福島第1原発事故から自国民をどう守るか-。原発大国のフランスが出した答えは「首都脱出」だった。
避難指示区域を原発から3キロ以内(3月11日午後9時23分)、10キロ圏(12日午前5時44分)、20キロ圏(同午後6時25分)と場当たり的に拡大した日本政府に対し、原発爆発の可能性を疑ったフランスは震災発生2日後の13日に「数日間関東を離れることが望ましい」とホームページで情報発信。原発から200キロ以上離れた首都圏にいた約6千人のフランス人は、半数以上が帰国したり、避難したりした。
18日に大阪に大使館機能を移したドイツのように、東京の大使館を閉じた国は32カ国に上る。
「原発の状況が分からない」。外務省には、50カ国以上の大使館職員が押しかけ、東京電力や原子力安全・保安院の担当者に説明させる日々が続いた。
■隠匿
東電を監督する保安院は連日会見。首相官邸でもほぼ毎日、官房長官会見で原発事故に関する情報を発信した。
官房長官の枝野幸男は、20―30キロ圏内の屋内退避区域やその外側で、比較的高い放射線量が測定されても「直ちに人体に影響を与えるものではない」と繰り返した。保安院で会見する経済産業省官房審議官、西山英彦は、東京を離れる動きには「そういう必要はない」と呼び掛けた。だが、政府の対応が、国民の不安を増幅させていく。
原発から外部に漏れた放射能の拡散予測をドイツなど諸外国はいち早く公開した。ところが、「SPEEDI」と呼ばれる放射性物質の拡散予測システムを持つ日本は推計結果を出し渋った。
保安院が、国際的尺度に基づく事故評価をチェルノブイリ事故と並ぶ過去最悪の「レベル7」に引き上げたのは事故1カ月後。しかし、原子力安全委員会のメンバーの一人は3月下旬にはレベル7相当との認識だったことを明かす。
国民の安全にかかわる情報を隠匿したかのような対応ぶり。政府は、内容の精査に時間がかかったと釈明するが、国民を信用していない政府の姿勢が透けて見える。
■批判
原発事故を独自に分析したフランスは、3月末の大統領来日に合わせ「東京滞在に危険はない」と情報を修正。東京のドイツ大使館も今月11日に業務を再開した。大使館の閉鎖は3カ国に減り、東京に外国人が戻りつつある。
首相補佐官として東電に詰めていた細野豪志は27日、日本外国特派員協会で講演した。日本政府の情報発信に海外の批判が高まっているからだ。
「一時は原発をコントロールすることが非常に難しい状態だった」「パニックを起こさないよう情報の出し方に配慮した」と明かし「これからは疑念を持たれないよう、海外にもすべての情報を公開する」と誓った細野。だが、今後のリスクについては「東京に被害が出るのはあり得ない」と言うだけだ。
災害時の情報のあり方を研究する前東京女子大教授の広瀬弘忠は「政府は、将来にどんなリスクがあり得るかを伝えていない。それならば、住民は最大限の防御をせざるを得ない。首都脱出は決して過剰な行動ではなかった」と指摘する。 (敬称略)
=2011/04/29付 西日本新聞朝刊=