東京電力福島第1原発の損害賠償の枠組みづくりで、政府は3日、東電の賠償負担について、最終的な総額に上限を設けない一方、毎年の賠償額については東電が債務超過に陥らない範囲内に抑える方向で最終調整に入った。電力の安定供給機能維持には、東電の債務超過を回避する必要があると判断した。ただ、モラルハザード(倫理観の欠如)を防ぐため、東電の経営を監視し、資産売却や人員削減などのリストラを徹底させ、年間の賠償負担額を積み増しさせる仕組みも講じる見通しだ。原発賠償対応は長期間にわたることが予想され、枠組みを10年程度で見直すことも検討している。
政府はこれらの措置を盛り込んだ原発賠償の枠組みを週明けにも公表する方針。今回明らかになった枠組みに沿えば、東電の年間の賠償負担額は最大で1000億~2000億円程度となる見込み。
原発賠償の枠組みでは、特別立法で電力業界と政府で東電の賠償支払いを支援する新機構を設立。政府は同機構に、必要な時はいつでも換金できる交付国債を交付し、財源を確保。被害者への賠償金の支払額が膨らみ、東電の財務内容を著しく悪化させる恐れがある時には、機構が融資や優先株の引き受けで一時的に賠償に必要な資金を提供。機構は提供した資金を東電から将来、分割して回収するのが原則だ。
東電の毎年の負担額を債務超過に陥らない範囲内に限ることを明示する方向となったのは、一度に東電の支払い能力を超える負担が生じると経営危機に陥り、燃料調達や設備投資が全くできなくなり、電力の安定供給に支障を来す恐れがあるためだ。
一方、東電や融資金融機関は「このままでは社債発行の再開や民間からの追加融資が受けられない」などとして、東電が負担する賠償総額に上限を設けるように求めてきた。しかし、枝野幸男官房長官は2日、「上限は無い」と否定。一方で「電力供給義務を果たせるようにしないといけない」(海江田万里経済産業相)ことには配慮し、年間の負担額に一定の枠を設ける方針だ。
毎日新聞 2011年5月4日 東京朝刊