きょうの社説 2011年5月10日

◎浜岡原発停止 リスク拡散は避けられない
 中部電力は政府による浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の全面停止要請を受諾した 。法的な裏付けのない「お願い」を受け入れるのは、苦渋の決断だったろう。浜岡原発を止めれば、電力不足の潜在リスクが東京電力や東北電力管内から中部・西日本へと広がるのは避けられない。志賀原発1、2号機が停止中の北陸電力管内でも夏場の電力不足が懸念され、社会・経済活動に多大な影響を及ぼす可能性がある。

 原発を止めて火力に切り替えると、中電は年間約2500億円の負担増になるという。 そのツケは電気料金の値上げのかたちで利用者にはね返ってくる。中電役員は株主代表訴訟のリスクを抱えることにもなるが、電力会社である以上、許認可権を持つ政府に逆らえない。民間企業が下す決断としては重過ぎたのではないか。

 浜岡原発の中止要請を、首相の「英断」という声がある。だが、大きなリスクを背負わ されるのは中電や利用者であって、政府は燃料確保や負担軽減などの支援を約束しただけだ。停止の判断基準は分かりにくく、どの程度の節電が必要なのか、計画停電は回避できるのかといった説明も不足している。猛暑で想定以上に電力が足らなくなったとき、政府はどう対処するつもりなのか。

 菅首相に求めたいのは、政府が責任を持って電力確保の対策を練ることである。電力会 社任せにせず、夏場に向けて電力の受給バランスを安定的に保っていくために、本当の意味での政治主導を発揮してほしい。

 たとえば中電は当初、夏場に予定していた東電への100万キロワットの電力供給を取 りやめる。その分は関西電力が肩代わりするというが、関電の原発は11基中4基が定期検査中で、さらに美浜3号機、高浜4号機、大飯4号機がこれから定期検査に入る。夏場に動く原発が4基程度では、関西も電力不足の恐れがある。緊急時の電力供給を中電、関電から受ける北電にとっても大きな問題だ。

 電力会社間の調整を責任を持ってできるのは政府しかない。危険な原発を止めるなら、 安全性の高い原発を動かすという「政治判断」があってもよいのではないか。

◎被災者受け入れ 空き家を活用できないか
 東日本大震災から2カ月近くが経過し、いまだに10万人以上の被災者が避難所生活を 余儀なくされている。被災地からの仮設住宅の要請は計約7万2千戸に上っているが、これまでに完成したのは約7000戸で、菅直人首相が言明した8月中旬の入居完了の実現は微妙な情勢である。

 公的な住宅提供によって5月9日現在で石川県は302人、富山県は333人の被災者 を受け入れているが、長引く避難所生活で被災者の健康状態の悪化が懸念されており、より多くの落ち着いた環境での生活が望まれる。全国から公営住宅や民間住宅の提供申し出が寄せられており、仮設住宅が整備されるまでの二次避難や中長期的な生活の場として、空き家をもっと活用できないだろうか。

 民間住宅については、所有者から無償の提供申し出などの情報を自治体がまとめており 、不動産関係の団体なども被災者向けの物件を紹介している。少しでも被災者の選択肢が広がるような住宅情報を掘り起こして、住環境の改善を促進したい。国は被災地以外の自治体に対しても民間賃貸住宅やホテル、旅館の借り上げの検討などを要請しており、支援制度の弾力的な運用を含めて、被災者が住みやすい仕組みを講じるとともに十分な情報発信が求められる。

 生活再建に向けて、住居とともに仕事が大きな課題となっている。農林水産省は避難先 となる空き家などの住まい情報とセットで周辺の食品産業関係などの雇用情報提供を行っており、七尾市も能登島に福島県の被災農家を受け入れる方針である。避難先や仕事の業種などのマッチングの問題があるが、官民が一体となって、被災者が新生活を踏み出しやすい支援策を進めてもらいたい。

 空き家に関しては、全国的に増加傾向にあり、石川、富山両県の自治体も空き家対策を 強化している。今回の被災者への情報提供によって、空き家の受け入れ体制を整え、借りやすいシステムを構築することは、今後の緊急時の住宅確保や空き家の増加防止にもつながるだろう。