2000年5月16日
3 オープンエア
ニューメキシコ州立工科大学は、サッコロ市のほぼ西端にあっ た。こぢんまりとしたキャンパスの向こうには、大学が運営・管理 するエネルギー物質研究試験センター(EMRTC)の試射場の山 々が望めた。 軍需企業もテスト 「ようこそ」。副学長のバン・ロメロさん(44)が、大きな手を差 し出した。「ブラウンホール」ビル二階の一室。ジーンズにスニー カー。ラフな格好のロメロさんは、オープンな態度を示しながら も、テーブルに置いたカメラを見ると「私の写真は撮らないでほし い」と注文を付けた。 「大学で今一番力を入れている研究はテロ対策。テロリストに顔 を宣伝するようなことはできないんだ」 大学の創立は一八九三年。鉱物資源の発掘などを目的にスタート したが、第二次世界大戦中から武器開発に関与し、今では百四十人 の教授陣のうち百人は、ミサイルの弾頭など武器の研究開発にかか わるEMRTC部門に属する。学生数は院生を含め千五百人。 広さ約八千ヘクタールの試射場は、大学で開発した武器と同時に、国防総 省や軍需関連企業のテスト場でもあった。 「劣化ウラン弾は大学でも研究してきた。しかし、研究全体から すると五%以内。ほとんどは、軍やエアロジェット軍需会社など製 造企業の持ち込みによるテストだ」 20年余で40トン使用 一九七二年の開始から九三年までに、四十トンの劣化ウランを使用 したという。実射試験では「戦車を標的に、遮へいのない状態(オ ープンエア)で実施していたのでは」と尋ねると、ロメロさんは言 下に否定した。 「戦車は標的として一度も使っていない。それに劣化ウラン弾の テストでは、最初から常に遮へい用のキャッチボックスを使用して いた」 彼の説明では、キャッチボックスは木の箱でできていて、その中 に砂を詰めておく。そして鉛、鉄など一枚の金属板を標的としてそ こに立てかけ、劣化ウラン弾を発射する。この方法だと、健康障害 などに一番影響する劣化ウラン微粒子の大気中への飛散を封印でき るというのだ。 実戦でどれだけ威力を発揮できるか。実物を使わなければ、正確 なデータは得られないだろう。そう問うと、「科学者は複雑な要素 を持つ標的より、特定の物質に対しウラン弾がどれだけの効果があ るかを知りたい。これで十分なのだ」。ロメロさんは、白板に図を 描きながら自信たっぷりに言った。 「それにみんなが口にし、われわれも使ってきたオープンエア・ テストというのは、戦車などからウラン弾を発射してキャッチボッ クスに至るまでの飛行状態を指すのだ。遮へいのない、オープン状 態とは違う」 EMRTCでは、この言葉に対して米国内の類似の施設とは違う 解釈を与えていた。 現在の状況答えず 大学側も、「監視役」の州環境保護局も、試射場やサッコロ市内 の劣化ウランによる環境汚染を、これまでに何度も調査してきたと いう。「その結果、試射場でさえ、環境への劣化ウランの放出はな い。重金属による汚染も見られないとのデータが得られた」と強調 する。 大学では今も、有線誘導による対戦車砲の「トウ・ミサイル」の 改良を続ける。弾頭に劣化ウランを使っているとの見方もある。ロ メロさんは「他の施設は知らないが、ここでは使っていない。使用 物質については明かせない」と、明確な答えを拒んだ。 劣化ウラン弾よりテロ対策について、より時間を割いて説明しよ うとしたロメロさん。彼の名刺には「新しい千年紀のための思考」 と、大学のキャッチフレーズが刷り込まれていた。彼らが思い描く 新思考とは一体何なのだろうか…。 |
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