【ベルリン篠田航一】福島第1原発の事故を受けドイツは国内17基の原発のうち7基を暫定的に停止したため、近隣国から電力を輸入する状況になっている。メルケル首相は6月に、原発全廃までの期間などを示す改正原子力法を成立させる構えだが、早期の原発撤退には与党内からも疑問の声が上がっており、「脱原発」先進国の電力事情も先行きは不透明だ。
3月の事故後、ドイツは80年以前から稼働する古い原発7基を暫定的に3カ月停止することを決めた。フランクフルター・アルゲマイネ紙によると、3月前半まで、1時間に平均350万キロワットを外国に輸出していたが、3月17日に7基を停止して以降、逆に平均250万キロワットをフランスやチェコから輸入する事態になった。
連邦ネットワーク庁のクルト長官は、輸入電力が原発で生産されたものかについては「電気は見ただけでは、(原発で作られたものかどうか)分からない」と明言を避けたが、フランスは電力の約8割を原発に依存しているため、「原発撤退と言いながら、よりによって原発大国から輸入」と皮肉る独メディアもある。
一方で環境省の担当者は「まだ十分に自力で供給できる量はある。現段階ではフランスの電力が安いから輸入しているだけ。欧州の自由な電力市場ではよくあること」と述べ、「輸入国転落」を否定する。
こうした状況もあり、ドイツでは連日、生活に直結する電気料金の値上げが議論の的だ。南ドイツ新聞は「(太陽光発電など)原発に代わるエネルギー確保のため、今後10年間で計2000億ユーロ(約24兆円)が必要」と報じた。具体的に、今後は国民1人当たり毎月18ユーロ(約2200円)の出費増になると伝えたメディアもある。
メルケル首相は6月の法改正で早期脱原発に道筋をつける方針だ。しかし、首相の与党キリスト教民主同盟のブフィエ・ヘッセン州首相は「私たちは、原子力に代わる新たな電力源で将来をカバーできるとの印象を簡単に広めるべきでない」と述べるなど、与党内からも早期の脱原発を不安視する声がある。
ドイツは02年に当時のシュレーダー政権が「脱原発」を決め、当初は2022年までに全面停止の予定だった。しかしメルケル政権は昨年、代替エネルギーの普及が進むまで稼働を最長14年間延長することを決定。だが今回の福島の事故を受け、再び早期脱原発にかじを切っていた。
毎日新聞 2011年5月8日 20時05分(最終更新 5月8日 22時20分)