西日本新聞

【崩れた安全神話 福島第1原発事故】<3>軽視 不作為を隠す「想定外」

2011年5月12日 00:22 カテゴリー:科学・環境

 原子炉の冷却機能が失われた-。防災服姿の閣僚らが勢ぞろいした首相官邸4階の大会議室。「緊急事態宣言を発出する」。当時の首相麻生太郎の声が響いた。

 2008年10月22日、政府の原子力総合防災訓練が行われた。設定された事故現場は福島第1原発3号機。原子炉の水位低下で核燃料が破損、放射性物質が大気中に放出された-とのシナリオに沿って訓練が進んだ。

 しかし、想定された住民の避難区域はわずか半径2キロ。放射性物質の放出は、故障した冷却機能の復旧で7時間後には止まることになっていた。3基同時に原子炉の燃料が破損し、なお半径20キロ圏の住民避難が続く現実の事故との落差は、あまりに大きい。

 「国内では放射性物質が大量飛散するような大事故は起きないことになっていた」(電力会社関係者)。安全神話は崩壊した。経済産業省原子力安全・保安院長の寺坂信昭は、今年4月初めの国会答弁で「認識に甘さがあったと反省している」と述べた。

 ■研究

 ただ、こうした深刻な事態は必ずしも「想定外」ではなかった。

 保安院の原発検査を技術支援する独立行政法人の原子力安全基盤機構。冷却機能を失った原子炉がどんな経過をたどるか、昨年10月に研究結果をまとめていた。

 分析は原子炉の型ごとに行われた。報告書によると、福島第1原発2、3号機と同タイプの原子炉では、注水不能になって約1時間40分後に核燃料が溶融。約3時間40分後には原子炉圧力容器が破損、約6時間50分後には格納容器も破損し、放射性物質が漏れ出すと結論づけた。

 ところが、機構は「研究成果を一般に公開する」として報告書をホームページに掲載しただけだった。「電源喪失で冷却機能が失われても短時間で復旧する」との甘い想定は見直されず、報告書をもとに保安院が新たな安全対策を指示することも、電力会社が自主的に対策を講じることもなかった。

 ■遠因

 「規制と推進が同じ大臣に統括されているのは無理がある。無理を重ねてきたことが大事故の遠因になった」

 元原子力安全委員会委員長代理の住田健二は27日、参考人として出席した国会質疑でこう述べた。原発の安全検査をする保安院は、原子力行政を推進する経産省の傘下にある。「推進と規制の分離は原子力行政の国際常識。主要国で実現できていないのは日本だけだ」と住田は言う。

 09年6月、経産省の審議会。地質の専門家が、東北に大津波をもたらした貞観地震(869年)を例に福島第1原発の不備を訴えたが、政策には反映されず黙殺された。

 保安院の検査結果をチェックする原子力安全委員会の委員長班目春樹は東大大学院教授だった07年、中部電力浜岡原発をめぐる訴訟の証人尋問で、地震などで原子炉冷却に必要な非常用発電機がすべて使えなくなる可能性を問われ「割り切らなければ原発はつくれない」と述べている。

 行政、電力業界、原子炉メーカー。最悪の事態への備えを怠ったのは、官民が半ば一体化した「原子力村」の「不作為」ではなかったか-。

 「大事故の可能性を認めたらおしまい。『だから原発は危ない』と拒否され、どこにも原発をつくれなくなる」。国策推進が最優先だった。 (敬称略)

=2011/04/30付 西日本新聞朝刊=

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