階段を猛スピードで駆け下りていった……。
「絹江さん、今日も寝坊したのかな?」
「よくあんなスピードで階段下りて転ばないよな……」
すると女学生……絹江が飛び出した部屋の中から、今度はシン達と同じ制服を身にまとった少年がため息交じりに出てくる。
「まったく……姉さんいい加減朝寝坊する癖を直してほしいよ……」
「あ、沙慈さんおはよーございます」
「おはようございます」
そして少年はシン達に挨拶されたことにより初めて彼らの存在に気付き赤面する。
「は、ははは……恥ずかしいところ見られちゃったね」
「元気なのはいいことだと思いますよー」
「あ、もうこんな時間、そろそろ送迎バスが来る時間だ、早く行きましょう」


それから数十分後、シン、フェイト、そして少年……沙慈は送迎バスを降りて海鳴聖祥学校に到着する。
「それじゃあね二人ともー」
「はーい、またあとでー」
下駄箱のある玄関で沙慈と別れるシン達、するとそこに同じく登校してきたなのは、アリサ、すずかがやってくる。
「やっほー、フェイトちゃん、シンくーん」
「あらあら、今日も二人仲良く登校ですか、うらやましですなー」
「いや、今日も沙慈さんと一緒だよ」
「沙慈さんって確かフェイトちゃんのおうちの隣に住んでいる四年生の男子だよね」
「うん、通り道が同じだから一緒に登校しているんだー」
そして5人はいつも通りの挨拶を交わし、そのまま自分達の教室に向かうのだった。

ホームルームが始まる直前、シンやフェイトは他のクラスメートからも挨拶をされていた。
「あ、フェイトちゃんおはよー、シン君もー」
「おはよー、学校には慣れたー?」
「解んないところあったら言ってねー」

「いやー、なのは達のクラスの子達っていい人ばっかりだなー」
「そうだね……」
「いやあ、あの子達は外国人の転校生が珍しいだけでしょ」
「確かフェイトちゃんはAEUのイタリアで……シン君は人革連のシンガポール出身だっけ?」
「そうだよ、お父さんが外国に行った時に知り合ったんだー」
アリサとすずかには管理局とこの世界の関係で秘密にしているので、シン達の出身地や知り合った経緯についてはいくらか誤魔化していた。
そしてホームルームが終わり社会科の授業が始まった頃、シン、なのは、フェイトは念話でこの世界について話していた。
(この世界って三つの国家群で形成されているんだっけ?)
(そうだよ、私達の国はユニオンに属していて、他にはAEUに人類革新連盟っていうのがあるの、赤道には軌道エレベーターがあって誰でも簡単に宇宙にいけるんだから)
(すごいよなー、コロニーだけじゃなくそんなものもあるなんて……この世界も進んでいるんだな)
そしてシンは教科書に視線を向ける、そこにはこの世界の歴史について小学生にも解りやすいように簡略化して記されていた。
(この世界も色々あるんだなぁ……)


その日の昼休み、校舎の屋上でシン、なのは、フェイト、アリサ、すずかはお弁当を食べていた。
「でもすごいね~フェイトとシンの人気!二人とも運動神経抜群じゃない!」
皆の話題はここ数日の授業で活躍しているシンとフェイトの話になっていた。
「えへへ……そんなことないよ、この前のドッヂボールだってすずかに負けちゃったし……」
「そうだよなー、フェイトのあのボールを投げ返すんだからなー、ホントにナチュラ……なんでもない」
「……? アンタ今何か言いかけた?」
そんなこんなで話は弾んでいた。ふと、アリサは小声でなのはに話しかける。
(ねえねえなのは)
(なにー?)
(フェイトってシンのこと好きよね?)
(うん)
見るとシンがすずかと楽しそうにお喋りしていた。その後ろで、フェイトが嫉妬心から形成された禍々しいオーラを放って二人を見ていた。
「すごいよなーすずかって……どうした? なんか震えているぞ?」
「う、ううん、なんでも……ない」

ドドドドドドドドドドドド

(あれだけ殺気を放たれたらいたたまれないわね。心なしか近くの雀も危険を察知してどっかに飛んでいっちゃった)
(でもシン君は全然気付いてないね、鈍すぎだね)
「そういえばフェイト」
なにかを思い出したのか、シンはフェイトの方を向く。
「なあに? シン」
その瞬間、フェイトの後ろの背景がどす黒いオーラから咲き誇る花に変わっていた。
(ぬお!? 変わり身早っ!)
(重圧から開放されてすずかちゃん心底ホッとしているね)
「今日も俺、恭也さんの道場に寄ってから帰るから、母さんにそう伝えておいて。」
「そっか、今日お稽古の日だもんね、わかったよ。」
「恭也さん? なんでシン君が恭也さんと……?」
「実はねー、シン君お兄ちゃんとお姉ちゃんの道場で剣術習うんだってー」
「へー、それにしてもどうして? なんか理由があるの?」
「うん……ちょっと勝ちたい奴がいるんだ……」
「「……」」


その日の放課後、アリサとすずかと別れたシン達はバスの中で先日遭遇した闇の書の騎士達の戦いについて話し合っていた。
「そう言えば今日だっけ? 壊れたレイジングハートとバルディッシュが戻ってくるの?」
「うん、メンテナンススタッフのマリーさんって人が担当しているの」
「ヴィアさんも手伝っているんだって、早く会いたいな……だから今日はこれからアースラに行くんだよ」
「俺はこのまま恭也さんの所に行くからな、今度アイツ等が出てきても……絶対に負けない」
シンはあの時の戦いでスウェンにいいようにあしらわれてしまった事を悔しがっていた。
「俺がアイツを止めていれば、あのチビ達を早く捕まえられていたのに……!」
「シン、あんまり自分を責めちゃだめだよ」
「闇の書の騎士さん達って今もリンカーコアを狙って色んな世界に出現しているんだよね、近いうちにまたここに現われるかも……」
「だな、これ以上被害を増やさない為にも、あいつ等を止めないと」

そんな彼等の会話を、断片的に聞きとって首を傾げている人物がいた、シン達と帰り道が一緒で同じバスに乗り合わせている沙慈・クロスロードである。
(フェイトちゃん達……一体何の話をしているんだろう?)
そしてシンが翠屋の近くで降り、沙慈は思い切ってバスに残っていたなのはとフェイトに先程の会話について質問してみる。
「フェイトちゃん、さっきシン君達と何を話していたの?」
「へ!? あ、いやその……」
「こ、今度放送するアニメの事ですよー」
「アニメ……? ふーん……」
なのはの咄嗟の答えにいまいち釈然としない沙慈であったが、これ以上聞いても何も答えてくれないだろうと思いそれ以上聞かなかった。
(ふう……危なかった)
(今度からはアリサ達がいなくても念話を使ったほうがよさそうだね……)


それから一時間後、高町家の裏にある剣道場……そこでシンはTシャツ姿に竹刀を持ってなのはの兄恭也と姉の美由希にあいさつをしていた。
「今日からこの道場でお世話になるシン・アスカです! よろしくお願いします!」
「うん、事情はなのはから聞いているよ、よろしくね。」
「しっかしなのはも隅に置けないねー、まさかこんなかわいい男の子と仲良くなっていたなんてさー」
そう言って美由希は正座して恭也と対峙するシンを見てウンウンと頷いていた。
「俺もお二人のことはなのはから聞いています! すっごい強い剣士なんですよね! 俺も二人のように強くなりたいんです!」
「そうか……俺たちの指導は厳しいけどついてこれるかい?」
「もちろん!」
恭也の問いに、シンは自信満々で返事をした。
「元気があってよろしい! それじゃ明日から私と恭ちゃんがみっちりしごいてあげるからね!」
「自主練習もしっかりとこなすように、基礎体力をつけることは大切だからな。」
「はい!」



それから数時間後、辺りもすっかり暗くなった頃にシンは一人自宅に向かって夜道を歩いていた。
「いって~! 手がマメだらけだ……」
シンは竹刀を振り回して絆創膏だらけになった自分の手を見つめながら空を見上げる。
「今日からずっと剣術の稽古か……俺、もっと強くなれるかな……?」
ふと、シンは7か月前のPT事件のことを思い出す、フェイトとアルフと共に戦ったこと、暴走したアリシアと戦ったこと、そして……自分たちを守ろうとしてその身を犠牲にしたプレシアとその時のフェイトの泣いている姿を……。
(俺が……俺がもっと強かったらプレシアさんが死ぬことも、フェイトに悲しい思いなんてさせなかったのに、強くならなきゃ……それなら思いつくことならなんでもやってやる!)
心に改めて決意を宿らせるシン、するとそこに……。
「あらシン、道場の稽古の帰り?」
買い物袋を持ったシンの母親と出くわした。
「あ、母さん、買い物の帰り?」
「ええ、今日は肉じゃがよ~」
「おお! やったー!」
そしてシンは母親と並んで夜道を歩き始めた。
「そう言えばさっきスーパーでシンぐらいの女の子を見かけたわ、フェイトちゃんみたいな金髪のお姉さんと一緒だったわね」
「ふーん、この町ってホント外国人が多いよねー」
「何か女の子は車いすに乗っていたわ、事故にでもあったのかしら……シンも外出するときは交通事故には気をつけなさいよ、それとこの前みたく戦う時も……」
「うん、母さんもね」


同時刻、場所は戻って八神家、スウェンははやてと共に夕飯の準備を済ませシグナム達が帰ってくるのを今か今かと待っていた。
「腹減ったッス~」
「遅いなあ皆……いつもならこの時間に帰ってくる筈なのに……」
(何かトラブルにでも巻き込まれたのか?)
テーブルを囲みながらはやて達は帰りの遅いシグナム達の身を案じていた。
「うーん……ちょっと不安になるなあ、携帯にも返事がこおへんし……スウェン、ちょっと皆を探しに行ってみよか」
「いや、行くなら俺達だけで行く、はやては家で待っていてくれ」
「で、でも……」
ふと、スウェンははやてが普段しないような不安そうな顔をしている事に気付く。
「どうした? お前らしくもない……」
「うん……なんか時々不安になるんよ、いつか近いうちに皆が急に居なくなる気がして……」
「…………」
スウェンはそのはやての言葉にどこか引っ掛かるものを感じていた。
「大丈夫だ……アイツ等を信じろ、アイツ等は黙ってはやての前からいなくなったりしない、無論……俺もだ」
「スウェン……」

プルルルル、プルルルル

するとそこに、はやての携帯電話が鳴り響き、彼女はすぐさまそれをとった。
「はいもしもし……ああすずかちゃん? どないしたん? ええ? ウチの本がすずかちゃんの家に? この前遊びに行ったときに忘れたんやな……」
どうやら相手はすずかのようだ、それに気付いたスウェンはある事を思い付き、はやてに話しかける。
「ちょうどいい……はやて、しばらくすずかの家に行っているといい、俺達はシグナム達を探しに行く」
「え? でも……」
「ちょっと携帯を貸してくれ」
そう言ってスウェンははやてから携帯を受け取り、電話の先のすずかに事情を説明する。
『そういう事情ならいいですよ、迎えを出してしばらく私の家に預かっておきますね』
「本当にすまない……この埋め合わせは必ずする」
『そんなあ、困った時はお互い様ですよ』
そしてスウェンははやてに携帯を返すと、ノワールと共に出発する準備をする。
「それじゃはやて、行ってくる、数分後にはすずかが来る筈だ」
「もう、強引やなあ……しゃあない、皆を見付けて早く帰ってくるんやで」
「ああ、行くぞノワール」
「へえええ……せめて一口……」
「……早くしろ」

そしてスウェンは家から出てシグナム達を探しに街へと繰り出すのだった……。


一方母と共に帰宅したシンは慌てた様子のエイミィとデスティニーから驚くべき報告を受ける。
「闇の書の騎士達が現われた!?」
「うん! 今武装局員達が包囲しててなのはちゃんとフェイトちゃん達が一足先に向かってる!」
「主、私達はどうするのです?」
デスティニーの問いに対し、シンは一瞬隣にいた母のほうを向く。
「はあ、しょうがないわね……ちゃんとフェイトちゃん達を守るのよ、アナタも怪我せずにちゃんと帰ってきなさい、肉じゃが作って待っているからね」
「ありがとう母さん! デスティニー! エイミィさん!」
「こっちはいつでも準備OK!」
「行きましょう主」
そしてシンはセットアップし転移装置を使ってフェイト達のいる夜のビル街に向かった……。


シンが現場に到着すると、すでになのは、フェイト、アルフはそれぞれヴィータ、シグナム、ザフィーラと一戦を交えていた。

「レイジングハート! ロードカートリッジ!」
[はい]
その瞬間、レイジングハートから薬莢のようなものが射出され、なのははそのままヴィータに向かって魔力砲を発射していた。

そしてそれを見ていたシンは、今まで見たことがないレイジングハートの新機能に驚いていた。
「なんだアレ!? 威力が跳ね上がったぞ!」
「あれはベルカ式のカートリッジシステム……あの子達、どうやら前回敗れたのが相当悔しかったのでしょう。バルディッシュと一緒に自分から改造してもらうようマリーさんに頼んだそうです」
「そうなのか……よし! 俺も戦うぞ!」
そう言って援護に向かおうとしたとき、なのはとフェイトとアルフの念話がシンの行動を遮った。
(シン君は手を出さないで! 私……この子とお話したいの!)
(私も……シグナムと戦いたい、シンはそこで待ってて!)
(私もあのヤローをぶっ飛ばしたいんだ! 手を出したら容赦しないよ!)
(みんな……)
すると今度は別の場所で索敵をしていたユーノとクロノから念話が入る。
(シン、僕たちは今闇の書を所有しているもう一人の騎士の居場所を探している。)
(君はなのは達のフォローを頼む)

「え? フォローっつったって……手を出すなって言われているんですけど……」
「いえ、主のお相手は……もうすぐ来ます」


一方なのは達と戦っているシグナム達は、彼女たちを相手にしながら念話で情報を交換しあっていた。
(くっ……まさか管理局に待ち伏せされていたとは……)
(しかもあいつらデバイスをベルカ式にパワーアップさせてやがる! しかもあのガキまで来やがった!)
(シャマル! この結界内から脱出できないのか!?)
(や、やろうとしているんだけど、魔力が足りなくて……)
シグナム達は管理局が展開した結界の中に閉じ込められており、脱出ができない状態だった。その時……。
(!? 結界の中にまた誰か入ってくるわ!)
(なんだと!? また援軍か!?)
(いや、この魔力は……!)


その時、シンの目の前に鉄の翼をまとった少年……スウェンが現れた。
「現れたな銀髪野郎!」

(スウェン! なぜ来たのだ!? 主はどうした!?)
(ザフィーラのアニキ、今はやて姐さんはすずかさんに預かってもらっているッス。)
(お前らこそ今まで何をしていた? はやてが心配していたぞ。)
(ぐっ、そ、それは……)
(まあ……理由は理解できたがな)
そう言ってスウェンは翼から二対のビームブレイドを手に持って構える。
「やる気か……!」
対してシンも二本のフラッシュエッジをビームサーベルモードにして構える。
「あんたが奴らに協力するってんなら容赦しない! もうだれも……傷つけさせやしない!」
「すまないが俺達は止まれない、許してくれなんて言う権利がないのもわかっている」

刹那、二人の内にある魔力が背中の翼から溢れだし、二人のもつ剣のビームで出来た刃が強く光りだした。

「あんたは俺が止めるんだ! 今日! ここで!」
「なら……推し通る!」

そして二人は高く跳びだし、空中で互いの剣をぶつけ合った。

皆が激しい戦いを繰り広げている中、シャマルとザフィーラは状況を確認しあっていた。
(シグナムのファルケンか、ヴィータのギガント級の魔力を出せなきゃここから出られないわ。)
(二人とも手が離せん、やむをえんがアレを使うしかないな)
(分かっているけど、でも……)
その瞬間、シャマルの後ろで何かが構えられる音がした。
(あっ!?)
その後ろでは外を探索していたクロノがS2Uを構えていたのだ。
(シャマル? どうしたシャマル!?)
「捜索指定ロストロギアの所持、使用の疑いであなたを逮捕します抵抗しなければあなたには弁護の機会がある。同意するなら武装の解除を……」
クロノはこれで確実にシャマルを確保できたと思っていた、しかしその瞬間、誰かがクロノたちの間に飛び込んできた。
「せいっ!」
「うっ!?」
クロノはそれが予想外だったのか、その人物に蹴りをまともに喰らい反対側のビルに吹き飛ばされてしまう。
そこには仮面をつけた男が蹴りを放った態勢のまま立っていた。
「仲間か!?」
「あ……あなたは?」
「使え」
仮面の男はシャマルの質問に答えず闇の書を見て言った。
「え?」
「闇の書の力を使って結界を破壊しろ」
「でも、あれは!」
その言葉にシャマルが反論する。
「使用して減ったページはまた増やせばいい。仲間がやられてからでは遅かろう」
その言葉にシャマルは闇の書を見つめ、決意する。
彼女は仲間を救う道を選んだ。
(皆、これから結界破壊の砲撃を撃つわ、うまくかわして撤退を!)
「「「応!!」」」
シャマルは砲撃の用意を始める。
大きな魔方陣がシャマルを中心に展開する。
「闇の書よ、守護者シャマルが命じます。眼下の敵を打ち砕く力を、今ここに!」
その瞬間闇の書から膨大な魔力が溢れ出し、暗雲が集まり結界上空に膨大な魔力の雷が集まっていく。
「!?」
それに気を取られたクロノはまた仮面の男の蹴りを受けてしまう。
地面に叩きつけられる前に態勢をどうにか立て直すと仮面の男が喋る。
「今は動くな。時を待て、それが正しいとすぐに分かる。」
「なにっ!?」
膨大な魔力が一つの塊となる。
「撃って、破壊の雷!」
[Beschriebene]
その瞬間、巨大な魔力の雷が結界に落ち、結界が崩れ始めた。


「な、なんだいコレは……!?」
一方ザフィーラと戦っていたアルフも周辺の異変に気付き始めた、するとザフィーラは戦闘を放棄しどこかに飛び立とうとしていた。
「まて! 逃げるのか!?」
「仲間を守ってやれ、直撃を受けると危険だ」
「え?」

その数分前のこと、シンはスウェンと闘いながらフェイトと状況を確認し合っていた。
(クロノがこいつらの仲間を見つけたらしい! もうちょっとで勝てるぞ!)
(わかった! でも油断は禁物だよ!)
そしてシンはフラッシュエッジをブーメランのようにスウェンに投げつけるが、簡単に避けられてしまう。
「どこを狙っている!」
「バーカ! 狙い通りだ!」
「アニキ後ろ!」
その時、スウェンは背後からシンの投げたフラッシュエッジが戻ってくるのを感じ取り、身をかがめてそれを避ける。
「くっ……!」
「隙ありだあああああ!!!!」
スウェンがバランスを崩したのを見逃さなかったシンはそのまま彼に向って突進し、顔面に向かって思いっきりとび蹴りを喰らわせる。
「ぐぉ……!」
そのまま後方に思い切り吹き飛ばされるスウェン、そして彼はとっさに腕からアンカーを出して街頭に巻きつかせ、ビルに激突するのを回避する。
「へへん! まずはこの前のお返しだ!」
「くっ……本当に子供か? 小さな体からあんな力が出せるなんてまるで……」

まるで? 俺はいったい何を言おうとしたんだ?

「へへへっ! ぼーっとぶら下がっているんじゃねえ!」
そう言ってシンは腰にビーム砲を召喚し、スウェンに向かって引き金を引く、対してスウェンは空いているほうの手からもアンカーを射出して隣のビルに移動して避けた。
「あ! ずりい!」
「戦いにずるいも何もあるか……!」
「主、ならばアンカーを突き刺している建物に攻撃を……」
「そっか! よーっし!」
デスティニーのアドバイスで今度はスウェンのいるビルにビームを薙ぎ払うように放つシン。
「うぉっ!? っと……!?」
足場を破壊されたスウェンは再びバランスを崩す。
「今度こそ……終わりだあああああ!!!」
そしてそうしているうちに再びシンの接近を許してしまい、そのまま腹部にパルマフィオキーナを受けてしまう。
「吹き飛べえええ!!!!」
「……!!!?」
スウェンは先ほどよりもすさまじい威力で、ビルの屋上に設置されていた貯水タンクに激突する。
「わああああ!? アニキ~!?」
「主、やりすぎなのでは……」
「うぇ!? そ、そうかな……」

その頃貯水タンクの水でビチャビチャになったスウェンは、薄れゆく意識の中で必死に立ち上がろうとしていた。
(お、俺は……このまま負けるのか? すまないみんな……役に立てなかった……)
その時、スウェンの内なる魔力が紫色の光を放ち、彼の頭の中に幻聴を響かせた。

このまま俺が負けたらどうなる? みんな管理局につかまり、はやては死ぬんだぞ?

(な、なんだこの声は……いったい誰だ!?)

いいのかこのままで? このままだとまた俺は“家族”を失うんだぞ、悪しき存在によって……。

(悪しき……存在……!? あの少年のことか……!?)

ああそうだ、忘れたのか? 俺達から家族を奪った……あの忌まわしい記憶を!

(な、なんだ……いったい何の……!?)



次の瞬間、スウェンはなぜか炎がくすぶる破壊されたパーティー会場にいた。足元には……爆風により見るも無残な姿になっている死体が転がっていた。
(なんだこれは……!?)
人、物関係なく燃える嗅いだこともないような悪臭に顔をしかめながらスウェンはあたりを見回す。


「ママ……?」


ふと、スウェンはどこからか子供の声が聞こえてくるのに気付き、声がした方角へ歩きだす。


そしてそこで彼は……母親らしき女性“だったもの”に抱かれたまま、何が起こったかわからずあたりをキョロキョロ見回している……幼き日の自分を発見した。

あ……あああ……!

「ねえママ……パパが倒れて……ねえママ……ママ……!」

う……うわあああああああ!!!!

すると次の瞬間、場面はどこかの病院らしき場所に移る。
そして少年時代のスウェンは、そこでスーツ姿の男からあることを告げられる。
「テロ……」
「ああ、君のご両親は“コーディネイター”共の手によって殺されたんだ、だが安心しなさい……君の身柄は我々連合軍が預かる、君に……ご両親の仇を討たせてあげよう」
「かた……き……」
「ああ、君は軍人になるんだ




コーディネイターを皆殺しにするためにね」




あいつは……コーディネイターだ、悪しき存在! この世界に居てはならない者! そして……俺の両親の命を無慈悲に奪った悪魔! 

(そしてまた俺から家族を奪おうとしている! 許せない! 絶対に許さない! お前らは俺が皆殺しにする!)

 この世界が青く清浄であるために!

「消えろ……! コーディネイターあああああああああ!!!!!!!!!」



その瞬間、破壊された貯水タンクからスウェンは飛び出し、シンに飛びかかる。
「うわっ!!?」
「主!?」
「アニキ!?」
「消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろおおおおおお!!!!」
スウェンはシンの上に馬乗りで跨り、そのまま彼の顔に、肩に、胸に、腕に、ショーティーのビーム弾をゼロ距離で打ち込んでいく。
「ぐああああああ!!!」
「主!?」
「アニキ! それ以上やったら!」
次の瞬間、床がスウェンの攻撃に耐えきれなくなり崩れ始め、シンとスウェンは下の階に落下する。
「く、くそ……!」
「がああああ!!!!」
シンは攻撃から逃げようとするが、スウェンの間髪いれないひざ蹴りを受けて吹き飛ばされてしまう。
「がはっ!!」
「終わりだ……!」
床にのたうちまわるシンに対し、スウェンはビームブレイドを振り上げる、彼の首を刎ねるために。
(し……死ぬの……俺……!?)
「うおおおおお!!!」

だがシンの首が刎ねられることはなかった。
「やめろっ!!!!」
「がっ!?」
突如結界が破壊されるのでスウェンを守りにきたザフィーラが、彼の殺意に気付き殴り飛ばしたのだ。

「シン!」
「ひ、ひどい怪我……あなたがやったの!?」
そして今度はフェイトとアルフも現れ、ボロボロのシンを抱き上げる。
「二人とも……なんでここに……」
「説明している暇はないよ! 早く私の後ろに!」
アルフはすぐさま防御結界を展開し、フェイトはシンを抱えながら彼女の後ろに回り込む。

すると次の瞬間、彼女たちの頭上から闇の書から放たれた膨大な魔力の雷が襲いかかってきた。
「ぐううう……!」
「アルフ!」
顔をしかめながらも二人を守るアルフ。
「ははは……耐えきってやったよ、そうだ! あいつらは!?」
その場にはもうザフィーラ達の姿はなかった。
「今のドサクサに逃げられたみたいだね……」
「あん畜生共め! シンになんてひどいことを……!」
「お、俺は平気だよ……」
そう言ってシンは重傷そうな見た目とは裏腹になんと自力で立ち上がったのだ。
「ほ、本当に大丈夫なのシン!?」
「うん、攻撃された瞬間攻撃の威力が弱まって……」
デスティニーはそれを聞いて
(なるほど、あの子が出力を制御したのですね)
「とにかく一回家に戻ろう、エイミィ達もあいつらの補足に失敗したみたいだ」
「だね、帰ろうシン」
そう言ってフェイトはシンの肩を取りアルフと共に家に向かって飛び立った。

そんな中、シンは先ほどのスウェンの顔を思い出す。

(あいつの顔……すごく怖かった……でも……)
シンの心には“恐ろしい”とはまた別の感情が芽生えていた。


(あの顔……まるであの時のプレシアさんみたいだった……)


一方デスティニーは後ろから付いて行きながら、スウェンのあの覚醒について考察していた。
(あの爆発的な感情の変化……おそらく何かが起爆剤になってジュエルシードに作用したのですね、まったく……この世界でも奴らの愚かさは変わらないようですね)
「青き清浄なる世界の為に……バカバカしい」











本日はここまで、以前の作品でははしょった管理局VSヴォルケンリッターの第二戦をお送りいたしました、といってもなのは組の戦いはかなりはしょっていますがね……。

次回は原作6話あたりの話になります、火曜に投稿しますのでよろしくお願いします。



[22867] 第四話「隠した心」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/08 20:09
 第四話「隠した心」


ヴォルケンズが管理局の罠から脱出できたその数時間後、シャマルはすずかの家に泊まりに行ったはやてに連絡していた。
「はい、すみません……本当にごめんなさい……冷蔵庫にお夕飯があるんですね……今日はもう泊まると……じゃあヴィータと代わります。」
「もしもしはやて? その……」
電話をヴィータに代わってもらい、シャマルは憂鬱な表情でベランダに赴く、その後ろからシグナムが神妙な面持ちで彼女に話しかける。
「主に寂しい思いをさせてしまったな。」
「ええ……」
「こんな事が二度とないよう早く主を闇の書の主にせねば……」
そうして決意も改めた所で、彼女達はすぐさま話題を違う人物に切り替える。
「ところでスウェンはどうしているの? ザフィーラの話じゃ大変な事になっていたみたいだけど……。」
「今自分の部屋で休んでいる、ザフィーラとノワールも一緒だからしばらくそっとしておこう。」
「ええ……でもどうしてスウェン、あの子を殺そうとしたのかしら?」
「アイツの魔力と何か関係があるのかもな、機会があれば調べる必要があるだろうな……」


その頃スウェンの自室では、先ほどザフィーラに殴られて腫れた頬を氷で冷やしながら、ザフィーラに先ほどシンに行った行動について質問されていた。
「スウェン、なぜあんなことをした? 我々は殺すことが目的では……」
「解っている……! 俺にも解らないんだ! なぜあんな恐ろしい事をしたのか……!」
そう言って頭を抱えて項垂れるスウェン、その様子をノワールはただただじっと見つめていた。

(何だったんだあの記憶は……! なぜ俺はあの少年を殺そうとしたんだ!? 何故、何故……!)

震えだす手をじっと見つめて先ほどの自分の行いに恐怖するスウェン、そして……彼の頭の中にある考えが浮かんだ。
(そうだ……! あの少年と話をしてみよう、彼と話せば俺が何者か解る筈……!)


そのころ自宅に戻ってきたシンは、マユに不安そうに見守られながら母親に顔の治療をしてもらっていた。
「いててて! 母さん沁みるよ!」
「我慢なさい、男の子でしょ? まったく……けがをしないでって約束したのに、さっそくこれなんだから……」
「ごめんなさい……」
「おにーちゃん大丈夫?」
するとそこに、隣のハラオウン家からクロノがやってくる。
「すみませんアスカさん、彼を危険な目に……僕がもうちょっとしっかりしていれば……」
「クロノ君は悪くないわ。油断したこの子が悪いの」
「それもそうですね」
「二人ともひでえ! そういえば闇の書の騎士について何かわかったのか?」
「ああ、それに関して説明しようと君を呼びに来たんだ、うちに来てくれるか?」

それから数分後、ハラオウン家に赴いたシンはそこでなのは、フェイト、デスティニー達と共に闇の書の騎士達についてわかったことを説明されていた。

「問題は、彼らの目的よね」
「えぇ、どうも腑に落ちません。彼らはまるで自分の意志で闇の書の完成を目指しているようにも感じますし」
「え?それって何かおかしいの? 闇の書ってのも要はジュエルシードみたくすっごい力が欲しい人が集めるもんなんでしょ? だったらその力が欲しい人のためにあの子たちが頑張るってのもおかしくないと思うんだけど」
その言葉にリンディとクロノは顔を見合わせる。
「第一に闇の書の力はジュエルシードみたいに自由な制御が利くものじゃないんだ」
「完成前も完成後も純粋な破壊にしか使えない。少なくともそれ以外に使われたという記録は一度もないわ」
「あ~そっか……」
アルフの質問が終わると、今度はシンが意見を述べてくる。
「なあ、あの闇の書の騎士達って一体何者なんだ? なんで闇の書を完成させようなんて……」
するとリンディ達の代わりに隣にいたデスティニーが答える。
「恐らく……彼らは人間でも使い魔でもない、闇の書に合わせて魔法技術で作られた擬似人格、まあ私みたいなものかもしれませんね」
するとクロノはデスティニーの意見を肯定するように頷いた。
「デスティニーの言うとおり、主の命令を受けて行動する、ただそれだけのプログラムに過ぎないはずなんだ」
するとフェイトが恐る恐る発言する。
「あの……それって私のような……」
「! こら!」
するとフェイトが何を言おうとしたのか察知したシンが彼女のわき腹をくすぐり発言を中断させた。
「ひゃん! くすぐったいよ!」
「フェイトお前……今絶対良からぬ事を言おうとしたろ」
「な、なんでそれを……」
「顔を見れば一発で解りますよ」
「それは違うわ、フェイトさんは生まれ方が少し違っていただけでちゃんと命を受けて生み出された人間でしょ」
「検査の結果でもちゃんとそう出ていただろう?変なこと言うものじゃない」
「ご、ごめんなさい……」
フェイトは皆に怒られたのに、どこか嬉しそうにソファーに座りなおした。
「それじゃあ、モニターで説明しよっか」
部屋の電気を消され、置いてあったモニターに守護騎士達が映し出される。
「守護者たちは闇の書に内蔵されたプログラムが人の形を取ったもの、闇の書は転生と再生を繰り返すけどこの四人はずっと闇の書と共に様々な主の下を渡り歩いている」
「意思疎通のための対話能力は過去の事件でも確認されているんだけどね。感情を見せたって例は今までにないの」
「闇の書の蒐集と主の護衛、彼らの役目はそれだけですものね」
クロノ、エイミィ、リンディの説明になのはとフェイトが質問する。
「でも、あの帽子の子……ヴィータちゃんは怒ったり悲しんだりしていたよ」
「シグナムからもはっきり人格を感じました。成すべきことがあるって、仲間と主のためだって」
「主のため……か」
その言葉にクロノの表情が少し悲しそうに見えた。
モニターが消え、電気がつくとリンディが立ち上がってクロノのところまで来る。
「まぁ、それについては捜査に当たっている局員からの情報を待ちましょっか」
「転移頻度から見ても主がこの付近にいるのは確実ですし、案外主が先に捕まるかもしれません」
「あ~、そりゃ分かりやすくていいね」
「だね、闇の書の完成前なら持ち主も普通の魔導師だろうし」
アルフの発言にエイミィがうんうんと頷く。
「うん、それにしても闇の書についてもう少し詳しいデータがほしいな、ユーノ……明日から少し頼みたいことがある」
「ん? いいけど……」

その時、フェイトが何かを思い出してリンディに質問する。
「あの銀髪の男について何かわからなかったんですか?」
「ああ、あのシンを殺そうとした奴かい、デスティニーの同型デバイスとジュエルシードで魔法を使うあの……」
「ごめんなさい……こちらでもよくわかっていないの、データ上は普通の人間なんだけど……シン君、直接戦って何か判らなかった?」
リンディの質問に対し、シンは少しうつむき気味に答えた。
「あいつ……俺のことコーディネイターって呼んだんだ」
「コーディネイター……確かCEの遺伝子を調整した人間のことだな」
「? それがどうしたっていうんだい? っていうかそいつ、よく一目でシンのことをコーディネイターと見抜いたね」
『そのことに関しては私が説明するわ』
すると突如モニターに管理局本部にいるヴィアが映し出された。
「ヴィアさん? 彼のことを何か知っているのですか?」
「ええ……戦闘時の映像を見させてもらったわ、彼の発言から推測すると多分“ブルーコスモス”の関係者よ」
「「「ブルーコスモス?」」」
聞いたことのない単語になのは、フェイト、アルフは首を傾げる。対してある程度CEの事情を調べていたクロノはヴィアの意見に補足を入れる。
「ブルーコスモス……確かコーディネイターの排斥を目的とする組織と聞きましたが……」
『ええ、彼らはコーディネイターを根絶やしにするために色々と汚い手を使ってくるの、テロリストと何ら変わりはないわね』
ヴィアの発言にクロノとエイミィは混乱するばかりだった。
「じゃ、じゃあ彼はその一味だって言うんですか?」
「じゃあますます判らないぞ、なぜそんな彼が闇の書の騎士達と行動しているのか……」
するとシンは深く悩んだ様子で議論を交わすリンディ達に発言する。
「多分だと思うんですけど……あの銀髪男、PT事件の俺の時みたいに何かやむ負えない事情があると思う……」
「なんだ? 君は随分あの男に肩入れするな、殺されかけたっていうのに……」
クロノの疑問に、シンはある人のことを思い出しながら語り始めた。
「あいつの顔……なんだかプレシアさんに似ていたんだ、あの人はもう失いたくない、取り戻したいって思いが狂気に変わって行ったけど、あいつも……」
「シン……」
シンの意見にフェイトをはじめとした一同の間に重い空気を漂わせる。
「そんなわけでさ、またあいつが出てきたときも俺が戦うよ、もう負けたりはしない! そして俺が勝ったら……あいつの話を聞いてみたいんだ」
『そう……そうよね、何も知らないで争うのは悲しいこと……』
「私も手伝うよ! シン君!」
「私たちも……ね、アルフ」
「ああ、もしかしたらこれ以上戦わずに済むかもしれないしね」
シンの中にはあの時時の庭園とともに消えたプレシアを救えなかった事と、それによりフェイトに悲しい思いをさせてしまったという後悔の念があった、そしてそれがプレシアと同じ空気を持つスウェンと話をしてみたいという答えに辿り着かせていた。
「よーっし! そうと決まれば明日からも剣術の練習がんばるぞー!」


その後、一通り闇の書に関する話が終わるとシンとなのはは家に帰り、残ったリンディ達はモニターを切った後も話を続けていた。
「それにしてもヴィアさん……ブルーコスモスの話をしている時、なんだか怒っているような感じがしましたね……」
「そっか、クロノ達は知らないのね……」
そう言ってリンディは以前ヴィアから聞いたある話を事情の知らないフェイト達に話す。
「ヴィアさん……ブルーコスモスのテロで旦那さんと子供二人を亡くしたそうよ……彼女だけはその事故でミッドチルダに流れ着いたって言っていたけど……」
「「「「えっ!?」」」」
ヴィアの知られざる過去にクロノ達は驚愕する。
「自分の家族の仇がすぐ近くにいるかもしれないのよ、ちょっと感情的になっても仕方が無いでしょう?」
「確かに……そうですね」
(そっか、ヴィアさんも母さんみたいに子供を亡くしていたんだ……)
なぜヴィアがあの時プレシアに協力していたのかなんとなく判り、フェイトは二人がなぜ一緒にいられたのか長い間疑問に思っていたことをようやく解決することができた。

(二人とも同じ痛みを抱えていたんだ……)


対してリンディもヴィアに自分の境遇を重ね合わせていた。
(あの人も色々と苦労しているのね……復讐心を必死に抑えている……)


次の日の放課後、シンとフェイトは管理局本部の模擬戦ルームで模擬戦を行っていた。
『フォトンランサー! ファイア!』
『へへーん甘いぜ! 全部落としてやる!』
フェイトが放つ幾つもの魔力弾をビームライフルで次々と落としていくシン、そんな彼等の様子をエイミィとクロノは別室でモニタリングしていた。
「いやー、二人とも初めて会ったときと比べて随分強くなったよねー」
「ああ、シンはなのはのお兄さんの道場、フェイトちゃんはバルディッシュのパワーアップのお陰だな……」
「クロノ君もうかうかしていられないね、油断していたら二人に追い越されちゃうよ?」
「ははは、まだまだ僕は負けないよ……」

「ふふん、なんなら私達が一から鍛え直そうか?」
するとモニター室に管理局の制服を着た三人組が入って来た。
「ん? 君達は……アナタは?」


数分後、訓練を終えたシンとフェイト、そしてデスティニーは先程の訓練内容について議論しながら模擬戦ルームから出て来た。
「4戦やって2勝2敗か……ちょっと自信あったんだけどなー、すごいなカートリッジシステムって」
「シンもズンズンと剣を振るキレが良くなってきているね、恭也さんのお陰かな?」
「しかしフェイトさん、何故急に主と模擬戦を? お互いの力を高め合うのはいい事だと思いますが……」
「うん……シグナムと2回戦って感じたんだ、私もまだまだ弱い、あの人に勝てないって……だからもっともっと強くなりたいんだ」
「そんなあ、フェイトが強くなる必要はないよ、俺が強くなって守るから。」
そう言ってシンは自分の胸をドンと叩く、それを見てフェイトは彼から視線を逸らしてつぶやいた。
「そんなのヤダよ……私もシンの事守りたいんだから、昨日みたいな事になったら……」
「? なんか言ったか?」
「主、その決意は男の子としてはいいんですが……30点ですね。」

「ん~! 捕まえた!」
その時、シンの背後から突如何者かが抱きついてきた。
「わあ!? なんだ!?」
「ふみゅ~ん! クロスケとはまた違っていい抱き心地!」
「な、なんですかアナタは!?」
突然現われてシンに抱きついてきた人物に対し、フェイトは敵意をむき出しにしながらバルディッシュを構える。
「ロッテ……いい加減にしないか、フェイトもバルディッシュをしまえ。」
するとそこにシン達の様子を見かねたクロノが割って入って来た。その後ろには見知らぬ管理局の制服を着た初老の男性と、猫耳と尻尾を生やした使い魔らしき女性がいた。
「なんだよクロノ、こいつと知り合い?」
「あー! 年上にコイツなんて言っちゃって~オシオキだ!」
「うわ~!」
クロノがロッテと呼んだ同じく猫耳の女性はシンを羽交い絞めにしたまま彼の頭に拳をぐりぐりと磨りつける。
「ああもう話が進まん!」

そしてようやく落ち着いた所で、シン達はエイミィから三人を紹介される。
「この人はギル・グレアム提督、クロノ君の魔法のお師匠さんで、後ろの二人がリーゼロッテとリーゼアリア、二人とも提督の使い魔なんだよ」
「アナタ達の活躍は前々からクロノから聞いています」
「ミッドチルダを救った小さな英雄さんなんだってねー?」
「はははは……まあその事件を起こす手伝いもしちゃっていますが……」
そう言ってフェイトは自分のしたことを思い出し乾いた笑いがこみあげてくる。
「ロッテ、口を慎め」
「あ、ごっめーん」
「で? なんで管理局のお偉いさんがここにいるんだ?」
「闇の書についてユーノに調べて貰いたい事があってね……彼女達に手伝いに来てもらっていたんだ」
「そして君達がここに来ているとクロノから聞いてね……私が一度挨拶をさせてくれと頼んだのだよ。君が……CEの魔導師君だね、一度会って話がしてみたかったのだよ」
そう言ってグレアムは自分の手を差し出しシンに握手を求める。
「あ、はい……」
シンはグレアムに応じて自分の手も差し出し、がっちりと握手する。
「ふむ、君たちはまっすぐな目をしている……昔のクロノを思い出すな、君達は管理局の未来を担うのだ、これからも頑張りたまえよ」
「あ、ありがとうございます」
その時、グレアムのスーツの中の通信機が鳴り響き、彼はそれをとって通話を始める。
「む、どうした……? ああ解ったすぐ行く」
二、三回俯いて通信機を切るグレアム。
「すまない、急用ができたのでこれで失礼するよ」
「では……」
「バイバーイ、またハグさせてねー」
そう言ってグレアムとリーゼ姉妹は早々に去っていった。
「いやー、なんか物腰の柔らかそうな人だったな、使い魔はアレだったけど」
「アレでも僕の魔法の師匠だからな……腕は保障するよ」
「そうなんだ、今度模擬戦の相手でもして貰おうかな……」
その時、エイミィはシンの後ろにいたデスティニーが複雑な表情をしている事に気付き、彼女に問いかける。
「あれ? デスティニーどうしたのそんな顔して?」
「いえ……別に」
デスティニーは素っ気なく答えた後もグレアムが去った後をジッと見つめ続けていた。
(……ちょっと彼女に調べ物をしてもらいましょうか)


同時刻、海鳴市のとある公園、そこでマユはお気に入りのウサギ付き帽子を被りながら一人でブランコで遊んでいた。
「あーあ、お兄ちゃんお姉ちゃん早く帰ってこないかなー、一人で遊ぶのつまんなーい」
まだこの町に来たばかりのマユには友達がおらず、シン達が学校に行っている間の昼間は彼女にとって退屈でしかなかった。

ふと、そんな彼女がいる公園の傍を、ハンマーのようなステッキを持った赤い三つ編みの少女……ヴィータと、大きな藍色の毛を身に纏った犬……ザフィーラが通り過ぎていく。
「はぁ……スウェン元気なかったなー、一体どうしたっていうんだよ……」
「殴ったのがいけなかったのか? 散歩に誘っても来てくれなかったな……」
「もしかしたら記憶が戻りかけているのかもな、ちゃんと私達でフォローしてあげないと……ん?」
その時ヴィータは通り掛かった公園で三歳ぐらいの少女(マユ)が一人ブランコで遊んでいるところを目撃する。
「!!! あの帽子は……!」
そして彼女が自分のウサギ付き帽子を被っている事に気付き、ザフィーラを繋いでいたリールを手放し彼女に駆け寄って行った。
「おい! そこのお前!」
「え?」
ヴィータはマユが被っている帽子を無理やり奪おうとするが……。
「ちょ! やーだ! 離してー!」
マユが絶対に離すまいと帽子をがっちり掴んでいた。お陰で帽子は引き裂かれそうになる。
「うるせえ! これ私の帽子じゃねえか! これどこで拾った!?」
「お兄ちゃんから貰ったの―! コレマユのなんだからー!」
(お兄ちゃん……!? あの後誰かに拾われたのか?)
ヴィータは帽子の事で夢中になるあまり、その帽子を拾った“お兄ちゃん”がシンであるという答えに辿りつけなかった。
「ぐぎぎ……! 離せよー!」
「やーだー! 離してー!」
(お、おいヴィータ何をしている!?)
すると見るに見かねたザフィーラが二人の間に割って入る、すると……。
「あ! ワンちゃんだー!」
ザフィーラの姿を見たマユはあっさりと帽子から手を離し、ザフィーラに抱きついた。
「わふっ!?」
「わぁ!?」
急に手を離され尻もちを付くヴィータと、マユに急に抱きつかれて驚くザフィーラ。
「大きいワンちゃんだ~! かわいいねえ~!」
(ぬぐ……! なんだこの娘は!?)
「いちちち……あん? なんだお前、ザフィーラが気に入ったのか?」
「うん! アルフもちっちゃくて可愛いけどこの子もモフモフでかわいいね~!」
その時、ヴィータはある事を閃いてにやりと笑う。
「よーっし……なら交換条件だ、この帽子を返してくれるならザフィーラを好きなだけ可愛がっていいぞ」
(ヴィータ!?)
「えー? 可愛がるだけー?」
その交換条件に不満げなマユ。するとヴィータはさらに条件を上乗せしてきた。
「じゃあ……乗っていいぞ」
「乗る?」
「うん、こうやって」
そう言ってヴィータはザフィーラの背中に馬乗りした。
「あー! いいないいなー!」
「もし帽子を返してくれるなら乗り放題だ、どうだ悪くない条件だろ?」
(オイヴィータ! 勝手に決めるな!)
「うんいいよ! その帽子返してあげる! わーいわーい!」
マユは嬉しそうにヴィータと入れ替わりでザフィーラの背中に馬乗りする。
「わ! わふっ!?」
「わーい! いっけーワンちゃん!」
「はあ、やっと帰ってきた……私のゲボウ……!? あー!?」
その時ヴィータは自分の帽子が、先程無理に引っ張ったせいで破れている事に気付いた。
「どうしたのおねーちゃん? 帽子破れちゃったの?」
「ううう……折角取り戻せたのに……」
ヴィータは瞳を潤ませながらその場でがっくりと膝を付いてしまう。
「じゃあじゃあうちにおいでよ! マユのママなら直せるよ!」
「え? いいのか?」
マユの意外な提案にヴィータはパアッと花が咲いたように笑顔になる。
「うん! マユが引っ張っちゃったんだし……ママお裁縫得意だからきっと直せる!」
「そうかそうか! それじゃ早速行こうぜ!」
「れっつごー!」
(お、俺の意見は……?)
そうしてヴィータとザフィーラに跨ったマユは帽子を修復しにアスカ家へ向かうのだった……。



それから一時間後、自宅に帰って来たマユは母にヴィータの帽子を直して貰っていた。
「はい、これでどうかしら?」
「おー! 破れた跡がまったくない! まるで新品みたいだー! すげー!」
修復された帽子を持って喜ぶヴィータ、一方マユは隣のハラオウン家から持ってきたドックフードをザフィーラに食べさせていた。
「ワンちゃんおいしい? お腹空いたでしょー、アルフの大好物なんだー」
「わん。(ふむ、中々イケルなこれは……今度主に買って来てもらおう)」

ちなみにシン達やハラオウン家の面々は現在本局に出向いて留守であり、この辺にはマユと母しかいなかった、おまけに二人は口頭でしかシン達が関わっている事件について把握しておらず、目の前にいる一人と一匹がシン達と戦っている敵だとは気付いていなかった。

「ありがとなおばちゃん! この恩は一生忘れないぜ!」
「おばちゃんじゃなくてお母さんね、いいのいいの、元はと言えばこっちも責任があるんだし……」
「ねえ! よかったらうちでご飯たべていきなよ! 賑やかで楽しいよ!」
マユの提案に、ヴィータは首を横に振る。
「ごめんな……家で家族が待っているんだ、だからもう帰らないと……」
「そっか、残念……」
「よかったらうちにいつでも遊びにきていいのよ、マユのお友達だしね」
「ありがとうおばさん! それじゃあなマユ!」
そう言ってヴィータはドッグフードを食べ終えたザフィーラを連れて八神家に帰って行った……。
「マユ、お友達ができてよかったわね」
「うん! お兄ちゃんが帽子拾ってくれたおかげ!」

「ただいまー」
するとそこに、管理局からシンが帰って来た。
「あ! お兄ちゃんおかえりー!」
「ん? どうしたんだマユ? すごく嬉しそうだな」
「うん! マユねー、新しいお友達ができたんだ!」


運命はが交差する日は近い、例えそれがどんな形であろうと……。


おまけ

『あれー!? 私の大事にとっといたドックフードがなーい! 誰か食べたな!』
『わ、私じゃないよう!』
『ていうか君以外に誰がドッグフードなんて食べるんだ……』


「ん? となりからアルフの叫び声が……一体何があったんだ?」
「マユ……」
「(ぎくっ!)マユ知らないもん! 知らないもーん!」










今日はここまで、次回は砂漠戦をお送りいたします。その後の展開はリメイク前のとはある程度変更する予定です。
最近インフィニットストラトスにハマっています、シャル可愛いなあ……原作が進んだらクロスSS書いてみたいです。

次は金曜日辺りに投稿します。



[22867] 第五話「交わらない道」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/17 20:56
 第五話「交わらない道」


その日、マユはいつものように公園にやって来て、そこで開催されているゲートボールの見学に来ていた、その大会に出場しているヴィータを応援しに来たのだ。
「ヴィータちゃんがんばれー、ザフィーラも応援しているよー」
「ワンッ!」
「よっしゃ! 任せとけー!」
マユの応援で勇気をもらったヴィータは、肩をぐるぐる回しながらフィールドに向かった。
「おや、ゲボ子ちゃんのお友達かい?」
「よかったら酢昆布食べるかい?」
するとマユの周りに同じくゲートボールをやりに来た近所のお年寄り達が集まってきた。
「おじーちゃん達もヴィータちゃんのお友達?」
「ああ、ゲボ子ちゃんはこのゲートボール場のマスコットのようなものだよ」
「あの子を見ていると孫の小さいころを思い出すわー」
「そーなんだー」



それから数分後、ゲートボール大会も終わりマユはヴィータに連れられてある場所に向かっていた。
「へー、マユはクリスマスイブに遊園地に行くのか」
「うん! パパがチケット取れたから家族みんなでいこーって! ヴィータちゃんにもお土産買ってくるね!」
「ありがとよー、それにしてももうすぐおやつの時間だな、ならあたしんちでお菓子食べてけよ、はやての作ったお菓子はギガうまだぞー」
「ギガうまなんだー」
そしてヴィータはマユと共に八神家に帰ってきた。
「ただいまはやてー」
「ああ、おかえりー……ってヴィータ、その子誰?」
「こいつ? 前に話したじゃん、私のウサギを拾ってくれた……」
「マユです! はじめまして!」
そう言ってマユは出迎えてきたはやてに頭をぺこりと下げる。
「おお! そうかあんさんがヴィータの恩人の……ちょうど今クッキーが焼けたところや、お礼に御馳走させたる」
「はい! ありがとうございます!」
マユはそのままはやてとヴィータにリビングまで案内される、そこにはちょうどシグナム、シャマル、ザフィーラ、そしてスウェンがくつろいでいた。
「あら? 小さなお客さんですね」
「主? この子は……?」
「この前ヴィータが話しとったマユちゃんやで、今日は遊びに来てくれたんやー」
「ふわー! この人達ヴィータちゃんのお姉ちゃん?」
「うーん……なんて説明すればいいのか……」
すぐさま八神家の面々と溶け込むマユ、そんな彼女を見てスウェンはあることに気づく。
(ん? この子……どことなくあの少年と似ている、まあ気のせいか……)
その時、マユはテーブルの下で寝転がっているザフィーラ(もちろん狼形態)を発見して彼に抱きつく。
「わーいザフィーラだ! もふもふ! もふもふ!」
「く、くぅーん……」
あまりにベタベタくっつかれ、耳も引っ張られてうんざり気味のザフィーラ。
「モテモテだなザフィーラ」
「よかったじゃない、長い人生の中で初めてモテたんじゃない?」
(貴様ら何気にひどくね?)
「さーマユちゃん、お外にお菓子食べる前に手え洗おうなー」
「はーい」





一方そのころアスカ家では、シンとフェイトが休日を利用して学校から出された漢字の宿題をこなしていた。
「ううう……なんでこの国は漢字なんてものがあるんだ……」
「そうだよね……読み書きするならひらがなとカタカナだけでいいと思うんだけど……」
「はいはい、文句を言っても宿題はなくなりません、それでは次の問題行きますよ」
そう言ってデスティニー(教師スーツ+メガネフォーム)は問題集に書かれている次の問題を解くように促す。


問一:次の問題の読みを答えよ

雰囲気
(   )



「ふ……ふいんき?」
「ふいんきでいいよね」
「ブブー」

「お? なんだシン、フェイトちゃんと一緒にお勉強か?」
すると二人の元に居間でくつろいでいたシンの父がやってくる。
「あ、父さん……この問題解んないんだけど教えてくれる?」
「漢字かー、父さんもちょっと苦手だからなー」
そう言ってシンと一緒に問題の答えを考えだすシンの父、そんな二人の様子を見てフェイトはある思いに駆られていた。
(お父さんか……そういえば私の……アリシアのお父さんってどんな人だったんだろう?)
父という存在が今まで傍にいなかったフェイトはシン達の仲睦まじい様子を羨んでいた。
(今度ヴィアさんに聞いてみよう……)
「ん?」
その時、シンの父は自分がフェイトにじっと見つめられていることに気づいた。
「どうしたんだいフェイトちゃん? 私の顔になにか付いているかい?」
「い、いえ……二人は仲良しだなーって……」
「そっかー? いっつも一緒にいるからそう見られるのかなー?」
「もしかして仲に入れてもらいたいのかい? よし! わたしの胸に飛び込んでおいで! 可愛がってあげるよ!」
「ええ~!?」
シン父のリアクションに困る提案に困惑するフェイト。
「はいはい、アホなこと言わない」
「いてっ!?」
その時、シンの父の後ろにシンの母が現れ、自分の旦那の頭をおたまでポコンと小突いた。
「あれ? 母さんどうしたの? もうお昼?」
「さっき本局にいるヴィアさんから小包が届いたのよ、シン宛にね」
そう言ってシンの母はヴィアから預かった小包を手渡した。
「小包? 一体何だろう……?」
「ほら、シン前に言っていたじゃない、バルディッシュ達だけ強化されてずるいって、だからヴィアさんがデスティニーちゃんのパワーアップアイテムを作ってくれたのよ」
「え!? マジで!?」
シンは急いで小包を開ける、すると中に見たこともない青、赤、緑の三つのクリスタルと説明書が入っていた。
「なんだこのクリスタル? ジュエルシードっぽいけど……」
「ほう、ゴーレムクリエイト用のクリスタルですか」
デスティニーは小包の中を見て感心の声を上げる。
「ごーれむくりえいと? なんだそれ?」
「リニスが昔教えてくれたんだけど……確か魔力で生成した人形を自分の代わりに戦わせる魔法だったと思う」
「へー! 面白そう! 後で訓練所で使ってみよう!」
シンは嬉しそうにそのクリスタルをさっそくズボンのポケットの中にねじ込んだ。

そんな彼の様子を見て、デスティニーはシンの両親に小声で話しかけた
(これでマスターの安全性はさらに強化されましたね? お二方)
(ああ、そうだな……)
(この前みたいに大怪我を負うのは親として耐えられないからね……)
実はシンの両親はこの前の戦闘の後、彼の身を案じてヴィアにデスティニーの強化を頼み込んだのだ、それも彼が直接戦う機会を減らすという注文付きで。
(ま、親なら当然の提案ですよね。)

そんな親の心子知らずといった感じでシンは嬉しそうにクリスタルを見つめていた。
「ははは、早く使いたいなー、また闇の書の奴らが襲ってこないかなー」
「シン、そんなこと言っているとほんとに来ちゃうよ……」

その時、突如隣のハラオウン家からエイミィが慌てて駆け込んできた。
「ふぇ、フェイトちゃんシン君大変だよ! 騎士たちが現れたってアースラから連絡がー!」
「えー!?」
「ちょ! 本当に来た!?」



その頃、八神家でお菓子をごちそうになったマユは、スウェンに送られながら帰宅の路についていた。ちなみにヴォルケンズの面々はそのまま闇の書のページ集めに異世界に行っている。
「クッキーおいしかったー! お兄ちゃんにも食べさせてあげたかったなー」
「そうか、喜んでくれて何よりだ」
はやての作ったクッキーがほめられ、表情には出さない心なしか嬉しい気持ちになるスウェン。
「スウェンおにーちゃんはヴィータちゃんやはやておねーちゃんのおにーちゃんなの?」
「まあ……血は繋がっていないけどな、そんなもんだろう」
「……? どういうこと?」
「俺は両親と……離れ離れになったんだ、それどころか自分が生まれた場所も解らない、そんな時はやてが俺を拾ってくれたんだ」
「おにーちゃん迷子なんだ……さみしくないの?」
マユの質問に対し、スウェンは迷うことなく答えた。
「今ははやて達がいるから寂しくない」
「そっか! スウェンお兄ちゃん寂しくないんだ! よかった!」
そして彼らはアスカ家やハラオウン家があるマンションに到着した。
「それじゃマユ行くね! もし本当のパパとママを探すなら協力するよ!」
「ありがとうマユ……階段には気をつけてな」
「はーい、ばいばーい」
そしてマユはスウェンに別れを告げて、マンションの中に入っていった。
「いやあ、優しい子でしたねえ」
するとスウェンのコートの胸ポケットの中からノワールがひょこっと顔を出した。
「ああ……ヴィータが気に入るのも解る、それじゃ俺達も帰ろう……」
その時、スウェンの持つ携帯電話が突如鳴り響き、スウェンはすぐさまそれをとる。
「もしもし……ああシャマルか、いったいどうした……シグナムが!?」





とある砂漠の世界、ヴォルケンリッターの一人、シグナムは仲間と別れて怪物と戦っていた。だが不意打ちによりシグナムは怪物が放つ触手に掴まってしまっていた。
「不覚……! くうっ!」
そうこうしているうちに触手はシグナムの体をよりきつく締め上げていった。
「ぐああ……!」
もうだめかと思ったその時、天空から無数の雷の矢が放たれ怪物に突き刺さる。そして、
「ブレイク!」
何者かの掛け声で矢は爆散した。


(フェイトちゃん!助けてどうするの!?捕まえるんだよ!)
エイミィに呼び出されてこの世界に来たフェイトとシンは、襲われているシグナムを見て思わず助けてしまったのだ。
「ご……ごめんなさい」
「別にいいんじゃね? 今の爆発結構強かったから、あのシグナムって姉ちゃん巻き込まれたんじゃ……」
「え゛っ!?」
「あーあ、このうっかり屋さん」
デスティニーのつっこみと同時に爆煙が晴れる。
「あ! あいつも来てたのか!」
「あの人……!」
シン達の視線の先にはシグナムを爆風から守った銀髪の少年が居た。
『気をつけて二人とも!!』

一方その頃、スウェンとシグナムは、
「来てくれたのか……すまないスウェン」
「気にするな、それにしても身動きの取れないシグナムに追い討ちを掛けるとは…下郎め!」
「うん、俺もそう思う」
スウェンの怒りに同意するシン。
「もー! シンまでひどいよ!」
フェイトはそんなシンの肩を、頬を膨らませてぽかぽか叩く。
「はっはっはっ、よせよ~」
「なんだこれ?」


その頃別の場所では、連絡を受けて救援に来たなのはとヴィータ、アルフとザフィーラが戦っていた。
「ヴィータちゃん!今日こそお話聞いてもらうよ!」
「望むところだこの野郎! 帽子も戻ってきたし全開でいくぞ!」


「さて…アタシ等もそろそろ決着つけようじゃないか。」
「……望むところだ。」


(二人とも気を付けてね。)
シャマルを探しているユーノから念話通信を受けるシン。
(まあアイツが強いのは知っているけどな。)
「シン……シンはシグナムをお願い、一度彼女に勝っているシンなら……」
「わかった、気をつけろよ……アイツは強い。」
「うん、任せて。」


一方スウェン達は、
「どうやらあの子は俺をご指名のようだ」
「オイラロリには興味ないッス」
「気をつけろよ……もし前みたいなことになりそうだったらすぐに逃げるんだ」

「作戦会議は終わりか……デスティニー!」
「いくよ、バルディッシュ!」
「ノワール、出るぞ。」
「レヴァンティン、行くぞ!!」
そしてシンとシグナム、フェイトとスウェンは各々散らばり、そしてぶつかり合った。



シンはシグナムと対峙しながら右手にアロンダイトを召還し、構える。
(カートリッジシステム…一時的に魔力を上げる機能か…厄介だな。この前は奇襲で勝てたけど…。)
(奴のあの目……まだ変わっていないな、恐らくは切り札なのか。)
しばらく続く相手の動きの読み合い。
ふと、シンは少し足をずらす、その刹那。
「はあああああああ!!!!」
一気にシグナムがシンとの距離を詰め、レヴァンティンを振り下ろす。それをシンはアロンダイトで受け止める。
(ヤバイ、この人強い!フェイトが苦戦するわけだ…!)
シンは片手でアロンダイトを持ったまま、もう片方の手にフラッシュエッジを召還しシグナムのわき腹目がけて振る。
シグナムはバックステップでかわし、距離をとる。
シンはそのままフラッシュエッジを彼女に向かってなげるが簡単に切り払われてしまう。
「手数の多い奴だ……ん!?」
シンはさらにシグナムから距離をとっていた。
「接近戦じゃ分が悪い……なら!」
右腰に緑色の砲身を出し、シグナムに向けて特大の赤いビーム砲を発射する。
「くっ!」
シグナムはなんなく避けるが、
「まだまだぁ!!」
そのままビーム砲は薙ぐようにシグナムを追い続ける。そしてシンは左手にビームライフルを出し、シグナムに向け数発発射する。
「しまった!?」
シグナムはビームの牽制で動きを緩めてしまい、そのまま特大の方のビームに飲まれてしまった。
「やったか!?」
衝撃で砂埃が巻き上がる。
「まだです!」
そこから一筋の矢が、シンの脇をかすめる。


「どわっ! あぶねえ!」
砂埃が収まるとそこには弓のような武器を構えたシグナムが立っていた。
「あの剣……弓にもなるのか」
「私にボーゲンフォルムを使わせるとは……おもしろい!」
そのままレヴァンティンは剣形態にもどる。そして、
[シュランゲフォルム!]
レヴァンティンの刃がワイヤーに繋がれたまま多数に分離し、そのまま大蛇のようにシンに襲い掛かる。彼はもう一本のフラッシュエッジでそれを打ち払うが、連結された刃はいまだシンの周りを迂回していた。
「やべ、もしかして怒らせた?」
「むしろ喜んでいるみたいですが」
「なんだ!? 変態なのか!?」
「誰が変態だ誰が!?」
そうこうしてるうちに、刃はシンに襲い掛かる。
「こうなったら…デスティニー!!」
シンは背中から紅の翼を大きく広げる。
「翼…!? 一体なにを!?」
「うおおおおおお!!!」
そのままシンはシグナムに突撃する。
「甘い!!」
刃はそのままシンを貫いた、かに見えた。
「幻影!?」
シンはデスティニーのフルバーストによる高速移動で光の分身を作り出し、シグナムを翻弄する。
「おのれ!」
「うらああああああ!!!」
一気にシグナムとの距離を詰めたシンは彼女の腹部に青い籠手のついた右手を押し当てる。
「パルマ……!」
「その技は……!」
シグナムはその瞬間、自分の敗北を悟った。
「フィオキーナ!!」


「う……」
シグナムは気が付くと、バインドで体をグルグル巻きにされながら倒れていた。
「主、起きたようです」
「いや~今回も俺の勝ちだな!」
「くっ……主、申し訳ございません……」
シグナムは同じ相手に二度も負けてしまったことが悔しくてたまらなかった。
「そんなに落ち込むなよ、俺が勝てたのは偶然みたいなもんだからさ」
そのままシンはシグナムを抱えてフェイトの様子を見に行った。


シン達から少しはなれた場所、ここではフェイトとスウェンが対峙していた。
「はあああー!!」
「くっ!」
フェイトが放つ光弾を岩場に隠れてやり過ごすスウェン。
「アニキ! 上!」
「!」
我に返ったスウェンはフェイトが放ったサンダースマッシャーをギリギリでかわした。
「く……!」
「貴方は何者なんです!? 守護騎士達とは違って普通の人間のはずなのに…なんで彼らに協力するんですか!?」
「……」
スウェンは何も答えない。
「何か言ったらどうです!?」
「問答している余裕があるのか?」
「!!!」
スウェンは背中からリニアガンを放ち、フェイトをひるませてそのまま自分も空中に飛ぶ。
「はああああ!!!」
「フラガラッハ!!」
すぐにフェイトのバルディッシュザンバーが襲い掛かるが、スウェンは背中の羽から二本の剣…フラガラッハをとり、それを受ける。
(この人……強い!)
(くっ! シグナムが苦戦するわけだ……!)
お互い冷や汗をかきながら一旦距離をとる。
「バインド!」
フェイトの詠唱でスウェンの手足にバインドが掛かった。
「しまっ……!!」
「終わりです!!」
フェイトはすぐさま地上に降り、いくつもの光弾を召還する。
「私には守りたいものがある! だから絶対に負けない!!」
なのはを倒した時の気迫のこもった目で、フェイトはスウェンを見る。
「プラズマランサー! ファイア!!」
そして幾つもの光弾が、スウェンに襲い掛かる。
「守りたいものか……」
スウェンは一言呟くと、右手に掛かっていたバインドを解いた。
光弾の直撃による大爆発。だが爆煙が晴れるとそこにスウェンはいなかった。
「えっ!? どこに!?」
すると突然、横からアンカーランチャーが射出され、フェイトの腹部に巻きついた。
「こ、これは!?」
アンカーランチャーがきた方角を見ると、そこには体がボロボロになりながらも、左手からアンカーランチャーを出しているスウェンが立っていた。
スウェンは光弾が当たる直前、自由にした右手からアンカーランチャーを出し、地面に突き刺して移動し弾をかわして、空いているほうの手でフェイトを捕まえたのだ。
「ふん!」
「きゃあ!?」
そのままフェイトが絡みついたアンカーランチャーをハンマーのように振り回し、彼女を地面に叩き付ける。
「あぐっ……!!」
フェイトは地面に叩きつけられた衝撃で気を失ってしまった。
スウェンはフェイトが目を覚ましても反撃されないよう、彼女の体にバインドを掛ける。
「俺ははやて達を守りたい……守りたいものなら俺にもある」
スウェンは気絶しているフェイトに構うことなく宣言する。


「フェイト!!」
そこにシグナムとの戦闘を終えて様子を見に来たシンがやってきた。
「シグナムは……敗れたのか」
シンに担がれているシグナムをみるスウェン。
「フェイト!! 大丈夫か!? すぐに助ける!」
「コーディネイター……!」
スウェンはシンに対して殺意が湧き上がるのを感じ、すぐさまそれを抑える。
(いかんいかん……! 俺は彼と話に来たんじゃないか!)
自分の中の黒い感情を振り払うように頭をぶんぶんと振るスウェン、すると次の瞬間シンがスウェン目掛けてアロンダイトを振り下ろしてきた。
「ぐっ!?」
スウェンはそれをフラガラッハで防ぐ、そしてシンはそのままスウェンに語りかけた。
「答えろ……! あんた達の目的は何だ!? どうして人を襲う!?」
「お前に答える義理はない」
「答えてくれなきゃ解らないだろ! 助けてあげられるかもしれないのに!!」
「!?」
飛び跳ねるように距離をとる二人、そしてシンの必死の説得は続く。
「俺……あんたのあの時の目を思い出すと……助けられなかったあの人のことを思い出すんだ、俺が弱かったから……フェイトに悲しい思いをさせて……」
そしてシンはそのまま、アロンダイトをしまってスウェンに敵対する意思はないということをアピールした。
「このままじゃ取り返しのつかないことになるかもしれないんだぞ……! お願いだ! 俺達の話を聞いてくれ!」
シンの言葉はスウェンだけでなく、シンに捕えられているシグナムの心を激しく揺らしていた。
「……俺も一つ、お前に聞きたいことがある」
「? なんだよ?」
「お前は……何者なんだ? コーディネイターとはなんだ?」
「……?」
スウェンもまた武器を下し、自分が知りたいことを聞いてきた。
「スウェン、貴様は……」
「大丈夫だシグナム、お前は絶対助けてやる まずは捕虜の交換を……」



(シン君! フェイトちゃん! 大変だよ! なのはちゃんが……!)
その時突然エイミィがシンに念話通信を行ってきた。
「……!? なのはがどうかしたのか!?」
(なのはちゃんが仮面の男に……!!)
その時、突如スウェンは何者かに蹴り飛ばされ、遠くに吹き飛ばされてしまう。
「ぐぁ……!」
「なっ!? お前は!」
そこには先日クロノと戦った仮面の男が立っていた。
「今……和解されては困る、邪魔者には消えてもらう」
そう言って仮面の男は気絶いているフェイトを抱き上げる。
「お前! 何を……うわ!」
すぐさま駆け出そうとするシンの周りを檻のような拘束魔法が囲む。
「クリスタルケージ……! こんな魔法を……!」
「くそっ! フェイトに何する気だ! まさか……!?」
そして仮面の男はフェイトのリンカーコアを奪おうと、彼女の胸に手を添えようとする、その時……。
「はいどーん!!!!」
「ぐぉ!!?」
突如スウェンが吹き飛ばされた方角からノワールが飛んできて、仮面の男の顔面に直撃した。
「貴様……いきなり何をする!?」
「のおおおお! 脳がゆれるううう!!」
脳天にたんこぶを作りのた打ち回るノワール、彼が飛んできた方角には野球のピッチャーがボールを投げた後のような格好をしたスウェンがいた。
「貴様……! 自分のデバイスをそのように扱うとは!」
「大丈夫だ、ノワールは昨今の若手お笑い芸人のごとくおいしいことには貧欲なんだ」
「オイラそんなこと一言も言ってないッスよ」
「い、一体なんだお前!? 守護騎士の仲間じゃないのか!?」
閉じ込められたシンは目の前の状況が理解できず困惑していた。すると傍にいたシグナムが代わりに答える。
「我らはあんな者は知らん、それにスウェンに危害を加えたとなれば……容赦はできんな」
「シグ姐さん!」
ノワールはそのままシグナムのもとに飛び立ち、彼女のバインドを取り払った。
「これで二対一だ……貴様らの目的を教えてもらうぞ」
「くっ……! 分が悪いか……!」
自分にとって今の状態はよろしくないと感じた仮面の男は、フェイトのリンカーコアをあきらめてそのままどこかへ転移していった。
「逃げたか……スウェン、我々もヴィータ達と合流して行くぞ、管理局が増援を送り込んできたら厄介だ」
「……わかった」
そしてスウェン達もまたこれ以上の戦闘は無意味と判断してその場を去ろうとしていた。
「お、おい! あんた達……!」
「テスタロッサに伝えてくれ、次こそ決着をつけると……」
「……すまなかったな」
そして二人はシン達を残してそのままどこかへ飛び去っていった。
「お、おい! 誰かこのバインド解いてくれよー!」
「そのうちアルフさんが来ますって」
「う、うーん……あれ? 戦闘は……?」



それから数分後、アースラに収容されたシンとフェイト、そしてアルフはブリーフィングルームで事の顛末をリンディとエイミィ、そしてクロノやリーゼ姉妹から聞いていた。
「な、なのはのリンカーコアが奪われた!?」
「大丈夫なんですかあいつ!?」
「うん、命には別条はないし、数日もすればもとにもどるらしいよ、今はユーノが付き添っている」
クロノの説明にほっと胸をなでおろすシンとフェイト
「よかった……後でお見舞いに行かないと」
「それで? リンカーコアを奪ったのは誰なんだ? まさかあのチビ?」
「いや……例のあの仮面の男だよ」
そう言ってエイミィは端末を操作し、ヴィータと戦っている最中のなのはが、リンカーコアを抜き取られる瞬間の映像を二人に見せる。
「そんな……管理局の監視をくぐりぬけて、なのはを襲うなんて……」
「管理局のシステムには異常は無かったんだよ、それなのに……」

クロノ達の説明を聞きながらデスティニーは頭の中で自分なりの推測を立てていた。
(外部から管理局のデータをハッキングするのはほぼ無理……となると、一番怪しいのは……)

「とりあえず私達はなのはのお見舞いに行ってきます……」
「お、俺も……」
「私も行くよー」
一通りリンディ達の説明を聞いて、シンとフェイトとアルフはなのはのお見舞いに医務室に向かうことにした。
「ええ、行ってあげなさい、それと……あまり落ち込んじゃだめよ」
「管理局でもあの奇襲は察知できなかったんだ、仕方のないことだったんだよ」
二人が落ち込んでいるのに気付き、リンディとクロノは優しく励ます。するとシンはとても悲しい顔で自分の考えていることを語り始めた。
「リンディさん……どうにかしてあいつらと戦わないで済む方法ってないんですか?」
「それができればとっくにそうしているわ、でも……」
「先に仕掛けてきたのはあいつらのほうだぞ?」
「このままだと……なんかあの人の時みたいに取り返しのつかないことになるような気がして……」
リンディはシンがプレシアの事を言っているのに気付き、ふうとため息をついた。
「そうね、せめてもうちょっと早い段階で闇の書の主が発見できたなら、何らかの対策が打てたのだけれど……」
「彼らはすでになのはを含めて何人も傷つけている、無罪放免にもできないだろう……」
「……そうですか」
「シン……」
望んだ答えをもらうことが出来ず、シンは肩を落としてそのままフェイトと共になのはのいる病室に向かった。

「シン君……相当PT事件のこと、引きずっていましたね」
「気にする必要はないってのに……あの事件も今回の事件も、未然に防げなかった僕らにこそ責任があるっていうのに……」
クロノもまた、これまでのことを通じて自分の無力さを嘆いていた。
「クロノ……」
「もっと僕達管理局がしっかりしていれば、あんなことが起こることも、民間人であるなのは達を戦わせることもなかったんだ……!」


数分後、ブリーフィングルームからでたリーゼ姉妹は誰もいない格納庫で、こそこそと何かを話し合っていた。
「ロッテ……私達のしていること、本当に正しいのかな……?」
「アリア……! 突然何を言うの!? お父様の目的は何なのか……! クライド君の仇を討ちたくないの!?」
「で、でも私達のやり方は確実とは言えないし! 私達ならもっとうまく出来たはずなのに! これじゃあ……」
「アリア……! お父様を裏切るの……!?」
ロッテは鬼の形相でアリアの胸倉をつかむ。
「ろ、ロッテ……」
「私達は……今さら後には退けないのよ!? もし私達を裏切るつもりなら……!」
「そ、そんなことしないよ! 変なこと言ってゴメン……」
あたりに険悪な空気が流れ、ロッテはアリアから手を離し、何も言わずにその場を去っていった……。


同時刻、八神家に戻ってきたシグナム達は砂漠に現れた仮面の男について話し合っていた。
「あいつら一体何もんだ? 折角あの高町なんとかをぶっ飛ばそうと思ったのに横から水を差しやがって……」
なのはとの決着がつけられず、面白くなさそうに頬を膨らませるヴィータ。
「でも……彼らのおかげでページも大分集まったわ、あとちょっとで完成よ」
「もうひと踏ん張りだ……皆、がんばろうではないか」
「……」
それぞれが決意を新たにする中、ヴィータだけは何やら不安そうに考え事をしていた、そしてそれに気づいたスウェンは彼女に話しかける。
「どうしたヴィータ? 何か考え事か?」
「うん……何だかさ、このまま闇の書を完成させてもいいのかなって……なんか大事なことを忘れている気がするんだ」
「……何を言っている? お前達は闇の書の騎士なのだろう? なら間違いは……」
ヴィータはスウェンに向かい合い、彼にある頼みごとをしてきた。
「なあスウェン……私達に何かあったらはやてをよろしくな」
「よせ、縁起でもない……お前らしくないぞ、さては何か悪い物でも食べたか?」
「うーん、しいて言えばシャマルの料理?」
「聞こえているわよヴィータちゃん!」

そのとき、二階のはやての部屋から誰かがバタンと倒れる音がした。
「なんだ!?」
全員が様子を見に行くと、そこには苦しそうに胸を抑えて倒れているはやてがいた。
「ううう……うう……」
「はやて!」
真っ先にヴィータが駆け寄る。
「動かすな! 頭を打っているかもしれん!」
「シャマル! 救急車だ!」
「は、はい!!」
「はやて! はやてぇ!」


数十分後、はやてが担ぎ込まれた海鳴大学病院のとある病室。
「みんな大げさやなあ~。胸がつっただけやん」
すっかり持ち直したはやては心配そうにしている皆に自分の元気さをアピールする。
「ですが頭を打っていましたし……」
「一応大事をとって入院することになりましたので……」
「もう、みんな心配性やなあ」
呆れたようにふふふと笑うはやて、しかしシグナム達ははやてが倒れた本当の原因を察知しており、心苦しい思いをしていた。
(闇の書の呪いが進行しているわね……)
(ああ、急いだほうがよさそうだ)
はやてが弱っていく姿を見て、決意を新たにするシグナム達だった……


数日後、聖祥大付属小学校のなのは達のクラス……そこでアリサ達は数日ぶりに学校に来たなのはに色々と質問していた。
「まったく、いきなり風邪ひいて休むなんて驚いたわよ、心配かけさせないでよね」
「でも完治してよかった……」
リンカーコアを奪われたなのはは風邪をひいたという理由で学校をしばらく休んでいた。
「にゃはは……ごめんね」
「今の時期って風邪が流行りやすいからね……」
「なのはも普通の女の子だったわけだ」
「むー! ひどいよシン君! それどういう意味!?」
そう言ってなのははシンの肩をポカポカ叩く。
「はっはっは、よせよ~」
「シン、このネタ二回目だよ」
そんなシン達の様子を見て、アリサはふうっとため息をついた。
「まったく……風邪には気をつけなさいよね、25日はウチでみんなを招いてパーティーを企画しているんだから」
「そっか、たしかその日にルイスちゃんと留美ちゃんが日本に遊びにくるんだっけ?」
「るいす? りゅーみん? 誰だそれ?」
知らない人間の名前を聞いて首を傾げるシンとフェイト。
「そっか、フェイトちゃんとシン君は知らなかったね、その二人はアリサちゃんのメル友なんだよ」
「確かとってもお金持ちだとか……学校の冬休みを利用して遊びにくるんだって」
「へえ……あのわんこの家でクリスマスパーティーか、マユも喜ぶだろうなー」
(早く終わらせないといけないね、パーティーを楽しむためにも……)

その時、すずかが何かを思い出しシン達にある提案をしてくる。
「あ、そうだ……みんな、ちょっとお願いがあるの……私の友達にはやてちゃんって子がいるの」
「ああ、すずかが図書館で会ったって子? その子がどうかしたの?」
「うん……実ははやてちゃん、この前入院しちゃったみたいなの、だから今度お見舞いに行こうと思っているんだけど……」
「ええ!? 大変だね!」
すずかの話を聞いて会ったことのないはやての事を本気で心配するなのは達。
「その前に励ましのメールを送ってあげたいと思っているんだけど……みんなも手伝ってほしいの」
「いいよ、俺達に出来ることならなんでも言ってくれよ」


それから一時間後、八神家で夕飯の準備をしていたシャマルは、自分の携帯電話にすずかからのメールが届いていることに気づく。
「あら……すずかちゃんからだわ」
メールには「はやてちゃん、早く良くなってね」というメッセージと、一枚の写メールが添付されていた。
「あらあら……」
はやてちゃんもいいお友達をもったわね、とシャマルは嬉しそうに添付された写真を見る。

そして衝撃でもっていたお玉を落としてしまった、写真にはすずかの他に、自分達と何度も戦ったなのは、フェイト、そしてシンが映っていたから……。









今回はここまで、残すは最終決戦のみとなりましたね。
とりあえず次回をお楽しみに、月曜日に投稿します。



[22867] 第六話「蒼き嘆きの詩」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/14 19:52
第六話「蒼き嘆きの詩」


12月23日の夜、アスカ一家とフェイトとアルフは翠屋のクリスマスパーティーにお呼ばれされていた。
「いやいやすみませんね、態々招いていただいて……」
「いいんですよ、はいこれ」
そう言って士郎は隣に座っていたシンの父のコップにビールを注ぐ。シン達が座るテーブルには桃子が作った様々なごちそうが所狭しと並べられていた。
「桃子さんってパティシエだったんですよね? 今度レシピとか教えてくれません?」
「ええ、いいですよー」
そうして大人達が会話に花を咲かせている一方、シン達子供組も料理に舌鼓を打ちながら和気藹々としていた。
「マユね、明日ね、お兄ちゃんとパパとママと一緒に遊園地に行くの!」
「ふふふ、よかったねマユちゃん、でも残念だったね、クロノ君とリンディさんが来れないなんて……」
「なんだか急に仕事が入っちゃったみたいなんです」
「まあその代わり、桃子さんが作ったケーキ持って帰るんだからいいんじゃね?」
「アルフもおいしい?」
「くうーん」
美由希はテーブルの下で嬉しそうに肉を頬張るアルフ(こいぬフォーム)を見て微笑む。
「今年もイブは地獄の忙しさだな……」
「いいよねー恭ちゃんは、忍さんとお店の中で一緒にいられるんだからー」
忍とはすずかの姉で恭也の彼女であり、この翠屋でアルバイトをしているのだ。
「それじゃ私、今夜のうちに値札とPOP作っておくね」
「よかったら俺達も手伝うか? みんなでやったほうが早く終わるだろ」
「なのは、私も手伝うよ」
「わあ! ありがとう二人とも!」
そんな和やかな空気の中、マユは料理をおいしそうに食べながらシンに話しかけてくる。
「ねえお兄ちゃん、今年もサンタさん来てくれるかな? マユね、お姉ちゃん達みたいな携帯電話がほしー」
「そうだな……マユはいい子だったしきっと来てくれるさ、あと携帯電話は4、5年早いんじゃね?」
「シン? サンタさんって何?」
シンとマユの話を聞いてフェイトも質問してくる、今までクリスマスの無い世界で暮らしてきたフェイトはサンタという存在を知らなかった。(クリスマスというイベントもこの世界に来て初めて知った)
「フェイトお姉ちゃんサンタさん知らないの? サンタさんはクリスマスにプレゼントを配ってくれるおじさんなんだよ、良い子のところに来てくれるんだって」
「そうなんだ……じゃあ私のところには来てくれないね、今年は私、いっぱい悪いことしちゃったから……」
PT事件の事を思い出し軽くへこむフェイト
「こら! 暗くなるな!」
そんな彼女の口にシンはパンを押しこむ。
「もごっ!?」
「もーだめだよフェイトちゃん、暗い話はノンノンノン! だよ!」
「ふぉめんなふぁい……(訳:ごめんなさい……)」
口にパンを咥えたまま謝るフェイト。
「……? あの子達は一体何の話を?」
「あー……それより士郎さんもほら! ぐいぐいーっと!」
「桃子さんもほら! 美由希ちゃんもどう!?」
「あはは、私は学生なんでお酒はダメですよー」
怪しがる士郎達の注意を反らすため、アスカ夫婦は慌てて酌を注いだ。



同時刻、海鳴総合病院でははやての病室にスウェンとノワールがお見舞いに来ていた。
「皆最近お見舞いに来てくれへんな……お仕事忙しいんやろか?」
「実はそうなんスよー、ごめんなさいねー姐さん」
ノワールはスウェンが切ったリンゴをシャクシャク食べながらはやてに謝る。
「私のことは別にええんよ、うっ……」
その時、はやては急に胸が苦しくなり、ベッドの上で蹲ってしまう。
「!! はやて!」
「はやて姐さん!」
異変に気付いたスウェンとノワールはすぐさまはやてに駆け寄り、背中を優しくさすってあげる。
「大丈夫か? 石田先生を呼ぶか?」
「へ、平気よ……心配かけてごめんな……」
「謝らなくていい」
そう言ってはやてを優しく寝かせるスウェン、するとはやてはポツリポツリと昔話を始めた。
「もう皆と出会ってから半年以上経つんやね……月日が経つのは早いもんや」
「何ババくさいこと言っているんスか、まだ年齢一桁なのに」
調子よくはやてをからかうノワール、しかしはやては答えることなく窓の外の景色をじっと見つめていた。
「……見て、外はもうクリスマス一色や、この町の人皆、大切な人と一緒に幸せな時間を過ごしているんやろうな……」
「……はやてには俺達がいるだろう、弱気になるんじゃない」
「うん……でもな、なんとなくわかるんよ、もうすぐ私にお迎えが来るって……天国にいる両親と会えるんや」
「「…………」」
病室に重苦しい空気が流れる、それでもはやては話を続けた。
「本当は皆を残して死にたくない……でも、最近思うんや、これが私の運命なんだって、神様がそう定めたのなら……従うしかないんやろうな」
「はやて」
弱気になっているはやてに対し、スウェンは手を握って彼女を励ました。
「はやて……まだ家に俺とはやてだけだった頃を覚えているか?」
「うん……覚えとるよ、短い間やったけど……」
「その時に花火大会があったのを覚えているか? あの時は結局雨で中止になって見ることが出来なかったが……それなら来年、今度はシグナム達と一緒に見に行こう、約束してくれ」
「え? でも私は……」
それまで生きられない、その約束は果たせない、と言おうとしたはやての言葉を、スウェンは少し大きな声で遮った。
「お願いだ、約束してくれ……」
はやてはその時初めて、スウェンが悲しそうな顔をしていることに気付いた。
「……分かった、約束する……」
「ありがとう……それじゃもう遅いし、俺達はそろそろ帰る、ちゃんと寝るんだぞ」
そう言ってスウェンははやての毛布を掛け直し、頭を撫でて病室を出て行った。
「お休みはやて」
「お休みッスはやて姐さん」
「うん、帰り道に気をつけてな」



そして病院を出たスウェンは、何も言わずに近くにあった電柱に額をゴンとぶつけた。
「アニキ……?」
ボックスの中からスウェンの様子を窺うノワール、そして彼はスウェンが声を殺して泣いていることに気付いた。
「ノワール……! もし神様が本当にいるのなら、俺はそいつをぶん殴ってやりたい! なんではやてがあんな苦しい思いを……シグナム達が背負いたくない罪を背負わなきゃいけないんだ!! みんなが一体何をしたっていうんだっ……!」
「……変えてやりましょう、人の不幸を見てゲラゲラ笑ってる糞以下の運命の神様なんてぶっとばして、オイラ達で運命を切り開こうじゃないですか」
「ああ……そうだな……!」
スウェンは涙をぬぐい、決意を新たにして八神家に向かって歩き出した……。


一方スウェン達が去った病室では、はやてベッドの中で先ほどの出来事を思い出していた。
(スウェンのあんな顔……初めて見た、いっつもクールなのにあんな顔もするんやな……)
はやて先ほどから胸が苦しくなっていくのを感じていた、ただしそれは先ほどのと違って温かさも感じられていた。
(なんでやろ……なんで私、こんな気持ちになっているんやろ……確かベランダでお姫様だっこされたときもこんな気持ちになったな……)
いつの間にか、はやての頭の中はスウェンとの思い出で一杯になっていた。
(なんかちくちくする……もしかして私、スウェンの事……)
その途端、はやての心にとてつもない気恥ずかしさが襲い、彼女は毛布の中に潜り込んでしまった。
(あ、あかんあかん! 何考えとんの私!? もう寝よ! 寝よ!)
しかしはやては興奮する自分を抑えられず、その晩は一睡もできなかったそうな……。



そんなこんなで次の日、なのはとフェイトはアリサとすずかと共に、街中のバス停でとある人達が来るのを待っていた。
「それにしても今日はシン君いないんだね」
「うん、今日は家族水入らずで遊園地に行くんだって」
「そっかー、今の時期ってパレードが豪勢だもんね、よくチケット取れたよね、羨ましいなー」
「マユちゃんが楽しみにしているって言っていたっけ? まあ引っ越してきたばかりだしたまには家族水入らずってのもいいと思うわよ」

その時、バス停に一台のバスが停まり、そこから金髪の少女が出てくる。
「あ! アリサー! 迎えに来てくれたのね!」
「ルイスひっさしぶりー!」
金髪の少女……ルイスはアリサの姿を見ると、すぐさま彼女に抱きついた。そしてすぐそばにいたなのは達にも次々と握手していった。
「あなた達がアリサの友達ね! 私ルイス・ハレヴィ……って、ビデオメールで何度もあいさつしていたっけ?」
「直接会うのは初めてだよー、会えて嬉しいー」
なのは達もまた、ルイスに会うのを楽しみにしており彼女との出会いを喜んでいた。

「あれ?なんかこっちにリムジンが来るよ?」
その時、今度はバス停に黒塗りのリムジンが停まり、中からお団子ヘアーの黒髪の美女と、彼女より一回り大きい凛とした少年が出てきた。
「お嬢様、おぼっちゃま、念のため護衛の者たちを近くにつけておきます」
「わかりました……行ってよろしいですよ」
お団子頭の少女の指示で去っていくリムジン、そして少女はアリサ達のほうを見てぺこりとお辞儀した。
「ごきげんようアリサさん……態々待っていただいて嬉しいですわ、それにお友達の方々も……」
「あんたも相変わらずねー、留美」
アリサはお団子頭の少女……王 留美の年に似合わない圧倒的な風格に感心していた。そして……彼女の後ろにいた少年の存在に気づく
「そういえばその人は?」
「この人は私の兄の紅龍です、私は一人で来ると行ったのにこの人は勝手に……」
「お前に何かあったらどうするんだ」
「にゃはは、なんだかシン君みたいだね」
「妹のいるお兄ちゃんってみんなこうなのかな……?」
「ま、とりあえずみんな揃ったわね、それじゃ目的地へれっつごー!」
そして一同はアリサを先頭に海鳴総合病院に向かった、目的は……はやてのお見舞いをするために。



それから一時間後、はやての病室、そこでシグナム、ヴィータ、シャマルは、はやてのお見舞いに来ていた。
「ごめんねはやて、あんまりお見舞いに来れなくて……ていうかなんで寝むそうなんだ?」
「ちょ、ちょっとな、それより元気にしてたか~?」
「うん! めっちゃくちゃ元気!」
ちょっと眠そうなはやてに撫でられて、ヴィータは気持ちよさそうだった。
「そういえばゴハンとかどないしてんの?ちゃんと食べとる?」
「え、ええ……」
しどろもどろに答えるシグナム。
「大丈夫ですよ~私が毎日愛情をたっぷり込めて作ってますから~」
「そうか……ご愁傷様やね……」
はやては毎日シャマルのお世辞にも美味しいと言えない料理を、毎日食べている皆に哀れみを感じていた。
そしてそんな中シグナムとシャマルは念話で現在の状況について話し合っていた。
(そういえばザフィーラとスウェンは?)
(一緒にこの世界で蒐集を行っている……時間がないからな、こうしているうちにも主は目に見えるほど衰弱している……急がねば)



すると病室のドアが何者かにコンコンとノックされる。
『失礼しま~す。』
「あっ! すずかちゃんや! どうぞ~。」
「「!?」」
突然の来訪に、シャマルとシグナムは嫌な予感がしていた。そして病室のドアが開かれ、そこからなのは達が現れる。
「じゃ~ん!遊びに来たよ~!」
「お邪魔しま~す。」
「いらっしゃ~いみんな~」
「「「!!!!!」」」
シグナム達はすずか達の後ろにいたなのはとフェイトの姿に驚く、彼女達はなのは達がすずかの友人だと知って以来、今日まで定期的にお見舞いに来る彼女達と会わないよう色々と手を回していたのだが、はやてを驚かせようとしたすずか達の行動が今日の事態を招いてしまったのだ。
「「!!!?」」
なのはとフェイトもまさかここに闇の書の守護騎士達がいるとは思わなかったのか、少しばかり動揺していた。そして直感的に、はやてが闇の書の主ということに気付いてしまった。
「今日はサプライズプレゼントを持ってきたよ~!」
すずかとアリサは掛けていたコートを取り、プレゼントが入った箱をはやてに渡す。
「うわぁ~ありがとうな~」
はやては嬉しそうにプレゼントを受け取る。
「……」
そんな中、ヴィータはずっとなのは達を刺すように睨んでいた。
「あの……そんなに睨まないで……」
なのははそんな視線に耐えられなかった。
「睨んでねーです、元々こういう顔なんです」
「コラッ! ヴィータ!」
はやては態度の悪いヴィータの鼻を躾として摘みあげる。
「あうあうあうあうあう~~!」
「悪い子はこうやで~!」
その微笑ましい光景をみて、一同の重苦しい緊張が少し解れる。
なのは達は何故シグナム達が必死になって主のために戦うのか判った気がした。
(二人とも、少しいいか?)
そこにシグナムが小声で話しかける。
(管理局に通じない……通信妨害を?)
(シャマルはサポートのエキスパートだからな、とりあえず今は主達がいる、後で屋上に来てくれないか?)

その時、はやてはすずか達の他に自分の知らない少女達がいることに気づく。
「そういえば後ろの子たちは何方?」
「この子たちは私の友達なの! 日本に遊びに来ていて一緒にはやてのお見舞いに来てくれたの!」
「ルイス・ハレヴィです!」
「私は王 留美、後ろにいるのは兄の紅龍ですわ」
紅龍は何も言わずぺこりと頭を下げた。
「いやー、今日は大所帯やねー、こんなにお見舞いに来てくれるなんて私嬉しいわー」
「なんの病気か知らないけど早くよくなってね」
「よろしければわたくしがもっといい病院を紹介させていただきますわ」
ルイスと留美もまたはやての身を案じて励ましの言葉を贈る。

その時……シグナムは紅龍がじっとこちらを見ていることに気付いた。
「……何か?」
「いえ、失礼ですが何か武術を嗜んでいるのですか? 立ち振る舞いが様になっていたので……」
「シグナムは町で剣道場の師範の仕事をしてはるんですよー」
代わりにはやてが答え、紅龍は納得してうんうんと頷く。
「なるほど、俺も武術を習っているのです、よろしければ今度手合わせを……」
「はい、そのうちに……(ほう、よい目をしている……)」
シグナムもまた、紅龍の隙のない立ち振る舞いに感心していた……。


数十分後、夜の海鳴大学病院の屋上でなのはとフェイト、シグナムとヴィータとシャマルが対峙していた。ちなみにすずか達は先に帰している。
「もうやめてください!沢山の人を傷つけて…こんなことをしてもはやてちゃんは喜ばない!」
「闇の書が完成したら大変なことになるんです! 悪意ある改変をうけて……だから!!」
なのは達の言葉にシグナム達は首を横に振る、そして辺りに結界が張られる。
「それでも……主のためなのだ」
「クラールヴィントの結界からは出しません!!」
「邪魔すんなよ……もうすぐ終わるんだ! はやてとみんなで静かに暮らすんだ……だからお前ら邪魔すんなぁ!!!!」
ヴィータが先陣を切り、なのはに襲い掛かる。
それを、なのはが受け止める。
「わかった、その代わり…私が勝ったらちゃんとお話聞いてもらうよ!!」
そしてなのは達は互いの守りたいもののためにぶつかり合う、その戦いを何者かに監視されていることに気付かずに。


一方、スウェンは帰りが遅い皆に代わりに夕飯の買い物をすませ、帰宅の路についていた。
「シャマルがメールで帰りが遅くなると言っていたが……何かあったのだろうか?」
「うーん……何事もなければいいんスけどね」
そう言って街中を歩くスウェン、その時、彼の視界にクリスマスセールの真っ最中であるおもちゃ屋が入ってきた。
「……ノワール、少し寄り道をするぞ」
「おう? アニキがおもちゃ屋に行くなんて珍しいッスね」
そしておもちゃ屋に入るスウェン、彼はそのままぬいぐるみのコーナーに足を運んだ。
(見舞いに行けない間、はやては一人ぼっちだからな……ぬいぐるみがあれば少しぐらい寂しくはなくなるだろう)
そしてスウェンは商品棚の奥に狐耳と尻尾を生やした巫女服の女の子のぬいぐるみを発見する。
「『もふもふ久遠ちゃん』……そう言えばニュースで人気商品だとか何とか言っていたな、よし」
スウェンは即決してそのぬいぐるみを手に取る、その時……その商品棚に一人の女の子が近付いてきた。
「あー! 久遠ちゃん売り切れてるー! そんなー!」
「ん? この声は……」
スウェンは聞き覚えのある声に反応して振り向く、するとそこにはコートに身を包んだマユがいた。
「あ! スウェンおにーちゃんだ! こんにちはー」
(おやー、マユ嬢ちゃんじゃないッスか)
「君は……こんなところで会うとは奇遇だな」
「うん! マユねー、家族みんなで遊園地に行ってたの! それでね! パパがプレゼント買ってくれるって言うからここにきたの、でも……」
マユはスウェンが持つぬいぐるみを羨ましそうに見つめる、マユもまた「もふもふ久遠ちゃん」を欲しているのだ。
「……よかったらどうぞ」
スウェンはそんな彼女の様子に気付き、迷うことなく自分のもふもふ久遠ちゃんを手渡した。
「え!? いいのお兄ちゃん!?」
「ああ、別にそれに拘っていないからな、大事にしてくれるなら譲ってやろう」
(アニキってばおっとなー)
「ありがとう! スウェンお兄ちゃん!」

「マユー、プレゼント決まったかー?」
その時、マユ達の元に一人の少年が駆け寄ってきた。
「あ! お兄ちゃん! 久遠ちゃんあったよ!」
「そうか、それはよかっ……た……!!!?」
その少年……シンはマユの傍に今まで自分と何度も戦った闇の書の守護騎士の仲間であるスウェンがいることに気付き、表情を変える。
「!!!!!?」
そしてスウェンもまた、シンの姿に気付き咄嗟に身構える。
「……? お兄ちゃん達、どうしたの?」
「マユ……そいつは誰だ?」
「スウェンおにーちゃんの事? 私のお友達の家族の人だよー」
(これはこれは……意外な接点でしたね)
「お前が……マユの兄だったのか」
互いの間に流れる険悪なムード、その間に挟まれているマユはどうしたらいいか解らずオロオロしていた。するとそこに、今度はシンの両親がやってきた。
「シン、どうしたんだ?」
「マユは見つかったの……ってアラ? スウェン君じゃない、一体どうしたの?」
「母さん……彼なんだ、守護騎士達と一緒にいた、俺と戦った少年っていうのは……」
「え!?」
「何だと!?」
シンの言葉に二人は目を見開いて驚く、その間スウェンは脳内で様々な思考を巡らせていた。
(どうする? ここで戦う訳にもいかない……みんなを呼ぶか? しかし……)
「ねえ、お兄ちゃん」
そんな一発触発の空気をマユの一言が振り払った。
「? どうしたマユ? マユは後ろに下がったほうが……」
「お兄ちゃん……もしかしてスウェンお兄ちゃんと喧嘩するの?」
「「は?」」
予想外の言葉に呆気にとられるシンとスウェン。
「喧嘩は駄目だよ、だってスウェンお兄ちゃんはいい人だよ、マユが悪い人に襲われないようにいっつも送り迎えしてくれるもん」
「で、でもなマユ、こいつは悪い奴の仲間で……」
「ヴィータちゃん達が悪い子な訳ないよ! そうだとしてもきっと理由があるんだよ!」
「ま、マユ……」
その時、シンの父が彼の肩をポンと叩いた。
「シン、ここで戦うのはあまりよろしくないだろう、まずは話し合ったほうがいいんじゃないのか?」
「父さん、でも……」
「戦わずに済めばそのほうがいい、シンだってそう言っていたじゃないか」
「う、うん……」
シンは父に言われた通り構えるのをやめ、スウェンに歩み寄った。
「……ちょっと場所を変えよう」
「わかった」



数分後、人気のない工事現場……そこでシンとスウェンは、マユ達に見守られながら自分達のデバイスを出し、向かい合っていた。
「まずは……お前達の目的を聞きたい、なんでリンカーコアを集める? 闇の書は悪意ある改変を受けているから完成させても主は死ぬだけなんだぞ、それどころか周りのものまで滅ぼして……」
「出鱈目じゃ……ないのか」
シンの言葉にウソ偽りを感じない上に、先日のヴィータの言動の事もあってスウェンはシンの言葉を信じかけていた。
一方その言葉を投げかけたシンも、スウェンの挙動を見てデスティニーと共に色々と思考を巡らせていた。
(あの様子を見ると……どうやら知らないで集めていたみたいですね……)
(防衛プログラムにまで異常をきたしているのか……それであいつは守護騎士達の行動を鵜呑みにして……)

「……今度は俺から質問していいか?」
「いいぞ」
「お前は……“コーディネイター”なのか? コーディネイターとは一体なんだ?」
スウェンの質問に言葉を詰まらせるシン、そして息を思いっきりはいたあと、意を決っして答えた。
「俺は……俺とそこにいるマユはコーディネイターだよ、コズミックイラっていう世界の技術で、遺伝子を調整して普通の人より免疫や運動能力が上回っているんだ」
「遺伝子を調整……」
スウェンは自分の中から沸きあがってくるどす黒い感情を抑えながらシンに再び語りかける。
「俺の本当の家族は……コーディネイターに殺されたらしい、本当のことは解らないけど……」
「……確かにコーディネイターの中には、ナチュラルを妬んだり恨んだりする人もいる、でも……でも俺達はそんなひどいことはしない! 遺伝子がどうとか! 生まれ方がどうかなんかで誰かを恨んだりしない!」
プレシアの事を思い出しながら、シンは必死に訴えかけた。
「……なるほど、お前は信じるに値する人間だろう、でも……!」
スウェンは無言のままセットアップし、ショーティーの銃口をシンに向けた。
「スウェンお兄ちゃん!」
「マユ、シンに任せてあげなさい」
止めに入ろうとするマユを、シンの両親が制止する、対してシンもセットアップしてビームライフルの銃口をスウェンに向けた。
「そうだよな……それでも守りたいものがあるんだよな」
「ああ、そうだ……お前達にはやてが救えるのか? それが解らない限り、俺ははやてを守ろうとする皆を信じる」

両者の間に張りつめた空気が充満する、その時……ほぼ同時に二人の脳内に念話が聞こえてきた。
『シン! 聞こえているかい!?』
「アルフ? どうしたんだ?」
『さっきからお友達の病院の見舞いに行ったフェイト達から連絡がつかないんだよ! なんか病院の周りに結界が張ってあって……!』
「フェイトが!?」

『スウェン! 聞こえるか!?』
「ザフィーラ……一体どうした?」
『シグナム達と連絡がつかん! 病院で何かあったらしい……一足先に行っているぞ!』
「……わかった」

念話を切ったシンとスウェンは、そのまま海鳴総合病院に向かって飛び出した。
「シン!?」
「父さん母さん! マユを連れて先に帰っていてくれ! フェイト達に何かあったみたいだ!」
「わ、わかった!」
「お兄ちゃん! 気をつけてねー! スウェンお兄ちゃんもー!」

そしてシンとスウェンは全く同じ方向に向かって海鳴の夜空を飛翔していた。
「あ……あれ!? そっちも同じ方角!?」
「どうやら俺たちの仲間が戦っているらしい、勝負は向こうについてからだな」
「あ、ああ……」



その頃海鳴総合病院の屋上では、なのは達とヴォルケンリッターによる激しい戦いが繰り広げられていた。
「吹き飛べええええ!!!」
「きゃ~!!」
ヴィータの攻撃に吹き飛ばされ、なのははフェンスに激突する。
「なのはぁ!!!」
シグナムと鍔競り合いをしていたフェイトはなのはに声を掛ける。
「余所見をしている暇があるのか?」
シグナムの斬撃をギリギリでかわすフェイト、だが、
「でええええええい!!!」
そのスキにシグナムの蹴りを腹部に喰らってしまう。
「がはっ……!」
フェイトはそのまますべるように地面に倒れた。
「すまないテスタロッサ、私は主のためなら……たとえ騎士道に反してしまっても……!!」
シグナムは自分の卑怯な行いを悔いてか、一筋の涙を流していた。そしてそのまま彼女はフェイトを抱き起した。
「フェイトちゃん! 起きて!」
フェンスに叩きつけられたなのはは、ダメージが深い体で必死に親友の名前を呼ぶ。
シグナムはフェイトのリンカーコアを獲るため、彼女の胸に手を伸ばす。
(くっ……! このままじゃ……!)
フェイトもダメージが深く体の自由が利かなかった。
そして、フェイトのリンカーコアが獲られようとしたその時、

突然、ヴォルケンリッター全員にそれぞれ四重のバインドが掛かったのだ。
「なぁ!?」
「うわぁ!」
「え、えぇ!?」

「今彼女の力を奪われては困る……」
そこに現れたのは仮面の男だった。
「貴方達は……!?」
続けざまに、今度はなのはとフェイトにもバインドが掛かった。
そして仮面の男はヴォルケンリッターに手をかざす。
「足りないページは貴様達のリンカーコアで補う……今までもそうしてきたはずだ」
「な……何なんだよ、何なんだよお前!!!?」
「それでは……さようならだ。」
そして、騎士達はリンカーコアを奪われ、魔力で姿を保っていた彼女達はヴィータを除いて、この世から消えてしまった。
「さて……」
「うおおおおおおおお!!!」
その時、突如仮面の男に異変を察知して駆けつけてきたザフィーラが殴りかかってきた。
「そうか、もう一匹いたな」
魔力障壁でザフィーラの攻撃を防ぐ仮面の男、そしてザフィーラの胸からリンカーコアが摘出された。
「奪え……!」
「ぐっ……! うおおおおおおおお!!!!」
ザフィーラの最後の一撃もむなしく、彼のリンカーコアも仮面の男によって蒐集されてしまった……。



はやては胸騒ぎがして目を覚ました。
窓の外はもう夜、そのせいか病室も暗くなっていた。
体を起こした瞬間、胸の辺りに激しい痛みが襲い、視界が真っ暗になったかと思うと、いつのまにか屋上に来ていた。そして彼女は信じられないものを目にする。
「なのはちゃん……!? フェイトちゃん!?」
そこには空中でヴィータを磔にしてデバイスを向けているなのはとフェイトがいた、地面にはザフィーラも倒れている。
「はやてちゃん、あなたはね……病気なの、闇の書の呪いっていう病気、もう治らないんだ」
「闇の書が完成しても治らない、はやてが助かることはないんだ」
はやては二人が何を言っているか理解できず涙声で二人に懇願した。
「何言うてるん? ウチはそんなこと命じてへん……それよりもヴィータを離して!」
二人ははやての言葉に耳を貸さず、話を続ける。
「みんなもう壊れていたんだ、俺がこうする前から……とっくの昔に壊れていた闇の書の機能を、まだ使えると思い込んで無駄な努力を続けていたんだ」
「無駄ってなんや!? シグナムは……シャマルは!?」
ふと、はやては後ろを見る、そこには2人の服だけが抜け殻のように落ちていた。
悪い予感が頭を駆け巡る。信じたくない、あんなに優しかった二人がこんな事をするなんて信じたくなかった。
「壊れた兵器は役にたたないよね、なら……壊そう」
なのはが一枚のカードを取り出し、ヴィータにそれをかざす。
「やめて……やめてぇ!!」
「やめてほしかったら……力ずくでどうぞ」
そしてカードがヴィータの魔力を吸い上げ、彼女をこの世界から消し去ろうとしたその時だった。
「「やめろおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」
「「!!?」」
天空から一足遅く駆けつけたシンとスウェンが、なのはとフェイトにビームライフルの弾を当てて儀式を中断させた。
「スウェ……ン……?」
「はやて! みんなはどうし……!!!?」
シンがヴィータを救出している間、スウェンはあたりを見回して状況を確認する、そして……脱け殻になったシグナムとシャマル、そしてピクリとも動かないザフィーラを見て、完全に頭に血を登らせていた。
「きっ……貴様らああああああああ!!!!!!」
「くっ、こんな時に邪魔が……!」
タイミングの悪い増援に悪態をつくなのはとフェイト、その時……シンの傍にいたデスティニーが彼女達に指をさして言い放った。
「正体はもうわかっています、仮面の男……いえ、リーゼ姉妹!」
「「!!?」」
正体を見破られ動揺するなのはとフェイト……に変装したリーゼ姉妹。
「アリアとロッテなのか!? どういうことだよデスティニー!!?」
「どうも砂漠での一件以来、この二人があやしいと思ったのです、管理局の監視から逃れて戦場に乱入なんて内部の人間にしかできませんし、ブリーフィングルームでの挙動が怪しかったですしね……それに聞くところによると、お二人は変身魔法が大層お上手なようで……なので心苦しいかったですが、クロノさんとリンディさんに調査を依頼していたのです」
「いつの間にそんなことを……なんでグレアムさんの使い魔がそんなことを!!」
「グレアム……!?」
スウェンはなぜシンが八神家に資金援助してくれるグレアムの名前を知っているのか不思議だった、するとノワールがある答えを導き出す。
「なるへそ、グレアムの旦那は管理局の人間だった訳ッスか、そんでこの事件の黒幕でもあると……」
「な、なんの為にそんな……!」
するとリーゼ姉妹は変身を解除し獣人の姿に戻る。
「11年前……闇の書がクライド君を……クロノのお父さんの命を奪ったからよ……!」
「クロノの……お父さん!!?」
初めて知る事実に驚愕するシン達、そしてリーゼ姉妹は声高らかに話を続けた。
「当時の闇の書の主を護送していたクライド君は、暴走した闇の書からクルーを逃がすために一人艦と運命を共にした……!」
「お父様はそのことをすごく負い目に感じて今まで生きてきた……だけど今日でそれも終わり! そいつを暴走させて封印してしまえば!」
「馬鹿な……はやてには何も罪は無い! それなのに……!」
スウェンの主張に、ロッテは鼻で笑って一蹴した。
「いいじゃない、その子はどうせ天涯孤独の身、居なくなったって誰も悲しみやしない!」
「そ、そんな……」
惨酷な言葉を浴びせられ、呆然自失となるはやて。


「……あんた達も、あの人とおんなじなんだな」
「?」
その時、シンは静かな声で、助け出したヴィータを床にやさしく寝かせながらリーゼ姉妹と向き合った。
「あんた達もプレシアさんと同じだ、誰かのためと言い訳ながら、自分の自己満足のために悲しみを振りまいて、大切に思っている人たちの気持ちを踏みにじる……それは、それはとても悲しいことなんだよ!!!」
シンはリーゼ姉妹とこの場にいないグレアムを、かつて悲しい運命から救いだすことができなかったプレシアと重ね合わせていた。
「もう……もうあんな悲しいことはたくさんだよ……! なんで! なんでみんなそんな悲しいことを繰り返すんだよ! そんなの絶対におかしいよ!」
目を覚まさないヴィータの頬に、シンの流した涙が滴り落ちる、すると魔力を失って意識を失っていたヴィータがうっすらと眼を開いた。
(あいつ……泣いているのか? なんで……?)
「もうこんなことは沢山だ! だから俺は……あんた達を倒す! 倒してこんな馬鹿げたことは繰り返させない!」
シンは力いっぱいアロンダイトを握りしめ、リーゼ姉妹に向き合った。
それを見ていたスウェンもまた、両手にショーティーを握ってリーゼ姉妹と対峙する。
「今わかった、俺が戦うべきなのはコーディネイターなんかじゃない、歪んだ性根を持つ者なんだと……誰と戦えばいいのか、今はっきりとわかった!」
そしてスウェンは、呆然としているはやてに言い放った。
「はやて、少し待っていてくれ、直ぐに片付ける……そしてみんなで家に帰ろう」
「スウェン……!」
その逞しく心強いスウェンの言葉に、絶望に彩られたはやての心に一筋の希望の光が差し込んだ。
「スウェンだったっけ、今からこいつらをぶちのめすぞ!」
「わかった……シン!」

そして4人は寒空の下、互いの信念を胸に激しくぶつかり合った……



その頃時空管理局本部では、クロノが今まで集めた証拠を手にグレアムを逮捕しようと武装局員を集めてグレアム提督の部屋の前にやってきていた。
「いくぞみんな……相手が提督だからって油断するな」
グレアムがかつての自分の恩師とはいえ、これまでの事態を引き起こした黒幕である以上クロノは管理局員として逮捕に踏み切っていた。
そして武装局員の一人がロックを解除し、クロノは部屋の中に入る。
「ギル・グレアム提督……あなたにお話……が……!?」
しかし、その部屋の中には……誰もいなかった。
「しまった!! 逃げられた!!!」




数分後、リーゼ姉妹と戦っていたシンとスウェンは、経験で勝っている彼女らを勢いとコンビネーションで圧していた。
「主、どうやらなのはさんとフェイトさんは別の場所で捕まっているようです、ですがもうすぐアルフさんとユーノさんが来てくれるそうで」
「その前に終わらせてやるよ!!!」
シンはビーム砲を薙ぎ払うように放ち、リーゼ姉妹を分散させる。
「当たれ!」
その隙をついてスウェンが背中のレールガンを連発し、何発かを彼女達に当てる。
「くそ! 私たちが圧されているなんて……!」
「あれで本当に即席チームなの!!?」

「ナイスショット!」
「いいサポートだ」
「いやー、オイラ達なかなかいいチームじゃないッスか」
「ええ、超不本意ですけど」


その頃、屋上に残ったはやては床を這いつくばり、いまだに自由に動けないヴィータを抱き起した。
「はやて……ごめん……私達……はやてとの約束を……」
「ええんよ! もうええんや! 全部私の為やったんやろ!? 怒らないから……消えないで……!」
はやては声を殺し、ヴィータが生きながらえるよう神に祈った、その時……
「!!! ぐわああああああ!!!!」
突如近くで倒れていたザフィーラが、光の粒子となって消えてしまったのだ、そして彼の傍には……リーゼ姉妹が落としたカードを手に持ったグレアムがいた。
「ぐ、グレアム……さん……?」
「……怨むなら好きなだけ怨んでくれ、君の生まれが悪かったのだよ」
そう言ってグレアムははやてを突き飛ばし、ヴィータにカードをかざした。
「て、テメエ……うわああああああ!!!!」
「これで……これですべてが終われる!!!」
「やめて! やめてええええええ!!!!!」
グレアムははやての悲痛な叫びを聞き入れることなく、ヴィータをこの世から消し去ってしまった。



ドクンッ



その時、はやての胸の奥から言いようのないどす黒い何かが湧き上がってくる。


ドクンッ


なんでこんなことに、


ドクンッ


みんな消えてしまった。


ドクンッ


いつも私たちを助けてくれた、グレアムおじさんが消してしまった。


ドクンッ


なんで? 私はただ、みんなと幸せに暮したかっただけなのに!


ドクンッ


ああそうか、この世界は夢なんだ、これは悪い夢なんだ。


ドクンッ


だったらこんな世界、わたシガスベテブチコワシテヤル



はやてを中心に白く光る魔法陣が展開される、そして目の前に闇の書が現れる。
『グーテンモルゲン、マイスター。』
そして闇の書が、覚醒の時を迎える。


「!! この魔力反応は……!」
「んな!! 畜生……まだネズミがいやがった!」
デスティニーとノワールは異常に気付き、病院の屋上を見る。
「やった! お父様が来てくれたんだ!」
「これで闇の書は完成した……! 後は!」



「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
憎悪の叫びと共に、はやては光の中に取り込まれる。
「我は闇の書の主なり……この手に力を……」
はやての手には闇の書が握られていた。
「封印、開放」
その声と共に、はやての骨格がメキメキと音を立てて変わっていき、髪の色が灰色になり、顔と腕に赤いラインが入る。
漆黒の騎士服に身を纏い、六枚の黒い羽が背中に生える、そして瞳の色が光のない血のような紅の色に変わった。


「はや……て……?」
眼の前で何が起こったか判らず、呆然とするスウェン
「そんな! 間に合わなかった……!!」


「また……すべて終わってしまった、幾度この悲しみを繰り返せばいいのか……」
はやてを取り込んだ闇の書は、天を仰ぎ涙を流していた。















次回予告


それは、小さな願いでした

欲しかったのは、温もり

欲しかったのは、傍にいてくれる人

欲しかったのは、悲しい過去が霞むほどの幸せな今と未来


それなのに、運命は彼らから一つ残らず奪い去っていきました


だからその子は祈りました、運命ではなく……夜空に浮かぶ星達に、すべてを取り戻す為の一歩を踏み出す勇気が欲しいと。



それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が、世界を平和へ導く英雄として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。


それは、時を越えて刻まれた悲しみの記憶を打ち消す、ちょっと変わった家族の“絆”の物語


どこかの誰かが願いました……重き十字架を背負ってしまった星を見ることが大好きな少年が、何も背負うことなく、永い時を大切な人たちと過ごし、やがて彼が目指した星の世界に到達してほしいと


みんなで歩いていこう……歪み塞がれた、星の扉の向こうへ



Lyrical GENERATION STARGAZER 最終話「STARGAZER ~星の扉~」



星に込められた願いを、届かせろ! ガンダム!










本日はここまで、次回は最終回をお送りいたします。本当はクリスマスの時期に投稿したかったんですけど結局間に合いませんでした……。

As編もいよいよクライマックス、以前の作品より色々改変するつもりです! それではまた明後日!!!



[22867] 最終話「STARGAZER ~星の扉~」前編
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/16 21:09
闇の書が完成したころ、なのはとフェイトはリーゼ姉妹によって展開されたクリスタルゲージの中に閉じ込められていた。
「くのー! 全然出れないー!」
「こうしている間にもはやてが……!」

「フェイト! なのは!」
するとそこに救援に駆け付けたアルフとユーノがやってきた。
「ユーノ君! アルフさん!」
「待ってて! 今助ける!」
そう言ってユーノはクリスタルゲージを粉砕し、なのはとフェイトを自由の身にする。
「よし! 出れた!」
「早くはやてを助けに行かないと!」
「うん! 急ごう!」


一方その頃、闇の書を完成させたグレアムは、後方でシンとスウェンと戦っているリーゼ姉妹に指示を出していた。
「二人とも急げ! 奴を完全に暴走させるんだ! デュランダルはもう完成している!」
「「はい!!」」
「あ! 待ちやがれ!!」
シンの制止も聞かず、リーゼ姉妹はそのまま闇の書に突撃していった。
「積年の恨み!」
「今日こそ晴らさせてもらう!」
「……」
それに対し闇の書は、彼女達に向かって自分の手を翳した。
「星よ集え……すべてを導く光となれ」
「!! まずい! 避けろ!」
「……」
「アニキ! しっかりしてください!」
変わり果てたはやてを見て呆然とするスウェンを、シンは手を引っ張って安全なところまで移動させる。
「「はああああ!!!」」
「スターライトブレイカー」
目と鼻の先まで接近してきたリーゼ姉妹を、闇の書はスターライトブレイカーで吹き飛ばしてしまった。
「「ああああああああ!!!!?」」
「あ、アリア! ロッテ!」
自分の使い魔達があっさりやられ動揺するグレアム、そんな彼のもとに闇の書はつかつかと歩いて近づいてきた。
「くっ……ぐぉ!!?」
グレアムは何とか反撃しようとするが、片手で首をつかまれそのまま持ち上げられてしまった。
「貴様……よくも主を傷つけてくれたな、死をもって償え」
「あっ……! がっ……!」
闇の書は殺すつもりでグレアムの首をつかむ手の力を強めた。
「やめろおおおお!!!」
その時、管理局本部から転送されてきたクロノがスティンガーレイを放ち、グレアムから手を放させた。
「貴様……邪魔をするな」
「彼は管理局が裁く! 君に手を下させたりはしない!」
するとそこに、クリスタルゲージから脱出したなのは、フェイト、そしてユーノとアルフもやってきた。
「クロノくん! はやくその人を安全なところへ!」
「後は私達に任せて!」
「解った……頼んだ」
クロノはそう言ってグレアムと地面に落下していったリーゼ姉妹を連れて管理局へ転移していった。
「我は闇の書、我が力のすべては……」
闇の書のただならぬ雰囲気に、なのは達は飲まれそうになっていた。
「みんな気をつけて! 彼女は強い!」
「そうだね……でも私達も負けないよ!」



その頃、スターライトブレイカーの砲撃から逃れたシンは、先ほどから目に生気が宿っていないスウェンを叱咤していた。
「おいどうしたんだよ!!? しっかりしろよ!」
「俺は……守れなかった……みんな……」
スウェンはシグナム達が消えてしまい、はやてが変わり果てた姿になってショックを受けていた。
「ああもうめんどくさいな! まだ助けられるかも知れないだろ! あきらめんなよ!」
「無理だ……どうやって助けられるというんだ? 保証も無いのに無責任なことを言うな」
「こ……! この!」
頭に来たシンはそのままスウェンの顔を拳でぶん殴った。
「ぐっ……!?」
「おおう、青春ッス」
「ふざけんなよ……保証なんて無くったって、俺は可能性があればそれがどんだけ小さくても賭けてやる! もうあんな悲しい思いはたくさんなんだよ!!」
「一度機能停止になるまでぶちのめせば可能性は出てくるかもしれないッス」
「そのためには戦力が一人でも多いほうがいいでしょうね」
デスティニーとノワールの説明を聞いて、若干瞳に生気が戻るスウェン。
「……わかった、見苦しいところを見せた」
「別にいいよ、俺だって泣いているところ結構いろんな人に見られたことあるし……」
「ふっ、そうか」
(お! アニキが笑ったところ初めてみた!)
そしてシンとスウェンは戦列に加わるため、隠れてい場所から勢いよく飛び出した。

一方なのは達は、闇の書が召喚したこれまでヴォルケンリッターが集めたリンカーコアの主である怪獣達と戦っていた。
[アクセルシューター]
[プラズマランサー]
追尾弾と直進弾をトカゲのような怪物に放つなのはとフェイト、その間ユーノとアルフは闇の書にバインドを試みる……が、
「無駄だ」
簡単に引きちぎられてしまった。
「くそう、生け捕りは無理かい!」
「せめて周りの怪獣達をなんとかしないと……!」
その時、地面から突如触手をもった怪獣が現れ、他の怪獣を倒して油断していたなのはとフェイトを触手で絡め捕った。
「きゃあ!!!」
「ううっ!!?」
「フェイト! なのは!!」
それを見て慌てて助けに行こうとするアルフ、しかしよそ見をしていたせいで闇の書の蹴りを横っぱらに受けてビルに激突してしまう。
「わあああああ!!!」
「アルフ! くっ……このままじゃ!」
闇の書の息もつかせない攻撃に思うように行動できないユーノ、そうしている間にもなのはとフェイトは触手によって少しずつ締めあげられていった。
「あっ……ぐっ……!」
「し、シン……!」
二人は意識が遠のいていくのを感じていた、だがその時……上空から雨のようにビームの弾が降り注ぎ、彼女達を触手から解放した。
「フェイト!」
「ふっ!」
力なく落下していく彼女達を、駆け付けたシンとスウェンが抱きとめる。
「し、シン……来てくれたんだ……」
「ごめん! 遅くなった!」

「うにゃ!? あなたはヴィータちゃん達の!!?」
「事情は後で説明する、俺も一緒に戦わせてくれ」

「お前は……」
闇の書はなのはを抱くスウェンの姿を発見すると、悲しそうな顔で胸に手を当てる。
「お前が滅ぶのは主も騎士達も望まない……だから退いてくれ」
「断る、俺ははやてと約束したんだ、みんなと帰ると」
「デスティニー! あれを使うぞ!」
「はい!」
そう言ってシンは翠色のクリスタルをポケットから取り出し、目の前に展開した魔法陣にそれを投げ入れる。
「「クリエイション(創成起動)!」」
そしてクリスタルは周りの物質を取り込んでいき、白と翠のカラーリングの巨大な二頭身のゴーレムに変化していった、シンの新しい魔法、ゴーレムクリエイトである。
「おおお!? すごいシン君!」
「これがヴィアさんが作った新しい魔法……」
なのはとフェイトはシンの新しい魔法を見て驚きの声をあげる。
「主、この子は砲撃が主体なのでブラストと呼びましょう」
「わかった! ブラスト! 周りの怪獣達をぶっとばせ!」
シンの指示を受けブラストは腰辺りに巨大な魔法陣を展開し、そこから二本のビームを放った。
「ギャオオオオオン!!!」
「ウオオオオオオン!!!」
そのビーム砲は地面にいたすべての怪獣を跡形もなく吹き飛ばしてしまった。
「す、すさまじいね……」
「あれがシンの新しい魔法かい」
そんな風に皆がシンの新しい魔法に気を取られている中、スウェンは闇の書から巨大な魔力を感知する。
「おいお前ら! 来るぞ」
「星よ集え、すべてを導く光となれ……」
「まずい! さっきより大きなのがくるぞ!」
「はやく距離をとるんだ!」
シン達はスターライトブレイカーの直撃を避けるため、ブラストをクリスタルに戻し散開して闇の書から距離をとることにした。

「ここまでくれば……」
同じ方向に逃げてきたシンとスウェン、その時シンにアースラにいるエイミィから通信が入ってきた。
(シン君大変だよ! 結界の中に取り残された子達がいるみたい!)
「なんだって!!? 早く助けに行かないと!」
「俺も手伝おう、人手は多いほうがいいんじゃないか?」
「ありがとう! フェイト達も向かっているみたいだから早く行こう!」


そのころ、病院から帰る途中だったすずか、ルイス、留美は街の中から人が消えて呆然としていた。
「なんだろう、アレ……」
「急に人がいなくなっちゃったよ!」
「携帯も通じませんわ、日本ではこういうことしょっちゅうですの?」
「う、うーん……違うと思う……」
すずかは空に浮かぶ桜色の光に不安を感じていた。そこにあたりの様子を見に行っていたアリサと紅龍が戻ってくる。
「やっぱり誰も居ないよ…辺りは暗くなるし、なんか光っているし……一体何が起きているの!?」
「こっちにも人はいなかった、この現象は一体……」
その時、桜色の光から一筋の巨大な光線が大地に向けて放たれ、その衝撃波がアリサ達に襲い掛かる。
「!!?」
「こ、こっちにくるよ!」
「留美!」
思わずお互いを守るように抱きしめあうアリサとすずか。ルイスと留美を庇う様に抱きしめる紅龍。
だが、衝撃波が5人に直撃することはなかった。
「え?」
「一体何が…?」
恐る恐る目を開ける5人、そこにはなのはが、フェイトが、シンが、そしてスウェンが衝撃波から光の壁を展開して自分達を守っているのだ。
「なのは……? フェイト……!?」
「シン君!? それにスウェンさん!?」
「お二人とも、何ですかその格好? コスプレ?」
「確かこの子シン君ってこだよね? アリサの友達の……」
背中から羽根を生やしたり、見たことも無い格好や物騒な武器を持っている彼等に、5人とも頭が混乱していた。
そして衝撃波が収まり、二人は改めていつもと様子の違う彼等を見る。
「アンタ達……その格好は何!?」
「フェイト、水着なんて着て寒くないの?」
「ゴ、ゴメン! 訳はちゃんと後で話す!」
「だからちょっと待っててね!」
シンとなのはが両手を合わせて謝罪のポーズをとる。すると二人の足元が光り、何処かに転送されていった。


「バレちゃったな。」
「そうだね……」
「これ……やっぱり水着に見えるかな?」
悲しそうなシンの言葉に頷くなのは、そして先ほどのルイスの言葉を気にするフェイト。
そんな彼女達の前に闇の書が降り立つ。
「もうやめてくれ……無関係の奴まで巻き込むな!」
スウェンは必死に闇の書に訴えかける。
「我が主はこの世界が、愛する者達を奪った世界が、愛しき者が奪った世界が、悪い夢であって欲しいと願った、我はそれを叶えるのみ。主には穏やかな夢のうちで永久の眠りを……」
「なぁにがはやての願いだ! はやてがこんなこと望むはずがないだろ!!」
「そうだよ! はやては悲しむよ! だからもうやめて!」
シンとフェイトは闇の書がプレシアと重なって見えていた。
「あなたは……それでいいの!?」
「あなたは主の願いを叶えるだけの道具なんかじゃない!!」
「だから武装を解除して、はやてを開放しろ!!」
なのは、フェイト、シンの訴えに、闇の書は目に涙をためて答える。
「我は魔道書……ただの道具だ」
その言葉に、スウェンの堪忍袋の緒が切れる。
「ふざけるなああああああ!!!」
「「「「!!!!?」」」」
スウェンの突然の叫びに、その場にいた全員が驚く。
「お前は戦うだけの……壊すだけの存在なんかじゃない! 兵器がシン達の言葉を聞いて涙を流すものか!!!」
闇の書は慌てて涙を拭った。
「これは主の涙だ……私には悲しみなど……」
「そんな悲しい顔で……! 悲しみなんかないなんて誰が信じるか!!」
その時、結界内に地響きが立ち、地面が割れ、至る所に火柱が立った。
「うわ!? なんだなんだ!?」
シンは火柱に巻き込まれそうになったが、服が焦げる程度ですんだ
「崩壊が始まっています、あの子の暴走が本格化してきたようです」
「早いな……もう崩壊が始まったか、私もじき意識をなくす、そうなればすぐに暴走が始まる。意識のある内に主の望みを叶えたい」
「そんな……! どうしたら!」
その時、スウェンは勢いよく闇の書に向かっていく。
「いいかげんにしろ! 力ずくでも俺が止めてやる!!」
スウェンはフラガラッハを振り下ろすが、防御魔法で簡単に防がれてしまう。
「二人とも……主と騎士達に本当によくしてくれた、だから……」
「……!? ヤバイ! アニキ離れて!」
ノワールは危険を察知したがすでに遅く、スウェンの体は光の粒子になって徐々に消えていった。
「な………!?」
「スウェン!!」
「すべては……安らかな眠りのうちに……」
そしてスウェンとノワールは完全に消えてしまった。
「お前! なにしたんだ!」
シンは訳も判らず闇の書に怒鳴り散らす。
「彼等は私の中で覚めることの無い眠りの中にある。そのほうが……心置きなくこの世界を破壊できる」
「この……駄々っ子!」
「話は終わりだ、デアボリック……」
その時オレンジ色の光弾が飛来して闇の書に直撃し、詠唱を止める。
「よ~し! ストライク!」
「ゴメン! 遅くなった!」
光弾が放たれた先には合流してきたアルフとユーノがいた。
「ユーノ君! アルフさん!」
「たく……遅れた分キリキリ働けよ!」
「何人こようとも……」
闇の書は集まったなのは達五人を見る。
「いっくよーみんな! あのワガママ娘を止めるよ!」
「「「「おー!!!!」」」」
なのはの号令に他の四人も答える。そしてなのは達と闇の書の激闘の火蓋が切って落とされた。










スウェン……スウェン……。


誰だ……俺を呼ぶのは?


起きなさい……スウェン……。


この……懐かしい声は……。


「スウェン、もう朝よー、起きなさーい」
スウェンは気が付くと、どこかの部屋のベッドで寝ていた。
「あれ? ここは……?」
身を起こし、辺りを見回すと、彼は信じられないものを目にする。
「マ……マ……!?」
数年前、自分を庇って命を落としたはずの母親が、何事も無かったかのように自分に微笑み掛けていたのだ。
「ママ……なの?」
「何を言っているの? 早く顔を洗って朝ごはんを食べましょう」
そういうと、スウェンの母はスウェンの部屋から出て行った。
「ここは……」
スウェンは改めて辺りを見回す、そこは自分があの爆発事件に巻き込まれる前の、幼き日を過ごした家そのものだった。そして自分の体を見る、体は先程よりも縮んでいた、つまりスウェンは父と母が生きていた頃にもどってきたのだ。
「これって一体……?」
リビングに行くと、父親が新聞を読みながら朝食をとっていた。
「おはようスウェン、どうした? 狸に化かされたような顔をして?」
「……なんでもないよ、パパ」
何事も無かったかのように、スウェンは朝食が並べられたテーブルに座る。
「もう、スウェンったら……また遅くまで星の映像を見ていたのね、どうやら寝ぼけているようね」
「全く……スウェンは本当に星が好きだな、そういえばこの前プレゼントした望遠鏡はどうだ?」
「うん! とってもよく星が見えたよ! ありがとうパパ!」
「ふふふ……よかったわね、もうすぐ学校へ行く時間よ、早く支度をしなさい」
「わかったよママ」
朝食を食べ終えた後、スウェンは洗面台で顔を洗う。ふと、鏡に映る自分の顔を見る。
「もしかして……これは夢?」
スウェンは鏡に映る四歳若返っている自分の顔を見て戸惑う。
「スウェーン! 時間よー!」
母に呼ばれたスウェンは、慌てて着ていた学校の制服を直し、カバンを手に取った。
「行ってきまーす!」
「いってらっしゃいスウェン」
「車には気をつけるんだぞー?」
父と母に見送られ、スウェンは学校へ向かった。


学校の通学路、そこでスウェンは二人のクラスメートと合流した。
「おはよースウェン、今日も元気かー?」
「シャムス、ミューディー……おはよう」
「あら? どうしたのその本?」
ミューディーと呼ばれた少女はスウェンが抱えている本について聞いてくる。
「ああこれ? 図書室で借りてきた星座の本、今日返さなきゃいけないんだ」
「まったく、おめえはホント星が好きだよなー」
「でもそこがおしゃれでカッコいいわよねー」
「スウェン、今度俺も天体観測に連れて行ってくれ」
ミューディーのセリフを聞いて意見を180度変えたシャムス。
(シャムス……下心見え見えだよ……)
(うっせ! 女子にモテモテなお前に俺の気持ちが解るかよ!)
スウェンはそんなシャムスの三枚目な行動に苦笑いしていた……。

そしてスウェンは学校へ行き、授業を受け、昼休みは友達のシャムスとミューディーと楽しくおしゃべり、放課後は図書室で星の勉強と、他の子供達と変わらない一日を送って行った。

帰宅後、スウェンは今日学校であったことを夕食の食卓で両親に話していた。
「でね、あの後ダナとエミリオがアグニスに突っかかってきて…大変だったよ」
楽しそうに話すスウェンを、父と母は微笑ましく見ていた。
「ハハハ、スウェンのクラスには面白い子が沢山いるんだな」
「そういえばお隣のルーシェちゃんも同じ学校だったわね。見たことある?」
「校庭に迷い込んだ犬と戯れていたよ、動物好きだよね、あの子。」
和やかに続いていく時間、ふと、スウェンはテーブルから立ち、外出の準備をする。
「じゃあいってくるね、父さん、母さん」
「そうか……今日はこと座流星群がやってくる日だったな。」
「気をつけるのよ?夜道は危ないから……」
「うん、わかった」


スウェンは父が誕生日に買ってくれた望遠鏡を持って、いつも星を見る丘にやってきた。
「うわぁ……」
空を見上げると、銀河に浮かぶ幾億の星が宝石のように辺りを照らしていた。
「こんなに星が……すごい……でも……」
先程までの嬉しそうな顔とは打って変わって、とたんに悲しそうな顔になる。
「これは……夢なんだよね」
そこに、スウェンの両親がすまなさそうな、許しを請いたいといった表情でやってきた。
「パパ……ママ……」
「スウェン……ごめんなさい、今まであなたに辛い思いをさせて……」
「ここなら私達がいる、友達もいる、望遠鏡も、星がよく見える場所も、暖かい家もある。夢だっていいじゃないか、だから行かないでくれ……」

「「スウェンが欲しかった幸せ、みんなあげる」」

「僕が望んだ幸せ……」





とてもとても深い闇の中にはやてはいた。
とても眠たく、いつ瞳を閉じてもおかしくなかった。
「そのままお眠りを我が主、貴方の望みは全て私が叶えます」
目の前にいる灰髪の女性……闇の書が語りかける。
(私は何を望んでいたんやったっけ……?)
「夢を見ること、悲しい現実はすべて夢となる、安らかな眠りを……」
「私の……本当の望みは……」





一方なのは達は、戦う場所を海上に移したなのは達は引き続き闇の書との戦闘を続けていた。
「おらぁ!!」
「たぁー!!」
「甘い……」
バルディッシュとアロンダイトの攻撃を同時に防ぐ闇の書。
「穿て、ブラッディダガー」
シンとフェイトは距離をとって襲い掛かる爆発を避ける。
「「バインド!!」」
その時、ユーノとアルフが放った鎖型のバインドが、闇の書の足に絡みつく。
「今だ! なのは!!」
「うん! スターライト……ブレイカー!!」
桜色の閃光が闇の書を包み、爆発が巻き起こる。
「やった!?」
だがその時、爆煙の中から複数のビーム弾が放たれ、なのは達に襲い掛かる。
「きゃあ!?」
いきなりの反撃に避けるのが精一杯の一同。
その時、ビームの一つがフェイトに直撃する。
「あ……」
防御力のないソニックフォームだったフェイトはダメージをモロに受け気絶し、海に落下していった。
「フェイトー!!!」
アルフの悲痛な叫びが木霊する。そして追い討ちを掛けるように、闇の書はフェイトに向けて手をかざす。」
「ディバインバスター」
光線が無防備なフェイトに襲い掛かる。
「こなくそー!!」
シンは全速力でフェイトの下へ飛び、寸でのところで彼女を抱きかかえ救出する。
「大丈夫か! フェイト!」
息を切らしながらもフェイトの無事を確認するシン。
「ご……ごめんねシン、いつも迷惑をかけて……」
「いいんだよ、ちゃんと守るっていったろ?」
「う……うん」
その光景を見ていた闇の書は、シンに問いかけた。
「貴様……なぜそうまでして戦う? この世界はお前とは関係ないのだろう?」
負傷したフェイトをアルフに預けて、シンは改めて闇の書を見る。
「確かに俺は望んでこの世界に来たわけじゃない、でもこの世界には友達が沢山いるんだ! お前なんかに……!!!」
シンの頭の中にこれまで出会った大切な人の顔が浮かんでくる、背中の羽から光の粒子がばら撒かれ、そのまま彼は闇の書に突撃する。
「スターライト……」
その時闇の書の右の掌に桜色の魔力が収束されていく。
「壊されて……!!!」
同時にシンの右腕には青い籠手が装着される。
「ブレイカー」
「たまるか――――――!!!!!!」
次の瞬間、シンの右腕と闇の書の右手がぶつかり合い、彼等を中心に大爆発が起きる。
すると爆煙の中から、ボロボロになったシンが海へ向かって落ちていった。
「シン―――!!!」
思わず悲鳴に近い声でシンの名前を呼ぶフェイト。
「危ない!!」
海に激突する前にユーノがシンを救出する。
「ちくしょー……相討ちかよ!」
ユーノに抱きかかえられながら悔しそうに舌打ちするシン。
そして爆煙が晴れると、そこにはボロボロになった右腕を抱えた闇の書がいた。
「くっ……」
「シン君!」
なのはは慌ててシンの下に駆け寄る。
「ごめん……後は頼んだ」
「わかったよ、私に任せて」
そしてなのはは闇の書のもとへ飛び立った。
対峙するなのはと闇の書。
「お前も……もう眠れ」
「いつかは眠るよ、でもそれは今じゃない」
そしてなのはは大きく深呼吸し、レイジングハートを構える。
「カートリッジロード!! エクセリオンモード……ドライブ!!」
レイジングハートから数個のカートリッジが排出される。
制御を誤ればレイジングハートが壊れてしまうかもしれないエクセリオンモードを起動する、それだけの覚悟で挑まなければ闇の書には勝てないのだ。
(撃てるチャンスさえあれば……! 私だって皆を守りたいんだ!)
そしてなのはは、闇の書へ突撃していった。



「ありがとう……でも僕はもう行くよ」
スウェンは首を横に振った。
「スウェン!? なんで……!?」
「あそこにもどっても辛い思いしかしないのよ!? それならずっと私達と暮らしましょう!」
「パパ……ママ……」
悲しそうな顔でなおも引き止めようとする両親、そんな彼らに、スウェンは笑顔で答えた。
「僕ね……家族ができたんだ」
「家族……?」
首をかしげるスウェンの両親。

「不器用だけど、家族のことをいつも思ってくれているお姉ちゃん」
「料理は下手だけど、それ以外の家事はなんでもこなすお姉ちゃん」
「僕が迷っていたり、辛い思いをしているとき、黙って話を聞いてくれて、相談に乗ってくれるお兄ちゃん」
「ガサツで乱暴だけど、本当は誰よりも家族のことが大好きな妹」
「辛いときも……太陽みたいに笑ってみんなを支えてくれる妹」
「そして……僕の一番の味方の弟」

「僕は今兄弟達に囲まれてとっても幸せだよ、だから心配しないで」
『幸せ』という言葉を聞いて、スウェンの両親は彼を引き止めるのをやめた。
「そうか、スウェンは幸せなんだな……安心したよ」
「なら私達は何も言う事はないわ……」
スウェンは両親のもとに駆け寄り、二人に抱きつく。
「ありがとう……パパとママにもう一度会えてよかった」
「スウェン……」
すると二人の体が、光の粒子になって徐々に消えていく。
「私達は遠く離れてしまうけど……」
「いつまでも、貴方の近くで見守っているよ」
「「だから……」」
そして完全に消える寸前、その言葉をスウェンに贈る。


「「がんばれ!! スウェン!!」」





スウェンだけになった丘。相も変わらず星達は彼を照らす。
「マスター……」
するとそこに、妙にかしこまった様子のノワールが現れた。
「ノワール……行こう、はやて達を迎えに」
「……仰せのままに!!」
そして、その丘からスウェン達の姿は消えていた。





「私が……欲しかった幸せ……」
「ええ、愛する者達とずっと続いていく暮らし」
はやての頭の中に、次々と大切な家族達の顔が浮かぶ。
「眠ってください……そうすれば夢の中で貴方はずっとそんな世界にいられます」
その時だった。
「それは違うよ、それは逃げているだけだ。その夢はカケラでしかない」
突然の来訪者に驚く二人
「スウェン・カル・バヤン……!?」
「スウェン……? なんかちっこくないか?」
はやてはいつもと性格も身長も目つきも違うスウェンに驚く。
「確かに思い通りに生きられないのは辛いけど……夢って見るだけじゃなく、叶えるものでもあるんだよ」
「叶える……もの……」
半開きだったはやての目が徐々に開いて行く。
「僕……思い出したんだ、僕の夢は将来天文学者になることなんだ、でも……眠ったままじゃ叶わない、だってそれは……」
「それは、ただの夢の欠片や」
はやての目ははっきりと開かれ、しっかりと闇の書を見据える。
「私らこんな事望んでへん、貴方も同じはずや……違うか?」
すると、闇の書はポロポロと涙を流し始めた。
「……私の心は騎士達と深くリンクしています。だから騎士達と同じように私も貴方達を愛おしく思っています……」
そして闇の書は固く目を閉じリ、
「だからこそ! 貴方を殺してしまう自分自身が許せない!!」
いままで溜め込んでいた思いを、さらけ出した。
「……覚醒の時、少しは解ったんよ、望むように生きられない辛さは私にもわかる、せやけど忘れたらアカン……」
はやては手を伸ばし、両手で闇の書の頬を触る。
「あなたのマスターは今は私や、マスターの言う事はちゃんときかなあかん」
はやての足元に白い魔法陣が現れる。
「名前をあげる、闇の書とか呪いの魔道書なんて呼ばせへん。私は管理者や、私にはそれができる」
闇の書の目から涙が溢れ出す。
「無理です、自動防御プログラムが止まりません、管理局の魔導師が戦っていますがそれも……」
すると、スウェンが闇の書の頭を優しく撫でる。
「大丈夫だよ、はやてを……みんなを信じて」
「止まって」
その時、魔法陣の輝きが増した。


「動きが……とまった?」
闇の書の動きが止まり、戦っていたなのは達は様子を見る。
『外の方! 管理局の方! こちら…その、そこにいる子の保護者の八神はやてです!!』
「はやてちゃん!?」
「はやて!?」
「無事だったのか!? よかった~。」
『その声はなのはちゃん?それにフェイトちゃんにええっと……シン君!? あの、なんとかしてその子止めてあげたげる!?』
「どうすればいいのはやて!?」
『魔導書本体からコントロールを切り離したんやけど、その子がああしてると管理者権限が使えへん、今そっちに出ているのは自動行動の防御プログラムだけやから……』
「ど……どうすればいいの?」
理解しきれず、なのはは他の仲間達に聞いてみる。
「つまり……アイツにでっかいダメージを与えればいいんだな」
「じゃあなのはの得意なアレだね」
アルフ(大型狼型)の上に乗っていたシンとフェイトは互いに頷く。
「なのはの全力全開を……アイツにぶつけるんだ!!」
ユーノの説明を理解したなのはは、パアっと笑顔になる。
「さすがユーノ君! 解りやすい!!」
そしてなのははレイジングハートエクセリオンを闇の書へ向ける。
「エクセリオンバスターバレル展開、中距離砲撃モード!」
柄が伸び、レイジングハート本体から桜色の翼が生える。
そして、魔力による衝撃波を放った。防御プログラムの自由を強制的に奪う。
「エクセリオンバスターフォースバースト!! ブレイクぅ……シュート!!!」
放たれたエクセリオンバスターは四つに裂け、そのすべてが闇の書に襲い掛かる。


「はやて……先に行っているよ」
「うん、気を付けてな」
スウェンはノワールとユニゾンし、自分の目の前に銀色の魔法陣を展開する。
「いくぞノワール、悲劇の闇を切り裂く銀の閃光、その名は……」


そしてエクセリオンバスターが闇の書を飲み込むのと同時に、その光を貫くように銀の閃光が天に向かって放たれた。


「夜天の主の名に於いて汝に新たな名を送る、強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール」
辺りが白い光に包まれる中、はやてはその名前を呼ぶ。


「あなたの名は……リインフォース」










ちょっと長くなったので前篇後篇に分けました、後編は明日に投稿します。感想のレス返しは明後日投稿予定のエピローグ後にまとめて書きますので……

ちなみにシンの使った新たな魔法はVividのコロナの魔法を参考にさせていただきました。
クリスタルを使ってSDサイズのインパルスを召喚するってイメージですかね。



[22867] 最終話「STARGAZER ~星の扉~」後編
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/17 21:03
最終話「STARGAZER ~星の扉~」後編


『リインフォースを認識、管理者権限の使用が可能になります。ですが防御プログラムの暴走が止まりません、管理から切り離された膨大な力がじきに暴れてしまいます』
「うん……まあなんとかなるやろ、ほな行こかリインフォース」
『はい、我が主』


海上に張られた結界内に大きな地響きが起こる。
『皆気をつけて! 闇の書の反応消えてないよ!』
シン達の目の前には大きな黒い塊と小さな白い塊があった。
『下の黒い淀みが暴走が始まる場所になる。むやみに近づいちゃだめだよ!』
その時、白い塊の周りに赤、赤紫、緑、白の光が囲むように現れた。そしてそれは強い光を放ち人の形になった。
「ヴィータちゃん!」
「シグナム!」
そこにはリンカーコアを修復し、復活したヴォルケンリッターがいた。
「我ら夜天の主に集いし騎士」
「主ある限り我らの魂尽きる事なし」
「この身に命ある限り我らは御身の下にあり」
「我らが主、夜天の王、八神はやての名の下に!!!」
その瞬間、中心の白い塊にヒビが入り、杖を持ち騎士甲冑に身を包んだはやてと、ノワールとセットアップしたいつものスウェンがいた。
「はやて! スウェン!」
ニコリと微笑み返すはやてと、コクリと頷くスウェン。
はやては杖を天に掲げて叫ぶ。
「夜天の光よ、我が手に集え、祝福の風、リインフォース、セーット、アーップ!!」
はやての頭が白く染まり、黒い羽が六枚ついたバリアジャケットに身を包む。
「はやて……」
「はやてちゃん……」
ばつが悪そうにはやてを見るヴォルケンリッター。
「リインフォースが全部教えてくれた、けど細かい事は後回しや、皆……お帰り」
「はやて……はやてー!」
目に涙を流し、はやてに抱きつくヴィータ、そんな彼女の頭を、はやては優しく撫でた。そしてヴォルケンリッターはスウェンの方を見た。
「スウェン……ありがとうな」
「お前が頑張ってくれたおかげで、我々はまたこうして主と巡り会うことができた」
「本当に感謝している」
皆、次々とスウェンにお礼を言う
「なに、家族として当然のことをしたまでだ、それより……」
スウェンは黒い淀みを見る。
「あれをなんとかしなければな」


そこになのは達管理局魔導師達が合流する。
「はやてちゃん! よかった~!」
「なのはちゃん、フェイトちゃん……迷惑かけてごめんな。」
ふとはやては体中ボロボロになっているなのは達を見る。
「大変! シャマル、お願いできるか?」
「はい、クラールヴィントの本領発揮ですね」
シャマルは指輪型のデバイス、クラールヴィントに軽くキスをする。
するとなのは達の周りに暖かい光が纏われ、傷はおろかバリアジャケットの綻びまで治ってしまったのだ。
「すっげー! アロンダイトが新品みたいだ!」
シンは腕をぐるんぐるん回しながら、自分が全快になった事を確かめる。その他も皆シャマルの治癒魔法を絶賛した。


「皆、集まっているな、時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ」
そこにクロノがやってくる。
「時間が無いので簡単に説明する、あそこの黒い淀み……闇の書の防衛プログラムが数分で暴走を開始する、僕らはそれを何らかの方法で止めなければならない」
そしてクロノは一枚のカード型デバイスを取り出す。
「何だそれ?」
「これは氷結の杖デュランダル、この氷魔法であの防御プログラムを停止させる。もしくは軌道上で待機しているアースラの魔導砲、アルカンシェルで消滅させる、今あるプランはこの二つだ」
「あの……多分二つとも難しいと思います。」
シャマルが恐る恐る手を上げて意見する。
「主のいないプログラムは魔力の塊みたいなものだからな」
「アルカンシェルも絶対だめ!はやての家が吹っ飛んじゃうじゃんか!」
「そんなにすげえの?」
シンはヴィータの必死な意見を聞いて、デスティニーに聞いてみる。
「先程データが送られましたが……ここで使えば半径数十キロは消滅します、海鳴は壊滅しますね」
「それではここでは使えないな、俺達の帰る家がなくなってしまう」
「だな……じゃあ別の方法を考えないと」

そんなわけでシン達は闇の書の闇を倒すための作戦会議を始める。
『はーい、みんな後五分だよー』
「アレをもっと沖合いに移せないの?」
「海の上でも空間歪曲の影響は出る」
「我らのありったけの魔力をアイツにぶつけて……」
「でも確率は低そうだな」
「あーもうめんどくさい!! みんなであれをズバッとやっつけることはできないのかい!?」
「それが出来たら苦労しないよ……」
会議は平行線になっていた、その時……
「……? なあ、あそこに人がいるぞ?」
ヴィータは海岸沿いに数人分の人影がいるのを発見する。
「あれ!!? 本当だ!」
「逃げ遅れた人かな……」
一同は慌ててその人達のもとに飛び立った……。

その頃海岸沿いでは、安全な場所に転送されたアリサ達が、海上に現れた闇の書の闇を見て混乱していた。
「何あの怪物!? でっかー!!」
「ユニオンの新型MAでしょうか……?」
「そうは見えないが……」
「ねえアリサちゃん、あそこにいるのって……」
「うん、なのは達よね? あんな格好で何をしているのかしら?」
そして彼女達のもとになのは達が集まってくる。
「アリサちゃん!!? すずかちゃん!! それにみんなも!!?」
「どうしてここに!?」
『あらー……安全なところに移動させたつもりが、また巻き込んじゃったみたいだねー』
「なのはちゃんにフェイトちゃん!? はやてちゃん達まで!?」
すずかはなのは達の中に八神一家までいることに驚く。
「今日は仮想パーティーでもありますの? 随分と奇特な格好をしていますわね……」
「すごいね! どうやって飛んでいるのそれ!? CG!? ユニオンの兵器!!?」
「こ、これはその……そうCGなんだよ! ルイスちゃん正解!!!」
なのはは誤魔化す為ルイスの意見を敢えて肯定する、しかし……
「んなわけないでしょーが!!! ちゃんと説明しなさいよ!」
「いひゃひゃひゃ~!!!」
アリサに嘘と見破られ、頬を思いっきり引っ張られる。
「ああアリサ、落ち着いて……」
「こ、コエ~」
「どうします艦長……?」
『もうこうなってしまっては隠せないでしょう』
そしてなのは達はこれまでの事、そして自分達の事をアリサ達に洗いざらい説明した。
「時空管理局……魔法……どれもにわかには信じられないことばかりですわ、でも実物が目の前にありますし……」
「なのはとフェイトは魔法少女なんだ! すっごーい!」
「なるほど、そしてあなた達は今、あれを倒す為に四苦八苦していると……」
「うむ、そういうわけだ」
なのは達の事情を理解したところで、アリサ達も闇の書の対処について意見を出してくる。
「あれを消しとばす方法ね……なんかでっかい大砲みたいなの無いの? それで吹き飛ばしちゃえばいいじゃん」
「それはもう考えたよ……それだとアリサちゃん達が余波に巻き込まれちゃうの」
「軍に協力を要請することはできませんの? これほどの事態なのに……」
「うーん……この世界の軍にアレをどう説明すればいいのか解らないし、後々面倒なことになる」
「完全にお手上げか……」

腕を組んで悩みだす一同、その時……ルイスが手を元気よくあげて意見を出した。
「はいはーい! しつもーん!」
「はいルイスさん、なんでしょう?」
「オイラの好みのタイプはまどか☆マギカのほむほむちゃん!」
「お前は黙ってろ!!」
ノワールがシグナムに頭をはたかれているのを尻目に、ルイスは天に向かって指をさした。
「ねえねえ、魔法であれを宇宙とかに放り出すことはできないの? あそこならここで暴れられるより幾分マシだと思うけど……」
「あれほどの質量の物を宇宙に放り出すのは無理だ……」
「うーん……じゃあゴリゴリっと削って小さくしちゃえば? さっき見た女の人の攻撃がみんなにも出来ればイケるんじゃない?」
「ルイスさん、そう簡単には……」
「いやまて」
そのルイスの意見を聞いて、スウェンが思考を巡らせる。
「管理局の人、ちょっといいか? そのアルカンシェルとやらは宇宙でも撃てるのか?」
『撃てますよー! 宇宙だろうとどこだろうと!』
「スウェン、何かいい方法を見つけたのか?」
「ああ……」
スウェンは自分が思いついた作戦をみんなに話す。
その内容はまず皆で闇の書の闇に総攻撃を行い、戦闘不能まで追い込み、露出させたコアのみを宇宙に転送し、アルカンシェルで消滅させる……というものだった。
「どうだ? これならいけると思うが……」
「俺はスウェンの意見に賛成だ!」
「私もや! 今はこれしか方法があらへん!」
スウェンの提案した作戦に反対するものはいなかった。
『どうやら結論は出たみたいね、相変わらず無茶言うわ』
『でも計算上では可能なんですよね』
「ていうか素人の意見が一番まともな答えを導けるって……あなた達本当にプロですの?」
「ぐっ……!」
『め、面目ない……』
留美の手厳しい意見に、クロノとエイミィは返す言葉もなかった。

「俺はこの作戦は絶対成功すると思う」
「なんだ? 随分と自信満々だな」
クロノは妙に自信に満ちたスウェンを不思議がる。
「ああ、なぜならここにはみんながいる」
「うん、そうだよな」
スウェンとシンはお互い目を合わせ、仲間達を見る。
「守りたいものは皆同じなんだ」
「ぶつかり合ったりもしたけど、味方同士になったらすんげー頼もしいよな!」
「だから皆で守ろう、そうすれば守り抜く事が出来る」
「シン君……そうだね!」
「我々が手を組めば阻める者などいない」
「アタシ達が全部ぶっ飛ばしてやるよ!!」
「ああそうさ、やってやろうじゃないかザフィーラ」
「応!」
「僕もやれる事、全力全開で挑むよ」
「治癒は任せてね、どんな大怪我も直しちゃうから!」


「ウチも皆を守りたい……リインフォースも一緒や!」
「私も……シンと守りたいものは一緒だよ!」


『さあみんな! もうすぐ暴走が始まるよ!』
エイミィの通信を受けて、皆一斉に頷く。
「さあ皆! 全力全開でいくよ!」
「「「「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」」」」

そして、皆は再び闇の書の闇がいる海上に向かった、この世界の未来を賭けた最終決戦が始まったのだ。










見上げる空、哀しみの蒼き嘆きの詩がただ聞こえる

優しい白い瞬き、奪い去った風……彼方

逃げない、僕は決めたよ、君の温もりを傍に感じて

目をそらさずに、全てこの胸に刺さる真実ならば

歩いていこう、歪み塞がれた星の扉の向こうへ……


最終話「STARGAZER ~星の扉~」





「来るぞ!!」
黒い塊が弾け、暴走した防御プログラム…闇の書の闇が姿を現す。至る所に生物的な触手や蛸の足のようなものなどがうねりを上げ、中心には紫色の体をした巨大な女性が張り付いていた。
「デカイな……」
「ああ、でも俺達は絶対負けない!」

そしてそれを見守るアリサ達もなのは達にエールを送る。
「がんばれー! なのは! フェイトー!」
「気をつけてねー!」
「あんな怪物! ぱぱっとぶっとばしちゃえ!!」
「すごい……ちょっと昂揚してきましたわ!」
「これが……世界を守る力……」


「チェーンバインド!」
「ストラグルバインド!」
アルフとユーノのバインドが触手を引き千切り
「縛れ!鋼の軛!でぇえええええい!!」
ザフィーラが残りを切り払っていく。
「ちゃんと合わせろよ! 高町なのは!」
「ヴィータちゃんもね!」
「鉄槌の騎士ヴィータと! 鉄の伯爵グラーフアイゼン!」
カートリッジがロードされ、アイゼンは普段より数十倍巨大なハンマー、ギガントフォルムに変形する。
「轟・天・爆・砕! ギガント・シュラァァァ―――――――ク!!!」
バリアにアイゼンが叩き付けられ、闇の書の闇を守っていた一層目のバリアが破壊される。
「高町なのはとレイジングハートエクセリオン! 行きます!」
魔法陣を展開し、カートリッジをロードする。レイジングハートに桜色の羽が生える。
「エクセリオンバスター! [バレルショット]」
レイジングハートから放たれた衝撃波が闇の書の闇の動きを止める。
「ブレイク……!」
四つの桜色の魔砲がバリアに当たり、
「シュート!!」
五本目が二層目のバリアを破壊する。


「次! シグナムとテスタロッサちゃん!」
「剣の騎士、シグナムが魂、炎の魔剣レヴァンティン、刃と連結刃に続く、もう一つの姿」
剣の柄と鞘を合わせ、カートリッジをロード。
[ボーゲンフォルム]
一つの弓となるレヴァンティン。さらにカートリッジをロードし、矢が形成される。
「駆けよ隼!」
[シュツルムファルケン!]
一直線に放たれた矢は、三層目のバリアを破壊した。
「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュザンバー……行きます!!」
魔法陣を展開し、カートリッジをロード、バルディッシュザンバーを振りかぶる。
「撃ちぬけ! 雷神!」
[ジェットザンバー]
バルディッシュザンバーが振りぬかれ、そこから放たれた魔法刃が数十倍に伸び、闇の書の闇を切り裂いた。


「はやてちゃん!」
シャマルの合図と共にはやては杖を構える、だがその時、闇の書の闇がはやて達に向けて触手から複数の魔力弾を発射したのだ。
「アアアアアアアアアアアアアア……」
「なんてしぶといんだい!?」
「このままでは主が……!」
魔力壁を展開しながら皆を守るアルフらサポート班。
「それなら……!」
「俺達に任せろ!」
シンとスウェンは天空高く舞い上がり、ビーム砲、ショーティー、リニアカノンの銃口をすべて闇の書の闇に向ける。
「マルチロック完了、全武装チャージOK、いつでも行けますッス!」
「ビーム砲フルチャージ完了、射線上に味方はいません」
「シン、タイミングを合わせてくれ」
「わかった!!」
それぞれの銃口に光が収束される。
「シン・アスカ、デスティニー行きます!」
「流星の騎士スウェン・バル・カヤンと銀河の騎士ノワール、出る!」
「喰らえ! これがオイラ達の!」
「コンビネーション・アサルト!!」
そしてノワールのショーティー、リニアカノン、デスティニーのビーム砲の順番に光線が放たれる。
闇の書の闇にショーティーの銃弾の雨が降り注ぎ、リニアカノンの光の矢に貫かれ、ビーム砲の雷に薙ぎ払われた。
休む事の無い疾風怒濤の連撃に、闇の書の闇の再生は追いつかなくなってきた。
「「今だ! はやて!」」


「ありがとう二人とも……彼方に来たれ、宿り木の種、銀月の槍となりて、撃ち貫け!」
はやての頭上に展開される魔法陣から、七つの光が現れる。
「石化の槍、ミストルティン!」
七つの光は槍になって突き刺さり、闇の書の闇の本体は石化していく。
「アアアアアアアアアア………」
それでも闇の書の闇は生態部分を増やし、禍々しい姿に変貌していく。
「うわ……こりゃ……」
「なんだかスゴイことに……」
あまりの気持ち悪さに顔をしかめるアルフとシャマル。
「だが俺達の攻撃は通っている……」
「今だクロノ! ぶちかませ!」
「命令するな! ……いくぞデュランダル」
[OK、ボス]
グレアム提督から借り受けたデュランダルを構え、魔法陣を展開するクロノ。
「悠久なる凍土、凍てつく棺の内にて、永遠の眠りを与えよ」
凍りだす闇の書の闇。
「凍てつけ!」
[エターナルコフィン]
闇の書の闇は完全に凍りつき崩れ始めるが、すぐに再生し始める。


「いくよ! フェイトちゃん! シン君! はやてちゃん! スウェンさん!」
なのはの言葉に呼応するように頷く四人。


「全力全開! スターライト……!!」
レイジングハートの先端に桜色の光が収束されていく。


「雷光一閃!プラズマザンバー!!」
バルディッシュの刀身に魔力が蓄積される。


「ごめんな……おやすみな……」
闇の書の闇に一言謝罪し、夜天の書を開き、詠唱を始める。
「響け終焉の笛、ラグナロク……!!」


「デスティニー、俺に……フェイト達を守り抜く力をくれ!!」
ビーム砲を構えるシン、その銃口には紅の魔法陣が展開されていた。
「悲しみの運命を薙ぎ払え!イグナイデッド……!!」


(父さん、母さん、星達と共に見守っていてくれ、俺は……僕は……)
「悲劇の闇を切り裂く銀の閃光、その名は……」
(兄弟達と…仲間達と共に、生きて行くよ。)
スウェンの目の前に、銀色の魔法陣が展開され、背中の羽が変形し、リニアカノンの銃口に銀色の光が収束される。
「星の扉へ導く光、ハルバート……!」


「「「「「『ブレイカー!!!!!!!!』」」」」」
桜、金、白、紅、銀、五色の閃光が、闇の書の闇を飲みこんだ。


「本体コア露出! つかまえ……た!」
シャマルはクラールヴィントが形成した空間から禍々しく輝くコアを捕まえる。
「強制転移魔法発動!!」
「目標! アルカンシェル射線上!!」
「「「転・送―!!」」」
シャマル、アルフ、ユーノの手によってアースラがいる宇宙へ転送される。


地球」の軌道上に待機していた巡洋艦アースラは、地上から転送されてくるコアの到着を待っていた。
「コアの転送来ます! 転送されながら生体部品を修復中! 凄い早さです!」
「アルカンシェルバレル展開!」
アースラの前に三つの環状の魔方陣が展開され、中央に青白い光が集束していく。
「ファイアリングロックシステムオープン!」
リンディの声に反応し、リンディの目の前に鍵穴が着いた球体を立方体で囲んだものが現れる。
「命中確認後反応前に安全距離まで待避します! 準備を!」
転送されながら、禍々しい姿で再生していく闇の書の闇。
それが到達直前まで来る、リンディはアルカンシェルの鍵を鍵穴へと差し込んだ。
立方体が赤く染まり、発射準備が完了し、その瞬間闇の書の闇が軌道上に到着、アルカンシェルの射線上に現れた。
「アルカンシェル! 発射!!」
リンディは鍵を回し、引き金を引くと魔力でレンズ状の物体が生成され、それを通して青白い魔力が撃ち出される。
闇の書の闇に着弾し、一定時間を経過すると、発生した空間歪曲と反応消滅で闇の書の闇が消えていき、巨大な爆発が起こった。
爆発が集束していき、映像から闇の書の闇の姿が消えた。
「効果空間内の物体、完全消滅!再生反応、ありません!」
「うん、準警戒態勢を維持、もう暫く反応空域を観測します。」
リンディの言葉と共に、クルー達は安堵した……。



やるべき事をやり終えた一同は、アースラからの連絡を待った、そして、エイミィから一本の通信が入る。
『みんな! 防御プログラムの消失を確認! 反応はゼロ! 作戦は成功だよ!』
その瞬間、一同は歓喜の雄叫びをあげた。
「やったよー! シン!」
嬉しさのあまり、フェイトはシンに抱きつく。
「ああ! 俺達やったんだな!」
「な、なのは、や……」
「やったねー! シン君!」
なのはも嬉しさのあまり、ユーノの話を聞かずそのままシンに抱きつく。
「うわ!? なのはまで!?」
「シーン!!!」
「ちょ! アルフまでくんな! く、くるし……」
「………………………」
「その……なんだ、生きろ」
「うわ~~~ん!! クロノ~~~!!」
「だあああああ!!!! 抱きつくんじゃない!!!」
そんな微笑ましい(?)光景を八神家はちょっと距離を置いて見つめていた。
「ふふ、騒がしい連中ですね……人のこと言えませんが。」
「ホンマや……な……」
はやては急に体が重たくなり、その場にへたり込む。
「は……はやて!」
「大丈夫やヴィータ……ちょっと魔力使いすぎて疲れただけや。」
「とにかくどこかで休ませましょう」
「だな……行くぞスウェン……スウェン?」
ザフィーラは返事のないスウェンとノワールを不信に思い、肩をポンと叩く。
「どうした? 何を見ている?」
「空……」
ふと、皆は一斉に空を見る、空は先ほどの騒動で雲が晴れており、満天の星が輝いていた、そしてそれだけではない。
「ねえこれ……雪じゃない!?」
「すごい! 天気雪だね!」
しんしんとスウェン達の周りに雪が降ってきていたのだ。
「うわあ! 俺雪なんて初めて見たよ!」
「まるで星が降ってきているみたいだね!」
幻想的な光景にはしゃぐシン達。そしてスウェンはヴィータ達に支えられているはやての傍に寄って行った。
「さあ約束だ……みんなで家に帰ろう」
「待ってえなスウェン、もうちょっとこの光景……みんなで見ていよう」
「……ふっ、それもそうだな」
スウェンははやてに微笑みかけながら、大切な家族、そして新たに出来た仲間達と一緒に、雪降る星空を眺め続けた。










こうして、後に「闇の書事件」と呼ばれる出来事は終わりを告げた。
事件の重要参考人である八神はやてとヴォルケンリッター、そしてスウェン・カル・バヤンは裁判に掛けられる事になるが、裁判終了後の管理局従事の約定により大幅な減刑が見込まれている。

なお今回の事件に関わったギル・グレアム提督とその使い魔の処遇について、
彼はかなり早い段階で八神はやてが闇の書の主と知っていたにも関わらず、管理局にそのことを報告せずなんの防止対策を打たなかった、その行為は悪質でありアースラへの事件捜査の妨害工作も含めてその罪は極刑に値していた。
しかし上層部はグレアム提督を重く罰することにより民衆の管理局への不信感の増大、下部局員の上層部への不信感が増すのを懸念し、提督の罪状を隠匿、彼を降格するのみに留めた。

なお、闇の書の防衛プログラムに関しては、アースラによるアルカンシェルによって消滅したと見なされ、管理局上層部の指示のもと防衛プログラムの所在の調査は完全に凍結されることになった……。










本日はここまで、明日にエピローグを投稿いたします。
あの子の運命ははたしてどうなるのか……奇跡は起こるのか。



[22867] エピローグ「大人になっても忘れない」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/18 21:02
少女は夢を見ていました、とある少年の、歩むことになるかもしれない未来の話の夢です。

少年は幼い日に両親を亡くし、そのまま軍に引き取られ生粋の兵士として育てられました。

そして世界で戦争がおこり、成長した少年は黒いロボットに乗って人を殺し続けました、戦えるもの、戦えないもの、戦わないもの関係なく、無慈悲に、残酷に、無感情に……

少女はその姿を見て泣いていました、どうして大人達は……優しい彼にあんなひどいことをさせるんだろうと、戦争さえなければ、人間同士が争ったりしなければ、きっと彼は今頃大切な人達と幸せな日々を送れていただろうに、神様は彼になんて残酷な運命を課したのだろうと……

だから少女は神様にではなく……星に祈りました、せめて少年の未来が幸せいっぱいでありますようにと……





「はやて……目を覚ましたのか?」
「スウェン……?」
海上での決戦から数時間後、倒れたはやては眠ってしまい、管理局で治療を受けた後自分の家に戻ってきていた。
「はやて……泣いていたのか?」
「うん、ちょっと悲しい夢を見たんよ、男の子がな、軍人になって沢山の人の命を奪ってしまうねん、男の子……涙を流さないで泣いていてな……それがとっても悲しくて……」
スウェンは何も言わず、はやての頬を伝う涙を指でそっと拭いてあげた。
「優しいんだなはやては、知らない子の為に涙を流せるなんて……」
「違う……違うんよ、なんかその子な……いや、なんでもない……」
「そうか……」
しばらくの間、二人の間に沈黙が流れる。
「……そういえばみんなはどこ行ったん? なのはちゃん達にもお礼を言わな……」
「みんな用事があると言って出掛けたぞ」

「お! はやて姐さん起きたんスかー」
すると二人のいる部屋にノワールがやってきた。
「ノワール……今までどこへ?」
「ちぃーっと昔の知り合いに会いに! ところで……もしかして二人っきりだったのにお邪魔でしたッスか?」
そう言ってノワールはにやにやしながら二人を見た。
「のののノワール! からかったらアカン!」
「……? なんでそんなに顔を赤くしているんだ?」
はやては顔を真っ赤にして俯き、スウェンはそれを見て首を傾げた。

「それにしてもみんな遅いな……朝っぱらから一体どこに行っているんだ?」
スウェンはいまだ帰らないシグナム達の身を案じていた、すると……ノワールが真剣な面持ちで語りかけてきた。
「多分……公園のほうに行ってるッスよ、リインフォースの見送りに……」
「見送り……? どういうことだノワール」
「あー、やっぱりあいつらアニキ達にもしゃべっていなかったんスか、オイラも盗み聞きしたんすけどね、リインフォースは自ら消えることにしたそうッス」
「え……? 何? どういうことノワール?」
ノワールははやてが時空管理局に運び込まれた際、リインフォースがなのは達にしていた話の内容を語った、それによると融合騎であるリインフォースの破損は致命的な部分まで至っており、防御プログラムは停止したがゆがめられた基礎構造はそのままであった、その為遠からず新たな防御プログラムを生成し、また暴走を始めてしまうのだそうだ。

「もとに戻すことはできないのか?」
「管制プログラムであるリインフォースの中から本来の姿のデータが消えているそうッス、浸食は止まっているからはやて姐さんの足はそのうち動くようになるし、シグナム姐さん達も本体から解放されているらしいからそっちの方は心配ないそうッス、んで、今リインフォースは空に帰るからアニキと姐さんに内緒でみんなでお見送りに行っていますッス」
「おまえ! なんでそんな重要な事黙っていた!!?」
やけに落ち着いた様子のノワールにスウェンは激昂する。
「言ったでしょう? さっきまで知り合いに会いに行っていたって」
「は、早く止めな!」
そう言ってはやてはベッドから這いずり出ようとするが、そのまま床に転がってしまう。
「はやて! 無茶をするな!」
「でもでも! 早くしないとリインフォースが……」
「まーまー落ち着いてくださいはやて姐さん」
「お前はもうちょっと慌てろ! なんでそんな冷静なんだよ!」

「なんだなんだ? 何騒いでいるんだ?」
するとそこに、なぜかシンとデスティニーがやってきた。
「あれシン君!? なんでうちにいるん!?」
「ちょっと知り合いを連れに……」
「ノワール……またあなた、なにかやらかしましたね? いやいやまったく、うちの弟が皆さまにご迷惑を……」
「「弟!!!?」」
デスティニーのさらっと重大発言に度肝を抜かれるスウェンとはやて。
「俺のデスティニーとノワールはGデバイスっていう同系列機なんだよ」
「いやー、初めてアニキがセットアップした時に出会った時にこいつの顔見たときはびっくりしたッスよ~、こっちにも色々と事情があったんで今まで言い出せなかったんスけど~」
「おまえなあ……」
頭痛がするのを感じ、眉間を抑えるスウェン、するとそこに……今度は白衣の女性がはやて達の部屋に入ってきた。
「シン君、準備できたわよー」
「あ、ヴィアさん、それじゃ俺達も行こう」
そう言ってシンはスウェンに手を差し出した。
「行く……一体どこに?」
「決まっているだろう? リインフォースを迎えにさ」






海鳴にある桜台林道、そこでリインフォースは雪が降る海鳴の街を見つめていた。
そしてそこになのはとフェイトがやってくる。
「あぁ、来てくれたか」
「リインフォースさん……」
「そう呼んでくれるのだな」
「あなたを空に帰すの私たちでいいの?」
「お前たちだから頼みたい……お前たちのおかげで私は主はやての言葉を聞くことが出来た。主はやてを喰い殺さずにすみ、騎士たちも生かすことが出来た……感謝している、だから最後はお前たちに私を閉じて欲しい」
「はやてちゃんとお別れしなくていいんですか?」
「主はやてを悲しませたくないんだ」
「でもそんなの……なんだか悲しいよ」
「お前たちにもいずれ分かる。海より深く愛し、その幸福を守りたいと思える者と出会えればな」
そう言ってリインフォースは優しく笑う……フェイトはその顔を見てシンやリンディ達の顔が頭の中に浮かんでいた。
(そういえばシン……まだ来てないな、ヴィアさんに呼び出されたみたいだけど……)
そして、シグナムたちも到着する。
「そろそろ始めようか……夜天の魔導書の終焉だ」

そしてみんなに見守られる中、リインフォースは足元に展開された魔法陣から放たれる光を浴びていた。
[Ready to set.]
[Standby.]
レイジングハートとバルディッシュが準備完了を告げた。
「あぁ、短い間だったがお前たちにも世話になった」
[Don't worry.]
[Take a good journey.]
「あぁ」
そしてリインフォースは瞳を閉じ、満足そうな表情で天に……




「させるかああああああ!!!!!」
「二度目のどーん!!!」
「はうあ!!!?」
還るところをスウェンに投げられて飛んできたノワールを顔面に受けたことにより阻止された。
「ふおおおおお!!! 今度は前歯があああああ!!!」
「え!? ちょ!!? おま!!?」
「ノワール!!? スウェン!!? 貴様たちなぜここへ!!?」
突然の乱入者に慌てふためく一同、そしてスウェン達の背後から、シンに車いすを押されたはやてとヴィアもやってきた。
「リインフォース待って! お願いだから待って!」
はやては自分で車いすを漕ぎ、赤くなったおでこを涙目でさするリインフォースに近寄った。
「あ、主!?」
「なんで!? なんで私に黙ってこんなことを!!?」
「……私のこのプログラムの所為でまた主を危険にさらしてしまいます」
「あたしがちゃんと抑える! 大丈夫や! こんなんせんでえぇ!」
「主の危険を払い、主を守るのが魔導の器の務め……あなたを守るための最も優れたやり方を私に選ばせてください」
それでもはやては目に涙を溜めて首を横に振った。
「ずっと悲しい思いをしてきてやっと……やっと救われたんやないか!」
「私の意志はあなたの魔導と騎士たちの魂にあります……私は何時もあなたの傍にいます」
「はやての願いはお前を今以上に幸せにしてあげることなんだぞ? それなのに……」
引き留めようとするスウェンから視線をそらすリインフォース。

「ねえ……あなた、リインフォースさんといったかしら?」
その時、ヴィアが一歩前に出てリインフォースに話しかけてきた。
「貴女は……?」
「私の名前はヴィア・ヒビキ、管理局の研究員をやっているわ……リインフォースさん、私の話をちょっと聞いてくれるかしら?」
そう言ってヴィアは一枚のレポート用紙をはやてとリインフォースに見せる。
「なんですかコレ……? 薬の成分表?」
「『Rebirth』……これが一体なにか?」
リインフォースは訝しげな表情でヴィアに質問する。
「これはね……フューチャーセンチュリーってところで開発されたDG細胞っていう細胞と魔導の力を用いたワクチンなの、今の今まで作っていたんだけど……ようやく完成の目処がたったの」
その場にいた一同は興味深そうにヴィアの話を聞いていた。
「この試薬は異常をきたした体内の細胞の動きを正常化させるだけでなく、魔力による何らかの異常も治療できるのよ、つまり……自己再生を促進、自然治癒の力を一時的に高めるための薬ね」
「自己再生の促進……?」
「そう、例えば……あなたのその改変による破損も、これを接種することにより治る……かもしれないわ」
「リインフォースが助かるんですか!!?」
はやては藁にもすがるような思いでヴィアに話しかけた。
「100%とは言い切れないわ、なにせ臨床実験がまだなの、私は検体になってくれる人を探しているのよ」
そしてヴィアはリインフォースの手をぎゅっと握った。
「リインフォースさん……お願い、このワクチンの検体になってほしいの、このワクチンが完成すれば悪意によって心身を歪められた人たちを助けることができる、もちろん貴女の未来も守る事ができるわ」

リインフォースはヴィアの申し出に対して……首を横に振った。
「ダメです……私にも防衛プログラムがいつ暴走するかわからないんです、貴女の提案はリスクが高すぎる……」
「大丈夫、そうならない為にはやてちゃんがいて、そうなったときの為にシン君たちがいるのよ」
「でも……それでも……」



「逃げるな!!!」



「!!!?」
愚図るリインフォースをヴィアは一喝した。温厚そうな彼女の意外な行動になのは達は目を見開いて驚く。
(な、なのは……今……)
(うん、ヴィアさんの後ろにメスのライオンさんが見えたよね……)

「貴女は生きなきゃダメ、つらい運命からようやく抜け出せたのに、消えてしまうなんてダメ! 生きるほうが……戦いよ!」
「生きるほうが……戦い……」
そのヴィアの言葉に心打たれたリインフォースは、目から大量の涙を流した。
「私は……生きてもいいんですか? 主達と一緒に……」
するとはやてが、シグナムが、ヴィータが、ザフィーラが、スウェンが、リインフォースのもとに集まった。
「生きていいに……決まっているやろ!」
「そうだ、今から、そしてこれから……私たちで主を守っていこう」
「一人だけ天に還るなんて……そんなの寂し過ぎるだろ!」
「私たちは貴女を歓迎するわ!」
「来い、リインフォース」
「もう俺は……家族が目の前で居なくなるのは見たくないんだ」
「うぅ……うううあぁ……あああああ!!!」
運命が自分が生きていくことを受け入れてくれたのを感じたリインフォースは、顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらはやてに抱きついた。


その様子をノワールは一歩離れた場所で見守っていた。
「よかったな、リインフォース……」
「ハッピーエンドじゃないですか、よかったよかった」
ノワールのそばにデスティニーが近寄り、彼に称賛の言葉を送った。
「うんうん、陳腐と言われようが、ありきたりと言われようが、やっぱり物語の締めはだれも死なないハッピーエンドが一番だ」
「締めじゃないでしょう? 貴方の、私たちの物語はこれから始まるんです」
「ははは、その通りだ」


12月25日、海鳴は空から降る雪で真白に染まっていた……。










エピローグ「大人になっても忘れない」









バニングス邸、そこでアリサ、すずか、ルイス、留美、紅龍はクリスマスパーティーの準備をしながらなのは達のことについて話していた。
「ねえアリサちゃん、なのはちゃん達もうすぐ来るかな?」
「そうね、昨日のことも聞きたいし……やっぱり半年前のあれも管理局ってところが関わっていたんでしょうね」

「いいなー魔法少女! 空をビュンビュン飛んで……私も飛んでみたいなー!」
「ルイスさん、はしゃいでないでツリーの飾り付けを手伝ってください、まったくもう……」
(留美……あんな楽しそうな顔、久しぶりに見るな……)




その後なのは達は友人と家族に魔法や管理局、そしてPT事件や今回の闇の書事件についてすべて話し、彼らから理解を得て今後も管理局で働くことを許された。

八神家には一応しばらくの間保護観察が付き、彼女達はそれが終われば管理局に入って罪滅ぼしをしたいという意向を固めていた。

なおリインフォースは接種することを受け入れたRebirthの成果もあってか、防衛プログラムが暴走することは二度となく、今も家族と幸せに暮らしている。











それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が、世界を平和へ導く英雄として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。


それは……重き罪の十字架から解放された少年が、新たにできた家族から祝福の風を受け、夢見た星の世界へと旅立つ物語。

やがて少年は少女に守りたいものを守る銀色の矢を貰い、数多の世界を守る“ストライカー”へと成長していく……。






























数ヵ月後、管理局本部……そこで局員達は怒号を響かせながら自分達に迫ってくるある人物に杖を向けていた。
「医務室の患者が起きたぞ! 取り押さえろ!」
「信じられない……壁を突き破ったのか!!?」
「武装局員を招集しろ! あいつ転移装置に向かっている!」

局員達はその人物を足止めしようと魔力弾で牽制するが……
「す、素手で払っただと!」
「だ、ダメだ突破される! うわあああああああ!!!!」

その人物は……自分が丸裸であることを気にもせず、立ちふさがる者をすべて退け転移装置の前に立った。
「お母さん……どこ? どこにいったの? 私を一人にしないで……」










同時刻、海鳴にあるビルの屋上、そこで三人の少女が真下の街の光景を眺めながらあることについて話し合っていた。
「ねえねえロード、僕達これからどうするのー?」
「闇の書の闇の再生を果たすには、まず大きな魔力が必要に……」
「ククク……そう慌てるな、まだまだ時間はある、まずは……」



















第98管理外世界「フューチャーセンチュリー」、その世界にあるギアナ高地というジャングルに武闘家とその弟子が激しいって言葉じゃ表現できないほどの修行に励んでいた。
「そらそらそらそらぁー!!! どうしたドモンよ! その程度でへこたれるとはなっちゃいない! なっちゃいないぞおおおおおおお!!!!」
「うおおおおお!!! まだまだぁー!」
そう言って「足をものすごく速く動かして湖を走り抜ける」という修行に励む赤い鉢巻を付けた弟子。
「ふむふむ、大分距離が延びてきたのう……ん?」
その時、武闘家は何かの気配を感じて空を見上げた。
「!!!? 如何いたしましたししょ……ぬおわああああああ!!!!」
武闘家の様子に気を取られて湖に沈んでいく弟子。
「この馬鹿弟子がああああ!!! 修行中によそ見するとは何事ぞおおおおお!!!?」
「すみまごぼごぼごぼ!!!!」



(ぬう、嵐が来る……!!)
武闘家……東方不敗マスターアジアは、もうすぐ自分の前に強敵が現れるのを感じ、不敵な笑みを浮かべていた……





Next Stage “超級! 魔法武闘伝!”










はい、というわけでAs編はこれにて完結です。

では今回も一区切りついたことですし、今回はスウェンについて語ります。
ではまず、なんでAs編の主人公をスウェンにしたのかというと、前に自分が投稿していたサイトにはシン、キラ、アスラン、時々アストレイキャラが主人公をいている作品が多くてスウェンが主人公である作品は全くなかったんですよね、それでもしスウェンを使えば自分の書いた作品が目立てるんじゃないか? と思って採用したという経緯がありました。


初めはスウェンとくっつけるのはリインフォースの予定でした、銀髪つながりだしクールだし共通点が多くてお似合いかなーって……でも彼に無いものを補う人と考えるとやっぱりはやてかなーと思い現在の組み合わせになりました。


個人的な見解ですが、スウェンはなんていうか部下とか自分を慕うものにはすごく優しそうですよね、一見冷血に見えるけど、本当は熱い男なんだなとDVDと漫画見て感じました、きっとシンみたいな年下の部下がいればいい兄貴分になると思うんですよ。ガンダムで例えるならクワトロ大尉やニールのような感じですかねー。


五年も前になりますか、あるアニメ雑誌でスタゲ制作発表の記事を見てワクワクしたのは……あの頃はまだリリカルなのはにハマる前だったなあ……ガンプラのストライクノワールも発売日当日に買ったっけ。時が経つの速いよなあ……そう言った意味でもスタゲは思い出深い作品です。


これからスウェンにはシンの兄貴分として活躍してもらいます、もちろん彼に関する複線もまだまだ沢山残しているのでこれからちゃんと消化しなきゃですね。
もっともっと沢山彼を活躍させて、モニターの前にいる皆さんがスターゲイザーに興味を持ってくれると嬉しいです。


次のシリーズは外伝的な話、ハラオウン一家とマテリアル三人娘、そして目を覚ましたあの子にスポットを当てていこうと思っています。
あの二人も大暴s……大活躍させるつもりなのでお楽しみに。



[22867] TIPS:ある教授の日誌 +???
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/02/20 09:07
TIPS:ある教授の日誌 +???


2300年06月04日、
私は軍の要請で所属不明艦が収容されているハワイの基地にやってきていた。
何でも一週間前、太平洋を訓練飛行中だったリアルド隊が、大破し海に浮かぶその艦を発見したらしい、
調査隊が艦を調べてみると中にはクルーらしき人間の死体が二十体ほどあったらしく、生きている人間は発見できなかったそうだ。

ちなみに死体の中には、以前データでみた人革連の超兵のように体に様々な強化が施されたものもあったそうだ、ただ似たようなものであって人革連とはなんら関係ないのは確かなようだが。



私は軍に依頼されその所属不明艦を調べていくうちにある発見した、その艦がこの世界に存在しない技術で作られたということだ。
動力部は海や空、宇宙を航行するには過剰といえるほどのエネルギーを放出することができ、装甲はこの世界に存在しない材質が使われていた。

さらによくよく調べてみると、その艦に搭載されていたコンピューターににユニオンやAEU、人格連のモビルスーツのコピーデータが記録されていたのだ。
私の仮説が正しければ……この艦のクルー達は我々の世界のMSのデータを収集し、、それに気付いた何者かによって消されたということになる。

彼らが何の為にMSのデータを集めていたのか、そして何に消されたのか、クルーが全員死んでいるうえ目撃者もいないので真実は闇の中だ。



もっとも、調査隊の報告によればその艦に搭載されていた筈の救命ボートが一隻なくなっていたそうなので、生存者がいる可能性は否定できないが……
何にせよこの世界全体が得体のしれない何かに狙われているのは確かだ、我が国も早くリアルドに代わるMSを開発し、有事に備えて軍備を増強する必用があるかもしれない。


                                                                   レイフ・エイフマン
















































~???~

「御苦労様……どうだった?」
「僕としたことが少し手こずったよ、まさかあそこまで抵抗するとは、おかげで破壊するのに手間が掛ったよ、一人取り逃がしてしまった」
「いいのかい? 消さなくて……?」
「構わないさ、ネズミ一匹逃げたぐらいで何にもならないさ、でもこれでCEのやつらはこの世界の足がかりを失ったわけだ、しかしうざったいものだね……ブルーコスモスというのは、能力が劣るものは支配されて当然なのにそれに抗うとは」
「もしこの世界が統一されたら、今度はCEにでも行くかい?」
「いや、それより先にミッドチルダだろう? 次元世界はあんな奴らより僕達が支配したほうがいいのさ、それじゃ僕はアレハンドロの所にいくからあとは頼んだよ」














「ふふふ……スウェン・カル・バヤンか、ちょっと興味が湧いてきたかな」 



[22867] 超級! 魔法武闘伝! プロローグ「交わる物語(ストーリー)」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/05/05 21:33
※引き続きやりたい放題書かせていただきます。


プロローグ「交わる物語(ストーリー)」


闇の書事件から四カ月経った頃、第98管理外世界、通称“フューチャーセンチュリー”と呼ばれる世界、その世界にあるギアナ高地と呼ばれるジャングルに、顔に大きな傷を持った13歳ぐらいの少年が、白い髪を三つ編みにした中年の男と漫画みたいな拳のぶつけ合いをしていた。
「そらそらそらそら!! どうしたドモン! そのような打ち込みではワシに一発も当てることはできんぞおおおおお!!」
「はい! ししょおおおおおおお!!!!」
目にも止まらぬ速さでぶつけ合う二人。しかし少年……ドモンと呼ばれた彼はスタミナが切れたのか一瞬拳の切れが鈍った。
「! 隙ありいいいいい!!!」

―――ドッゴオオオン!!!

「ブホアアアア!!!?」
師匠と呼ばれた男はその隙を見逃さず、ドモンの顎に強烈なアッパーカットを喰らわせ、彼を天高く打ち上げた。


「ふむ、まだまだ修行が足りんぞ、ドモンよ」
「は、はひ……」
それから一時間後、吹き飛ばされて近くの川に落下した後戻ってきたドモンは、師匠と共に今日の修業の反省会を行っていた。
「む! そう言えばもうこんな時間か! 夕食の支度をせねば!」
「では俺は川で魚を取ってきます!」
「じゃワシは火を起こす! 暗くなる前に済ますのだぞ!」
「はい師匠!」


数分後、ドモンは先ほど自分が落下した川にやってきた。
「うん! 今日も沢山泳いでいるな! では……」
そう言ってドモンはおもむろに服を脱ぎだし、パンツ一丁の姿で準備運動を済ませる。そして……
「せやせやせやせやー!」
川に入るや否や泳いでいた魚を次々と素手で捕まえて陸にポイポイと放っていく。
「よし! 今日はこのぐらいでいいか!」
漁を終えて川から上がり服を着るドモン。
「ん?」
ふと、彼は周辺から異様な気配を感じ取り、反射的に身構えた。
(なんだこの気配は……獣のような、そうじゃないような……)
そしてドモンは近くの草むらで何かが動いているのを発見する。
「だ、誰かいるのか……!?」
その草むらの音は少しずつ大きくなっていき、ドモンは緊張で息を飲んだ。
「く、来るなら来い! 俺は逃げも隠れもしないぞ!」

すると草むらの物音はぴたりと止んだ。
「……? 逃げた……?」
ドモンは恐る恐る物音がした方に近づいていく、次の瞬間。


「ウオオオオオオオン!!!」

突如草むらから何か獣のようなものが飛び出し、ドモンに覆いかぶさるように襲いかかってきた。
「わああああああ!!!?」


ギアナ高地に、襲われたドモンの悲鳴が木霊した……。


そして数分後、ドモンの師匠である東方不敗は彼の帰りを今か今かと待ち続けていた。
「遅いのうドモン……もしや野生動物に後れをとったのか? 仕方ない……助けに行くか」
そう言って立ち上がろうとした時だった。
「し、師匠~!」
草むらからドモンが地面を這いつくばりながらやってきた。そしてその背中には……
「ウルルルル……!」
胸と腰にボロキレを巻いただけの姿の金髪の少女がドモンの頭に齧りついていた。
「ドモンよ……なんじゃその娘は?」
「わかりません! 魚を取っていたら急に襲いかかってきて……!」
「ウウウウウ……!」
少女は獣の如く目を赤く光らせながら東方不敗を威嚇していた。
(ほほう、こやつ生意気にワシを威嚇するか……!)
少女からの殺気を受けて身構える東方不敗、その時……

グゥゥゥ~

突如少女の方から腹の虫のような音が鳴った。
「ん? なんじゃ?」
「う……」
すると少女はドモンから離れ、地面にうつ伏せになって倒れた。
「お腹へった……でも母さんを探さないと……」
「た、助かった……」
「うむ、どうやら腹が減っているらしいのう」
「どうするんですか師匠?」
「うむむ……」










さてみなさん、ドモンと東方不敗マスターアジアが遭遇したこの不思議な少女、一体何者なのでしょうか? いずれにしろ武術に秀でたドモンに後れを取らな所をみると只者ではないことは確かです。


はたしてこの少女はどこから来たのか、そもそも“この世界”の人間なのか……おっと、これ以上は言わないでおきましょう。私が言わなくても、知っている方は知っているでしょうし、知らない方はこれから知ることになるのですから。

はたしてドモン達に待ち受ける新たな出会いとは? それにより訪れる新たな運命とは? そして……彼らが目にする世界の真実とは!?


それではいつもの参りましょう。





























参りますよ?





























いいですね?





























ホントに行きますよ?






























それでは!!! ガンダムファイトッ!! レディィィィッッッ……!!! ゴォォォォォォォッ!!!!


LG another episode

超級! 魔法武闘伝!







プロローグは以上です、ストーカーの語りの雰囲気は出ていたでしょうか?

まずストーリーは暴走師弟とアリシアを中心に進ませていきます。



[22867] 第一話「姉妹」
Name: 三振王◆9e01ba55 ID:664d5fcd
Date: 2011/05/11 21:18
 第一話「姉妹」


その日、リンディはミッドチルダにある本局に赴き書類整理を終えて家族の待つ第97管理外世界に帰ろうとしていた、すると彼女のもとに親友であるレティ・ロウラン提督が近づいてきた。
「あ、リンディー、いま帰る所なの?」
「ええ、今日はフェイトの進級祝いをするからね……仕事を早めに片付けたの」
「そう言えばもう養子の手続きをとったんだっけ? 妹も出来てクロノ君喜んでいるんじゃない?」
「そうね、本人はあまり顔に出さないけど……家族が増えて嬉しそうだったわ」
「最近クロノ君もしっかりしてきたし、そろそろ自立してもいい頃合いよね……」
「私もそろそろ隠居とか考えたほうがいいかしら」
そんな世間話に花を咲かせるリンディとレティ、ふとレティはあることを思い出しリンディに伝える。
「そう言えば……今度私のお隣さんの奥さん、今度社交ダンスで出会った人と再婚するらしいのよ」
「あら本当に? 確か息子さんはこの前食品会社に就職したとか言っていたわね」
「ええ、子育ても終わったしちょうどいいって言っていたわ、あなたはそういう予定あるの?」
「え!!?」
レティの予想外の質問にリンディは面喰ってしまう。
「いや……クロノ君もフェイトちゃんも何年かすれば自立するだろうし、何十年もある老後の事も考えて一緒になる人を探したらどう?」
「えー……ちょっと考えた事なかったわ、再婚ねえ……」
リンディはまんざらでもない様子でしばらく考え込んでいたが、すぐに手のひらをぶんぶん振って否定する。
「まあクライド君並みにいい人が居れば考えるけど……今はまだ自分の事を考えている暇はないわ、この仕事の事もあるし……」
「ふーん……まあいいわ、もし何かあったら私も相談に乗るからね」
「ありがとうレティ」

その時、リンディの持っていた通信機に着信が入る。
「あら? 何かしら、緊急事態……?」
リンディはすぐさま通信機を取ると、通信を入れてきた相手の要件を聞く。
「もしもし、どうしたの……え!? アリシアさんが!!?」










同時刻、第97管理外世界の海鳴市にあるはやての家では……
「はやてちゃん! スウェンさん!」
「「「「「「入学おめでとー!!」」」」」」
4月から学校に通うことになったはやてとスウェンを祝いに、なのは、フェイト、アルフ、アリサ、すずか、シン、マユが八神家に遊びに来ていた。
「わあ! 皆ありがとうな!」
「今学期から同級生だね! はいこれうちのケーキ!」
そう言ってなのはは自分の家で作ったケーキをシャマルに渡す。
「それじゃ私、お台所で切り分けておきますねー」
「いやいや、今学期から二人とも学生なんだな、早いもんだー」
「だな……これもリンディ提督が尽力してくださった結果……感謝してもしきれん」
そう言ってこいぬフォームなアルフとザフィーラはテーブルの下で一緒に七面鳥をかじった。
「保護観察期間も終わったからな……これからは管理局の手伝いをしながら学校に通うことになる」
「二人と一緒にいられる時間が少なくなっちまうのがちょっと寂しいけどな……」
「じゃあマユがヴィータと遊んであげる!」
「お前……ホントいい奴だなぁ」

「スウェンさんも良かったですね」
「ああ、でもいいんだろうか……俺まで学校に通わせてもらって……」
「いいと思いますよ、母さんもスウェンさんが勉強好きって事は知っていますし、学校は楽しい所ですよ」
そんなすずかとスウェンとフェイトの会話を聞いて、リインフォースは隣にいたシンとアリサにある質問をする。
「なあ……学校とはやはり楽しい所なのか?」
「うーん、人それぞれなんじゃないか?」 
「リインフォースは学校に行きたいの?」
「いや……だが生まれてこの方、そう言ったところに通った事がないから興味はある」
「リインフォースが学校か……」
シンとアリサは頭の中でリインフォースの色んな学校の制服姿を想像する。
「あー、似合うかもな制服―」
「学校といえば今月はルイスと留美も転校してくるのよね」
「む……確か4カ月前にアドバイスをしてくれた子達か、その子達も海鳴に?」
「ええ、なんでもうちの学校で留学生を募集していたらしくて、二人ともそこに応募したんですって、だからルイスはすずかのおうち、留美と紅龍さんは私の家でホームスティすることになったの」
「へー、またあの二人が来るのか、ここもにぎやかになるだろうなー」


そして一同が和気藹々と会話している一方、デスティニーとノワールは一歩離れた場所で互いの近況を報告しあっていた。
「そういやデス子」
「デス子はやめなさい黒坊主」
「ヴィアのおばちゃんの所のあの子は元気でやっているんスか?」
「アリシアさんですか……実はここ最近、こちらの呼びかけに反応するようになってきたんです、リバースの効果でしょう」
「リインフォースが体張って検体になったお陰ッスねえ、アイツもあれ以来暴走する素振りもないし、ヴィアおばちゃんはホントチートッス」
「アルティメット細胞のおかげでもあるでしょう、あれも……イレギュラーな出来事が無ければ人類を救う夢の技術というわけです」
「いやあ、まさか魔法系統にも効果有りとは……このまま“あの世界”も別の未来を歩めればいいんスけどねえ……」


プリンセスローズ♪キミートー♪
「あ、着信だ」
その時、なのはの携帯から着信を告げる音楽が鳴り響き、彼女は友人たちとの会話を切り上げて電話に出た。
「はーいもしもし、なのはでーす」
『な、なのはちゃん! フェイトちゃんもそこにいる!?』
電話の相手は今アースラにいる筈のエイミィからだった。
「エイミィさん? どうしたんですかそんなに慌てて……」
『そ、それが大変なんだよ! アリシアちゃんがー!』
「……!? アリシアちゃんがどうかしたんですか?」
そのなのはの只ならぬ雰囲気に、フェイトを始めとした他の面々は一斉になのはの方を向いた……。


30分後、アースラのブリーフィングルームに集まったなのは達(アリサとすずかとマユはお留守番)はクロノとエイミィとユーノ、そしてリンディからある映像を見せられていた。
「これは二時間前……管理局本部で保護されていたアリシアさんの病室の前で撮られた映像よ」
モニターには管理局のスタッフや武装局員を次々と電撃で倒していく、長い金髪の少女が映っていた。
「これって……!」
「アリシア!?」
フェイトとシンはモニターに映る少女……アリシアを見て目を見開く。
「現場にいた局員の報告によればアリシアさんは突如目覚めた後、制止しようとした局員を排除して転移装置に入って何処かの管理外世界に転移してしまったそうよ」
「目覚めたって……そんないきなり!?」
「どうしてアリシアちゃん、転移装置なんかに……」
皆の疑問に、フェイトが俯いたまま確信を持って答えた。
「きっと……母さんを探しに行ったんだ」
「確かプレシアは暴走したアルティメット細胞に取り込まれた時の庭園と一緒に虚数空間に入ってそれっきり……」
「まさかアリシアは虚数空間に!?」
「いや、それは無いわ」
するとブリーフィングルームに、沢山の資料を抱えたヴィアがやってきた。
「ヴィアさん、それは無いってどういうことですか?」
「実はアリシアさんが使った転移装置は、ある世界に向かうようあらかじめ設定されていたの、多分あの子は使い方が判らなくてそのまま転移したみたい」
「そ、その世界ってどこなんですか!?」
フェイトはいてもたってもいられずヴィアに詰め寄った。
「場所は……第98管理外世界、ギアナ高地よ」
「第98管理外世界って確か……アルティメット細胞を作った人がいる世界じゃ……!」
「ええ、ちょうど私が赴こうとした時、アリシアちゃんが目覚めて装置を使っちゃったのよ、タイミングが悪かったわね……」
ヴィアの話が一通り終わり、今度はリンディがブリーフィングルームにいた全員に通達する。
「私達アースラはこれより第98管理外世界のギアナ高地に向かい、アリシアさんの行方を捜査します、ギアナ高地は危険が多いので細心の注意を払う様に、以上」

ブリーフィングが終わり、シンとなのはとアルフは顔色の悪いフェイトに話しかけた。
「フェイト……大丈夫か?」
「し、シンどうしよう……アリシアに何かあったら私……私……」
「顔真っ青だよフェイトちゃん、大丈夫、大丈夫だから……」
「震えているじゃんフェイト! 私達がちゃんと見つけるから安心しなよ……」
「でも……でも……!」


一方、微妙に蚊帳の外の八神一家は、フェイト達の様子を窺いながら話し合いをしていた。
「な、なんかフェイトちゃん大変そうやな……」
「私達は何の事だかさっぱりわかんねえよ」
「しょうがないだろう、PT事件は我々の事件の半年以上前に起こった事なのだから」
「聞きたくても聞きにくかったしね……聞いちゃいけない事みたいだし」
「テスタロッサとアスカにとっては相当トラウマになる事件だったらしい……」
「後でエイミィさんに資料を見せてもらいましょう」



そしてさらに30分後、シン、フェイト、アルフ、クロノ、スウェン、リインフォース、ザフィーラ、そしてデスティニーとノワールはアースラからギアナ高地に降り立った。
「うは、蒸し暑いねここ……」
「なのはやユーノ達は上空からアリシアを探してくれ、僕達は地上から彼女を探す」
『おっけーだよクロノ君! それじゃまたあとで!』
『うわー、上空から見てもずっとジャングルやん……早く見つかるとええなあ』
「しっかし……いかにも猛獣とかが居そうな場所だよねえ……」
「我々はそれ以上のものと戦った事があるがな」
「とにかくぐずぐずしていられない、早くアリシアを見つけよう」

そして一行は間髪いれずアリシア捜索を開始した。
「む……羽が木に引っ掛かった……」
「リインフォース……お前は主はやてと共に空で捜索した方がよかったんじゃないか?」

「あーなんか大蛇の映画思い出したッス、日曜の夜にやってたやつ」
「なら貴方は真っ先に食べられるガイド役ですね」
「ひでえー!」

「アリシアー! お願い! 返事してー!」
「ダメか……もっと奥に行かないと」
「においとかで追えればいいんだけどねえ、これだけ広いと……」
「とにかく日が落ちる前に見つけ出す必要がある、急ごう」
「うん……」
クロノの提案にフェイトは半泣き状態で頷く。

(なんかもうボロボロッスね彼女)
(仕方ないだろう、アリシアはフェイトにとって最後の血のつながった家族だ……)
先ほどPT事件の資料を見てだいたいの事情を把握していたスウェン達は、フェイトに聞こえないような声で話し合っていた。
(アルフからも聞いたが、テスタロッサと母親の関係は随分と複雑なのだな)
(ああ、私もヴィアさんから彼女の事はちらほらと聞いていた、なんと言っていいのか……)

そして一行は三本に分かれた道の前までやってくる。
「どうするクロノ? 一本ずつ行くか?」
「その時間は無い、ここはメンバーを三つに分けよう」
「じゃあ一時間後にここで落ち合おう」

そしてシンとフェイトとデスティニー、アルフとクロノとリインフォース、スウェンとノワールとザフィーラはそれぞれ分かれてさらに奥へ奥へと進んでいった……。




シンとフェイトはアリシアの名前を呼びながら森の奥へ奥へと進んでいった。
「アリシア! どこー!?」
「いたら返事しろー! ダメか……やっぱりこの辺にはいないのかな」
「も、もしかしたら何かあったのかも……!」
フェイトは最悪の未来を想像し顔から血の気が引いて行くのを感じていた。
「だ、大丈夫だよ、アリシアはきっと見つかるって!」
「うん……」
シンはそんなフェイトを必死に励ます、しかしフェイトの気持ちは晴れることなく、二人は重苦しい空気のまま奥へ奥へと進んでいった。
(どうしたらいいんだろう……あ、そうだ!)
ふと、シンはあることを思いつき、隣にいたフェイトの手を握った。
「シン……?」
「はぐれるといけないからな、手を繋いでおこう」
「わかった……」
シンはフェイトの不安を少しでも和らげようと手を繋ぐ事を提案し、フェイトはそれを受け入れた。
(そ、そう言えば今、私シンと二人っきりなんだよね……)
手を繋いで今更その事に気付いたフェイトは、今度は顔を赤くしていた。
「あれ!? 今度は顔が赤いぞフェイト?」
「そ、そう? 気のせいじゃないかな……」
その時、フェイトは足に何か絡みついている事に気付き、足元に視線を移す、するとそこには……。
「シャー」
とても小さな、鉛筆程度の大きさの蛇がフェイトの足に絡みついていた。
「ひっ……ひやああああ!!!」
「うわ!?」
突然の事に驚いたフェイトはシンにそのまますがるように抱きつき、そのまま二人一緒に地面にドテンと倒れ込んだ。
「ど、どうしたんだよフェイト!?」
「あ、足に蛇が! と、とってー!」
「蛇ぃ? ああ本当だ、でもまだ赤ちゃん蛇じゃんこれ」
そう言ってシンはフェイトに抱きつかれたまま彼女の足に絡みつく蛇の赤ん坊を手でつまんだ。
「ははっ、こんなに可愛いのに……フェイトは怖がりだなあ」
「だって……いきなり巻きつかれたら誰だって驚くよぉ……」
シンはそのまま涙目のフェイトに、チロチロと舌を出す蛇の赤ん坊を見せる。そして……あることに気付き顔を赤くした。
「そ、それと……そろそろ降りてほしいかな……」
「へ?」
フェイトは自分がシンを押し倒したまま露出の高いバリアジャケット姿のまま抱きついていることに気付き、赤かった顔をさらに赤くした。
「はわわ! ごごごめんね!」
「しょ、しょうがないよ、びっくりしたんだろう?」
慌てて離れたフェイトに対し、シンは赤ちゃん蛇をぽいとそこら辺に逃がしながら彼女にフォローを入れる。
「……」
「……」
そして二人は互いに視線を反らしながら黙りこんでしまう。
「えっと……俺達何していたんだっけ?」
「あそうだ! アリシアだよ! 忘れちゃだめじゃん!」
「そ、そうだった! こんな事している場合じゃない!」
そして二人は本来の目的を思い出して立ち上がり、再びアリシアの捜索のために歩き出した。


「ふっ、お二人とも私の存在も忘れていますね……あれ? 目から汗が……」
その二人の様子を、デスティニーは目からきらめくものを流しながら見守っていた。


数分後、さらに奥に進んだシン達は一旦別ルートを通っていたクロノ達と通信を行っていた。
「じゃあそっちもアリシアは見つけられていないのか……」
(ああ、とにかく君達はこの先に見える滝まで向かってくれ、そこで落ち合おう)
「わかった、フェイト……」
通信を終えてシンはフェイトに話しかける、すると彼女は険しい表情でシンにすり寄ってきた。
「ど、どうしたんだフェイ……」
「しっ、静かに……あそこ見て」
フェイトはシンの口を自分の手で塞ぐとある場所を指差す、そこには……
(……!? 虎!?)
(いえ、あれはピューマですね)
「ウオルルルル……!」
顔に十文字の傷を付けているピューマが、シン達に今にも襲いかかりそうに唸っていた。
「どうする? やっつける?」
「適当に魔法でも見せて追い出そう」
「それがよいでしょうね」
そしてシン達もピューマに対して戦闘態勢をとった、すると……
『ほう、逃げぬとは意外な!』
「「「?」」」
突如ピューマが人間の声でシン達に話しかけてきた。
「今あのピューマ……喋らなかったか?」
「もしかして誰かの使い魔さんなのかな?」
「この世界に魔法は無いですよ?」
ピューマが人語を話す事に対し、あまり驚かないシン達。
『あれ? 全然驚かんのだな』
「いやだってピューマが喋ったぐらいじゃ……」
「この世界には不思議な生き物が沢山いるんですよ、この子とか」
そう言ってフェイトはピューマにデスティニーを見せた。
「ハロー」
『ぬおっ!? 喋っただとおおおおう!!?』
「いやいや……自分も喋るくせに何言ってんだ」
「あ、よく見たら後ろに誰かいるね」
「腹話術でしたか」
するとピューマの後ろにいる人影は、大量の汗を撒き散らしながら必死に誤魔化そうとしていた。
『ち、ちがうぞ! ワシはピューマじゃ!』
「腹話術お上手ですねー」
「あの……俺達暇じゃないんでもう行っていいですか?」
「ていうか無視してさっさと行った方がよろしいかと」
『え……ええいもういい! グッタグタじゃもう!』
するとピューマは糸が切れたように地面に倒れ、その後ろから長い白髪を三つ編みでまとめた40代ぐらいの男が現れた。
「なんじゃいもう! 最近の少年少女はドライすぎる! もっといいリアクションはとれんのか!」
「ご、ごめんなさい……」
「フェイト、謝らなくていいから」
「逆切れですか」

「シーン!」
「テスタロッサー」
するとそこに、別ルートを通っていたスウェン、ノワール、ザフィーラ、リインフォースが騒ぎを聞きつけてやってきた。
「あ、スウェン」
「何をしているんだこんな所で、早くクロノ達と合流しないと……」
「ん? この男は何者だ?」
「いや、なんか急にピューマを使った腹話術を見せてきて……」
「腹話術?」
「い、犬が喋っただとおおおお!!?」
男は狼形態のザフィーラが喋っているのを見て、滝のような汗をかきながら驚いた。
「く……くくく、まさかこの東方不敗マスターアジアが同じ日に二度も驚かせられるとは……! 貴様ら中々やりおるのう!」
「何ッスかこの濃いオッサン?」
「あの……このオッサンはほっといて早くアリシアさんを探しにいったほうが……」
「アリシア? む?」
その時、自分で東方不敗と名乗った男はフェイトの顔を見るや否や、目にも止まらぬスピードで彼女の背後に回り込んだ。
「「「「!!?」」」」
(い、いつの間に!?)
「失礼するぞ」
そして東方不敗は一瞬でフェイトのリボンを取り、髪を下ろした状態の彼女の顔を超至近距離で見つめた。
「じー……」
(うう!? 顔が近い……)
「お、おいオッサン! 何する気だよ!」
シンは東方不敗をフェイトから引きはがそうと彼に掴みかかろうとするが、一緒で後ろに回り込まれてしまう。
「落ち着け……貴様、名をなんと申す?」
「ふぇ、フェイトですけど……」
「フェイト、貴様はアリシアの姉妹か何かか? 瓜二つじゃのう」
「「「「「「「アリシア!!?」」」」」」」
東方不敗からアリシアの名前が出てきた事に驚き、彼に詰め寄った。
「あ、アリシアの事を知っているんですか!?」
「落ち着けと言っておろうが!」
東方不敗は問い詰めるシン達をのらりくらりと避け、フェイトの後ろに再び回り込んで彼女のほどいたリボンを再び結んであげた。
「この娘とよく似た娘なら昨日、弟子に襲いかかってきたのでワシが保護した」
「あ、アリシアは生きているんですか!? よかった……! ううう……!」
フェイトはリボンを結ばれながらうれし涙を流していた、そんな彼女を見てリインフォースがもらい泣きをしていた。
「よかったな、テスタロッサ……グスッ」
「なんでおめーまで泣いているッスか」
「ああ、ええっと……東方不敗マスターアジア、その子は今どこへ?」
「うむ、この先にあるワシのテントで弟子と一緒におる、良ければ案内しよう」
「よし、クロノ達にも知らせよう、合流地点の変更だ」



そして数分後、一行は東方不敗の案内で彼のテントがある場所にやってきた。
「おいドモン! 今帰ったぞ! お客様も一緒だ!」
「ふぉえ? ふぃひょう!?」
すると焚火後から焼き魚を頬張ったままの赤い鉢巻の少年が近づいてきた。
「貴様! 口に物を含んだまま喋るでない!」
「んぐ……ごくん、は! すみません!」
(弟子も暑苦しい……)
「ん? お前達は何者だ?」
「うむ……どうやらアリシアの保護者らしい、今彼奴はどこに?」
「はい! 川に魚を取りに行っております、もうすぐ帰ってくると思いますが……」

「おーい、フェイトちゃん、シンくーん」
「おーいたいた、ここにいたんかスウェンー」
するとそこに、空で捜索活動をしていたなのは達が降りてきた。
「あ、なのは達だ」
「こっちだぞ皆―」
すると鉢巻を巻いた少年……ドモンは空から降りてきたなのは達を見て滝のような汗をかいて驚いた。
「なっ……!? 空から人が!? お前達何者だ!?」
「な、なんだこの暑苦しい奴は……」
「ふっふっふ、ドモンよ……その程度で驚くとはまだまだ修行が足りんのう」
「そういうオッサンだってさっきザフィーラとデスティニーを見てビビって……」
次の瞬間、東方不敗は次の言葉を喋ろうとしたシンに目にも止まらぬ速さで接近して、無言のまま彼の顔を至近距離で見つめていた。
「近っ!? あ、いやその……」
「……」ゴゴゴゴゴ
「なんでもないです……」
シンは東方不敗の放つ威圧感に負け、口をつぐんだ……。


「師匠! ドモン―!」
その時、シン達のもとに巨大な魚を抱えた金髪の少女がやってきた。
「あのねー! さっき池でおっきな魚捕まえたから一緒に食べ……よ……!!?」
「あ、アリシア……?」
フェイトは現れた少女……アリシアの予想外すぎる再会に固まってしまう、そしてそれはアリシアも同様だった。そんな中スウェンはこの中で唯一彼女と面識があるシンとデスティニーに確認をとる。
「シン、あれがアリシアなのか?」
「う、うん……一応……」
「随分とまあ……ワイルドになりましたね彼女」

「ふぇ、フェイト……!?」
「アリシア……アリシアなの!?」
フェイトはアリシアを無事発見でき嬉しくて泣きそうな顔になっていた。
「……!!」
するとアリシアは抱えていた魚を投げ捨てると、そのまま森の奥のほうへ逃げて行ってしまった。
「逃げた!?」
「ちょ、ちょっとアリシア!!? どこいくのー!」
フェイトは慌てて彼女のあとを追って森の中に入っていく。
「フェイトちゃん!? まってー!」
「我々も追いましょう主!」
「解った! シン君とスウェンはここで待っててな!」
そして一歩遅れてなのはとはやてとヴォルケンズもフェイトの後を追って森の中に入っていった……。

「アリシア……」
「ふむ、どうやら複雑な事情があるようじゃのう、良ければワシらにも説明してほしいんじゃが」
突然の事に呆けるシンに質問する東方不敗。
「う、うん……実はあの二人は……」
シンは隠す必要はないと思い、PT事件の事、そしてフェイトとアリシアの関係について東方不敗とドモンに包み隠さず説明した。
「ふぐっ……! まさかアリシアにそんな悲しい過去があったなんて……!」
「ほほう、だからあやつは母親を探していると言っておったのか」
「プレシアさんを? どういうことですか?」
「わしらと出会った時、アリシアは母親を探しにここまで来たと言っておった、しかし貴様の話を聞く限りでは母親はもう……」
「…………」

「シーン、スウェーン」
するとそこに別行動をとっていたクロノとおとなフォームのアルフがやってきた。
「お、クロノ達も来たか」
「待たせて済まない、ところでそこの二人は?」
「ええっと……この辺に暮らしている東方不敗さんと、えっと……」
「ドモン・カッシュだ、なんだお前達は、こいつらの仲間か?」
「カッシュ……?」
クロノはドモンのカッシュという名字に聞き覚えがあるのか、彼にある質問をする。
「もしかして君は……ライゾウ・カッシ博士の関係者か?」
「……? 何故お前が父さんの名前を知っているんだ?」
「実は……」


その頃フェイト達は逃げたアリシアを追ってジャングルの中を右往左往していた。
「まって! どうして逃げるのアリシア!」
「……!」
アリシアはフェイトの言葉に耳を貸すことなく、一心不乱に彼女達から逃げていた。
「ヴィータ! 空から捕まえるんや!」
「わかった!」
ヴィータははやての指示に従い一旦空に上がり、急降下してアリシアに掴みかかった。
「おら! 大人しくしやがれ!」
「う~!! 離せええ!!」
するとアリシアは髪の毛をバチバチと鳴らすと、なんと全身から電気を放流しヴィータをしびれさせた。
「あががががが!!?」
「ヴィータ!!?」
「アレは……テスタロッサの魔法!?」
「バルディッシュ無しで使えるの!?」
一同は逃げるアリシアを追うのを一旦止め、黒こげになっているヴィータに近寄った。
「あがが……しびれる~」
「こりゃアカン、シャマル……ここでヴィータを治療してあげて、私らは引き続きアリシアちゃんを追う」
「は、はい……あら?」
その時、シャマルは自分達が来た方角から誰かが走ってくることに気付いた。
「こっちに向かって誰かきますね」
「アレは……東方不敗さん!!?」

「こらぁぁぁぁ!! またんかアリシアぁぁぁぁ!!」
東方不敗は猛スピードで走りながらフェイト達の横をあっという間に通り過ぎていった。
「足早!?」
「魔法を使っていないのに私達より早いよね……」
「あ、あの人は人間なのでしょうか?」
東方不敗の人並み外れた身体能力を目の当たりにして呆然とするフェイト達、するとそこにシンとスウェンもやってきた。
「みんな! 早くあのオッサンを追うぞ!」
「わ、わかった!」


一方アリシアを追っていた東方不敗は視界に彼女を捉えていた。
「コラアリシア! 家族が迎えに来たのになぜ逃げる!」
「師匠には関係ないもん! あっち行って!」
「ぬうううう! このバカ者があ!!」
東方不敗は懐から長い布を出すと、それをワイヤーのようにアリシアに向かって放つ。
「わああ!?」
アリシアは一瞬のうちにその布にぐるぐると巻きつかれる、そして東方不敗は彼女を捕えたまま木に釣るした。
「ぐわっはっはっは! ワシから逃げられると思うてか!!」
「うう~……無念」

するとそこにシン達と合流したフェイト達が追いついてきた。
「「アリシア!」」
「あ……! フェイト……シン……」
アリシアは彼らの姿を見るや否や逃げ出そうとするが、東方不敗の布はほどけることは無かった。そしてフェイトとシンは彼女に詰め寄った。
「アリシア! どうして逃げるの!?」
「やっぱりプレシアさんを助けられなかった俺達が嫌いなのか……?」
「ち、違うよ! そうじゃない!」
悲しそうな顔をするシンの言葉を慌てて否定するアリシア。
「じゃあなんで私達から逃げるの?」
「だ、だって……私、フェイトとシンに一杯ひどい事したんだよ? それに私のせいで母さんが居なくなっちゃったんだよ、今更会わせる顔がないよ……」
そう言って吊るされたままシュンとしてしまうアリシア。
「違う! アレは誰のせいでもない!」
「そうだよ! 俺はアリシアの事怒ってないよ!」
「でもでも……! 私は母さんをあんな風にしちゃって、フェイトに一杯ひどい思いをさせちゃって、沢山の人を悲しませて、だから……せ、せめて……」
「母親を見つけて、そこの娘に会わせようとしたのか」
すると話を聞いていた東方不敗が初めて会った時のアリシアの言葉を思い出し会話に割って入ってくる。
「プレシアさんを……? でもあの人は見つかる事はないって……」
「嘘だもん! 母さんはきっとどこかで生きている! 私はあきらめないもん!」
アリシアはシンの言葉を拒絶するようにじたばたと暴れ出す。
「どうやら聞く耳持たずやな」
「どうしたらいいんだろう……」
後ろで話を聞いていたなのは達もお手上げ状態といった様子だった。すると……
「あの……マスターさん、アリシアを降ろしてくれますか?」
「……いいだろう」
東方不敗はフェイトに言われた通り、彼女に巻きつかせた布を解き地面に下ろした。
「フェイト……?」
「……」
フェイトは何も言わず、アリシアを優しく抱きしめた。
「ふぇ、フェイト?」
「アリシア……私はね、あなたの事も母さんのことも、全然憎んでなんかいないよ」
「え……?」
フェイトはアリシアの赤い瞳を自分の赤い瞳でじっと見つめながら言葉を続けた。
「私は確かに母さんの本当の子じゃない、アリシアのクローンでこの命は作られたものだけど……でもその代わり、大切なものが沢山出来たんだよ」
フェイトはそう言って後ろにいたなのはやはやて、そしてシン達を見る。
「母さんが私を生み出してくれなかったら、私はなのはやはやてやシグナム達に出会えなかったし、シンと出会えなかった……だから恨んでなんか全然ないよ」
「「フェイトちゃん……」」
(何気にシン・アスカを特別扱いか……)
ちょっと感激するなのは達の中で、シグナムはフェイトの発言の中に含まれているものを感じ取っていた。
「ほ、本当に怒ってないの?」
「うん」
すると、アリシアは目からボロボロと涙を流してフェイトに抱きついた。
「ご、ごめんね……! 私バカだから、またフェイトに迷惑かけたね……!」
「いいんだよ、アリシアの気持ち……私にも十分理解できたから……!」
そう言ってフェイトもまた、アリシアを抱きしめながら大粒の涙を流していた。
「フェイト……フェイトぉ……!」
「アリシア……グスッ……」

「よかった、二人とも仲直りできて……」
そんな二人をシンとなのはは心からほっとした様子で見守っていた。
「そうだね、あの事件で叶えられなかった願いの一つがようやく叶えられたんだ」


「こちらはやて、アリシアちゃんは無事保護出来たで、クロノ君」
『そうか、それじゃ一旦合流してアースラに戻ろう……ドモン・カッシュと一緒にね』
「わかったでー」



こうしてFCでの騒動はあっさりと幕を引いた、しかし……彼らは知らなかった、戻った矢先にまた新たな騒動に巻き込まれる事に……。










とりあえず今回はここまでにします、次回は舞台をアースラに移します。


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