2011年5月9日12時41分
大阪・西成のあいりん地区(釜ケ崎)で求職した60代の男性労働者が、求人内容とは異なる東京電力福島第一原子力発電所敷地内での作業に従事させられていたことがわかった。求人情報を掲示した財団法人「西成労働福祉センター」が9日、明らかにした。職業安定法違反の可能性もあり、大阪労働局は事実関係の確認を進めている。
同センターによると、岐阜県内の土木工事会社の依頼を受け、3月中旬に「宮城県女川町 10トンダンプカー運転手 日当1万2千円 30日間」とした求人情報をセンター内に掲示。60代の男性2人が採用された。うち1人が同月下旬ごろにセンターに電話で「話が違う」と訴え、その後に詳しい事情を聴いたところ、原発敷地内で原子炉を冷やすための水を積んだ車の運転などをしたことが確認されたという。
男性は30日間の仕事を終えた後、センターに「5号機と6号機から数十メートル離れた敷地内で作業した。安全教育はなく、当初は線量計もなかった。(約2倍の)計60万円受け取った」と説明。もう1人の労働者は原発の敷地の近くで水を積んだ車を運転したという。
一方、同社側はセンターに「元請けの要請で労働者を集め、被災地に向かわせた。細かい作業内容は掌握できていなかった」と話したという。職業安定法は、うその条件や内容を示して労働者を募集することを禁じている。
あいりん地区は、各地から日雇い労働者が多く集まる国内最大の「寄せ場」。同センターは1962年に設立され、大阪府出資の財団法人が運営。あいりん地区の日雇い労働者に無料で仕事をあっせんするほか、労働条件や医療、福祉などの相談を受け付けている。(京谷奈帆子、石原孝)
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男性労働者を雇った土木工事会社が9日、朝日新聞の取材に応じた。同社幹部は「元請け会社に『女川町に運転手が必要だ』と言われて求人を出し、(男性を含め)3、4人を雇い入れた。原発で働くことになった理由は分からないが、現場に行った際に男性らが原発敷地内にいることを確認した。男性にはその後も働いてもらったため、おわびの気持ちも込めて日当を多めに支払った」と話した。
これに対し、元請け会社の関係者は「土木工事会社には原発の警戒区域内で作業することを伝えていた。土木工事会社が西成の福祉センターに求人を出した段階で、業務内容が正確に伝わらなかったのではないか」と説明している。
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〈職業安定法〉仕事を紹介する事業などについての適正な運営を確保し、職業の安定を図ることを目的としている。事業者側に対して、求人票に正確な労働条件を記載することを義務付けており、うその条件や内容を示して労働者を募集することを禁じている。