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社説:浜岡運転停止 電力不足を招かぬよう

 中部電力が浜岡原子力発電所の3基の原発について、「首相の要請は重い」として、運転停止と運転再開の中止を決めた。

 東京電力の福島第1原子力発電所の事故は、地震による津波の影響を過小評価していた結果だった。浜岡原発が立地する場所は、近い将来に必ず起きると考えられる東海地震の想定震源域の真上にある。

 福島第1原発の事故の後に、中部電力は浜岡原発について、津波対策のための防波壁の設置や非常用電源の拡充などの対策を打ち出した。しかし、対策が完了するまでには相当な時間がかかる。

 その間に東海地震が起こらないとも限らない。津波被害への対策がとられるまで運転停止を求めた菅直人首相の判断は評価できる。

 ただ、法律に基づく命令ではなく、要請という形で運転停止が唐突に首相から提起されたことに、中部電力は当惑したに違いない。

 原発停止に伴い電力の安定供給が維持できるのか。また、代替電源や燃料の確保に加え、発電コスト増に伴う収益の悪化など、利用者や株主、地元自治体などへの影響についても検討が必要だ。

 そうしたことを背景に、中部電力は運転停止要請を受け入れるにあたり国に5項目の確認を行った。防波壁など津波対策が整った後の運転再開や、電力確保へ向けた適切な施策、交付金や雇用などについて立地する地域に配慮することなどだ。

 菅首相の判断自体は評価できるとしても、中部電力が指摘するように、きめ細かな対策を併せて実施する必要がある。

 中部地方は自動車産業を中心に製造業が集積している地域だ。東日本の電力不足から、中部地方への生産移管を進めている企業もあるだろう。浜岡原発の運転停止は、そうした企業に影響するかもしれない。

 東日本大震災によって日本経済は大きな打撃を受けた。電力不足の影響がそれに拍車をかけないように、電力会社間の融通も含めて、電力確保に全力を尽くしてほしい。

 原発の運転停止要請は浜岡に限定した措置で、政府は他の原発に運転停止を求めることはないと強調している。

 しかし、他の原発でも、定期点検後の運転再開に地元の理解が得られないところも出てくるかもしれない。その結果、東日本や中部地方だけでなく、電力不足が他の地域にも広がる可能性がある。

 原発事故の補償や負担のあり方も含めて、電力供給をめぐる課題が山積しているが、必要な電力をどのように確保し供給していくのかについても、明確な方針を示し、対応策をとるよう、政府に求めたい。

毎日新聞 2011年5月10日 2時36分

 

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