西日本新聞

【崩れた安全神話 福島第1原発事故】<4>依存 「安定供給」は免罪符か

2011年5月12日 00:13 カテゴリー:科学・環境

 「夏が近づけば、今以上の多大な負担と犠牲を強いる可能性があります」

 3月24日、東京電力本店の記者会見。福島第1原発事故の影響を問われた東電幹部は悪びれる様子もなく答えた。

 東日本大震災発生3日後の14日に唐突に首都圏で始まった計画停電。電車の間引き運転や信号機消灯による道路の混乱、患者の命を預かる病院が対策に追われる最中の電力「不安定供給」宣言だった。

 電気事業連合会によると、日本の発電用原子炉は54基。国内の発電電力量の29%を賄う。東電の通告は、原発依存社会の現実を国民に突きつける形となった。

 震災後、原発再開にいち早く動いたのは中部電力だった。東海地震が想定される地域に立地し危険性の指摘が絶えない浜岡原発(静岡県御前崎市)に、高さ12メートルの津波に備える堤防を建設すると決定。その上で、4月28日の記者会見で社長の水野明久は定期点検中の3号機を7月に運転再開させると踏み込んだ。「原発なしでは電力の安定供給は難しい」が決めぜりふだ。

 ■追 加 

 「チェルノブイリ級」の事故の影響は全国の原発に広がった。定検や事故などで発電を停止している原発は九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)2、3号機を含め30基。発電中の原発は24基にすぎない。定検中の原発が発電を再開できなければ、電力危機は全国に拡大する。

 経済産業省は3月30日、全国の原発を対象に緊急安全対策を打ち出した。津波などで非常用電源が使えなくなっても原子炉を冷却できるよう電源車や消防車の配備などを義務付ける内容。中部電力300億円、関西電力700億円、九州電力も400億―500億円。各社は巨費を投じ対策に着手した。

 ところが、4月7日に発生した最大震度6強の余震後、東北電力東通原発1号機の非常用発電機3台が一時、すべて使えなくなった。原子力安全・保安院は慌てて、原子炉が冷温停止中でも2台以上の非常用発電機を接続、動作可能な状態にするよう各原発の保安規定変更を追加で指示。保安院担当の官房審議官西山英彦は「これまでの対策が十分でなかったと言わざるを得ない」と認めた。

 ■覚 醒 

 緊急対策も、追加対策も、原発再稼働のため。しかし、30キロ以上離れた地域にも放射能汚染を広げた今回の事故は、原発立地自治体の周辺市町村にも不安を与えた。

 川内原発3号機増設計画がある鹿児島県薩摩川内市の南隣のいちき串木野市。市長と市議会は3月下旬、計画凍結を九電に申し入れた。国の規定では、増設に必要なのは立地自治体の首長と知事の同意だけだが、ほぼ全域が原発から半径20キロの同市は「黙っていられない」。他の周辺市町も続いた。

 玄海原発がある玄海町にも、一部が20キロ圏の福岡県糸島市の住民から、再起動させないよう求める電話が数件入った。初めてのことだ。

 「安全だと聞かされ続けてきてこれだ。誰がどう言ってくれれば信じられるかは分からない。でもこのままじゃ駄目だ」。4月26日に経産省に原発の安全確保を要請した佐賀県知事の古川康は、地元を覆う不信感を記者団にまくしたてた。

 地域の信頼抜きでは、原発依存社会は成り立たない。 (敬称略)

=2011/05/02付 西日本新聞朝刊=

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