きょうの社説 2011年5月13日

◎コマツ本社移転 国のモデル例にできないか
 コマツが小松工場跡地で研修センターを核とする「こまつの杜(もり)」を整備し、新 たに金沢工場の増設も打ち出したことで、創業の地である石川へのシフトが一段と鮮明になってきた。

 東日本大震災で深刻化した首都圏での電力不足や首都直下型地震への備えから、企業の 東京一極集中を是正しようという声がにわかに高まるなか、震災前から経営トップが積極的に地方移転に言及してきたのがコマツである。

 野路國夫社長は12日の会見で、東京の本社移転に関して「まず本社機能を分散した後 、次のステップとして考えたい」と述べた。野路社長はこれまで、小松工場跡地で整備した社員の研修センターを本社機能移転の第1弾と位置づけており、次の一手に地元の関心が集まっている。

 機能の分散なのか、本社移転まで踏み込むのか、先が見通せない部分はあるが、コマツ は少子化対策としての効果も強調するなど、他の企業のような経営リスク分散にとどまらない意義を見いだしているようである。

 本社移転の実現へ向け、自治体の支援策がかぎを握るのは言うまでもない。それと同時 に、企業の地方分散が被災地復興を超え、国と地方のかたちを変える大きな視点で語られる今、国も積極的に旗を振り、その流れを本物にしていく姿勢がほしい。たとえば、コマツのように本社機能の移転に前向きな企業を国のモデルケースと位置づけ、重点支援できないか。

 実際、石川など11県による知事ネットワークは本社機能移転に関し「本社機能分散モ デル企業」の育成を求めている。コマツのようなグローバル企業が先導役になれば経済界への影響は大きく、後続企業も期待できるのではないか。

 金沢経済同友会は地方における法人税等の「軽減課税」を提言しているが、それくらい の大胆な政策を打ち出さないと、長い年月をかけて形成された東京一極集中を変えることはできないだろう。

 地方が企業の手を引き、国は後ろから企業の背中を押す。国、自治体が一体となって企 業を動かす、そんな取り組みが今こそ求められている。

◎「普天間」で新提案 基地固定化の現実味増す
 米上院軍事委員会のレビン委員長ら民主・共和両党の有力議員が、米軍普天間飛行場( 沖縄県宜野湾市)の現行移設計画は実現困難として、米軍嘉手納基地への統合を米国防総省に提案した。軍事予算の承認権を持つ同委員会そのものの提案とみなされるだけに重みがあり、日米両政府にとって一種の足かせとなる。

 日米両政府は、普天間飛行場を同県名護市辺野古に移設する現行計画を進める姿勢を示 しているが、2014年までに辺野古への移設を完了させるという日米合意の実現は一段と困難になった。結果として、日本、沖縄県にとって最も望ましくない普天間飛行場の固定化が現実味を増すことを懸念せざるを得ない。

 米海兵隊が使用する普天間飛行場の機能を米空軍の嘉手納基地に移す案は、これまで何 度も浮上した。最近では、鳩山政権下で外相を務めた岡田克也民主党幹事長が主張したが、地元の反対に加え、有事の場合に空軍と海兵隊航空部隊の作戦行動を一つの基地で展開するのは困難と米軍が反対し、立ち消えになった。

 米上院軍事委の議員提案は、普天間飛行場を嘉手納基地に統合し、嘉手納の空軍の一部 を日本国内の他の基地やグアムに移せば、沖縄の基地負担も日本の財政負担も軽減できるとしている。それでも、嘉手納統合案に対する地元の反対は根強い。先月には2万人以上の周辺住民が第3次嘉手納爆音訴訟を起こしたばかりであり、政府が今から嘉手納統合案へ転換するのも難しい。日米両政府が長い研究と協議の末に決定した現行移設計画を覆せば、沖縄の政府不信がさらに深まる恐れもある。

 普天間問題を迷走、停滞させた第一の責任は民主党政権にある。菅内閣に現行計画を実 現する強い意志も能力も感じられないのは残念である。米政府内には菅政権の先行きを見守る空気もあるとされるが、米議会の中から現行計画の見直しを迫る超党派の動きが出てきたことは注目される。日米両政府は、普天間問題の決着が日米同盟深化のかぎであることをあらためて認識してもらいたい。