名古屋市立大学病院 大学院医学研究科 放射線医学分野

放射線について

医療で使うレベルの放射線被曝は有害?

医療で使用される放射線は人体にとって有害ではないという科学的な研究、検証が世界中で行われており、有益との研究データも存在する。名古屋市立大学病院 放射線医学教室でも、放射線ホルミシスに関する研究を行っており、真実の究明を目指しています。

最近は病院で画像診断に使用されるレベルの放射線被曝は人体に有害ではない、と考えられるようになりつつあるようです。以下は私の文章ですが、是非ご一読下さい。

名古屋市立大学大学院医学研究科 放射線医学分野 教授 芝本雄太

病院で画像診断に使用されるレベルの放射線被曝の人体に与える影響

近年の放射線医学の発達

近年の放射線医学の発展は著しいですが、しかし、放射線と聞いただけで、今だにアレルギー反応があります。CTとMRIを比較する時は常にCTには被曝という欠点がある、と指摘されますが、果たして本当にそうなのでしょうか。

放射線の生体への影響に関しては、近年の研究によって、微量ならば害がないばかりか、むしろ有益である可能性がでてきました。

1982年にミズーリ大学の生化学者ラッキー教授が放射線ホルミシスという概念を発表しました。ホルミシスとは、本来は毒物であるものも、微量ならば生体に刺激を与えて有益となるという概念です。

放射線ホルミシスに関してはすでに相当な数の論文があり、1回のCT撮影で使う量の10倍位までの低線量被曝は生体に対してむしろ有益であることを示唆しています。しかし、国際放射線防護委員会は、発癌率は低線量域でも線量に比例して増加するとして、放射線ホルミシスを認めてきませんでした。この点については、ホルミシス派の学者と対立が続いていますが、近年は委員会側の態度が徐々に軟化しつつあるようです。


自然放射線に関するデーター

この問題について考えるとき、まず我々は日常的に微量の自然放射線を浴びていることを認識するべきです。

自然放射線はトンネルに入ると増加しますし、飛行機に乗って上空に上がると著明に増えます。アメリカへ一往復すると、胸部のX線写真を撮影するのに使う線量以上の自然放射線を全身に受けます。したがって、飛行機の乗務員は医療被曝より多い線量の被曝をしています。しかし彼らに発癌率が高いというデータはありません。

疫学的にも、自然放射線量が多い地域の住民の発癌率が高いというデータはないばかりか、逆にそういった地域の住民のほうが、発癌率や癌死亡率が低いというデータがあります。また適度の被曝をしている英国の男性放射線科医は、他の診療科の男性医師に比べて寿命が長いという統計がありますし、放射性物質であるラドンを出す三朝温泉の地区住民の癌死亡率が低いことは有名です。ラドン温泉でない別府温泉地区の住民ではこのような現象は観察されておりません。

興味がおありの方は、『放射線と健康を考える会』のホームページをご覧になって下さい。ただし疫学データは他の因子に影響されやすいので注意が必要です。

放射線ホルミシスについては、適切な実験系で検証していくことがもっと科学的でしょう。


科学的な基礎研究におけるデーター

基礎研究のなかには、70あるいは140mGy/年の持続全身被曝を受け続けたマウスのほうが、受けなかったマウスより寿命が長かったとする研究(Gerontology 44:272-6, 1998)や、適量の被曝を受けた化学発癌マウス群においては、多い線量を受けた群や受けなかった群よりも、発癌率が低かったという研究(Int J Low Radiat 1:142-146, 2003)があります。US Nuclear Regulatory CommissionのPollycove博士とBrookhaven National LaboratoryのFeinendegen博士は、2001年のJournal of Nuclear Medicine(42:26N-32N)で数多くのデータを引用して、微量の放射線が生体にとっていかに有益であるかを力説しました。

彼らの結論は以下のように凄いものです。

『これまでのすべてのデータは、低線量の放射線は癌による死亡率の低下だけでなく、あらゆる原因による死亡率の低下に関与していることを示唆している。さらに、低線量の放射線被曝は、事故で高線量の被爆をした場合に防護的に作用するかもしれない。』そしてさらに続きます。『公衆が少量の放射線の有益作用について理解すれば、放射線恐怖症がなくなるであろう。低線量放射線の防護策のために何十億ドルの予算を費やすことは全く必要がなく、止めるべきである。そして、そのお金は低線量放射線による癌や感染症の免疫療法の研究費に費やすべきである。』と。


低線量域における放射線の影響

画像診断

低線量域における放射線の影響は、線量とともに直線的に増加するものではない可能性が強いと思われます。人体に必須のビタミンやホルモンも適量(微量)であってこそ有益ですが、過量となると毒物になります。

ストレスについても同様で、過度のストレスは明らかに寿命を縮めますが、全くストレスのない人も早死にするという話がありますね。有害と考えられていた画像診断レベルの放射線被曝が、逆に人体に有益であるとなると、放射線医学おけるその影響は非常に大きいです。

私の研究室においても、放射線ホルミシスに関する研究を行っており、真実の究明を目指しているところです。

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