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東日本大震災:一時帰宅、1世帯2人に 条件緩和、歓迎と冷めた目

 ◇「夫に重たい荷物持ってもらえる」/「もっと早く実施してほしかった」

 東京電力福島第1原発事故の発生から50日が経過する中、着の身着のままで逃げ、避難生活を強いられてきた住民の一時帰宅に向けた動きが本格化している。国がこれまで示してきた原案を1日の会議で一部修正したことで、住民の要望を受けて強く反発してきた自治体の姿勢も軟化してきた。ただし、一部住民が求めてきたペットの連れ帰りや2時間を上回る滞在は認められず、現場で混乱が起きる余地は依然として残っている。

 避難住民から要望が多かった一時帰宅。国が原案を修正して1世帯当たりの帰宅人数などの条件を緩和したことに対し、避難生活を続ける住民からは「帰宅できる人数が増えてありがたい」と歓迎する声が上がる一方で、「緩和されても参加しない」と冷めた見方もあるなど、受け止めはさまざまだ。

 福島市のあづま総合運動公園体育館で夫と長男の3人で避難生活を送る大熊町下野上の主婦(52)は「夫は家の中に何があるのか分かっていないので、1世帯1人なら私が中に入り、細かいものを袋詰めして持ち帰ろうと思っていた」と話す。1日に行われた国と関係市町村の会議で、国側が1世帯1人の方針を軌道修正し、2人を認める方針を示したことを聞くと、「(条件が)緩和されれば、夫に重たい荷物を持ってもらえるのでありがたい」と歓迎した。

 自宅は福島第1原発から5キロ圏内にあり、「着の身着のままで逃げてきたので、貴重品や位牌(いはい)、写真など持ってこられるものは全て持ち帰りたい」と一時帰宅を心待ちにしている。

 同じ体育館に避難する南相馬市小高区西町の会社員、藤田幸二さん(40)は、地震で壊れた自宅の屋根を簡単にでも補修したいと考えている。1人では作業が難しかった可能性があり、「家族2人ならシートをかぶせることもできそうだ。当分戻れないので、家の中がどんな様子になっているか、しっかり見ておきたい」と話した。

 一方、長女とともに避難している葛尾村落合の畜産業、岩間政金(まさかね)さん(85)は「避難指示区域から警戒区域に変わった22日までの間に、貴重品や車、必要な衣類などは持ち帰った。条件が緩和されても参加しない」という。そのうえで「住民が安全に自宅に帰れる一時帰宅を実施するのなら、もっと早くしてほしかった。位牌を持ち帰りたいが、避難生活では置く場所がない。どこか住宅に移ってから一時帰宅に参加したい」と話した。【金寿英、桐野耕一】

 ◇自治体に負担 県内外に住民散り散り、周知に時間

 国は2日前に提示した自治体の要望を一切認めない「ゼロ回答」から一転、各市町村の反発が強い実施時期別のグループ分けを撤回し、単独での参加に支障のある世帯には2人での参加も認めた。実施を急ぎたい国側が、自治体側の主張に一定の譲歩をする内容となった。

 1日の会議で示された国の譲歩案に対し、川内村の遠藤雄幸村長は「これ以上条件を出しても遅れるばかりなので、1回一時帰宅を実施して、その後に修正していけばいい」と参加する意向を表明した。3グループに分けて実施する案を撤回したことについても、「自治体間でのばらつきをなくし、公平になった」と歓迎した。

 ただし、1世帯2人の帰宅を認めるかどうかを市町村長の判断に委ねられたことについては「人口の少ない川内村のように各家庭の詳細な状況まで把握している自治体はともかく、大きな自治体は判断に迷うのでは」と懸念を示した。

 2人の帰宅を認める方針について、田村市災害対策本部の関係者は「1人だけでは家のことを全ては分からない。2人での帰宅を認めたことは自治体側の要望も多く、現実的な対応」と一定の評価をした。

 住民からの要望が多い乗用車の持ち帰りについて、浪江町の担当者は、この日も認めるよう主張したという。自動車のスクリーニング場所の確保などいくつかの課題は残っているものの、国から「前向きに検討する」との回答が示されたため、「道筋が少し見えてきた」とややほっとした表情を見せた。

 前回の会議では国が当初の方針を維持する姿勢を示したため、自治体側の反発が強かった。だが、国が一部修正したことで、実現に向けて実務的な話し合いが行われたという。浪江町の馬場有町長は国側の譲歩について、「我々の要求に近いものになってきた。現場を知らない国が机上の理論で進めるからこうなる」と注文を付けた。

 一方で、実施に向けた事務作業の負担が自治体に重くのしかかる状況に変化はない。人口約2万人の浪江町の避難住民は県内外に散っているため、実施時期や集合場所など周知に時間がかかることが予想される。町の担当者は「『ゴールデンウイーク明けに実施する』と国が言うのは勝手だが、やるのは我々。間に合うはずがない」と不満を漏らした。【栗田亨、津久井達、小畑英介】

毎日新聞 2011年5月2日 東京朝刊

 

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