きょうの社説 2011年5月11日

◎震災ボランティア 支援を切らさぬ仕組みに
 東日本大震災の被災地に大型連休中、北陸など全国からボランティアが集結し、がれき や泥の撤去などに汗を流した。行政機能が回復しない自治体が多いなかで、ボランティアによる人海戦術が復旧を担う大きな力になることが証明されたが、連休明けとともに一斉に引き揚げ、今度は一転、人手不足に陥っている。

 被災地では仮設住宅への引っ越しなど新たな需要が増え、生活再建の動きとともに支援 内容も多様化している。ボランティアがいつも寄り添い、姿を見せ続けることは被災者の励みにもなろう。

 平日、休日を問わずに人手を安定的に供給するには、企業のボランティア休暇や大学の 単位認定など既存の制度を積極的に生かし、希望者を掘り起こす必要がある。何より大事なのは、大規模なボランティアの力を組織的に動かす調整機能である。

 政府は3月に震災ボランティア連携室を設置したが、その動きは見えにくい。今こそ存 在感を発揮し、支援を切らさない仕組みづくりに知恵を絞ってほしい。

 岩手、宮城、福島県の災害ボランティアセンターによると、4月29日からの大型連休 中、3県で活動したボランティアは延べ約7万8千人に上った。被災地の役に立ちたいという思いが地域や世代を超えて広がっているのは心強い。その一方で、現地では運営スタッフが足りず、途中で申し込みを断る場面もあった。受け入れ側の態勢を整えることも喫緊の課題である。

 石川、富山県が募ったボランティアは宮城県、岩手県で泥の除去などに従事した。各種 団体、個人も加えれば北陸からの参加は相当数に上るとみられるが、大型連休中の混乱をみれば、単独で動くより組織的に行動した方が被災地の要望にも応えやすいだろう。

 行政の統制はボランティアになじまないとされるが、今回は被害が広範囲に及ぶだけに 、人の送り手、束ね役として自治体はもっと前面に出ていい。自治体同士のつながりを生かした職員派遣や避難住民の受け入れなども活発化している。ボランティア派遣もそのルートにのせるなど、支援の回路を増やすことが大事である。

◎不明者1万人 家族の心置き去りにできぬ
 被災地のがれきに分け入り、今も家族を探す人がいる。遺体安置所では、自分の子でな いかと思い、菓子を持って会いにくる女性の姿がある。東日本大震災は発生から2カ月を迎えても行方不明者が1万人近くに上り、地域を丸ごとのみ込んだ巨大津波のすさまじさを物語る。

 倒壊家屋での圧死が多かった阪神大震災は、ほとんどの遺体が確認できたが、今回は見 つかっても衣服や所持品がはぎ取られるなど身元特定につながる手掛かりが得られにくく、確認作業は難航を極めている。復旧を急ぐことはもちろん大事だが、家族を探す人たちの心を置き去りにするわけにはいかない。

 遺体も見つからないのに簡単に肉親の死を受け入れられるはずはない。悲しみを消化で きず、不安定な心理状態がずっと続く恐れもある。一時帰宅が始まった福島原発周辺の警戒区域では他の地域より遺体の捜索が遅れている。火葬できずに土葬された遺体も多数に上る。死者の尊厳を守り、安らかに追悼できる環境をどのように整えていくか。弔いの在り方も大震災の大きな課題である。

 大震災による犠牲者は10日現在で1万4949人となり、このうち2269人は身元 不明の遺体で、行方不明者は9880人に上る。警察や自衛隊が懸命の捜索を続けるなか、遺体の発見は日増しに少なくなっている。

 岩手、宮城、福島3県警は、遺体の顔写真、着衣、所持品などを管理し、すべての安置 所や主要警察署で閲覧できるようにしている。さらに不明者家族のDNAを採取し、データベース化する準備も始めた。これから発見される遺体は傷みが激しく、確認が難しくなるだけに、歯の治療記録などと照らし合わせ、迅速に身元確認できる仕組みが求められている。

 がれきからアルバムや写真を探し出したり、カメラの記録を修復させる取り組みも広が っている。遺品や思い出の品があれば、多少なりとも心の整理がつくかもしれない。今後の復旧、復興へ向けても、家族の心情に寄り添って進める必要がある。