経済

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東日本大震災:福島第1原発事故 賠償の負担巡り、議論過熱

 ◇東電「免責」をカードに/政府「理解得られない」

 東京電力福島第1原発事故の損害賠償問題で、東電の賠償責任を巡る論戦が過熱している。東電が「事業者の免責に該当するほどの巨大な災害」との認識を示したのに対し、菅直人首相は「国がすべてを負うというのは違う」と一蹴。東電の狙いは「免責」カードをちらつかせ賠償負担を軽減することにあり、賠償の枠組みが固まる大型連休明けをにらみ、政府や金融界を巻き込んだ議論が続きそうだ。【山本明彦、永井大介】

 東電の「免責問題」に焦点が集まったのは、清水正孝社長が4月28日、記者団に「そういう理解があり得る」と発言したためだ。原子力事業者の賠償責任を定めた原子力損害賠償法は「異常に巨大な天災地変」の場合に事業者は責任を免れるとの例外規定を盛り込んでおり、26日の金融機関向け説明会で、勝俣恒久会長らが「免責でもおかしくない」との認識を示した。

 東電が責任を負うべきだとの批判の声があるにもかかわらず、東電が免責を訴えたのは、東日本大震災の地震のエネルギーが関東大震災の40倍以上に上り、津波も14メートルに達したことがある。また、政府の一部で国有化が議論された途端、東電の社債や株価が急落。東電の発行済み社債は国内社債市場の7%超で、経営悪化は金融市場の混乱に直結するとして、金融界や経済界も東電の負担軽減を訴えた。日本経団連の米倉弘昌会長は7日の毎日新聞のインタビューで「国は賠償を支援する責任がある」と述べ、免責に言及。26日の会見でも「国は(東電支援で)腰が引けている」と批判した。

 しかし、東電の初動の遅れが事故を拡大させたとの批判は強く、「東電が負担しないと国民の理解は得られない」(経済官庁幹部)。海江田万里経済産業相は29日、「(異常に巨大な天災地変とは)人類の予想していないようなものだ」と述べ、今回は免責の対象外との見方を強調した。菅首相も「東電に賠償責任がなく、国がすべて負うというのは少し違う」とはね付けた。

 もっとも、東電側も免責適用が現実的とは見ていない。政府が検討中の損害賠償対策で、東電の負担に上限額を設けるような仕組みがないと「東電の経営が行き詰まり、社債など金融市場が壊れる」との懸念もあり、東電全面責任論を押し戻す交渉カードとして免責の解釈論を持ち出してきたようだ。東電首脳も30日夜、「免責が世間に受け入れられるとは思っていない」と本音を明かした。

 東電は、政府が原子力を「国策民営」で進めてきた経緯も踏まえ、何とか国の負担を引き出したい考え。政府は従来、「賠償責任は一義的に東電」と繰り返してきたが、菅首相は29日の予算委で「補償することを、国としても責任を持たないといけない」と述べた。だが、東電の負担に上限を設けられるかなど先行きは不透明。損害賠償策は、5月中旬に予定している東電の決算発表までにまとまる見通しだが、政府がどこまで支援に関与するか、世論の動向も見ながらの判断が注目される。

毎日新聞 2011年5月1日 東京朝刊

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