「東北の地酒を絶やすな!〜被災した酒蔵の復興への一歩」

東北の地酒を絶やすな!〜被災した酒蔵の復興への一歩

2011年5月11日(水)

日本酒への輸入規制を強める欧州・中国

必要な検査を受け、書類を整えるための負担は重い

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欧州諸国は日本の食品に厳しい規制を課す

 「ウチはまだ数量が少ないので被害は軽微ですが…」。山形県の地酒『米鶴』を造る米鶴酒造の梅津陽一郎社長がこう案じているのが、風評被害の大きい輸出ビジネスだ。

 ここ数年、和食ブームとともに日本酒は海外市場を拡大してきた。リーマンショックが癒えた去年の秋あたりからは、定着しつつある手応えを感じ始めていた。しかし、震災以来、福島第1原発事故の放射線漏れの影響で、各国の対応は日に日に厳しくなって来ている。

 農林水産省の発表(5月2日付)によると、マレーシアやベトナム、中東各国のように、東北地方の食品に限らず、47都道府県のすべての食品に対して、何らかの輸入規制をしている国が少なくない。また、台湾のように、福島、群馬、栃木、茨城、千葉の5県産の食品についてのみ、輸入を停止する国・地域もある。

 チェルノブイリ事故を経験したEU諸国は5月2日現在、3月11日以前に生産、加工された日本のすべての食品と飼料に対して、「3月11日以前」であること証明する「日付証明」を要求している。

 3月11日以降に生産、加工された食品及び飼料に関しては、震災の影響を強く受けたと判断した12の指定都県(宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、新潟県、長野県、千葉県、東京都、山梨県)から輸出するには、「政府作成の放射能基準適合証明書」が必要だ。かつ、輸入国側でサンプル検査も行なう。12の指定都県以外の道府県から輸出する場合にも、「政府作成の産地証明(産出県)」――12の指定都県産でないことを証明する――が必要になる。こちらも輸入国側でサンプル検査を実施する。

EUは生産日や生産地の証明を要求

 長野県で宮坂醸造を営む宮坂直孝社長は戸惑いを隠せない。原発から遠く離れているにもかかわらず、厳しい条件を課せられてしまったからだ。同社は『真澄』を擁して早くからヨーロッパ市場を開拓。輸出は全売上の7%を占めている。そのうち25%が欧州方面だ。

 今回の規制により、3月11日以降に製造した製品を輸出するたびに各品目ごとに検査を受けるとすると、その出費は個人企業にはあまりに大きな負担となる。EUは「規制を見直す」と言っているようだが、先は見えない。さらに、現地でのサンプル検査の費用は輸入をする取引先が負担する。検査に1週間ほどかかると言われている。

 日本酒造組合中央会の海外戦略委員会委員である、出羽桜酒造の仲野益美社長によると、対EU輸出の現状は以下の状態だ。出羽桜酒造は『出羽桜』で知られる山形県の酒蔵。欧州ではイギリスを中心に輸出事業を拡大してきた。

 一連の証明に関しては、現在は国税庁の管轄となっている。「日付証明」と「産地証明」に関しては、国税局が証明書を発行。国税局や各県が実務に対応している。12指定都県の「政府作成の放射能基準適合証明書」については、国税局及び独立行政法人・酒類総合研究所が、証明書を発行すべく検査器機を準備中だ。整うまでにはまだ数カ月を要すると見られる。

 仲野社長は「少しでも早く」と依頼している。各生産者の要望に応えて、酒蔵が民間の検査機関に検査を依頼して、発行された書面に対して、長野県など県が証明書を発行するケースもある。しかし「これが相手国で承認されるかどうかは確証がない」(仲野社長)とのことだ。

 このため出羽桜酒造は「日付証明」を取得するだけで輸出することができる、3月11日以前に作られた製品を、EU市場に優先的に回すことで対処しているという。

 宮坂醸造、出羽桜酒造ら数社は、6月にボルドーで開かれる世界最大規模のワインの祭典「VINEXPO 2011」に参加を予定している。数年前から参加して、少しずつ日本酒の認知度を高めてきた。だが、今年は参加する意味合いが従来とは異なる。VINEXPO 2011の場を、日本酒の安全性をアピールする機会と捉えているのだ。





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著者プロフィール

伝農 浩子(でんのう・ひろこ)

音楽雑誌編集部、編集プロダクションを経てフリーランスに。
『るるぶ情報版』『地球の暮らし方』などの国内外のガイドブックに携わった。
取材やプライベートで訪れた国や地域は約40カ国。
著書『ピーターラビットと歩くイギリス湖水地方』(JTBパブリッシング)、『ミス・ポターの夢をあきらめない人生』(徳間書店)ほか。
nikkeiBPnetにて「日本の伝統を継ぐ外国人たち」「ニッポンを伝える人たち」を連載。
日本酒に関わる人たちのインタビューも行なってきた。


このコラムについて

東北の地酒を絶やすな!〜被災した酒蔵の復興への一歩

東日本大震災によって、東北地方の酒蔵が大きな被害を受けた。酒蔵そのものが津波に流されてしまった酒蔵もある。
しかし、彼らは落ち込んだままではいない。復興に向けて一歩を踏み出している。加えて、酒を愛する人々が、酒蔵の復興を支援する動きも全国各地で始まった。これらの取り組みを紹介する。

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