東京電力福島第1、第2原発事故に伴う損害について、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(会長、能見善久・学習院大教授)は28日、避難や農作物の出荷制限など事故後の政府指示で発生した被害を賠償対象と定めた第1次指針を策定した。農作物などの風評被害のほか、避難に伴う精神的苦痛の一部を初めて賠償対象とする。しかし、具体的な賠償範囲は持ち越した。東電は同日、「今後、内容を精査・分析し、対応を検討したい」とのコメントを出した。
原子力災害で損害賠償が行われるのは、99年の核燃料加工会社ジェー・シー・オー(JCO)の臨界事故以来2回目。この事故では、避難に伴う精神的苦痛は原則賠償が認められなかった。
審査会は東電に早急な損害賠償を促すため、緊急性が高く事故との因果関係が明白な被害について、まず第1次指針を定めた。今後、議論がまとまったものから順次指針を追加し、7月末までに賠償範囲の全体像を示す。能見会長は「次回以降、賠償額の目安も議論したい」と語った。
1次指針は賠償範囲を、政府の指示による(1)避難や屋内退避など(2)航行危険区域の設定(3)出荷制限措置--に分類し、損害を列挙。事故が継続中であることを考慮し、定額支払いや期間を区切った支払いにも応じるよう東電に求めている。
(1)では避難に伴う交通費や宿泊費▽被ばくや放射性物質汚染の検査費用▽区域内で行っていた事業の減収分や就労不能になった場合の給与減収分▽世話ができなくなった家畜など財物価値の減少分▽避難生活で生じた健康被害による治療費などが対象と認められた。
避難に伴って病気になったり、肉親が死亡したりした場合の逸失利益や精神的被害については対象に加えたが、長期間の避難生活による精神的苦痛は「今後、判定基準を検討する」とした。
(2)では航行危険区域とされた半径30キロ圏内での操業が困難になった漁業者や海運業者に対し、減収分や航路迂回(うかい)による費用増加分、就労不能になった場合の給与の減収分を対象としている。
(3)では、政府や自治体の指示で出荷が停止されたり、自粛された農作物や魚介類の減収分や廃棄費用、就労不能になった場合の給与の減収分などが盛り込まれた。農協などの生産者団体が政府や自治体と相談し実施した出荷自粛も認められた。東電は28日、補償相談室(0120・926・404、午前9時~午後9時)を開設した。【西川拓、藤野基文】
原子力施設での事故による被害補償の範囲を定める指針を作ったり、事業者と被害者との交渉仲介のため、文部科学省に設置される。原子力や法律の有識者10人程度からなる。99年に発生した核燃料加工会社「ジェー・シー・オー」の臨界事故で設置されたが、この時は指針を作る権限はなかった。
毎日新聞 2011年4月28日 21時51分(最終更新 4月28日 23時49分)