気象・地震

文字サイズ変更

東日本大震災:福島第1原発事故 1号機、大半溶融 データ信頼性欠如

 ◇従来発表より大幅に水位低く 計器調整後に判明

 東京電力福島第1原発の事故で、1号機の燃料が原子炉圧力容器の底にたまり、容器の底に数センチ相当の穴が開いている可能性が浮上した。底にたまった燃料の大半は、水につかって冷やされているために安定した状態とはいうが、大量に水が漏れ、水位の把握すらできていなかったことが露呈した。圧力容器が損傷していることは、東電が策定した工程表に見直しを突き付ける事態だ。目では確認できない炉内の状況は、限られた計器で推測するしかない。手探りの作業は今後も難航が予想される。

 東電が1号機の燃料の大半が溶融したと判断したのは、点検・調整した水位計で圧力容器内の水位を測り直し、これまでの見込みより大幅に低かったからだ。水位は、燃料棒(長さ約4メートル)の上端から約5メートル上と、下端から約1・5メートル下の位置で水圧を測り、その差から算出する。これまで水位は燃料棒上端から1・6~1・7メートル下と発表してきたが、新たなデータでは上端から5メートル以上も下だった。

 燃料棒が健全な状態であれば、完全に水面から露出していることになるが、圧力容器下部の温度は100~120度とあまり高温ではない。このため東電は、燃料の大部分は溶融して落下し、水の中にあって冷却され続けていると推定した。

 原子炉の状態把握の頼みとしてきたデータが覆る事態について、経済産業省原子力安全・保安院の西山英彦審議官は12日、「(今回のデータは)これまでより信頼性はある」と述べた。奈良林直・北海道大教授(原子炉工学)は「これまで水位計が機能しているかのように発表してきたことは問題だ。それらのデータに基づいて発表された工程表は何だったのか」と不信感をあらわにする。

 また、原子炉内の現状について、奈良林教授は「燃料のほとんどは圧力容器の底で水につかり、冷やされているだろう。一方、圧力容器の底は制御棒を駆動させる装置などが貫通しており、そのような弱い部分が壊れた可能性がある」と指摘する。

 実際、東電は12日夜の会見で、圧力容器の底が壊れた可能性に言及し、水位が低い理由を「全体で数センチ相当の穴が開き、そこから水と燃料が外に漏れているようだ」と説明した。

 燃料は、いつ圧力容器の底に溶け落ちたのか。燃料が溶け出す温度は、2800度と高温だ。二ノ方寿・東京工業大教授(原子炉工学)は「燃料が溶融したとすれば、発熱量の大きな事故直後に水から露出したときではないか。現在の発熱量は少なく、露出していても水蒸気で冷却できるはずだ」とみる。

 同じく燃料溶融が起きた米スリーマイル島原発事故(79年)では、溶けた燃料の取り出しが難航し、汚染の除去に14年かかった。二ノ方教授は「今回は事故当初、海水で冷却していたため、塩によって圧力容器の腐食が急速に進み、損傷する心配がある。溶融した燃料と被覆管の金属などが混ざって固まっている可能性もあり、(廃炉のため)取り出すのも大変な作業になる」と懸念する。

 燃料の損傷に関しては、保安院が「溶けた燃料棒が下へ落ちる状態」を最悪の「メルトダウン(炉心溶融)」と定義している。東電は「形状を維持していないという定義であれば(メルトダウンに)あたる」との見解を示した。

 内閣府原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長は12日の会見で、「燃料溶融は早い時点から予想していたので驚きはない。圧力容器の温度から、全部が水没しているとはいえないんじゃないかとも思う。もう少し分析したい」と述べた。【河内敏康、藤野基文、西川拓、野田武】

毎日新聞 2011年5月13日 東京朝刊

検索:

PR情報

スポンサーサイト検索

気象・地震 最新記事

気象・地震 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド

毎日jp共同企画