ユッケ、レバ刺し…それでも食べたい人に贈る「生肉の危険な話」
週刊朝日 5月10日(火)14時20分配信
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| 運営会社の勘坂康弘社長 |
Q・1 やっぱりユッケは食べないほうがいいのかな?
厚生省(現厚生労働省)は1998年に牛肉と馬肉について生食用の衛生基準を定めたが、基準を満たす生食用の牛肉は流通していない。強制力がない上に手順が複雑なためだ。
「菌は肉の表面に付きますが、衛生基準では肉の片面を削るごとに、包丁とまな板を交換することになっている。肉は無駄になるしコストもかかるので基準が守られず、表面に大腸菌が付いた生肉が客に出されて被害に遭うケースが出てくるのです」(藤井氏)
東京都では、毎年6〜8月にかけて、生肉を提供する店などを調査しているが、「多くの店が『客のニーズが高く、生肉の提供はやめられない』と主張します。生は危険、という意識が薄れているのを感じますね」。
このため、藤井氏は「やはり現状では食べないほうがいい。とくに抵抗力が弱い子どもとお年寄り、免疫の低下している人はダメです」と指摘する。
Q・2 レバ刺し(生レバー)も好きなんだけど、内臓も危ないの?
厚労省が牛の肝臓内部を調べたところ、11・4%から食中毒原因菌のカンピロバクターが検出された。これは、生肉のように、包丁で危険な表面だけをこそげ落とすこともできない。「O157と同時感染の可能性もあり、ユッケ以上に危険度は高い」(藤井氏)
Q・3 事件は「えびす」の衛生管理に問題があったから起きたのでは?
今回の事件後も生肉を提供し続ける東京都内の焼き肉店の従業員は、テレビで見た「えびす」の厨房の状況を疑問視する。
「同じふきんで皿も調理台もふいているし、厨房内の人が多い。菌は人を介して増殖するので危ないですね。ユッケが280円だったようですが、その値段にするにはかなりコストを削る必要があるし、ずさんな面は出てくるでしょうね」
ただ、ほかの店でも問題がないわけではない。藤井氏は「衛生管理は加工業者や店任せで差が大きいのに、客が見分けるのは難しい。強制力のない基準を示すだけで、そんな状態を見過ごし続けてきた政府の責任は重い」と言う。
Q・4 危ないのは牛肉だけなのかな?
生肉といえば、鶏刺しも人気が高い。だが、鶏の生食は「衛生基準自体がない。牛以上に店任せの状態なので、鶏刺しや鶏わさにカンピロバクターが付着している危険性を認識してほしい」(藤井氏)。
魚に関しては「魚介類を生食することで発症する腸炎ビブリオは1万〜10万個の菌が必要。夏場は刺し身などを冷蔵庫から出したら、早めに食べることです」(同)。
Q・5 今回の食中毒を起こしたO111って何?
O157と同じ、腸管出血性大腸菌の一種だ。家畜の腸管に生息し、皮膚にも付いている。厚労省によると、過去10年で国内のO111による食中毒の患者はゼロだった。少量の菌でも発症するのが特徴で、藤井氏は「最少では11個のO111が付着しただけで発症してしまう。だから怖いんです」と言う。
Q・6 どんな症状が出るの?
「O111は胃を通過して大腸に定着する。すると水溶性の下痢が3日ぐらい続きます」(藤井氏)。このとき、子どもは発熱を伴っていたり、鼻水を垂らしていたりして、風邪の症状と誤診を受けることが多いので注意。その2日後には出血性の下痢になる。最初の下痢が始まってから、1週間以内に9割が回復するが、残り1割が溶血性尿毒症症候群(HUS)になるという。
「これは基本的には腎不全だから、透析という治療法がある。問題は急性脳症を発症すると、治療法がなく、亡くなることです。このケースは1%以下であることが多く、今回の致死率は、これより圧倒的に高い。おそらく喫食した菌量が多かったせいでしょう」(同)
Q・7 厚労省は生食できる牛肉の衛生基準を、罰則を伴うものに見直すみたいだけど?
「それだけではダメ。完全な衛生管理のもとに、国が検査して食中毒の原因となる菌がないと確認した肉だけを、生食用として出荷するシステムを作るべきです。スタート時点でしっかり取り締まるしかない」。長らく生食の危険を訴えてきた藤井氏は、こう警鐘を鳴らす。
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“土下座社長”、学生時代はディスコの「黒服」
今回の事件では、勘坂康弘フーズ・フォーラス社長(42)の言動にも注目が集まっている。謝罪会見でも、
「安全を考えるなら、普通の精肉をユッケで出すのを禁止すればいい」
と“逆ギレ”したかと思えば、本社前で土下座するなど、情緒不安定になっているようにすら見える。
勘坂社長は富山県高岡市の出身だ。金沢経済大学を卒業後、派遣社員などをして1千万円の起業資金をため、28歳のときに同市内に「焼肉酒家えびす」の1号店を開業した。
現在は全国で20店舗を数えるまでに成長させたやり手だが、地元では目立つタイプではなかったようだ。小・中学で同級生だった男性がこう話す。
「まじめでおとなしかったので、こんな商才があるとは思わなかった。会見も驚きましたね。昔はあんなに感情をあらわにすることはなかったのですが……」
大学時代はディスコで「黒服」のアルバイトをしていた。その影響は相当大きいようで、
「学生の頃働いたディスコがなかったら、今の自分は100%ない」(食品専門サイトのインタビュー)
と話している。そこで何か吹っ切れたのだろうか。
店は「安くてうまい」と評判で、事件の起きた砺波店は、1時間待ちも珍しくなかった。
「勘坂さんのお父さんは鉄工所を経営していたのですが、それを閉めて息子さんの店を手伝っていました。お母さんも皿洗いをして、起業したてのころは家族総出でやっていましたね。夜遅くまでよく働いていたし、成功してよかったと思っていたのですが……」(高岡市内の飲食店主)
一方、こんな証言もある。
「『安くてうまい和牛』がウリのはずなんですが、なぜか店の外にアメリカ産牛肉の箱がよく出ていました。箱だけで中身は和牛なのかもしれませんが、不思議に思いましたね」(同市内の飲食業者)
地元の卸売業者が営業にいっても、門前払いだったとの証言もある。
「結局、今回の事件は卸売業者との信頼関係ができていなかったことが元凶なんじゃないか。責任のなすりつけ合いなんて、考えられないよ」(同)
勘坂氏は、関東進出のために卸売業者を東京の業者に変えたと話していた。信頼より事業拡大を優先させたときに、事件の萌芽は生まれていたのかもしれない。(本誌・神田知子、篠原大輔、田中裕康/岡田晃房)
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最終更新:5月10日(火)14時20分
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