高値で推移する原油価格。日本の原発停止や復興需要も石油需要を押し上げる。また原子力発電所事故を契機とする原発政策見直しの動きも、新型ガス田・油田開発、新エネルギー開発に追い風となっている。天然ガスは石油に比べ燃焼時の温暖化ガス排出量が少ない。さらに、「シェールガスや炭層ガス」など非在来型ガスは北米や中国、欧州など世界各地で産出されるため、中東の産油国やロシアへの依存度低下にもつながる。
一方、米国ではシェールガス採掘を巡り水質汚染問題が浮上。ペンシルベニア州などで住民らの反対運動が起きている。フランスでも政府がGDFスエズなどによるシェールガス探査の一時停止を命じた。開発で先行する米国で何らかの規制が導入されれば、国内外での生産拡大に影響を与える可能性もある。
また、米国や中国が国内で調達できるエネルギーを重視するのは、海外産エネルギーへの依存度軽減という安全保障上の狙いもある。
◆世界の新型ガス田・油田開発、産出国の動き
欧州 英国で炭層ガス開発計画。ポ-ランド、仏ではシェ-ルガス開発計画
中国
政府が2020年の天然ガス生産量目標2000億立方メートルのうち、約3割を炭層ガスとシェ-ルガスなど非在来型ガスが占めるように開発を加速する方針。
開発技術を得るため、CNPCはロイヤル・ダッチ・シェルと提携。中国石油化集団(シノペックグル-プ)は英BPと提携
シェ-ルガス増産で、天然ガスの需給緩和。ガス価格が低位安定しているため、電力業界では、環境負荷が高い石炭やコストが高い原子力からガスにシフトする動きも加速。米エネルギー省が26日に発表した長期エネルギー見通しでは35年には国内での天然ガス生産の47%をシェールガスが占める。09年実績(16%)から大幅な上昇。
再生可能エネルギ-を使った大規模な発電所計画相次ぐ。
米グ-グル;カリフォルニア州南部のモハベ砂漠で建設が進む世界最大の太陽熱発電所(出力39万2000キロワット)に1億6800万ドルを投資。
(外資も参入)
住友、印リライアンス・インタスリ-ズなどがシェ-ルガスの権益取得。
伊藤忠商事、丸紅はシェ-ルオイル開発に参画
http://www.ecool.jp/press/2011/04/30230.html
インド タタ・パワ-やエッサ-オイルが炭層ガス開発に参入。シェ-ルガス開発計画も。
インドネシア
年内に炭層ガスの商業生産開始。英BPやイタリア炭化水素公社が参加
現在ボルネオ島やスマトラ島の計5か所の鉱区で生産準備が続いている。
オ-ストラリア 英BPグル-プ等が炭層ガス開発。東京ガスは液化したLNGを調達。
サウジアラビア
国営石油会社サウジアラムコ 自らシェ-ルガスなどの開発に投資する方針打ち出す
カタ-ル
LNG輸出先のアジアシフト急ぐ 日本の震災特需と長期契約狙う
世界最大のLNG生産国、カタールは昨年末、能力を一挙に倍増し年間7700万トンの生産設備を稼働。
増設後の大量供給をもくろんだ米国向け輸出がシェールガス開発であてが外れ、欧州も景気は低迷。中国やインドへの売り込みを強化していた矢先だけに日本の「特需」を長期契約に結びつけたいねらい。
4月16日カタールの国営ガス会社が東日本大震災を受けて電力不足に陥っている日本を支援するため、 LNGガスについて、日本の総輸入量の6%に当たる 400万トンを追加で供給することを決定。「日本は長年取り 引きを続けている大切な顧客であり、さらなる追加供給の要望があれば対応して いきたい」と発表。( 4/17 NHK)。ハマド首長から、震災の早期復興支援のため1億米ドルの資金(約80億円)を提供する旨の表明もあった。
LNG輸出先のアジアシフト、東シベリア開発
プーチン首相は「日本に石油やLNG供給を優先し、最大限支援する」と震災後ただち声明を出した。サハリン沖の石油・ガス生産事業「サハリン2」は三井物産、三菱商事が参加し、東電は有力顧客。それだけにガス事業会社、サハリン・エナジーを通じて15万~20万トンのLNGを日本に出荷する一方、三井物産や三菱商事に「東シベリアのガス田開発参加」を呼びかけた。
天然ガスの大生産国のロシアにとっても、米国で相次ぐシェールガス開発は世界の需給緩和につながる悩みの種。景気低迷による欧州への天然ガス販売低迷で、最近の関心はもっぱら日本、韓国、中国などアジア向けの天然ガス販売増と遅れている東シベリアの経済振興。今回の支援表明と東シベリアへの投資誘致はそんな事情が重なり合う。
日本
国際エネルギー機関(IEA)の試算によれば、東電の原発停止によって生じる日本の追加石油需要は日量20万バレル。2010年の日本の石油消費量が日量442万バレルだから、年間で約5%の需要押し上げとなる。とはいえ、全量石油で賄うのは現実的ではない。
原子力に加え震災で大半の石炭火力発電所が止まった東電の場合は、おのずとLNG火力の比重が増える。さらに他の電力大手も夏場の電力需要増と原発の定期修理時の備えのため、LNGの買い増しに動いていると見られている。全量を天然ガスで賄った場合の需要量合計800万~900万トンと予測される。
しかし、だぶついていた世界のLNG需給もすでに変化しつつある。震災前に10ドル/100万BTU(英国熱量単位)以下で取引されていたスポット価格は11~12ドルに上昇している。現在はLNG生産国側も被災した日本に配慮し適正価格で契約しているほか、韓国などの需要国も余剰分を日本に回しているため比較的安定しているが、今後も中長期に需要が増えれば、さらに上がる可能性が高い。
原子力やLNG火力、再生可能エネルギー――。足元の対応はLNGのスポット調達で賄うにしても、10年、20年、50年後を見据えた国のエネルギー政策をどう掲げるべきか。国民を巻き込み、政府は早急に策を練り直す必要に迫られる。「事故後」をにらんで早くも動きつつある世界各国。原発事故の対応に遅れた日本だが、今後は資源確保の面でも遅れを取ることは許されない。
参考記事;
原発事故で広がる「天然ガス特需」は本物か
2011/4/18 7:00 日経
新型ガスが変える世界 米中、原発事故で開発加速
2011/4/30 20:3 日経
by su-mi
中国;銀行の不良債権比率30%…