事件【主張】「あたご」無罪判決 指弾された恣意的な捜査2011.5.12 03:20

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【主張】
「あたご」無罪判決 指弾された恣意的な捜査

2011.5.12 03:20

 平成20年2月、千葉県房総沖で海上自衛隊イージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」が衝突し、船長父子が死亡した事故で、業務上過失致死罪などに問われたあたごの当直責任者2人に横浜地裁が無罪を言い渡した。

 衝突回避義務が漁船側にあったとの新たな判断を示し、検察側が立証の柱とした漁船の航跡を「信用できない」と退けた。これまで認められなかった海自の主張を妥当としたもので、意味は大きい。

 刑事裁判に先立つ海難審判の裁決では、事故の主原因があたご側の見張りのミスにあり、回避義務もあたごにあったとして、判決とは逆の判断を示していた。

 刑事裁判で、被告となった当直責任者らは検察側主張の矛盾を指摘し続けたが、激しい自衛隊バッシングのなかでほとんど顧みられなかった。判決が検察の捜査を厳しく批判したことは、慎重かつ十分な捜査が行われたのかという疑問も生じさせた。

 海難審判の裁決は事故の再発防止に重点を置く行政処分だが、過失責任を問う刑事裁判は、より厳密な立証が求められる。

 最大の争点となった漁船の航跡を科学的に証明する清徳丸の衛星利用測位システム(GPS)の記録は事故で失われ、僚船乗組員の目撃証言が極めて重要だった。

 だが、検察側の証言調書には次々とほころびが生じた。僚船船長らの証言に基づく図面の誤りなどを弁護側に突かれ、捜査段階のメモが破棄されていたことなども表面化した。判決は僚船船長の調書を「恣意(しい)的」と批判した。

 自衛隊と民間との事故では、十分な検証を待たずに自衛隊側が指弾されることが少なくない。

 昭和63年の潜水艦「なだしお」と大型釣り船「第一富士丸」の衝突事故では、横浜地裁判決などによって「なだしお」側により大きな過失が認定されたが、釣り船側にも過失があったとされた。

 昭和46年に全日空機と自衛隊機が空中衝突した「雫石事故」でも、政府の事故調査委員会の調査や民事裁判で全日空機にも責任があることが判明した。

 一方、防衛省はあたご側の見張りのミスを認めている。本来、艦橋の両脇の甲板にいる見張りを艦橋内に立たせていたことも表面化した。国民の生命と財産を守るプロ集団として、これまで以上に安全航行の徹底に努めるべきだ。

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