放射性物質を含む下水汚泥の取り扱いを巡り、政府が12日発表した「当面の考え方」について、対応に苦慮してきた福島県は「根本的な対策になっていない」と不満を示した。県内16カ所の下水処理場で汚泥などから放射性物質が検出され、県は国に早急な対応を求めてきたが、その答えは解決にはほど遠い内容。比較的低濃度のものはセメントなどへの再利用を認めるが、業者も対応に苦慮するのは確実だ。
今月4日の調査で汚泥から1キロ当たり44万6000ベクレルの放射性セシウムを検出した福島市の下水処理施設。県や福島市によると、通常は脱水して減量化した汚泥を同県柳津町の最終処分場に運び、焼却・埋め立て処分している。「考え方」は、10万ベクレルを超える汚泥について「焼却、溶融などの処理をして適切に保管するのが望ましい」とするが、福島市の施設に焼却や溶融の設備はない。
汚泥タンクは、あと1週間程度で満杯になるため、緊急にコンテナなどを持ち込み保管するしかないという。県幹部は「脱水を徹底し体積を減らすことが可能かどうか福島市と協議するが、処理場内に仮置きする異常事態がいつまで続くのか」と困惑する。
「考え方」が10万ベクレル以下の汚泥を「埋め立て処分している管理型処分場の敷地内に仮置きして差し支えない」としていることにも、県は問題があると指摘する。スペースの問題が生じ、安全管理にも手間が掛かるためだ。
この幹部は「作業員の安全確保についても具体的な説明はない。汚染された汚泥の最終処分方法や費用負担などとあわせ早急に示してほしい」と求めた。
もともと汚泥の汚染が発覚したきっかけは、県下水道課の職員が抱いた疑問だった。4月下旬、郡山市にある学校の校庭の表土から放射性物質が検出された。「校庭に降った雨が下水処理施設に流れ込む際、放射性物質も一緒に流入するのでは」。国の要請はなかったが、県独自で調査に踏み切った。
郡山市の下水処理施設「県中浄化センター」で、汚泥から1キロ当たり2万6400ベクレル、再利用のため高熱処理した「溶融スラグ」から33万4000ベクレルの放射性セシウムが検出されたのは4月30日。他の下水処理施設19カ所も調べたところ、4カ所で汚泥などから1キロ当たり1万ベクレル超の放射性セシウムが出た。
県中浄化センターの汚泥は再利用のため住友大阪セメント栃木工場に搬出されている。同社によると、工場は2日から操業を停止しているが、福島第1原発事故発生後の3月12日から4月30日にかけて計928トンの汚泥が搬入され、すべてセメント化。4月28日以降搬入分は出荷していないが、それ以前はコンクリート業者を通じて、北関東のビルや道路などで使用された可能性があるという。
セメントの原料は石灰石が大半で、使われた汚泥は生産されたセメントの1%未満。県も「放射性物質は数%に希釈され外部への影響は低い」としており、同社は取引先業者に説明に回っているが、「ご理解いただくのに苦慮している」という。
「考え方」を受け、同社は「すぐに(受け入れ)再開とはいかない。慎重に慎重を期し対応を検討したい」と説明。栃木工場で震災以降に生産されたセメントは「自主検査で安全が確認された」として13日から出荷を再開する予定だ。2日から停止していたセメント生産も14日から再開するが、原料に県中浄化センターから搬入された下水汚泥は含まれないという。【佐々木洋、松本惇、曽田拓】
毎日新聞 2011年5月12日 21時04分(最終更新 5月12日 22時14分)