飲酒運転撲滅を訴えるテレビCMが先日、福岡で撮影された。今年2月に福岡県粕屋町で起きた飲酒運転事故で高校生2人を失った同級生や遺族らの願いがこめられている
▼同様のCMは4年前にも撮られた。福岡市で幼児3人が犠牲になった翌年のことだった。あの事故を機に飲酒運転撲滅機運が福岡発で広がった。なのに福岡県は昨年、飲酒運転事故が全国最多となった
▼4年前のCMも今回と同じく映画監督の塩屋俊さんが撮った。大分県出身の塩屋監督は、実話を映画化した「0(ゼロ)からの風」(2007年)でも知られる。悪質な飲酒運転に息子を奪われ、厳罰化を求めて闘った母親を描いていた
▼母親を演じた田中好子さんが、最初のCMにもボランティアで出演した。CMは福岡の啓発団体が企画して塩屋監督に持ちかけ、監督から誘われた田中さんは快諾した
▼撮影は事故が起きた海の中道大橋で行われた。カメラに向かう前に田中さんは話していた。「この橋で事故が起きた直後は、誰もが『気を付けよう』と思ったはずなのに」「あの子たち(3児)に代わって私が伝えて行かなくちゃと感じています」
▼優しさのなかに心(しん)の強さを持つ母親役も似合う女優さんだった。だった、と過去形になってしまうのが悲しい。乳がんで死去した。55歳だった。キャンディーズのスーちゃんの思い出とは別に、福岡の人は田中さんのことを忘れない。忘れてはいけない。
=2011/04/23付 西日本新聞朝刊=