【ブリュッセル】欧州連合(EU)の欧州委員会は4日、加盟国が「例外的な状況」において国境管理を復活させる権利を認めるよう提案した。欧州では、北アフリカからの移民・難民増大への対応が懸念されている。
提案は、管理復活を緊急時に限っているが、EUが誇るシェンゲン協定が逆行する一歩となる恐れもある。欧州評議会のジャグランド事務総長は「国境が復活するのではないかと恐れている」と述べ、「欧州にとってひどいことになりかねない」と訴えた。
パスポートなしで国境を行き来することを認めたシェンゲン協定は1995年に欧州の7カ国が導入。その後22のEU加盟国とノルウェー、スイス、リヒテンシュタインに拡大した。英国、アイルランド、ブルガリア、ルーマニアは加盟していない。
移民に対する懸念が特に強いのはイタリアとフランス。最近ではチュニジアをはじめとする北アフリカ諸国から、一時的混乱に乗じて祖国を脱した2万5000人が両国に流入した。
移民摘発に反対する向きは、この数が1年にEUに入ってくる人数の10%にすぎず、エジプトやチュニジアに逃げたリビア人は60万人以上に上ると指摘する。
しかし、財政逼迫(ひっぱく)と高失業率を背景に、移民が社会保障の負担となり、雇用を奪うとの懸念があらためて高まっており、政治にも影響している。
地中海に浮かぶイタリア・ランペドゥーサ島が移民であふれかえったとき、同国政府は4月5日前に上陸した亡命申請者すべてに一時滞在許可を発行した。そのほぼすべてに当たる約2万5000人が欧州内で消え、大半が言葉のわかるフランスを目指した。同国極右政党、国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は、実施まで1年を切った大統領選で現職のサルコジ大統領から票を奪うため、移民問題を利用しそうな気配だ。
フランスの当局は、移民擁護団体からの抗議があるなか、既に抜き打ち検査を行っていることを認めている。10年に欧州司法裁判所からたしなめられたにもかかわらず、だ。
数週間前、サルコジ大統領はイタリアのベルルスコーニ首相と会談し、欧州委員会のバローゾ委員長あての書簡で、EUが「共通の境界を管理できないような例外的な難局があった場合に、条件を決めて、域内の国境を一時的に復活させる可能性を検討する」ことを求めた。
欧州委の4日の国境管理復活の提案は、これを受けた動きだ。
マルムストローム委員(内務担当)はEUが「予想される労働力不足への対応で、労働者の流入から恩恵を受ける」との考えを示した上で、「しかし同時に、移民は適切に管理されなくてはならない。これは、実質的な国境管理の保証と非正規の移民の送還を意味する」と述べた。
EU当局者や加盟国代表によると、提案は加盟国政府の広範な支持を得ており、承認される公算が大きい。
4日の声明でフランス政府は、サルコジ大統領とベルルスコーニ首相の書簡に対する欧州委の対応に「満足」だとしている。
一方、移民受け入れ拡大派は、同委の提案に対して失望の意を示した。ブリュッセルのシンクタンク、欧州政策研究センターのアナリスト、ジョアンナ・パーキン氏は「(国境管理復活の)条件がはっきりしていない」と述べた。
4日の発表では、EU共通の亡命・移民政策設定に向けた提案もなされた。マルムストローム委員は、EU域外にビザ発給センターを設置すること、チュニジアなどの国が出国管理を強化した場合に見返りとして貿易特権やスキルのある移民へのビザを提供することなどを提案した。こうした提案は、12日の閣僚会議や来月24日のEU首脳会議で協議される。
提案は欧州議会の承認も必要とされるが、これが最大のハードルになりそうだ。議会のメンバーであるスペインのロペス・アギラル氏は4日、提案を「容認できない」とした。